【指導】 木の葉崩しから、早数ヶ月。 里も大分落ち着いてきていた。 だが、任務に飛び交い忙しいのは、相変わらずだった。 ゲンマは綱手に頼まれた資料を手に、火影邸へと赴いた。 「失礼します」 恭しく一礼し、資料を綱手に渡し、一通り説明する。 「手間掛けさせたね。助かったよ」 綱手は受け取った資料を眺め、顔を上げた。 「それはそうと、ゲンマ、話が変わるが」 「は」 「くの一を1人、オマエの管轄の諜報部隊に入れたい。オマエに指導を頼む」 「はぁ、誰です?」 「ついこの間特別上忍に昇格した、だ。年は18。なかなかの器量好しだ。しっかりと仕込んで、オマエの小隊に入れな」 「・・・・・・ですか」 聞き覚えがある気がして、ふと頭の中の記憶を辿る。 「あぁ、5年前に、中忍選抜試験で審判をしていた時に、いましたね。確かに優秀でしたし、一発で中忍に昇格していましたが、私の小隊にとは、つまり・・・」 「そう、だ。その特性があると見込んでいる。会えば分かるさ」 「しかしですね・・・18でしょう? まだ早過ぎやしませんか。酷な気がしますが・・・」 ゲンマの杞憂。 ゲンマの小隊に入れる、つまり、色事の任務を覚えさせる、と言うこと。 「オマエらしくない台詞だね。くの一は16になれば大抵経験することだ。早いどころか、遅いくらいだよ。全面的に任せるから、暫く面倒を頼むよ」 「・・・は、かしこまりました」 執務室で書類の整理をしていると、ドアがノックされた。 「開いてるぜ」 早速とやらが来たのか、と顔を上げる。 そ、とゆっくりドアが開き、顔が覗く。 「あ、あの・・・失礼します・・・」 緊張がありありと分かる面持ちで、ビクビクと中を伺っていた。 「どうした。取って食う訳じゃねぇんだ、入ってこい」 此処はお化け屋敷じゃねぇ、とゲンマは眉をつり上げる。 「は、はいっ!」 おずおずと、少女は入ってきた。 「あ、あの、です。先週特別上忍になったばかりです。至らぬ所もあるかと思いますが、宜しくお願いします!」 ゲンマは諜報部隊の隊長であり、特別上忍を取り仕切るトップでもあり、から見たら、雲の上のような存在だった。 この度の抜擢で、は緊張と不安でいっぱいに、頭を下げた。 「オレは不知火ゲンマだ。オマエの指導役を5代目から仰せつかった。オレの小隊に入れろと言うことだから、しっかりと面倒見る。宜しくな」 「は、はい!」 緊張で顔を高揚させているを、ゲンマはまじまじとつま先からてっぺんまで見定めた。 子供かと見まごうような、小柄な少女。 童顔で、澄んだ大きな目の愛らしい、美しい少女だった。 しなやかな手足。 が、ゲンマは眉間を寄せた。 「・・・オマエ、何でベスト着てるんだ?」 はくの一には珍しく、中忍以上着用のベストを身につけていたのだ。 「え? だって、中忍以上は着るものですよね? 私、下忍の頃から、いえ、アカデミーの頃から、このベストに憧れていたんです。中忍になったら着れるのを夢見てて、だから着てるんです。何かおかしいですか?」 「だってよ、普通あんまり、くの一は着ないぜ」 例外はいるが、とゲンマは顔をしかめる。 「私はその例外です!」 「しかしな、オマエにはもっと相応しい格好があるぜ。オレの諜報部隊に入った以上、そのベスト着用は禁止する」 腕を組んで椅子の背もたれを軋ませ、ゲンマは千本を上下させた。 「えぇ〜っ!!!」 は不満そうに、声を上げる。 「他に忍び装束は持ってねぇのかよ」 「無いですよ。何でダメなんですか?」 ゲンマはおもむろに立ち上がった。 はビクッと身を震わせる。 「オマエの忍び装束を仕立てる。出掛けるから、ついてこい」 部屋を出て鍵を掛け、困惑しているを連れ、ゲンマは街に出た。 「あの・・・何でベストがダメなんですか? 私に相応しいって、どういう・・・」 まだ緊張の解けないでいるは、赤い顔で、ゲンマの後をついていった。 「着りゃ分かる」 ゲンマはポケットに手を突っ込んで、ずんずん歩いていった。 は訳も分からずに、一生懸命後をついていく。 ゲンマの背中。 はドキドキしながら、見つめていた。 5年前、中忍選抜試験の時に審判だったゲンマを覚えていた。 試験の時は無我夢中だったが、掛けてくれた言葉が優しくて気に留まり、後で姿を見掛け、改めて、格好いい人だなぁ、と、ずっと憧れてきていたのだった。 今回ゲンマが指導役になると綱手から聞かされた時には、神様に感謝したものだった。 ゲンマに案内されて、忍び装束取扱店に入った。 ゲンマは店員と、何やら話していた。 時折此方を見る。 暫くすると、ゲンマは用にと忍び装束を見立てたらしく、手招きされた。 「取り敢えず、既製品で済ませる。これを着ろ」 「は、はぁ・・・」 は指図されるままに、更衣室へと入った。 カーテンを閉め、着ていた忍び装束を脱いで、渡された物を見る。 「えぇ〜〜〜〜っ!!!」 は真っ赤になって、絶叫した。 「煩ぇな。サッサと着ろ」 暫く待ち、静かになったが、はなかなか出てこない。 「おい、着たか?」 「え、えと・・・っ;」 待ってもは出てこないので、ゲンマは苛立ちながら、声を上げる。 「開けるぞ」 「や〜〜〜っ!!!」 ゲンマがカーテンを開けると、は膝を抱えて蹲っていた。 「ホラ、しゃんと立つ!」 亀のようなを、ゲンマは肩を掴んで立たせた。 ボディラインを強調した、可愛らしいデザインの装束。 「お似合いですよ」 店員が見て、声を掛けた。 「あぁ、前のよりよっぽど良いぜ」 思った通りだ、とゲンマも頷く。 「で、でもっ、これっ、恥ずかしいです〜〜〜ッ!!」 は小柄だったが、その小ささに似合わず、大層な巨乳の持ち主だった。 豊かな胸を手で隠そうと、は真っ赤に狼狽えていた。 「わ、私、胸が大きいのが恥ずかしくて、だから体型の分からない格好してたのに・・・っ」 「くの一が自分の持つ武器を有効活用しないでどうする。オマエはオレの諜報部隊に入ったんだ。オマエの容姿はそれだけで有効な武器になるんだ。恥ずかしがらないで、慣れるんだな」 「で、でも・・・」 「5代目がオマエのことを見込んでいるんだ。確かにオマエは5年前も優秀だったのは知っている。だが、この5年間の経歴をオレはまだ知らねぇ。とくと見せてもらうからな」 ゲンマは代金を払い、店を出た。 だが、は出てこなかった。 「おい。何してる」 「だ、だって・・・この格好で外歩くの恥ずかしい・・・」 「・・・あのな。オマエはこれから、その容姿を武器に任務を行うんだぜ。今から恥ずかしがっててどうするんだ。当分は、その格好で出歩くのに慣れろ。訓練はそれからだ」 店内に戻ったゲンマは、の背中を押して外に出した。 案の定、艶めかしいの姿を、行き交う男性が頬を染めて見惚れていた。 は恥ずかしさの余り、心臓が弾けそうでクラクラした。 「3日間、里の繁華街を中心に散歩してろ。出来るだけ人に会え。そして見られることに慣れろ。そうしたら、またオレの所に来い。オマエの腕前を見せてもらうのはそれからだ」 じゃあな、とゲンマは瞬真の術で消えた。 「そ、そんなぁ〜〜〜っ;」 はポツンと立ち尽くし、注目を集めているのに気が付くと、か〜っと真っ赤になって、駆け出した。 3日後。 最初は恥ずかしがっていたも、大分平然として歩けるようになり、重要度の高い任務を任されることになることに誇りを感じ、覚悟も出来てきた。 胸を張って、ゲンマの執務室をノックする。 「入れ」 「失礼します! です!」 「おぅ。よし、大分慣れたようだな。じゃ、オマエの腕前を見せてもらうとしよう。演習場に行く。ついてきな」 ゲンマは仕事を片付けると、演習場に向かった。 ゲンマはの基礎から応用まで、術の使い方や臨機応変さをくまなく見た。 女の身で若くして特別上忍になっただけあって、は優秀だった。 ふと、11年前に戦争で亡くした妹・エルナを思い出す。 エルナも優秀だった。 だが、血気盛んで、先頭切って敵陣に乗り込んで、散ってしまった。 11も年下のが、成長したエルナに見えた。 「ま、こんなモンか」 息が切れ始めたを見て、ゲンマは手を止めた。 「どう・・・ですか・・・?」 膝に手をつき屈むは、ゼェハァする息を整えようとしながら、僅かに顔を上げた。 「普通の忍びとしての能力は、合格だ。予想以上だったと言ってもいい」 「じゃあ、し・・・不知火先輩の小隊に入れてもらえるんですか?」 「ありますけど・・・小間使いみたいなことしかしてなくて・・・」 「オマエがこの部隊に入ったら、小隊ではオマエがメインでの任務になる。一番重要な役を仰せつかる。これから暫く、その訓練を行うことになる」 ゲンマはポケットの懐中時計を見遣った。 「まずは休憩しよう。午後から、訓練を開始する」 昼飯にしよう、とゲンマはを見遣り、街へと戻った。 「何処で食うかな・・・オマエ、何が食いたい?」 食事処を伺いながら、ゲンマはすたすた歩いていった。 「好き嫌いはないです。あ、あそこの定食が美味しいですよ」 はとてとてとゲンマの後をついていき、店を指した。 「へぇ。じゃ、其処にしよう」 向かい合って座って、お品書きを見る。 「何だ、かぼちゃの煮物ねぇじゃん。じゃあ何にすっかな・・・」 千本をプラプラと上下させ、眺める。 「日替わり定食がお勧めですよ。不知火先輩ってかぼちゃがお好きなんですか? 言えば作ってくれますよ」 すいませ〜ん、とは注文した。 「慣れてんな、オマエ。此処の常連か?」 「食事処は詳しいですよ。あちこちハシゴしてるんで」 「それで食い過ぎて栄養が全部胸に行っちまったんだな」 テーブルに載る程の豊かな胸で、谷間が強調されて隣の席の客が釘付けになっていた。 「もう・・・っ、気にしてるのに・・・」 真っ赤になって、俯いてお茶を啜る。 「ちっとくれ〜身長に行けば良かったのにな」 ゲンマはけろりとして、腕を組んで千本を上下させた。 「どうせアカデミーのコみたいですよ!」 「額当てしてなかったら、何処の幼稚園児だ? って思うな」 「ひど〜い! 幼稚園児まで言うんですか〜?!」 「ま、その胸見りゃ、そうは思わねぇけどな」 「胸胸言わないで下さい! セクハラですよ!」 プク、とは膨れてゲンマを睨む。 「この先セクハラ任務をするんだ、慣れさせてんだっつの」 「え・・・セクハラ任務? って・・・」 遮るように、まず定食が運ばれてきた。 もう少し待てば、かぼちゃの煮物も出てくるという。 ゲンマはの問い掛けには答えず、食べ始めていた。 「へぇ、結構美味いな。お勧めって言うだけあるぜ」 「そうですか? 良かった。夜に出る定食も美味しいんですよ」 もパクパクと食べる。 かぼちゃの煮物も出てきて、ゲンマは直ぐさま頬張った。 「ん〜、まぁまぁかな・・・」 オマエも食え、とゲンマは勧める。 「いただきま〜す。美味しいv もう、ダイエットできないよ、食べ物美味しくて」 「別に太ってねぇじゃねぇか。必要ねぇよ」 「え〜、だって〜・・・」 「男は別に細身の女ばかりが好きとは限らねぇんだぜ。どっちかって言うとポッチャリ系が好き、ってのが多いんだ。オマエをポッチャリとは言えねぇが、太ってるとは言わねぇよ。胸以外は引き締まってるしな」 「・・・男の人って、何で胸胸言うんですか? ただの脂肪のかたまりじゃないですか」 「ん〜、まぁ、母親の母乳飲んで育った訳だからな。特別な思い入れはあるってこった」 「何か答えになってないですよ」 ごまかしてません? とかぼちゃを頬張る。 「全部食うな。オレの分残せ」 ゲンマは鉢を引き寄せ、口に放り込んだ。 「食えって言ったり食うなって言ったり、不知火先輩って矛盾してません〜?」 「煩ぇよ。口ばっか達者にならねぇで、女磨け」 全部食べ尽くしてお茶を啜ると、ゲンマは千本をくわえ、立ち上がった。 「不知火先輩って男女差別するんですね。ちょっと幻滅・・・」 店を出て歩くゲンマの後をついていきながら、は口を尖らせた。 「あ? 別に差別なんてしねぇぜ? オレは」 「え、だって・・・」 「オマエ、どういう部隊に入ったのか、まだ分かってねぇだろ」 「え? 諜報活動や潜入捜査をするんでしょ? 難易度が高いし、特別な訓練が必要だから、限られた小隊しかできないって・・・」 「・・・ま、オレの執務室でいいか。戻るぞ」 何やら思案して、ゲンマは跳び上がった。 は飲み込めずに、後をついていった。 ゲンマの執務室に入ると、机の上には、に関する資料が置いてあった。 これまでの経歴が記されているらしく、これまでどんな任務をしてきたのか、この3日の間、ゲンマは目を通していたようだった。 ゲンマが隣の長椅子を勧めたので、は腰を下ろした。 「ま、オマエの経歴は見せてもらった。多種多様な任務に就いてきているようだから、今後の任務にもすぐに対応できるとは思う。だが、オマエの就く任務は、これまでとは異質だ。これまでの概念は捨てた方がいい」 資料を捲りながら、ゲンマは椅子に座った。 「はぁ・・・」 は、まだ事の重要さを理解していない。 「オマエ、男の経験は?」 「はぁっ?!」 何をイキナリ、とは真っ赤になる。 「男の経験はあるのかって訊いてんだ」 「・・・あのな、さっきも言ったが、オマエはこの先、そのセクハラ任務をしていくんだよ。諜報部隊の意味、分かってねぇだろ?」 「だから、そういう任務を専門にする・・・って、セクハラ?」 「オマエは今後、“自分”を武器にしていくんだ。つまり、その容姿、身体をな。潜入して、ターゲットを口説き、たらし込んで情報を訊きだしたり、誘惑して足止めしたりするんだ。そこまで言えば、頭の良いオマエなら分かるだろ?」 「な・・・っ」 更に真っ赤になったは、動揺を隠せなかった。 「だから任務に就くようになる前に、男を知る必要があるし、口説き方も覚えてもらう。本来なら、16になればくの一は大抵通る道だ。オマエは幸か不幸かこれまでそういう過去がない。それでも諜報部隊に入ったと言うことは、5代目はオマエにこっちの才能があると見込んでいらっしゃるからだ。分かったか?」 色んな思考が頭を巡り、は目の前が真っ白だった。 「里もまだ非常時だ。アカデミー生じゃねぇんだ、いつまでも訓練ばかりしている訳には行かねぇから、酷なようだが、早く慣れてもらう。一般人の女になりすまし、オレをターゲットのつもりで口説いてみな」 ゲンマは立ち上がって、の横に腰掛けた。 「どど、どうやって・・・」 は心臓をバクバクさせ、呂律が回らない。 「自分の思うようにやってみろ」 「えと・・・っ・・・」 男を知らないは、付き合ったこともない為、そういったことが全く分からなかった。 思い描く口説きシーンを頭の中で巡らせ、しなだれてみる。 囁かれても、ゲンマは無表情だった。 「・・・陳腐だな。一昔前のB級官能ドラマみてぇだ」 「だ、だって、分からないですよっ。まだ成人してないから、そういうのは見れないし・・・」 「オマエ、折角美人でいい身体してるのに、台詞に感情がこもってねぇから、迫られても全然欲情してこねぇよ」 ゲンマは眉を寄せ、ぶっきらぼうに吐き捨てる。 「欲じょ・・・っ」 はボンッと真っ赤になる。 「じゃ、じゃあ、不知火先輩がお手本見せて下さいよ! 隊長さんなんでしょ? 指導役なんだから、教えて下さい!」 「分かってるよ。オマエがどれくらいのモンか見てみただけだ」 ゲンマは言い終わると突然表情を変え、余りの柔らかさに、は鼓動が跳ね上がった。 見つめてくる瞳に、吸い込まれそうだった。 射抜かれて、身動きも出来ない。 の肩を抱いてきて、空いた手は頬を覆う。 囁いてくる声が低くてセクシーで、はクラクラした。 広い胸に抱かれ、天にも昇りそうだった。 「・・・ま、こういう感じだな」 声のトーンが戻って、ゲンマは体勢も表情も元に戻った。 は余韻に浸っていた。 「・・・おい? どうした?」 「はっ、はいっ!」 我に返って、激しい鼓動を聞かれてやしないかと、ドキドキした。 「じゃ、オレが女用に例を見せる。オマエ、オレでいいから変化してみな」 言われるがままに、はゲンマに変化した。 するとゲンマはに変化した。 ゲンマは女の姿、女の声色で、口説きの手本を見せた。 余りの色っぽさに、は自分の姿に変化しているゲンマが自分にはとても思えなくて、自分は女だというのに、男になった気分で、ドキドキして、その気になりそうだった。 触れるか触れないかというきわどい体勢の繰り返しに、クラクラして学び取るのを忘れそうだった。 ポ〜ッとしているとゲンマは離れ、変化を解いた。 「ま、レッスン1はこんなモンだな。早くとは言ったが、イキナリ本番まで行かねぇから、徐々に覚えていけ」 はとろけそうな目で放心していた。 「・・・今の、分かったか?」 気持ち悪ィから元に戻れ、と吐き捨てる。 「は、はいっ! えと・・・何となく・・・」 慌てては変化を解いた。 「ま、要は場数だ。色んなシチュエーションに対応できるように、細かく指導してやるから、安心しろ」 「あの・・・恥ずかしくないんですか? 私・・・どうも照れちゃって・・・」 「あ? 生憎、オレはこの部隊で10年以上やってきてるんだ。隊長なんてのもやって取り仕切ってる。それが当たり前の世界に浸かってりゃ、今更これくれ〜で恥ずかしがるか」 ゲンマは射抜くようにを見据えた。 はトクンと鼓動が跳ね上がる。 「え・・・何・・・」 「ん〜、何かその額当て、運動会みてぇでパッとしねぇなぁ・・・」 「は?」 は普通に、はちまきのように巻いていた。 「ちっといいか」 ゲンマは手を伸ばし、の額当てを解く。 「一体何を・・・」 千本をプラプラさせながら、ゲンマはに額当てを自分と同じ巻き方にさせた。 「よし、この方が良いな」 「えっ?!」 は何をされたのか分からず、手鏡を取り出して覗き込んだ。 「なっ、何で不知火先輩と同じ巻き方にするんですか!」 「その方が似合うと思ったから」 しれっと、ゲンマはの頭をポンポン撫でる。 「額当ては額にするものでしょう?! 不知火先輩のことは尊敬してますけど、その額当ての巻き方は納得いきません!」 「ま、散々周りから、世の中斜めに見るな、って言われてるけどな。でもオマエもそうした方が可愛いと思ったから、したんだよ」 別にオレは自分を可愛いと思ってやってる訳じゃねぇが、と訂正しながらシニカルに笑う。 「可愛・・・っ」 はボンッと照れた。 「オマエは美しい。自分という武器を最大限に活かせ。見てくれが何よりの武器になるんだぜ、この世界は」 理不尽で納得いかんかも知れねぇがな、とゲンマは立ち上がり、茶を煎れた。 に湯飲みを勧め、茶を啜る。 「オレがオマエを一人前の女に仕込んでやるから、しっかり覚えろよ」 「は、はい・・・」 は、とんでもない部隊に入ってしまった、と怖くなった。 それからというもの、ゲンマは懇切丁寧に、に指導した。 手本の度に、はクラクラする。 本気になりそうだった。 事実、かなりゲンマにのめり込んでいた。 『どうしよう・・・私・・・不知火先輩のこと・・・好き・・・』 最初の手本の時から、もう心奪われていた。 訓練だと頭では分かっていても、本当に口説かれているようで、その優しさにドキドキする。 そんなを見て、ゲンマは思案した。 「オマエには確かに男を陥れる方法を覚えてもらわなきゃならねぇが、その逆もまた然りで、男からの誘惑に落とされねぇように、慣れる必要もあるんだぜ。だから両方の手本を見せているんだ。しっかり任務と割り切れ。忍びの世界のシビアさは、6年この世界にいる優秀なオマエなら、分かっているだろう?」 がゲンマに抱いている気持ちは錯覚。 そう諭した。 でも。 はまだ年若く、純粋だった。 色事を割り切れる程、人生を達観できていない。 ゲンマの見せてくれた手本のようにやってみても、駄目出しはされるし、この世界でやっていくことに不安を覚え始めていた。 「はぁ・・・」 夕方、訓練を終えて帰宅途中のは、改めて、自分の入った部隊の難しさを実感していた。 「やっと特別上忍に昇格できたのに、訓練でこんなんじゃ、任務に行けるようになるのはいつだろ・・・っていうか・・・任務・・・イヤだな・・・」 好きでもない男との情事。 それを主とする部隊。 は気が重かった。 夕飯を食べて気持ちを切り替えよう、と店に入ろうとした。 「おい、何してる」 すっかり耳に馴染んだ、低いセクシーな声。 「し、不知火先輩!」 買い物袋を抱えたゲンマが、千本を上下させながら背後にいた。 「何って、夕飯食べるんですけど・・・」 「外食で済ます気かよ。面倒臭がらねぇで、飯くれ〜、家で食え」 「え、だって、私、料理ってしたこと無いですし・・・作れないですもん」 「はぁ? オマエ料理できねぇのか? 独り暮らしだろ? まさか毎日外食なのか?」 ゲンマは呆れ、眉を寄せた。 「そうですよ・・・いけませんか?」 「当たり前だろ。栄養だって偏るし、不経済だ。何も作れねぇのかよ」 「だって、作り方分からないですし・・・朝、目玉焼き作ろうとしても黒こげになっちゃって・・・」 「いい年して、情けねぇ・・・」 「女の癖にって言うんですか?! 偏見ですよ! 差別です!」 「男とか女とかは関係ねぇだろ。手料理は家計の友だぜ。任務と同じで、料理だって場数だぜ。オマエがなかなか上達しないのは、其処にあるな。ついてこい」 「え?」 クィクィ、とゲンマは手招きし、歩き出した。 着いた先は、ゲンマのアパートだった。 は訳も分からずに、促されるまま、中に入る。 「オレが料理教えてやるよ。生活の基盤から覚えていけば、訓練の方だって上達する筈だ。根本は同じだからな」 「はぁ・・・」 そして、夜は料理の特訓が始まった。 忍びとしての術の覚えは早かったというのに、の料理はなかなか上達しなかった。 失敗を繰り返し、ゲンマに呆れられ、だがゲンマは根気強く丁寧に教えてくれ、ようやく自分1人で作れるようになった。 「・・・ん、まぁ、まずまずだな。慣れりゃ面白いだろ、料理も」 の手料理を食べたゲンマは、優しく微笑んだ。 「何ていうか・・・術を覚えたりする時のことを応用したら、分かってきました。何でも根本は同じなんですね。頑張ってもっと練習して、不知火先輩が唸るくらいの料理作ります!」 良かった、食べられる、とはほっとして食べ続けた。 「そりゃ楽しみだ。後は、昼間の訓練も同じように応用できればいいんだがな」 「・・・頑張ってるつもりなんですけど・・・まだダメですか?」 しゅんとして、口を尖らせる。 「そうだな、オレがついムラッと来て襲っちまうようになればな」 「ムラッて・・・っ;」 ゲホゲホ、とはむせた。 「アンコさんから聞きましたよ! 不知火先輩は、何百何千っていう女を相手にしてきているから、相手の女やくの一なんて大根か芋くらいにしか感じないって! そんな人相手に私如きが落とせる訳ないじゃないですか!」 「あのな、それくれ〜のレベルになってもらわなきゃ、オレの小隊には入れられねぇんだよ。部隊のトップだぜ、オマエが入ろうとしているのは」 「でも・・・っ」 「オマエにはそれだけの力量がある。見た目がそうだからとかだけじゃなく、能力的にな。オマエは優秀な忍びだ。必ず出来るようになる。何かキッカケを見つけろ」 真っ直ぐ射抜く瞳は、決してからかうことはなかった。 どんなにが陳腐な演技をして見せても。 そんなゲンマの真摯さに、は益々のめり込んでいた。 ある日の夕暮れ。 「おい、今日は酒酒屋に行くぞ」 色んなシチュエーションでやってきた。 昼の訓練が終わり、大分様になってきたある日、ゲンマは仕事を片付けながら、そう言った。 「酒酒屋? って、居酒屋でしょう? 何をするんですか?」 文句を言った額当ての巻き方も、ゲンマに惚れれば惚れる程のめり込み、倣うように、同じ巻き方をし続けて主張した。 は随分と綺麗になっていた。 特別上忍に昇格して大分経ち、まだ任務には就いていなかったが、が綺麗になっていった理由は、恋をしているからと、訓練によって大分自信がついてきたからだった。 「居酒屋に酒を呑みに行く以外に何するんだ。昼寝じゃねぇだろうが」 「でも私、まだ未成年ですよ。呑めないです」 「オマエが任務に就くようになれば、必然的に酒場が主になる。今から酒を覚える必要があるんだよ。呑んだって捕まらねぇから、安心しろ」 行くぞ、とゲンマは街に向かった。 「行く工程も訓練だ。雰囲気出しな」 そう言って、ゲンマはポケットに突っ込んでいる手の肘を曲げ、隙間を作る。 は照れながら、しがみついた。 誘う側、誘われる側、両方のシチュエーションをやりながら、歓楽街に向かった。 まるでデートをしているようで、は舞い上がり、訓練ということを忘れそうになる。 ゲンマの優しさに、はメロメロだった。 普段はぶっきらぼうな物言いなのに、真綿のよう優しく包み込んでくれる。 最近は段階が進んでボディタッチも増え、セクハラまがいの訓練に、は対応していくのが大変だった。 確かには上達してきてはいたが、それはゲンマが相手だったからだ。 好きな男だったから、誘うのも誘われるのも、口説くのも口説かれるのも、触るのも触られるのも、嫌ではなかった。 だが。 任務となったら、全く別。 相手は、好きでも何でもない、もしかしたら嫌悪感を抱くような輩かも知れない。 そう思うと、憂鬱だった。 ゲンマはのその気持ちを、充分に分かっていた。 何人ものそういうくの一を見てきている。 その度にゲンマは優しく相手をし、諭し、逡巡を断ちきるように、殊更甘く、未練を払拭させた。 自分が相手をしてやることで覚悟が出来るというのなら、いくらでも優しく抱いて、囁いた。 はそれを伝え聞いて、それなのに何故そのくの一達はゲンマに惚れないのだろう、と不思議だった。 はもうゲンマにぞっこんだった。 ゲンマの訓練が優しくて評判なのは腐る程聞いたが、だからといってそれでゲンマに惚れた、というのは、ついぞ聞かない。 良い機会だから、色々訊いてみよう、とは思った。 「体内のチャクラコントロールを忘れるなよ。憂さ晴らしに呑みに来てるんじゃねぇんだ、訓練の一環だからな。一瞬でも気を抜くな」 カウンター席で並んで座り、ゲンマは適当に注文していく。 「此処って中華なんですよね。居酒屋って初めてです」 「オレの予想だと、オマエはそんなに酒には弱くねぇと思う。まぁ、呑みやすいのにしとくから、徐々に覚えろ」 酒が運ばれてきて、乾杯した。 「・・・ん、甘〜いv 美味しいですね!」 ジュースのようで、はグビグビ飲んだ。 「コラ。チャクラコントロール! 忘れんな」 「あ、はい!」 そうだった、と姿勢を正してチャクラを練った。 「あの・・・私、最近どうですか?」 春巻き美味しい、と食べながらゲンマを伺う。 「・・・ん〜ま、オマエも大分上達したしな。あれだけ訓練ばっかしてりゃ、普通の忍びだって、マシになるっつの」 ゲンマはグビグビ呑みながら、吐き捨てる。 「あ、其処を訊きたかったんです! 色事の訓練を済ませているくの一達に、色々訊いたんですけど」 「何を」 「普通、訓練って、2〜3日、長くても一週間で終わるって。大体の口頭テクを教わったら、すぐ実技だって。もう1ヶ月になりますよね? 何でずっと最初のことばっかりで、実技をしないんですか? そりゃ、胸とか触られたりってのはしてますけど・・・」 チャクラコントロールを忘れないように、と酒を含みながら、尋ねた。 「何だよ、そんなにオレに抱かれてぇのか?」 早く言えよ、とゲンマが迫ってくる。 「そっ、そそそ、そういう訳じゃ・・・っ;」 は真っ赤になって、むせた。 慌てて逃げようとする。 「だ、だって、訓練って、それを最終的にする為にやって・・・るんでしょ?」 冗談だ、とゲンマが戻ったので、姿勢を正して再び問うた。 「ま、そうだがな。・・・オマエはオレの小隊に入るんだから、他の連中より高度な技術が必要なんだよ。オマエがもういつでもいいって言うんなら、オレは構わねぇよ。オマエはもう標準以上のレベルまで体得してるからな」 「えっ・・・じゃあ何で・・・」 「・・・だって、“初めて”は怖いだろ? オマエの覚悟が出来るまで、待とうと思ってな」 「え、でも、里が非常時だから、早くって・・・」 「表向きはな。そう言うってことは、もういいって事か?」 「え・・・えと・・・っ;」 呑む手を止め、は俯いた。 「・・・ま、焦んな。追々でいい」 「その・・・」 「ん?」 「実技って・・・普通に、セッ・・・スするんですか?」 は照れながら、ゴニョゴニョ呟く。 「そうだ。普通の男女の営みを、訓練と称して行う。だが、訓練だからって、粗末には扱わねぇから、安心しろよ」 「は、はぁ・・・で、でも、訓練で、出来るものなんですか? そういうこと・・・」 「男は別に、2人の間に愛が無くても、勃つモンは勃つ。女は愛の無いセックスは出来ねぇと言うから、出来る限りその気になるようにさせる。覚えてしまえば、後はどうにでもなるさ」 ゲンマのあからさまな発言に、は真っ赤になる。 「し、不知火先輩って・・・凄く沢山の女の人を抱いてきたんでしょ? 出来なく・・・なったりはしないんですか?」 「不能じゃねぇんでな。自分を自在にコントロールしてるから、任務だからな」 失敗したことはねぇ、と料理を頬張る。 「不知火先輩は女の人を芋か大根にしか思ってないって聞いてますけど・・・本気になったりしないんですか?」 の率直な疑問に、ゲンマは一瞬黙った。 「・・・別に女を芋だ大根だって思ってるんじゃねぇ、任務や訓練の相手を、って意味でアンコは言ってんだよ。ま、オレは最初から割り切ってるから、うっかりその気に、なんてなったことはねぇ。辛いだけだからな」 酒を含むゲンマが何だか寂寥感に溢れていて、は鼓動が跳ねた。 「でも・・・相手の人の方は? 本気になられたりって、したこと無いんですか? 不知火先輩って、カッコ良くて優しいのに・・・」 今正に自分がそうだ、と言うことを、ゲンマに問い質した。 「・・・生憎、ねぇよ」 「何で? だって・・・」 「・・・いくら甘い言葉を囁いて優しく抱いてやった所で、其処に愛情はねぇからな。その時についその気になりかけられても、それに気付くから、それ以上には発展しねぇ。だから、オレはモテるようでモテねぇんだ、実は」 愛情はない。 その言葉に、は胸が痛んだ。 「でも、バレンタインにはごっそりチョコ貰うって・・・」 「感謝を込めて、っつ〜義理だよ。本命じゃねぇ」 沈黙が2人を包む。 ゲンマはグビグビと酒をあおっていた。 「・・・不知火先輩って、お酒強いんですね。さっきから結構呑んでるのに、全然変わらない」 何か話題を、とは声を上げた。 「あぁ、ザルでな、酔ったことはねぇ。ま、こういう任務ばっかりだから、それに慣れてんだろ。酔って正体失うとか、一度なってみてぇとか思うけどな」 「へ〜・・・」 「思った通り、オマエも強いじゃねぇか。まだ平気だろ?」 「えぇ、まぁ・・・何となくユラ〜リしてきてはいるんですけど」 「ほろ酔い気分ってヤツか。丁度良いな。でもま、酔ったフリって言うのも覚えなきゃならんから、一度酔っぱらった方がいい。チャクラコントロールとか面倒なことはもういい。思う存分呑め」 「え〜、酔っぱらったらどうするんですか?」 「ちゃんと送ってってやるって。今日の訓練はオシマイ。日頃の憂さはらせ」 「え〜っ、不知火ゲンマの鬼〜ッ! とか叫んでいいですか?」 「あのな。オレの何処が鬼教官だ」 「あははは、冗談ですよ〜」 その後暫く、2人は楽しく呑んで、語らった。 ゲンマはけろりとしていたが、は大分酔ってきていた。 を見つめるその瞳は、いつもと同じく、優しかった。 訓練は終わり、と言いながら、訓練の時と変わらずに優しい。 「ふに・・・」 酔いの回ってきたは、良い気分で、ゲンマにしなだれかかった。 「ひらにゅいえんまはおろろまえ〜〜v」 「何言ってんだ? オマエ」 抱きついてくるを、ゲンマは優しく胸の内に取り込んで、頭を撫でた。 「ひらにゅいへんふぁいっへ、かっこいい〜れふよね〜」 ぎゅ〜、としがみつき、潤んだ瞳で見つめ、甘い声で囁いた。 熱い吐息がゲンマの首筋に掛かる。 「打ち止めってこったな。帰るぞ」 ゲンマは立ち上がってを立たせようとしたが、立つことは立っても、ゲンマにべったりだった。 仕方なく腰を抱いて、支えて会計に行き、店を出た。 冬の夜空に、白光の月が2人を照らした。 カップルのように、寄り添って歩いた。 「・・・私ね、不知火先輩と同じ部隊に配属されて、すっごく嬉しかったんです。重要度の高い任務を任されるって・・・忍びになって良かった、って、今、誇りに思ってるんです。でも・・・」 歩みを止めたは、きゅ、とゲンマの首に強くしがみついた。 ゲンマは何やら思案しながら、を見つめる。 優しく抱き締め、胸の内に取り込む。 小さな身体を震わせる少女の気持ちは、痛い程分かっていた。 ゲンマはを自分のアパートに連れてきていた。 額当てを解き、ベストを脱いだゲンマは、の額当ても解くと、ベッドの上に座らせた。 はとろけそうな潤む瞳で、ゲンマを見つめる。 ゲンマは隣に腰掛けると、を胸の内に取り込み、真綿のように抱き締めた。 そっと離れ、両肩を掴む。 ゆっくりと、の唇を塞いでいった。 「ん・・・」 優しく啄み、ゆっくりとベッドに押し倒す。 充分に口腔内を蹂躙すると、首筋に顔を埋めた。 丁寧に、痕が残らないように優しく愛撫していく。 節くれ立った大きな手が豊かな膨らみを柔らかく揉みしだく。 次第に脱がされていくのを感じて、あぁ、ついに実技の時が来たんだ、とは思った。 一生懸命、は応えた。 きっとこうやってゲンマに抱いてもらえるのは、これが最初で最後。 どうせなら、思う存分、悔いなく抱かれたい。 虚構でも、束の間でもいいから、愛されたい。 今、ゲンマはしか見ていない。 終わると同時に、愛は消えてしまうと分かっていても、には、抱いてもらえることが嬉しかった。 数多の星が身体中に降り注ぐ―――――。 ふと目を開けると、ゲンマは眠りに落ちていた。 子供のようなあどけない顔で、寝入っている。 腰に感じる鈍痛を抑えながら、は目を伏せ、思考を整理し、この腕の中から帰ろう、と思った。 これからは、重要な役を担うということで、大切に、大事に思ってくれる。 それで幸せだ。 そう思おうとした。 でも、ゲンマの腕の中から、帰りたくない自分が、片隅にいる。 一晩だけ。 今夜だけ、甘えさせて。 そう思いながら、は眠った。 薄い月の光が降り注いでいた。 朝。 目を覚ましたゲンマは、ベッドの上で上体を起こし、をチラと見ると、暫く考え込んで、眉間にしわを寄せてしかめっ面をしていた。 頭を抱え、何やら唸っている。 小さく息を吐く。 「あの・・・不知火先輩」 裸のまま、掛布団で胸部を覆って座り込むは、跳ねる鼓動を抑え込もうとしながら、赤い顔でゲンマを伺った。 「ん?」 「私・・・これで不知火先輩の小隊に、入れて・・・もらえるんですよね?」 ゲンマは答えずに、を見つめた。 「任務、頑張りますね。不知火先輩のお役に立てるように・・・頑張ります」 ニコ、と笑顔を努めようとした。 ゲンマは何も答えない。 は不審に思った。 「あの・・・私・・・合格・・・なんですよね? それとも、下手くそで、ダメ・・・とか?」 「いや・・・」 ゲンマは再び息を吐いた。 「不知火先輩?」 ゲンマはおもむろにを抱き締め、押し倒した。 「えっ?! 何?!」 「・・・くねぇ・・・」 「え?」 「オマエを・・・入れたくねぇ」 「な、何でですか?!」 ゲンマは困惑しているの唇を塞いだ。 「だから・・・こういうことだ」 「ど、どういうことですか?」 「どうも・・・オレとしたことが・・・訓練相手の部下に、惚れちまったらしい」 ゲンマは頬を染め、目を泳がせる。 「えっ」 の鼓動はトクンと跳ね上がり、真っ赤になる。 「オマエ・・・何にでも真面目で、純粋で、真っ直ぐで・・・笑ったら可愛いんだろうなぁ、って思ってて・・・でも、曇らせることばっかしてきてて・・・それでもオマエはずっと真っ直ぐで、純粋で・・・情愛が、いつの間にか、愛情になっちまったらしい」 「で、でも、不知火先輩、其処に愛情はないって・・・芋か大根って・・・」 「・・・だから、どうしたらいいのか、自分の気持ちが止まらねぇで、どうしたのかと・・・」 「不知火先輩・・・私、不知火先輩のことが好きです。不知火先輩は、その気持ちは錯覚って言うかも知れないけど、これは本当です。真実です。大好きです。・・・愛してます」 は、真っ直ぐにゲンマを見つめた。 揺らぐことのない、芯の通った大きな澄んだ瞳で。 「・・・オレ・・・淫行罪で捕まるかも・・・」 「え? だって、訓練でしょ?」 「オレは一度たりとて、自分の家で訓練をしたことはねぇよ」 「え・・・じゃあ・・・」 「昨夜オマエを抱いたのは・・・純粋にオマエを愛おしいと思ったからだ。訓練じゃねぇ」 は益々鼓動が跳ねた。 「訓練じゃないって・・・でも、合意の上なら、罪じゃないでしょ? 私も不知火先輩のことが好きで、抱かれたいって思ってたんですから」 「合意の上でも、相手が未成年だと訴えられるんだよ」 「誰が訴えるんですか? 私は合意してるし、反対する家族も居ないし」 「・・・でもよ・・・」 ゲンマは自分を納得できないようだった。 そんなゲンマが、可愛くて愛おしかった。 「2人だけの秘密でいいじゃないですかv 私、嬉しいです。不知火先輩の愛情が貰えて。それだけで任務頑張っていけます。宜しくお願いします!」 「・・・嫌じゃねぇのか? 任務・・・」 「そりゃ、手放しでいい訳じゃないですけど、不知火先輩と一緒に木の葉の役に立てるんですもん、不知火先輩が見てくれてるから、頑張れます!」 ニコ、とは微笑む。 朝日が射し込んで、殊更眩しかった。 「オレの執務の後継者になることで手を打たねぇ?」 「私は不知火先輩と任務をしたいんです! ホントのことがバレたら、5代目に怒られますよ。って、後継者?」 ゲンマの執務は、不知火家特有のモノ。 家族を全て失っているゲンマは現在、その不知火の唯一の後継者だった。 そのゲンマの後継者と言うことは。 は意味を理解し、ボンッと照れた。 「ゆっ、ゆくゆくはってことで、ちゃんと任務出来ますから、だから私、不知火先輩と任務・・・っ」 「その不知火先輩ヤメロ。ゲンマって呼べ。先輩もヤメロ」 「じゃ、じゃあ、ゲンマさんっ、私からもいっこお願いがっ」 「あ?」 「・・・名前・・・呼んで下さい。ゲンマさん、ずっと私のこと、“オマエ”としか言わないんですもん・・・名前呼んで下さい」 「そう・・・だったか?」 こり、とゲンマは頭を掻いた。 「じゃあ、・・・」 「は、はい!」 「愛してる」 この後、がゲンマの小隊に入ったのかは、今はまだ分からない。 綱手に咎められつつも、許してもらえたのは、余談である。 END. 98700番、査妥様のキリリクでした。 |