【出会いはいつも偶然と必然】 第十八章









「ゴメンね、。オレ、キミのこと1人にはしないって言ったのに、約束破っちゃって」

 数日ぶりにの様子を見に帰ってきたカカシは、すまなそうにを抱き締めた。

「ううん。しょうがないよ。忍者だもん、修行も大切だって分かるから。私のことは気にしないで」

 ニコ、と微笑むは、分かっている風な素振りを見せたが、その微笑みには寂寥感があり、カカシは胸が締め付けられた。

 に辛い思いをさせているのは分かっている。

 寂しい思いをさせているのも分かっている。

 だが、全ての為、里の為、だったので、仕方がなかった。

 それをも分かっているからこそ、辛いのや寂しいのを我慢して、カカシに罪悪感を感じさせないよう、微笑むよう努めているのだ。

 その健気さを愛しく思う。

「あれから数日経ったけど、ちゃんと家から出られてる?」

「うん。何の障害もないみたいに、スイス〜イだよ」

「そっか。良かった。それが気掛かりでね・・・あ」

「? ナ〜ニ?」

「寝る方はどうなの。すっかり忘れてたよ。オレがいなくても寝られてる?」

 はカカシの温もりがないと眠れない、と言うことをうっかり忘れていた。

「今のトコはダイジョブだよ〜。身体中にカカシせんせぇのチャクラ感じるし、ぎゅってされてる感じだからv あ、でも、やっぱり念の為に人形にチャクラ入れてって」

 とてとて、とはカカシ人形を取りに行った。

「ありったけ入れてってv」

「はは、オレ倒れちまうよ」

 カカシにチャクラを練り込んでもらうと、嬉しそうに人形を抱き締めた。

「あ、そうだ。もういっこ」

「? もういっこ? 何か作ったの?」

 カカシは、の首に紐が掛けられているのに気が付いた。

 はそれを引っ張りだし、カカシに見せる。

「・・・オレ?」

 小さなカカシのマスコット人形だった。

「人形は持ち歩けないけど、これならずっと一緒にいられるから。首の飾りに一杯チャクラ入れてもらって、カカシせんせぇにぎゅってされてる気分なんだけど、やっぱりカカシせんせぇの形してる方がいいなぁって」

「コレにもチャクラ入れといて欲しいってコト?」

「うんv」

 可愛いコトしてくれるなぁ、とカカシは思いながらチャクラを流し込んだ。

「で、こっちはカカシせんせぇ持っててv」

 そう言っては両掌を差し出す。

「ん? ナニ?」

「私v」

「コレ・・・?」

 の姿をした、小さなマスコット人形だった。

「えへ。あのね、私のチャクラ流し込んであるんだ。お守りって言ったら変だけど、離れててもカカシせんせぇを守れますようにってお祈りしてあるから」

「はは、悪霊退散って? 有り難う、。肌身離さず持ってるよ」

「えへ。これで離れてても一緒だねv」

 人形を抱き締め、はニコ、と微笑んだ。

 離れてしまうことに、カカシは胸が痛んだ。





「じゃ、オレそろそろ戻るよ」

「え〜もう? も少し一緒にいたいよ〜」

 人形を椅子に置くと、は切なそうにカカシにしがみついた。

「これ以上いたらずっといたくなっちゃうよ。サスケの様子はどうか見てる?」

 傷は癒えたかな、と抱きつくを抱き締め、頭を撫でた。

「あ〜あのね、カカシせんせぇに言われてお見舞いに行ったんだけど、面会謝絶で当分会えないって言われちゃった」

 だから会ってないから分からない、とはカカシを見上げる。

「え? オレ、は通すように、ちゃんと言ってあるんだけどなぁ。新人か?」

「ん〜、見たことない人だったけど。そうかも」

「しょうがないな。ま、安静にしてることも大事だからいいけど、明日にでも看てきてよ、

「うん、分かった〜」

 は瞳を閉じて、ん、と顎を突き出した。

 カカシは鼓動が跳ね上がる。

 ちゅ、とカカシは軽くキスを落とした。

 は不満そうだった。

「もっと〜〜〜」

「ダメダメ。オレに未練が残るからね。我慢して」

 オレも我慢してるんだし、と再び軽く頬に触れるだけのキスを落とす。

「今は、この先どうなるか分からない世の中なんでしょ? 今できることは今やっておいた方が、後で後悔するよ〜」

 私はヤだ〜、とは膨れる。

「そ、それもそうか・・・で、でもオレそうしたらそれ以上したくなるし・・・」

 カカシは逡巡した。

「それ以上してもいいよv」

 にトドメの一言を言われた。

「〜〜〜っ、やっぱやめとく! 戒厳令発令されているのに、不謹慎だよ。平和になったら、一杯イチャイチャしよう。そのために修行するんだからね」

「え〜〜〜」

 は分かったつもりでも、不満そうだった。

 もう一回軽く唇に触れると、カカシは未練を断ち切るようにそっとを引き剥がし、頬を撫でると、ニッコリと微笑みを残して、家を出て行った。

「あ〜ぁ・・・つまんないの」

 鍵を掛けるとは人形を抱き締め、寝室でぽてっと横になり、暫く色々と考えていたが、次第に眠っていた。

















 戒厳令は敷かれても里は通常通りだったので、アカデミーもいつものように行われていた。

 “通常通りに”と火影からのお達しもあった為、事情を知る者も知らない者も、今までと変わらない日常が続いた。

 もアカデミーに来て、授業を受けていた。

 イルカとも、密に話をしていた。

 話の内容は、不明だった。

「・・・でも、カカシ先生がいらっしゃらなくて、お寂しいでしょう。本音は付いていきたいんじゃないですか?」

 休み時間、職員室でお茶を飲みながらイルカは笑った。

「そうなんですけど〜、ダメって言われちゃってるから。でもやっぱり飛んでいきたい〜〜!」

 きゅう、と拳を握りしめてぶんぶん上下に振るは、歯を食い縛って足もバタつかせた。

「だけど、こうやってずっと外に出られて良かったじゃないですか。自来也様は流石ですね」

「あ、そうだ。ガマ仙人さん、ナルト君の修行見てるから遊びに来いって仰って下さったんだった。今度おべんと作って行ってこよ〜♪」

「へぇ。ナルトのヤツ、自来也様に見てもらってるんですか。そりゃ頼もしいなぁ。本戦が楽しみですね」

「イルカせんせぇ〜〜〜、何度言っても言葉直してくれない〜〜」

 ぷく、とは膨れた。

「はは、勘弁して下さいよ。直せって言われても、地ですから」

 バツが悪そうに、イルカは照れて鼻の頭を掻いた。

「授業の時みたいな喋り方すればいいんですよ〜」

「う、う〜ん・・・木の葉丸達相手とさん相手じゃ、訳が違いますよ〜。8つの子供と20代の女性を同じように扱うのは、どうも・・・」

「同じアカデミー生じゃないですかぁ」

「そ、そう言われましても、その・・・」

 その時、イルカの狼狽を救うように、チャイムが鳴った。

「あ、授業だ。戻りますね。くの一クラスに行くんですv」

 立ち上がって、はニコ、と微笑んだ。

さん、ここ数日一日中ずっとアカデミーにいますが、病院には行かれないんですか?」

 イルカも授業の準備を整える。

「あ、今日は行きます。サスケ君を看に行くんで」

 カカシせんせぇに頼まれてるし、と切なそうな顔をする。

「あぁ、サスケのヤツ、大変なことになってますからね・・・さんに治せるといいんですが」

「看てみないと分からないですけど、出来る限りのことはしてみます」

「お願いします」















 午前の授業が終わったは、いつものように、テラスでゲンマと昼食を摂った。

「あぁ、これから病院か。うちはのガキ、治せればいいがな」

 かぼちゃの煮物を口一杯に頬張りながら、ゲンマは言い放った。

「呪印って言うの、火影様にも消せないの?」

 重箱の一段全部に詰め込まれたかぼちゃを、も一つ口に放り込む。

「昔はアンコの呪印を目に見えなくなるくらいにまで抑え込んでたな。アンコの呪印はまた浮き出ているが、抑え込むことで苦しみは和らぐようだ。だが、火影様でも完全に大蛇丸の呪印を消すことは出来ねぇ。解印が不可能なんだ、あの呪印は」

「それだけ、その大蛇丸さんって人の力が強大なのかぁ・・・」

「大蛇丸にさんなんか付けなくていい」

「ん〜うん」

 食べながら、思い出したようにゲンマはベスト内に手を突っ込んだ。

「そうだ、。頼まれてた書類。これでいいだろ。ほらよ」

「あ、ありがと〜、ゲンマさんv イルカせんせぇに出せばいいよね?」

「そうだな。後はイルカが処理してくれるだろう」

「良かったv」

 書類が風で飛ばないように重しを載せて傍らに置くと、食べ続けた。

「そう言えば、ガマ仙人さんとナルト君って、修行始めたんでしょ? 何処でやってるのかな」

「あぁ・・・あの人は、まず女がいねぇトコには行かねぇから、特に露出が多い・・・そうだな、温泉街か、水べりだな」

「水べりって言っても、一杯あるよ〜」

「じゃ、オレの忍鳥に捜させるか」

 食べ終わったゲンマはベストから巻物を取り出した。

「水べりって、何で女の人が多いの?」

「水着来て水遊びしてるんだよ」

 夏だし暑いからな、と照りつける太陽を仰ぐ。

「ガマ仙人さんは何でそういうトコにいるの?」

「小説のネタの為の取材だとか言ってるがな」

「ふ〜ん・・・。あ、これが口寄せの巻物?」

「どの鳥を呼ぶかな・・・」

 片付けながらじ〜っと見つめてるを見て、ゲンマは思うところあるように顔を上げた。

、オマエも契約してみるか?」

「え?」

「カカシ上忍の忍犬と契約してたりするか?」

「え? 私が? ううん」

「じゃ、構わねぇか。オマエも忍び目指すんなら、口寄せ動物と契約しておいた方がいい。この巻物に自分の名前を血で書いて、片手の指全部の指紋を血で押すんだ」

 ほら、とゲンマはの前に巻物を広げて置いた。

 幾人か名前が連なっている中、“不知火ゲンマ”と書いた隣に、“不知火エルナ”とあり、その隣からは空欄だった。

「えっと〜、“”でいいの?」

「・・・あぁ、本当の名前じゃねぇかも知れねぇんだっけな。ま、書いてみろよ。そうすりゃ契約できるかどうか分かる。出来れば、“”ってのはオマエの本当の名前だ」

 ゲンマの言葉に、はぱぁっと笑顔になった。

 一つ、真実が分かるのだ。

 は腰のポーチからクナイを取り出し、指に引いて血を滴らせた。

「・・・あ、でも苗字は? 分かんない」

「ん〜・・・ま、昔の人間は苗字ねぇからな。そういう例もある。取り敢えず、試してみろ」

「ハ〜イ」

 ヨイショヨイショ、とは血で名前を書き、血判を押した。

「オレが試しにやってみるから、印を結ぶ順番とやり方を覚えろ」

 そう言ってゲンマはくわえ楊枝のまま印を結び、口寄せの術を行った。

 大きな鷹が現れ、ゲンマの肩に留まった。

「わ〜、すご〜いv」

「やってみろ」

「う、うん・・・」

 はドキドキしながら、印を結んだ。

「口寄せの術!」

 ぽわん、と煙が立ち込める。

 ゲンマもも、固唾を呑んで見守った。

「・・・何だ? 呼んだのは女か? エルナじゃないな。ゲンマ、どういうコトだ?」

 翼の美しい、大きな鷲が羽ばたきながらを見遣った。

「良かった〜。成功したよ〜」

「これでオマエの名前はだって証明された訳だ。おいフジナにマリモ、新しい契約者、だ。これから一仕事してもらうぞ」

「任務か。何だ。また護衛か?」

「いや、人捜しだ。うずまきナルト、分かるだろう? 何処にいるか、捜してきてくれ」

「九尾のガキか。里内にいるのか?」

「あぁ。恐らくな。三忍の1人も一緒だ」

「三忍・・・自来也か? なら簡単だな。行ってこよう」

 二羽の忍鳥は、揃って飛び立った。

「これでいいだろう。見つかれば、戻ってくる筈だ」

 昼休み終わるな、とゲンマは巻物をしまい、立ち上がった。

「招集の鳥とは違うんですね〜」

「あぁ、時々、紛らわしい、とか言われるんだがな。招集の鳥にも、大なり小なり、色々いるからな。色や大きさで区別が付くんだが」

「ナルト君、どんな修行してるのかなぁ? ね〜ゲンマさん、ゲンマさんもたまに顔出しに来てね。昼休みと夜だけじゃつまんないよ」

 も立ち上がって弁当箱を手に取ろうとすると、ゲンマが代わりに持ってくれた。

「夜修行付けてんだからいいだろうが。ま、でも何だ・・・オマエ1人が寂しいんだろう。カカシ上忍がいないから、1人で寝てんだろ? どうせオレん家で飯食ってオレが修行付けてるんだから、そのままオレん家に泊まってけよ。カカシ上忍はいねぇんだし、外に出れねぇっつ〜障壁の心配もいらねぇし、大丈夫だろ? 来いよ」

「いいの?」

 はぱぁっと満面の笑顔を向け、ゲンマにしがみついた。

「カカシ上忍の家にいる理由もねぇだろうが」

「わ〜い、お泊まり〜♪ 楽しみ〜♪」

 の無邪気に喜ぶ様子を見て、ゲンマは思うところあるように考え込んだ。

















 午後になり、は病院前まで来ていた。

「また面会謝絶って言われたらどうしよ・・・」

 院内には入らず、外でウロウロした。

「あ、また口寄せで鳥呼べるかな?」

 試してみよ〜、とは再び印を結んだ。

 ポン、と小鳥が現れる。

「わぁ、出たv」

「何だ? 新しい契約者?」

って言いますv ゲンマさんの妹分ですv ヨロシクねv」

「ふ〜ん。ね。ま、いいや。オレはオボロ。小間使いだ。何の用だ?」

「あのね、サスケ君の病室がどこかそっと調べて欲しいの。面会謝絶だから、教えてもらえなくって」

「サスケ?」

「うん。分かるかな、うちはサスケ君」

「うちは・・・あぁ、あの悲劇の一族の生き残りね。なら顔は分かる。待ってろ」

 小鳥はパタパタと病院に向かって飛んでいった。

 間もなくして戻ってくる。

「最上階の一番奥だ。あの南側の棟の端。廊下に暗部がいるみたいだ。で? それを知ってどうする気だ? 

「あ、うん。普通にじゃ入れてもらえないだろうから、外からこっそり忍び込もうかと思って。悪いコトする訳じゃないからいいでしょ?」

「そりゃまぁそうだが・・・アンタのチャクラの感じからして、医療忍者だろ? だったら正面から入れるだろうが」

「まだ卵なんだ〜。ついこの間、ダメって言われちゃったから。オボロさん、ありがと〜v 行ってくるねv」

「あ、おい・・・!」

 ニコ、と微笑むとは病院を駆け上がっていった。











 南棟の端の最上階の窓辺に立ち、そっと中を伺い見る。

 医療機器に囲まれたサスケの痛々しい姿が目に飛び込む。

 窓には鍵が掛かっていた。

 えい、と術を使ってそっと鍵を外すと、音を立てないようにそっと窓を開け、中に侵入した。

「お行儀悪いって言わないでね・・・」

 サスケの傍らに立つと、心配そうに覗き込む。

 治療機器だらけの姿が、痛々しかった。

「ん・・・よし、怪我は治せるな・・・」

 サスケの状態を確認すると、そっとは手をかざした。

 柔らかなチャクラがサスケを包み込む。

 みるみる、傷が癒えていった。

「でも、まだ暫くは安静にしてないとならないから、サスケ君目が覚めたら絶対無理にでも出てっちゃうから、ちょっとの間は寝ていてもらおう・・・」

 す、とはサスケに触れる。

 そして首筋を覗き込んだ。

「これが呪印か・・・禍々しい念を感じるなぁ」

 サスケは当分起きないようにしたので、そっと触れてみた。

「う〜ん・・・どうにか出来ないかなぁって思ってたけど、やり方が思いつかないや・・・えっと、取り敢えずは発動しないように抑え込んであるみたいだから、それをもう少し強くしてみようっと」

 は瞳を閉じ、チャクラを流し込んだ。

「これでいいかな? 成功したのかが分からないけど」

 カカシせんせぇのチャクラと混ざったから大丈夫だよね? とは呪印をしげしげと見つめた。

「う〜ん・・・記憶が戻れば、消せるかも知れないんだよね・・・最近、葛藤することが多いなぁ」

 唇を尖らせて、は顎に手を当てて呟いた。





 その時。

「誰だ!」

 勢いよく病室のドアが開いたので、は驚いた。

「あちゃ〜。見つかっちゃった」

「オマエ・・・?! か?!」

「一体何処から・・・」

 廊下で見張っていた、暗部達だった。

 病室内でチャクラが動き、微かに声がするのを聞き取ったのだった。

 暗部にしては、気付くのが遅かった。

「えへ。ごめんなさい。外から来ました」

 バツが悪そうに、は頬を掻いた。

「外・・・? 何でまた・・・」

「だって、この間来た時、面会謝絶で会わせられないって断られちゃったんです。だから、こっそり忍び込んで・・・」

「確かにサスケは面会謝絶だが、だけは来たら通すように、カカシからも火影様からも言われている。名前を言えば、入ることが出来た筈だぞ」

「え〜、そうなんですか?」

 何だぁ、とは呟く。

「サスケの治療に来たのか?」

「あ、ハイv 怪我はすっかり治しました」

「呪印は?」

「あ〜・・・どうしたらいいのか分からないんで、取り敢えず、今の封印の効力を強めてみました」

「そうか・・・」

「そうだ、取り敢えずの脅威はひとまず去ったから、サスケ君に護衛はもう必要ないってカカシせんせぇ、言ってました。一般病室に戻してもいいですよ。怪我も治りましたし」

「解散していいのか? 一応、火影様にも確認するぞ。オレ達はカカシに言われてサスケの護衛には付いたが、一応暗部は、火影様の直轄だからな」

「そうですね。後サスケ君、無茶しないように暫く眠っててもらってますから、起きれるようになるまでは見張りとか必要ないですよ」

「そうか。医療能力ってのは相変わらず便利なモンだな。オレも身に付けたくなるぜ」

「じゃ、私戻りますね。ナルト君の居場所分かったかなぁ」

 は来た道を戻ろうと、窓に向かった。

「おいおい、泥棒じゃねぇんだから、帰りくらい病院内歩いていけ」

「女が行儀悪いぞ。そんな格好で。後ろめたいことがある訳じゃなし、堂々としてろよ」

「あ、そっか」

 てへ、とは舌を出してはにかんだ。

「じゃ、失礼しま〜すv」

 暗部の1人は思うところがあるように、去っていくの後頭部に手刀を向けた。

 はひょい、としゃがみ込む。

 手刀は空を切る。

「・・・? 何ですか?」

 きょとん、とはしゃがみ込んだまま、見上げた。

「あ、あぁ、いや・・・悪ィ、つい・・・」

 怪訝に思いながらも、は立ち上がってそのまま軽やかに帰って行った。

「・・・流石カカシの女だ。出来るな」

「あぁ」













 が病院を出ると、口寄せで呼び出した鷹と鷲が空を舞っていた。

 を見つけ、降下してくる。

「あ、ナルト君達見つかったの?」

「あぁ。温泉街近くの滝の傍で修行していた。案内するか?」

「お願いしま〜すv」

 に合わせてゆっくり羽ばたきながら、その場所に向かった。





 水の跳ねる音がする。

 女の声も聞こえる。

 その近くで、チャクラが何度も弾けるのを感じた。

 木々の間を抜けていくと、ナルトが悪戦苦闘しているのに出くわした。

「くっそ〜! 何っでだよ〜!!」

 頭を抱え込んでいるナルト。

「あっ、ナルト君、見〜っけv」

「あ、姉ちゃん! どうしたんだってば?」

 ぴょこぴょこしているおたまじゃくしがポンと消えると、ナルトはに気が付いた。

「えへ。ナルト君が修行してるって聞いたから、ガマ仙人さんが遊びに来いって仰って下さったの」

姉ちゃん、エロ仙人と知り合いなのか?」

「うん。ちょっとだけね。私も修行したいなぁって思って。ナルト君はどういうコトしてるの?」

 鷲と鷹は近くの大きな石の上に留まった。

「水の上歩いてチャクラ使い切って、もういっこのチャクラ使えるようにするとかエロ仙人言ってたってばよ。そんで、口寄せの術やってんだってば」

「水の上歩くの? それなら私も前にカカシせんせぇに習ったよv 口寄せの術もね、今日ゲンマさんに教えてもらって契約したんだv」

姉ちゃん、もう水の上歩けるのか? カカシ先生に習って? ずり〜ってばよ! カカシ先生、オレ達には教えてくれないで、姉ちゃんばっかり・・・」

「難しいから、段階踏んでる最中だって言ってたよ」

「それに何? 姉ちゃん、口寄せ契約したって・・・出来るのか?!」

「あ、うん。この鳥さん達がそうだよ〜v」

 ゲンマに似てかどうかはともかく、目つきの鋭い二羽はきつくナルトを見据えた。

「へ〜っ。やっぱすげぇな、姉ちゃんは。でっけ〜鳥・・・」

「ナルト君は何と契約したの?」

 見せて見せて、とは目を輝かせる。

「あ〜・・・まだだってばよ。カエルなんだけど、その・・・」

 所在なげに、ナルトは視線を泳がせて手をもじもじさせる。

「あ、修行の最中ってコト? どこまで出来るの?」

「う・・・。姉ちゃん、口寄せって呼ぶ動物が変わるだけで、やり方は同じだよな? やってみせてくれってばよ」

「いいけど・・・教えてくれてるガマ仙人さんは何処?」

「向こうで覗きしてるってばよ。放っとけばいいってばよ。オレのことなんか全然見てくんないし」

 軽蔑の眼差しで、ブツブツと呟いた。

「ふ〜ん・・・あ、いた! ガマ仙人さ〜ん!」

 繁みの陰から水浴びを楽しむ女達を眺めていた自来也は、呼ばれているのに気が付き、振り返った。

「おぉ〜、! よく来たのォ。待っとったぞ」

 でれ、としまりのない顔でやってくる。

「エロ仙人ってば、ちっとは見てくれってばよ!」

 ぶぅ、とナルトは膨れる。

「カエルは出せるようになったかのォ」

「う゛・・・」

「ふふん。まだのようだのォ。ん? その鷲と鷹は、ゲンマの口寄せ忍鳥だのォ」

「あ、私にも口寄せ必要だって言って、ゲンマさんが教えてくれて、契約したんです」

「ほう。は出来たんかのォ」

「えへ。一応。カエルって、どういうのが出てくるんですか?」

「ん? 見たいかのォ。どれ・・・」

 自来也は、口寄せの術を披露した。

 ポン、と大きなカエルが現れる。

「わぁ〜っ、おっき〜〜〜!! 口寄せのカエルって、こんなに大きいの? すっご〜い!」

 目を輝かせているに、自来也はまんざらでもないように鼻の下を伸ばす。

「その鷲と鷹とて、通常より大きいだろう? 口寄せ動物とはそういうモンだのォ」

「ナルト君はどこまでできるの?」

「う゛・・・うっさいってばよ! オレ修行してんの! 気が散るから邪魔しないでくれってばよ!」

「はは・・・ん。まだ出来んかのォ。しょうがないのォ」

「コツ教えてくれってばよ! エロ仙人オレの修行見てくれる約束だろ?!」

「ワシは教えることはもう教えてあるのォ。後は己で磨くだけだのォ」

「エロ仙人のケチ! 姉ちゃん、どうやるか教えてくれってばよ〜」

「え、私? 困ったな・・・見たとおりにやっただけだから・・・」



「おぅ、はカカシやサスケの写輪眼と同じように、見たモノをコピーできる能力があるんだそうだのォ。ナルトよ、口寄せは膨大なチャクラがいる。規定量のチャクラを放出した上で丁度良い具合に練り込む。水面歩行で覚えたことの応用だのォ」

「んなこと言ったって・・・」

「オマエはチャクラコントロールが下手糞だのォ。オマエの修行はそれのみだのォ」

「頑張ってねv ナルト君」

姉ちゃんもやってみして!」

「私? いいけど」

 ポン、と現れたのは小鳥。

 先程の鳥だった。

「何だ? 今度は。ん? フジナとマリモまでいる。何だ何だ、一体」

 同窓会か? とオボロは周囲を見渡す。

「練習台にさせられてんのさ」

「見せてやったことだし、帰っていいか」

「あ、うん。今日はありがと〜v またね〜v」

「おぅ」

 3羽はポン、と揃って消えた。

「どぉ? 参考になった?」

「・・・ち〜っとも分からないってばよ」

「オマエ、才能無いのォ」

「うっせ〜ってばよ! 今にでっかいカエル出してやるかんな!」

 プイ、とナルトは膨れて顔を背けた。

「ま、1人で悩め。後は自分でチャクラを磨くしかないからのォ」

「頑張ってね〜v」

はワシと遊ばんか」

「いいですよ〜。何します?」

「水遊びがいいのォ。は水着は持ってないかのォ」

「水着ですか? 無いなぁ・・・今度買ってきますねv」

 可愛いの買お〜、とは水べりまで歩いていき、水をすくって冷たさを楽しんだ。

「あ、でも修行もしたいんです。でも何やったらいいか分からなくって。ガマ仙人さん、私、どんな修行したらいいでしょう?」

「ん? そうだのォ。見たところ、充分に力はあるようだが・・・修行なんて必要ないのォ」

「もっと強くなりたいんです〜。体裁きとか、体術弱いし。術は一杯習ったけど、それを使いこなせるだけの体術を磨きたくって」

 はひょいひょい、と水の上を歩きながら自来也に言い放った。

「夜、ご飯食べた後ゲンマさんに修行付けてもらってるんですけど、昼間もしたいな〜って」

「夜やっとるんなら、いいだろ〜のォ。昼間くらい、遊ばんと、いい若いおなごが、勿体無いのォ。今はいつどうなるか分からないから、厳戒態勢を敷くのも結構だが、楽しむことも忘れてはイカンのォ」

 でへ、とだらしのない顔を見せる自来也は、躍動するの肢体を見たい一心で、遊ぶことを勧めた。

「今から張りつめてばかりいては、疲れてしまってイザという時、役に立たんで本末転倒だのォ」

「そっかぁ〜。遊びながらでも修行は出来ますよね? そうしよっと」

 とてとて、と砂利の上を歩くは足音がしない。

 ほほぅ、と自来也は感心した。

「あ、もうお買い物の時間だ。今日は帰りますねv また来てもいいですか?」

 時計を見遣ると、は自来也に尋ねた。

「おぅ、勿論だ。毎日来てくれて構わんのォ」

「有り難う御座いますv じゃ、また」

 跳び上がるに、首を曲げて覗き込む自来也は、白いモノが見えた、と鼻の下を伸ばしていた。

















 がゲンマの家に泊まるようになって、幾日か過ぎた。

 アカデミーで授業を受け、少しの間水べりに行ってナルト達の元で遊びながら修行をした。

 たまにゲンマも顔を出し、修行に付き合った。

 今までゲンマ→カカシの夕飯コースだったのが、カカシが帰ってこなくなったので、ナルト→ゲンマコースに変わった。

 ゲンマと夕食を摂った後は、もっぱら演習場近くで修行をした。

 カカシがいた時と、同じような感じだった。

 カカシに会えないことで、は時折寂しそうな顔を見せる。

 人形を抱き締めて、カカシと一緒にいる気分に浸ってみたりもしていた。

「カカシせんせぇ・・・会いたいよ・・・」

 一日に何度も呟く。

 ゲンマは頭を撫でてやるくらいしかできなかった。

 会いに行ってこい、とは言えない。

 何の為に離れているのか分からなくなる。

 だが、恐らく近いうちには我慢が効かなくなって会いに行くだろう。

 ゲンマはそう思った。



















 ある日、アカデミーを出ていつものようにナルト達の元へ向かおうとしていたは、ばったりサクラと出会った。

さん。お願いがあるの」

 サクラとは、近くの茶屋に入った。

「何? お願いって」

 出されたお茶を口に含む。

「サスケ君のことなんだけど」

 サクラはお茶にも団子にも手を付けず、神妙な面持ちだった。

「サスケ君? あぁ、特別室から一般病室に移ったんだよね、確か」

 少しは良くなったかなぁ、とは団子を頬張る。

「でも、まだ面会謝絶で会えないの。さん、お願い。サスケ君を治療して」

 目に涙を浮かべ、サクラは懇願した。

「う〜ん・・・あのね、実を言うと、もうサスケ君は治してあるんだ」

「えぇ?!」

「何日か前に、怪我とか、治せる限りのことはしてあるの。それで一般病棟に移ってもらったんだけど」

「じゃあ、何でまだ面会謝絶なの?」

 サスケ君の顔が見たいよ、とサクラは泣きじゃくる。

「ゴメンね。カカシせんせぇの言いつけで、誰も会っちゃいけないことになってるの。サスケ君の性格じゃ、意識が戻ったら、すぐにでも無理をしようとするでしょ? だから、怪我とかは治したけど、まだ無理しないように、眠っててもらってるんだ。だから、誰かが会いに行ったりとか、外部からの刺激があったらダメなんだって。だからゴメンね、サクラちゃん」

 はすまなそうに、寂しく微笑んだ。

「そっか・・・もう治してくれてたんだ。サスケ君の状態は大丈夫なの? さん」

「うん。目を覚ませば、普通に修行とか出来るよ。でも、もう少し安静は必要だけど」

「なら良かった。それで・・・あの痣は・・・?」

「あぁ、うん・・・カカシせんせぇが封印の法術で抑え込んでくれてるから、私はその効力を増すようにさせておいたよ」

「消すことは・・・出来ないの? さんの力で」

「う〜ん・・・火影様でも解印は出来ないって言うからなぁ。私にも分からないんだ。ゴメン」

さんが謝るコトじゃないわ。怪我を治してくれたりしてもらっただけでも感謝しなきゃ。有り難う、さん」

 サクラは涙を拭き取り、ペコ、と頭を下げた。

「私に出来ることなら何でもしたいからね。カカシせんせぇも頑張ってるし。だから私も修行してるんだ」

 食べて元気だそ、とはサクラに団子を勧めた。

 うん、とサクラは頬張る。

 桜餡の甘じょっぱさが胸の奥まで染み渡った。

「そう言えば、昨夜さんにお願いしようと思ってカカシ先生の家に行ったんだけど、留守だったでしょ。そんなに遅くまでカカシ先生と修行やってるの?」

 ゴク、と飲んだお茶は大分温くなっていた。

「あ、カカシせんせぇね、今お家にいないんだ」

 寂しそうな顔をしつつ、はお代わりを注文した。

「えぇ?!」

 は簡単に説明した。

「成程〜。修行ね・・・え、でも待って。さんって、カカシ先生の印がないと外に出られないんじゃ・・・どうしてるの?」

「あ、それはね・・・」

 追加されてきた団子を頬張りながら、は詳しく説明する。

「へぇ〜。良かったじゃない、長い間外に出られて。あ、でも・・・」

「・・・うん。カカシせんせぇに会えなくて、寂しい」

 しゅん、とは寂しそうに微笑む。

「分かるよ、さん。私もサスケ君に会えないもの」

 会いたいよね、とサクラは熱いお茶を口に含む。

「サスケ君に会わせられるなら会わせたいけど、私も治療の時の一度以外は会ってないしね・・・私にそんな権限ないし。待ってて、もうすぐ治療と併せてじっくり効いてきて、良くなって目が覚める筈だから。そうしたら会えるよ」

 ニコ、とは柔らかく微笑む。

「でも、さんはいつカカシ先生と会えるの?」

「う〜ん・・・中忍試験の本戦には戻ってくると思うけど」

「それまで会えないの?! 何処にいるのよ、一体」

「分かんない。教えてくれなかったし。会いたいよ〜〜〜」

 サクラは自分の気持ちと照らし合わせ、の気持ちが痛い程分かった。

「薄情よね、カカシ先生も。いっつもさんのこと大事にしてるくせに、ほったらかしにできるなんて。他の人に獲られたって知らないんだから」

 男の人の考え方って分からないわ、とサクラは膨れる。

「修行は私を守る為でもあるって言ってたけどね」

「でも、傍にいて欲しい時にいてくれないんじゃね〜。さん、付いていけば良かったのに」

「そう言ったけど、ダメだって言われちゃった」

「まぁ、カカシ先生の修行なんて言ったら、物凄く大変なのかも知れないわよね。仮にも里一のエリートなんだもの」

「過酷だって言ってたから、多分ね」

「でも、それならそれで、こう、信じられる約束とかしていけばいいのにね」

「約束?」

「その言葉と約束を信じて待っていられます、っていうようなことよ」

 そうすれば安心できるでしょ、とサクラは言い放つ。

「? どういうこと?」

「だからぁ、さん、どうせならカカシ先生と結婚しちゃえばいいのよ」

「結婚?」

「そうよ。カカシ先生もそのつもりでさんを大事にしてるんだろうからさ」

「・・・出来ないよ」

「え〜っ、どうしてぇ?」

 さん、カカシ先生のこと好きなんでしょ? とサクラは驚く。

「カカシせんせぇは、里一のエリートでしょ? でも、私は得体の知れない異国人だよ。釣り合わないよ」

 だから無理、とは残りの茶を流し込む。

「そうかなぁ? さんって、そういうこと気にする人だったの? 変なの〜。カカシ先生だって他の誰だって、さんのことをそういう風には思ってないと思うけどなぁ」

「そう? でも・・・」

「むしろ、助けてもらってるんだから、感謝しこそすれ、軽蔑するのはおかしいもの。さんだって、カカシ先生のこと大好きで、ずっと一緒にいたいんでしょ?」

「うん。いたいよ。だけど・・・」

「お互い愛し合ってるなら、結婚するのが当然よ。いい大人なんだしね。カカシ先生も、そう思ってる筈よ」

「ん〜、でもね、私は結婚とかそういう形より、立派な医療忍者になって一緒に任務してカカシせんせぇを守りたいの。その方が私の望み」

「え〜っ、さん、恋する乙女として、それは間違ってるわよ! 絶対おかしいって!」

「そうかなぁ? アイとかコイとか、百人いれば百通り、色んな形があると思うけどな。私は、カカシせんせぇと任務したいの」

「・・・まぁ、それがさんの幸せだって言うんなら、いいけどさ・・・」

 の考え方はやっぱり変わってる、とサクラは思った。

 でも、らしい、とも思った。

 これまでずっとを見てきて、というものが分かったから。

 これがの、カカシへの愛情の示し方なのだ、と。

 にはそれが出来るだけの能力がある。

 相手の重荷にならない。

 これも愛の形の一つか、とサクラは勉強になった。

「でも、さん、1人で家にいるの、寂しいでしょ」

「ん〜、最初は寂しかったけど、カカシせんせぇのチャクラでぎゅってされてるみたいで幸せだし、今はゲンマさんの家にいるから、寂しくないよ。カカシせんせぇには無性に会いたくなるけど」

「ゲンマ? そう言えば前にも聞いた名前ね。誰? それ」

「特別上忍の人だよv 私のお兄ちゃん代わりをしてくれてるの。とっても優しいんだv」

「へ〜っ。さん、そういう人がいたんだぁ」

「本戦で審判やるんだって」

「じゃあ、かなり優秀な人なんだ? 本戦って偉い人とかも観に来るって言ってたもんね・・・」

 本戦に携われるのは限られた優秀な忍びのみって聞いてるし、とサクラは息を吐く。

「うんv 修行も見てもらってるんだ」

「私も修行して、今度こそいのぶたに勝ちたいなぁ・・・」

 それから、ワイワイと暫くサクラはと語り合った。







さんはこれからどうするの?」

 茶屋を出て、通りの真ん中でサクラは尋ねた。

「ナルト君の修行しているところに行くの」

「へ〜っ。ナルト、頑張ってる?」

「うん。悪戦苦闘して頑張ってるよ」

「じゃ、検討を祈るって言っといてよ、さん」

「分かった。じゃね〜♪」


 のチャクラは益々強大になっている。

 それをひしひしと感じながら、サクラは帰路についた。









 本戦まで、あと僅か。

 物思いに耽る者、修行に明け暮れる者、それぞれに去来するものを、空は見ていた。