【幼馴染み】 「ね〜、カカシ兄ィ〜、味噌汁の具、何にする〜?」 夕暮れ時、居間でイチャパラを読んでいるカカシに、は台所から尋ねた。 「ん〜、茄子〜」 「え〜、アサリ買ってきたのにぃ。アサリじゃダメ〜?」 「だったら訊かないでよ〜。オレは食べたいものを言っただけだからね〜。が何がいい? って訊くから〜」 「しょうがないなぁ。アサリは酒蒸しにしよう」 茄子を縦切りにしながら、ふとは思う。 そ、と足音を立てずに、開けっぱらった居間へ向かう。 『え〜い!』 先程まで茄子を切っていた包丁を、カカシの背中目掛けて振るい下ろす。 ザクッ、と手応えを感じた。 『やっ・・・』 が、そこにあるのは包丁を突き立てられたクッション。 は背後に殺気を感じ、ビクリとした。 冷たいモノが、首筋に突き付けられている。 カカシが背後で、クナイをに当てていたのだった。 「酷いなぁ、。包丁で刺すなんて。オレのこと殺したいの?」 クナイをしまったカカシは、イチャパラを閉じて机の上に置き、を背後から抱き締めた。 「だってぇ。忍びであるからには、一度くらい、カカシ兄に勝ってみたいモン」 カカシに身を預け、は膨れた。 「しょうがないなぁ。じゃ、オレから一本取れたら、の言うこと、何でも聞いてあげるよ」 口布越しに、ちゅ、との頬にキスをする。 よしよし、と頭を撫でる。 「子供扱いしないでよね! もう24よ! カカシ兄ってば、いつまで経っても私のこと、子供扱いするんだから」 頬を染めながら、は口を尖らせた。 「あはは〜。だって、のことはちっちゃいガキの頃から見てきてるからさぁ、ついね。アカデミー入り立ての、7歳の頃のつもりで見ちゃってさ。ゴメンネ?」 ポンポン、と再び頭を撫で、頬をくっつけ、ニッコリ微笑むと、から離れてソファに座り直した。 「私ってそんなに成長してない〜? 出るトコ出て、引っ込むトコ引っ込んでるんだけどなぁ・・・」 「ハハ、そうやって口にする辺りがね。恥じらってみたり、色気で迫ったりしてみてよ」 「そう? じゃ、お言葉に甘えて・・・」 はカカシの前に回り、カカシの座るソファに座り、カカシの首に手を回して、耳元に近付き、囁こうとした。 が。 途端に真っ赤になって、ボンッと照れてしまった。 「あははは・・・。ダメじゃない、そこで照れちゃ」 「だ、だって・・・」 「こうするんだよ」 そう言ってカカシはを押し倒し、上にのし掛かり、口布越しにの首筋に顔を埋め、衣服の中に手を潜り込ませようとした。 「ゃ・・・!」 動揺し、身を強張らせる。 「ちゃんと色仕掛けや色事の訓練受けてるでしょ? 何で出来ないかなぁ」 「任務なら出来るモン!」 「練習で出来ないで、実践で出来る訳無いでしょ。気心知れたオレ相手だから、やりにくいのは分かるけどさ」 「だからこそ、出来なきゃダメなんだよ。誰が相手でも、冷静にこなせないとね」 ちゅ、と口布越しに額にキスを落とす。 微笑みながら、カカシは上体を起こした。 「カカシ兄、意地悪!」 は涙目で抗議し、カカシを睨んだ。 「そんなんで、ホントに明日からやっていけるの?」 「実践なら大丈夫って言ったでしょ!」 起き上がって、言い放つ。 「え〜。信じられないなぁ。、本当に上忍に昇格できたの?」 「失礼ね! ちゃんと火影様から、お達しがあって、拝命受けたんだからね!」 「5代目の目は大丈夫なの? 里の未来が心配だなぁ・・・」 「ヒッド〜イ!!」 が、全て掌で受け止められる。 「冗談だよ。昇格おめでとう。明日から一緒に頑張ろうね」 暴れるを優しく腕の中に抱き込み、囁いた。 カカシは立ち上がって、台所に向かう。 「え〜、いいの?」 「オレの方が料理上手いもんね♪」 「む。私だって上達したわよ! 私が作る!」 負けず嫌いのは癇に障り、カカシを押しのけて台所に立った。 「アサリの酒蒸し、好きだよね。オレが作ってあげるって」 「いいの、私が作りたいの!」 「のお祝いなのに〜」 「だから、私の成長した姿を見てもらうお祝いでしょ?! 料理も同じよ!」 「そ? じゃ、期待しないで待ってるよ♪」 「もうっ、カカシ兄って一言多い!」 カカシは笑いながら食卓に着き、の後ろ姿を眺めていた。 「はい、お待たせ〜。腕によりを掛けたから、美味しいわよ〜」 食卓に料理を並べ、は自慢げにふんぞり返る。 「確かに美味しそうだ。腕上げたね、」 「当然でしょ。いつでもお嫁に行けるわよ」 「貰い手がいればいいけどね」 「ひっど! 居なかったら、カカシ兄が貰ってよね」 「いいよ〜。いつでもおいで♪」 「カカシ兄って、どこまで本気か分かんない・・・」 「あはは。いただきま〜す」 す、と口布を下げ、食べ始めるカカシ。 カカシもも熟練した忍びの為、食べるのも必然的に早かった。 瞬く間に料理は片付く。 食べ終わって箸を置くカカシは、すぐに口布を元に戻して、ゴチソウサマでした、と手を合わせた。 「カカシ兄、明日もご飯作ったげる。泊まってってよ」 「いいの?」 「幼馴染み同士で、気を遣う必要ないでしょ。勝手知ったる、じゃない」 着替えだってウチに置いてあるでしょ、とは片付けを始めた。 「そぉ? じゃ、泊まってっちゃおっかな。帰るったって、向かいのアパートだしね」 「お風呂湧かしてあるから、入ってきていいよ」 着替えは寝室から持っていって、とは洗い物を続ける。 「一緒に入る? 」 「なっ、ななな、何言ってんのよ!」 は真っ赤になって、思わず食器を取り落とした。 「オレって兄弟居なかったから、一緒に入ったりってしたこと無いんだよね。は妹みたいなモンだし、童心に返ってさぁ・・・」 「返りすぎでしょ! 3つとか4つとかじゃなきゃ入らないでしょうが! カカシ兄と会ったのは、もう7歳だったわよ! カカシ兄だって9歳で、親とじゃあるまいし、それでお風呂に入る訳無いでしょ?! 馬鹿なこと言ってないで、サッサと行って!」 真っ赤になって、は唾を飛ばした。 「ちぇ〜、ダメかぁ・・・期待してたのに・・・」 「何の期待よ! もう・・・」 浴室に逃げるカカシを見送ると、は息を吐いた。 「ちぇ・・・妹かぁ・・・」 は、入浴中のカカシに、奇襲を掛けようとした。 が、既に上がった後。 「ふ〜、いいお湯だった。〜、上がったよ〜」 風呂上がりのカカシは、既に口布をしていた。 家の中くらい、外していればいいのに、とはいつも思うが、カカシは食べる時と飲む時以外、滅多に口布は外さなかった。 「奇襲作戦、残念でしたぁ〜」 「烏の行水なんだから」 「あはは」 「カカシ兄、覗かないでよね」 「いいじゃない、減るモンじゃなし」 オレのを覗こうとした癖に、とべったり抱きつく。 「覗こうとしたんじゃないの! 一本取ろうとしたの!」 「同じ事でしょ。背中流してあげるって」 「結構です〜。冷蔵庫にお酒入ってるから、勝手に飲んでて」 「サンキュ〜」 が浴室に消えると、カカシは冷蔵庫を開けた。 「って、甘いのしか飲まないよね? オレは辛口なんだけどな〜。あ、ジンとかあるんじゃん。オレの為に買っててくれたんだ? 気が利くなぁ・・・」 プルトップを開けて口布を下げて一口飲むと、寝室に向かった。 ぼふん、とベッドに倒れ込む。 「あ・・・の匂いだ。甘い匂いだなぁ・・・」 上体を僅かに起こし、酒を含む。 「すっかり綺麗になって、もう大人のいい女になっちゃったよな・・・いつまでカカシ兄って言ってくれるんだろ・・・」 いつか離れていく時が来るのかな。 カカシは、物寂しくなった。酒を飲み干すと、枕に顔を埋める。 「ふ〜、あったまった〜。カシス飲んじゃお」 身綺麗に整えてきたは、冷蔵庫を開けて酒の缶を取り出す。プルトップを開け、一気に流し込む。 「今度、カカシ兄と呑みに行きたいな〜。誘ってみようかな・・・」 飲み干して缶を捨てると、寝室に向かう。 「ね〜、カカシ兄〜・・・」 ドアを開けると、カカシはベッドの上で、眠り込んでいた。 「チャ〜ンス!」 そ、と抜き足差し足、忍びより、カカシに襲いかかった。 が、すんでの所でカカシはぱっちり目を開け、を抱き留めた。 「あ〜ん、もう・・・」 「ざ〜んねんでした〜。オレの寝込みを襲うなんて、10年早いよ」 「ちぇ」 カカシはを抱き締めたまま、離さない。 「ちょっと・・・いい加減離してよ」 「抜け出てごらん? 縄抜けの応用で」 「もう・・・」 はもぞもぞと、動き回った。 「だって〜、いい女とくんずほずれつやってたら、そう思うモンでしょ」 「言ってることが違わない? カカシ兄だって、色事や色仕掛けされる訓練やってるんでしょ? 冷静に対処するモンじゃないの」 「時と場合に寄るなぁ。今は別♪」 カカシはズルズル動いて、の豊満な胸に顔を埋めた。 「! 自分ばっかりずるい・・・っ」 は頬を染めながら、カカシから離れようとした。 「あ〜、極楽極楽」 が、カカシはシッカリしがみついていて、離すことが出来ない。 「温泉気分出してないで! 離してよ!」 「ヤだ〜。気持ちイ〜v 眠くなってきたよ・・・オヤスミ・・・」 むにゅむにゅ、とカカシは夢の中へ誘われていた。 「ちょっ、此処で寝る気?」 「何処で寝ればいいのさ〜。オレとの仲でしょ?」 瞳を閉じたまま、カカシは呟く。 「ソファで・・・っ」 「此処がいいv」 ごろにゃん、と猫のように、カカシは甘えた。 「あ〜、大きな猫がいる・・・」 真っ赤になって動揺しているのを、カカシに気付かれたくない。 忍びの習性で感情を押し殺し、逸る心臓の鼓動を戻した。 猫科の動物を口寄せ契約しているは、忍猫に懐かれているつもりになって、冷静を保とうとした。 『これって・・・思えばチャンスだよね・・・どうしてくれよう・・・』 おもむろに、カカシの口布を下げようとした。 が、手を掛けた時点で、カカシは目を見開く。 「きゃっ」 ビクリとして、仰け反る。 「そうそう隙は見せないよ♪」 「もう・・・。ねぇ、寝る時くらい、口布外せば? 始終気を張ってるみたいで、疲れない?」 「慣れてるからね。平気」 20年以上してきてるのだから、分かる。 が、何か気を許してもらえていない気がして、は寂しかった。 「何でそんなに口布にこだわるの?」 の問いかけに、カカシは答えない。 「・・・カカシ兄?」 一瞬の間が置かれた。 「食べる時と飲む時に、一瞬だけ下げるだけでしょ? 後はずっとしたままでさ、何で?」 「・・・あんまり自分の顔を見せたくないし、見たくないんだ。オレもね」 カカシは普段から口布をし、左目の写輪眼を隠すように額当てを斜めにしている。 顔の露出が、極端に少ないのだ。 「・・・私にも?」 「・・・ゴメンネ。自分の顔を見てると、嫌でも昔を思い出すし、相手も思い出すでしょ? だから、ね」 そう言えば、カカシの家には、鏡がない。 そうか。 カカシはまだ、“白い牙”へのトラウマがあるんだ。 自分にそっくりの、父親。 年々、益々似ていくカカシ。 その顔を見たくない、見せたくない、のだろう。 普段は飄々としてすっとぼけているけれど、まだ忘れられないんだ。 決別できていないんだ。 完成された人間のように思えたカカシが身近に感じられ、不謹慎とは思いつつ、は嬉しかった。 「オヤスミ、カカシ兄。良い夢見てね・・・」 抱き合って、2人は眠った。 ある日、紅とアスマが、の上忍昇格祝いをしてくれることになった。 先に来ていたアスマ達は、カカシとの初任務から帰ってきた2人を出迎えたが、カカシとは、何やら言い合っていた。 どうやら、が任務で、ヘマをやらかしたらしい。 「だ〜か〜らぁ、すぐフォローしたでしょ! いつまでも煩いんだから」 「最初にシッカリ釘を刺しとこうって言ってんの! 次に上手くまたフォローできるとは限らないんだからね!」 「分かってます〜!」 「い〜や、分かってない!」 「分かってるって!」 喧々囂々、言い合いは暫く続いた。 「まぁまぁ、お2人さん。痴話喧嘩は家でやってくれや。折角の祝いの席が、台無しじゃねぇか」 アスマが2人を宥め、座らせる。 「だってってば・・・!」 「ミスに重い軽いは無いよ。最初にビシッと言っておかないと・・・」 「だから、酒が不味くなるっての! だって分かってるよ。上忍なんだからな」 「そうよ!」 「オレはを上忍とは認められないね。特別上忍の時、何を学んできたんだよ」 カカシの売り言葉に、むっか〜、とはいきり立った。 「いいわよ! じゃあ、私が上忍にちゃんと相応しいって、カカシ兄を認めさせるんだから!」 「へぇ。どうやって?」 「この間、言ったわよね。カカシ兄から一本取れたら、何でも言うこと聞くって。3日後の深夜0時までにカカシ兄から一本取れなかったら、上忍を降りるわ!」 「無理無理。がオレから一本取れる訳ないじゃないか。5代目に、忍びの資格剥奪を進言してこよう」 たった3日で、何が出来る、とカカシは自信たっぷりだ。 「ふん、見てらっしゃい! 絶対、ぎゃふんと言わせてやる!」 は席を立ち、帰って行った。 「あ〜ぁ、いいのかよ、カカシ。、すっかり怒らせちまって。オマエって天の邪鬼だよな。惚れてるなら惚れてるって、素直に言えよ。心配だから、ってよ。大人げねぇ」 やれやれ、と息を吐きながら、アスマは煙草を燻らせた。 「だって・・・ってばいっつもオレにライバル心剥き出しでさ、負けず嫌いなんだよ。手心加えてると知ったら、気を悪くするんだ。そこが可愛いんだけどね・・・」 「ゴチソウサマ。お姫様のご機嫌取ってきなさいよ」 「ダメダメ。約束だからね。3日後の0時までにオレに一矢報いられなかったら、上忍を降りてもらう。本音は、忍びをやめて欲しいんだけどね」 「アンタって、身内にも厳しいわよね・・・」 「当たり前でしょ? 生死に関わることなんだから」 「あ〜あ、折角のの祝いだったのに、とんだことになっちまったな・・・」 取り敢えず食う物を食って飲む物を飲んだカカシは、早々に帰ったのだった。 「・・・」 それからというもの。 5分と時を与えず、息つく暇もナシに、はカカシを狙った。 待ち伏せから、不意打ち、トラップ、セコイ手まで、ありとあらゆる手でカカシを狙い続けた。 が、カカシが引っかかる筈もなく。 日は瞬く間に過ぎた。 約束の時間まで、後6時間。 カカシは人生色々で、鼻歌交じりにイチャパラを読んでいた。 は待機所の外から、機会を伺う。 「ご機嫌ですね、カカシ上忍。何か良いことでもありましたか」 向かいで時代小説を読んでいたゲンマが、怪訝そうに尋ねた。 「ふふ〜ん♪ もうすぐ、待ちに待った時が来るんだ♪ 楽しみでさ〜」 「は? 何です、一体」 「ふふん、こっちのこと、こっちのこと」 ラララ〜、と歌い出しそうに、カカシは上機嫌だった。 一方、外で聞いていた。 呆然としてる。 『そんなに・・・そんなに私に忍びをやめて欲しいの?! 歌まで歌う程・・・? そんなのって、ないよ・・・!』 堪えてきたモノが、一気に溢れる。 ボロボロと泣きながら、その場に頽れる。 その時、待機所からゲンマが出てきた。 「何やってんだ、」 ビクリとして、は走り去ろうとした。 「おい待てよ・・・!」 の前に回り込んだゲンマは、を足止めし、見下ろした。 「何をそんなに泣いている? 訳を話せよ」 指でこぼれ落ちる涙を拭ってやり、真っ直ぐにを見つめた。 「ゲンマさ・・・!」 は泣き崩れ、ゲンマに抱きついた。 ゲンマは取り敢えず場所を移動しようと思い、の肩を抱いて、茶処に向かった。 2階に貸座敷を置く店に入り、取り敢えず茶を注文した。 「カカシ上忍の浮かれようと、関係あるのか?」 「・・・っ、カカシ兄、私に、忍びをやめて欲しいんです・・・! ヘマをやらかすような私は、上忍に相応しくないって・・・!」 「オマエの医療能力は、充分に上忍レベルだと思うぜ? まだ昇格する前の、先々週のオレとの任務でも、オレはそう思った。オマエはまだ若いが、上忍に相応しいよ。オレが言うんだから、間違いねぇ」 置かれた茶を啜り、ほら、団子食え、とゲンマは肩を撫でた。 「でも・・・ゲンマさんにだって、軽く足止めされちゃうし・・・」 「男のメンツだってあるからな。いくらオマエがオレの上司になろうと、オレだってプライドがある。オマエより長く忍びをやってきてる。そんじょそこらの上忍くれぇ、負けてねぇつもりだからな」 「ゲンマは仰せつかってる特殊な仕事柄、特別上忍だからね。実力的には、カカシにだって劣らないわよ」 聞こえたわよ、と紅が入ってくる。 「紅さん・・・!」 「まだ諦めきれない? 」 「だって・・・! 初めて会った時から、ずっと追い掛けてきて、やっと追いついたんだもん・・・! 私にだって目標や夢がある・・・諦めることなんてできないよ・・・!」 「ま、気持ちは分かるがな」 でもなぁ、とゲンマは思慮に耽る。 「後6時間足らずで、カカシ上忍から一本取るんだろ? 難しいぜ」 何せ相手は里一のエリートだ、とゲンマは息を吐く。 「まぁ・・・策がない訳でもないんだけどね・・・」 「えぇ?! 何、紅さん!」 「ホントに、上忍でいたいのね? 忍びを続けたいのね?」 「うん。カカシ兄と一緒に任務して、褒めてもらいたいの。役に立ちたいの」 「役に立つんなら、忍びをやめても出来るでしょ? 諦めて、カカシのトコに嫁に行けばいいのよ」 「嫁って・・・っ! カカシ兄は、私のことはそういう風には見てないよ!」 「そうかしら」 「え・・・」 「ま、いいわ。私も女だし、アンタの気持ちは分かるわ。手伝ってあげる。ゲンマも手を貸してよ?」 「構わねぇが・・・何する気だ?」 紅は腰を屈め、とゲンマにひそひそ話した。 一方、家に帰ったカカシ。 夕方以降、からの奇襲はなくなった。 「諦めてくれたのかな・・・?」 向かいのアパートを見ると、の部屋は電気が点いておらず、真っ暗だった。 「まだ帰ってないのか・・・帰りづらいのかな?」 カカシは夕食を済ませ、ひとっ風呂浴び、酒をあおりながら、イチャパラを読み耽っていた。 が、内容など頭に入ってこない。 仕方なく閉じて机に置き、立ち上がって窓辺に向かう。 空気の澄んだ、綺麗な月夜だった。 「後1時間か・・・。もう、流石に諦めたんだろうな・・・」 寂しそうに笑うと、玄関をノックされる音がした。 「? かな? 正々堂々、潔く諦めたって言いに来たのかな・・・」 が、開けてみると、そこに立っていたのは千本をくわえたゲンマ。 「アレ? ゲンマ君? どしたの、一体」 「が倒れました。過労のようです。茶屋の2階の貸座敷で休ませてるんで、迎えに行ってくれませんか」 「え・・・ホント? 悪いね、わざわざ」 カカシは急いで身支度を調え、外に出た。 「どんな具合なの、ゲンマ君」 夜空を駆けながら、カカシはゲンマに尋ねた。 「ここ数日、根を詰めすぎていたようですからね。何か気掛かりがあるらしく、うなされています」 「そ、そう・・・。ゲンマ君は、オレとの賭けのこと、知ってるの?」 「倒れた時に居合わせて、休ませている時に紅から聞きました。今は紅が付き添っていますが、アナタに来て欲しいようですよ」 「そっか・・・」 諦めきれないけど、やむなく諦めた、ってことかな、とカカシは胸を撫で下ろし、ゲンマの案内で現場に到着した。 「・・・この2階?」 「えぇ。店主に、時間延長してもらってます。でも0時までですから、連れて帰って下さい」 「分かった」 カカシはそっと、階段を駆け上がる。 ゲンマはいつの間にか、居なくなっていた。 ドアを静かに開けると、布団の膨らみが月夜に照らされて見える。 紅の姿はなく、布団の膨らみが微かに動く。 「カカシ兄・・・」 弱々しい、の声。 「? 起きられる?」 そっとカカシは、布団に手を掛けた。 ゆっくりとは起き上がる。 「え・・・?!」 は、いつもの忍び装束ではなく、艶やかなドレスに身を包んでいた。 月光に照らされると、美しく化粧も施されているのが分かる。 「一体どうし・・・」 余りの美しさに、カカシはを直視できない。 「ゴメンネ、カカシ兄。倒れたって言うのは、嘘なの」 「嘘? 一体何でまた・・・」 「だって、そうでもしなきゃ、カカシ兄、警戒して来てくれないでしょ? だから、ゲンマさんに伝言頼んだの」 「どういうことなの、一体」 頬を染めながら、目を泳がせて尋ねる。 「カカシ兄・・・私、忍びを諦めるよ」 「えっ」 「今回のことで、よく分かったの。カカシ兄から一本も取れない程、私は未熟だって。任務でも、迷惑かけたしね。カカシ兄は私が忍びを続けるのが嫌みたいだし、潔く辞めて、普通の女のコに戻ろうって。そうすれば、カカシ兄だって私に意地悪しないでしょ?」 「それは・・・」 カカシは言い淀んだ。 「ホントに、忍びを辞めるの?」 「うん」 「そっか・・・」 カカシは安堵して、組んでいた足を解いた。 リラックスするように、息を一つ吐く。 「カカシ兄?」 「いや、だってね。好きな女が進んで戦場に向かうのって、やっぱり嫌なんだよね。オレはもう誰にも、大切な人には死んで欲しくないし。のことを気に掛けながらの任務なんて、落ち着いて出来やしないからさ。が笑ってオレの家でご飯作って待っててくれたら、オレは安心して任務出来るし、絶対死なない、って思えるから」 安堵したカカシは、饒舌に騙り、微笑んだ。 「今の・・・ホント?」 「うん。オレはが好きだよ。ずっと好きだった。大切にしたいから、いつもきついことばかり言ってたんだ。今までゴメンネ」 「ホントに・・・? カカシ兄、私もずっと、カカシ兄が好きだったの・・・。でも、絶対、妹にしか見てくれてないと思ったから・・・無茶ばっかりして、反抗して・・・ゴメンナサイ・・・」 はカカシの胸に飛び込んだ。 カカシは優しくを抱き留める。 ふと時計を見遣ると、0時5分前。 「いいんだよ。分かってくれれば。それより、此処は0時までだろ? 家に帰ろう。オレ達の家に帰・・・いてっ」 何かがカカシの頭を直撃した。 が手にずっと握っていた、扇子。 にま、とはほくそ笑む。 「隙アリ。一本〜!」 「え・・・っ? えっ? えっ?」 カカシは事態が飲み込めない。 「やったぁ、!」 「やったな」 ついたての影から、気配を殺して潜んでいた紅とゲンマが出てくる。 「やったよ〜、紅さん、ゲンマさん! カカシ兄から時間内に一本取れた〜!」 「な・・・っ」 気を抜いていたカカシ。 カカシはようやく事態が飲み込めた。 「皆して・・・オレをハメたね〜〜〜っ?!」 「えっへへ。どんな手だろうと、一本は一本だよ、カカシ兄? 約束、守ってよね? 私は忍びを続けるし、何でも言うこと聞いてもらうからね」 「ずる〜い〜!!!」 カカシの絶叫が木霊した。 「じゃ、オレ達はこれで。明日からまた宜しくな、」 「うん。ゲンマさんも紅さんも、有り難う!」 取り残されたカカシと。 貸座敷とは、通称、ラブホテルの簡易版である。 そんな場所に、男と女が、2人っきり。 カカシは納得がいかないらしく、まだ怒っていた。 「まったくもう・・・」 「気を抜いたカカシ兄が悪いの。忍者は裏の裏を読め! カカシ兄、いつも言ってるじゃない」 「ずるい〜」 ぷく、とかカシは膨れる。 「じゃ、何でも言うこと聞くって言う約束ね・・・」 「何? 素っ裸で里一周とか言わないよね? 一ヶ月家事炊事洗濯当番とか?」 カカシは胡座を掻いて、を見遣った。 は黙ったまま、スッと立つ。 月明かりに照らされた、ドレスアップしたが美しかった。 はおもむろに、ドレスを脱ぎ落とした。 「っ、?!」 下着も取り、一糸まとわぬ姿になる。 「どど、どうしたの、。早く帰ろうよ。服着てさ・・・」 カカシは慌てて立ち上がり、布団のシーツでをくるもうとした。 その時、はカカシの胸に飛び込んだ。 「・・・っ、?」 カカシは頬を染め、動揺しながら、を抱き留める。 「・・・カカシ兄、私をカカシ兄のモノにして」 「えっ」 「・・・いいでしょ? 抱いて・・・」 上目遣いにカカシに請うは、スッと目を閉じ、顎を突き出した。 「時間延長・・・言ってこなきゃだね・・・」 ふっと柔らかく微笑むカカシは、口布を下げ、に口づけた。 カカシから流れ込んでくる、熱い感情。 ずっと不安だったの心を埋めるのには、充分だった。 「あ・・・言わなきゃダメかな」 「え?」 「ぎゃふん」 今宵、2人は幼馴染みの垣根を越えた。 END. これは、李杏様への、個人的お礼リクです。 |