【出会いはいつも運命の気まぐれ】 第六章 夜更け、暗闇を駆けて自宅に戻ってきたゲンマは、隣のの部屋に灯りが点いているのを見た。 「まだ起きてんのか」 自宅には入らず、合い鍵での部屋のドアを開けた。 中に入ると、数人のが、ネグリジェでツインテールで、ダイニングで踊っていた。 「・・・何やってんだ? オマエら」 また妙なことを始めた、とゲンマは呆れ顔で息を吐く。 「「「あっ、ゲンマさんだ! おかえりなさ〜いv」」」 気付いた達は、とてとてとゲンマに群がった。 「何してたんだ、一体」 靴を脱いで、部屋に上がりながら尋ねる。 「あのね、すること無かったから、手持ちぶさたで、修行してたの」 「盆踊りの何処が修行だ?」 「む〜。盆踊りじゃないよ! チャクラ練って、体術の修行してたの!」 達は、ぷく、と膨れて抗議する。 「盆踊りにしか見えなかったけどな」 部屋のドアの向こうにもまだ何やらありそうに感じたので、ゲンマは覗きに行こうとした。 「あっ、ゲンマさんは入っちゃ駄目〜!」 「何かあんのか?」 「ナイショ〜v ゲンマさん、お夕飯温めるから、食べてv」 1人が味噌汁を温めてよそい、1人がご飯をよそい、1人がおかずを電子レンジで温め、残りが食卓を整え、ゲンマがベストを脱ぐのを手伝った。 「じゃ、いただきます」 ゲンマが食べ始めたのを確認すると、達は再び踊り出した。 盆踊りか、ツインテールだからウサギが月で餅をついているようにも見えた。 『・・・どう見ても盆踊りにしか見えねぇ・・・何処が修行だ?』 わらわらいる達の盆踊りを眺めながら、ゲンマはガツガツと食べた。 食べ終わったのを見て、達は群がってきた。 「洗い物するよ〜」 「あ、私がするの〜」 「私がするってば」 「じゃ〜私はお茶入れる〜」 ワイワイと達は狭い場所に密集した。 「狭いっつの。オレが洗うから、オマエらは踊ってろ」 「「「む〜。踊りじゃないよ! 修行って言ったでしょ!」」」 「やかましいな。エコー効かせるな」 ゲンマはひょいっと食器を取り上げ、流しで洗った。 「ゲンマさ〜ん、お風呂いい湯加減だから、入って〜v」 「自分トコで入ってくるって」 「え〜。折角いい湯加減にしたのに〜。時間勿体ないよ! ゲンマさんと夏の中忍試験の予選のビデオ観たいから待ってたのに〜」 「借りてきたのか? 分かった。じゃ、着替え取ってくっから」 一旦自分の部屋に着替えを取りに行って、戻ってきて浴室に向かう。 「「「お背中流しま〜すv」」」 そう言って達が侵入してくる。 「怪しいサービスはいらねぇよ。風俗にでも行く気か」 ホレホレ邪魔だ、とゲンマは追い出す。 「「「あ〜ん」」」 ったく、とゲンマは息を吐いて湯を被った。 早風呂で上がると、やはり達は踊っていた。 「で? 部屋で何やってんだ?」 「「「だからゲンマさんは入っちゃ駄目〜」」」 「鶴の恩返しか? 何か悪巧みでもしてんのか」 必死にゲンマを引き留めようとする達に構わず、ゲンマは寝室のドアを開けた。 そして思わず目を見張る。 広い寝室に、所狭しと多重影分身の達がいて、開いたドアに視線が集中して、ゲンマだと分かると、サッと手を後ろに隠した。 「「「「「ゲンマさん、おかえりなさいv って、皆、入れちゃ駄目って言ったでしょ〜!」」」」」 「「「だって〜、ずんずん行っちゃうんだもん〜」」」 甘い声のステレオエコーで、ゲンマは変な気分になってきた。 「・・・だからオマエらそんなわらわらと、何やってんだよ」 はぁ、とゲンマは気だるげに息を吐く。 背後に回している手から、針や糸や布切れが見えた。 「・・・もしかして、オレの人形作ってたのか?」 「「「も〜、作ってるトコは見ちゃ駄目だよ〜」」」 「あのな、大勢で省エネすんな」 「「「だって、早く作りたかったんだもん。大勢の方が早く終わるし〜」」」 「オレは早く作れとは言ってねぇ。本人が1人だけで、心を込めて一針一針作らなきゃ駄目だろうが。楽しようとすんな」 ポンポン、と近くのの頭に触れる。 「「「む〜。全員私だよ! ちゃんと皆で心込めてるモン!」」」 「オレは嫌だ」 「「「何で〜?」」」 「いいから、ビデオ観るんだろ? 片付けて、隣に・・・」 「「「ハ〜イ」」」 コソコソと作りかけの人形を隠し、隣の娯楽部屋に向かった。 ゲンマは眉を寄せる。 「・・・あのな、全員くんな。入りきらねぇだろ」 立錐の余地もない程に、ゲンマは達に取り囲まれていた。 眼力の強い達が、ぐるりゲンマを取り囲んで、ジ〜ッと見つめていた。 「オレに穴開ける気か」 「「「ね〜ゲンマさん、シュチニクリンってゲンマさんも楽しい?」」」 「は? 酒池肉林?」 「「「カカシせんせぇがね、何か嬉しそうだったから」」」 言われて、あぁ、今この状態はまさにそうか、と気付く。 「あ〜、確かに酒池肉林だな。カカシ来たのか?」 「「「うん。もう帰ったけど、1人に戻ったら、大勢のでシュチニクリンしたかった、って言ってたの」」」 「ま、カカシはそうだろうな」 「「「ゲンマさんもそう?」」」 じ、とゲンマは達を見据えた。 「や、オレは1人だけで充分だ」 そう言って、を1人、脇に手を入れて抱き上げ、肩に担いだ。 「何でこうするのぉ〜? 落とさないでよ〜?」 担ぎ上げられたは、ゲンマの背中で叫んだ。 「オレはコイツ1人いりゃ充分だ。残りはカカシにやるから、カカシんトコ行っちまえ」 「「「「「「え〜〜〜?」」」」」」 「帰ってこなくていいぞ」 「「「「「「でも〜〜〜」」」」」」 やいのやいのと周りの達は騒ぎ立てた。 「やかましいな。近所迷惑だ。ホレホレ、サッサとカカシんトコ行け」 達は相談し合っていた。 「行かねぇんなら、狭いから消えろ」 ポンポン、とゲンマはの影分身を解いていった。 「「「「「「や〜〜〜ん!」」」」」」 ポンポンポン、と達は次々と消えていく。 残されたのは、本体1人。 それはゲンマに担ぎ上げられていたのだった。 ゲンマは、ふぅ、と息を吐くと、を降ろした。 「何で私が本体だって分かったの?」 「それくらい分かるって」 「ゲンマさんにバレるようじゃ、私もまだまだ甘いな〜。もっと修行しなきゃ!」 ぴと、とゲンマに抱きついて口を尖らせた。 「それで盆踊りか?」 「む。盆踊りじゃないよ! 体術の修行!」 「分かった分かった。ツインテール可愛いな。益々10代に見える」 ポンポン、と優しくの頭を撫でた。 2つに結ばれて垂らしている髪を手に取り、ゲンマは柔らかく微笑んだ。 「23だよ! またガキみたいだって言うんでしょ」 「言わねぇって。可愛いなって言っただけだ」 膨れるに、ちゅ、と唇を重ねる。 「ビデオ観るんだろ? 観ながら勉強しろよ?」 「うん。じゃ、セットするね」 とてとてとテレビの前に行き、ビデオデッキにテープを入れる。 「何か飲み物持ってくる?」 「映画観るんじゃねぇだろ。勉強すんだろ」 「それもそうだね〜。んじゃ、スタート!」 テレビの前のラブソファに2人並んで座り、はわくわくと画面に釘付けだった。 思っていた通り、は試合展開にハラハラドキドキ、わーだのきゃーだののめり込んで、生で観ているように騒がしかった。 窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。 薄い陽光が、窓から射し込んでいた。 ふとゲンマは目を覚ました。 遅くまでと議論していて、気付けばそのまま娯楽部屋のソファで寝ていた。 眠い目をうっすら開け、周囲を伺う。 はゲンマの股間に身を預け、気持ちよさそうに寝ていた。 「ったく・・・こんなトコで寝てんな馬鹿。お陰で変な夢見ちまったじゃねぇか」 つん、との髪を軽く引っ張る。 「ふに・・・」 が覚醒しそうだったので、脇に手を入れて、抱き寄せた。 きゅ、とはしがみついてくる。 が左手の薬指に指輪をしているのに気が付き、見つけちまったか、と息を吐く。 無下に外したりは出来なかったが、むに、とゲンマはの頬を軽く抓った。 「いひゃい・・・」 はうっすらと目を開けた。 「あ・・・も、朝か・・・眠いよ〜〜〜」 うにうに、と目を擦る。 「任務ねぇんだからベッドでちゃんと寝ろよ、もう一眠り」 を抱き上げて、ちゅ、と唇に触れる。 「ん〜ん、修行するんだモン」 「殊勝なこったな。でもま、もちっと寝とけ。オレが朝飯作るからよ」 ポンポン、と撫でるとゲンマは着ていたパジャマの上着を脱いでに掛け、忍服に着替えた。 「私が作る〜」 「昨夜作ってくれただろ? おあいこだ。な?」 優しく頬を撫でると、出て行った。 朝食の用意を済ませて娯楽部屋に戻ってくると、はすっかり夢の中だった。 起こすのは忍びない、と、自分だけ食べて、出掛けようと思った。 が。 「ふにゅ・・・カカヒせんせぇ・・・v」 うふふ、と何やら楽しそうで、ゲンマは眉を寄せた。 の耳元に近付き、すぅっと息を吸う。 「起きろ、! 朝飯出来たぞ!」 大声で叫んだ。 「うひゃ〜ん。ビックリした〜。も〜、いいトコだったのに・・・」 ぷく、とは膨れて起き上がった。 「いいトコは3丁目の角までで我慢しとけ」 「え〜、隣のアパートまで? もちょっと先じゃ駄目?」 「何の話だ。飯食おうぜ」 「ハ〜イ」 はとてとてと寝室に向かい、忍び装束に着替え、顔を洗って食卓に着いた。 「いっただっきま〜すv」 うん美味しい、とニコニコとは食べた。 「朝っぱらからご機嫌だな。エネルギー補給でもしたか」 昨夜カカシが来たと言うから、何かしらあったのだろうことは分かっていた。 「んとね、カカシせんせぇがね、任務の実技訓練してくれるって言って、したんだけど、やっぱりヤだったから途中でやめたの。カカシせんせぇとは訓練より仲良ししたいから。でもね、我慢はしんどかったけど、じゅ〜んって充電した感じで、何か嬉しくて。さっきも夢に出てきてくれたし。早く修行デートしたいな」 パクパク食べながら、は笑顔で言い放つ。 「途中でやめたって・・・カカシ文句言わなかったか?」 「言ってたよ。でもやっぱり訓練ではヤだし、仲良しは我慢だから」 カカシを気の毒に思いつつも、が自分の思う通りになっているので、ゲンマはこっそりほくそ笑んだ。 「あや〜、結んでたから段ついてる〜」 ツインテールを解いたは、鏡の前で呟いた。 「結んだままでいいじゃねぇか。可愛いし」 「でも〜、額当て出来ないし〜」 ぐしぐし、とブラシで梳かして矯正しようとする。 自分と同じ額当ての巻き方をしたい、と思ってくれることが、ゲンマには嬉しかった。 「んじゃ〜、医療忍者の腕の見せ所! 新技、しゅぃ〜ん・・・」 掌にチャクラを集中させ、頭部を撫でた。 髪の毛が真っ直ぐに戻っていた。 「・・・どうでもいい技の開発してねぇで、実戦的なことやれ、難病や大怪我を治療するくれ〜の」 ゲンマは呆れて息を吐きながら、横から鏡を覗いて額当てを巻いた。 「そういうのもしてるよ〜。それの初歩なの!」 も続けて額当てを巻いた。 「よっし! ね〜ゲンマさん、今度このカッコで一緒に写真撮ろうよ。まだ撮ってないでしょ」 「そのうちな」 執務の開始時間まで林で修行をするゲンマは、を誘ったが、頑なで、断られた。 受験者に思い入れはしてはいけないので、それでいいと分かっていても、やはり淋しい。 いっそ本戦の審判を辞退しようか、とさえ思う。 そんなことは懲罰モノだし、許されないのは分かっているが、を身内だからという理由があったが、戦うを間近で観たいという気持ちも少なからずあった。 自分でに言ったように、今は目先の中忍試験のことだけ考えろ、と言うことだ、とゲンマは修行に精を出して、雑念を振り払った。 上官のアケビとチームの中忍2人と修行に精を出していたは、夕方になると切り上げ、ナルトを捜した。 食い納めで一楽に行っているだろう、と思って行ったら、イルカと食べていたので、声を掛ける。 「ナ〜ルット君v イルカせんせぇも、コンニチワv」 「あ、姉ちゃん」 「さん。良かったらさんもいかがですか」 「ん〜、お夕飯にはまだ早いからいいです。イルカせんせぇ、また今度誘って下さいv」 「あ、じゃあ私が食べる〜!」 「え〜、私も食べたい〜」 「イルカせんせぇ、私も〜v」 「は・・・?!」 イルカとナルトは思わず口をあんぐり開けた。 一楽の周りに、の影分身がびっしりいたからだ。 「どど、どうしたんですか? 修行でも?」 「ハイv 口寄せの鳥さんに頼らないでターゲットを捜す修行してて〜。でも、ナルト君は此処にいるって分かってたから、修行になってないですけど〜」 「ね〜イルカせんせぇ、ラーメン頼んでいい?」 1人のが椅子に座り、メニューを見ていた。 「私はチャーシュー麺がいいな」 「じゃ、私は塩〜」 「やっぱ味噌でしょ?」 「豚骨も捨てがたいな〜」 「担々麺辛くて美味しそう」 次々と達が座り、メニューを見て口々に言った。 「ね〜、狭いよ〜。もっと詰めて〜」 「も〜入りきらないよ〜。立って食べて〜」 「え〜、お行儀悪いよ〜。テウチおじさ〜ん、椅子もう無い〜?」 「え? あぁ、いや、えっと・・・イルカ先生、どうするんだい?」 「はは・・・あの、スミマセンが全員に奢れる程財布にゆとりは・・・;」 「「「「「え〜〜〜っ! ラーメン食べたい〜〜〜っ!!」」」」」 「だからオマエら何やってんだ。イルカにたかるな」 呆れ顔のゲンマが暖簾を潜った。 「「「「「あっ、ゲンマさんだ〜〜〜ッv ラーメン奢って〜〜〜ッv」」」」」 店に入りきらずに溢れていた達が、ゲンマを取り囲む。 「ゲ、ゲンマさん、オレは一体どうすれば・・・;」 「楊枝の兄ちゃん、姉ちゃんの兄貴分なんだろ? 狭くて味わえないってばよ」 隅に追いやられて、ぶ〜ぶ〜とナルトは膨れた。 「すまんな、オマエら。何かは影分身がブームらしくてな、家でもこんな感じでよ。ステレオエコーでやかましくて敵わん」 「ゲンマさん、もうお仕事終わりなの? 今日は早いんだね」 1人のが、ぴと、と貼り付く。 「執務の途中だ。通りかかったらオマエらのやかましい声が聞こえたから立ち寄っただけだ」 ポンポン、と貼り付くの頭を撫でる。 「何だ〜。一緒にお夕飯食べられると思ったのに〜今日も腕によりをかけてね・・・」 「今日は早く上がれるから、待っててくれ。オラ馬鹿共、本体が要らんと言ってんのに、分身が浅ましいぞ。周りの迷惑だから、消えろ」 ゲンマは再び達を消していった。 「「「「「あ〜ん、ラ〜メン〜〜〜!」」」」」 甘い声を残して、達は消えた。 「じゃ、またあとでな」 ゲンマに貼り付いていたの本体の頬を優しく撫でると、ゲンマは瞬新の術で消えた。 「ゲンマさんって、何で本体すぐ分かるの? 修行してるのにな〜」 ぷく、とは膨れた。 「それだけゲンマさんが優秀だと言うことでしょう。それに一番近くでさんをいつも見ているんですからね」 イルカは、ゲンマがを妹としてではなく、女として見ていることは知っていた。 が、敢えて触れずにいた。 「そっか〜」 「ふ〜、食った食った。腹一杯だってばよ」 思う存分食べたナルトは、腹を撫でながら水を含んだ。 「あ、ナルト君、これから出発するんでしょ? お見送りに行くよ」 「荷造りはもう済んでるんだってばよ。エロ仙人と門のトコで待ち合わせしてるんだってば」 「オレも行くよ。自来也様にご挨拶を」 「じゃ、ナルト君。ビックリするくらい強くなって帰ってきてね。当分会えないのは淋しいけど、お互い修行頑張って、見違えるようになって会おうね」 「おぅ。頑張るってばよ! 火影を超して帰ってくるからな!」 「自来也様、ナルトを宜しくお願いします」 「ガマ仙人さん、帰ってきたら、また旅のお話聞かせて下さいねv」 「任されたのォ。、カカシだけではなく、ゲンマのことも頼んだぞ」 「? ハイ。でも、私をじゃなくてなんですか?」 「何、いつだったか、ゲンマと酒を酌み交わしてのォ。あやつが不憫でな。、2人とも大事にしてやるんだのォ」 「よく分からないけど、ダイジョブですv 2人とも大切ですv」 にぱ、とは微笑む。 「じゃ〜な、イルカ先生! 姉ちゃん! 行ってくるってばよ!」 ナルトは手を振りながら、自来也とともに旅立った。 「気を付けてね〜〜〜!」 手を振り返し、見えなくなると、小さく息を吐く。 「淋しいな。折角木の葉に帰ってきたのに、皆バラバラで」 「それぞれ、自分の進むべき道が見えているんですよ。さんもそうでしょう? オレ達は忍びです。仲良しグループじゃありません。切磋琢磨して、木の葉を、国を平和に導きましょう」 教師らしく、イルカはに諭した。 「そうですよね。私も頑張って中忍になって、ゲンマさんのお仕事覚えて、もっと上まで行って、カカシせんせぇと任務ですv やることいっぱいですv」 ニコ、と手を握って、は微笑んだ。 いつもより早めに帰ってきたゲンマは、が夕飯を用意して待っている、と急いで戻ってきた。 の部屋のドアを開けるなり、ゲンマは疲れたように息を吐く。 昨夜と同じく、大勢のが、忍び装束のままで、踊っていたからだ。 「・・・だからオマエら、何のブームなんだ。全然進歩してねぇじゃねぇか」 「「「あっ、ゲンマさん、おかえりなさいv 進歩してるよ〜? 本体はド〜コだv」」」 靴を脱いでいるゲンマに、わらわらと群がる。 「此処にはいねぇな。寝室か?」 達を掻き分けて寝室のドアを開けると、やはり達が踊っている。 「ハドコダ。イッパイイルゾ。デモオマエニナンカヤラン」 九官鳥が叫んでいた。 「・・・いねぇな?」 煩ぇ、と鳥かごを指で弾く。 「「「え〜、ゲンマさん、何で分かるの〜?」」」 「ア〜アイノチカラダ」 わざと棒読みで呟く。 「「「え、ナニナニ?」」」 「気にすんな」 ゲンマは意識を集中して、のチャクラを辿った。 そしておもむろにトイレのドアを開ける。 「や〜ん、見つかっちゃった」 「・・・オマエな、確かに本体1人で作れとは言ったが、トイレで作るな。ホントに愛情込めて作ってんのか?」 ゲンマは眉を寄せて、の頬を両手でむにっと抓った。 「いひゃい〜。でももう殆ど完成したモン!」 じゃ〜ん、とはゲンマ人形を本人に見せた。 「へぇ。結構似てんな。あとは何が必要なんだ?」 つんつん、とゲンマは自分をつつく。 「えへ。あのね、髪の毛ちょっと頂戴v チャクラ込めてv」 言われるままに、ゲンマは髪を数本抜き、チャクラを込めた。 「ほい。人形の中に入れんのか?」 「うんv 本人ぎゅってしてるみたいなんだv」 は髪の毛を受け取ると、トイレを出て、寝室に戻った。 ゲンマに背を向けて、何やらちくちく縫っていた。 「出来た〜! あとはね、千本刺すだけなんだけど、お人形に穴開けるの嫌で〜。本人に了承もらってからって思って〜。ゲンマさんが刺してv 要らないんなら、これで完成だけど」 「ん〜まぁ、ガキの頃からのトレードマークだしな」 「一応、口の周りはほつれたり壊れないようにしてあるんだけど」 「じゃ、刺そう。本物そのまま刺すのか?」 「ううん。危ないし。半分くらいに短くして、触って切らないように、ヤスリかけたの。コレ」 「どれどれ・・・」 ゲンマは面白そうに、ぶすっとミニ千本を自分に刺した。 「わ〜い! 完成〜! やった〜v」 は嬉しそうに、きゅ、と人形を抱きしめた。 それを見て、ゲンマは満足する。 「名前どうしよっかな〜。カカシせんせぇはカ〜君だし、ゲンマさんはどうしよっかな〜」 「何でもいいよ、んなの」 「じゃ、フツーにゲンマ君v」 「・・・カカシに呼ばれてるみて〜だからやめてくれ」 「え〜? じゃ、ちょっと気取って、不知火君v」 「九官鳥みて〜だからヤメロ」 「何でもいいんじゃないのぉ? も〜。ん〜と、じゃ、ゲン兄でv」 「・・・もう何でもいい・・・」 わらわらいる達が、ワイワイと覗き込んでくる。 「あのね〜、私も作ったんだよv ちっちゃいゲンマさんv」 「あ、実は私も〜v」 「アレ、皆も〜?」 「私はカカシせんせぇ作ってた〜」 「私は両方v」 影分身の達が、沢山の小さなマスコット人形を見せた。 「・・・そんなにいっぱいどうする気だ」 ゲンマはげんなりと息を吐く。 「「「私がつけるのv」」」 「ったく、鬱陶しいな。消えろ!」 ゲンマはもう何度目になるのか、達を消した。 「「「「「あ〜ん・・・」」」」」 大量のマスコット人形を残し、消えていく。 「ゲンマさん、鬱陶しいってヒドイ〜! 私のこと嫌い?」 ぷく、と残された本体のが膨れる。 「だから言っただろうが。本体のオマエだけいりゃ充分だって」 人形を抱えるを抱き上げ、ベッドに座る。 「さっき言ってたア〜アイの血殻だって何?」 「・・・オマエは中忍試験の前に国語ちゃんと勉強しろ」 分かって欲しくもあり気付かれないでいて欲しくもあり、ゲンマは複雑だった。 「え、外国語なまりとかある?」 「・・・も、いい・・・」 はぁ、とゲンマは息を吐いた。 「よっし、お人形も出来たし、ごはん食べよ〜。冷めちゃったね」 はカカシ人形の隣にゲンマ人形を並べ、仲良し風に寄り添わせ、ニコ、と満足そうに微笑んだ。 「・・・すると思った・・・頼むから、それだけはやめてくれ」 ゲンマは直ぐさま引き離し、端と端に座らせた。 「何で〜? カカシせんせぇとゲンマさんが仲良くしてくれますように、ってお願いしながら作ってたのに〜」 「いい年した大の大人が仲良くなんて気持ち悪ィんだよ。今後またくっつけて並べたらオレはオマエの兄貴をやめるからな」 「え〜それはヤだ〜。も〜・・・」 ぷく、とは膨れた。 夕食後、ゲンマは一旦隣の自宅に戻って入浴を済ませ、乾いた洗濯物を取り込んでたたみ、洗濯機を予約セットして、再びの部屋に戻ってきた。 恐る恐る寝室を開けたら、は1人で、ベッドを背に、読書に夢中だったので安堵する。 つい先日買ったばかりの、イチャバイに読み耽っている。 ゲンマは隣に腰を下ろし、自分の人形を弄んでいた。 本当によく似ていて、ミニチュアゲンマだった。 小さい頃を知っている人間が見れば、恐らく大笑いされる。 省エネだ何だと文句は言ったが、丁寧に作られていて、何となく嬉しかった。 自分の読む小説は持ってこなかったので、人形をいじくり回しながら、イチャバイを覗き込む。 イチャパラは読まされたがイチャバイは読んでいない為、覗いているのも新鮮だった。 は夢中で、相当のめり込んでハマッているのが見ていて分かる。 何処にそんなに共鳴するのだろう、と、この辺りの感覚が、がゲンマではなくカカシを選んでいるフィーリングなのだろう、と気が付いた。 いつか訊いてみたい。 10年余り前、戦争時、暗部に所属していたゲンマはカカシと共にいて、一緒に木の葉に戻ろうとしていた。 お互い重傷で、足取りも覚束無かった。 あの時、何故はカカシを選んだのだろう。 共に瀕死の状態だったのに、何故自分ではなくカカシを選んだのだろう。 は、“ずっと声が聞こえていた”と言っていた。 その当時が同じ状況下でも、背負う過去の重さの違いか、と思う。 カカシの重すぎる過去に、は共鳴したのか。 の宿命も重すぎる。 重なった偶然。 必然の再会。 「やっぱり・・・それが運命だったのか・・・?」 ふと呟く。 「どしたの?」 読み終わったが、不思議そうにゲンマを覗き込んでいた。 「いや、何でもない。オマエが中忍になったら、お祝いで飲みに行こう。大勢誘ってな」 その言葉に、はぱぁっと明るくなる。 「うん! 頑張る!」 家に戻れば2人になれるので、大勢が大好きなには、そう言った方が喜ばれることを熟知していた。 人形を枕元に戻すと、を抱え上げ、ベッドに降ろした。 ちゅ、と唇を重ねる。 「ね〜ゲンマさん」 しがみつくが、甘い声でゲンマを見つめていた。 「何だ」 「ゲンマさんは、カカシせんせぇと間接チューは嫌?」 「間接キスか? 別に気にしねぇよ、それくれ〜」 お構いなしに再び唇に触れ、押し倒していく。 「あ、シーツ替えてない。ちょっと待って」 「そんなのいいよ。明日にしろ」 待たされるよりが欲しくて、の身体に舌を這わせる。 「でも〜、汚れてたらヤでしょ? ゆ〜べカカシせんせぇと訓練したし」 「いいって。気にしねぇよ」 ゲンマはもう止まらなくなり、を求めた。 「でも、カカシせんせぇは嫌だって言うんだよね。間接チューは嫌〜とか、シーツ替えて〜って」 「そんなのいちいち気にしてて、オマエを・・・きでいられるか」 おっとマズイ、とゲンマは口を手で覆う。 思わず、“好き”と言いそうだった。 「え? 何?」 「自分の赤ンボが汚物まみれでも母親は気にしねぇだろ? それと同じだ。汚れてるとかいないとかで、嫌がりはしねぇよ」 ゲンマは益々を求めた。 「そっか〜。やっぱりゲンマさんは流石私のお兄ちゃんだよねv カカシせんせぇみたいに煩くないしv 心広いな〜v」 きゅ、と嬉しそうにしがみつく。 「カカシは心狭いから、オマエを縛るからな。オレはそんなことしねぇから。カカシなんて気にすんな」 いっそ忘れろ、と心の中で思う。 その時、にジ〜ッと見つめられていることに気が付き、ゲンマは行為を止めて顔を上げた。 「何だ?」 「あのね、カカシせんせぇがゆってたよ。ゲンマさんがカカシせんせぇのことを呼び捨てにする時はやましいことをしてるから、言うこと聞いちゃ駄目って」 そう来たか、とゲンマは息を吐く。 「んなんじゃね〜よ。カカシもずっと言ってただろ? 呼び捨てタメ口でって。カカシは、体よく口実を作って、オマエを縛り付けようとしてんだよ。自分以外見るなって。だから気にすんな」 ちゅ、と唇を塞ぐ。 「そっか、そうだよね。私も、悪いコトじゃないって思ってたから。でも、カカシせんせぇって何であんなに煩いのかなぁ。嫌いとかは言わないけど、窮屈で嫌だよ」 ぷく、とは口を尖らせる。 「自分以外にフラフラされんのが嫌なんだろ? カカシとのお付き合いってのも、考え直した方がいいかもな。オマエの判断に任せるけどよ」 あくまで、ゲンマは自分では否定しなかった。 「ん〜、当分会えないっぽいから、じっくり考えてみるよ。でも、今は中忍試験のことの方が大事だし、プライベートはオヤスミ! 試験頑張る!」 にぱ、とは笑った。 それを見て、ゲンマは気付かれないようにほくそ笑む。 「オレが驚くくれ〜の成長ぶり見せろよ?」 「モッチロン! 勝者・! ってね!」 ゲンマの声真似をして、ニッコリ微笑んだ。 それを見てゲンマは柔らかく微笑み、頬を撫でた。 「うずまきナルトみてぇに、影分身使って盆踊りか?」 「も〜、盆踊りじゃないよ! 体術の修行って言ったでしょ!」 「獅子連弾とかには見えなかったぜ?」 「だから修行してるの〜! 螺旋丸はナルト君とガマ仙人さんに教わって出来たから、今度は雷切出来るように頑張るんだv」 「・・・イヤ雷切は無理だろ、オマエには・・・」 「え〜、やっぱり無理〜?」 「アレは写輪眼も必要だし・・・って、オマエも似たようなこと出来るんだっけな。でも無理だよ。やめとけ」 「ちぇ〜」 ぷく、とは膨れてしょんぼりした。 「4代目の遺した螺旋丸が出来るんなら充分だろ?」 「もっとガマ仙人さんに高等忍術教わるんだった〜」 「カカシから充分教わってんだろ? 千以上の術をコピーしてきたカカシの半分は教わったって言ったじゃねぇか」 「でも〜、カカシせんせぇの知らない、ガマ仙人さんが知ってる術とか〜、あと例えばゲンマさんみたいに、千本ピュって出来ないし〜・・・」 「・・・イキナリ次元の違う話題もってくんな。高等忍術とオレの千本吹くのを並べんな。オレがみっともねぇだろ」 「あ、そうだ、ガマ仙人さんにね、ゲンマさんを頼むって言われたの」 「オレはオマエを頼むと言われたが?」 「私もそっちだと思ったんだけど、そうじゃなくて、やっぱりゲンマさんを頼むって。そうそう、ゲンマさん、いつガマ仙人さんと呑んだの? 私も一緒したかった〜」 「あ〜・・・オマエが任務でいない時にな。誘われて、ちっと呑んだだけだ。あの人に何か言われたのか? オレのこと」 変なコトを言ってないだろうな、とゲンマは鼓動が逸る。 「何だかよく分かんなかったけど、ゲンマさんがフビンだから頼むって。ゲンマさん、相談事があるんなら私聞くよ? いつも聞いてもらってばかりだし」 じ、と大きな黒玉がゲンマを見つめた。 「別にねぇよ。・・・まぁ、気が向いたら、そのうちな」 ポンポン、と頭を撫でて横に寝転がった。 「相談事も出来ない程、私って頼りない?」 「んなんじゃね〜よ。今はまだ時期じゃねぇだけだ。オマエは今は中忍試験だけ考えてろ。大切なこの時期に、オマエの脳味噌を絡ませたりはしねぇよ」 「ん〜・・・」 「もう寝ろ。休める時は、ゆっくり休め」 そう言って、ゲンマはの隣で目を閉じた。 「は〜い」 は立ち上がって、寝室の灯りを消した。 もぞもぞ、とベッドに潜り込み、ゲンマにしがみつく。 「オヤスミv 今日もカカシせんせぇの夢見れますようにv」 「〜〜〜っ、だからオレにしがみついて他の男のことを考えんなっつってんだろ」 ゲンマは低い声で吐き捨て、の頬をむに、と抓る。 「いひゃい〜。じゃあ、3人で仲良しこよししてる夢v オヤスミ〜v」 は直ぐさま寝息を立てた。 「ったく・・・」 時期が時期だけに、一緒にいることを拒絶されるよりはいいか、とゲンマは諦め、眠りに就いたのだった。 それから数日、は、昼間はアケビらと修行、夕方からサクラといのとお料理教室、と、忙しいながらも充実した日々を過ごした。 サクラといのは、カカシ人形はいじめるのにゲンマ人形には何もしないのは何故だろう、とは不思議がっていた。 「何か殴りたくなる顔してる人っているじゃない?」 と暴言を吐くいのに、は膨れた。 「可愛さ余って憎さ百倍、ってヤツよ」 サクラの言葉も、今イチフォローになっていなかった。 ゲンマの帰りが遅いので、女同士の秘密話は、女同士の修行と化した。 の、くの一としてのレベルの高さにいのは歯を食い縛り、理想とする医療忍者の姿に重なるに、サクラは対抗心を燃やし、なにくそ、と2人は頑張っていた。 は楽しくて、試験の始まる日が楽しみだった。 ある日、はアケビに呼び出された。 待ち合わせ場所に行くと、アケビの他にアスマがいて、いのとチョウジもやってきた。 何事か、と下忍3人はキョトンとする。 「な〜に〜? このメンツで修行でもするのぉ?」 「何でシカマルいないの? いのと2人だけ?」 「ウチの小隊の2人は?」 「あのな、状況を察しろ、オマエら」 ヤレヤレ、とアスマは燻らせていた煙草の煙を吐いた。 アケビは片手に1枚、アスマは2枚、紙を3人の前に提示した。 見覚えのある用紙に、あ、と納得した。 「夏に続いて、オマエらを中忍試験に推薦した」 「は初めてね」 「で、受験する気があるのなら、この受験票にサインして、明日の夕方16時までに、アカデミーの301教室に来い」 「分かってると思うけど、スリーマンセルでないと、受験は出来ないわ。それでこの受験の為の仮のスリーマンセルが、アナタ達3人ってコト。OK?」 いのはアケビの言葉を最後まで聞かずに、盛り上がった。 「やっるわよ〜! サクラモチより先に中忍になるんだからぁ!」 3人は盛り上がって、ワイワイと甘栗甘に向かった。 残されたアスマとアケビは息を吐いて、顔を見合わせる。 「ホントに大変さを理解してるのかしら、あのコ達・・・」 「ま、あの夏を経験してるからな。浮かれているようでも、分かっているさ」 「そうね・・・」 他の里の忍び達もチラホラ見掛けるようになった。 今回の試験はどうなるだろう、とアスマとアケビは人生色々に向かった。 「シカマルがいないからどうなるやらって思ってたけど、さんが一緒なら楽勝よね〜♪ 夏みたいなコトにはならないだろうし、頑張るわよ〜!」 「うん・・・もうあんなのはヤだな・・・」 「そうね。でも、今の私達は、目の前のことでいっぱいよ。余計なことは考えないようにしなきゃ」 寂しさを堪えながら、いのは微笑む。 「まずは腹ごしらえしなきゃね〜」 「全く! アンタってば食い気ばっかりね! 足引っ張らないでよ?!」 「まぁまぁ。栗ぜんざい食べようよ。クリーム白玉あんみつも捨てがたいけど」 いっぱい食べたら太っちゃうよね〜、とワイワイと甘栗甘までやってきた。 ふと足が止まる。 砂の3兄弟が向こうから歩いてくるのが見えた。 向こうも此方に気付いたようだった。 一触即発になるのか、6人は黙したまま、歩み寄っていったのだった。 冬の薄い空は、突き抜けるように高かった。 |