【西瓜2―聖夜―】 がゲンマに説得されて、木の葉から火の国のの大名の自分の邸に戻って、早3ヶ月。 きらびやかな装束に身を包んだ“姫”は、毎日退屈を持てあましていた。 上層階の教育を受けながら、時々は家を抜け出て、庶民と交わる。 いつもの気分転換だったが、何をしてもゲンマを思い出し、木の葉に戻りたくて仕方がなかった。 戻ってきた時、両親には怒られなかった。 昔からお転婆で困らせてきた為、いつか本当に出て行くだろう、と思っていたようだった。 というより、が木の葉に来てからずっと、ゲンマから逐一報告を受けていた為、心配していなかったようだ。 ゲンマは、火影からも覚えめでたき、特別上忍。 大名達は、ゲンマを信頼していた。 それを聞いて改めて思い起こすと、ゲンマがずっと、自分を庇って、守ってきてくれたことを思い出す。 ゲンマだけが気付いていて、それでもずっと追い返さず、傍にいてくれたこと。 無茶をしないか、見守ってくれていたこと。 それ自体は嬉しい。 でも、はゲンマに会いたくて、たまらなかった。 「は〜〜〜っ。退屈〜〜〜っ。ゲンマさんに会いたいよ〜〜」 重い姫の装束なんて脱ぎ捨てて、一般人の格好で飛び回りたい。 ゲンマの元に戻りたい。 でも、ゲンマとの約束。 20になるまで、成人するまで、両親の元にいる。 両親に自分の気持ちを伝えた時、最初は渋ったが、思いの外、あっさり許してくれた。 黙って家出して木の葉に住みついて働いていたことも、20になったら家を出て木の葉に戻りたいと言うことも。 でも。 の家は、子供はのみ。 跡継ぎが居ない為、は幼い頃から、それ相応の教育を受け、跡を継ぐことになっていた。 婿を貰って、の名を継ぐ。 両親も、20になったら木の葉に戻ることは許してくれたが、本音は、将来的にはの家を継いでもらいたいようだ。 「ゲンマさんと結婚して・・・なんて、ダメなんだろうなぁ・・・」 周りがとやかく言う前に、ゲンマの方が拒絶しそうだ。 でも、ゲンマのことを調べていて分かったことは、木の葉の不知火の家は、割と高位の身分だと言うこと。 源流を辿ると、元は火の国の大名家の血筋なのだと。 だから両親も、ゲンマに信頼を置いていたと言うこと。 執事から聞いた。 暗部が火影直轄の機関だというのと同じように、不知火家の特殊任務も、火影直轄なのだと。 それ故に、ゲンマは然るべき身分にあってもおかしくはないのだと。 「私・・・ゲンマさんのこと、色々調べて何でも知っていたつもりだったけど、結局何も分からないままだったなぁ・・・」 誕生日だって知らなかった。 「ゲンマさんに会いたい・・・会いたいよ・・・!」 は窓の外を眺め、呟くと、突っ伏した。 その頃、木の葉では。 急にが仕事を辞めていなくなり、皆驚いたが、ゲンマはの身分を伏せ、未成年で盛り場で働いていたから、成人するまで親元に返した、と説明すると、皆は納得した。 火影の他に、カカシだけは知っていた。 何故なら、がゲンマと初めて出会った10年程前の戦争の時、の邸の避難を担当していた暗部の隊長が、カカシだったからだ。 ゲンマは火影に頼まれた機密文書を届けに行くと、火影に呼び止められた。 「その後の姫のことは存じておるか?」 「いえ、詳しくは・・・。時折、鳥を使って様子を見に行かせていますが、無事に元気にやっているようだと・・・」 「の大名から聞かされておる。姫は、気丈な素振りを見せてはいらっしゃるが、時折物思いに耽り、浮かぬ顔で木の葉の方角を見つめておるそうじゃ。ゲンマ、オマエが恋しいのじゃろうて」 「ほ、火影様、何を仰られるんです!」 所在なげに、ゲンマは目を泳がせる。 「分かっておるのだろう? ゲンマよ。姫が木の葉に来たのは、オマエ恋しさから、追い掛けてきたのじゃとな」 「それは・・・」 気まずそうに、ゲンマは視線を逸らす。 「ゲンマよ、オマエの祖先は、元を辿れば、高貴の出じゃろう? の大名も、不知火の跡取り息子になら、姫を託せる、と申しておるぞ」 「昔のことなんて知りませんよ。私は今は一忍びです。それ以外の何者でもありません」 「存外頭が固いのう、ゲンマ・・・」 「お話がそのようなことでしたら、失礼します」 ゲンマは一礼し、去ろうとした。 「姫は寂しがっておられる。今まで面倒を見てきたのじゃ。フォローもしてやらぬとな」 「・・・・・・」 再度頭を下げ、ゲンマは黙したまま、執務室を出て行った。 人生色々に行くと、珍しい人物が居た。 「カカシ上忍・・・珍しいですね、アナタが任務もなく暇を持てあましているなんて」 下忍教育職に就くことになりながら、毎年合格者を出さないカカシは、毎日任務に飛び交っていた。 「あはは、違う違う。今帰ってきたばかりなの。流石に休まずにすぐに次ってのはね」 読んでいたイチャパラから顔を上げ、カカシは笑った。 ゲンマは隣に腰を下ろし、時代小説を開く。 「ちゃん、どうしているかねぇ・・・」 カカシがポツリ、と呟いた。 「自分の世界に戻り、それ相応の教育を受けているでしょ」 「実は花嫁修業で、貰って下さい、ってゲンマ君言われるんじゃないの」 「あのね、はの跡取り娘ですよ。オレには不知火家再興があるし、有り得ませんよ」 「そ〜ぉ〜? 不知火になるか、ゲンマになるか、どっちだろうねぇ」 「だ・か・ら! 有り得ないって言ってるでしょ」 ったく、とゲンマは眉を寄せてくわえている千本を上下させた。 「でも、ちゃんの気持ちは分かってるんでしょ? 10年も思い続けてて、木の葉に来てからもずっとアピールし続けてたんだから。まさか気付いていないとは言わせないよ」 「・・・親元に帰す前の日に、言われましたよ。でも、応えてやることは出来ません。身分が違います」 「ゲンマ君だって、不知火家は高貴の身分じゃないさ。の大名だって、ずっとゲンマ君を信頼してちゃんを任せてきてたんだから、身分どうこうは関係ないと思うけどなぁ」 「オレは木の葉の一忍びですよ。先祖が誰だろうと、関係ありません」 「冷たいの。もうすぐクリスマスだよ? 恋人達の幸せなイベントじゃない。ちゃんのこと、フォローしてあげなきゃ可哀相だよ。会いに行ってあげるなり、プレゼント送るなりしないと・・・」 「会うことは出来ませんよ。けじめですから。会っちまったら、は今すぐにでも戻りたくなる。20になるまでは親元にいるって言う約束ですからね」 「クリスマスくらい、良い夢見させてあげなきゃ。恋する女のコは、クリスマスに特別な思い入れがあるでしょ」 「無理ですよ・・・」 そう言いつつ、ゲンマは何やら思案した。 明くる日。 仕事が終わって家路に着いたゲンマ。 いつものように、かぼちゃを買って家に帰る。 商店街は、クリスマスムード一色。 夕食を作りながら、のことを考えていた。 「そう言えば・・・煮物食わせるって約束して、まだだったな・・・」 明朗快活で、愛らしい。 いつもストレートに、気持ちをぶつけてきていた。 ゲンマとて、嫌いな訳ではない。 だが、相手が高貴な姫君では、おいそれと滅多なことは出来ない。 その辺はけじめを付けなければならない。 でも。 明るいが、毎日寂しそうにしている、と聞かされると、心が揺らぐ。 には、いつも笑っていて欲しい。 原因が自分だと分かっていながら、何も出来ない自分が歯がゆい。 「フォロー、か・・・」 どうしたものか、とゲンマは考えあぐねた。 明日はクリスマスイブ。 「良い夢か・・・」 ゲンマは、ある決意をした。 クリスマスイブ。 は上流階級主催のパーティーに出席し、愛想を振る舞っていた。 「の姫君も、大層綺麗に成長なさって、恋い焦がれる若者が絶えませんなぁ・・・」 そんな声を何度も耳にしたが、素通りさせた。 美辞麗句、飾り立てられた賛美を聞かされても、ゲンマでなければ意味がない。 「ゲンマさん・・・会いたいよ・・・」 綺麗なくの一達とパーティーしていたらどうしよう。 私のことなんか忘れて、女の人を作っていたらどうしよう。 悪い考えばかりが浮かぶ。 窮屈なドレス。 「もう・・・こんなトコ居たくない・・・」 頃合いを見計らって、は帰宅した。 きらびやかな世界から真っ暗な部屋に戻り、ぼふ、とベッドに倒れ込む。 「ゲンマさんに会いたいよ・・・。夢でも良いから、ゲンマさんに会いたい・・・」 突っ伏したその時。 窓辺で、羽ばたく音がする。 「何・・・?」 怪訝に思い、は顔を上げる。 窓の外で、大きな鳥が羽ばたいていた。 何だろう、と思っては窓を開ける。 普通の鳥より、何倍も大きい鷹。 「綺麗な鷹・・・おっき〜〜。どうしたの?」 が語りかけると、その鷹は大きく羽ばたいた。 その時、鷹を見つめていたは何やら、不思議な感覚に包まれる。 この感覚には覚えがある。 国に戻ることを拒絶した時、ゲンマに眠らされた時のあの感覚。 は意識が遠のいた。 「おい・・・起きろ、」 低い声が、を揺り起こす。 「ん・・・むにゃ・・・」 ゆっくりと目を開けると、はドレスのまま、ベッドに倒れ込んで眠り込んでいたようだった。 「ヤだ・・・寝ちゃってた・・・って、え?!」 自分を起こした声の主の存在を確認すると、は驚愕した。 「ゲ、ゲンマさん?! どど、どうして・・・」 「どうって、今日はクリスマスイブだろ? オマエとデートまがいのことした時、クリスマスパーティーしようって言ってたじゃねぇか。だから来たんだよ」 ゲンマはいつもの忍服ではなく、正装をしてきていた。 「嘘・・・ホントに?」 「オレだけで悪ィがな」 「ううん・・・! すっごく嬉しい・・・!」 は目に涙を浮かべ、ゲンマに抱きついた。 「どうする? 此処でパーティーするか? それとも、何処かへ出掛けるか?」 「まだ時間早いし・・・外でデートしたい! 映画観て、レストランで食事したい」 「じゃ、行こう。さ、姫。お手を・・・」 恭しく、ゲンマは手を差し伸べる。 慣れているは、嬉しそうに手を添えた。 火の国の市街地に出てくると、街並みはクリスマスのイルミネーション一色で、行き交う人々は幸せそうなカップルだらけだった。 そのきらびやかな雰囲気だけで、ゲンマとこうして歩けることが、益々嬉しいは、幸せ一杯だった。 行き交うカップル達に倣って、はゲンマの腕に絡み付く。 ゲンマも優しく微笑んでくれている。 会えなかった間の3ヶ月のお互いのことを話しながら、街を歩いた。 賑やかなので、ゲンマはに耳打ちするように話す。 ゲンマの低い声が大好きなは、そのセクシーボイスにメロメロだった。 映画館では、今流行りの恋愛映画をやっていた。 前過ぎず後ろ過ぎず、丁度良い中央の席に、2人は座った。 映画の内容は、身分違いの男と女が船上で出会って恋が芽生え、引き裂こうとする上流階級の家族から逃げ回り、結ばれるのも束の間、船が座礁し、沈没するのを、どうやって助かるか、どちらかが助かるか、択一を迫られ、女を助けようとして男が帰らぬ人となる、という一大スペクタクルな、長編だった。 は自分と重ねて感情移入し、ボロボロ泣いた。 そんなを優しく見つめ、ゲンマはそっと手を握る。 映画館から出ても、は暫く放心していた。 ゲンマはの肩を抱き、展望レストランへ向かう。 楽団が演奏する洒落た高級レストランに入った。 映画のサントラ音楽を演奏していたので、は余韻に浸った。 「予約していた不知火だ」 「不知火様、2名様ですね。お待ちしておりました。どうぞ奥へ」 夜景の眺めが良い窓際の席に案内され、席に着く。 「お飲み物はどうなさいますか?」 「オレはコースに合ったワインを。こちらには、シャンメリーを頼む」 「かしこまりました」 ボーイが去っていくと、ゲンマは夜景を見遣って、を伺った。 「・・・シャンパン飲みたい」 「酒はダメだっつってるだろ」 「一日くらい良いじゃな〜い。イブなのに〜」 「薄いカクテル一杯で酔っぱらうオマエにはまだ早ぇよ。早々に潰れちゃ、後が楽しめねぇだろうが」 「ちぇ」 「映画、随分見入ってたな」 「だってぇ、何となく自分に重なって見えちゃって、感情移入しちゃったよ。最後に彼が死んじゃうのがショックだけど、それがまた泣けるよねぇ」 「ヒロインは芯が強くて、オマエに似てたからな。ま、アレがオレだったら、オマエ残して死にゃしねぇよ。絶対生き残って、オマエを守ってやれる」 優しくゲンマは、を見つめた。 「嬉しい・・・!」 ワインとシャンメリーが運ばれてきて、乾杯をする。 「オマエはドレスも似合うな」 「そぉ? 普通の格好したいよ。上流階級のパーティーなんて、窮屈で退屈で嫌い」 「似合ってるよ。とても綺麗だ」 「え・・・」 はぼっと赤くなる。 「な、何かゲンマさん、今日はいつもより優しいね」 「そうか? 本音を言っただけだぜ」 柔らかく微笑むゲンマに、は骨抜きにされた。 コース料理が順々に運ばれてきて、2人は舌鼓を打った。 ゲンマのテーブルマナーは、そのまま上流階級でも釣り合いそうな、洗練されたものだった。 ここまでのエスコートも、それに慣れているにも、何ら違和感を感じさせなかった。 こういう扱いをされるのが余り好きではないも、ゲンマにされると、とても嬉しかった。 たった1人の好きな男にだけ許されるお姫様扱いというのも、まんざらではない、と思う。 話題は弾み、ずっとこのままでいたい、とは思った。 このまま時が止まればいい・・・。 「ね、ゲンマさん、この上に観覧車あるでしょ? 乗ろうよ」 「あぁ、見晴らし良いだろうな」 レストランを出て、上に上がり、観覧車に乗り込む。 「わ〜、夜景キレ〜イv」 「宝石箱をひっくり返したような、って感じだな」 ゆっくり動く観覧車に、は夜景に見惚れた。 「ね、ゲンマさん。そっち行っていい?」 ゲンマの向かいに座っていたは、ゲンマの隣を請うた。 「いいよ。来い」 嬉しそうに隣に座ると、ゲンマが優しく抱き留めてくれた。 腕の中が心地好くて温かくて、は舞い上がりそうだった。 てっぺんにさしかかった時。 は瞳を閉じ、顎をスッと上げて、ゲンマの胸にしがみついた。 「ゲンマさん・・・大好き」 「・・・」 の唇に柔らかいモノが触れた。 が。 それはゲンマの指。 「・・・何でダメなのぉ?」 はしょげて、口を尖らせる。 「クリスマスくらい、夢見させてくれたってい・・・」 ゲンマは自嘲気味に微笑み、を優しく抱き締めた。 はゲンマの胸が頼もしくて、酔いしれた。 浸っているうちに観覧車は下まで来て、ゲンマにエスコートされて降りる。 「さ、帰ろう」 「え〜。ゲンマさん、飲み足り無くない? バーに行こうよ」 「構わねぇが・・・オマエは酒はダメだぞ」 「いいよ、もう。ゲンマさんと一緒にいられるなら我慢する」 ぷく、と膨れてはゲンマの腕に絡み付いた。 火の国の地理にも詳しいゲンマは、自分の気に入りのバーへを案内した。 「またシャンメリーかぁ。早く20になりた〜い!」 「だから、生き急ぐなって。ロクなことねぇぞ。一歩一歩大人になれ」 「ねぇマスター、ちょこっとお酒入れて?」 「コラ」 くすくす、とマスターは笑う。 「そんなことをしたら、私が大名に怒られてしまいますよ、姫。チークタイムですよ。不知火様と踊ってこられてはどうです?」 「え、私素性バレバレ?」 「日頃のお転婆が徒になってるな」 じゃ、行くか、とゲンマは立ち上がり、に手を差し伸べる。 の手を取ると、恭しく礼をして、腰を抱き、優雅に踊る。 「ゲンマさんって・・・このまま、上流階級に通用する身のこなししてるよね」 「そういう訓練受けてるからな。深窓のご令嬢にお墨付きを貰えるとは、光栄だな」 「だってゲンマさん、こうしてると、何処の貴族かな、って感じだよ。いつもは窮屈で嫌いな世界だけど、ゲンマさんといられるなら、この世界も悪くないなって思う」 ゲンマの胸に身を預け、は踊った。 「オマエが望むなら、そうしようか?」 「え・・・」 音楽が止み、周りのカップル達は抱き合い、互いに熱くキスを交わしていた。 ゲンマもを抱き締める。 「ゲンマさ・・・」 ス、とは目を閉じた。 ゲンマはに覆い被さり、の唇に己の唇を近付けていった。 2人の影が、一つに重なっている。 「姫様、姫様!」 は、聞き慣れた執事の声を遠くに聞いた。 「いくら南国とはいえ、夜中にこのままの格好で眠られては、お風邪を召しますよ」 「ん・・・」 はゆっくりと目を開けた。 そこは自分の寝室。 真っ暗な中、ランプの明かりで執事が覗き込んでいる。 「辰巳? どうして・・・」 はまだ夢心地だった。 「パーティーを途中で退室されて、お戻りになられたのでしょう? 大名方が心配されておいでです。お召し物を替えて、きちんとベッドの中でお休み下さい」 「え・・・ゲンマさんは? いつ私戻ってきたの?」 は上体を起こし、きょろきょろと辺りを見渡す。 「不知火様で御座いますか? お見えになられてはおりませんよ。大方、夢でもご覧になっていたのでしょう」 では、失礼致します、と執事は出て行く。 「え・・・夢だったの・・・? 確かに、夢でも良いから会いたいって言ったけど・・・ホントに夢だったんだ・・・」 ガッカリして、はぼふんと枕に顔を埋める。 「ゲンマさん・・・優しかったのに・・・」 じわ、と目尻が滲んでくる。 ふと、枕元に何かが置いてあるのに気付いた。 小さな小さな小箱。 手に取ってリボンを解くと、そこにはかぼちゃの形をした、オレンジ色のキャンドルが入っていた。 そして添えられた小さなメッセージカード。 “メリークリスマス” 差出人は書いてなかったけど、この字には見覚えがある。 「ゲンマさ・・・!」 あれが夢だったのかどうかはもうどうでも良かった。 ゲンマが見せてくれた、最高の一時。 確かには、幸せだった。 「ゲンマさん・・有り難う・・・必ず、立派なレディになって、戻るから。待っててね・・・!」 ゲンマからのプレゼントを胸に抱き締め、は聖なる夜の星空に誓った。 木の葉に舞い戻った大きな鷹。 「おぅ、ご苦労さん、フジナ」 展望台で忍鳥の戻りを待っていたゲンマは、鷹の労をねぎらった。 「どうだった? 上手くできたか?」 「幸せそうな顔をして眠っていた。良い夢を見れた筈だ」 「そうか。なら良かった」 「こんな事をせずに、会いに行ってやればいいものを」 その方が喜ぶのに、とフジナは羽根を閉じる。 「それが出来ねぇから、オマエに頼んだんだろうが。約束は破れねぇよ。オレには、幻術使って良い夢見させてやるくらいしか出来ねぇよ」 「どうせ夢を見させるなら、キスの一つもしてやれって」 「それは注文に入れてねぇ! してねぇだろうな!」 「主人の命には反してねぇよ。ただ、意見したまでだ」 「可愛くねぇな、オマエ・・・」 「何処かの主人に似てるようでな」 「煩ぇよ」 「クリスマスくらい、素直になれって」 「生憎、根本からねじ曲がってるんでな」 「はいはい・・・」 じゃな、とフジナは羽ばたいて消えた。 ふぅ、とゲンマは息を吐く。 「・・・いつまでも待ってるから、急ぐなよ・・・!」 聖なる夜の星空の元、ゲンマは夜空を見上げて呟いた。 メリークリスマス。 END. 52252番、亜麻都 詩弥様のキリリクでした。 |