【飴と鞭】







 カカシはうなされていた。

 夢の中で、修羅の道を歩いていた。

 血にまみれることも厭わずに。





 酷い汗をかきながら目を覚ますと、カカシは見知らぬ所にいた。

 白い壁と天井。

 鼻をつく独特の匂い。

 洗いざらしのシーツと布団。

「何処だ? 此処・・・」

 上体を起こそうとするが、妙にだるくて身体に力が入らない。

身体が熱い。

 頭が朦朧とする。

 虚ろな意識の中、ノックされる音がした。

「失礼しま〜す」

 扉を開けて入ってきたのは、白衣の天使。

 甘く柔らかい声が、うっすらと耳に入ってきた。

「あ、目が覚めた? 良かった、丸一日寝てたのよ。気分はどう?」

「此処、何処・・・? オレはどうしたんだ・・・?」

「やっぱり覚えてないか。キミはね、任務の帰りに倒れて、仲間に運び込まれたのよ。ここは病院。問診票を連れの人に書いてもらったけど、間違いがないか確認してくれる?」

 声からして、女ということは分かる。

 が、意識が朦朧として、姿形までは把握できなかった。

 その声は聞いたことも無い程優しく、甘美だった。

「病院・・・? オレ、倒れたのか? 何で・・・?」

「えっと。名前は、はたけカカシ君。17歳ね。職業は木の葉の里の忍び。まぁ有名よね。キミの病名は、インフルエンザよ。今、巷で流行ってるからね。前からずっとかなり無理してきたでしょ。相当悪化してるわよ。里一のエリートとかって有名だけど、所詮人の子なのね。エリート忍者もインフルエンザには勝てないか」

 クスクス、と看護婦らしき女は笑う。

「私はキミの担当看護婦よ。、23歳ね。って呼んでv」

「インフルエンザ・・・? 通りで頭がスッキリしない・・・」

 気だるげに腕を見ると、点滴の管が刺さっている。

「これ、体温計。くわえてね。その間に血圧も測るから」

 おもむろにはカカシの顎を掴み、口の中に体温計を挿入する。

 の手はひんやりとして火照った身体に心地好い。

 血圧を測り終わると、体温計もアラームが鳴った。

「まだ40℃近くあるね。もうすぐ昼食だから、食べられたら食べて、抗生剤と解熱剤のお薬飲もう。そして眠って、夕食時になっても熱が下がらないようなら、ドクターの指示を仰ごうね」

 の声の柔らかさが、苦しさを幾分和らげさせた。

「あの・・・医療班の誰か呼んでもらえる?」

って呼んでって言ったでしょ? なぁに?」

「オレは、こんな所で呑気に寝てる場合じゃないんだ。任務がある。何とか手っ取り早く治してもらえないかな?」

「ダメよ」

「え・・・何で?」

「キミは、過労でもあるの。若いからと言って、無理しすぎてるのよ。火影様のご命令なの。カカシ君はずっと無理しすぎてきてるから、当分の間休養を命ぜられてるわ。病院でじっくり治して、この際だからゆっくりしなさい。いいわね?」

「そんな訳には行かないよ」

「ダ〜メ! 3代目のご命令って言ったでしょ。例え抜け出しても、キミには当分任務は課せられないわよ」

「そんな・・・」

「いい機会じゃない。ゆっくりしたことなんて無いんでしょ? 神様がくれたお休みだと思って、のんびり養生して。私も看病するからv」

 がニッコリ微笑むと、昼食が運ばれて来た。

「カカシ君、食べられる?」

「・・・食べたくない。食欲無い」

「点滴で栄養は補給してるけど、ちょっと胃に入れないと、お薬飲めないわよ。起きて・・・って、起きられないか。熱が高いもんね。どうしよっか・・・」

 ん〜、とは考え込む。

「食べさせてあげるv」

 お粥の器を手に取ったは、蓮華で掬い、ふ〜ふ〜と冷ました。

「寝たままじゃ消化によくないけど、しょうがないよね。はい、ア〜ンしてv」

 蓮華をカカシの口に近付ける。

「い・・・いいよ・・・」

 照れるカカシは、目を逸らす。

「ダ〜メ。ちょっとでもいいから、食べて?」

 渋々カカシは受け入れる。

 熱さが喉とぼやけた意識を刺激した。

「ハイ、次。ア〜ンv」

 照れながら少量のおかゆを食べたカカシは、処方された薬を飲むと、再び眠りについた。







 夕方、夕食が運ばれて来てうっすらと目を覚ましたカカシは、幾分苦しさは軽減したが、まだ身体が火照るように熱かった。

 食後暫くして検温に来たは、測り終えた体温計を見て唸る。

「あんまり下がってないねぇ。点滴も飲み薬も効き目弱いのかなぁ。下がらなかったから坐薬入れるしかないか。ドクターの許可も得てるしね」

「ざ、坐薬・・・?」

 幾分意識がスッキリしてきたカカシは、改めて自分の担当という看護婦・を見遣る。

 黒髪をまとめ上げ、大きな瞳が印象的だった。

 何より、目を見張る程美しかった。

 が、カカシの目は豊満な胸元に釘付けだった。

『デカイなぁ・・・重そう・・・』

 思春期真っ盛り、お年頃のカカシは、の美しさと豊満な胸を前に、下腹部の疼きを覚えた。

「入れるわよ。さ、横向いて」

 は薄手のゴム手袋を装着していた。

「え・・・何するの?」

「言ったでしょ、坐薬入れるって。ホラ、横を向いて身体丸めて」

 言われるがままにカカシはゆっくりと横を向くと、がおもむろに入院着の上着をたくし上げ、ズボンとパンツを脱がせ始めたのでギョッとした。

「なっ、何するのっ!」

 顔を赤らめるカカシは、上体を起こそうとしたが、まだ身体が重くて思うように動けなかった。

「坐薬入れるのよ。動かないで。坐薬は肛門から入れて、腸で吸収するからよく効くのよ。熱もすぐに下がるわ。力抜いて。入れるわよ」

「ちょ・・・っ」

 何とも言えない挿入感でカカシは変な気分になる。

 自分でも見たことのない部分を美しく若い女に看護婦とは言え見られ、触れられ、指を挿入され、カカシは恥ずかしさで真っ赤になる。

「さ、おしまい。ゆっくり寝てね。多分、一杯汗をかくと思うから、途中で着替えさせに来るわね。オヤスミv」







 眠りを彷徨っている中、カカシは自分が物凄く汗をビッショリとかいているのが分かった。

 熱が放出されていくと共に、身体も軽くなっていった。

 夢の中、誰かが入院着を着替えさせているのが分かった。

『あのって看護婦かな・・・?』

 カカシの身体に触れる手が、柔らかくて優しくて、心地好さを覚える。

『女の手ってこんなに柔らかくて気持ちいいんだ・・・』

 血と殺戮、刃物と殺意しか知らないカカシは、初めて触れる“女”の柔らかさに、心が和らいでいくのを感じた。





 翌朝には、大分スッキリ目が覚めた。

「37℃か。大分下がったね。でも、まだ無茶は出来ないんだから、おとなしくしてるのよ?」

「昨夜・・・着替えさせてくれたの、アンタか・・・?」

「準夜勤だったからね。夜中には帰ったの。今日は日勤。夕方までね。カカシ君、アンタじゃなくて、って呼んでって言ったでしょ?」

 ニコ、とはカカシに微笑みを向ける。

 余りに眩しくて、カカシは直視できずに目を泳がせる。

「呼んでv」

「・・・

「なぁに?」

「世話かける。有り難う」

「うふv どういたしましてv」

 カカシの精一杯だった。

「これが私の仕事だからね。気にしないで、早く治すことだけ考えてね」

 仕事。

 カカシはその言葉に、僅かに痛みを覚えた。

『何だ? 今の・・・当たり前のことじゃないか・・・』

 その時、館内放送がかかった。

“看護婦のさん、さん、いましたらナースコールお願いします”

「あら、私? 何だろ・・・ちょっと借りるね」

 ヨイショ、と身を乗り出したはカカシに覆い被さるようにして、ナースコールを押した。

 の豊満な胸が眼前に迫り、カカシは鼓動が高鳴った。

“ハイ”

です」

“あ、さん、302号室の患者さんが、点滴交換に来てくれって。忙しいところ悪いけど、お願いできる?”

「また? 我が儘ねぇ。誰でもいいじゃない。分かった、行くわ」

“お願いします”

 ドギマギしながら、スタイルの良いの身体のラインを見てカカシは下腹部が疼き出す。

「私の受け持ちの1人なんだけど、私以外の人が行くと拒否するのよ。ホラ、私って美人だからもてるのよねv 何ちゃって。じゃ、カカシ君、おとなしく寝ててね?」

 ニッコリ微笑み、は出て行った。









 昼間、仲間の忍びがカカシの入院道具一式を持ってきて暫く雑談した。

 その中にはカカシの愛読書も入っていた。

 いい機会だからゆっくり休めよ、と同じことを言われる。

 点滴と薬のお陰で、カカシは大分楽になり、夕方には上体を起こすことができるようになっていた。

 夕食後、愛読書を読み耽っていると、病室の扉が開いた。

 勤務を終え、私服に身を包んだだった。

 美しいボディラインを強調した、露出の多い派手な格好だった。

 が、似合っていたのでカカシはゴクリと唾を飲み込みつつ、素知らぬ振りで読書に耽る。

「起きれるようになって良かったわねv でもまだ読書には早いわよ。視神経が疲れて、折角調子よくなってきたのに、ぶり返すわよ。ただでさえキミはいつも片目閉じてるんだから」

 何読んでるの? とは覗き込む。

「あ〜っ、これって18禁じゃない! カカシ君はまだ17歳でしょ?! こんなの読んじゃダメ!」

 まだ早いわよ、とは怒りながら取り上げた。

「あ〜。返してよ〜」

「ダ〜メ。没収!」

のケチ。いいじゃないか〜」

「そんなこと言ってたら、折角良くなるお薬持ってきたのに、あげないぞ?」

「え? 何?」

「うふv 私が治療してあげるv」

 はニッコリ微笑み、カーテンを引いてベッドを覆い隠した。

、ただの看護婦じゃなかったの? 治癒能力持ってるの?」

「特効薬よv」

「早く治りたいんだ、治してよ」

「じゃあ、目を瞑って。力抜いてね・・・」

 言われるままに、カカシは目を瞑る。

 すると、柔らかく甘い感触が唇に触れた。

「な・・・っ?!」

 驚いてカカシは右目を見開く。

「お薬よv」

 は人差し指を唇に当て、妖艶に微笑む。

「なっ、ただの、キキキ、キスじゃないかっ。どこが治療で薬だよっ」

 カカシは真っ赤になって、口を手で覆った。

「うふv 何よりのお薬でしょ? カカシ君が良くなりますように、って念じながらキスしたんだから」

 効き目大よ、とはベッドの上に身を乗り出した。

 豊満な胸がたわわに揺れてカカシの眼前に迫る。

 カカシはゴクリと喉を鳴らした。

「もっかいしてもいい?」

 とろけそうな微笑みで、はカカシの頬をゆっくりと撫でる。

 傷跡をそっとなぞっていく。

 もう一方の手で、カカシの口を覆っている手を剥がした。

 白魚のように細く長い柔らかな指の感触が、カカシの鼓動を早まらせた。

 カカシの答えを待たずに、は再びカカシの唇と己の唇を重ね合わせる。

 未だ状況を把握しきれないカカシは、右目を見開いていたが、の唇の感触の柔らかさと甘美さに、次第に瞳を閉じてを受け入れた。

 先程よりは長い口付け。

 ゆっくりと離れると、は微笑んだ。

「今日の治療はここまでね。またいつかしてあげるv」

 そう言い残して、は下ろした長い黒髪を翻して、病室を後にした。

 カカシは疼きの収まらない下腹部をどうしてくれよう、と暫し悶々としていた。









 翌日の検温にやってきたのは、ではなかった。

「あれ・・・は?」

 オレの担当じゃないの? と代わる看護婦に尋ねる。

「あぁ、さん? 今日は非番よ。お休み」

 だから今日は私が貴方の担当代わりよ、と看護婦は言った。

「明日は来るの?」

「来るわよ。日勤だから、朝からね」

 そう言って看護婦は出て行く。

「何だ・・・いないのか・・・」

 つまんないの、とカカシは天井を見つめる。

「気持ち良かったな・・・昨日のアレ。キスってホントに甘いんだ・・・」

 カカシはそっと唇に触れ、昨日の感触を思い出す。

 看護婦やってるから薬品臭いかと思ったのに、はとても甘い匂いがした。

「香水・・・じゃないよな。看護婦がつける訳ないし」

 自身の匂いか、とカカシはを思い出し、赤くなる。

は・・・どういうつもりであんなことしたんだろ・・・」

 誰にでもしてるのかな、と思ったら、無性に心がざわめいて、落ち着かなかった。

 は、カカシが初めて意識した“女性”。

 色々思考が巡るのは、仕方のないことだった。









 翌日、一日ぶりに会えたは、事務的に仕事をこなしていた。

 カカシへの対応は優しかったが、どこか素っ気なかった。

「ねぇ・・・また“治療”してよ」

 との甘美な口付けが忘れられないカカシは、に請う。

「甘えないの! 私だって忙しいのよ。受け持ちの患者はキミだけじゃないんだからね。男の子でしょ、しっかりしなさい」

 強く言いきると、は病室を後にする。

 その後も点滴の交換や検温に来ても、事務的に対応するだけで、いつもの甘えた感じの妖艶さなど微塵も感じさせなかった。

 カカシは不満たっぷりで、ふて寝した。

・・・・・・』

 せめて夢の中では、と思ったカカシだったが、つれなく無下にされてしまい、却って目覚めが悪かった。









 大分回復したカカシは、時折やってくる巡回をかわしながら、隠れて愛読書を読み耽った。

 没収された他にもまだあったのである。

 読み進みながら、あんなコトやこんなコトもしたい、と想像を巡らせ、身体を熱くさせた。





 夜中に目を覚ましたカカシは、もう一度寝ようとしても、なかなか寝付けなかった。

 何だか身体が火照っている。

 邪な想像のせいか、とカカシは自分を慰める気力も無かった。

 深夜の巡回がやってくる。

 布団を被ってカカシは、寝た振りをした。

「・・・カカシ君?」

 布団の膨らみをライトが照らす。

 聞こえてきたのは、の甘い声。

 夜勤なのか?

 カチン、とスイッチを切る音がした。

 カカシは、ぎゅっと目を瞑って身体を強張らせた。

「・・・眠れないの?」

 がそっと布団に手を載せる。

 カカシは黙ってやり過ごそうとした。

 が、はゆっくりと布団を剥がした。

 丸まって所在なげなカカシは仕方無しに仰向けになりを見遣った。

 はそっと額に手を当てる。

「熱があるね。ぶり返しちゃったかな? これじゃシンドイでしょう」

 は柔らかく優しい声でカカシを診る。

「・・・違うよっ。がっ、オレに冷たいから・・・っ」

 拗ねたように、カカシは口を尖らせる。

「別に冷たくなんてしてないじゃない」

「だって、素っ気なくて・・・オレ、嫌われたのかと・・・」

 幼い“子供”の顔を見せるカカシに、はふっと柔らかく微笑む。

「何で私がカカシ君を嫌うの? この間は仕事が忙しかったのよ。受け持ちはカカシ君だけじゃないし、カカシ君だけ見てる訳に行かないの。分かってよ」

「・・・オレだけを見てくれなきゃヤだ」

 プン、とカカシは拗ねる。

「しょうがないなぁ」

 ふぅ、とは息を吐いた。





 は、カカシのことは前から知っていた。

 早熟で、里一のエリート。

 だが、生きてきた時代が悪く、多くのものを失い、絶望してきた。

 次々と大切なものを失っていき、孤独を味わい、己の未熟さを苛んで、自分を苛めるように任務に没頭している。

 今回入院してきたカカシを見て、は、自分に癒しの能力があれば、カカシを癒してやりたかった。

 が、自分はただの看護婦。

 何の能力もない。

 だから、殊更カカシを普通の少年として扱い、甘えさせることで、年相応の感情も持って欲しかった。

 だからはカカシにキスをした。

 子供っぽく狼狽えるカカシが、可愛かった。

 カカシが望むならいくらでも甘えさせよう。

 そう思った。

 が、は忍びの世界を知らない訳ではない。

 病院にいれば、大勢の忍びを見る。

 死と隣り合わせの、血と殺戮の世界を生きる忍びは、安穏だけというのは許されなかった。

 まだ若いカカシは、幼い頃から忍びの世界しか知らない。

 女を教えることで僅かな安らぎを得させられるならいいが、若い故に歯止めも知らない。

溺れさせる訳には行かなかった。

『どうすることがカカシ君の為に一番いいだろう・・・?』

 は考えた末、飴と鞭方式を取った。





「苦しいんなら、“治療”してあげる・・・」

 はカカシに覆い被さり、顔を手で覆った。

 柔らかな感触に、カカシは鼓動を高鳴らせる。

 瞳を閉じたは、そっとカカシの唇に口付けた。

 カカシも目を閉じてを受け入れる。

 長い口付けの後、は角度を変えて何度もカカシと唇を重ね合わせた。

 カカシはその甘美さに酔いしれる。

「ん・・・ふ・・・っ」

 はカカシの唇を割らせると、舌を侵入させた。

 口腔内を蹂躙し、くまなく舐め上げ、舌と舌を絡めさせた。

 カカシはされるがままの初めての熱い口付けに、何とも言えない感覚で昂ぶっていった。

 がそっと唇から離れると、カカシは名残惜しそうな瞳でを見つめた。

「寂しい思いさせちゃったみたいだから、今日はご褒美ねv 却って熱が上がっちゃったかな?」

 クス、とは微笑む。

「オヤスミ。ゆっくり寝てね」

 はカカシの頬に口付けを落とすと、ライトを持って病室を後にした。

 気まぐれな猫のような

 優しくしてくれたかと思えば、素っ気なかったり。

 でも、振り回されるのも結構楽しかった。

 昂ぶったカカシが眠れなかったのは言うまでもない。









 熱がぶり返したカカシは、未だに退院できずにいた。

「どうせ退院しても暫く休みなんだし、折角だからあと1週間くらい入院していればいいのよ」

 点滴を取り替えるは、優しく微笑んだ。

「・・・いつも有り難う。のお陰で、癒されてるよ」

「私がカカシ君の役に立ってるんなら良かったわ。早く元気になってね」

「何かお礼するよ。何でも言って」

「いいわよ。私はこれが仕事なんだもの。気にしないで」

「仕事・・・?」

 カカシはその言葉に、痛みが走る。

 は、仕事で優しくしてくれてるだけ。

 大勢の患者の中の1人に過ぎない。

 そう思うと、心がざわめいて落ち着かなかった。

 カカシの思いを敏感に感じ取ったは、柔らかく微笑んでカカシの顔を覗き込んだ。

「じゃ、退院したら、非番の日にデートして?」

「え・・・いいの?」

 カカシは途端に表情が明るくなる。

「だから、すっかり良くなるまで、安静にしてること! いいわね?」

「うん!」

 何だかんだ言ってもまだ子供ね、と無邪気に喜ぶカカシの顔を見て、は微笑んだ。









「あ〜っ、またそれ読んでる! 何冊没収したらいいの?! っていうか、何冊隠し持ってるのよ! 所持品検査するわよ!」

 今日もまたはカカシの愛読書を没収していく。

「それだけは勘弁!」

 見逃して、とカカシは笑う。

「ねぇ、また“治療”して、v」

「ダ〜メ! 甘えないの」

「ケチ〜」

 といる時だけ、カカシは年相応の子供に戻れた。

 退院したら、また修羅の世界に戻る。

 その前に、とのデート。

 初めて恋を知った少年は、欲望と格闘する毎日だった。

「ねぇ、ってば〜」

「また今度ねv」









END.





 裏に続く
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