【祈願】







 夕食後、はバタバタと台所で紛争していた。

「何してるの〜? 

 そのままダイニングで茶を飲みながらイチャパラを読んでいたカカシは、夕食の片付けが終わってもまだ何かしているに尋ねた。

「ん〜、お菓子作ってるの」

 あ、第1弾出来た、とは出来上がった物を器に盛り、テーブルに置いた。

「美味くできたか自信無いなぁ」

 ぱく、と口に放り込むと、は、ムグムグ味わいを確かめ、唸った。

「どしたの、急に。お菓子なんて」

 良い匂いだね、とカカシは茶を含む。

「カカシせんせぇ、味見してくれる? 私だけじゃ分からないや。男の人に食べてもらった方が・・・」

「誰かにあげるの?」

 どれどれ、とカカシは口に放り込む。

「・・・コレ・・・かぼちゃ?」

 カカシは眉を寄せ、飲み込んだ。

「うん。どぉ?」

「美味しいけど・・・もしかしてゲンマ君にあげるの?」

 ゲンマとは付き合いが長いので、かぼちゃが好きなことをよく知っていた。

 面白くなくて、カカシは口を尖らせる。

「日頃お世話になっているアカデミーの人とかに食べてもらおうかなって思って。ゲンマさんにもあげるよ」

 イルカせんせぇとかにも、とはニッコリ微笑む。

「何でかぼちゃなの? ゲンマ君にあげるついでに皆にもあげるんでしょ?」

 拗ねたような口調で、カカシは茶を注いだ。

「皆に、だよ〜」

 ゲンマさんだけじゃないモン、とも茶を淹れて飲む。

「かぼちゃ以外でもいいじゃない」

「アレ? カカシせんせぇ、かぼちゃ嫌い?」

 いつもちゃんと食べてるよね、とは不思議そうにお菓子をもう一個口に放り込む。

「いや、嫌いじゃないよ。何でかぼちゃなのかなって・・・」

「お菓子作りたいな〜って思ってた時に、ゲンマさんがくれた本に載ってたこのお菓子が、美味しそうだったから作ってみたの。砂糖とかあんまり使ってないから、男の人でも食べられるかなって思ったんだけど」

 甘いの苦手だって言う男の人多いでしょ、とはこくこくと茶を飲む。

『またゲンマ君か・・・』

 面白くなさそうに、カカシはまたお菓子を頬張った。

「ゲンマさんが合格点出してくれたら、もっと色んなの挑戦しようと思ってるんだ」

 次のお菓子が出来上がるのを待ち構え、は席を立つ。

「何でゲンマ君なのよ。オレに味見させといて、それはないんじゃない?」

 プク、と膨れてカカシはヒョイヒョイとお菓子を頬張っていく。

「だって、ゲンマさんって何にでも公平だから。時には厳しいこともビシッと言ってくれるしさ。カカシせんせぇって優しすぎるモン。ちょっと失敗しても、甘いでしょ」

 それはにだけだ、と言うのを自身は分かっていない。

「じゃあもっと厳しくすればいいの?」

「うん。お料理失敗した時とか、優柔不断な時とか、ハッキリ言って欲しいな」

 でもカカシせんせぇの優しいトコ好き、とは微笑む。

「ゲンマ君のことも優しいって言ってたよね。どう優しいの?」

 カカシは子供じみていると分かっていて、ゲンマに対抗意識を燃やす。

「ん〜、カカシせんせぇとはちょっと違うの。厳しい優しさって言うのかな。表に出さないところで優しいの」

 隠れた優しさって言うのかな、と微笑むを見て面白くないカカシは、ゲンマにの手作りお菓子をあげたくなくて、バクバクと口に放り込んでいった。

「あ〜っ、全部食べちゃダメだよぉ。皆にあげる分が無くなっちゃうじゃな〜い。カカシせんせぇには別で作るからぁ」

 も〜っ、とは膨れて器を取り上げた。

 忍びの機敏さで瞬時にの後ろに回り込んだカカシは、器のお菓子を全て平らげてしまった。

「あ〜〜〜〜〜っ!!!!」

「オレに、が普通先でしょ?」

 ゴチソウサマ、とリスのように頬を一杯に膨らませたカカシは湯飲みの茶をゴクゴクと飲み干す。

「も〜っ。いいよ、試作品だと思えば。カカシせんせぇには実験台になってもらお〜。そうすれば先に食べられるから、それでいいでしょ?」

 プン、とは次のお菓子を器に盛って出した。

「実験台・・・ヒドイ・・・」

「次は人参なんだ〜、って、カカシせんせぇ、慌てて食べるから顔にお菓子付いてるよ」

「ん? 何処?」

 ペロ、とカカシは口の周りを舌で舐める。

「取れてないよ〜」

 椅子に腰掛けるカカシの元にやってきたは、カカシの肩に手を置くと、カカシの唇の脇をペロリと舐めた。

 温かな感触が頬を伝う。

「な・・・っ」

 途端に真っ赤になって慌てふためくカカシ。

「うふ。カカシせんせぇ、全部食べちゃったから、近くに行くとかぼちゃの匂いで一杯だね」

 いいにお〜い、私ももっと食べるんだった〜、とはカカシの顔に己の顔を近付けてクンクンと香りを味わった。

 至近距離に美しいの顔があって、カカシは鼓動を高鳴らせる。

 は目を閉じているので、キスを迫られているようで、ドギマギしながらカカシは目を泳がせ、そうだ、次のお菓子を食べて気を落ち着かせよう、と手に取って放り込む。

「あ、次のどぉ?」

 カカシが食べているのが分かって目を開いたは、にぱ、と笑ってカカシの背後に回って背中に抱きついた。

 柔らかな感触が背中に張り付く。

「お、美味しいよ」

 気を落ち着かせるどころではなく、益々鼓動は早まった。

「他の感想無い? こうした方がいいとか、こういうトコが美味しいとか。ゲンマさんだったらもっと色んな事言ってくれるのに。やっぱりゲンマさんの方がこういうの適役だよぉ」

 がゲンマと親しいと知ってから、ことあるごとにカカシはゲンマと比べられている気がして、面白くなかった。

 ゲンマの方が年上で、カカシよりも処世術に長けているのは分かっている。

 自分は任務馬鹿でしかない、と。

 カカシのことしか見ていないと思っていたが他の人間と交流を深めていくのを面白くないと思うことに、カカシは驚く。

 オレはこんなに独占欲が深かったのか、と。

 はオレの“物”じゃない。

 カカシの家から出られないからカカシの元にいるだけで、そうでなければがカカシの元にいる理由がない。

 カカシはそう思っていた。

「? カカシせんせぇ?」

 食べた後黙り込んでしまったカカシを怪訝に思ったは、背後からカカシの顔を覗き込む。

「ね〜カカシせんせぇ、私も食べる〜。ちょうだ〜い?」

 ア〜ン、とは口を開けて待っている。

「あ、あぁ、ちょっと待ってて・・・」

 我に返ったカカシは、お菓子を摘むと、の口に持っていった。

 ぱく、とはカカシの指ごとかぶりつく。

 その行為に、ドクン、とカカシの鼓動は脈打つ。

「あ、良かった〜。美味しい」

 ムグムグ、とカカシの顔の脇ではお菓子を飲み込む。

「お茶飲む〜!」

 カカシの背後から身を乗り出すは、カカシと、頬と頬をくっつけて、湯飲みに手を伸ばした。

 抱きついたまま、はお茶を飲み干す。

「お髭がじょりじょりするね」

 ニコ、とはカカシを見て微笑む。

 先程より一層至近距離の時間が長くて、カカシはに惑わされていた。

「オ、オレ風呂入ってくるよ」

 これ以上くっついていたら理性がヤバイ、とカカシは強引に立ち上がった。

「じゃあ、私はさっきのかぼちゃのをまた作ろうっと」

 るんるん気分で、足取り軽やかには台所に立つ。

 カカシが着替えを取りに行って戻ってくると、は鼻歌まじりにお菓子を作っていた。





って・・・ゲンマ君にもあぁやってくっついてたりするのかな・・・」

 いつもは早風呂のカカシが、珍しく長湯して、バスタブの中で思慮を巡らせていた。

 カカシの中で、の存在が大きくなっている。

 その思いが何なのか、カカシはまだ分からない。

 ゲンマとのことも、お気に入りのオモチャを取られた子供の我が儘のような気もしていた。

 が、はオモチャではない。

 自我のある人間だ。

 に対し失礼だ。

 カカシは、普段使わない方向へ頭を使って、更に長湯して、のぼせてフラフラと浴室を出てきた。

「カカシせんせぇ、珍しく長かったね? 私も入ってこようっと」

 お菓子は出来上がったらしく、バスケットに詰められてあった。

 冷水をゴクゴクと飲み干すカカシは、が浴室に消えるのを見届けると居間に行き、ソファに沈み込んだ。





「カカシせんせぇ? もう寝ちゃったの?」

 が居間にやってくると、灯りが点いていないので不思議に思い、ソファに凭れかかるカカシを背中越しに覗き込んだ。

「起きてるよ〜」

 そう言いつつ、カカシは目を瞑っている。

 にぱ、と微笑むとは、回り込んでソファの前に行き、カカシの股の間にちょこんと腰を下ろし、横を向いて脚をソファの上に投げ出し、カカシの胸に抱きついた。

「ちょ・・・っ、コラ・・・ッ;」

 慌ててカカシは目を開ける。

「抱っこしてv」

 きゅっ、とはカカシにしがみつく。

「抱っこしてって、子供じゃないんだから・・・離れなさいって、

「ヤ〜だ〜。たまにはカカシせんせぇの腕の中にいさせてよぉ。あ〜気持ちイ〜v 極楽極楽v」

 ぴと、とは上機嫌でカカシに張り付いている。

 カカシはパジャマのシャツの前ボタンを留めずにはだけさせていた為、の体温が直に伝わってきた。

 首筋にの熱い吐息がかかる。

「あのね、温泉じゃないんだから。極楽極楽じゃないでしょ。離れてってば、オレマジでヤバイって!」

「あ! 温泉行きたい! 忍びも湯治とかに使うんでしょ? 今度行こうよ」

「そのうちね」

 強引にを引き剥がすと、カカシはを持ち上げて隣に移して座らせた。

「あ〜ん。折角いい気持ちだったのにぃ」

 プク、とは頬を膨らませる。

「オレも気持ち良かったけど・・・ってそうじゃなくて!」

 危ない危ない、と気を取り直してカカシは暗闇の中イチャパラを開く。

 動揺している証拠だが、月光で何とか読もうとした。

「カカシせんせぇはどう気持ちがいいの?」

「えっ」

 思わずカカシはイチャパラを取り落とす。

「私だけかと思ったら、カカシせんせぇも気持ちがいいんだ? じゃあ、もっと気持ち良くなろうよ」

 ぴと、と腕に絡みついて突拍子も無い発言をするに、カカシはゴクリと喉を鳴らす。

「ダッ、ダメダメ!」

「え〜、何でぇ? ぎゅってしてちゃダメなの?」

 カカシの想像する“気持ちいいこと”とのそれは違うのだ、と分かっていながらも、カカシはがっくり項垂れる。

「スキンシップは大切だって本に書いてあったよ?」

「何の本?」

「初めての育児」

 ガク、とカカシは肩をずり落とす。

「そんなことより、今日は何をして過ごしたの? 

「あ〜っ、話題逸らした〜。も〜。あのね、今日はね・・・」

 膨れていたは、今日の出来事をカカシに報告し出すと、熱中して、事細かに話した。

 アカデミーで何を学んだ、とか、火影との会話、病院で能力をどう使った、など、全て話した。

 が、多分、全てではない。

 ゲンマとも会ったと言っていたが、その全ては、ゲンマに言われて幾つかの内容は口止めされている筈だ。

 恐らくは意味を理解せずに、ゲンマの言いつけを守っているだけだろうが、の純粋無垢な性格を利用しているゲンマに、もしかして自分よりゲンマの方がのことを理解しているのではないか、という気になってくる。

 忍びという性質上、洞察眼には長けているが、ゲンマより劣っているような気がする。

 は、10年前の思い出とダブる。

 それがカカシの審美眼を曇らせているのも事実だった。

 他のものに対しては、劣るとは思わない。

 ゲンマが特殊任務に就いている点と、人生の経験値から、ゲンマがそういったことが得意なのも理解できる。

 が、のことで劣るのが、何だか悔しかった。

 の一番の理解者でありたい。

 カカシはそう思う。

 同時に、の“一番”でもありたいと願う自分がいる。

『負けず嫌いなのかな、オレ・・・』

 にとっての一番は何だろう、誰だろう。

 訊いてみたい。

 でも、訊くのが怖い。

 どんな返事が返ってくるのか。

「・・・でね、やっぱり忍びって大変だなぁって思ったよ。自分を押し殺さなきゃだもんね。自分のことより、任務が第一で、でも一番なのはチームワークなんだよね? カカシせんせぇ、いつも言ってるし。カカシせんせぇにとって一番大切なのは、チームワークを重視して、任務を遂行すること?」

「まぁ、そうかな。任務は成功したけど仲間がやられましたって訳にはいかないからね。時には、任務遂行より仲間を守ることの方が大切だったりするよ」

 ついでに訊いてみようかな、と思いきってに尋ねようと思った。

にとって一番大切なのは何かな?」

「ん〜・・・。そうだなぁ・・・一杯あるけど、やっぱり、カカシせんせぇと一緒に過ごす時間かな」

「え・・・」

 カカシは思わず鼓動が高鳴った。

「まだ忍びじゃないから、任務とかチームワークとかは違うでしょ。忍びになったら、カカシせんせぇと一緒に任務したいなぁと思うけど、いつなれるか分からないし。だから、カカシせんせぇと一緒に過ごすのが今の私には一番重要だから、一杯一杯仲良くしたいの」

 カカシは、堪えようとしたが自然と頬の筋肉が緩んだ。

「それなのに、カカシせんせぇは一緒に寝てくれないし、お風呂もダメって言うし、くっつくと離れようとするでしょ? そんなに私のこと嫌?」

 は大きな闇色の瞳を潤ませて、カカシを見上げた。

「や、嫌とかそうじゃなくてね・・・」

「やっぱり迷惑なんでしょ? イキナリ現れた居候だもんね。私が此処から出られないから、仕方なく置いてくれてるんだよね。邪魔なんでしょ?」

 カカシにしがみつくは、今にも泣き出しそうにうりゅうりゅさせていた。

 カカシの鼓動は益々早くなる。

 も同じように考えていたのか、と。

「此処から追い出されちゃうのヤだ・・・」

 カカシせんせぇの傍にいたいよ、と益々強くしがみつく。

、追い出す訳ないだろ? は好きなだけ此処にいていいんだよ?」

 カカシはの肩を掴み、顔を上げさせた。

「ホント・・・?」

 大きな瞳に涙を溜めてカカシを見つめるに、カカシの鼓動は益々早くなっていく。

 抱き締めてキスをしたい衝動を抑えるので必死だった。

「じゃあ、今夜は一緒に寝てくれるの?」

「それはダ〜メ」

「え〜っ、何でぇ? 自立しなさいってこと?」

 プク、とは膨れる。

「そうそう」

 一緒に寝たりなんかしたらどうなるか。

 欲望を抑えきれないのは分かりきっている。

 今だって、下腹部の疼きを抑え込むのに必死なのだ。

 出来ることなら、から離れたい、そうしないと我慢の限界だ。

 だがとは一緒にいたい。

 カカシはジレンマに揺れた。

「もぅっ、此処で寝ちゃおっかな」

 こて、とはカカシの膝枕で横になった。

「こらっ、!」

「眠くなってきちゃったよ〜。オヤスミ〜・・・」

 あふ、とは欠伸をすると、カカシのパジャマを掴んで瞳を閉じた。

 カカシが狼狽している間に、直ぐ様は寝息を立て始める。

 の温もりが脚に伝わり、カカシは益々下腹部が疼く。

 憎からず思っている相手にこんなにも気を許して身を預けられて、何の気も起きない方がおかしい。

、起きてってば! !」

 理性の糸が切れないうちに、とカカシはを起こそうとするが、は気持ちよさそうに、もはや眠りの深淵に行ってしまっている。

「参ったな・・・」

 逸る鼓動を抑えながら、カカシはのあどけない寝顔を見つめた。

 汚れを知らない、愛らしい

 忍者になりたいという。

 カカシには、に血と殺戮のこの世界は向かない、と思った。

『病院に勤めてくれる方がよっぽどいい・・・』

 その方が向いている。

 は、カカシと一緒に任務がしたいという。

 が、カカシは、もしそうなったら、に気がいって任務どころではなくなったりしたらどうしよう、と思ってしまう。

・・・悪いけど、の夢は叶えさせたくないな・・・』

 寝息を立てるをそっと抱き抱えると、カカシは居間を出て寝室に向かい、をベッドに横たわらせた。

 の掴んでいるカカシのパジャマの手をゆっくり剥がすと、チャクラを練り込んだ人形を抱き締めさせ、静かに見つめる。

「ぅ・・・ん・・・カカシせんせぇ・・・」

 に対するこの思いが何なのか、まだカカシには測りかねた。

 一緒にいると癒される存在。

 可愛いと思う。

 でも、それ以上はまだ考えられなかった。

 頬にキスを落としていこうかと思ったが、眠れなくなりそうだったので、グッと堪えて寝室を後にした。















「豊穣祈願祭?」

 翌日、火影の元で話をしていると、火影は話を持ちかけた。

「うむ。文字通り、毎年、穀物の豊穣の祈願をする祭りじゃ。火の国で行われていたものを、木の葉の里でも行うようになっての。出店なども出て、ちょっとした盛り上がりの祭りになるんじゃ」

「お祭りかぁ。楽しそうですね」

「それでの、この話を持ちかけたのは、に頼みたいことがあっての」

「私に? 何ですか?」

「うむ。秋にも豊穣祭があるんじゃが、初夏の祈願祭では、豊穣を祈願する儀式があっての。それには里の若い娘に巫女役になってもらうのじゃが、里で一番美しい娘がなると決まっておって、16から24までの間の里の娘の中で、寺院と祭りの実行委員で選び、儂が任命しておる。それを、今年はに頼みたいのじゃ」

「私がですか? でも、私、里の人間じゃないですよ。ちゃんと、里の人を選んだ方が・・・」

「何を申すか。そなたはもう立派に木の葉の人間じゃ。病院でも里に貢献しておるし、現に実行委員の目に留まったではないか。この巫女役は名誉なことなのじゃよ。里の娘達は誰もがなりたがり、ステイタスのように考えておるんじゃ」

「だったら尚更、そういうなりたい人にやってもらった方がいいですよ。私みたいな異国人がやると知ったら、皆いい気持ちがしないと思います」

「大丈夫じゃ。お主の美しさを見れば、誰もが納得する。、やってくれぬか」

「・・・分かりました」











 午後、病院での務めを終えて帰ろうとしているの元に、数人の女性達がやってきた。

 は、訳も分からぬまま、消毒液の瓶を投げ掛けられ、びしょ濡れにされる。

「え・・・何・・・?」

 凄い匂いだぁ、とキョトンとしているに、1人の女性が罵声を浴びせる。

「何よ! アンタなんか、里の人間じゃないくせに! 行きずりの異国人が、何で里の祭りの巫女役なんてやるのよ! どうせ権力使ってモノにしたんでしょ! 最低!」

 緩やかにうねる背中までの黒髪、すらりと伸びた手足、目鼻立ちの整った美しい女性が、物凄い形相でまくし立てる。

「どういう意味ですか? アナタだぁれ?」

 は訳が分からず、キョトンとし、柔らかく微笑んで女性を見つめた。

 背後に立つ仲間の女性が、援護する。

「このオトハはね、16になった時からこれまで4年間、ずっとこの里の祭りの巫女役をやってきたのよ。つまり里一番の美しい娘って訳。今年もオトハになる筈だったのに、直前になってイキナリ違う人に決まりましたって言われたのよ。これは木の葉の里の祭りなのよ。異国人がなっていい訳ないじゃない」

「ん〜でもぉ・・・。私がなりたいって言った訳じゃないし・・・」

 困ったな、とは寂しく微笑む。

「下りてよ! 巫女役!」

「それは構わないですけど、そういうのって実行委員って人が決めてることみたいだから、アナタに代わってもらえるように言って下さい」

「え・・・いいの?」

 嫌だ、と断られると思っていたオトハは、ニッコリ微笑むに、拍子抜けした。

「言われたとおり、私は里の人間じゃないし、私もそういうのは里の人がやる方がいいって思うから。でも、火影様にお願いされたからな・・・」

 断るのも失礼な気がするし、どうすればいいのかな、とは考え込んだ。

 オトハは、まじまじとを見た。

 悔しいが、自分よりも遥かに美しい。

 直前変更も頷ける。

 だが、オトハにも、4年巫女役を務めたという、誇りがあった。

 今年は、火の国の大名や貴族達も大勢見に来るという。

 上手くすれば、見初められて、良い家柄の所への嫁入りも可能だった。

 その為に、オトハはもっと美しくなる為に己に磨きをかけてきた。

 が、イキナリ現れた異国人にアッサリと夢を奪われる。

 納得できなかった。

 それなのに、このは、いとも簡単に、譲ると言う。

 汚れのない清らかなの微笑みを見て、オトハは自分がとても醜く思え、恥ずかしくなった。

「何の騒ぎじゃな」

 水晶球で事の次第を見ていた火影が、病院に現れた。

「ほ、火影様!」

 女性達は狼狽え、気まずい思いで後退る。

「あ、火影様v さっきお願いされた巫女役のことですけど、この人に代わってもらえませんか?」

「うむ?」

 オトハはギョッとして、慌てふためく。

「い、いえ、何でもないんです!」

「え? でも、アナタやりたいんでしょ?」

「いいの! アナタの方が綺麗だし、私なんか・・・」

 納得のいかない1人の女性が、火影に意見した。

「火影様、恐れながら申し上げます。このオトハは、4年巫女役を務めた、誰もが認める里で一番美しい娘です。確かにこの人はオトハより美しいですが、里の人間じゃないじゃないですか。神聖な儀式に、何処の誰とも知れない異国人を巫女役にするなんて、納得できません」

「ちょっとっ、やめてよっ!」

「ふむ・・・オトハと言ったな。確かに今年もお主になる予定じゃった。じゃが、ここ最近のこのの里への貢献振りを見た実行委員が、を巫女にしたいと言うて来てな。美しさもさることながら、深いチャクラを宿しておる。それが一番の理由じゃ。木の葉は忍びの隠れ里、巫女役もくの一がやっておったのが、ここ近年、お主がやってきたが、強いチャクラを持つことも重要なのじゃ。分かってくれぬか」

「チャクラ・・・」

 そう言われれば、そうだった。

 オトハになる前は、里一の美人くの一がやっていたのを覚えている。

 オトハが選ばれた理由は、前任者のくの一が任務で忙しいからと断った為で、そうでなければ、一般人のオトハが選ばれるのは、むしろ規定外なのだった。

 一般人であるオトハには、が強いチャクラをもっていると言われても、分からない。

火影が言うのだから間違いない、と思うのみだ。

「私が浅はかでした。恥ずかしいです。申し訳ありませんでした」

「いや何・・・そうかしこまらぬでよい。お主には、別の依頼が来ておる」

「え?」

「オトハよ、お主は、火の国の祭りの巫女役をやってくれぬか」

「えぇっ?!」

「ここ近年の木の葉の巫女役の書類を見た火の国の実行委員が、お主を見初めての。お主は美しい。これは木の葉としても名誉なことじゃ。どうじゃな?」

 柔らかな笑みで、火影はオトハを見つめた。

「そんな・・・私なんか、巫女役を下ろされたからって相手に嫌がらせをするような醜い心の持ち主です。美しさを磨いてきたつもりが、内面にまで気を配ってませんでした。この人は中も外も美しいです。火の国の巫女役だなんて、恐れ多いです」

「そうかなぁ? アナタはとっても清らかだって思いますよ。純粋で、真面目だと思う。とっても努力してる。良かったじゃないですか」

 ニコ、と微笑むが、聖母のように見えた。

「でも・・・」

「お主は木の葉の誇る美しい娘じゃ。胸を張って、受けるが良い」

「は・・・はい・・・有り難う御座います・・・」

 オトハの瞳に、キラリと光るものがあった。















「アレ? 、朝と服装違うね。どうしたの?」

 任務が終わって帰ってきたカカシは、夕食の支度をしているの格好を見て尋ねた。

「ん〜、あのね・・・」

 は、事の次第をカカシに報告する。

「へぇ。祈願祭の巫女役かぁ。そういや、里一の美しい娘がやるんだっけ。もうすぐだったな。が選ばれるなんて、それだけ里に貢献してるって事だよね。だから目に留まったんだ。すっかり里の住人だね、

 ニッコリとカカシは優しく微笑む。

「えへ。そう言われると嬉しいな」

「儀式は、一応公開されるんだよね。里の人間は見に行くし。でも、オレ達忍びは任務が第一だからな。祭りに行くから代わりに普段の仕事を、みたいなDランク任務がこの時期は集中するんだよ」

 オレもの巫女姿見たかったなぁ、とカカシは食事をしながら呟く。

「でも、木の葉って忍びが大半じゃないの? 全員任務って訳じゃないでしょ?」

「下忍を担当してると、その分Dランク任務が回されるからね。中忍以上の方が、却って見に行ける確率は高いんだよ」

「そっかぁ」

「まぁ、祭りに乗じて悪巧みをする連中もいるから、危険の芽を摘む為に、中忍以上も里外に狩り出されるのも事実だけどね」

 その日の晩、カカシは祈願祭について、に詳しく話して聞かせた。













「ねぇ、カカシ先生。今日はさん来ないの?」

 任務の休憩中、サクラはカカシに尋ねた。

 ナルトとサスケは昼寝していた。

「この間ウチで会ったっきり、顔出しに来ないなんて。そろそろ来るかなって思ったのに」

「あぁ、も忙しいからな」

 イチャパラを読み耽りながら、カカシは答えた。

「病院? でも、カカシ先生に会いたいよ〜って来るんじゃないの」

、祈願祭の巫女役に選ばれたから。今日は確か、予行演習だよ」

「祈願祭の巫女役?! アレって里一の美人がなれるんでしょ? さっすがぁ。さんの巫女役かぁ、似合いそう」

「オレの家にやってきた時に着てた祭礼みたいな服も似合ってたし、天職っぽい気がするよ」

「案外、さんの本職かも知れないわよね」

 見に行きたいなぁ、とサクラは空を仰ぐ。

「残念ながら、任務だよ。夜の祭りでも楽しみなさ〜い」

「ちぇ〜。あ! ねぇねぇ、カカシ先生。祭りの日、任務が終わったら皆でお祭り見て回ろうよ」

「皆って、ナルトやサスケか?」

さんもよ。いいでしょ?」

「ん〜まぁ、別に構わないけど・・・」

「キャ〜ッ、楽しみ〜っ! 花火もあるし、カカシ先生、さんと2人っきりでいいムードにもっていって急接近よ! 私達でお膳立てしてあげる!」

「あのね、サクラ。オレで遊ぶな」

 ハァ、とカカシは息を吐いた。















 祈願祭当日。

 御輿に担がれ、化粧を施され祭礼衣装に身を包んだ一行が、街を練り歩いて祭礼会場に向かう。

「はぁ・・・今年の巫女様は、何と美しいことか。この世のものとも思えぬ天使のような美しさだ」

 御輿の一行を見に集まってきた里の人々は、口々にを褒め称え、美しさに見惚れた。

 会場に着き、儀式に乗っ取って、恭しく進められていく。

 式に出席している火の国の大名や貴族達も、の美しさに感嘆する。

 予行演習の通りに祈りを捧げると、豊かなチャクラが里を覆っていった。

 予想以上に強大になってきているのチャクラに、臨席する火影も少々驚く。

 チャクラの分からない人々でさえ、癒されるように心地好いのを肌で知った。





 任務で駆け回る忍び達もそれに気付く。

「このチャクラ・・・さんよね・・・すご〜い・・・」

 サクラは空を仰ぎ、己のチャクラが全身に漲ってくるのを感じた。

「何だってばよ、これ?! ホントに姉ちゃんなのか?!」

「チィ・・・」

「驚いたな・・・予想はしてたけど、これ程とは・・・」

 カカシ達は、心地好さに身を委ねた。





「何だぁ? スゲ〜な、おい。このチャクラ、何だよ」

 任務中の紅率いる第8班、キバは赤丸を肩に乗せ、空を仰いだ。

「あぁ、祈願祭の巫女でしょ」

 随分強いチャクラね、と紅も空を仰ぐ。

「そっか、今日祭りだもんな。だからオレ達は忙しい、っと。でもさ、巫女役って、ここ4年くらいずっと同じ女がやってたんだよな? 確か。今年は違うのか」

「そのようね。詳しくは知らないけど、直前になって変更されたって聞いてるわ」

「本来ならくの一がやってたのを、最近は一般人がやってたんだよな。確かその前まで、紅センセーがやってたんじゃなかったっけ?」

「何で知ってるのよ!」

 キバに指摘され、紅はやや頬を染める。

「だって毎年見に行ってたもん、オレ。だから紅センセーが担当上忍だって知った時、あ、巫女やってた人だ、ってすぐ分かったぜ」

「あの・・・何で辞めちゃったんですか? 巫女・・・」

 モジモジしながら、ヒナタは尋ねた。

「任務が忙しかったのよ。この巫女役は大変名誉なことだけど、その時期に丁度長期任務に当たっていてね。祭りよりも任務の方が重要だったから、恐れ多いとも思ったけど、辞退したって訳」

「先生らしい・・・」

 シノもポツリと呟いた。

「今年は相当チャクラの強い人物がなったみたいね。そんなくの一、木の葉にいたかしら」

「里一の美人でチャクラの強い忍びだろ? センセーも知らない忍びがいるのかよ」

「そう言われるとおかしいわね・・・」

 把握してるつもりだったけど、知らない忍びがいたのかしら、と紅は呟いた。

「ま、木の葉は忍びが大勢いるからね。把握しきれないか」

 そう言うと、手を止めていた紅達は任務を再開した。















 夕方になってようやく解放されたは、やや疲れの表情を見せながら、街中を歩いていた。

 すれ違う人という人が、巫女役を務めたを目に留め、話し掛けてくる。

 その度に二言三言言葉を交わし、頭を下げていくので、はなかなか家に帰れなかった。

 その様子を見つけた任務帰りのサクラが、見かねてを救出しようと、の元へ駆けていく。

さん! 良かった、やっと会えた。待ち合わせの場所に来ないから、心配しちゃったよ、行こ?」

「え・・・?」

 訳が分からずキョトンとしているの腕を引っ張って、サクラはずんずんと歩いていった。

 そのままサクラはを自分の家に連れてくる。

「さ、もう大丈夫よ。お疲れ様、さん」

 ニコ、と振り返ってサクラは微笑む。

「助けてくれたの? サクラちゃん。有り難う」

 祭りって人が一杯いて凄いね、とは息を吐いた。

「暗くなればそんなに顔も分からないから、大丈夫だと思うわよ。カカシ先生達と約束して、一緒に出店とか回って、花火観ようって言ってるんだ。サスケ君やナルトもね。さん、一緒に行こう」

 部屋に通し、座り込む。

「いいの? わ〜、嬉しいな。今までずっと偉い人達とかの相手してたから、まだ全然見て回れてないんだよね。楽しみ♪」

「疲れたでしょ」

「ん〜? そんなでもないよ」

さん、普段お化粧してないけど、すると益々綺麗ね。見惚れちゃうわ。凄い偉い人みたいで、天使様、って感じ」

 口を利くのもおこがましく思えちゃう、とサクラはまじまじとを見つめた。

「そんなことないよ〜。お化粧落とすから、洗面所借りていい?」

「え〜っ、勿体な〜い! カカシ先生に見せようよ。絶対見惚れちゃうから」

「え、カカシせんせぇ喜んでくれる?」

 ぱぁっとは花が咲いたように笑顔を見せる。

「うん! あ、そうだ。私、浴衣着ようと思ってるのよ。さんも着ない?」

「でも、私浴衣持ってないよ」

「母さんのヤツ借りようか。待ってて、訊いてくる」

 サクラは部屋を出ると、母親に、若い頃に着ていた浴衣が無いか、尋ねた。

 暫くして、戻ってくる。

「母さんが若い頃着てたのがあるって。着付けしてくれるって言うから、行こ?」









「サックラちゃ〜ん! お待たせ〜!」

 上忍待機所、人生色々の前で待ち合わせていたサクラ達は、ナルトが上機嫌でやってくると、サクラは叫んだ。

「遅いわよ、ナルト! レディを待たせるなんて、ダメね!」

「ゴメンゴメン。アレ、サスケのヤツは来てないのかってば?」

「来てくれないのかなぁ。来るって言ってたんだけどな・・・」

 折角サスケ君の為に浴衣着たのに、とサクラはしょんぼりする。

「サクラちゃん、スッゴイ似合ってるってばよ!」

 ナルトはうっすらと頬を染めた。

「アンタに褒められてもね・・・」

「サクラちゃん、姉ちゃんは?」

 まだ? とナルトはキョロキョロとサクラの周りを見渡す。

「そこで里の人に捕まって世間話に付き合わされてるわ。浴衣着たら、益々目立つみたい」

「サスケ呼びに行ったのかと思ったってばよ」

「待ってて、さん救出してくるわ」

「オレがどうしたって?」

 憮然としたサスケが、吐き捨てるようにやってくる。

「あっ、サスケ君vv 来てくれたの、嬉しいvv」

「あぁ・・・」

 サスケの目にはサクラはスルーされ、サスケとナルトは、サクラの連れてきたに目を奪われた。

姉ちゃん、キレー・・・」

 サスケとナルトは、揃って顔を赤らめる。

 サクラは少々寂しかったが、来てくれないかもと思っていたサスケは来てくれたことだし、には勝てない、と最初に浴衣を着せた時点で思っていたので、サスケが来てくれただけでも良しとして、諦めた。

「おっ、皆揃って・・・る・・・な・・・」

 詰め所を出てきたカカシが、手を挙げてやってくるとカカシは言葉を失った。

・・・ッ;」

 儀式の時に美しく施された化粧に、鮮やかな色合いの浴衣、長い髪をまとめ上げ、その艶やかな美しさに、道行く人々は皆振り返っていっていた。

「どぉ? カカシ先生。さん綺麗でしょ?」

「あっ・・・、あぁ、うん・・・」

 口布と額当てで顔が殆ど隠れていてハッキリとは分からないが、顔を赤らめているのは確かだった。

 妙にドギマギして、視線を泳がせている。

「さっ、行こ?」

「サスケ君とナルト君も浴衣着ればいいのに」

 男の子達も着てる子結構いるよ、とは歩きながら顔を覗き込む。

「んなモン、持ってねぇよ」

「オレも着たことないってばよ」

「じゃあ、変化の術使えば?」

 着てるの見たい、とはせがんだ。

「ちっ・・・」

 どうもには弱いサスケとナルトは、道行く子供を参考に、浴衣姿に変化した。

「わぁ、可愛い〜vv」

 じゃなかった、カッコイイって言わなきゃ気を悪くするかな、とは満面の笑みを向けた。

 照れながら、サスケとナルトは対抗意識を燃やしつつ、屋台を見て回った。

「ねぇ、カカシせんせぇも浴衣着てよ」

 ぴと、とはカカシの腕に絡みつく。

 結い上げられて露になっているうなじが色っぽくて、カカシは鼓動が早くなる。

 の美しさに、思わず見惚れてしまう。

「写輪眼を何もないのに外で露にする訳に行かないよ」

 オレはサスケみたいに普通の目には戻せないから、と冷静を務めて答える。

「目を瞑っててもダメ?」

「うん」

「ちぇ」

 カカシが狼狽えているのを陰で楽しんでいたサクラは、素顔が見れるチャンスだったのに、と舌打ちした。

 素顔をこんな大勢の人前で晒したくない、というのがカカシの理由だった。

「サスケくぅ〜ん。金魚すくいやろ?」

「オレ、ヨーヨー吊り〜!」

 ワイワイと騒ぎながら、思い思いに祭りを楽しんだ。





「賑やかで楽しいね」

 ナルトから貰ったヨーヨーとサスケのすくった金魚を手に、サクラ達を追いかけながら、は後ろを歩くカカシを振り返った。

 カカシは、の余りの美しさに、直視できない。

 巫女の儀式は、さぞかし美しかったのであろう。

 聞こえてくる噂話や、に話し掛けてくる人々を見て、そう思った。

 天使のようなを見ていると、心が踊る。

 鼓動が早くなる。

・・・オレに幻術かけてないよね?」

「え? 幻術? かけてないよ? 何で?」

 キョトンとして、は微笑む。

「い〜や、かけてる。の幻術は、オレには幻術返しできないからね。の方が上だから」

「そんなに力、私無いよ〜」

「オレを気絶させられるくせに」

「無意識下までは責任もてないよ。でも、幻術ってどんな?」

「う・・・ま! いいや。、綿あめ食べる?」

 答えられないカカシは、顔を赤らめ、屋台を指さした。

「あ、ごまかした。ずる〜い。ナニナニ〜?」

 くるん、と踊るようにはカカシを見上げる。

 の背後では、サスケとナルトが何やら言い合っていた。

 子供じみた対抗心で、お互い負けず嫌いで、譲ろうとしていないのを、ハラハラしながらサクラが間でオロオロしていた。

 取っ組み合いでも始まりそうな程に喧々囂々していると、人混みで2人は身体が押され、その勢いでの背中にぶつかってしまった。

「きゃっ・・・」

 勢いが強く、そのままはつんのめってカカシの胸に飛び込んでいく。

「おっと・・・」

 カカシはを抱き留めようとしたが、勢いがつきすぎていて、カカシも人混みに押されて足元が覚束なくなり、カカシはを抱き締めたまま尻餅をついた。

「きゃあv」

 サクラは思わずニンマリする。

 ナルトも目を丸くしてニタニタし、サスケは面白くなさそうに舌打ちする。

 とカカシは、口布越しに唇と唇が重ね合っていた。

 尻餅をついた衝撃で、暫く2人は動けない。

「てて・・・、大丈夫? 怪我してない?」

 部下や大勢の人目の手前、動揺を隠し、カカシはを抱き起こす。

「・・・口寄せの術?」

 何も出てこないね、とはカカシの腕の中で呟く。

「あのね・・・怪我は?」

「あ、うん。ごめんなさい、カカシせんせぇ。カカシせんせぇは大丈夫?」

「オレは平気。立てる?」

「うん」

 カカシはを立ち上がらせると、砂埃が浴衣に付いてないのを確認し、己に付いた砂埃を払った。

姉ちゃん、ゴメンってばよ」

「・・・悪かった」

「全く、ナルト、サスケ! 喧嘩する程仲がいいとは言うけど、人の迷惑を考えろ! ただでさえ人出が多いんだから、はしゃぎすぎるな」

「「誰が仲がいいんだ(ってばよ)!」」

 声を揃えて講義する中、サクラはニヤニヤとカカシの脇をつつく。

「ほらぁ、こういう時口布してると損するのよぉ。してなければ生で直接、あの柔らかい唇を味わえたのにv」

 ウリウリ、とサクラは笑いが込み上げてきて止まらない。

「あのね、余計な気を使わなくていの」

 照れ隠しに吐き捨てた時、丁度花火が夜空を彩った。

「わぁ、始まった! 見晴らしのいいトコに見に行こ?」





 場所を移動して花火見物している中、目を輝かせて花火を楽しんでいるを横に、カカシは花火どころではなかった。

 先程の口布越しのハプニングが、脳裏から離れない。

 まだ感触が残っている。

 本当に、サクラじゃないが口布が邪魔だった。

 そう思う自分に顔を赤らめる。

『男の欲求、男の欲求・・・』

 そう言い聞かせつつ、カカシには分かっていた。

 だが、まだ言葉には出来ない。

 がそういうことを自覚するまで。

「気が遠くなるな・・・」

「え? 何か言った?」

 カカシの身体に抱きつくを見遣り、優しく微笑みかけると頭を撫で、肩を抱き寄せた。

「何でもないよ。綺麗だね」

「うん、花火綺麗! 楽し〜!」





 綺麗なのはだよ。







 2人の距離は、一歩だけ近付いたかも知れない。









 END.