【出会いはいつも偶然と必然】 第十二章









「中忍選抜試験?」

 翌朝、朝食を摂りながら、会話に上ったのは中忍選抜試験だった。

 は書物を読んだり話を聞いたりしていて、忍びの仕組みについては殆ど理解していたので、おおよそどういうものかは知っていた。

「もうすぐあるの?」

「あぁ。昨日の任務帰りに招集があってね。火影様から通達があった。一週間後から始まるよ」

「招集ってことは、ナルト君達も出るの? それ」

「一応推薦はした。出るかどうかは、本人達に決めさせる」

「でも、まだ下忍になりたてでしょ? 皆。新人でも出られるの?」

「新人はここ5年来出ていないけどね、ま、形式上は、最低8任務以上こなしていれば、担当上忍の意向次第で推薦できるし、参加できる条件を満たしているよ。でも普通は、その倍以上の任務をこなしてから参加させるのが通例だけどね」

「ナルト君達、いくつ任務こなしたの?」

「昨日で8回かな」

「ギリギリじゃない。いいの?」

「大丈夫だよ。アイツらは一度修羅場をくぐっているし、オレが修業をつけてきた。自信を持って推せるよ」

「紅せんせぇとアスマせんせぇの所は?」

「あぁ、アイツらも推薦してたよ。今年は新人が全員出るかもな。どうなるやら、楽しみだよ」

 懐かしいなぁ、とカカシは過去を振り返る。

「カカシせんせぇが中忍になったのって6つの時でしょ? もう20年も前なんだ」

 すご〜い、とは目を輝かせる。

「イルカ先生には、ナルト達を出すことを反対されたけどね」

 6つと言えば、と味噌汁を啜りながら、カカシは苦笑した。

「やっぱりまだ早いからって?」

「うん。でも、素質はあるから、大丈夫だよ」

「だよね。皆頑張ってるもん。中忍になれるといいね」

もアカデミー卒業して任務こなしたら、すぐ出られるようになるよ」

 その前に正式入学もまだだっけ、とカカシは笑う。

「カカシせんせぇが指導員になってくれるの?」

 にぱっとは目を輝かせた。

「残念ながら、オレはもう部下を持ってるんでね、別の先生だよ」

「な〜んだ。一緒に任務出来ると思ったのに」

 カカシせんせぇが良かったな〜、と口を尖らせた。

「ハハハ。夢や目標が簡単に叶ったらつまらないじゃないか。苦労して手に入れてこそ、価値があるんだよ」

「なるほどぉ。そうだよね。うん、頑張る!」

 食べ終わり、は元気に片付けを始めた。









『オレと一緒に任務がしたい、か・・・』

 ナルト達との待ち合わせ場所に向かいながら、カカシは思慮に耽る。

 への思いは日増しに強くなっている。

 なるべくに触れないように心掛けてきたが、それが一層思いに拍車をかけた。

 に触れたい。

 熱い口付けを交わしたい。

 抱き締めたい。

 狂おしい程に抱き壊したい。

 愛しくてたまらない。

 花のような笑顔が眩しい。

 カカシの我慢も、かなり限界だった。

 これまで何度請われても、何とかかわしてきた。

 が、今度迫られたら、もう歯止めは利かない。

 この間の二の舞どころか、その先に進んでしまう。

 進んでいいのだろうか?

 ゆっくり深めたいと言っていた仲は、どこまで深めた?

 もういいのだろうか?

 理詰めで考えずに、本能に任せるべきか?

 こんなことは誰にも相談できない。

 恥ずかしくて出来るか。

 でも、誰かに聞いて欲しい。

 背中を押して欲しい。

 カカシはその狭間で揺れていた。











「よぅ、カカシ。オマエんトコも今日は終わりか」

 上忍詰め所、人生色々。

 今日は以前終了させた任務の事後処理だけだったので、早めに終わり、日の高いうちに詰め所にやってきた。

「あぁ。ナルトがかなりサスケに対抗意識燃やしててな、ボロボロになって、必死だよ」

「オマエのトコはいいやな。ウチはど〜も、メンドクセ〜、とか言うヤツばっかりでな。いのが一番張り切ってるが、まぁ全員伸びてると思うぜ。中忍選抜試験も、揃って志願するだろうよ」

 アスマは煙草を燻らせながら、カカシに隣を勧めた。

「ウチはどうだかな・・・」

 ふぅ、と息を吐いてカカシは座った。

「サクラか」

「あぁ。頭脳は中忍以上だし、チャクラのコントロールは班で一番上手いんだが、やる気になるかどうかはな・・・」

「大丈夫だろ。オマエ、全員がその資格があると思って推薦したんだろうが」

「まぁな。志願書を渡したらどんな反応を見せるか・・・志願してくるかどうか、楽しみだな」

 茶を淹れて、カカシは熱いうちに口に含んだ。

「でな、カカシ。前に言ってた飲み会の件なんだがよ」

「あぁ、今度皆のことを根掘り葉掘り訊かせてもらうってヤツね」

「ま、何でもいいが、オレ達暇になっただろ? 明日あたり集まってどうだ、って話になったんだが、大丈夫か?」

「ん〜・・・」

 茶を飲みながら、カカシは逡巡した。

には一晩くらい1人で待たせても大丈夫だろ。ガキじゃねぇんだからよ。にゃ聞かれたくねぇ話もあるだろ? な」

「分かったよ。酒酒屋か」

「おぅ。飲み明かして語り明かそうぜ」

「了解」

















 翌日の昼時、上忍詰め所。

 カカシは他の待機中の上忍達と世間話をしていて、ふと思い出した。

『あ、に今日飲みに行くから夕飯要らないって言ってくるの忘れてたな・・・ま、後で忍犬に知らせに行ってもらうか・・・』

 の弁当を食べながら、昨夜も今朝も中忍選抜試験の話で盛り上がってすっかり伝えるのを忘れていたのだった。

、文句言うかな〜。私も行きた〜いって。膨れるのが手に取るように分かるよ・・・』

 今夜は呑みすぎないように気を付けよう、とカカシは晴れ渡った青空を見上げた。













 陽も大分傾いてきた頃、病院からの帰り、はサクラとばったり会った。

「あ、サクラちゃ〜ん!」

さん・・・」

 ニコ、と微笑みながらは手を振ってきた。

「どうしたの? 今日は任務無いって聞いたけど。お買い物?」

「ううん。お散歩してたの。色々考えることがあって」

 サクラの表情は、心なしか沈んで見えた。

「考えること? 何か悩みでもあるの? 私で良ければ、相談に乗るよ?」

 腰を屈めて、は優しく微笑んだ。

「悩みって言う程のことじゃないんだけど・・・ただ、私ってダメだなぁ、って」

 連れ立って歩きながら、サクラは寂しく微笑む。

「ダメ? 何がダメなの?」

「ん〜、私って任務でも演習でも、一番いいトコ無しなのよね・・・皆の足引っ張ってるなぁ、って」

「そぉ? サクラちゃん頑張ってるじゃない。素人の私の目で見ても、日に日に上達してるなぁ、って思ってたけど」

「え・・・そうかな?」

「うん。カカシせんせぇも、“サクラは頑張っている、これからもっと上達していく”って言ってたよ」

 はカカシの声真似をして、ニコ、と“カカシスマイル”をしてみせた。

「カカシ先生が・・・? ホントに? だったら嬉しいけど・・・」

「うふ。でも、一番に言ってもらいたいのは、サスケ君でしょ」

「う・・・うん・・・そうなんだけど・・・って、え?!」

 かぁっと赤くなったサクラは、それがの口から出た言葉というのが、不思議でならなかった。

「な・・・何で・・・」

「サクラちゃん見てれば分かるよ。サスケ君のこと好きなんでしょ?」

「何で分かるの?」

 はこういうことには疎いと思っていた。

 だから、そういう機微に気付くとは思わなかったのだ。

「サクラちゃん、誰よりもサスケ君に認めてもらいたいって思ってるでしょ。私も、カカシせんせぇに認めてもらいたくて必死だもん。重なるなぁって思って」

 ニコ、と微笑むその笑顔が、聖母のようだった。

 サクラには、が年相応の大人に見えた。

さん・・・大人になったんだね・・・」

 ホロリ、と目尻を押さえる真似をする。

「あはは。そうかな。一生懸命お勉強して、修業もしてるしね。色々教えてくれる親切な人達に囲まれてるし、私って幸せ者」

「あ〜私もバカナルト見習って修業頑張ろうかな〜」

 頭の後ろで手を組んで、サクラは息を吐く。

「付き合おっか? 修業」

 まだ陽も高いし、とは微笑む。

「いいの? でも、さんってどのくらいのレベルなの? 術とかだったら、到底敵わないと思うんだけど・・・」

 カカシ先生の術教わってるんだもんね、と背の高いを見上げる。

「カカシせんせぇとやってることは、基礎的なことだよ。基盤をしっかり作ってこそ、応用が活きるからって」

 だから今はもっぱら体術の強化、とサクラを見遣る。

「体術が弱いって言ってたもんね。今はどれくらい出来るようになったの?」

「忍びの駆け足は出来るようになったよ。まだ遅いけどね。レベルか・・・参考になるか分からないけど、大体、カカシせんせぇに一発入れられたくらいかな」

「カカシ先生に一発?! うっそぉ・・・いつの間にそんなに?! ナルトはおろか、サスケ君だってかすりもしないのに」

 すっごぉい、とサクラは驚いて目を見開いた。

「えへへ。油断した隙を突いたんだけどね」

「カカシ先生が油断?! 色仕掛けしたとか?」

「色仕掛け? 何? 別に普通にやったけど」

 は意味が分からずにキョトンとしていたが、サクラは、無意識の色仕掛けだったに違いない、と踏んだ。

「そっかぁ。カカシ先生も、さんが相手だと隙も出来るんだぁ。成程ね・・・」

 内なるサクラが、ニヤリと笑った。

「でもまだ威力が浅いからって、及第点は貰えなかったんだ」

「女の力じゃなかなか無理よねぇ。でも何か、やる気出てきたな。さん、修業付き合ってくれる?」

 表情にすっかり明るさを取り戻し、サクラはやる気を漲らせた。

「いいよ。近くの演習場行こっか。忍者服に着替えるから、家に寄っていいかな」

「忍者服? さん、そんなの持ってたの?」

 今の服装は、いつもと変わらない、露出の多い派手な格好だった。

「最近作ったの。可愛いんだよ。見て見てv」

 家行こう、とは駆け出し、跳び上がって屋根の上を駆けていった。

「わぁ、ホントにできるようになったんだ・・・」

 サクラは少々驚きながらも、に付いていった。





 カカシの家の前まで来て、は鍵を取り出した。

「へぇ。此処がカカシ先生の家なんだ。初めて来たわ」

 周りの風景を見渡していると、中に入ったが手招きをしている。

「お邪魔しま〜す」

 興味津々で、サクラは室内に入る。

「お茶かジュースでも出そうか?」

「あ、ありがと」

 すっかり夏で暑いもんね〜、喉乾いてるでしょ、と冷蔵庫を開け、は清涼飲料水を取り出し、グラスを食器棚から持ち出してダイニングのテーブルに置き、注いだ。

「いただきま〜す」

 此処がカカシ先生の家の中かぁ、とキョロキョロと見渡しながら、グラスを口に付ける。

「そっちの部屋は何?」

「居間だよ。カカシせんせぇが夜寝てるトコ。隣が、私が借りてる寝室」

「寝室見てもいい?」

「いいよ〜。蔵書とか重要書類とかには触らないでくれれば」

「へぇ。やっぱり男の人の部屋って味気ないわね。何か独特の匂いがするな」

 サクラはグラスを片手に、サッパリしたものね、と室内を見渡す。

「カカシせんせぇの匂いがするのかな? 居間の方がもっとすると思うよ」

 ソファが気持ちいいよ〜、とは微笑む。

「でもさんの匂いもするよ。優しくて甘い匂い。ホッとする」

「そう?」

 は収納ケースから忍者服を取り出した。

 ふと、サクラはベッドの膨らみが気になった。

「ベッド、何かあるの?」

「あっ、えへへ。見てくれる?」

 は大事そうに、人形を手に取って、サクラに見せた。

「じゃ〜ん」

「あっ! カカシ先生の人形?! うっわぁ〜、そっくり! さんが作ったの? うま〜い。カカシ先生が子供になったみたい。どうしたの? これ」

 サクラはグラスを置いて、人形を手に取った。

「あっ、写輪眼もあるんだ。凝ってる〜」

 額当てをずらして見た後、人形の口布の中身を見ても意味がないので、サクラはボスボスと楽しそうに腹に突きを食らわせた。

「ベストには巻き物入ってるし、ホルスターとポーチには手裏剣やクナイも入ってるんだ。あ、いつも読んでる本も。細かいなぁ」

「ホラ、サクラちゃんが小さいマスコット作ってたでしょ? アレ見て、私も作りたいなぁって思って、その日に材料買って、3日か4日かかって作ったの。私、カカシせんせぇの温もりがないと眠れないって言ったでしょ? だから最初の頃は普通のクッションにカカシせんせぇのチャクラ練り込んでもらってたんだけど、やっぱり雰囲気出したいなぁ、って思って」

 今はこの人形にチャクラ練り込んでもらって寝てるの、とサクラから受け取り、嬉しそうにぎゅっと抱き締める。

さん・・・ホントにカカシ先生が好きなんだね・・・」

 の様子が可愛らしく見え、サクラは微笑んだ。

「うんvv 大好きvv」

 果たしての“好き”は進展があるのか、さっきのサスケの件もあり、重なると言ったの真意がサクラは気になった。

「私、カカシせんせぇがいないと生きていけないんだ。ずっと傍にいれたらいいのに」

 早く忍者になって、一緒の任務がしたいよ、と口を尖らせる。

「え・・・任務?」

「うん。今の目標なんだ」

 そうすれば一緒にいられるし、守ることも出来るでしょ、とは微笑む。

 聞いていてサクラは、にとってカカシは特別な存在になった、と言うのは分かったが、望むことが一般女性と違うあたりが、らしいなぁ、と思った。

 それでも前進してるんだ、と、もっと色々、仲を追求したかったが、サクラはやめた。

『キスのこと訊いてみたかったけど・・・ま、いっか』

 ふとサクラは窓辺に目が行く。

「あ、写真飾ってあるんだ。そう言えば随分楽しそうに誘ってきたのよね、カカシ先生。こういうのが好きだとは思わなかったわ」

 そして隣に並ぶ古い写真に目を遣る。

「あ、これが例のカカシ先生の下忍の頃?! うっわぁ、小さ〜い! 5歳で忍者かぁ。何か、想像もつかないわ」

 早熟だったんだぁ、とサクラは感嘆する。

「可愛いよねvv」

「それにしても、つまんないの。こんな小さい頃から口布してるなんて。素顔見た〜い」

 腰を屈めて、サクラは写真を繁々と見つめる。

「あはは。まだ見てないの?」

「そうよ。食べてる時は別行動多いし、覗きに行っても早食いで終わってるんだから。この上の人が担当上忍かな? あれ・・・何か見覚えがあるような・・・何処でだっけ」

 20年前なら、それなりの歳よね、とサクラは考え込む。

「あぁ、顔岩でじゃない?」

「顔岩? ってまさか・・・」

「この人、4代目の火影だったんだって」

「えぇ?! カカシ先生って4代目の教え子なの?」

 通りで凄い筈だ、とサクラは大きく息を吐いた。

「あれ、この目覚まし時計・・・5時にセットされてるね。何で?」

 随分早いじゃない、とサクラは時計を見遣る。

「あぁ、カカシせんせぇ、いつも5時に起きるから」

 居間には別の時計置いてあるから、私は使ってないからカカシせんせぇが使ってた時のままなんだけど、とは付け加えた。

「えぇ?! 5時にセットしてるのに、何でいつもあんなに遅いのよ。そんっなに寝起き悪いの? カカシ先生って」

「え? ちゃんと起きてるよ、いつも」

「うっそ〜。だってカカシ先生、自分から呼びつけておいて、いっつも何時間も遅刻してくるのよ! 起きられるんなら、何で時間通りに来ないのよ。朝何してるの、一体」

 言ってサクラは、ハッと思い当たり、かぁっと赤面する。

「ま・・・まさかさん、実はカカシ先生と朝っぱらからイチャイチャしてるんじゃないでしょうね?」

 夜這いならぬ朝這いされてるとか? とサクラは赤面して問う。

「イチャイチャ? 別に何もしてないよ。ん〜、早起きして出掛けてるみたいだよ」

 は、カカシが毎朝慰霊碑に訪れていることは伏せた。

 軽く口にすることではない、と思った為だ。

「何処に出掛けてるの? 遅刻する程」

「さぁ? 私が起きると、もういないもん」

 私は5時には起きないから、と人形を撫でながら呟いた。

「朝食はどうしてるの?」

「帰ってきてから食べてるよ。それでお弁当持たせて、任務に出掛けるの。カカシせんせぇってそんなに毎日遅刻してるの? 集合って何時?」

「遅刻なんて可愛いもんじゃないわよ! もう、毎日毎日、何時間も待たせるんだから。定刻通りに来たことなんて一度も無いわよ」

 サクラの言う時間を聞いて、は驚いた。

「ありゃ・・・まだ家にいるよ、その時間。カカシせんせぇもちゃんと言ってくれればいいのに」

 ゴメンね〜、とは手を合わせた。

さんが悪い訳じゃないわよ。悪いのはカカシ先生!」

「じゃあ今度から、出掛ける前に私も起きて朝御飯食べてもらうよ。それでお弁当持ってって、そうすれば早く集合できるんじゃないかな」

「え・・・それじゃ、さん大変でしょ?」

「大丈夫だよ。皆を待たせたらもっと悪いし。気を付けるね。教えてくれて有り難う」

 は微笑みながら大切そうに人形をベッドに寝かせると、忍者服に着替え始めた。

 の美しい肢体は、同じ女のサクラでも見ていてドキリとする。

「スタイルいいなぁ。羨ましい」

「そっかな? サクラちゃんはこれからもっと成長していくんだから。里一の美人くの一目指しちゃえば?」

「え〜、さんがいたら無理よぉ」

「そんなことないって。カカシせんせぇにはお子様扱いされるしさ。紅せんせぇも綺麗な人だし、私はまだまだ」

「そ〜ぉ? カカシ先生はこのナイスバディにメロメロだと思うな〜。いやらしいことされたりしてない?」

 たわわに揺れる豊満な胸に、サクラは釘付けになる。

 女の自分でもドギマギするくらいだから、に好意を抱いているカカシは正常ではいられない筈、とサクラは思う。

「いやらしいことって? お酒を呑むとカカシせんせぇ、すっごく優しくしてくれるよvv それがスッゴイ嬉しいんだvv」

「優しく・・・」

 サクラはその意味を解し、ゴクリと喉を鳴らして赤面した。

『何よ・・・カカシ先生ったら、随分進展してるんじゃない・・・飄々と素っとぼけてるけど、やることやってるのね・・・』

 これ以上は訊くだけ野暮だ、とサクラは置いていたグラスのジュースを飲み干した。

「どうかな? これ」

 着替え終わったは、サクラに見せた。

「へぇ〜。似合うじゃない。さんの魅力を最大限活かしているし、一見忍びっぽく見えないけど、機能性も併せ持ってて・・・いいわ、うん」

「じゃ、行こっか」









 近くの演習場に来てを相手に体術の修業を始めると、サクラは驚愕した。

 はとても一般人とは思えない程、強かったからだ。

 アカデミーレベルどころか、下忍すら上回る。

 サクラは圧されていたが、が加減をしているのが分かり、何だか悔しかった。

 カカシに一発入れたというのは伊達じゃない。

 多分サスケより上だ。

 ナルトはお話しにならない。

 でも、心なしか体裁きがサスケにダブるのは気のせいだろうか・・・?

 いや、でもカカシの方に似ているか。

 そう思いながら、サクラは術を繰り出して向かっていく。

「くっ・・・」

 は織り交ぜて使う術もチャクラコントロールも、抜群に上手い。

 くの一のお手本が目の前にいるようだ。

 そうか、盗めばいいんだ。

 そう結論したサクラは、をしっかり見据え、学びとろうとした。

 カカシに修業をつけてもらっているという点では同じ筈なのに、こうも差があるものなのか。

 靄靄を吹っ切りたくて修業に付き合ってもらっているのに、却って自信を無くしてしまった。

 サクラの息がかなり上がってきたので、は、おしまいにしよう、と水筒を取り出してサクラに差し出した。

 肩で息をしながら両膝に手をつくサクラは、水筒を受け取ると、その場にへたり込んだ。

さん強いよぉ〜〜〜」

 ゴクゴク、と飲み込み、息を深く吐く。

「そうかな? でも、サクラちゃんもいい筋してるよ。長所を伸ばしていけば、強力な武器になると思うな」

 対するは、殆ど息が上がっていない。

 の慰めも、却って恨めしかった。

「そうそ。サクラの分析力は中忍顔負けだしね。その頭脳を活かせば、上を目指せると思〜うよ」

 林の木陰から、耳に馴染んだ飄々とした声がする。

「カ、カカシ先生?! 何で・・・」

 姿を現したのは、イチャパラ片手の、カカシだった。

「見物〜♪ や〜、面白いもの見れたな〜。美女2人の対決v」

 ニコニコと、カカシは2人の元へ歩み寄ってくる。

「貴方だぁれ?」

 はキョトンとして、“カカシ”を見つめた。

「やだ、何言ってるの、さん。カカシ先生じゃない」

「え〜違うよぉ」

「あ・・・そう言えば何だか違う感じ・・・」

「チィ。やはりバレたか。お主、なかなかヤルのぅ」

 声色が突然変わり、ポン、と“カカシ”は煙に包まれる。

 変化の術を解く時の煙だ。

 現れたのは、小型のパグ犬。

「え・・・?」

 サクラは呆気に取られている。

「額当てしてるね。忍犬? カカシせんせぇの忍犬かなぁ。背中にカカシせんせぇのマーク入ってるし」

 ニコ、と微笑んでは腰を屈めた。

「おぅ、ナイスバディの娘。お主にカカシから伝言を預かっておる。探したぞ」

「伝言? 何?」

「カカシは今夜は上忍仲間と飲み会だから、夕飯は要らないそうだ。遅くなるから先に休んでいろとな」

「飲み会・・・? ズル〜イ! 私も一緒に行きた〜い!! お話ししたいよぉ」

「まぁそう言うな。上忍同士、積もる話もあるんだろうて。今宵は我慢せい」

「ちぇ」

「では、伝言は伝えたから、拙者は帰るぞ」

 ポン、とパックンは姿を消した。

「あ、ありがと〜」

 バイバ〜イ、とが手を振っている中、ただサクラは成り行きを眺めていた。





「さて。今夜はどうしよっかな。つまんないけど、1人でご飯作って食べよ」

 は散らばった手裏剣とクナイを拾い集め終わると、傷だらけのサクラに、治療を施した。

「有り難う。治癒能力って便利だなぁ。羨ましい。さん、よかったらウチ来ない? 夕食一緒にどう?」

「いいの? ん〜、どうしよ。あ、そうだ。いいや、ゴメン。ナルト君のお家にご飯作りに行くよ。時間作って行くって約束してるから」

さん、ナルトにご飯作ってるの?!」

「うん、たまにね。イルカせんせぇに、ナルト君はいつもラーメンばっかり食べてるから、栄養のある物食べさせてやってくれって言われてるの」

「へぇ〜。私もさんの手料理食べてみたいな〜」

「じゃあ、今度お弁当作ってこようか。お昼に皆で食べよっか?」

「いいの? やったぁ。私も料理習おうかなぁ。最近母さんの手伝いするんだけど、1人では作ったことないのよね。サスケ君に食べてもらいたいなぁ」

 キャ〜、とサクラは叫ぶ。

「サスケ君、結構何でも食べるけど、栄養バランスきちっと考えて摂ってるよ」

「何で知ってるの? そんなこと」

 の言葉に、サクラは心がざわついた。

「あ、えへへ。いけない。内緒v」

 しまった、とは舌を出す。

「ずる〜い。サスケ君と何かあるの?!」

「しょうがないなぁ。内緒だよ。時々ね、サスケ君と一緒に修業してるんだ。体術もサスケ君に習ったの。で、その時にお弁当作って持っていって、食べてもらってるんだ」

 カカシせんせぇには言わないでね、とは目の前で手を合わす。

「何で・・・?」

「サスケ君が、知られたくないんだって」

 秘密の特訓はバレたら意味がないから、とは微笑む。

「いいなぁ、サスケ君と・・・。それでさんの体裁きがサスケ君に似てるんだぁ。カカシ先生にも似てると思ったけど」

「カカシせんせぇが言うには、サスケ君はオレに似てるって言ってたよ。だからじゃないかな」

 さ、帰ろっか、とは伸びをした。

さん、また女同士の話でもしようよ。今度」

 色々訊きたいこと多いし、とサクラも立ち上がって伸びをした。

「いいね。楽しみにしてる」

 帰路に着き、里の中心部まで戻ってきて別れると、は商店街に向かった。









 屋根の上を駆けていると、はゲンマに出くわした。

「あっ、ゲンマさん!」

 立ち止まり、にぱっと笑う。

「おぅ、その格好ってことは、忍者ごっこでもしてたのか?」

 ゲンマもの前で立ち止まり、高楊枝で佇んだ。

 忍者服は、ゲンマに見立ててもらった為、はすぐにゲンマに見せに行っていた。

「違うよぉ。サクラちゃんの修業に付き合ってたの。ゲンマさんは任務の帰り?」

「まぁな。これから報告書を提出に行くところだ」

「ゲンマさん怪我してるよ。治そっか」

「あぁ? これくれぇ怪我のうちに入らねぇよ。舐めときゃ治る」

 ペロ、と腕の傷を舌で舐めた。

「ダメだよぉ、バイ菌入っちゃうよ。それにチャクラも大分消費してる。回復させなきゃ」

クィッとゲンマの腕を掴むと、は手をかざして傷を治した。

「悪ィな、いつも」

 が治療の時に醸し出す空気は、疲れきった身体さえも癒してくれるので、チャクラが漲り、前以上に元気になれる。

「ゲンマさんは今夜の飲み会に行くの?」

「飲み会? あぁ、例のヤツか。いや、オレは行かねぇよ。任務が長引くと思ったしな。断った」

「でももう終わったから行くんじゃないの?」

 まだ時間早いよ、とは夕日を見遣る。

「いや、行かねぇ。カカシ上忍が行くから、オマエ1人になるだろう? ウチに来いよ」

 どうせ暇だろ? とゲンマはを誘う。

「行っていいの?」

「あぁ。いつもメシ作ってもらっても、一緒に食えねぇからな。こういう時くらいは」

「ん〜、ナルト君家にご飯作りに行こうと思ってたんだけど・・・」

 行きたいな〜、どうしよっかな〜、とは悩んだ。

「オレの任務時間が上がるまでまだ時間がある。アイツん家に行って作ってきて、それからウチに来い。その頃にはオレも戻れるから」

「じゃあそうする! また後でね!」

 ニコッと微笑んで、は眼下の商店街に降り立った。









 一楽に入ろうとしているナルトを見つけ、ご飯作るよ、と誘い、はいつもより多めに材料を買い、ナルトの家に向かった。

姉ちゃん、材料多いってばよ。オレこんなに食いきれないってばよ」

「大丈夫、持って帰る分もあるから。全部作ったりしないよ。食べきれなくて残しちゃったら勿体ないもんね」

 ナルトの家に帰ってくると、手早くは調理に取りかかった。

姉ちゃん、いつもと格好違うな、どうしたんだってば、それ?」

 調理の様子を眺めながら、ナルトは呟いた。

「あぁ、うん。忍者服作ったの。忍者目指すからには、それ相応の格好しないとね」

「へ〜。ちっとは強くなったのか? 姉ちゃん」

 全然忍びらしくない、とジロジロと見遣る。

「どうかな〜。修業は頑張ってるんだけどね」

「オレも頑張ってるってばよ! さっきまで特訓してたんだ!」

「あはは。火影になるんだもんね」

 確かに前よりずっと強くなってるよ、とは微笑みながら言い放った。

「ナルト君は強くなるよ。私保証する」

 さ、出来た、と手を止め、次々と器に盛っていった。

「ホント? マジでマジで?」

 嬉しそうに、満面の笑顔で身を乗り出すナルト。

「うん。前にした約束、一緒に頑張ろうね」

「おぅ!」

 はナルトが美味しそうに食べるのを微笑みながら眺め、食べ終わると片付けをし、名残惜しそうにしているナルトの家を後にしてゲンマの家に向かった。











 ゲンマの家に着いて夕食の支度を始めた頃には、とっぷりと日が暮れていた。

 ゲンマはまだ帰って来ていない。

 特別上忍であるゲンマには特殊な仕事が多い為、帰りが遅くなるのはも承知していたので、急ぐことも無く丁寧に支度していた。

 食卓に料理が並べられた頃、ゲンマは帰ってきた。

「あ、おかえりなさ〜いv 用意できたトコだよ」

「ただいま。良い匂いだな。外まで匂ってきた」

「ゲンマさんの好きなかぼちゃの煮物も作ったよv」

「美味しそうだ。ベスト脱いで来る」

 部屋から戻ってきたゲンマは、席に着くと、くわえていた千本をテーブルに置き、箸を取った。

「いただきま〜すv」

 続けて席に着いたも、嬉しそうに食べ始める。

「ご機嫌だな、

 お吸い物を啜りながら、ゲンマは向かいのを見遣った。

「だって、こうやってゲンマさんと夕食食べるの初めてなんだもん。いっつも作り逃げだったから、申し訳ないなって。カカシせんせぇと3人で一緒に食べようって言っても、カカシせんせぇ、何か嫌がるんだよね。何でかなぁ」

 あ、かぼちゃよく煮えてる、とは口に放り込む。

「そりゃ嫌がるだろ。と2人っきりがいいんだよ、カカシ上忍は」

オレは別に1人でも構わないぜ、気にするな、とゲンマもかぼちゃに手を伸ばす。

「・・・ゲンマさんって優しいね」

「あぁ?」

「だって、今夜の飲み会断ったのって、任務のせいじゃなくって、私が1人で寂しがると思ったからなんでしょ」

「別にそういうつもりじゃねぇよ」

 口一杯に頬張って噛み砕きながら、ゲンマは吐き捨てた。

「口に出さないところがゲンマさんの優しさだよねv」

「妙な事言ってねぇでオマエも食え。オレが全部食うぞ」

 ぶっきらぼうな口調の中に見え隠れする熱い優しさが、は好きだった。

「うんv お兄ちゃんv」

「気持ち悪ィからそう呼ぶな」

「何でぇ。いいじゃな〜い」

「いいけどよ・・・」





 食べ終わって片付けをしているを眺めながら、ゲンマは茶を啜った。

「カカシせんせぇ達、今頃盛り上がってるんだろうなぁ。私も混ぜて欲しかったよ」

 プク、と膨れながらは食器を洗う。

「飲み会なんていつでも出来るだろ。これから暫くカカシ上忍達は任務が無いから、ずっと詰め所にいる。邪魔にならない程度に、邪魔しに行ってくればいい」

「え〜、詰め所に入っていいの?」

「構わねぇよ。火影様の所に入り浸ってるくせに、変な気遣うんじゃねぇ」

「じゃ、今度遊びに行っちゃお〜♪ 紅せんせぇやアスマせんせぇの他にもいるんだよね〜」

 この間会った時だけじゃ話し足りなかったんだよね、とは食器の泡を流しながら浮かれた。

「あぁ、2人と会ったんだっけな」

 自分が仕組んだのを、ふとゲンマは思い出した。

「あの日はカカシ上忍は優しくしてくれたのか?」

 に分かる言葉で、ゲンマは尋ねた。

「ううん。呑み比べしようって言っても、お酒自粛してるからダメ、とか、酔っ払ったらこの前以上のコトしちゃうからダメ、とか言って、一緒に寝てもくれないし。ちょっと不満」

 片付けを終えたは振り返り、ぷく、と膨れていた。

「ったく、しょうがねぇな、カカシ上忍も。まだウダウダしてんのか」

 椅子に座ったに、ゲンマは急須から茶を注いだ。

 ありがと、と湯飲みを受け取る。

「ねぇ、ゲンマさん。カカシせんせぇがすっごく優しくしてくれるのって、悪いことじゃないよね? いっぱい嬉しくなれることなんだよね? なのに何でカカシせんせぇはダメって言うの?」

 ふ〜ふ〜と茶を冷ましながら、は湯飲みに口を付けた。

「そうだな、オマエがそういうことのコトをちゃんと理解できてないからだろうよ。分かってないオマエにそういうことをするのは、悪戯をして楽しむ変質者の気分で嫌なんだろ」

「悪戯? 変質者? やっぱり悪いことなの?」

 きょろんとした大きな瞳をより大きく見開く。

「悪いことじゃねぇよ。ただ、オマエが男女の営みのことを理解していないからな。カカシ上忍は、相互理解の上でその先に進みたいと思ってるんだと思う」

「ダンジョノイトナミ? それってどういうこと? どうすれば分かるの?」

 汚れを知らない清らかな瞳が、真摯にゲンマを見つめた。

「そうだな・・・」

 が分かるにはどういう言葉で教えるべきか・・・とゲンマは考え込んだ。

 思い浮かんだ一つの考え。

、カカシ上忍がいつも読んでいる本があるだろう?」

「あぁ、オレンジ色の本?」

いつも熱心に読んでるよ、とは茶を飲み干した。

「そう。それを読んでみな」

「え〜でも〜、は読んじゃダメって言われてるよ」

「大丈夫だよ。カカシ上忍に内緒でな。その本には、オマエの知りたいことや、カカシ上忍がしたいと思ってることが、全て分かるように書いてある。今に一番必要なことが、全て詰まっている。家に帰ったら読んでみろ」

「ん〜、じゃあ読んでみる。ホントはすっごく読んでみたかったんだ〜」

 にぱ、とは微笑んだ。

「多分カカシ上忍はかなり呑まされてベロベロに酔っ払って帰ってくるだろう。その本に書いてあるようなこともしてくる筈だ。そうしたらは全て受け止めて、本の真似をすればいい」

「本の真似? カカシせんせぇ喜んでくれる?」

「あぁ、とてもな。も嬉しくなれる」

「一杯?」

「あぁ、一杯な」

 ぱぁっと花が咲いたようには笑顔を見せた。

 特別上忍のゲンマは、仕事柄か、相手の心を掴むのが上手かった。

 分かりやすいように諭してもくれる。

 ゲンマ以上に、の指南役に相応しい人間はいないだろう。

「じゃ、帰ってじっくり読め」

「え〜、も少しいるよぉ。ゲンマさんだってお酒呑みたかったでしょ? 私付き合うよ」

「いらねぇよ。オレん家にはオマエの口に合う酒はねぇ。1人で呑むから、オマエはサッサと帰ってカカシ上忍の帰りを待っていろ」

「ちぇ〜。折角もっと一杯お話ししたかったのにぃ」

「昼間いつでも相手してやるから。明日事後報告に来い」

「事後報告?」

「どうなったかってことさ。あとオマエに言っておくことがある」

 ゲンマは色々アドバイスし、追い払うようにを家の外に出した。

「オレが今ここで教えてやってもいいんだぜ?」

 不敵な笑みで、ゲンマはを見据えた。

「え? ゲンマさんが教えてくれるの? どうゆうの?」

「カカシ上忍のやりたいことだ。が構わねぇなら、教えてやる」

「ん〜。ゲンマさんが教えてくれたら、私はどういう風になれるの?」

「さぁな。どうなると思う?」

「分かんない」

「ま、冗談だ。さぁ、帰れ」

「え、教えてくれるんじゃないの?」

「ダ〜メ〜だ。オレが教えることじゃねぇ。冗談って言っただろうが。カカシ上忍に殺されちまう。本読んで、カカシ上忍の帰りを楽しみに待ってろ」

「分かった〜。じゃあまた明日ね〜。オヤスミナサ〜イ」

 満面の笑顔で、甘い香りを残して、は帰っていった。

「ま、これで大丈夫だとは思うが・・・は嫌がることは無い・・・だろ」

 明日が楽しみだな、との甘い残り香に鼻をくすぐられながら、ゲンマは酒瓶を取り出した。

「オレは悪趣味なのかね・・・」

 ふぅ、と息を吐いて、ゲンマは酒を食らった。






 盛り上がってきつつあり(え?盛り上がってない?)、
 次章もまたソフト(?)に性描写が含まれる為、15禁になります。
 お嫌いな方はゴメンナサイ。
 義務教育中の方もご覧になれません。
 自己責任でお願いします。