【誘惑】 夕暮れ時の食事処は混雑し、騒がしい。 任務を終えた独身の忍び達が夕食に訪れ、妻帯者は酒をあおりに来る。 は、人気の食事処の店員。 今日も忙しなく働いている。 「ちゃ〜ん、オレの焼き魚定食まだぁ?」 カカシがお茶を飲みながら、駆け回っているに手を振る。 「あっ、はたけさんのは今出てくるよっ! ちょっと待ってて!」 も〜、人手足りないから夕方から増やしてよね〜、と文句を言いつつ、食事を運ぶ。 そ、との背後に手が伸びる。 「きゃあっ!」 は尻を撫でられた。 「何すんのよっ! エロ仙人っ!」 バチ〜ン、と振り返りざま、犯人の頬をひっぱたく。 「つれないのォ。そんな短いスカート穿いてお尻フリフリされては、誘われてるとしか思えんのォ」 赤くなった頬を撫でながら、鼻の下を伸ばす自来也。 「まったく・・・オマエはいつもいつも懲りないねぇ」 自来也の向かいに座る綱手が呆れて息を吐き、その隣のシズネが苦笑いをしていた。 「もだよ。挑発的な格好はやめときなって。ここは花街じゃないんだよ?」 「5代目には仰られたくないです〜。5代目だって、随分挑発的ですよ? こっちはまだ若いんです! ピチピチのハタチですから!」 「言うねぇ。フン、まぁいい。、酒追加だ! じゃんじゃん持ってきな!」 「は〜い。まいどあり〜」 忙しなく駆け回りながら、はきょろきょろと客の顔を確認する。 「はたけさん、お待たせ〜♪ お味噌汁、茄子にしてもらったよ。スペシャルねv 高いわよ〜」 また周囲を確認しながら、カカシの前に食事を置く。 「ハハハ。ありがと〜、ちゃん。誰か捜してるの? ゲの付く人なら、来てないよ」 美味しそうだ、いただきます、と割り箸を割るカカシ。 「な〜んだぁ。この店が馴染みだって言うから、仕事入る時間増やしたのに〜」 ちぇ、とは口を尖らせる。 「その後首尾はどうなの? ゲンマ君、変わった?」 「ぜ〜んぜん。脈ナシで〜。いっつもかわされちゃってて〜」 「そっかぁ。頑張ってね」 「モッチロン! 絶対、オトすわよ〜!」 握り拳で、炎を背負っただった。 そう、は、ゲンマが好きだった。 10代の頃は雑貨屋で働いていたは、もっと収入の良い仕事を、と本屋で求人情報誌を見ていたら、ゲンマにばったり会ったのだった。 以前から雑貨屋に時折来るゲンマを見ては、カッコイイなぁ、と思っていたは、これ幸い、お近づきしよう、と、積極果敢に、仕事の斡旋をお願いしてみたのだった。 そこで手が足りていないという今の店を紹介され、ゲンマも馴染みでよく来ると言うことで、ソッコー面接を申し込み、即採用されたのだった。 その時、店のドアが開いた。 噂をすれば何とやら、そのゲンマが入ってきた。 「あっ、ゲンマさんだv やっほ〜v」 ぴょんぴょんと、元気よく手を振ってアピールする。 しかしゲンマは、軽く、おぅ、と返しただけで、素通りしていったのだった。 「もうっ。相変わらず素っ気ないんだからぁ!」 ゲンマは綱手の元へ行き、腰を屈め、何やらひそひそ話していた。 その後もずっと綱手と話を続け、終わって一礼すると、また素通りしていこうとした。 「ちょっと、ゲンマさんっ! 食べてかないの?!」 ぐいぐい、と腕を引っ張って足止めする。 これ見よがしに、豊満な胸を押し付けてみせる。 「悪ィ。まだ仕事中だ。また今度な」 しかしゲンマは相変わらずの無表情で、やんわりとを引き剥がし、帰って行ったのだった。 「あ〜ん・・・」 「しょうがないじゃない、まだ仕事中じゃ。チャンスはいくらでもあるでしょ。ね?」 がっかりしているを、カカシは慰めた。 「ちなみにオレはどぉ? お買い得だよ?」 「私はゲンマさんが好きなのっ! いつも無表情で無愛想な感じだけど、根は優しいんだから!」 「それは知ってるけど・・・」 「野良猫に餌をあげたりとか〜、濡れそぼって帰ってたら傘を貸してくれたりとか〜、お客さんに絡まれた時に助けてくれたりとか〜、街でガラの悪いヤツに誘われた時に庇ってくれたりとか〜、とにかく一杯一杯優しくしてくれるのに、アピールすると脈ナシってどういう事なの?! ねぇはたけさん、ゲンマさんって、彼女いないよね? 好きな人とかいるとか聞いてる?!」 「う〜ん・・・ゲンマ君って、色っぽい話は全然聞かないんだよねぇ。ねぇちゃん、ゲンマ君って29だよ? ちゃんはハタチでしょ? 9つも離れてるのに、そういうの気にしないの?」 味噌汁の最後の一口を飲み干したカカシは、に尋ねた。 「年なんてカンケー無いでしょ? そこに愛があればv」 「でも、いくら同じ20代でも、ピンとキリだしさ、ゲンマ君は気にするんじゃないかな。オレでも思っちゃうモン。犯罪かも、って」 「私が若いのがいけないのぉ? ピチピチの若い彼女なんて、自慢できるモノじゃないの?」 「それは若者の考え方だね。後オジサン。オレ達みたいな中途半端は、気にするよ」 でもま、オレは応援してるから頑張って、とカカシは席を立つ。 「あっ、まいど! はたけさん、ゲンマさんの女関係、調べてちょ〜だい!」 会計を済ませて帰るカカシは、多分何も出てこないと思うよ、と笑って去った。 宵闇の中、とっぷり暮れては家路を急ぐ。 秋も深まり、すっかり寒かった。 「あ〜ぁ、明日は来てくれるかなぁ、ゲンマさん・・・」 もっとアピールしなきゃ、とは色々思案する。 「若いことは取り柄だと思ってたんだけどなぁ。男の人って若いコ好きでしょ〜? エロ仙人・・・じゃない、自来也さんとかそうだし。店のお客さんも、ちやほやしてくれるのにさ。ゲンマさんは違うの? ただでさえ忍びと一般人で差があるのに、私の方からどんどんアピールしないと、目もくれないんだもん。そんなに対象外なのかなぁ・・・」 でもそのストイックなトコがまたカッコイイんだよね〜、とは顔がにやける。 「よっし、明日からまた頑張るぞ〜!」 は気合いを入れて、闇の中叫んだ。 「えらく勇ましいな、おい。夜中に近所迷惑だぜ」 の前に影が降り立つ。 物音を立てないそれは、月夜に照らされたゲンマだった。 「ゲンマさん・・・!」 が驚いて見上げると、いつもくわえている千本を上下させながら、顔をしかめていた。 「ったく・・・仕事頑張るのは結構だが、オマエ入れすぎだよ。いくら若いっつったって、働き過ぎだ。前にも言っただろうが、夜は危ねぇから、働くんなら昼間にしとけって」 「だってぇ、夜は人が足りないの! 私もう成人してるんだから、夜だって働けるでしょ、今までと違って!」 「若ぇ女が、寝静まった夜中に1人で帰るのは問題だって言ってんだよ。また暴漢に襲われても知らねぇぞ」 ほら、送ってってやるから、とゲンマは手をポケットに突っ込んだまま、先を顎で促した。 「えへへ。そしたらまたゲンマさんが助けてくれるんでしょ?」 は嬉しそうに、ゲンマの腕に絡み付いた。 豊満な胸をむにゅっと押し付け、反応を伺う。 「バ〜カ。オレは便利屋じゃねぇんだ。探知機でもねぇ限り、そうそう必ずオマエのピンチに現れるか」 けろりとして、ゲンマは無表情のままだ。 ちぇ、とは膨れる。 「でも〜、いつも助けてくれるじゃない。きっと赤い糸で結ばれてるんだよ♪ ねぇねぇ、明日はウチに食べに来てよ〜?」 「たまたま偶然だっつの。赤い糸なんてくだらねぇモン、信じてねぇよ。案外ガキだな、オマエ」 気が向いたら行く、とゲンマはさらりと受け流す。 「む。ガキじゃないよ。乙女と言って!」 「けっ。乳離れしきってねぇオコチャマが、いっぱしぶんな」 「ひっど〜い! 皆に言いふらしてやる〜! 不知火ゲンマが乙女の純情を踏みにじったって〜! モガ」 わ〜、とは大声で叫ぶ。 「バカッ。近所迷惑だっつっただろ。夜遅ぇんだ、静かにしろ」 ゲンマはの口を塞ぎ、抑え込んだ。 イタズラ心の働くは、ゲンマが塞いでいる手を、ぺろりと舐めた。 「何す・・・」 咄嗟にゲンマが手を離すと、はまた叫んだ。 「キャ〜、チカ〜ン!」 「ふざけんなっ。いい加減黙れ」 ゲンマはの口をしっかりと塞ぎ、抱え上げると、夜空を駆けていった。 のアパートまで来て、しゅたっと音も立てずに降りる。 「も〜、苦しかったぁ。息が止まるかと思ったじゃない。人殺し〜」 「ふざけろ、テメェ。オマエが妙なこと言うからだろうが」 ゲンマの鋭い瞳が、真っ直ぐを射抜いた。 「きゃ〜、ゲンマさんカッコイ〜v もっと睨んでv」 「アホか、オマエは。馬鹿やってねぇで、サッサと寝ろ」 「あ、ねぇねぇ、ゲンマさん。送ってもらったお礼に、お茶くらい飲んでってよ」 胸の谷間にゲンマの腕を挟み、しっかりとしがみついて上目遣いに請うた。 「夜更けに男を軽々しく家に上げるな。もっと貞操観念持てよな。オヤスミ、」 やんわりとを引き剥がしたゲンマは、ポンポン、との頭を撫で、夜空を駆けて戻っていった。 「ちぇ〜。もう少し作戦練らないとダメかぁ」 ゲンマの姿を闇夜に見送っていると、ふとは思った。 「アレ? ゲンマさんの職場ってアカデミーだよね? 店からこっちって、今ゲンマさんが行った方向とは正反対だよね? もしかして・・・わざわざ送ってくれる為に来てくれたの?」 そう思うと途端に嬉しくなって、はにやけ顔が止まらなかった。 風呂に入ったら次の落とし作戦を考えよう、とは浮かれ気分で家の中に入った。 ある日の昼時。 昼食を摂りに来る連中で、夜とはまた別の意味で忙しかった。 駆け回っていると、見慣れない客が入ってきた。 「・・・アレ? 何処かで見たことがあるような気も・・・」 3人の中で、一番小さい茶髪の少年。 あの大きな瓢箪には、見覚えがある。 初夏の頃、里でちょくちょく見掛けたような。 最後に自来也が入ってくる。 「ここの食事は儂のオススメだのォ。好きなモン食って良いぞ」 丁度空いたカウンターに、4人並んで座った。 「エロ仙人・・・じゃなかった、自来也さん、いらっしゃい。何にする?」 はそれぞれにお茶を出しながら、注文を訊いた。 「儂はいつものだのォ。オマエさん達は何にするかのォ?」 「・・・任せる」 「私も我愛羅と同じで」 「オレも同じでいいじゃん」 「じゃ、4人とも、自来也さんと同じで、秋の味覚丸ごとセットでいいですか?」 「任せたのォ、」 「は〜い、まいど。秋の味覚、4つ入りま〜す!」 奥の厨房から、へ〜い、と返事が聞こえる。 ピークを過ぎ、客足も落ち着いてきていた。 「アレ? その額当てって・・・砂? このコ達、砂の忍びなの?」 「そうだのォ。は中忍試験の本戦は観とらんか」 「あ、ゲンマさんが審判だったヤツでしょ? 観に行きたいってゲンマさんに言ったら、危ないからダメって言われたの。その後、あんな事になっちゃったでしょ? 砂って確か、木の葉と同盟結んでるんだよね? あ、もしかしてこのコ達、それに出てたの?」 「そうだのォ」 「街中では見掛けたことある気はするんだ。その瓢箪、一度見たら忘れないモン。アレ、でも何で今ここにいるの?」 里に帰ってないの? とは疑問に思う。 「いや、ちょっとした任務で、こやつらに助けてもらってのォ。にはよく分からん話かも知れんが、今、木の葉は危機に瀕しとるんだ。それを力を貸して貰ったんだのォ。持ち直すまで、木の葉を守るように頼んであるんだのォ」 「へ〜ぇ。任務とか同盟とか、忍びの世界のことはよく分からないけど、任務ご苦労様v ウチの美味しいご飯食べて、力つけてねv」 はニッコリ微笑んで、砂の三兄弟を見遣った。 「こらこら、仮にもオマエさんは忍び里の民だろう? それに、ゲンマを狙っとるんなら、忍びの世界も勉強しないとイカンのォ」 「あ、えへへ。そうだよね。自来也さん、今度ゆっくり教えて?」 カウンター越しに、は微笑む。 豊満な胸が上に載り、大きく襟ぐりの開いた服を着ている為、谷間が強調された。 自来也が喜んだのは当然だった。 「儂は構わんがのォ。どれ・・・手取り足取り、腰取りの・・・」 「馬鹿なこと言ってないで下さい。、頼むんならもうちっと人選べ」 がらりと開いたドアの所に、呆れ顔のゲンマが立っている。 「あっ、ゲンマさんv」 「伝説の三忍つかまえて、冷たい言いぐさだのォ。オマエさんやカカシからは、どうも尊敬の念を感じないのォ」 「それに値する行動を取って下さいよ。それより、砂のガキ共連れて、どうしたんです。5代目からお守りでも言いつかったんですか?」 我愛羅達を見下ろすゲンマは、不思議な組み合わせに、自来也に尋ねた。 「お守りとは、言ってくれるじゃん、試験官が」 「何だ、棄権野郎が」 「くっ・・・」 「冷静になりなって、カンクロウ。我愛羅が美味い飯屋に連れてけって言うから、新しい火影に頼んだらコイツが案内してくれてるんだよ」 冷静にゲンマを見上げて見定める我愛羅を、ゲンマは冷ややかに一瞥した。 蠢く流砂がゲンマを見定める。 コイツは強い、と。 成り行きを見守っていたら、食事が出来上がってきたので、その場を収めようと、は並べていった。 「は〜い、お腹が空くと、機嫌が悪くなるってね。美味しいご飯食べて、お腹も心も満腹になってね〜」 香しい匂いに空腹のくすぐられる三兄弟は、取り敢えず忘れ、食べることに専念した。 「秋の味覚セットか。オレもそれでいい。、同じモンオレにもくれ」 追加入りま〜す、スペシャルで〜、とは元気よく叫ぶ。 「、この人に何を頼んでたんだ?」 千本を置き、お茶を含みながらゲンマはを見遣る。 「あのね、木の葉のこととか、忍びのこととか、世界のこと、この里に住んでいながら知らないこと多いから、お勉強しようかなって」 「ま、良い心がけだな。どうせ頼むんなら、カカシ上忍の方が良いだろうが」 「何ではたけさんがここに出てくるの?」 「何でって、親しいだろ? この人じゃ話が脱線しまくるから、カカシ上忍に頼めよ」 よく一緒に喋ってるじゃねぇか、とゲンマは飄々と言い放つ。 「え〜、ゲンマさんの方が良いなぁ〜」 何でオレが教えてやるって言ってくれないんだろ、とは寂しくなる。 「オレは別に構わねぇが・・・オレよりカカシ上忍の方が話し上手だと思うぜ」 やっぱり別の人に押し付けようとしてる、そんなに私のことイヤ? とはしょんぼりする。 が、はこれくらいではめげなかった。 「特別上忍職のオマエさんが何を言うんかのォ。口上は得意だろう?」 「イヤ・・・まぁ・・・」 はカウンターの上に覆い被さり、ゲンマの眼前で、豊満な胸の谷間を強調して見せて、モーションを掛ける。 「ね? ゲンマさん・・・オ・ネ・ガ・イv」 その時、ゲンマの食事が出来たことを告げる厨房の声が上がった。 「秋の味覚、追加上がり〜!」 「ほら、仕事しろ、仕事」 ゲンマは相手にせず、シッシッ、と手を振った。 「ヒッドイ! いいもん、はたけさんにゲンマさんの弱点訊いて、言いふらしてやる!」 はい、と乱暴には食事をゲンマの前に置いた。 「けっ。知られてたまるか。オマエの弱点は肩凝りだろ?」 「はぁ?」 「んなデケェモンあって、肩凝らねぇか? 女は大変だな」 けろりとして、ゲンマは味噌汁に口を付け、かぼちゃを口に放り込んだ。 「・・・っ、ゲンマさんって、隠れスケベ? 自来也さんのオープンスケベの方がマシね! むっつり〜!」 「誰がだ、コラ」 「し〜らぬ〜いゲ〜ンマ〜はかく〜れスケ〜ベ〜♪」 「変な歌唄うんじゃねぇ。飯が不味くなる」 「、ゲンマに変なことされんように気を付けるんだのォ」 ニヤニヤと、自来也は成り行きを見守る。 「や〜ん、ゲンマさんならされてもいいかも〜っv」 あ〜んなことやこ〜んなこと〜、とは頬を染める。 「儂の本を読むといいんだのォ」 「買ってきたらサインしてくれます〜?」 「勿論だのォ」 「妙なこと言ってんじゃねぇ。アナタも、におかしな事仰らんで下さいよ」 栗ご飯を頬張りながら、ゲンマは眉を寄せて吐き捨てる。 「はて? おかしな事とは何かのォ?」 「はまだ若いんです。好奇心旺盛なんですから、年相応でないことは吹き込まんで下さい」 「ハタチは大人よ!」 「オレから見たらガキだっつの」 「自来也さんの本も読めるし、お酒だって飲めるんだから!」 「オレが言ってるのは精神年齢だ。オコチャマがほざくな」 「ヒッド〜イ、ゲンマさんって、何でいつも私に意地悪なの〜?」 わ〜ん、とは泣き出した。 勿論、ゲンマを惑わす為の、泣き真似だったが。 「あ〜ぁ、可愛いおなごを泣かせて、酷い男だのォ」 「違・・・っ、がこれくらいで泣くとは思わなくて・・・」 えぐえぐ泣きじゃくるを見て、ゲンマはやりすぎたか、と胸を痛め、後悔した。 「ゲンマよ、オマエさん、何様のつもりだのォ? 女を泣かせていいのは、愛し合う者同士だけだのォ。の何のつもりだのォ?」 「それは・・・」 ゲンマが言い淀んでいる時、ちらっとがゲンマを盗み見た。 「あっ、テメッ、泣き真似だったな、コノヤロウ!」 「や〜ん。バレちゃった」 ぺろ、とは舌を出す。 「、イカンのォ。いいところだったのを・・・」 「ったく・・・」 がっと残りをかっ込んだゲンマは、代金をカウンターに置くと、サッサと出て行った。 「ほっほ。照れとる、照れとる」 「そぉ? 効き目あったかな?」 てへ、と舌を出す。 「・・・アンタ、あの試験官が好きなのか・・・」 食べ終わって眺めていた我愛羅が、ふと呟く。 「あ、分かっちゃった? カッコイイでしょ〜っ?v ダ〜イスキv」 きゃ〜、言っちゃった〜、とは跳ね回る。 「それは、愛していると言うことか?」 「そ〜よ〜v 愛や恋って、女のコを強くするんだからv 分かるでしょ? えと、テマリちゃん?」 隣のテマリを伺う。 「ん〜・・・まぁ・・・」 頬を染めて、テマリは視線を泳がせた。 「あ、その顔は、さては好きなコいるな? 誰々? 実は木の葉にいたりしてv」 それで帰れないのも嬉しかったり? とは恋愛話が楽しそうだ。 「バッ・・・んな訳あるか!!」 「テマリ、真っ赤じゃん? まさか、あの中忍になったヤツに惚れたのか?」 「違うって言ってるだろう!」 「テマリも愛を知ってるのか・・・? オレにも教えてくれるか・・・?」 「あら、我愛羅君、もう貰ってるでしょ? 兄弟愛。助けてくれたりしてるでしょ? 違う?」 「それが・・・愛?」 「そうよ〜。私は幼い頃に家族を失ったから、肉親の愛情って殆ど分からないけど、友達とかがくれる友情だって、愛だしね。気付きにくいけど、いつか分かるようになるよ、きっと」 ね、とは我愛羅に微笑む。 「そうなのか・・・? オマエ達・・・」 「当たり前だろ、兄弟なんだから」 「そうか・・・」 「皆、まだ木の葉にいるんなら、いつでも食べに来てねv」 サービスするよ、とは微笑んだ。 「また来るのォ、。さて、オマエさん達、次は何処に行くかのォ?」 ワイワイと、自来也達は帰って行った。 任務帰りのカカシは、いつものように慰霊碑に行き、神妙に語りかけ、その足で食事処にやってきたが、店の前まで来ると、顔を叩いて気持ちを入れ替え、笑顔で暖簾を潜った。 「あっ、はたけさん、いらっしゃい」 「コンバンワ、ちゃん」 先程までの神妙さは何処へやら、ニッコリと微笑む。 「カウンターしか空いてないんだ〜。いいかな」 「オレ1人だからどこでもいいよ。いつものね」 「は〜い。焼き魚、一丁! スペシャルでお願いしま〜す!」 「あいよ〜!」 スペシャルとは、味噌汁の具に茄子を入れたモノである。 定食によってスペシャルの意味合いが変わってくるが、焼き魚の場合、茄子、であった。 ちなみに、秋の味覚、スペシャル、と言うと、かぼちゃの煮物が大盛りで出てくる。 「どう? あれから、少しは変わった?」 「全然ですよ〜。はたけさ〜ん、ゲンマさんの弱点って何?」 敵は強大だよ〜、とは息を吐く。 「何だろうなぁ・・・? オレの目から見ても、ゲンマ君って何の欠点もない、優秀な忍びなんだよね。仕事柄特別上忍だけど、実力的に、オレとそんなに劣る訳じゃないし。私生活までは、詳しくないからねぇ。ま、お互いの誕生日に贈り物しあってはいるけど、それ以上深入りはしてないからなぁ。酒の席でも設けてみようかなぁ」 「ゲンマさんと飲むの? 私も行きたいっ」 「じゃ、オレはゲンマ君を誘うから、ちゃんは偶然居合わせたことにしよっか? ちゃんも一緒だって言ったら、ゲンマ君来ないかも知れないし」 「そんなに私のこと迷惑なのかな・・・」 はしゅんとして、俯いた。 「そうじゃないよ。ゲンマ君は、ちゃんのこと、大事に思ってるんだよ。大切に思ってるから、危ない目に遭わせたくないから、色々煩く言うんだよ」 「ホント・・・?」 「ゲンマ君って、天の邪鬼だからね。子供の頃からそう。案外、好きなコには意地悪するタイプかもよ」 「ゲンマさんがぁ? まっさかぁ」 「ゲンマ君だって若い独身の男だもん。ちゃんみたいに魅力的で可愛い女のコを前にして、何の気も起きない訳無いって」 「え〜、それって〜、はたけさんもってこと〜?」 じと〜、とはあからさまに後退った。 「ハハ。邪な気持ちはないけど、一緒にお喋りできるのは嬉しいよ。ちゃんはハキハキして元気が良いし、パワーを貰ってる感じ。だから、ゲンマ君もそうかなって」 「よっし・・・! 酔っぱらってへべれけになって、ゲンマさんに迫っちゃおう! ゲンマさんだって、酔って気が大きくなるだろうしね! はたけさん、セッティング宜しくね!」 そう言っては意気揚々と、仕事に戻った。 「あ、ちゃ・・・! ま、いっか。ゲンマ君は酒が強いって、その時になれば分かるしね」 ゲンマの酔ったトコ見てみたい、とゲンマに酒で勝ったことのないカカシは別の意味で燃えていた。 「ったく・・・何でカカシのヤツ、2人で呑もうなんて言うんだ? またいつぞやのリターンマッチか?」 ある日、カカシに呑みに誘われたゲンマは、仕事を終わらせると、待ち合わせの酒酒屋に向かった。 酒が嫌いな訳ではないゲンマは、断る理由もないし、と承諾し、暖簾を潜っている。 「先に始めてるって・・・何処だ?」 「お〜い、ゲンマく〜ん! 此処此処!」 座敷席からカカシが顔を出し、手を振っている。 「座敷? 2人でか? それとも他に呼んだか・・・?」 怪訝に思いながら、ゲンマは座敷席に向かった。 「「いらっしゃ〜いv 待ってたよぉv」」 ハモった声に、ゲンマは眉を寄せる。 「何でがいる・・? オレはてっきり、アスマやガイがいるのかと・・・」 「アスマは紅と2人っきり〜v だよ。ガイは弱いでしょ、酒。一緒に呑んでもつまらないモン。来る途中にちゃんに会ったから、誘っちゃった。いいでしょ?」 「別に構いませんが・・・」 「ゲンマさんはこっちィv 私の隣ねv 呑も呑もv」 既に始めていたとカカシは、少し酔いが回り始めていた。 「オマエ、もう酔ってるな。飲み過ぎんなよ」 「だぁ〜いじょぉぶ〜v ゲンマさんに送ってもらうモンv」 隣に座ったゲンマの腕を引っ張り、しがみつく。 ミニスカートが、しなやかな脚で誘っていた。 「馬鹿言ってんな」 のグラスが空いたので、注文し、カカシとゲンマの分の酒の追加をした。 乾杯をし、一気に飲み干す。 「じゃ、飲み比べしようよ、ゲンマ君。春の飲み会の、リターンマッチね。勝った方が、ちゃんを家まで送っていくの。いいでしょ?」 ホラホラ呑んで、とカカシはどんどんお猪口に熱燗を注ぐ。 「何言ってんです。今まで一度もオレに勝ったことないじゃないですか。オレにを送らせようって魂胆ですか?」 クィ、と飲み干しながら、ゲンマは吐き捨てた。 「何言ってんのよ〜。オレ、ちゃんのこと狙ってるんだモンv 今日は勝ちに行くからね〜」 「な・・・」 じゃんじゃん行こ〜、とカカシは酒を追加する。 「アナタがオレに勝てる訳無いでしょ。に邪な思い抱えてる輩には任せられませんね」 グイグイとゲンマは空けていく。 「そんなこと分からないじゃない。オレがその気になれば、色んな方法があるからね♪」 「な・・・まさか・・・」 「幻術使うとか、こっそり一服盛るとかね♪」 「そんなの・・・っ、オレがアナタに敵う訳ないじゃないですか!」 「だ〜か〜らぁ、隙を作っちゃダメだよ? オレ、虎視眈々と機会狙ってるからね?」 「ったく・・・」 一触即発で、飲み比べは続いた。 「ゲンマしゃ〜ん、頑張って〜v」 でろでろと酔っぱらったは、ゲンマに身を預けていた。 「オマエは飲み過ぎだ! 料理食え! 飯屋の店員なら勉強しろ!」 「食べてるも〜ん。ウチがいっちば〜ん!」 ご機嫌では酒を飲み干す。 大分正体を失いかけている。 「ゲンマ君さ〜、そんなにべったり抱きつかれて、変な気起こさない?」 豊満な胸を押し付けられ、滑らかな肢体が絡み付く。 「別に。色事の訓練で慣れてますから。これしきのことで動揺する訳無いでしょ」 「ストイックだなぁ。オレだったら、好意持ってくれてるコにそんなことされたら、嬉しいけどなぁ」 ゲンマは黙って、酒を飲み干す。 「・・・気付いてるんでしょ? ちゃんの気持ち」 チラ、とカカシはゲンマを伺う。 しかし相変わらず黙したまま、エビチリを口に運ぶ。 「・・・大人に憧れる、恋に恋してるってヤツですよ。若い頃の好いた惚れたなんて、ハシカと同じで、すぐに引きますよ」 無表情で、酒を口に運ぶ。 「何とも思ってないの? ちゃんのこと」 可愛いコじゃない、とカカシも酒を飲み干す。 どんどんお銚子が転がっていった。 「危なっかしくて、オレが見ていないと、どんどん危険な方に行きますからね。注意してやらないと、いつか痛い目を見ますから。兄貴みたいなモンですよ」 「恋愛対象には見てないの?」 「だって、オレの年じゃ、犯罪モンでしょうが」 「同じ20代じゃないさ。何を気にする必要があるの?」 「それは・・・」 気が付くと、は身体中が真っ赤に染まって、ゲンマの膝の上でスースーと眠っていた。 ふぅ、と息を吐くと、ゲンマはベストを脱いでにかけてやった。 を見つめるゲンマの目が、肉親的な情と言うより、男としての愛慕に似た眼差しだったので、これならいいか、とカカシは思った。 その後も2人で、飲み比べは続く。 「ゲンマ君だって、ホントはちゃんのこと好きなんでしょ?」 「だから、何度も言ってますけど、肉親の情ですって!」 「ま〜たまたぁ。いっつも、反対方向の家のちゃんを心配して、わざわざ遠回りして帰ってる癖に〜!」 「何で知ってるんです!」 「よく見掛けるもんね〜」 の話題でひとしきり盛り上がった後は、忍びらしく、木の葉のこの先のことについてや、遡って、一緒に過ごしたアカデミーの話まで、喋り尽くし、飲み倒した。 「も〜っ、ゲンマ君って、何れほんらに酒強いろ?!」 へべれけのカカシは、酔いで回らなくなった口で呟いた。 「不知火家は、代々酒豪ですからね。一つくらい、アナタに勝てるモンがないと、年上のメンツに欠けますから」 「いつもは酒で勝っても嬉しくないって言う癖に〜!」 「じゃ、約束通り、はオレが送っていきますんで。勘定は、負けた方が払うって事で。それじゃ」 ゲンマはをおんぶし、立ち上がった。 「それはいいけど・・・送り狼になるんだよ、ゲンマ君〜」 「何ふざけたこと言ってんですか。普通、ならないように、って言うんですよ!」 「あはは。じゃ〜ね〜」 「ったく・・・」 夜も大分更け、しんと静まりかえった道を、ゲンマはを背に、歩いて帰った。 「むにゃむにゃ・・・ゲンマしゃん・・・ダ〜イスキ・・・」 平静を装っているゲンマ。 だが、実は、内心かなり焦っていることを、誰も知らない。 「畜生・・・カカシのヤツ、幻術かけやがったな・・・」 ゲンマも、それに気が付かない。 のアパート前まで来て、を下ろして立たせようとするが、腰砕けのは、しゃがみ込んでしまう。 ミニスカートから白いモノが見えて、ゲンマは気まずそうに視線を逸らす。 「ホラ、起きろ。家着いたぞ。鍵出せって」 「う〜ん・・・むにゃ・・・」 ゲンマにしなだれかかって、は起きる気配がない。 「ったく、しょうがねぇな。勝手に探すぞ」 ゲンマはの鞄を漁って鍵を出し、開けて中に入った。 1DKのさほど広くない部屋。 抱き抱えていたをベッドに寝かせ、鞄をドレッサーの前に置いた。 「ゲンマしゃん・・・ダ〜イスキ・・・」 幸せな夢を見ているかのようなを見つめる。 「・・・オレの何処がそんなに良い? 教えてくれよ・・・」 朱に染まった顔、しなやかな肢体。 もぞもぞ、とが動く度に、ゲンマは理性をかき乱されていた。 からぶつけられる感情。 軽くかわしてきた。 兄か父親のつもりでいた。 だが、そうではないことに、気付かされる。 に胸を押し付けられた時。 谷間やすらりと長い脚を見せつけられた時。 その時にわき出す感情を、ゲンマは気が付かなかった。 ずっと分からなかった。 焦っている自分を。 自分の中に入り込んでくる感情を。 を。 「畜生・・・やっぱりカカシのヤツ、オレに幻術かけたんだ・・・」 その気持ちが何なのか、忍びとしての感情では分かっていた。 だが、男としての自分は、認められずにいた。 を見ていると、湧いてくる、この感情。 「オレ・・・を好きなのか・・・?」 やっぱりカカシの幻術だ、とゲンマは無理矢理思いこむ。 「ん・・・」 「水飲ませた方が良いな・・・」 我に返り、台所に行って、水を一杯入れてくる。 「ホラ、、酔い覚ましだ。水飲め」 「う〜ん・・・」 ゲンマはを抱き起こし、コップを口に付ける。 だがは飲もうとしない。 ゲンマは、泥酔状態のに誘われて、理性が飛びかかっていた。 何やら思案する。 おもむろに、ゲンマはコップの水を口に含んだ。 を見つめ、コップを置いて千本を口から抜き取り、覆い被さる。 『ホラ、飲め・・・』 ゲンマは口移しで、に水を飲ませた。 長い長い時間。 それは、出会ってから今まで育んできた、への感情。 「今度からは、もうちっと大人になるようにするからな・・・今まで、大人げなくて、悪かった」 眠りの淵から起きてこないに、柔らかく囁く。 何やら考え込むゲンマは、の耳元で、そっと一言囁く。 聞こえない程度に。 「ま、これは全てカカシの幻術だからな。明日になったら醒めてるさ」 深く考えず、ゲンマはの家を後にした。 「ゲンマさん・・・大好きだよ・・・」 冬の近付いた薄い青空から射し込む陽光で、は目を覚ます。 「むにゃ・・・良い夢見てたなぁ。ゲンマさんに、愛してるよって言われてキスしちゃった。現実にならないかなぁ・・・」 そう言えば、飲み会の後はどうなったんだろう、と考え込む。 「途中で潰れちゃったからなぁ。でも、ゲンマさんが送ってくれたんだよね? あ〜ぁ、酔いに任せて誘う作戦がパーだよ。服着てるし〜。失敗だよ〜。私弱すぎ! も少し加減覚えなくっちゃ」 今度は2人っきりで呑みに行こう、とるんるん気分でシャワーを浴びに行った。 一方のゲンマは、林での朝修行に、煩悩を振り切るので精一杯だった。 「おかしい・・・カカシの幻術が解けねぇ・・・何でだ?」 「どしたのゲンマ君?」 慰霊碑から帰ってきたカカシが、飄々とゲンマの元へやってくる。 「カカシ上忍・・・昨夜、オレに幻術かけたでしょう? 解いて下さいよ」 鋭い瞳で、カカシを射抜く。 「え? オレ、何もしてないよ。やっぱりフェアに、って思ったから」 きょとんとして、カカシは言い放つ。 「え・・・っ」 途端に、みるみる真っ赤になるゲンマ。 「どうしたのさ〜、ゲンマく〜ん。ねぇってば〜」 「知りません!」 ゲンマと、2人に訪れた恋に幸あれ。 END. これは、にっぴ58あや様に捧げる、個人的お礼リクです。 |