【幼馴染み】







「ね〜、カカシ兄ィ〜、味噌汁の具、何にする〜?」

 夕暮れ時、居間でイチャパラを読んでいるカカシに、は台所から尋ねた。

「ん〜、茄子〜」

「え〜、アサリ買ってきたのにぃ。アサリじゃダメ〜?」

「だったら訊かないでよ〜。オレは食べたいものを言っただけだからね〜。が何がいい? って訊くから〜」

「しょうがないなぁ。アサリは酒蒸しにしよう」

 茄子を縦切りにしながら、ふとは思う。

 そ、と足音を立てずに、開けっぱらった居間へ向かう。

『え〜い!』

 先程まで茄子を切っていた包丁を、カカシの背中目掛けて振るい下ろす。

 ザクッ、と手応えを感じた。

『やっ・・・』

 が、そこにあるのは包丁を突き立てられたクッション。

 は背後に殺気を感じ、ビクリとした。

 冷たいモノが、首筋に突き付けられている。

 カカシが背後で、クナイをに当てていたのだった。

「酷いなぁ、。包丁で刺すなんて。オレのこと殺したいの?」

 クナイをしまったカカシは、イチャパラを閉じて机の上に置き、を背後から抱き締めた。

「だってぇ。忍びであるからには、一度くらい、カカシ兄に勝ってみたいモン」

 カカシに身を預け、は膨れた。

「しょうがないなぁ。じゃ、オレから一本取れたら、の言うこと、何でも聞いてあげるよ」

 口布越しに、ちゅ、との頬にキスをする。

 よしよし、と頭を撫でる。

「子供扱いしないでよね! もう24よ! カカシ兄ってば、いつまで経っても私のこと、子供扱いするんだから」

 頬を染めながら、は口を尖らせた。

「あはは〜。だって、のことはちっちゃいガキの頃から見てきてるからさぁ、ついね。アカデミー入り立ての、7歳の頃のつもりで見ちゃってさ。ゴメンネ?」

 ポンポン、と再び頭を撫で、頬をくっつけ、ニッコリ微笑むと、から離れてソファに座り直した。

「私ってそんなに成長してない〜? 出るトコ出て、引っ込むトコ引っ込んでるんだけどなぁ・・・」

「ハハ、そうやって口にする辺りがね。恥じらってみたり、色気で迫ったりしてみてよ」

「そう? じゃ、お言葉に甘えて・・・」

 はカカシの前に回り、カカシの座るソファに座り、カカシの首に手を回して、耳元に近付き、囁こうとした。

 が。

 途端に真っ赤になって、ボンッと照れてしまった。

「あははは・・・。ダメじゃない、そこで照れちゃ」

「だ、だって・・・」

「こうするんだよ」

 そう言ってカカシはを押し倒し、上にのし掛かり、口布越しにの首筋に顔を埋め、衣服の中に手を潜り込ませようとした。

「ゃ・・・!」

 動揺し、身を強張らせる

「ちゃんと色仕掛けや色事の訓練受けてるでしょ? 何で出来ないかなぁ」

「任務なら出来るモン!」

「練習で出来ないで、実践で出来る訳無いでしょ。気心知れたオレ相手だから、やりにくいのは分かるけどさ」

 カカシはの上に覆い被さったまま、喋り続ける。

「だからこそ、出来なきゃダメなんだよ。誰が相手でも、冷静にこなせないとね」

 ちゅ、と口布越しに額にキスを落とす。

 微笑みながら、カカシは上体を起こした。

「カカシ兄、意地悪!」

 は涙目で抗議し、カカシを睨んだ。

「そんなんで、ホントに明日からやっていけるの?」

「実践なら大丈夫って言ったでしょ!」

 起き上がって、言い放つ。

「え〜。信じられないなぁ。、本当に上忍に昇格できたの?」

「失礼ね! ちゃんと火影様から、お達しがあって、拝命受けたんだからね!」

「5代目の目は大丈夫なの? 里の未来が心配だなぁ・・・」

「ヒッド〜イ!!」

 ポカポカ、とはカカシを殴った。

 が、全て掌で受け止められる。

「冗談だよ。昇格おめでとう。明日から一緒に頑張ろうね」

 暴れるを優しく腕の中に抱き込み、囁いた。

「さ、紅達が今度祝ってくれるらしいけど、今日はオレだけね。夕飯どこまでできてる? 食べに来といてナンだけど、オレがお祝いに作ろうか?」

 カカシは立ち上がって、台所に向かう。

「え〜、いいの?」

「オレの方が料理上手いもんね♪」

「む。私だって上達したわよ! 私が作る!」

 負けず嫌いのは癇に障り、カカシを押しのけて台所に立った。

「アサリの酒蒸し、好きだよね。オレが作ってあげるって」

「いいの、私が作りたいの!」

のお祝いなのに〜」

「だから、私の成長した姿を見てもらうお祝いでしょ?! 料理も同じよ!」

「そ? じゃ、期待しないで待ってるよ♪」

「もうっ、カカシ兄って一言多い!」

 カカシは笑いながら食卓に着き、の後ろ姿を眺めていた。





「はい、お待たせ〜。腕によりを掛けたから、美味しいわよ〜」

 食卓に料理を並べ、は自慢げにふんぞり返る。

「確かに美味しそうだ。腕上げたね、

「当然でしょ。いつでもお嫁に行けるわよ」

「貰い手がいればいいけどね」

「ひっど! 居なかったら、カカシ兄が貰ってよね」

「いいよ〜。いつでもおいで♪」

「カカシ兄って、どこまで本気か分かんない・・・」

「あはは。いただきま〜す」

 す、と口布を下げ、食べ始めるカカシ。

 カカシもも熟練した忍びの為、食べるのも必然的に早かった。

 瞬く間に料理は片付く。

 食べ終わって箸を置くカカシは、すぐに口布を元に戻して、ゴチソウサマでした、と手を合わせた。

「美味かったよ、

「カカシ兄、明日もご飯作ったげる。泊まってってよ」

「いいの?」

「幼馴染み同士で、気を遣う必要ないでしょ。勝手知ったる、じゃない」

 着替えだってウチに置いてあるでしょ、とは片付けを始めた。

「そぉ? じゃ、泊まってっちゃおっかな。帰るったって、向かいのアパートだしね」

「お風呂湧かしてあるから、入ってきていいよ」

 着替えは寝室から持っていって、とは洗い物を続ける。

「一緒に入る? 

「なっ、ななな、何言ってんのよ!」

 は真っ赤になって、思わず食器を取り落とした。

「オレって兄弟居なかったから、一緒に入ったりってしたこと無いんだよね。は妹みたいなモンだし、童心に返ってさぁ・・・」

「返りすぎでしょ! 3つとか4つとかじゃなきゃ入らないでしょうが! カカシ兄と会ったのは、もう7歳だったわよ! カカシ兄だって9歳で、親とじゃあるまいし、それでお風呂に入る訳無いでしょ?! 馬鹿なこと言ってないで、サッサと行って!」

 真っ赤になって、は唾を飛ばした。

「ちぇ〜、ダメかぁ・・・期待してたのに・・・」

「何の期待よ! もう・・・」

 浴室に逃げるカカシを見送ると、は息を吐いた。

「ちぇ・・・妹かぁ・・・」





 は、入浴中のカカシに、奇襲を掛けようとした。

 が、既に上がった後。

「ふ〜、いいお湯だった。〜、上がったよ〜」

 風呂上がりのカカシは、既に口布をしていた。

 家の中くらい、外していればいいのに、とはいつも思うが、カカシは食べる時と飲む時以外、滅多に口布は外さなかった。

「奇襲作戦、残念でしたぁ〜」

「烏の行水なんだから」

「あはは」

「カカシ兄、覗かないでよね」

「いいじゃない、減るモンじゃなし」

 オレのを覗こうとした癖に、とべったり抱きつく。

「覗こうとしたんじゃないの! 一本取ろうとしたの!」

「同じ事でしょ。背中流してあげるって」

「結構です〜。冷蔵庫にお酒入ってるから、勝手に飲んでて」

「サンキュ〜」

 が浴室に消えると、カカシは冷蔵庫を開けた。

って、甘いのしか飲まないよね? オレは辛口なんだけどな〜。あ、ジンとかあるんじゃん。オレの為に買っててくれたんだ? 気が利くなぁ・・・」

 プルトップを開けて口布を下げて一口飲むと、寝室に向かった。

 ぼふん、とベッドに倒れ込む。

「あ・・・の匂いだ。甘い匂いだなぁ・・・」

 上体を僅かに起こし、酒を含む。

「すっかり綺麗になって、もう大人のいい女になっちゃったよな・・・いつまでカカシ兄って言ってくれるんだろ・・・」

 いつか離れていく時が来るのかな。

 カカシは、物寂しくなった。

酒を飲み干すと、枕に顔を埋める。









「ふ〜、あったまった〜。カシス飲んじゃお」

 身綺麗に整えてきたは、冷蔵庫を開けて酒の缶を取り出す。

プルトップを開け、一気に流し込む。

「今度、カカシ兄と呑みに行きたいな〜。誘ってみようかな・・・」

 飲み干して缶を捨てると、寝室に向かう。

「ね〜、カカシ兄〜・・・」

 ドアを開けると、カカシはベッドの上で、眠り込んでいた。

「チャ〜ンス!」

 そ、と抜き足差し足、忍びより、カカシに襲いかかった。

 が、すんでの所でカカシはぱっちり目を開け、を抱き留めた。

「あ〜ん、もう・・・」

「ざ〜んねんでした〜。オレの寝込みを襲うなんて、10年早いよ」

「ちぇ」

 カカシはを抱き締めたまま、離さない。

「ちょっと・・・いい加減離してよ」

「抜け出てごらん? 縄抜けの応用で」

「もう・・・」

 はもぞもぞと、動き回った。

 が、カカシの捕縛から、逃れられる訳もなかった。

「何か、変な気になっちゃいそう」

「! もう、スケベ!」

「だって〜、いい女とくんずほずれつやってたら、そう思うモンでしょ」

「言ってることが違わない? カカシ兄だって、色事や色仕掛けされる訓練やってるんでしょ? 冷静に対処するモンじゃないの」

「時と場合に寄るなぁ。今は別♪」

 カカシはズルズル動いて、の豊満な胸に顔を埋めた。

「! 自分ばっかりずるい・・・っ」

 は頬を染めながら、カカシから離れようとした。

「あ〜、極楽極楽」

 が、カカシはシッカリしがみついていて、離すことが出来ない。

「温泉気分出してないで! 離してよ!」

「ヤだ〜。気持ちイ〜v 眠くなってきたよ・・・オヤスミ・・・」

 むにゅむにゅ、とカカシは夢の中へ誘われていた。

「ちょっ、此処で寝る気?」

「何処で寝ればいいのさ〜。オレとの仲でしょ?」

 瞳を閉じたまま、カカシは呟く。

「ソファで・・・っ」

「此処がいいv」

 ごろにゃん、と猫のように、カカシは甘えた。

「あ〜、大きな猫がいる・・・」

 真っ赤になって動揺しているのを、カカシに気付かれたくない。

 忍びの習性で感情を押し殺し、逸る心臓の鼓動を戻した。

 猫科の動物を口寄せ契約しているは、忍猫に懐かれているつもりになって、冷静を保とうとした。

『これって・・・思えばチャンスだよね・・・どうしてくれよう・・・』

 おもむろに、カカシの口布を下げようとした。

 が、手を掛けた時点で、カカシは目を見開く。

「きゃっ」

 ビクリとして、仰け反る。

「そうそう隙は見せないよ♪」

「もう・・・。ねぇ、寝る時くらい、口布外せば? 始終気を張ってるみたいで、疲れない?」

「慣れてるからね。平気」

 20年以上してきてるのだから、分かる。

 が、何か気を許してもらえていない気がして、は寂しかった。

「何でそんなに口布にこだわるの?」

 の問いかけに、カカシは答えない。

「・・・カカシ兄?」

 一瞬の間が置かれた。

「食べる時と飲む時に、一瞬だけ下げるだけでしょ? 後はずっとしたままでさ、何で?」

「・・・あんまり自分の顔を見せたくないし、見たくないんだ。オレもね」

 カカシは普段から口布をし、左目の写輪眼を隠すように額当てを斜めにしている。

 顔の露出が、極端に少ないのだ。

「・・・私にも?」

「・・・ゴメンネ。自分の顔を見てると、嫌でも昔を思い出すし、相手も思い出すでしょ? だから、ね」

 そう言えば、カカシの家には、鏡がない。

 そうか。

 カカシはまだ、“白い牙”へのトラウマがあるんだ。

 自分にそっくりの、父親。

 年々、益々似ていくカカシ。

 その顔を見たくない、見せたくない、のだろう。

 普段は飄々としてすっとぼけているけれど、まだ忘れられないんだ。

 決別できていないんだ。

 完成された人間のように思えたカカシが身近に感じられ、不謹慎とは思いつつ、は嬉しかった。

 ちゅ、とカカシの額に口づける。

「オヤスミ、カカシ兄。良い夢見てね・・・」

 抱き合って、2人は眠った。















 ある日、紅とアスマが、の上忍昇格祝いをしてくれることになった。

 先に来ていたアスマ達は、カカシとの初任務から帰ってきた2人を出迎えたが、カカシとは、何やら言い合っていた。

 どうやら、が任務で、ヘマをやらかしたらしい。

「だ〜か〜らぁ、すぐフォローしたでしょ! いつまでも煩いんだから」

「最初にシッカリ釘を刺しとこうって言ってんの! 次に上手くまたフォローできるとは限らないんだからね!」

「分かってます〜!」

「い〜や、分かってない!」

「分かってるって!」

 喧々囂々、言い合いは暫く続いた。

「まぁまぁ、お2人さん。痴話喧嘩は家でやってくれや。折角の祝いの席が、台無しじゃねぇか」

 アスマが2人を宥め、座らせる。

「だってってば・・・!」

「ハイハイ。そこまでね。お酒が不味くなるわ。上忍としての初任務だったんだから、緊張してたんでしょ。医療忍者は、現場で場数を踏まなきゃならないから、軽いミスくらい、大目に見てあげなよ」

「ミスに重い軽いは無いよ。最初にビシッと言っておかないと・・・」

「だから、酒が不味くなるっての! だって分かってるよ。上忍なんだからな」

「そうよ!」

「オレはを上忍とは認められないね。特別上忍の時、何を学んできたんだよ」

 カカシの売り言葉に、むっか〜、とはいきり立った。

「いいわよ! じゃあ、私が上忍にちゃんと相応しいって、カカシ兄を認めさせるんだから!」

「へぇ。どうやって?」

「この間、言ったわよね。カカシ兄から一本取れたら、何でも言うこと聞くって。3日後の深夜0時までにカカシ兄から一本取れなかったら、上忍を降りるわ!」

「無理無理。がオレから一本取れる訳ないじゃないか。5代目に、忍びの資格剥奪を進言してこよう」

 たった3日で、何が出来る、とカカシは自信たっぷりだ。

「ふん、見てらっしゃい! 絶対、ぎゃふんと言わせてやる!」

 は席を立ち、帰って行った。

「あ〜ぁ、いいのかよ、カカシ。、すっかり怒らせちまって。オマエって天の邪鬼だよな。惚れてるなら惚れてるって、素直に言えよ。心配だから、ってよ。大人げねぇ」

 やれやれ、と息を吐きながら、アスマは煙草を燻らせた。

「だって・・・ってばいっつもオレにライバル心剥き出しでさ、負けず嫌いなんだよ。手心加えてると知ったら、気を悪くするんだ。そこが可愛いんだけどね・・・」

「ゴチソウサマ。お姫様のご機嫌取ってきなさいよ」

「ダメダメ。約束だからね。3日後の0時までにオレに一矢報いられなかったら、上忍を降りてもらう。本音は、忍びをやめて欲しいんだけどね」

「アンタって、身内にも厳しいわよね・・・」

「当たり前でしょ? 生死に関わることなんだから」

「あ〜あ、折角のの祝いだったのに、とんだことになっちまったな・・・」

 取り敢えず食う物を食って飲む物を飲んだカカシは、早々に帰ったのだった。





・・・」













 それからというもの。

 5分と時を与えず、息つく暇もナシに、はカカシを狙った。

 待ち伏せから、不意打ち、トラップ、セコイ手まで、ありとあらゆる手でカカシを狙い続けた。

 が、カカシが引っかかる筈もなく。

 日は瞬く間に過ぎた。





 約束の時間まで、後6時間。

 カカシは人生色々で、鼻歌交じりにイチャパラを読んでいた。

 は待機所の外から、機会を伺う。

「ご機嫌ですね、カカシ上忍。何か良いことでもありましたか」

 向かいで時代小説を読んでいたゲンマが、怪訝そうに尋ねた。

「ふふ〜ん♪ もうすぐ、待ちに待った時が来るんだ♪ 楽しみでさ〜」

「は? 何です、一体」

「ふふん、こっちのこと、こっちのこと」

 ラララ〜、と歌い出しそうに、カカシは上機嫌だった。

 一方、外で聞いていた

 呆然としてる。

『そんなに・・・そんなに私に忍びをやめて欲しいの?! 歌まで歌う程・・・? そんなのって、ないよ・・・!』

 堪えてきたモノが、一気に溢れる。

 ボロボロと泣きながら、その場に頽れる。

 その時、待機所からゲンマが出てきた。

「何やってんだ、

 ビクリとして、は走り去ろうとした。

「おい待てよ・・・!」

 の前に回り込んだゲンマは、を足止めし、見下ろした。

「何をそんなに泣いている? 訳を話せよ」

 指でこぼれ落ちる涙を拭ってやり、真っ直ぐにを見つめた。

「ゲンマさ・・・!」

 は泣き崩れ、ゲンマに抱きついた。





 ゲンマは取り敢えず場所を移動しようと思い、の肩を抱いて、茶処に向かった。

 2階に貸座敷を置く店に入り、取り敢えず茶を注文した。

「カカシ上忍の浮かれようと、関係あるのか?」

「・・・っ、カカシ兄、私に、忍びをやめて欲しいんです・・・! ヘマをやらかすような私は、上忍に相応しくないって・・・!」

「オマエの医療能力は、充分に上忍レベルだと思うぜ? まだ昇格する前の、先々週のオレとの任務でも、オレはそう思った。オマエはまだ若いが、上忍に相応しいよ。オレが言うんだから、間違いねぇ」

 置かれた茶を啜り、ほら、団子食え、とゲンマは肩を撫でた。

「でも・・・ゲンマさんにだって、軽く足止めされちゃうし・・・」

「男のメンツだってあるからな。いくらオマエがオレの上司になろうと、オレだってプライドがある。オマエより長く忍びをやってきてる。そんじょそこらの上忍くれぇ、負けてねぇつもりだからな」

「ゲンマは仰せつかってる特殊な仕事柄、特別上忍だからね。実力的には、カカシにだって劣らないわよ」

 聞こえたわよ、と紅が入ってくる。

「紅さん・・・!」

「まだ諦めきれない? 

「だって・・・! 初めて会った時から、ずっと追い掛けてきて、やっと追いついたんだもん・・・! 私にだって目標や夢がある・・・諦めることなんてできないよ・・・!」

「ま、気持ちは分かるがな」

 でもなぁ、とゲンマは思慮に耽る。

「後6時間足らずで、カカシ上忍から一本取るんだろ? 難しいぜ」

 何せ相手は里一のエリートだ、とゲンマは息を吐く。

「まぁ・・・策がない訳でもないんだけどね・・・」

「えぇ?! 何、紅さん!」

「ホントに、上忍でいたいのね? 忍びを続けたいのね?」

「うん。カカシ兄と一緒に任務して、褒めてもらいたいの。役に立ちたいの」

「役に立つんなら、忍びをやめても出来るでしょ? 諦めて、カカシのトコに嫁に行けばいいのよ」

「嫁って・・・っ! カカシ兄は、私のことはそういう風には見てないよ!」

「そうかしら」

「え・・・」

「ま、いいわ。私も女だし、アンタの気持ちは分かるわ。手伝ってあげる。ゲンマも手を貸してよ?」

「構わねぇが・・・何する気だ?」

 紅は腰を屈め、とゲンマにひそひそ話した。

















 一方、家に帰ったカカシ。

 夕方以降、からの奇襲はなくなった。

「諦めてくれたのかな・・・?」

 向かいのアパートを見ると、の部屋は電気が点いておらず、真っ暗だった。

「まだ帰ってないのか・・・帰りづらいのかな?」

 カカシは夕食を済ませ、ひとっ風呂浴び、酒をあおりながら、イチャパラを読み耽っていた。

 が、内容など頭に入ってこない。

 仕方なく閉じて机に置き、立ち上がって窓辺に向かう。

 空気の澄んだ、綺麗な月夜だった。

「後1時間か・・・。もう、流石に諦めたんだろうな・・・」

 寂しそうに笑うと、玄関をノックされる音がした。

「? かな? 正々堂々、潔く諦めたって言いに来たのかな・・・」

 が、開けてみると、そこに立っていたのは千本をくわえたゲンマ。

「アレ? ゲンマ君? どしたの、一体」

が倒れました。過労のようです。茶屋の2階の貸座敷で休ませてるんで、迎えに行ってくれませんか」

「え・・・ホント? 悪いね、わざわざ」

 カカシは急いで身支度を調え、外に出た。

「どんな具合なの、ゲンマ君」

 夜空を駆けながら、カカシはゲンマに尋ねた。

「ここ数日、根を詰めすぎていたようですからね。何か気掛かりがあるらしく、うなされています」

「そ、そう・・・。ゲンマ君は、オレとの賭けのこと、知ってるの?」

「倒れた時に居合わせて、休ませている時に紅から聞きました。今は紅が付き添っていますが、アナタに来て欲しいようですよ」

「そっか・・・」

 諦めきれないけど、やむなく諦めた、ってことかな、とカカシは胸を撫で下ろし、ゲンマの案内で現場に到着した。

「・・・この2階?」

「えぇ。店主に、時間延長してもらってます。でも0時までですから、連れて帰って下さい」

「分かった」

 カカシはそっと、階段を駆け上がる。

 ゲンマはいつの間にか、居なくなっていた。

 ドアを静かに開けると、布団の膨らみが月夜に照らされて見える。

「・・・? 具合大丈夫?」

 紅の姿はなく、布団の膨らみが微かに動く。

「カカシ兄・・・」

 弱々しい、の声。

? 起きられる?」

 そっとカカシは、布団に手を掛けた。

 ゆっくりとは起き上がる。

「え・・・?!」

 は、いつもの忍び装束ではなく、艶やかなドレスに身を包んでいた。

 月光に照らされると、美しく化粧も施されているのが分かる。

「一体どうし・・・」

 余りの美しさに、カカシはを直視できない。

「ゴメンネ、カカシ兄。倒れたって言うのは、嘘なの」

「嘘? 一体何でまた・・・」

「だって、そうでもしなきゃ、カカシ兄、警戒して来てくれないでしょ? だから、ゲンマさんに伝言頼んだの」

「どういうことなの、一体」

 頬を染めながら、目を泳がせて尋ねる。

「カカシ兄・・・私、忍びを諦めるよ」

「えっ」

「今回のことで、よく分かったの。カカシ兄から一本も取れない程、私は未熟だって。任務でも、迷惑かけたしね。カカシ兄は私が忍びを続けるのが嫌みたいだし、潔く辞めて、普通の女のコに戻ろうって。そうすれば、カカシ兄だって私に意地悪しないでしょ?」

「それは・・・」

 カカシは言い淀んだ。

「ホントに、忍びを辞めるの?」

「うん」

「そっか・・・」

 カカシは安堵して、組んでいた足を解いた。

 リラックスするように、息を一つ吐く。

「カカシ兄?」

「いや、だってね。好きな女が進んで戦場に向かうのって、やっぱり嫌なんだよね。オレはもう誰にも、大切な人には死んで欲しくないし。のことを気に掛けながらの任務なんて、落ち着いて出来やしないからさ。が笑ってオレの家でご飯作って待っててくれたら、オレは安心して任務出来るし、絶対死なない、って思えるから」

 安堵したカカシは、饒舌に騙り、微笑んだ。

「今の・・・ホント?」

「うん。オレはが好きだよ。ずっと好きだった。大切にしたいから、いつもきついことばかり言ってたんだ。今までゴメンネ」

「ホントに・・・? カカシ兄、私もずっと、カカシ兄が好きだったの・・・。でも、絶対、妹にしか見てくれてないと思ったから・・・無茶ばっかりして、反抗して・・・ゴメンナサイ・・・」

 はカカシの胸に飛び込んだ。

 カカシは優しくを抱き留める。

 ふと時計を見遣ると、0時5分前。

「いいんだよ。分かってくれれば。それより、此処は0時までだろ? 家に帰ろう。オレ達の家に帰・・・いてっ」

 何かがカカシの頭を直撃した。

 が手にずっと握っていた、扇子。

 にま、とはほくそ笑む。

「隙アリ。一本〜!」

「え・・・っ? えっ? えっ?」

 カカシは事態が飲み込めない。

「やったぁ、!」

「やったな」

 ついたての影から、気配を殺して潜んでいた紅とゲンマが出てくる。

「やったよ〜、紅さん、ゲンマさん! カカシ兄から時間内に一本取れた〜!」

「な・・・っ」

 気を抜いていたカカシ。

 カカシはようやく事態が飲み込めた。

「皆して・・・オレをハメたね〜〜〜っ?!」

「えっへへ。どんな手だろうと、一本は一本だよ、カカシ兄? 約束、守ってよね? 私は忍びを続けるし、何でも言うこと聞いてもらうからね」

「ずる〜い〜!!!」

 カカシの絶叫が木霊した。

「じゃ、オレ達はこれで。明日からまた宜しくな、

「うん。ゲンマさんも紅さんも、有り難う!」





 取り残されたカカシと

 貸座敷とは、通称、ラブホテルの簡易版である。

 そんな場所に、男と女が、2人っきり。

 カカシは納得がいかないらしく、まだ怒っていた。

「まったくもう・・・」

「気を抜いたカカシ兄が悪いの。忍者は裏の裏を読め! カカシ兄、いつも言ってるじゃない」

「ずるい〜」

 ぷく、とかカシは膨れる。

「じゃ、何でも言うこと聞くって言う約束ね・・・」

「何? 素っ裸で里一周とか言わないよね? 一ヶ月家事炊事洗濯当番とか?」

 カカシは胡座を掻いて、を見遣った。

 は黙ったまま、スッと立つ。

 月明かりに照らされた、ドレスアップしたが美しかった。

 はおもむろに、ドレスを脱ぎ落とした。

「っ、?!」

 下着も取り、一糸まとわぬ姿になる。

「どど、どうしたの、。早く帰ろうよ。服着てさ・・・」

 カカシは慌てて立ち上がり、布団のシーツでをくるもうとした。

 その時、はカカシの胸に飛び込んだ。

「・・・っ、?」

 カカシは頬を染め、動揺しながら、を抱き留める。

「・・・カカシ兄、私をカカシ兄のモノにして」

「えっ」

「・・・いいでしょ? 抱いて・・・」

 上目遣いにカカシに請うは、スッと目を閉じ、顎を突き出した。

「時間延長・・・言ってこなきゃだね・・・」

 ふっと柔らかく微笑むカカシは、口布を下げ、に口づけた。

 カカシから流れ込んでくる、熱い感情。

 ずっと不安だったの心を埋めるのには、充分だった。





「あ・・・言わなきゃダメかな」

「え?」

「ぎゃふん」







 今宵、2人は幼馴染みの垣根を越えた。











 END.











 これは、李杏様への、個人的お礼リクです。
 李杏さん、有り難う御座いました。
 リクエストは、カカシが相手で、甘々で、幼馴染みで、
 負けず嫌いのヒロイン(上忍)がカカシに勝負を挑む。
 というものでした。
 いかがでしたでしょうか?
 実は私、何げに甘々って、苦手だったりします(笑
 四苦八苦〜何処が甘々〜?(汗 元ネタ分かる人どれくらいいるかな・・・。
 ちょいシリアスにもなり気味でしたが、新しい要素も入れてみたり。
 おかしなモノになってしまった気もしますが、李杏さんに捧げます。
 ところで、背景を茄子にしようとしたんですが、気持ち悪いのでやめました(笑