【擦れ違い】







 カカシは、毎朝早朝に向かう日課の慰霊碑訪問から、家へと戻ってきた。

 玄関で靴を脱ぎながら、台所を伺う。

「アレ? もう出掛けたのかな? にしてはまだ早いよね・・・」

 台所が使われた形跡はない。

 カカシは寝室に向かった。

 2つ並ぶベッドの片方に、1人の女性が眠っている。

 暗部を辞めた頃から付き合い始め、1年前から同棲をしている。

 、25歳。

 木の葉の中忍で、結構仕事は煩雑だ。

 柔らかなウェーブをした栗色の髪が枕の上で散らばっている。

「ぅ・・・ん・・・」

 は、もぞもぞ、と布団の中で動く。

 射し込む朝日が眩しいのか、布団に潜り込もうとする。

〜、もう朝だよ。早く起きないと遅刻するよ〜。朝ご飯作っ・・・」

 秋刀魚食べたいなぁ、と思いながら、カカシは愛しい恋人を優しく起こす。

「ん・・・今何時・・・」

 うっすらと目を開けたは、もぞもぞと起き上がり、目覚まし時計を見遣った。

 有り得ない時間を差している。

 は寝惚け眼から途端に覚醒し、叫び声を上げた。

「うっそ〜! いつの間に目覚まし止まったのぉ?! 今日は早く行かなきゃならないのに!」

 は慌ててベッドから飛び降り、洗面所へ向かった。

 戻ってくると、いそいそと忍服に着替える。

「あの、、朝ご飯作って・・・」

「ごっめ〜ん! カ〜君、時間無いんだ! 作ってる時間も食べてる時間もないの! 冷蔵庫に何かあるから、適当に食べて!」

 じゃ、いってきま〜す、とはバタバタと出掛けていった。

「えっ、ちょっ・・・」

 カカシはの後ろ姿を、呆然と見送った。

 仕方なくカカシは台所を漁り、昨日の残り物を温め、食べた。

「・・・何か、最近とお喋りあんまりしてないなぁ・・・」

 寂寥感を感じるカカシは、1人で食べる食事が、心に空っ風を起こした。









 今年から下忍を担当するようになったカカシは、以前より時間が自由になり、ゆとりが出来た。

 好きな読書も満足するまで出来るし、とも一杯イチャイチャ出来る・・・そう思っていた。

 が、その恋人であるがここ最近、やたらと忙しくなったようで、一緒に暮らしているのに、擦れ違いが増えた。

 もう3ヶ月近く、と満足に話をしていない。

 夜の方もご無沙汰。

 口にこそ出さなかったが、カカシは不満で一杯だった。

 夕方までの常駐時間を終えたカカシは、まっすぐ家に帰ったが、夕暮れが暮れて暗くなっていっても、が帰ってこなかったので、苛々してきた。

 お互い忍び。

 今まではカカシの方が任務で飛び交っていた為、擦れ違いが多かった。

 その分、一緒にいられる時間は大切にしてきた。

 と過ごすひとときが、カカシにとっての安らぎだった。

 忍びだから、任務で帰れなかったり遅くなったりはしょっちゅうなのだが、と一緒に過ごす時間が少なくなって、今のカカシは駄々っ子のように、が忍びであることを不満に思う。

 仕方なしにカカシは、外に食べに出た。

の作ってくれるご飯、食べたいなぁ・・・」

 愛情たっぷりの、それはもう美味しいの手料理。

 すっかり病み付きで、自分でも料理は出来るのに、の料理が食べたくて、全然作りたくなくなった。

 食事を終えて繁華街をふらついていると、任務帰りの、自宅に帰る所だったゲンマにばったり会い、絡むように強引に酒に誘った。

 散々ゲンマに愚痴をこぼし、ゲンマに宥められ、悪酔いして、ゲンマに担がれて家に戻ってきた。

 もう夜中だった。

のヤツ、まだ帰ってないんですね」

 噂をすれば何とやら、丁度そこへ、が帰ってきた。

「おかえり、

「あれ? ゲンマさん。どうしたんですか」

「カカシ上忍に呑みに誘われてな。悪酔いしてたから、連れて帰ってきた所だ」

 ベストとか脱がせてベッドに寝かせた、と言いながら、高楊枝でつかつかと玄関に向かう。

「あ〜、すみません、いっつも。カ〜君ってば、強いくせに、飲み過ぎて酔っぱらうんですよね」

 絡むし、とは息を吐く。

「散々零してたぜ。と擦れ違いが多くて」

「あ〜、今忙しいんですよね〜。仕事が面白くって、つい」

「それは結構だが、カカシ上忍のこともたまには見てやれよ。しょっちゅう絡まれてたんじゃ、敵わねぇよ」

「お互い様ですよ〜。忍びなんだから、色々あるのはカ〜君だって分かってますよ」

 じゃな、と帰って行くゲンマに、はペコリと頭を下げ、風呂に湯を張っている間、店で買ってきた弁当を食べた。

「は〜、面白くってやりがいはあるけど、やっぱり疲れるね。お風呂入ったらすぐ寝よ」

 ベッドにひっくり返っているカカシを横目に見ながら、着替えを持って浴室に向かう。

 ゆっくりと疲れを取り、上がって水分補給をすると、寝室に向かう。

「疲れた・・・カ〜君にお風呂入ってって言わなくっちゃ・・・ま、いいか・・・もう寝よ・・・」

 布団に潜り込み、はすぐに寝息を立てた。









 まだ朝靄の煙る中カカシは目を覚ますと、身震いして小さくくしゃみをした。

 むくりと起きると、何も掛けずに眠っていた。

 隣のベッドではが布団にくるまって気持ちよさそうに眠っている。

、いつ帰ってきたんだろ? 起こしてくれればいいのに。っていうか、布団くらい掛けてくれても・・・」

 またロクに話が出来なかった、とカカシはシャワーを浴びに浴室に向かった。





 慰霊碑から戻ってくると、玄関先でとばったり出くわした。

、もう行くの?」

「あ、カ〜君おはよ〜」

「朝ご飯出来てる?」

「あっ、ごめ〜ん、寝坊したから、私も抜きなんだ。適当に作って食べてよ」

 バタバタ、と靴に足を通す。

「今日も遅くなるの?」

 いつまで続くの、とカカシは面白くない。

「うん。もうすぐピークは終わるから、それまで頑張らないとなんだ。じゃねっ」

 いってきま〜す、と今日も軽快に駆けていく。

 ちぇ、とカカシは益々面白くない。

 台所や冷蔵庫を漁っても何もなかった為、カカシはまず買い物に出た。

ってば・・・ホントにオレのこと好きなのかな・・・」

 不安が首をもたげ始めてきた。









 夜、カカシは入浴を済ませ、ベッドの上に寝転がってイチャパラを読んでいた。

 今日もはまだ帰ってこない。

 もう夜中に近い。

 の任務内容を知っているから、大変なのが分かるからそう文句を言えないのは分かるが、カカシは寂しかった。

「ただいま〜」

 玄関が開き、が入ってくる音がしてカカシはがばっと起き上がった。

 は寝室に入ってきて、額当てを外して机に置いた。

「おかえり、。夕食は?」

 カカシは今日も外食だった。

「あ、イルカ達と食べてきたよ。山を越えた打ち上げ代わりしてきたの」

 あ〜、長い道のりだった、と息を吐きながら、着替えを漁る。

「・・・呑んできたの?」

 ほんのりと酒の匂いがから漂う。

「え? うん。ちょっとね」

「オレも誘って欲しかった〜」

 ぶぅぶぅ、とカカシは膨れる。

「仕事の付き合いよ。カ〜君は仕事違うでしょ。お風呂沸いてる?」

「うん。、今度一緒に呑みに行こうよ。2人っきりでさ」

「ん〜? 今度ね」

 そのうち時間出来たらね、と気のない返事で、は浴室に向かった。

 カカシはぶすくれた表情で、枕を抱き締めた。

 が上がって戻ってくると、カカシは今日こそは、と立ち上がる。

 が、はそのままベッドに潜り込んだ。

・・・今夜・・・イイでしょ?」

 腰を屈め、の耳元で囁く。

 カカシはいそいそと、のベッドに潜り込もうとした。

 カカシの中心部は、既に臨戦態勢だった。

「ん〜・・・疲れてるの・・・今度ね・・・オヤスミ」

 きゅ、とは丸まる。

「最近ご無沙汰じゃないか〜。しようよ〜。ね?」

 甘えた声で、ちゅ、とにキスを落とす。

「そういう気分になれない・・・今度ね」

「いっつも今度今度って、いつだよ〜!」

「だから今度だってば・・・」

「何月何日何時何分何秒だよ〜!」

 カカシはもう支離滅裂だった。

「カ〜君・・・先生頑張ってる?」

 カカシに背を向けて横になっているは、気を逸らそうと、話題を振った。

「え? うんまぁ、一応」

「ナルト達、頑張ってる?」

「あぁ、ナルトはサスケに対抗心剥き出しで、ボロボロになってやってるよ。ちょっとしたことですぐ喧嘩になるしさ・・・」

「気が短いって、繊維が足りてないのかな・・・ナルトもサスケも独り暮らしだし、食生活気を付けてあげないと・・・」

 むにゅむにゅ、との声は段々トーンが落ちてきている。

「ナルトはラーメンばっかり食ってるからなぁ。野菜差し入れたんだけど、好き嫌い多く・・・?」

 気が付けば、はすやすやと寝息を立てていた。

「寝ちゃったよ・・・えっち出来ないんなら、せめてもう少しお話ししたかったのにな・・・」

 仕方なく、カカシは自分のベッドに戻った。















 数日後。

 相変わらず、とは擦れ違いの毎日。

 カカシはため息をつきながら、任務の受付所に行った。

 イルカから次の任務の依頼書を受け取る。

「カカシ先生、がずっと忙しかったから、ご心配されてたでしょう。今の任務がやっと終わりますから、ゆっくり労ってあげて下さいね」

「えっ、終わりですか?! そうですか、良かった〜」

 ぱぁっとカカシは表情に明るさを取り戻す。

「ようやくお2人の時間を大切に出来ますね」

 ニッコリとイルカは微笑んだ。

「アハハハ、いやぁ・・・」

 カカシはご機嫌で、任務へと向かった。

 今日はは早く帰ってくるだろう、久し振りにの手料理食べられるんだ、と軽快な足取りで家路に着く。

 が、いくら待ってもは帰ってこない。

 脱衣所に行くと、洗濯物も溜まっている。

 そう言えば、着替えが少なくなってきている。

 カカシは膨れながら、洗濯機を回した。

「もう、ってば・・・任務完了したんなら、いの一番でオレのトコに帰ってきて、オレの胸に飛び込むモンだろ? それをさ・・・」

 ブツブツ文句を言いながら、洗濯物を吊していく。

 そこへ、がよろけながら帰ってきた。

「たっだいまぁ〜」

! 酔ってるね。今まで何処で何をしてたのさ!」

「打ち上げよぉ〜。あ〜、呑んじゃったぁ〜」

 千鳥足で寝室に向かう。

 糸が切れた人形のように、ベッドに倒れ込んだ。

、お風呂沸いてるよ。一緒に入ろ?」

 ようやくイチャイチャが、とカカシはを覗き込む。

「ん〜、眠い〜。明日朝シャワー浴びるよ〜。寝させて〜」

 すぐには寝息を立てた。

! ってば〜!」

 揺すってもさすっても、は起きない。

 達成感のある、気持ちよさそうな、寝顔だった。

 カカシはがっくり項垂れると、の頭部から解けた額当てを机に置いて、布団を掛けてやった。

「ま、明日からゆっくりできるだろ」

 ふぅ、と息を吐いてカカシは風呂に入ることにした。











 翌朝、カカシが慰霊碑から戻ってくると、はシャワーを浴び終えた所だった。

、今日は休みでしょ? 何処かに出掛けようよ」

 デートしよ、とカカシは任務をサボる気満々だ。

「ん〜、事務処理仕事が残ってるの〜。溜まってるから、早く片付けたいんだ」

 え〜、とカカシは不満たらたら。

「朝ご飯は? 出来てる?」

「あ、買い物してないから何もないでしょ。私はアカデミーの食堂で食べるから。カ〜君は適当に済ませて」

 忍服に着替えながら、カカシを見遣る。

「え〜っ。またぁ?」

「あ、そうそう。洗濯してくれてありがと〜。着替え無くなってきてたから、助かっちゃった。じゃ、いってきます」

 バタバタとは出て行く。

「もう・・・いってきますのちゅ〜くらいしてったっていいのに〜」

 不満たっぷりに、カカシは口を尖らせた。









「今日はもう早く帰ってくるだろ〜。何のご馳走作ってくれるかな♪」

 カカシが家に帰ってくると、はいなかった。

「買い物かな・・・?」

 ふとダイニングのテーブルを見ると、メモが1枚。

 “ナルトにご飯作りに行ってくるね〜 買い物一杯してきたから、カ〜君は好きな物作って食べてね 

「何だよそれ〜!」

 カカシは思わず叫んだ。

 乾いた洗濯物は、たたんでもいない。

 吊されたままだ。

 必要なものだけ、外した、という感じだった。

「早く帰ったんなら、洗濯物くらいたたんでおいてもいいだろ〜? それに、ナルトに飯とかって前に、オレが先だろ、フツ〜。何考えてんだよ〜、ってば〜」

 膨れながら洗濯物を外してたたんで、ブツブツ文句を言いながら食材を眺め、だがとても作る気になれなくて、外に食べに出た。

 鬱憤が溜まっていたので、続けて居酒屋に入り、1人で酒を呑んだ。

 独り言で文句を零しながら、遅くまで飲み続ける。

 誰かに愚痴を零したい。

 だが、そう言う時に限って、知り合いには会わなかった。

 酒も美味しくなかった。

 賑やかな店内で、カカシは孤独感に苛まれた。





 酔っぱらって気分最悪で帰ってくると、家に灯りは点いていない。

 寝室のドアを開けると、はもう布団にくるまって眠っていた。

ちゃ〜んv えっちしよ〜v」

 ベスト類を脱いで、カカシはのベッドに潜り込む。

「ん〜・・・眠いの・・・今度にして・・・」

 むにゃ、とは夢の中で呟く。

「ね〜ね〜、ちゃん、のご飯が食べたいなv」

 ついでにも食べたいな、とカカシはを抱き締める。

「ん〜・・・カ〜君自分で作れるでしょ〜・・・ナルトはまだ子供なのに独り暮らしだし、成長期なのに偏食だから、ちゃんとしたもの食べさせてあげたいの〜・・・」

「それは分かるけどさ〜、オレのこともちゃんと見てよ〜」

 オレ寂しいよ、とカカシはを自分の方に向け、ちゅ、と唇をかすめ取った。

「ん〜・・・うん・・・」

 は夢の中から覚醒してこない。

 カカシは我慢出来なくなって、の身体を求め始めた。

 貪るように愛撫を繰り返していると、がもぞもぞと動く。

「いいよね? しよv」

「ん〜・・・眠い〜・・・今度だってば・・・」

 グイ、とカカシを押して離れ、くる、とは寝返りを打ってカカシに背を向け、布団を掴んで本格的に寝に入った。

〜〜〜!!!」

 揺すってもさすっても、手を払われる。

 その度に、今度、と言われ、カカシは悶々としてきた。

〜、ホントにオレのこと好き?」

「ん〜・・・? ・・・・・・うん・・・」

 妙に間を持った答えだった。

ってばぁ!」

 心がざわりとする。

 が、夢うつつのは完全に眠ってしまった。

 鬱憤を晴らそう、とカカシは自分を慰めた。

 傍で愛する女が眠っているというのに。

 虚しくなって、カカシは自分のベッドに潜り込んだ。

 傷心を抱えて目を閉じる。

『明日こそは・・・!』









 翌朝、慰霊碑から戻ってくると、はもう出掛けた後だった。

 朝食の用意もされてはいなかった。

 テーブルの上にリンゴが1個置いてある。

 思いっ切りぶすくれて、カカシはリンゴを囓った。





「カカシ先生。おっそ〜い!!」

「こんな時間まで何やってるんだってばよ! もう昼になっちまうってば!」

「たく・・・」

 集合場所に行くと、いつものようにカカシは責め立てられる。

 任務を開始して、陽が傾き始めた頃、遅い昼食に入った。

 カカシは川から魚を捕ってきて、火を起こして焼いていた。

「あら、ナルト、すっごい豪勢なお弁当じゃない。どうしたのよ、一体」

 おむすびをパクつくサクラとサスケが、ナルトの弁当を覗き込む。

 その言葉に、カカシはピクリと反応する。

「ナルト・・・オマエ、もしかしてその弁当・・・」

「んぁ? 姉ちゃんが持たせてくれたんだってばよ。朝もんまいご飯作ってくれてさ! あんな人がカカシ先生の彼女だなんて羨ましいってば・・・アレ? カカシ先生は姉ちゃんの弁当じゃないの? 何で何で?」

 むぐむぐと美味そうに食べながら、ナルトはきょとんとする。

「そう言えば最近、カカシ先生、お弁当じゃないわよね。どうして?」

「え・・・いや・・・;」

「料理上手な彼女がいるくせに、何でサバイバルやってんだよ」

「う・・・」

 カカシは狼狽え、焼けた魚を手に木の上に隠れた。

「・・・上手くいってないのかしら?」

「喧嘩じゃねぇか?」

「ん〜でも〜、姉ちゃん、何も言ってなかったってばよ」

 いつものように元気一杯だった、とナルトは呟く。









 それからというもの。

「今日はサスケ君トコにご飯作りに行ってくるね〜!」





 またある日は。

「今日はサクラちゃんに料理教えるんだ〜」





 そして。

「イルカに世話になったから、手料理振る舞ってくるよ」





 はたまた。

「コテツとイズモが外食に飽きたって言うから、ご飯作ってあげてくる〜」





 今度は。

「ゲンマさんに色々教えて貰ったから、お礼にご飯作ってくるね〜」





 そんな日が、繰り返し続いた。

 もう何日、の手料理を食べていないだろう。

 夜の方も相変わらず。

 は任務の合間を縫っては、誰かしらの食事の世話ばかりしていた。

 心の優しいは、偏食しがちの独り暮らしの連中に、手料理を振る舞い続けた。

 恋人である筈の、カカシには全く作らないで。

 当然、カカシは面白くない。

 今日もは出掛けようとする。

 それをカカシは、腕を掴んで捕らえた。

「ちょっと〜、カ〜君、離してよ〜」

 私行かなきゃ、とはもがく。

「他の男にばっかり飯作ってないでさ、オレにも作ってよ、

 の手料理が食いたい、と抱き締める。

「だって〜、皆愛情のこもった手料理に飢えてるんだよ〜。独り暮らしだと栄養偏るしさ〜。カ〜君は独り暮らし歴長いから、自炊は得意でしょ? カ〜君のご飯美味しいじゃない。いつもお買い物沢山しておくのに、全然使ってないで外食してるでしょ? 無駄遣いしちゃダメだよ〜」

、ホントにオレのこと好きなの?」

 ぷく、とカカシは膨れる。

「え・・・やだ、何言ってるのよ、当たり前じゃない」

「ちゃんと言ってよ。カ〜君大好き、愛してる、って」

「馬鹿なこと言ってないでよ。私、もう行かないと待ってるんだから。離してよ」

「もうオレのこと嫌いなんだ・・・」

「そんな訳ないでしょ! も〜、何で分かってくれないかな〜」

「分かってないのはの方だよ!」

「私が? 何で?」

「毎日毎日、他人の食事の世話ばっかりしてて、自分家のことはほったらかしでさ! 洗濯も掃除もオレがやってるし、手抜きだよ!」

「私は専業主婦じゃないのよ! 家事分担はするのが当たり前でしょ? カ〜君ってもっと大人だと思ったのに、見損なった!」

 ぶん、とカカシを振り解き、きつく言い据える。

「見損なったのはオレの方だよ!」

「何よ、了見狭いんだから! カ〜君なんて嫌い!」

 ぷん、とは出て行った。





 カカシは怒りが収まらず、呑みに出た。

 カカシの酒は絡み酒、と噂になっているようで、カカシに見つからないように、忍び達は隠れた。

 1人で浴びるように酒を呑む。

「オレ・・・ただの手料理が食べたいだけなのに・・・こんなに好きなのに・・・何でこうなっちゃったんだろ・・・」









 それからというもの。

 微妙な空気が、お互いの間を流れていた。

 妙にぎこちない。

 は完全に怒っているようで、カカシの顔も見ようとしない。

 口も聞かない。

 相変わらず、誰かしらの所へ食事を作りに行っている。

「何の為に同棲してるんだろうな・・・」















「ゲンマさん、今日のかぼちゃの煮物、美味しくできましたよ。一杯食べて下さいねv」

 は今日はゲンマの所へ来ていた。

 かぼちゃの煮物を美味く作りたい、とゲンマにコツを訊き、練習させてもらっていたのだ。

「ん、上出来だな。これならカカシ上忍も喜んで食うだろ」

 かぼちゃを頬張るゲンマは、シニカルに笑って味噌汁を啜った。

「カ〜君なんていいんです! あんなに心が狭い人とは思わなかったわ!」

 つん、とはゲンマの向かいで白米を頬張る。

「何だ? 上手くいってねぇのか?」

「カ〜君がちょっとしたことで怒るから、喧嘩になっちゃって。いいんです。暫く放っておきます」

「・・・ホントに良いのか?」

「えぇ」

 素っ気なく、は味噌汁を啜る。

「・・・、オマエ、カカシ上忍のこと、好きじゃねぇのか?」

「え・・・好きですよ。でも今は嫌いです。私のこと分かってくれないんですもん」

の一番の理解者は、他の誰でもない、カカシ上忍だと思うがな」

「だったら、何で私のすることを認めてくれないんですか? 子供みたいに拗ねちゃって・・・」

「オマエが間違ってるからだよ、

 だからだ、とゲンマはかぼちゃを噛み砕く。

「え? 私が間違ってる? どうしてですか? 独り暮らしの人達や子供達が栄養が偏るから美味しい手料理を作ってあげる事って、そんなに悪いこと?」

「それは別に間違っても悪くもねぇよ。問題なのは、カカシ上忍を二の次にして、ほったらかして他の奴らに構ってるからだ」

「だってカ〜君、自分で料理出来るんですよ? 凄く美味しいし。夫婦じゃないけど、同棲してるんなら、お互いが共働きなんだから、家事は分担するのは当たり前じゃないですか」

「それは確かにそうだ。悪くはねぇ。そうじゃねぇんだ、カカシ上忍も分かってるから、家事もやってくれるんだろ?」

「えぇ」

「でも、カカシ上忍は、ただ、の手料理が食べたいだけなんだよ。自分の為だけに作ってくれる、愛情が沢山込められたオマエの手料理をな」

 自分で作れても、愛する人間の作ってくれるものが食べたいんだよ、とゲンマは優しく諭す。

「え・・・」

、カカシ上忍に全然飯作ってねぇだろ? 好きかと問われて、ちゃんと答えてねぇだろ? 不安なんだよ。オマエが、自分から離れていくんじゃねぇかって」

「そんなこと・・・ないですよ・・・」

「今の生活に、カカシ上忍の優しさに、胡座かいてねぇか? 殿様や姫様じゃねぇんだからよ、お互い思いやりが必要なんだぜ、誰かと暮らしてくってのはな」

 食べ終わったゲンマは、食器を流しに運ぶと、茶を煎れた。

 は、何やら考え込んでいるようだった。

がこうやってかぼちゃの煮物が美味く作りたいとかって言うのは、カカシ上忍に美味いモン食わしてやりてぇからだろ? ちゃんと謝って、仲直りするこったな」

 入れ立ての熱い茶を啜り、ゲンマは息を吐いた。

「そう・・・ですよね・・・」

「片付けはオレがするから、早くあの人の元へ帰ってやれよ。意地を張らずにな。飯作って、仲直りしろ」

 ほら、とゲンマはを立ち上がらせ、玄関に促す。

「ゲンマさ・・・」

「オマエの飯は美味い。心を込めて、作ってやれ」

 じゃな、とゲンマはを帰らせた。





「そうだよね・・・私、間違ってた・・・!」

 宵闇の空を、は駆けていった。











「は〜・・・。きつく言い過ぎたよな・・・は優しいから、皆を放っておけないんだよね。そんなトコが好きで、付き合い始めたのに・・・すっかり忘れてた」

 何も載っていないテーブルに突っ伏し、カカシは呟く。

は大きな任務で張り切って、小さな身体で頑張って疲れてたのに、ちっとも思いやれてなかったし・・・自分のことばっか考えてて。男のオレが、労ってあげなきゃいけなかったんだ。、オレの料理を美味しいって言ってくれてるんだから、手料理振る舞って癒してあげれば良かったよ・・・」

 今からでもまだ遅くない筈、とカカシは立ち上がり、食材を漁った。









 が家に帰ってくると、何か調理した後のような匂いに出迎えられた。

 室内は暗い。

 夜も大分遅かった。

 テーブルの上にメモが1枚。

 “久し振りに作ったから味の保証は出来ないけど、明日起きたら温めて食べてね カカシ”

「カ〜君・・・」

 冷蔵庫を開けると、美味しそうな料理が何品もラップされてあった。

 そっと寝室を覗く。

 カカシは布団にくるまって眠っていた。

「ありがと、カ〜君。大好きだよ」

 耳元でそっと囁き、着替えを持って浴室に向かった。





 翌朝、カカシが慰霊碑から戻ってくると、玄関にの靴は無かった。

「もう出掛けたのか・・・」

 朝ご飯どうしようかな、と室内に上がると、芳しい香りが鼻をくすぐる。

 テーブルの上に、朝ご飯の支度がされてあった。

 そしてメモ。

 “今までゴメンね ご飯美味しかったよ 朝ご飯作ったから食べてね 

 カカシは、胸がいっぱいに温かくなり、心の澱が落ちたように気持ちも晴れ、じっくりとの料理を味わって食べた。















 夕方。

 カカシが待機所から帰ってくると、秋刀魚の匂いが出迎えた。

 味噌の匂いも鼻をくすぐる。

「ただいま〜」

「あ、カ〜君おかえりv 今晩ご飯作ってるから、ちょっと待っててね」

 ニッコリ微笑むが、白いエプロンをして台所に立っている。

 嬉しさが込み上げてきて、カカシは思わずを抱き締めた。

・・・!」

「カ〜君、今までホントにゴメンね。私、カ〜君の優しさの上に胡座を掻いてた。カ〜君なら分かってくれてると思って。でも、私間違ってた。言わなくても通じてる、って思ってたけど、言葉にしないと伝わらない事ってあるんだよね。カ〜君、大好きだよ。この世で一番、カ〜君が大好き。カ〜君だけが好き。愛してる」

きゅ、とはカカシにしがみつく。

「オレもだよ、が好き。大好き。愛してる・・・!」





 その夜、2人は結ばれ、末永く愛を誓い合ったのだった。

 擦れ違いカップルに、幸多かれ。









 END.











 46564番、神崎蛍花様のキリリクです。
 お相手はカカシ先生で、
 他人の食事の世話ばかりしてカカシの世話がおろそかになってしまい、
 カカシが拗ねてしまう。
 最後はどちらかが折れて仲直りv
  という話が読みたい、とのことでした。
 何か、設定ズレた気がしますが・・・強引に結びつけた気がしますが・・・
 こんなんになりましたが、お気に召していただけると幸いです。
 リクって、自分に無い引き出しを開けられるから、面白いですね。
 有り難う御座いました。