【疑似体験】







 カカシは任務の帰り、血の匂いをさせた身体で慰霊碑の傍を通った。

 慰霊碑を訪れるのは身を清めてから、と思ったが、何となく立ち寄りたい気分になって、衣を正して慰霊碑に近寄る。

 暗部を辞めて数年経った。

 下忍教育の職に就くことになったが、カカシの下忍認定試験は難しく、今年も合格者は出なかった。

 故に、今までと何ら代わりのない、殺伐とした任務の日々が続いていた。

『オレは・・・間違ってないよな・・・そのうち、絶対オレの思いが伝わる日は来る・・・よな・・・』

 25にもなると、アカデミー出たての12の子供達は、本当に幼く思えた。

 兄気分にしては離れすぎているし、父親気分にはまだ早い。

『感覚のずれがあるのかな・・・』

 カカシは、5歳で忍びになり、6歳には中忍になり、8歳で上忍に、9歳で史上最年少の暗部入りをした。

 4年前まで、ずっと暗部を暗躍していた。

 いわゆる俗世間からは、遠くかけ離れた、縁のない生活をしてきた。

 感情表現の苦手な、大人になりきれていない子供のままのような、アンバランスな状態。

 周りとも距離を置いていた為、他人から影響を受ける、と言うことが無かった。

 自分を信じてやってきた。

 信念に疑いを持つこともなかった。

 若い頃はよく揺らいだ。

 そのせいで、馬鹿で愚かな過ちを幾つもしてきた。

 後悔はいくらしてもキリがない。

 此処に来ると、いつまでも自分を戒めたい気分になる。





『もういいんだよ、カカシ』





 そんな声が聞こえてきても、自分が許せなかった。

 楽になりたい自分の、都合の良い幻聴だ、と何も信じられない。

「まだだよ・・・まだ・・・」

 オレには多くの贖罪があるんだ・・・。









 己を苛んでいると、次第に夕暮れが深くなってきた。

 夕陽も沈みかけている。

「帰る、か・・・」

 ポツリ、ともらしたその時。

「あぁ〜〜〜っ!! ぱぱ、み〜っけ!!」

 小さな女のコが、慰霊碑の陰から顔を覗かせていた。

「は?」

 おかっぱを肩の高さで切り揃えた黒髪の幼い少女は、目を輝かせてカカシの元に駆けてきて、ぴょ〜んと飛びついた。

「ぱぱ〜っ!!」

 カカシの腿に両手両足でしっかりとしがみついている少女を、カカシは訳が分からずに抱き上げた。

「あのね、オレはキミのパパじゃないって・・・迷子か?」

「も〜っ、ぱぱ、だめじゃな〜い。かくれんぼしようっていったのに、ぱぱぜんぜんかくれてないんだもん。すぐにみつけちゃったよ」

 にぱ、と少女は全快の笑顔でカカシに抱きつく。

? お嬢ちゃん、君の名前はって言うの? パパとかくれんぼしていてはぐれたのかな?」

「も〜い〜かい、ま〜だだよ、も〜い〜かい、も〜い〜よ、ってちゃんといいっこしたのに、なんでかくれてないの? だめでしょ〜! も〜い〜よってきこえたから、さがしにきたのに〜」

「あのね、ちゃん? オレの話聞いてる? オレはキミのパパじゃないよ」

「あ〜っ、かくれられなかったからっていいわけしてる〜! ままにまたいわれるよ〜、おとこらしくな〜い、って」

「だ・か・らぁ! オレはキミのパパじゃないって・・・ちゃん、フルネーム言える? いくつ?」

 埒があかない、とカカシは質問してみた。

! 5さい!」

「オレは、はたけカカシ。じゃないデショ? パパじゃないって分かったかな?」

「なんで? ぱぱでしょ? ぱぱのにおいするもん。まちがってないもん!」

「任務帰りで血まみれなのに・・・ちゃん、キミのパパは忍者なのかな?」

「にんじゃ? よくわかんない。はものいっぱいもってるよ。いつも、いってきま〜すってでかけていくでしょ? ね〜ぱぱ、おなかすいたよ。かえってごはんたべようよ」

「だからパパじゃないって・・・」

 と名乗る幼い少女は、しっかりとカカシにしがみついていた。

「しょうがないな・・・役所で住民票調べて家に送り届けてやるか・・・」

 毒気が抜かれた気分のカカシは、を抱っこしたまま、慰霊碑を離れた。

「ぱぱ〜、かたぐるまして〜!」

「肩車? はいはい、お姫様」

 を肩車すると、カカシは役所へ向かった。









「住民票見せてもらえる? このコ、迷子らしくってさ。家まで送り届けたいんだ」

 役所でカカシはそう言い、の名前を告げ、職員に探して貰った。

ちゃん、5歳ですか・・・住民票には、という家はないですねぇ」

「え? そんな筈無いだろ? 、家の住所言える?」

「ん〜とぉ、26くの915ばんちの181!」

「26区の915番地ですか・・・。そこは温泉街ですよ。民家なんてありません」

「温泉街に刃物なんて必要ないよね?」

「は?」

「や、このコがね、オレのことを父親と勘違いしてて、オレ、任務帰りで血まみれなのにオレと同じ匂いがするとか、刃物一杯持ってるって言うんだ、父親のことを。さて、どうしようか・・・」

 カカシの口布をうにょ〜んと引っ張るを窘めながら、カカシは途方に暮れる。

「取り敢えずははたけ上忍、迷子届けを出しておいて、見つかるまで面倒見るしかないんじゃないですか」

「そうだよねぇ・・・しょうがないか」

 後は宜しく、とカカシはを連れて、役所を出た。









「夕飯の買い物して帰るか。子供の好きなものってなんだろうなぁ。ハンバーグとかカレーとかかな。子供用メニューの本でも買うかな・・・」

 カカシはを肩車したまま商店街に向かい、本屋で買い物を済ませた。

、夕飯は何が食べたい?」

「ん〜っとねぇ、さばのみそに!」

「は? ・・・渋好みだね・・・。ハンバーグとか食べたくないの?」

「はんばぁぐ? なに?」

「知らないの? ガキの頃のオレみたいだな・・・うちに帰ったら作ってあげるからね」

 カカシは滅多に寄らない、肉屋に立ち寄った。

「カカシさん、どうしたの、そのコ。上忍が子守りの任務かい?」

「あはは、まぁ、そんなトコです」

 挽肉を買って、カカシは今度は八百屋に向かった。

 途中にある魚屋を素通りしようとすると、が元気よく身を乗り出した。

! 落ちるから暴れないで!」

「おさかな! おさかな!」

、魚好きなの?」

 は謳うように、店頭に並ぶ魚を順に名前を呼んでいった。

「詳しいね、

「ごほんでよんだおさかながいっぱいだぁ」

 親に魚図鑑でも買って貰ったのを読んだのを覚えているのだろう、とカカシは思った。

 八百屋でも同じように質問され、カカシは適当に言葉を濁し、家路を歩いた。

 いつもなら飛んで駆けていく道のり。

 の為に、歩くことを楽しんだ。

「下忍の頃の任務思い出すなぁ・・・」

 あの頃、子守りの任務と言っても、相手がカカシと同年代で、やりにくかったのを覚えている。

 話題がかみ合わなかったからだ。

 むしろ、赤ん坊のお守りの方が、当時近所にいたので、慣れていた。

「ここんトコずっと殺伐としてたからな・・・こういうのもたまにはいっか・・・」

 亡きオビトや4代目と語らいあっていたのを、には、かくれんぼに聞こえたようだった。

「ってことは・・・もういいのか・・・でもな・・・」

「ぱぱってかくれんぼへただね! こんどはちゃんとかくれてよ!」

「オレ、隠れるの得意だよ? 自慢じゃないけど、アカデミー時代、捜索演習で見つかったことがないんだから。火影様にも、カカシはかくれんぼが得意だ、っておっしゃられたんだから」

「なにいってるかわかんないよ〜。にもわかるようにいって〜」

「はは、ゴメンゴメン。じゃ、帰ったらハンバーグ作るからね」

「え〜、さばのみそにはぁ?」

「今度ね、今度。子供は子供らしいの食べてよ。オレも食べてみたいし」

 何を隠そう、密かに食べてみたいんだ、お子様の味、とカカシは笑う。









 カカシは家に帰り、料理の本とにらめっこしながら、調理に取りかかった。

 カカシの家にはテレビが無かった為、子供が暇を潰せるようなものは何もなく、は家の中を探検し終わると、カカシの食事の用意をじ〜っと眺めていた。

「何々・・・? 叩いて空気を出して、真ん中を押して凹みを作って焼くのか・・・難しいなぁ・・・形が崩れるよ・・・本みたいに熊さんの形v なんて無理だよ〜」

 四苦八苦して焼き上げ、少し焦げたハンバーグを皿に載せ、サラダを飾った。

にはフォークね。じゃ、食べようか。いただきますして、

「いた〜きます!」

 ちっちゃな手を合わせる姿に愛らしさを感じ、カカシは心が和んだ。

『こういうのも悪くないね・・・』

「ぱぱ!」

「ん?」

 カカシは、の、パパ、という呼びかけに、つい反応してしまった。

 まぁいいか、と苦笑しつつ、結構悪くない、とハンバーグを頬張る。

「ぱぱ、このはんばぁぐ、おいしい!」

「そ? 良かった。どんどん食べてね」

 ケチャップで口の周りを真っ赤にしたは、フォークを握りしめて目を輝かせ、おぼつかない手でハンバーグを食べていった。

「ほら、サラダも食べて、

「え〜、とまときら〜い」

「ハンバーグのケチャップはトマトで出来てるんだよ、。好き嫌いしてたら大きくなれないぞ」

 カカシの言葉に、幾分躊躇っていたは、思い切って、ぐさ、とフォークでトマトを刺し、えぃっ、と口に放り込んだ。

 目を瞑って、一生懸命、モグモグと噛んでいる。

 可愛いなぁ、とカカシは微笑ましく見ている。

「ん! たべた! ぱぱ、おっきくなった?!」

「ハハハ。そんなすぐには大きくならないよ。ゆっくりとね・・・」

「え〜っ、ぱぱ、うそつき〜!」

 ぶ〜ぶ〜、とは口を尖らせる。

「ハハ、ゴメンゴメン。ちょっと大きくなったよ、。コンソメスープも飲んでね」

 カカシに言われたとおり、は、んぐんぐ、とスープを飲んでいく。

「ごちそ〜さまでした!」

 食べ終わって手を合わせる

 食べる前に首に巻いてやったナプキン代わりのタオルで、カカシはの口の周りを拭ってやった。

「お、偉い偉い。ちゃんとゴチソウサマ言えたね。お利口さんだな、は。じゃ、片付けるから、良い子にしててね」

もてつだう!」

「ダメダメ。お皿とか危ないからね。もう少し大きくなったら手伝ってね、

「どれくらいおっきくなればいいの?」

「沢山沢山お休みして、一杯ご飯食べたら、だよ」

 一生懸命指を折っているを微笑ましく見守りながら、カカシは片付けをした。

 カカシは、両親の記憶も朧気だった。

 両親とも忍びで、4歳の頃に戦争で死んだことは覚えている。

 早熟だったカカシは、物心付いた頃から忍術を学ばされていた為、普通の家族団欒というものを経験したことがなかった。

 笑いの絶えない食事の時間、は、カカシの家では、忍びの心得を説く時間、だった。

 それでも、当時のカカシには、両親との時間は、何であれ楽しかった。

 数少ない思い出。

 それ故に俗世間を知らなすぎるという欠点もある。

 カカシは自分の短所を理解していた。

 のお陰で、学べそうだった。









、お風呂に入ろうか」

 帰ってくる途中で衣料品店に寄り、子供服や下着を何点か購入してきてあったので、湯を張ると、を浴室に連れて行った。

 ぱぱぱ、と脱ぎ捨てていくの衣服を洗濯機に投げ込み、カカシも続けて脱いで風呂場に入る。

「ぱぱ、しゃんぷーはっとは?」

「え? シャンプーハット? 何ソレ」

 カカシは、シャンプーハットの存在を知らなかった。

「しゃんぷーするときにあたまにするんだよ〜。ないとあわあわがめにはいってしみるんだよ。ないとしゃんぷーできないよ」

「そ、そっか・・・じゃ、今日は洗うの我慢して、明日買ってくるよ。身体洗おうか」

「わ〜い、ごしごし〜♪ ぱぱ、いたいよ〜? やさしくごしごしして〜」

 加減が分からなかったカカシは、ゴメンゴメン、と力を抜いて優しく擦った。

「ぱぱのせなかごしごしする〜!」

「出来るの? 

 カカシはスポンジをに渡した。

「ぱぱのせなかひろ〜い。きずがいっぱいあるね。いたくない?」

「昔の古傷だからね。大丈夫だよ」

「せ〜なかごしごし、せ〜なかごしごし♪」

 子供の力では、撫でられているくらいにしか感じなかったが、洗い直すとが気を悪くするだろうから、そのままスポンジを受け取り、残りを洗った。

「しゃわしゃわ〜♪」

 シャワーで泡を洗い流していき、綺麗になると、湯船に浸かった。

「ぱぱ、おゆあつ〜い」

「あ、ゴメン。オレ、熱風呂好きだからうっかり。水で薄めるね」

 蛇口を捻って水を出し、が入っていられるくらいの温度にした。

 首に抱きついているを抱っこして、ふぅ、と息を吐く。

「これからどうしようかな・・・任務の時、をどうしよっか。任務が入れば、大抵長期だから、少なくても数日は家を空けるし・・・日帰りできる任務にして貰うにしても、昼間1人になるしなぁ・・・火影様に相談してみるか・・・」

「ぱぱ〜、ゆでだこになるよ〜。あがっていい?」

 あつ〜い、とははふはふ息を上げていた。

「あ、うん。上がろうか」

 風呂を上がってを下ろすと、はカカシの股間を見上げ、えぃっ、と手を挙げて、ブツを掴んだ。

「あっ、こら! 変なモノ触らないの!」

「ぶ〜らぶら〜♪」

 濡れた身体のまま、は浴室を出て駆けていく。

「こらっ、! 濡れたまま出ないの! 風邪引くからちゃんと着て!」

 子供は侮れない、とカカシは素っ裸のまま追いかけていって連れ戻し、歌うの身体をバスタオルで拭いてやった。

 買ったばかりの下着とパジャマを着せ、カカシも手早く身体を拭き、パジャマに身を包む。

 ふぅ、と再び息を吐いて、台所に向かう。

「ハイ、。ジュース飲んで。零さないようにね」

 清涼飲料水をコップに入れ、カカシはに持たせる。

 こくこくと飲むを見ながら、カカシも水分補給した。

 さて、久し振りにゆっくり読書をしよう、と寝室に向かう。

 ベッドに腰掛け、カカシはイチャパラを開いた。

 には、料理の本を買った時に一緒に絵本を買ったのを思い出し、夕食作ってる間読ませるんだった、と思いながら、渡した。

 久々の読書に夢中になっていたら、はいつの間にかベッドの上で丸まって眠っていた。

「おっと、イカンイカン、風邪引かせちゃうよ」

 オレも寝ようか、とカカシはをベッドにきちんと寝かせ、自分も隣に入り込み、布団をそっと掛けた。

「うにゅ・・・」

 す〜す〜と、愛らしい寝顔で寝息を立てるを見ていると、心が洗われる思いだった。

 贖罪も浄化されるような気がした。

「気を張りつめてばかりの毎日じゃ、いつか壊れるってね・・・のお陰で、いい息抜きになるな・・・」

 自分でも驚く程の穏やかな顔での頭を撫で、腕の中に抱き込む。

 きゅっとしがみついてくるを優しく抱き締め、カカシは眠った。

 ほんのりと温かい心を抱いて・・・。















 を連れ、火影に事の次第を報告に行くと、良い機会だ、と、カカシは暫くの休暇を与えられた。

「お主は今まで働きすぎた。たまにはゆっくりするが良い」

 どうにも心苦しかったが、却って気が楽になり、腹を括ってに付き合おう、と決めた。





 を肩車してアカデミーに向かい、外から授業を眺めた。

「休日なんて久し振りだな・・・何しよっかな。は何したい?」

「あのみんなはなにをしてるの?」

 は、体術の授業中のアカデミー生達を不思議そうに指さした。

 金髪の子供が、鼻傷のある教師に怒られている。

「忍者になる訓練だよ。も忍者になる?」

「にんじゃ? ぱぱのおしごと? ん〜。、おすなあそびした〜い!」

「ハハハ。のトシじゃまだ分からないか。オレはのトシにはもう忍者になってて、今のお仕事してたんだよ」

「それってすごいの? ぱぱ」

「ん〜、どうだろね。分かんないや。公園に行こっか、

「うん!」





 公園の砂場で、は昨日読んだという絵本のお城を作って遊んだ。

 カカシは傍でニコニコと眺めている。

「何やってるんです? カカシ上忍。里一のエリート上忍が、子守りのDランク任務ですか?」

 この国も平和になったモンだ、と通りがかった忍びが声を掛けてくる。

「あれ、ゲンマ君。任務帰り? ご苦労様v」

 くわえ楊枝で眉を寄せ、高見からゲンマは降り立った。

 かくかくしかじか、とカカシは事情を説明した。

「成程。アナタは血なまぐさい世界に浸かりすぎですから、たまの息抜きも良いんじゃないですかね」

「何かね、すること全てが新鮮だよ。人々の日常を守る、って言っても、オレ自身が普通の日常を知らなかったからね。良い勉強になってるよ」

「そりゃ何よりです。もう昼ですけど、メシどうするんですか?」

「子供向けの店に行こうかと思ってるんだけど、いいトコゲンマ君知ってる?」

「まぁ、知らなくもないですけど」

「折角だから、ゲンマ君も一緒に食べようよ。報告書提出するだけでしょ? 後は」

「いいですよ。珍しいカカシ上忍のパパぶりを拝ませて貰いましょうか」

 ニヤリ、と笑ってゲンマは千本を上下させた。

「まま? どうしてここにいるの?」

「はぁ?」

、ゲンマ君は男だよ。ママじゃないって」

「ままのあまいにおいがする〜。まま、ぱぱのことしかって? ぱぱね、ぱんにじゃむぬるんだよ。むしばになるからいけませんってままがいつもいってるのに。ぱぱとおなじまーがりんがよかった〜」

「オレを母親と勘違いしてるのか?」

 甘い匂いって何だ? とゲンマは自分の匂いを嗅いだ。

「ゲンマ君の額当ての巻き方がいけないんだよ。よく、おかん、ってからかわれてるじゃない」

「ほっといて下さい。カカシ上忍、家にジャムなんて置いてたんですか?」

 珍しい、甘いモノ苦手なのに、とゲンマは吐き捨てる。

「いや、あの、昨日買い物する時、子供が好きそうなモノ〜、って、適当に買ったんだよ。それなのに、ってば意外と渋好みでさ。朝はパンと牛乳でいいだろう、って思って出したら、“あじの開きが食べた〜い!”って言うんだよ」

「ちゃんと躾けられてそうですね。それで何でカカシ上忍やオレが親と間違えられるんだ?」

 カカシのズボンを掴んでじ〜っとゲンマを見上げているを見下ろし、頭をくしゃくしゃ、と撫でた。

 ニコ、と満面の笑顔を見せるに、ゲンマは呆気に取られる。

「まだ物事の判別が付かないんじゃないかな」

「どこかのクソガキは、このコのトシにはいっぱしになってましたがね」

 ゲンマはあさってを向き、吐き捨てた。

「どこかのクソガキって誰かな〜? ゲンマ君?」

「さてね。じゃ、メシ食いに行きましょうか。少し離れた所に、子供向けメニューもある店がありますよ」

「歩いて行けるトコにない? を連れて空駆けていくのはちょっと・・・」

「あぁ、子供ってのは、案外怖いモノ好きだったりしますよ。危なくない程度にスピード遅くしていけば、大丈夫ですよ」

「ぱぱ、おそらとべるの? 、ひゅ〜んっておそらとびた〜い!」

 目を輝かせるに、ほらね、とゲンマはシニカルに笑う。

「そ? じゃ、行こうか。、しっかり掴まってるんだよ」

 ゲンマの案内で空を駆けていくと、はきゃっきゃっと喜んでいた。

 下に降り立つと、顔を高揚させていた。

「ぱぱ〜っ、たのしかった〜っ! またやって〜」

「怖くなかったの? 子供って面白いなぁ」

 店に入って席に着くと、カカシとゲンマはメニューを開いた。

「ホントに子供向けばっかりだね・・・」

「オレ達浮いてますね。忍びが来る店じゃないですよ」

 客席は、親子連れで賑わっていた。

、何食べたい? お子様ランチにする?」

「ぶりのてりやき!」

「は?」

「ホントに渋好みだな、このガキ・・・っつったっけ? スパゲティ食うか?」

「え〜っ、おさかなたべたい〜」

「子供らしいのか子供らしくないのか、分からないなぁ、って。じゃ、オレ達はスパゲティで、はお子様ランチにしようよ」

 店員を呼んで注文し、出来てくる間、カカシはゲンマと昔話をしていた。

 次々にテーブルが彩られると、不満そうだったも目を輝かせた。

「ぷりんがあるよ。まま、あまいのたべていいの?」

「ガキはガキらしいモン食えよ。それくれぇじゃ虫歯にはならねぇからな。ちゃんと歯を磨けばいい」

 どういう育ち方してるんだ、このガキ、とゲンマは千本を置いてフォークを取る。

「これ、おれんじじゅーす? おちゃじゃなくていいの?」

「いいんだよ。・・・厳しい家なのかなぁ?」

「かも知れないですけど。何かモノには限度が、って思っちまうオレはおかしいんですかね? ガキはガキらしいモン食った方がいいと思うんですが」

「オレもゲンマ君も子供の頃から甘いものは滅多に食べなかったけど、ここまで厳しくなかったよねぇ?」

「普通の子供はこうあるべきだ、ってのがよく分かりませんよね」

「忍者一本槍だからねぇ・・・コレなんて、ゲンマ君のお母さんが作ってくれたの以来だよ、食べるの」

 茄子のミートスパゲティを食べながら、カカシはの食べる様を眺めていた。

「あ、これままのあじがする!」

 スープをこくりと飲んだは、目を見開いて声を上げた。

「ママ? 本当のか? オレか?」

 ゲンマはくん、と匂いを嗅いだ。

「ハハハ、ゲンマ君、ママで抵抗無いんだ? それってかぼちゃのスープじゃない? ゲンマ君の匂いだよ、きっと」

 さっき公園でそう言ってたし、とカカシも匂いを嗅ぐ。

「オレ、任務帰りだったんですよ? 数日ぶりに里に帰ってきたってのに、いくらオレがかぼちゃ好きでも、任務帰りに臭いませんよ」

「じゃ、染みついてるんだ。オレの匂いってのも今イチよく分からないし、不思議なコだよ、って」

 早食いのカカシとゲンマは早々食べ終わり、食後のコーヒーを飲みながらを見つめていた。

「ぱぱ、ぷりんおいしい! ぱぱもたべる?」

「いいよ、が全部食べて。パパはもうお腹一杯だから。、早く大きくなりたいんなら、何でも食べなきゃ」

「・・・カカシ上忍、すっかりパパなんですね・・・」

「あ」

 つい言っちゃった、とカカシは苦笑する。

「洗脳されそうだよ」

 ぷ、とニヒルなゲンマも吹き出している。

「確かに、無邪気な子供の相手してると、毒気抜かれますよね」

 生意気なクソガキには腹立つけど、大人げねぇから言わねぇけど、とゲンマはコーヒーを飲み干して千本をくわえ直した。

「じゃ、オレは報告書を書いて提出するんで。お先に失礼しますよ」

「あ、うん。ありがと〜ね、ゲンマ君。、ママもう行くって。バイバイして」

「ん〜? まま、いってらっしゃい!」

 にぱ、と笑うに苦笑しながら、おぅ、とゲンマは出て行った。

















 公園でブランコや滑り台など楽しんで散々遊び回ったカカシとは、夕方になり、買い物の為に商店街へ移動した。

「カレーでいっかな・・・、何食べたい?」

「かれいのにつけ!」

「やっぱそうきたか。、カレイはカレイでも、違うカレーにしようよ。カレーライス。美味しいよ」

「ん〜? かれーらいす? どうゆうの?」

「ご飯にカレーかけて食べるんだよ」

「おさかなじゃないの? 、おさかなたべたいよ」

「ホントには渋好みだなぁ。分かったよ。朝ご飯は魚にしよう。何がいい? 

「んっとねぇ、さんまのしおやきと、なすのおみそしる! ぱぱもだいすきでしょ!」

「へ〜、、パパの好きなモノ知ってるの? 凄いなぁ。ピタリ賞だよ。じゃ、そうしよう。子供の味覚体験は、今日までだな。明日からは今まで通りで、には問題なさそうだし」

 色んな店でどっさり買い込んで、カカシはと家に帰った。









 ジャガイモを剥いていると、玄関のドアがノックされた。

「誰だろ・・・」

がでるよ〜!」

 絵本を読んでいたが、しゅたっと立ち上がって駆けていった。

「あっ、こら、、出ちゃダメだって・・・!」

 はカカシの制止を聞かず、鍵を開ける。

「あっ、ままだ! まま、おかえり〜!」

「え? ゲンマ君?」

「どうも、カカシ上忍」

「どうしたの? のこと心配してくれたの?」

「えぇ、まぁ、気になって。・・・カレーですか?」

 食材を見て、ゲンマは言い放つ。

「あ、うん。でも、子供の味覚体験は、今日までなんだ。明日からは、オレのいつも通りの食事にしようと思って。、それでいいみたいだし」

 ま、入ってよ、とカカシは中を促す。

「お邪魔します。、土産だ」

 ゲンマは中に入って、に包みを渡す。

「え? なぁに? あっ、おえかきちょうとくれよんだ!」

 包みを開けたは、目を輝かせた。

「メシが出来るまで、好きな絵を描いていろよ。カカシ上忍には、食材の差し入れです」

「ん? ナ〜ニ? あはは、かぼちゃだ。何? 煮物作る?」

「カレーに入れて下さいよ」

「え? カレーにかぼちゃ? おかしくない?」

「オレん家では、ガキの頃当たり前のように入ってましたよ」

「え〜、ゲンマ君の家だからじゃないの?」

「そんなことありませんよ。料理の本にだって、レシピ載ってますよ」

 手伝います、とゲンマは皮むき器でにんじんの皮を剥いた。

 炒めて煮込んで、後はカレールウを入れるだけ、になった時、ゲンマは、小さい鍋を用意して、中身を少し取り分け、入れた。

「? 何してるの? ゲンマ君。材料分けて」

「どうせカレー食うなら、オレ達は辛口の方がいいでしょう? にはカカシ上忍の買ってきた甘口のルウで、オレ達用には、オレの買ってきた辛口用にするんですよ」

 ポトポト、とそれぞれにルウを落とし入れていく。

「あ〜成程」

 お〜、鼻をつく良い匂いだ、とカレーの匂いを楽しむカカシ。

「子供用の甘口カレーなんて、食えたモンじゃないですからね。子供の味覚体験もいいですが、どうせなら全員が美味く食えるようにしましょうよ」

「流石ぁ、気が利くな〜、ママv」

「何ですか? パパ?」

 コトコトと煮込んでいる間、カカシはのお絵かきを覗き込んだ。

「何描いてるの〜? 

「ん〜、ぱぱとままと!」

 銀髪に顔が殆ど黒く塗りつぶされた“パパ”カカシに、隣に、金髪に頭部が黒く塗られて口から棒が一本飛び出ている“ママ”ゲンマ、間に、ワンピースを着た小さなおかっぱの女のコ“”がいて、それぞれと手を繋いでいる。

「お〜、よく描けてるね。なかなか上手いじゃないか。は絵が上手いなぁ」

「さ、カレー出来ましたよ。、テーブルの上片付けろ」

「は〜い」

 んしょ、んしょ、とはクレヨンを集めて箱にしまい、どかした。

 片付いたテーブルに、カレーとサラダが用意される。



「わぁ〜、いいにお〜いv」

 ナプキン代わりにタオルを首に巻いたは、スプーンを握りしめ、目を輝かせる。

「いた〜きます!」

 グゥに握ったスプーンで、カレーライスをすくって食べ始めた。

「カレー食うのも久し振りだなぁ。子供がいないとなかなか食べないよね。独り暮らしだしさ」

「カレーや鍋なんて、1人じゃ虚しいだけですもんね。飲みに行ったって、鍋なら食いますが、カレーはそうありませんしね」

「かぼちゃ入りカレーも美味しいね。野菜の甘みが出ていいよ、うん」

「ぱぱ、かれーおいしいね! でもから〜い」

「え、そぉ? 甘口だから大丈夫だと思ったんだけどなぁ」

「カカシ上忍、フツーの甘口のカレールウ使ったでしょ。くらいの年頃には、まだ子供用カレーの方が良かったんじゃないですかね」

 一般の甘口は、小さい子供には辛く感じるのかも知れませんよ、とゲンマは言い放った。

「そっか・・・辛すぎて食べられないかな? ゴメンね、

「ん〜ん、だいじょうぶ! からいけどおいしい! でもおいしいけどからい」

、ほら、水だ。水飲みながら食え。サラダも口直しに食えよ」

 ゲンマに渡された水のコップを受け取り、んぐんぐ、とは水を飲んだ。

「な〜んかさぁ、オレの方がママで、ゲンマ君の方がパパ、って感じだよねぇ」

 ゲンマ君男前すぎ! とカカシはぼやく。

「アナタが甘すぎるんですよ。普段のカミソリのようなアナタは何処に行ったんですか」

と一緒にいたら毒気抜かれるって。血なまぐさい世界にいたオレが、一日中ずっと子守りだよ?」

 身体鈍りそう、と息を吐く。

「ふっ、お陰で面白いモノ拝ませていただきましたがね。里の皆が知ったら、面白がりそうですよ」

「うわ〜やめて〜。アスマとか、からかってくるの丸分かり! ゲンマ君、黙っててよ?」

「さて、知りませんね」

「意地悪!」

「こんな滅法面白いネタ、黙っておくのは勿体ないですからねぇ・・・」

「頼むよ〜。をさらし者にするなんて可哀相じゃないか〜」

「そう来ましたか。分かりましたよ。黙っておきましょう」

 2人のやりとりをじ〜っと見つめていたが、にこっと笑った。

「ぱぱとまま、いつもなかよしだね! よるもいつもなかよしだよね。きょうもなかよしするの? ぷろれすごっこ」

「はぁ?」

、意味分かって言ってる?」

「コイツの本当の両親は、ガキに何見せてんだよ・・・用心しろってんだ」

「まま〜、、おとうとほしいな。こうのとりさんにおねがいしたらくる?」

「あぁ。オマエが良い子にしてたらな」

、いいこだよ! おかたづけもするよ!」

「コラ。ごちそうさまは?」

「あっ、いけない、わるいこになるとこだった。ごちそ〜さまでした!」

は充分良い子だから、お片付けはしなくていいから、お絵かきしててね。パパ達が片付けるから」

「ホントにすっかりパパですね、カカシ上忍」

「パパ〜って呼ばれたら、何〜? って振り返っちゃうよ、もう」

 くっくっくっ、と笑いながらゲンマは食器を流しに片付けた。

「あ、カレー殆ど作ってもらったから、洗い物はオレがするよ。ゲンマ君はの相手してて」

「そりゃすいませんね」

 ゲンマは茶を飲みながら、のお絵かきを眺めていた。

「おひめさまは、ままのすきなかぼちゃにのっておしろにいくんだよ」

 かぼちゃを描いているを見ながら、あぁ、シンデレラか、とゲンマは傍らの絵本を手に取る。

は大きくなったら何になりたいんだ? お姫様か?」

「ん〜とね、およめさん!」

 次には、お姫様を描いていたが、どうやら、花嫁衣装のようだった。

「このあいだね、となりのおねえちゃんが、うぇでぃんぐどれすきておよめさんになったのみたの。きれいだった〜。おむこさんといっしょにはねむーんにいってるんだよ。もおっきくなったらおねちゃんみたいなきれいなおよめさんになりた〜い」

「ちょっと! お嫁さんって、誰のお嫁さんになるの?! パパ許さないからね!」

 洗い物をしていたカカシが、ピクリと勢いよく振り向く。

「・・・カカシ上忍、本気で親父にならんで下さいよ・・・はアナタの子じゃないんですから・・・」

 ゲンマは呆れたように、千本をぷらつかせながら息を吐く。

「え〜だってつい・・・」

「近所のカ〜君、とかですよ。5歳の子供の言うことを真に受けないで下さいよ、大人げない」

ね〜、おっきくなったら、ぱぱのおよめさんになるの!」

「えっ」

 カカシは思わず、洗っていた皿を取り落としそうになる。

、ぱぱとけっこんするの!」

「ホントに? 

「うん!!」

「だから子供の言うことを真に受けないで・・・って、お〜い、聞いてます?」

 ゲンマの声など耳に届かず、カカシは嬉しそうに鼻歌交じりに洗い物を終わらせた。

「ったく・・・何なんだよ、アンタは・・・」

 はぁ、とゲンマはため息をついた。

「カカシ上忍って、家庭もって親父になったら、絶対、娘が嫁に行く時大泣きするか機嫌悪くなるタイプっぽいですよね・・・」

「ゲンマ君は機嫌悪くなりそうだよね」

「ったく、何の話だか。じゃ、オレは帰りますね。存分に、親子気分でも、恋人気分でも味わって下さいよ」

 ゲンマはの頭を撫でると、帰って行った。

「あれ? ぱぱ〜、ままどこにいったの?」

「あぁ、お買い物だよ。すぐに帰ってくるから、お風呂に入ろう?」

「ぱぱ、ちゃんとしゃんぷーはっとつかってね」

「分かってるよ。ちゃんと買ってきたからね」









 湯上がり、寝室での髪を乾かしてやり、水分補給をした後、慣れないことをした為かいささか疲れを感じるカカシは、早々と寝ることにした。

 電気を消して、と共に布団に潜り込む。

 ぴと、とが抱きついてきた。

「ぱぱ、おひげじょりじょりする」

「ゴメン、痛い?」

「ううん。おもしろいかんじ」

 ニコ、と微笑むを見ていると、このコは将来、とてつもない美人になるだろう、とカカシは思った。

 目鼻立ちの整った、はっきりした顔立ちをしている。

「ぱぱ〜、だ〜いすきv」

 ごろにゃん、とはカカシにしがみつく。

「パパものこと、ダ〜イスキv」

「ぱぱ、おっきくなったら、ちゃんとのことおよめさんにもらってね」

「ホントに良いの? 嬉しいなぁ」

「あかちゃんも・・・むにゃ・・・」

 言い掛けて、むにゅむにゅ、とは眠りの淵に落ちていく。

 寝息を立てるを見ていると、本当に心が洗われた。

「明日は何をしようかなぁ・・・」

 考えながら、カカシは次第に眠った。

 楽しい夢を見ているらしく、幸せそうな寝顔で。















 昨日ゲンマに教えて貰った別の公園にを連れて行き、沢山の遊戯道具で遊んで、お弁当を食べ、目一杯遊んで、帰路についた。



 途中、役所の前を通る。

『知らせが来ないって事は、まだ見つかってないんだよな・・・』

 まだと一緒に遊べる。

 そう思うと、何だか嬉しくなって、心がほんのり温かくなった。

「今日の夕飯、何にしようかな・・・」

 きんぴらでも作るか、と肩車したを落とさないように、ゆっくり歩く。















 と出会って、一週間近くが経っていた。

 カカシはと一日中遊び回り、時折ゲンマも顔を出し、充実した日々を過ごしていた。

 毎日が初めての経験。

 忍びとしての己に深みが増した気分だ、とカカシは思った。

 と楽しくお喋りしながら、夕陽に向かって歩き続けた。

「あしたはてつぼうもっとぶらさがっていられるようにがんばる〜!」

「ハハハ。無理しなくて良いんだよ」

「こんどはさかあがりおしえて?」

「う〜ん、に出来るかなぁ・・・」

「できるもん! もうおねえちゃんだもん! おとうとがきますように、ってかみさまにおねがいしたんだもん」

「あはは・・・来るかなぁ」

「くるよ! あっ、ぱぱだ! ぱぱ〜っ!」

「え?」

 前方に向かって手を振るに、カカシは訳が分からずの見ている方を見た。

 の声に気が付いた男が、こちらに駆けてくる。

、何言っ・・・」

「おじちゃん、おろして!」

「おじ・・・っ?!」

 はずるずるとカカシの身体から降りていき、見知らぬ男の方へ駆けていった。

「おいっ、!」

 ハテナマークが飛び交うカカシの元に、任務斡旋係をしている中忍がやってきた。

「はたけ上忍、任務お疲れ様でした」

「え? 任務?」

「えぇ。あのコの父親が任務の依頼に来て、あのコを預かったはいいんですが、いつの間にか行方不明になってしまって、捜していたんですよ。はたけ上忍の元にいると知って、安心しました」





 話を聞くと、こうだった。

 の父親は火の国で魚料理屋を営んでいて、妻が妊娠していて、入院することになって数日子供を預かって欲しい、と木の葉の里に依頼に来たらしい。

 父親が帰っていった後、子守り任務の斡旋をしていた所、が行方不明になり捜していた。

 火影もこのことを知っていて、カカシがを連れてきた時には気付いていて、わざと真相を知らせず、カカシに休養を取らせる為、皆に黙って指示をしたのだ、と。

 当事者だった斡旋係の中忍だけが知っていて、予定より早く退院できたので、カカシを捜していたのだった。

 の本当の父親は、カカシとは似ても似付かない、無骨な頑固者、と言った感じだった。





「はぁ・・・何でオレが父親に思えたんだ? は・・・」

 カカシはどっと疲れが押し寄せた。

 その時、本当の父親に肩車をされたが、声を上げて手を振っていた。

「かかしおにいちゃ〜ん! やくそくだよ〜! がおっきくなったら、およめさんにもらってね〜!」

 天使の微笑みに、カカシは心が温かくなる。

 父親はカカシに頭を下げると、と共に帰って行ったのだった。









 カカシはとぼとぼと、当てもなく歩いていた。

 楽しかった。

 本当に毎日が楽しかった。

 こんな経験、もうできないだろう。

「はぁ・・・」

「カカシ上忍、お疲れ様でした」

「ゲンマ君! もしかして、ゲンマ君も本当のこと知ってたの?」

「えぇ、まぁ。最初に会ったカレーの日、カカシ上忍の家に行く前に、火影様から聞かされまして。話を合わせておいてくれ、とね」

「何だよ〜っ。みんなしてオレを騙してたんだ?!」

 ぶ〜ぶ〜、とカカシは拗ねる。

「そうじゃありませんよ。アナタは働きづめでしたからね。血と殺戮にまみれすぎていました。火の意志すら失いかけて、暗部を辞める直前に戻りかけていましたから。火影様もずっと、何とかしてアナタを休ませる方法はないか、とお考えだったんですよ」

「・・・そんなにオレ、酷い状態だった?」

「えぇ。触れたら切れるカミソリどころか、諸刃の剣みたいでしたからね。良かったですよ、落ち着かれたようで」

「それは・・・まぁ・・・」

がいなくなって、寂しいですか?」

「流石にずっと一緒だったからね。すっかり情も移ってたよ。ゲンマ君も人が悪いよね。知らんぷりしてママのフリして、オレのパパぶりを面白がってたんでしょ」

「そんなことないですよ、オレもいい息抜きさせて貰いましたよ。どうです? これから。行きませんか?」

 ゲンマはシニカルに笑い、高楊枝でクィッと手を軽く捻った。

「ヤだよ。ゲンマ君強すぎるモン。酔っぱらわないゲンマ君と呑んだって、オレ負けるだけじゃない。傷口に塩擦り込まないでよね。オレ今ハートブレイクなんだから」

 プン、とカカシは顔を背けた。

「奢りますよ。さ、行きましょう」

 ゲンマはカカシの肩を掴んで、グイグイと歩いた。

「ちょっ、ゲンマ君ってば!」

「もうすぐアカデミーも卒業の時期ですよ。心を入れ直して、ガキ共と向き合う時期です。今度はカカシ上忍のお眼鏡に適いますかね?」









 ようやくカカシが合格者を出して珍騒動を繰り広げることになるのは、もう少し先のお話。

 カカシの人生観を変えた1人の幼い少女と何年か後に劇的な再会をするのは、また別のお話なのでした。









 END.