【出会いはいつも偶然と必然】 第十七章









「そうか・・・分からぬか。まぁ、お主も最近になって自覚してきた能力のようだしのぅ。用心に越したことはないな・・・各個に警戒するように申し渡しておこう」

 は朝から、火影の執務室を訪れていた。

 自分に分かる限りのことを伝えたが、まだ能力を使いこなせていないので、殆どが曖昧で、詳しいことは分からなかった。

「ごめんなさい、火影様。私の記憶喪失が治ればちゃんと分かると思うんですけど。この里に何か起きるんでしょうか?」

 火影の傍の椅子に腰掛けたは、足をプラつかせながら、すまなそうな顔をする。

「うむ・・・。一つ、木の葉にとってもっとも警戒するものはある。思い当たるのはそれくらいじゃが・・・こればかりは、実際にその時になってみぬと分からぬのぅ」

「私に何かできることって無いですか? お手伝い」

「いやいや、儂の想像の通りだとすると、お主にとっても危険すぎることじゃ。目立たぬようにしておいてくれぬか。何、木の葉の忍びは皆優秀じゃ。里を危険から守ってくれる。、お主はこれまで通り、病院に通っていてくれ」

「でも・・・」

「お主も忍びを目指しているから力になりたいというのじゃろう。じゃが、お主の最優先事項は、記憶を取り戻すことじゃ。全てはそれからでよい。アカデミーで学び、病院で能力を磨き、研究施設で開発に携わっておるんじゃ。よいな、

「はい・・・」

 は納得がいかないようだったが、能力を自由に使いこなせていないことは承知していたので、火影の言いつけを守ろうと思った。

「それより、カカシとはうまくやっておるか?」

 険しい表情をしていた火影が、一変してにこやかに問うてきた。

「ハイv カカシせんせぇ、やっと一緒に寝てくれるようになって、毎日が一杯幸せですv」

 もにこやかに、幸せそうに語った。

「そうか。それは良かったのぅ。あやつは幼い頃から親の愛情もロクに知らず、多くを失い、ずっと修羅の道を歩んできた。、お主が癒す存在になってくれれば、カカシも一層強くなっていくであろう。ずっとカカシの傍にいてやってくれ」

「ハイv 頑張って医療忍者になって、カカシせんせぇを守りますv」

「うむ。カカシを頼んだぞ」

 忙しい火影の邪魔をしてはいけない、と、用件が済むと、はアカデミーの授業に向かった。















「何か今日のアカデミー賑やかだね。人が一杯いてビックリした」

 昼、はゲンマとともにテラスで昼食を摂っていた。

「中庭とか、凄いうようよしてるんだもん、何で?」

「あぁ、中忍選抜試験の受付と第一の試験が学校内であるからな。受付締切は4時までだが、気の早い連中や暇を持てあましてる他国のヤツらは、もう来てるんだよ」

「へ〜、どおりで」

「301には近づくなよ、。血気盛んなガラの悪いのがたむろってるからな」

「301?」

「試験会場だ」

「成程〜。分かりました〜」

 は弁当箱を片づけると、うん、と伸びをした。

「眠かったら昼寝していっていいぜ」

 ゲンマは千本をくわえ、時代小説を開いた。

「ううん。何か胸の奥で警鐘が鳴ってるし、呑気に寝ようって気分じゃないや。何かお手伝いしたいんだけどなぁ」

「火影様が気にしないようにって仰ったんだろ? だったらその通りにしろ。オマエの持つ能力は危険だ。火影様の仰ったとおり、オマエは目立つのを避けた方がいい」

「う〜ん・・・やっぱりでもな〜・・・」

「何がどう来るか分からないんだ。オマエの身の上だって、充分に手配帳レベルと同じなんだってこと、忘れるな」

「研究院でも似たようなこと、前に言われました〜。カカシせんせぇにも。身柄を狙われていて、それで隠れてるんじゃないかって」

「だろう? オマエは、恐らく自分や周りが思っている以上に、高位能力者で、かなりの力を持っている筈だ。それを狙う輩もいるだろうし、自ら進んで危険に飛び込むのは避けた方がいい。何の為に記憶を封じてるのか、分からないからな」

「ん〜・・・、記憶戻らないかなぁ。障壁も解除されないと不便だし。ここまでやっても分からないと、何か、私の国の人、捜しに来てよ! とか思っちゃうよ」

 そして記憶喪失治して欲しい、とは空を仰いだ。

「で? 有り難う、帰ります、ってか?」

「帰らないよ〜。私は木の葉で、カカシせんせぇの傍で忍者になるの!」

「帰ってきてくれって言われたらどうするんだ」

 捜すくらいなら帰って欲しい筈だろ? とゲンマは高楊枝でを見遣る。

「ん〜・・・困ったな・・・」

 そうだよね、とはしゅんとする。

「ま、自分の道は自分で決めろ。オマエはもういい大人なんだからな」

「ゲンマさんは帰った方がいいと思う?」

 の問いに、ゲンマは暫し黙る。

「・・・言っただろ、自分で考えろって。何か? オレが行くなっつったら残って、帰れっつったら帰るのか?」

 優柔不断だな、とゲンマは吐き捨てる。

「・・・ううん。自分でもう決めてるモン。帰らないで、忍者になるって」

「記憶喪失治してもらって、帰ってきてくれって懇願されてもか?」

「う〜・・・・・・うん」

 “その時”が来たら一悶着あるだろうな、とゲンマは思った。





「さて・・・と。、ガラの悪い連中に絡まれないうちにアカデミー出て、病院に行った方がいい。ここ数日行ってないんだろ? 危険には関わって欲しくないが、だが新しい能力のことがもっと分かるか、研究院で調べてもらえ」

 ゲンマは小説をポーチにしまって立ち上がり、の手を取って立ち上がらせた。

「うん。ここ最近で益々強くなってるから、何か分かるかも。使い方教えてもらえるといいな」

「予知能力を持つ者はいないからな。期待は薄いが、何かの手掛かりくらいはあるだろう。気を付けて行け」

 演習場にも行くなよ、と念を押され、は一旦家に戻って病院に向かった。

















夕方。

「手掛かりなしかぁ〜。あ〜ぁ。私ってホントに役に立たないなぁ」

 ふぅ、と息を吐いては商店街を歩いていた。

 病院の研究施設で色々調べてもらったが、未知の能力すぎて、分かる者はいなかった。

 分かったことは、が未来を見ようとすると、脳波が静止状態になるのが特異だった。

 普通、特異能力を使おうとすると、脳波は大きく乱れる。

 は元々脳波があまり乱れないのだが、普通にしていても動く脳波が殆ど動かなくなることが、驚きだった。

 動かないと言うより、計測できないのでは、と言われた。

 それ程の、のそれは高位な能力なのでは、と。

「やっぱり私の国の人かなぁ・・・」

 でも連れ戻されたら嫌だし、とは悶々とする。

 うだうだしてても埒があかない、と思考を切り替え、夕食の買い物を始めた。

「今頃は第一の試験は終わってるかな? 第二の試験はすぐだって言ってたよね・・・。サバイバルって危険そう・・・」

 の胸の警鐘は、かなり大きくなっていた。

 第二の試験で何か起こる気がする。

 苦しんでる皆の姿が浮かぶ。

 でも、行ってはいけない。

 きつく言い含められた。

 でも・・・と逡巡しながら、はいつものように、まずゲンマの家に向かった。















「ただいま〜。って、あれ? いない」

 カカシが詰め所から戻ってくると、は家にいなかった。

 夕食の支度はできている。

 熱いので、出来たてだと分かる。

「どしたんだろ・・・何か買い忘れかな?」

 カカシは色々考えながら、着替えに向かった。



















「やっぱり来たら怒られるかな・・・カカシせんせぇに黙って来ちゃったし」

 は、第44演習場の傍に来ていた。

 第二の試験が行われている場所、通称死の森である。

 夕食の支度の間中、警鐘がどんどん強くなっていったので、いても立ってもいられなくなったのだった。

「試験官の人いないかなぁ・・・って、誰だかゲンマさんに訊いておけば良かった」

 あ、でも訊いても顔が分からないや、と周囲を彷徨く。

 ぐるり歩き回っていると、小屋を見つけた。

「あ、此処、開始場所かな?」

 人のいる気配を感じ取った。

「ん〜、やっぱり団子にはお汁粉よねv」

 甘い匂いに誘われて、は近寄っていった。

「木の葉マーク完成〜♪」

 団子を食べながら、食べ終わった串を木の幹に向かって投げて刺しているくの一らしき女性が目に留まった。

 お汁粉を啜っているくの一は、に気が付いた。

「あれ・・・アンタ、じゃない?! ど〜したの、こんなトコに」

「え・・・私のこと知ってるんですか?」

「一方的にね。カカシの女でしょ? よくゲンマと一緒にいるのも見てるしね。私はみたらしアンコ。特別上忍よ。中忍選抜試験の第二試験官やってるわ、今」

「あ〜っ、アナタがアンコさんですか?! お話ではよく聞いてます〜。です、えっと、一応初めまして」

 にこやかに微笑むは、ペコ、と頭を下げた。

「何しに来たの? こんなトコに。カカシはいないわよ。カカシが此処に来るのは、試験の終了する5日後よ」

 ハイ、あげる、とアンコはに団子を差し出した。

「あ〜えっと・・・胸がもやもやして気持ち悪くって、ズクズクするんで思わず来ちゃいました」

 夕食前のはお腹が空いていたこともあり、受け取るとパク、と齧り付いた。

「あぁ、火影様からも伺ってるわ。何か危険が起こるかもって。ダメよ。火影様からも言われてるの。には危険よ。帰ってちょうだい」

「え〜でも〜・・・」

 その時、試験官補佐の中忍の1人が、アンコに伝令に来た。

「アンコさん、来て下さい! 妙なモノを見つけたんです」

「妙なものォ? 何よ、一体」

「それが・・・」

 ヒソ、と耳打ちする。

 アンコの顔色が変わった。

「分かった。行くわ。は帰って。いい?」

「何か起こったんですか?」

 急を要するので、直ぐさま駆けていったアンコ達に、は付いていった。





「これは・・・」

 顔を剥ぎ取られたような死体が3体。

『こんなことができるのは・・・』

 アンコは歯噛みする。

「何か・・・嫌な念を感じますね、この周りから」

 は恐る恐る覗き込むと、呟いた。

「かなりヤバイことになったわ。折角会えて話でもしたかったけど、そんな呑気なこと言ってられなくなったわ。は帰ってちょうだい。アンタは此処にいたら危険よ。家に帰って、カカシにも伝えておいて。“アイツが来た”ってね」

 アンコは暗部の出動要請と、火影にこのことを知らせるよう、部下に命令した。

「アイツ? そう言えば分かるんですか? 私に何かお手伝いできること・・・」

「今はないわ。アンタを危険な目に遭わせる訳にいかないの。下手したら取り返しの付かないことになるわ。いつかアンタの手を借りることもあるかも知れないけど・・・とにかく帰って」

「・・・分かりました。アンコさん、気を付けて下さいね」

 渋々承諾すると、アンコは演習場内へと駆けていった。

 は暫くその先を見つめて祈りを捧げたが、カカシに知らせねば、と、帰ることにした。



















 危険レベルSクラスの知らせは、瞬く間に知れ渡った。

特別上忍を含む上忍と暗部、そして試験に携わっている中忍達に。

 秘密裏に、厳戒態勢が敷かれる。

 試験に携わっている者は、大半が第44演習場の中央の塔に向かった。

「私達も塔に向かうけど・・・カカシはどうするの」

 翌日、紅とアスマが、カカシの元を尋ねてきた。

「オレもすぐにでも行きたいところだけど・・・を1人にできないし、試験終了まで、里内を見張っているよ」

「そう? 気を付けてよね」

「あぁ。オマエらもな」

 は24時間しか外にいられない。

 時間が経つとカカシの印の効力も薄れ、カカシの部屋に戻り、出られなくなる。

 危険だから部屋に籠もってもらっていた方が、とも思うが、出られないのは何かの時に不便だ。

 障壁が強く発動する、その時の強い力を感知されては困る。

 を守りたい。

 それも含め、里内を巡回している役目も必要だろう、とカカシはまだ塔には向かわなかった。

「カカシせんせぇ・・・サスケ君達、大丈夫?」

 一通り警邏して見張り塔に戻ってきたカカシに、は心配そうに尋ねた。

 サスケが襲われたことを、ついさっき知らされた。

「どうだかな・・・アイツの狙いは、サスケだったって訳だ。かなり危険な状態かも知れん。だが、易々とやられるようなタマでもないだろう。そう信じたいが・・・」

 真摯な瞳で、周囲に気を配る。

「サスケ君達、苦しんでるよ。私には分かるの。祈りとか捧げた方がいい?」

「いや、やめた方がいい。の存在をヤツに知られてしまう。の能力だって狙われる可能性が高いからな」

「どんな人なの? そんなに皆に警戒される程の」

「大蛇丸と言って、伝説の三忍と言われる1人だ。前に話したことがあるだろ」

「あぁ、怖いこと考えてる人って・・・」

 カカシはを見つめた。

のことはオレが守るからね」

 ニコ、と柔らかく微笑む。

「カカシせんせぇのことも私が守るよv」

 ニッコリと拳を握っては微笑んだ。

「ハハ、心強いね。大丈夫、今のオレなら、アイツくらい・・・」

 ぴと、とはカカシにしがみついた。

「危険なことはしないでね? 死んじゃヤだよ? 私泣いちゃうよ?」

 瞳を潤ませて、はカカシを見つめた。

 カカシは今、大蛇丸と刺し違える気でいた。

 だが、それはできないのだ。

 してはならないのだ。

『オレは・・・大蛇丸に勝てるか・・・?』

 第44演習場の方を見遣り、どこかに潜んでいるであろう相手のことを思いながら、きゅ、とを抱き締めた。

「ダイジョブだよ・・・を1人にはしないから」

 のチャクラは、癒す他にも、増幅させてくれる気がする。

 使い方次第では強大な凶器になるの存在を、決してどんな敵にも知られてはならない。

 大蛇丸にも、その他の誰でも。

 この先に待ち受ける脅威をひしひしと感じながら、カカシはの傍にいた。



















 第二の試験終了に当たるその日、カカシはをきゅっと抱き締め、キスを交わすと、家を出て第44演習場の塔に向かった。

 制限時間まではまだもう少し時間がある。

 大まかには伝え聞いていたが、カカシは詳細を訊き込んだ。

 サスケがアンコと同じように、大蛇丸に呪印を施されたこと。

 試験を中断させてはならないこと。

 カカシは身震いする。

 どこかに潜んで、虎視眈々と付け狙っている存在に。

 サスケは、呪印に相当苦しんでいるようだ。

 ナルトもサクラもボロボロだ。

 案の定、サスケの第三の試験の予選の試合が終わって封印の法術をサスケに施していると、大蛇丸がやってきた。

 カカシは、雷切の体勢に入った。

「そう言えば、カカシったら、可愛い子を隠してるのね」

 大蛇丸の言葉に、カカシはぎくりとする。

「な、何のことだ」

「とぼけなくってもいいわよ。試験官やら担当上忍やらが次々と此処に早々来てたのに、アナタ来なかったじゃない。随分な能力者よね、その子・・・」

 はカカシに禁止されても、毎日祈りを捧げていた。

 カカシの部屋の中なら遮断する障壁があっても、外ではの存在は大きすぎて、気配を完全に消さない限り気付かれてもしょうがなかったのかも知れない。

「オマエには渡さない・・・サスケもだ!」

「あら。いいのよ。私が欲しいのはサスケ君だけ。女には興味ないわ。安心してちょうだい。女は何かと厄介なのよ。能力には興味あるけど・・・扱いが不便そうだしねぇ」

 冷ややかな笑みで、大蛇丸は捨て台詞を残して去っていく。

「く・・・っ」

 脂汗をかきながら術を止めると、深呼吸して気持ちを切り替え、サスケを病院の特別室に運ぶように医療班に指示し、併せて指定した暗部を付けさせ、予選の観戦に戻った。







 予選全てが終了すると、嫌な予感が消えないカカシは病院に向かった。

 やはり、大蛇丸の手の者、カブトがサスケを狙っていた。

 カカシの用意した暗部は全員倒されていた。

 カブトの力が自分と同じくらいのレベルだと実感したカカシは、このままではいけない、と考え込んだ。











「やはり、恐れていた事態が起こったのォ」

 下駄の音が廊下に響く。

 暗部の死体処理を指示していると、サスケの病室に白髪の大きな男がやってきた。

「アナタは・・・!」

 伝説の三忍の2人目、自来也だった。

 病室を片づけ終わり、新しく暗部を用意すると、テラスへと移動した。

「お久し振りですね。里に戻られたのは何年ぶりです?」

 手摺りにもたれ掛かり、カカシは空を仰いだ。

 そこでカカシは、自来也が戻ってきた理由を聞いた。

 大蛇丸を追っていたこと、小組織<暁>の存在、ナルトのこと、など。

「本戦までの間、ナルトはワシが預かる。カカシはサスケを見てやれ。写輪眼の使い方も教えてやる必要もあるだろう」

「そうですね。私もそう思ってます。ナルトを宜しくお願いします」

「そう言えば、数日前から里に来とるが、何やら不思議なチャクラを感じるんだのォ。何者だ? カカシよ」

「あ・・・」

「悪意は欠片も感じられん。むしろ純粋すぎるくらいだのォ。よく大蛇丸に目を付けられなかったのォ」

「実はですね・・・」

 この人にはあまり話したくないけど仕方がない、とカカシは掻い摘んでのことを説明した。

「何と! カカシ、おなごと暮らしとるのか! 浮いた噂一つ聞いてこなかった堅物純情青年が、ついに年貢を納めたのかのォ」

「いえ、その、そう言う訳じゃ・・・あるのか・・・な」

 カカシは狼狽しながら、視線を泳がせる。

「とにかくですね、サスケを見るにしろ、私も修行をしたいと思いますし、里外に出なければ始まらないんですよ。誰にも見つからないようにしないと。そうなると、長いこと家を空けなければなりません。ま、サスケも当分安静にしないとならないので、暫くは大丈夫ですが、できればその間、自分の修行に専念していたいとも思いますし・・・」

「そうだのォ。そのおなごがオマエさんの家から出られなくなるという訳だのォ」

「問題はそこなんですよ。毎日帰ることもできませんし、かといってずっと家に閉じこめる訳にもいきませんし・・・」

「成程のォ。よし、ワシも案を考えてやろう。明日にでも会わせてくれるかのォ」

「・・・お願いします」

 でれっと鼻の下が伸びている自来也を見て、カカシは一抹の不安を感じずにはいられなかった。















「サスケ君は大丈夫なの? カカシせんせぇ」

 カカシの言いつけ通り、一日家に籠もっていたは、夕飯の買い物時に家を出た際に、多くの危険を感じ取った。

「あぁ。呪印は封印したし、新たに暗部の護衛を付けて、最高の治療を施している。取り敢えずの危機は去ったよ」

 夕食を摂りながら、カカシはに説明した。

「私にできることない? 何か」

「そうだな・・・サスケを看てもらえるかな? 里内に残っているどの医療忍者よりも、多分の方が能力が上だろう。呪印をどうにかできるだけの力があるかは分からないけど、戦闘でかなりの深手を負っている。絶対安静の状態なんだ。それを治してやって欲しい」

「分かった。どこまでできるか分からないけど、明日一番で病院に行ってくるよ」

「頼むよ」

 カカシは、あ、と先程まで自来也と会っていたことを思い出す。

「それでね、

「ん? ナ〜ニ?」

 食べ終わって片づけを始めたに、言いづらそうにカカシは口を開いた。

「えぇ〜〜〜っ! カカシせんせぇ、どっか行っちゃうのぉ?!」

 驚いた表情で、は洗い物の手を止めて振り返った。

「や、どっか行くとかそう言うことじゃなくてね、いやまぁそうだと言えばそうなんだけど、修行をしようかと思うんだ」

「私も一緒じゃダメ?」

 うりゅ、とは大きな瞳を潤ませる。

「ダメだよ。修行は過酷なんだ。には無理だよ」

 は今にも泣き出しそうだった。

「ヤだ〜〜〜。カカシせんせぇと離れたくない〜〜〜」

 えぐえぐ、とすすり泣く。

「修行は、を守る為でもあるんだよ。分かってよ。ね?」

「でも・・・私、家から出られなくなっちゃうの?」

「大丈夫だよ。その方法を考えてくれてる人がいるから。オレには思いつかない方法を、知ってるかも知れない」

 ま、数日様子を見て、暫くは時々帰ってくるけど、とカカシはを宥めた。









 夜中、カカシもすっかり寝入った頃、はむくりと起きた。

 カカシを起こさないようにそっとベッドを降り、台所で水を飲んだ。

 胸の奥で大きな警鐘が鳴っている。

 広がっていく暗黒のイメージ。

「何だろ・・・嫌な感じ・・・」

 音を立てないように忍び足で寝室に戻り、窓の外を見る。

 月が血の色に見えた。

「お月様が泣いてるみたい・・・」

 あるいはもっと親しくなっていたら、この惨劇は未然に防げたのかも知れなかった。

















 翌朝、は病院を訪れた。

「午前中に病院来たのって初めてかも・・・もう面会時間だよね」

 は受付に向かう。

「すみませ〜ん、うちはサスケ君の病室はどこですか?」

「えっと・・・うちはサスケ様ですか? 待って下さいね・・・あ、申し訳ありません、サスケ様は面会謝絶となっておりますので、お会いすることはできません」

 ナース姿の初々しい看護師がファイルを見ながら、そう告げた。

「え、そうなんですか? 看てくるようにって言われたんですけど・・・」

「かなりの重傷ですので、暫くどなたともお会いできませんので、お見舞いはお断りしています。申し訳ありませんが、お引き取り下さい」

 この看護師は、の“看てくるように”を、“様子を見てくる”と勘違いしたようだった。

「そうですか〜。分かりました〜。また改めて来ます〜」

 疑問を感じると言うことを知らないは素直に言葉を受け入れ、帰って行った。

「新人さん、どうしたの? 何か分からないことあった?」

 別の看護師がやってきて尋ねる。

「あ、いえ、昨日特別室に入院したサスケ君にお見舞いの方が来て・・・」

「通したの?」

「いえ、面会謝絶だと言って帰ってもらいました」

「それならいいわ。暗部の護衛が付いて、はたけ上忍の命令で誰も近づけないようにってことだから」

 ファイルを確認するように目を通す。

「でも、さんが来たら教えて。さんには、サスケ君を看てもらうように、火影様からもお達しがあるから」

さん? 誰ですか?」

「あぁ、最近入ったばかりだから知らないか。はたけカカシ上忍の恋人で、とても強い医療能力を持っている人よ」

「医療忍者ですか?」

「の卵なんだけど、ドクターも言ってたけど、多分この里内に残っているどの医療忍者よりも高い能力を持っているんだって。だから誰もお手上げのサスケ君のこと、看てもらえるといいんだけどね。大抵来る時は、いつも午後になったら来るから」

「顔分からないですけど・・・受付に来るんですか?」

「あ、来ないわね。医局に真っ直ぐ行くわ。見掛けたら・・・って、分からないんだっけ。腰まである長い黒髪に、零れ落ちそうなくらい大きな黒い瞳で、物凄い美人で目立つからすぐに分かるわ」

 じゃ、受付任せたわよ、と先輩看護師は去っていった。

「・・・どうしよ・・・もしかして、さっきの人がそうなんじゃ・・・」

 新人ナースは、出入りのドアに目をやったが、時既に遅かった。

















「えぇっ?! ハヤテさん、死んじゃったの?!」

 火影の招集から解散してきたカカシは、ゲンマの執務室でにハヤテの死を告げた。

「あぁ。今朝、桔梗城の傍らで発見されたらしい」

「犠牲者がついに出ちまったが、まさかその一人目がハヤテとはな・・・」

 チィ、とゲンマは眉を寄せる。

「ゆ〜べ感じてたズクズクはこれだったんだ・・・」

 は瞳を潤ませ、カカシの腕にしがみついた。

「忍者を目指してるんなら、死ぐれぇで泣くんじゃねぇ」

 横からポン、とゲンマがの頭に触れる。

「だって・・・これからもっと仲良くなれると思ってたのに・・・」

 未来が見えてこないって、このことだったんだ、と涙を浮かべる。

「何か感じてたの? 

「うん。ゆ〜べ寝付けなくって起きちゃって、何か黒〜いイメージが広がってたの。それ以上分からなくって、ずっとモヤモヤしてたの」

「ハヤテとはあまり面識無かったからな。もっと親しくなっていれば、詳しく分かってたかも知れねぇんだよな」

 そう思うとやりきれねぇな、とゲンマは吐き捨てる。

「いや・・・予知能力自体、特異なんだ。未来が分かること自体おかしいんだから、たら・ればは考えない方がいいよ」

「あぁ、そうですね。でも、ハヤテほどの優秀な忍びを失ったのは、正直痛いですよ」

「うん・・・」

「この能力、もっとちゃんと使えるようになりたいなぁ」

「いや、やっぱり使わない方がいいよ。未来ってのは定められているもので、予知をして、悪いからって変えるようなことをするのは、定理から外れてる。例えば今回のハヤテの件だって、これこれこうしたら死ぬからやめろ、って言ったら、世界に歪みができると思うんだ。辛いことだけど、運命として受け入れなきゃならない。だから、なるべく使わない方がいいよ」

「そっかぁ・・・」

「難しい問題ですね」

「大蛇丸の気配は分かる? 。里の何処にいるかとか」

「ん〜、あの黒〜いチャクラでしょ? 近くには感じないよ。里を出たかも」

「そうか・・・ヤツが言ってた、音隠れの里とやらに一旦戻ったのかも知れないな。なら、次に来るのは本戦だろうか・・・」

 それまで来ないならひとまず安心だけど、とカカシは顎に手を当てて考え込む。

「じゃ、オレは執務に戻りますよ」

 ゲンマは椅子に腰掛け、机に向かった。

「あぁ、ゲンマ君。キミ本戦の審判でしょ。サスケの具合が良くなったらオレアイツに修行付けてやるつもりなんだけど、どれくらいかかるか分からないんだ。どこまでできるのかも。本戦、オレも注意してるけど、サスケの試合の時、注意してみていてもらえるかな」

「あぁ、勿論です。分かってますよ」

 ふと思い当たることがあったように、ゲンマはカカシを見遣った。

「カカシ上忍、うちはのガキに修行を付けるって、家を空けるんですか?」

「あ、うん。そうだ、、あの人が上で待ってる筈だから行こう」

「あの人? 私をずっと外に出せる人?」

「う〜ん、分からないけど、方法があるって知らせが来たから、行こう。ゲンマ君も出来れば来てもらえる?」

「何です? カカシ上忍が家を空けるってことは、が外に出られなくなるってことでしょう? それをどうにかする方法があるんですか?」

 研究院にも聞いてないですよ、とゲンマは立ち上がった。

「あぁ、考えてくれたのは伝説の三忍だからね」

「まさか・・・あの人が里に?」

「大蛇丸を追っていたらしいよ」

「成程」









カカシはを連れて、ゲンマと共にテラスに上がった。

 自来也は望遠鏡で、でへでへと遠くを眺めていた。

 恐らくは、温泉街の方向を。

「すみません、お待たせしました」

 カカシの声に気付くと、自来也は振り返った。

「おうおう、待ちくたびれたぞ。ん? ゲンマも一緒か? アカデミー時代を思い出すのォ。よくカカシと一緒に演習をやっとったのォ」

 ペコ、とゲンマは軽く頭を下げた。

「このコが、先達て話した、です。、ご挨拶して」

「えっと、初めまして。です。カカシせんせぇ、この人だぁれ?」

「お〜〜〜! そなたがか! べっぴんさんだのォ! ないすばでぃだのォ! カカシよ、オマエさんが羨ましいのォ」

 自来也は鼻の下と目尻をだらしなく垂れ伸ばし、の魅惑的な肢体を舐めるように観察した。

「話したことあるだろ? 伝説の三忍の1人だよ」

 をいやらしい目で見られるのが嫌で隠したかったが、しょうがない、とカカシはぐっと堪えた。

「あいやしばらく! 妙木山蝦蟇の精霊仙素道人、通称ガマ仙人と見知りおけ!」

 ポーズを付けて、自来也は自己紹介する。

「ガマ仙人さん・・・?」

 決まった、と自来也は酔いしれる。

「早い話が、イチャパラの著者だ」

 はぁ、と息を吐いてゲンマが付け加えた。

「あぁ! あのオレンジの本の! カカシせんせぇからよくお話聞いてます! いっつも言ってます、カカシせんせぇ、この人はオレの心の師・・・モゴッ」

「ん? 何か言ったかのォ?」

「こらっ、! 余計なこと言わないの!」

 カカシは慌てての口を塞いだ。

「え〜、カカシせんせぇ、いっつも言ってるじゃな〜い。本読んでる時、言ってるでしょ? この人はオレのここ・・・モゴ」

「ん? 何かのォ?」

「い〜え、何も。ハハハハハ・・・」

 こら、と再びカカシはの口を塞いだ。

 は、む〜む〜、とバタバタしている。

「それより、を長時間外に出せる方法を思いつかれたとか・・・」

 仕方なく、カカシはを解放した。

 途端にはカカシにしがみつく。

「うむ。そうだったのォ。要するに、カカシのチャクラがこのをずっと取り巻いていればいいんだろ〜のォ」

 チラ、とを見遣ると、はニコ、と微笑んだ。

 余りの清らかさに、自来也は頬を染める。

「えぇ。この首の飾りにチャクラを練り込むんですが、どんなに強くしたつもりでも、24時間しか効き目がないんですよ。どうやったらそれ以上持続するのか・・・」

 全員の目が、のチョーカーに集中した。

の障壁の方が強いということだのォ」

「解除は出来ませんか」

「いや、流石にそこまでは出来んよ。こうして会って分かったが、の力が強大すぎるんだのォ。だが、時間を長くする方法は考えついたのォ」

「私に出来ることですか?」

「勿論だのォ。オマエがやらんで誰がやる。何、簡単なことだのォ」

「一体どんな・・・」

「キッスだよ」

「はぁ?」

 カカシは意味が分からず、あんぐりと口を開けた。

「人工呼吸と同じ要領だのォ。口から口へ空気、つまりエネルギーを送り込むだろう? それを、チャクラに置き換えるんだのォ」

 でへへ、と自来也はしまりのない顔でにやにやしている。

「つまり・・・何ですか? 印を結んでチャクラを練り込むのを、キスでやるってことですか?」

 キスなら何度もしてるけど、違いはあるのかな、とカカシは心の中で思った。

「キスはキスでも、ディープキッスだのォ。いつも通りに印を結んで、それにワシの教える印を加え、その首飾りにチャクラを流し込みながら、キッスをして口からもチャクラを流し込むんだのォ」

「ほ、本当にそれで長時間大丈夫だと・・・?」

 カカシにはどうにも信じがたかった。

「信じとらんな。、オマエさんはどう思う?」

「カカシせんせぇにちゅーされるとずっと外に出てられるの? 確かに、カカシせんせぇに一杯優しくしてもらうと、障壁が緩くなるような気はします〜」

「解除されそうだってことか?」

 ゲンマが横から訊いた。

「ん〜・・・ううん。解除って感じじゃなくって、重りが軽くなる感じ? かな?」

「まずは試してみないと始まりませんよね。カカシ上忍、やってみたらどうです。一理ありますよ」

「え・・・うん」

 カカシは頬を染め、視線を泳がせた。

「み、皆が見てる前でやるの?」

「当たり前だのォ。今更照れる仲でもないだろ〜のォ」

「結婚式の練習だと思えばいいんですよ、カカシ上忍」

「ぶっ。あ、あのねゲンマ君っ!」

 さぁさぁ、とカカシは急かされる。

「印はこうだ。いつもやっている印の最後に、加えてやってくれ」

「ま、待って・・・集中させて下さいよ。、目を閉じて待ってて」

「ハ〜イv」

 は胸元で手を組んで、目を閉じてカカシを待った。

 ドキドキしながらもカカシは口布を下ろして深呼吸して、いつもの印を結び、自来也に教わった印を加え、そっと首の宝玉に触れると、逸る鼓動を抑えながら、に口づけた。

「ディープキッスだぞ。ワシがいいと言うまで続けるんだぞ」

 取材を兼ねて鼻の下を伸ばしている自来也は、にたにたと眺めていた。

 ゲンマは頭を掻きながら、視線をあさってに逸らして空を眺めていた。

『ま・・・まだかな・・・』

 人前でキスなんて初めての経験であるカカシは、恥ずかしくて集中力が乱れた。

「集中しとらんぞ、カカシ。ちゃんと規定量チャクラを流し終えるまで、やめてはならんぞ」

『そ、そんなぁ〜〜〜』

 仕方なく開き直ったカカシは、冷静を努め、チャクラを流し続けた。

 の身体が、緑を帯びて光り輝きだした。

「どうせなら舌を入れても構わんぞ」

『なっ、何を言うんだぁ〜〜〜』

 聞き入れたが、カカシの唇を割って舌を侵入させた。

 ビクリとカカシは身を震わせる。

『ちょっ、・・・っ;』

 欲望に抗えないカカシは、もはや自来也とゲンマがいるのも忘れ、との濃厚なキスに夢中になった。

 舌を絡め合い、チャクラを流し続ける。

 自来也が満足したのは言うまでもない。

 かなりの時が過ぎた。

「ま・・・そろそろいいかのォ」

 ハッと我に返ったカカシは、頬を染めながらゆっくりとから唇を離した。

「どうかのォ? 

「何か・・・すっごく身体が軽いです」

 ゆっくりと瞳を開いたは、手を握ったり開いたりして、感触を確かめた。

「成功したようだのォ」

「えっと、ガマ仙人さん、有り難う御座いましたv」

 ペコ、と頭を下げると、はニッコリ微笑んだ。

「な〜に、ワシもいい取材材料を貰った。おあいこだのォ」

「これでどれくらい持ちますかね?」

 コトが済んだのに気付くとゲンマは顔を戻し、自来也に尋ねた。

「そうだのォ。上手くいけば1ヶ月・・・本戦が始まるまで大丈夫かも知れんのォ」

「え〜っ、そんなにぃ?! ホントですかぁ?!」

「分からんよ。効力が弱まったと感じたら、もう一度同じくやった方がいいのォ」

 多分大丈夫だと思うが、と自来也は帰ろうとした。

「ガマ仙人さん、どっか行っちゃうんですか? お礼にご飯でも・・・」

 身体の軽さを楽しみながら、カカシにしがみつく。

「いや何、ナルトに修行を付けようと思ってのォ。、良かったら付き合わんかのォ」

「ナルト君に? お邪魔してもいいんですか?」

「ワシは歓迎するぞ。旅の話でも聞かせてやれるしのォ」

「わ〜い♪ 行きますv お弁当作りますねv」

「それは嬉しいのォ」

「カカシせんせぇのトコにも差し入れに行っていい?」

 見上げる黒玉の瞳が、可愛くてカカシはクラリとする。

「え・・・いや・・・危険な場所だから、来ない方が・・・」

「え〜。でも、場所だけ教えて」

「サスケが良くなるまではたまに戻るようにするからさ。教えちゃうと来ようとするでしょ、。危険だからダメ」

「じゃあ、カカシせんせぇの影分身、1人だけ残していって〜」

「あのね、そんなに離れられないんだよ、影分身は」

「ちぇ〜」

「ま、アナタがいない間はオレが責任持っての面倒見ますから。安心して下さいよ、カカシ上忍。アナタのトコへ行かないようにさせておきますから」

 ゲンマはの元まで歩み寄ると、の肩を抱き、挑発するようにカカシを見据えた。

「な・・・っ」

 空気の足りない金魚のように、カカシは口をパクパクさせる。

『何やら面白い関係になっているようだのォ・・・』

 3人を見て、自来也は、また取材のネタが増えた、とニンマリした。

「私も修行した〜い」

「オレが見てやるよ。オレも修行しときてぇしな。一緒にやろうぜ、

「いいの? わ〜い♪」

 じゃ、早速行こうぜ、とゲンマはを伴ってテラスを降りていった。

 自来也も温泉街に取材に行く、と飛び降りた。

 1人ポツンと取り残されたカカシは暫く悶々としていたが、煩悩を振り払い、修行の地へ向かうべく、駆けていった。







 中忍選抜試験第三の試験本戦まで、後1ヶ月を切った。



















 原作にのっとって進められる為、
 ヒロインはカカシと離れることになります。
 本戦までのヒロインの生活の詳細は、
 勿論次章でも書きますが、
 ゲンマ夢【自覚】でもお楽しみ下さい。