君に薔薇薔薇 |
オレ―――最近、何かヘンだ。 正確に言うと、バイト中に、真っ赤な薔薇の花束が届いた、あの日から。 取り敢えず部屋に飾ったけど、家にはろくな花瓶がないから、薔薇の花の存在感だけが、圧倒的に大きくて。 艶やかな大輪の薔薇が、部屋に不似合いで。 部屋に入る度に、むせかえる薔薇の匂い。 豆腐の匂いが染みついているオレが、慣れない薔薇の匂いに包まれて、息苦しくなる。 気が付くと、薔薇の花を見つめてる。 学校帰りに見掛ける花屋にも、家に飾られてるみたいなゴージャスな薔薇は置いてなかった。 物凄い金持ちだって聞いてるけど、そういうヒトって何処の花屋使ってるんだろう。 やっぱオレなんかには見当も付かない高級な花屋とか、使ってるのかな。 だってあんな大輪の真っ赤な薔薇、生まれてこのかた、見たことない。 バトルの挑戦状に赤い薔薇の花束を添えるなんて、キザなヒトだなって思う。 毎日、部屋で薔薇の花を見つめてる。 圧倒的な存在感を主張する大輪の薔薇に、豆腐臭いオレは押し潰されそうだ。 まだ数回しか会ってないけど、暗い峠の頂上でしか、見掛けてないけど。 『高橋、涼介―――』 名前通り、涼しそうなイメージで。 真っ赤の大輪の薔薇なんて、似合わない気がするんだけど。 白い―――花なんて詳しくないけど、もっと清廉なイメージだったんだけど。 バトルが終わって―――初めて間近で顔を見て。 何ていうか―――凄く格好良くて。 心臓が高鳴ってるオレは、おかしいのか? バトルが終わったばかりで、気が昂ぶっているんだろう、そう思うことにした。 でも―――家に帰って、部屋に入ると、目に飛び込んでくる赤い薔薇。 まだ、枯れてない。 あれから数日。 何でか分からないけど、あの薔薇が枯れていくのが見たくなくて、ウチの墓に供えてきた。 騒ぐ胸が抑えられなくて、振り返らずに帰ってきた。 それなのに―――むせかえるような薔薇の匂いが、部屋に染みついてとれない。 あの薔薇が部屋から無くなっても、部屋に入る度に、薔薇の匂いに包み込まれる。 『高橋・・・涼介―――何でなんだ・・・?』 アンタに似合わない気がした真っ赤な大輪の薔薇が、日に日にアンタに見えてきて。 あの薔薇を見ていると疼いてくる身体。 何でか分からないけど、何でか分からないけど。 身体の奥が熱くなる。 気がおかしくなりそうで、あの薔薇を目の届かない所にやったのに。 むせかえるような薔薇の匂いに、身体を丸めて、疼く“自分”をぎゅっと押さえ込む。 『何やってんだ、オレ―――』 壊れかけの扇風機も、真夏の群馬じゃ温風機だ。 ちっとも身体の火照りを冷ましてくれやしない。 高橋涼介―――クソ暑い夏だってのに、いつもキッチリシャツを着込んでいて。 名前通り、涼やかな表情をしていて。 でも、日に日にアンタに見えてきた、あの真っ赤な大輪の薔薇。 とてもアンタに似合わない気がしたのに、もしかしたら高橋涼介は、あの薔薇そのもののような気がしてきた。 真っ赤な薔薇―――情熱の赤。 クソ暑い夏でもキッチリ着込んでいるシャツの中に、そんな薔薇みたいな情熱でも隠しているっていうのか? 拝啓、赤城の白い彗星様―――オレに教えて下さい。 でなきゃ、身体が疼いて夜も眠れない。 すっかり秋が深まって。 墓前に置いてきたあの薔薇がその後どうなったのか分からないけど、花は枯れたかも知れないけど、その存在は枯れてない。 むしろ、咲き誇っている。 オレの中で、どんどん大きくなっている、その存在。 蕾がどんどん開いていくみたいに、オレの中に咲いている。 もう認めた方がいいのかも知れない。 でも―――。 ある日バイト先に訪ねてきた、白いFC。 薔薇の花束の次は、本人がやってきた。 それなら、思い切って訊いてみよう。 「何で―――バトルの挑戦状に薔薇の花束なんて添えたんですか?」 相変わらず、この人は格好いい。 そして、来訪の理由も、その内容は想像も付かないスケールだった。 スラリと洗練された身のこなしで立つこのヒトを、じっと見つめる。 薔薇の花みたいな、アツイ情熱を隠し持って。 「別に・・・深い意味はないさ。ただ、礼儀を尽くしたまでのことだよ」 淡々と語る低いその声が、フッと笑った。 「まぁ、ついでにいうなら、あの帯紅の薔薇の花言葉は―――」 「―――“私を射止めて”」 そう言いながら、オレをまっすぐに、射抜くように、見つめた。 ドクン、そう鼓動が大きく跳ねたのを感じた。 「―――フッ・・・別に、深い意味はないよ。オレを仕留めてみろ、というつもりだったけど・・・結果的に、仕留められた訳だしな」 ドクン、ドクン、ドクン―――鼓動がどんどん・・・どんどん、高鳴っていく。 「返事は急がない。―――が、いい返事を期待している」 そう言って、FCがロータリーサウンドを響かせて去っていっても、オレの鼓動は、逸ったままで。 ロータリーの音が耳に残ってる。 あのヒトの声が、耳に残ってる。 疼く身体は、もう抑えきれない。 『どうすりゃいいんだ・・・オレは、どうしたら・・・』 はち切れんばかりの、この感情、この身体。 今でも鮮明に思い出される、むせかえるような薔薇の匂い。 あのヒトへの返事はもう決まっている。 でも、オレの中の答えは―――まだ、迷ってる・・・かも知れない。 『“藤原”』 あのヒトの低く柔らかい声で呼ばれた気がして、寝つけない。 あぁ、もうすぐ配達の時間なのに。 あのヒトのことばかり考えている。 あのヒトで埋め尽くされていく。 ココロが、カラダが。 毎晩こんなで、いつも以上に授業中ずっとぼけ〜っとしてるオレに、イツキは不審がっていたけど、今のこのオレのグチャグチャした気持ちは、誰にも話せない。 昼休みに何となく覗いた進路指導室で、群大のパンフレットを見つけた。 別に進学する気もなければ国立の医大なんて縁のない所だけど、あのヒトがいる所だと思ったら、無意識にポケットに突っ込んで帰った。 『涼介さん・・・オレ―――』 ある日、群馬大学医学部医学科にやってきた、配達の車。 宛名が“赤城の白い彗星様”とある“ソレ”に、ざわつく中、涼介は苦笑した。 「これは・・・どういう意味に受け取ったらいいのかな・・・」 蕾が数本交じった、純白の薔薇の花束。 添えられたカード。 『拝啓、赤城の白い彗星様―――これがオレの答えです。藤原拓海』 白薔薇の花言葉―――心からの尊敬・無邪気・清純・純潔・私は処女・恋の吐息・私はあなたにふさわしい・相思相愛・尊敬・素朴 白薔薇の蕾の花言葉―――処女の心 FIN. 2011.11.18.UP |
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このサイトの初書きSSが拓→涼って・・・(汗) 涼啓涼サイトなのに(滝汗) えっと、元ネタは、まきのサンがついったーで呟いたコトからです。 こんな拓→涼を、という提供者であるまきのサンに初書きSSを捧げます。 こんな風に仕上がりましたが、如何でしょうか・・・。 |