【出会いはいつも運命の気まぐれ】 第十一章







 木の葉に夏がやってきた。

 が中忍になって半年、また中忍試験の季節到来である。

 試験開始を来週に控え、木の葉の里に、多くの他里の忍び達が行き交い、携わる忍び達は、忙しなく動き回っていた。

 任務明けのカカシは、人生色々での待機はせず、少し慰霊碑の前で過ごすと、夕暮れ時、アカデミーに向かう。

 一番奥の、不知火の執務室の前までやってきて、ドアをノックした。

 ハーイ、との甘い声が帰ってきて、カカシはウキウキと中に入る。

「モシモ〜シ・・・お邪魔しま〜す・・・」

 ひょこ、と覗くと、が机で何やら書き物をしていた。

「・・・?」

 一生懸命執筆をしているに、仕事の邪魔かな、と思いつつ、ひょこひょこと近づく。

 人の気配に、ふとは顔を上げた。

「あ、カカシせんせぇv 久し振り〜v お誕生日会以来だねっ」

 にぱ、とは笑い、書き物の手を止める。

「ゲンマ君は?」

「ん〜? ゲンマさんは、任務に出てるよ。ホラ、来週から中忍試験始まるでしょ? 皆そっちで忙しいから、ゲンマさんは通常任務を請け負って、あちこち飛び交ってるの。あんまり会えなくてツマンナイ。でもカカシせんせぇに会えて嬉しいv」

 しゅんと口を尖らせた後、ニコ、と笑う。

「じゃあは、不知火の執務、1人でやってるの?」

 が、座って、と椅子を勧めるので、カカシは腰を下ろした。

「うん。大体覚えたし、ゲンマさんの太鼓判も押してもらったから、綱手様が、任せてくれたの」

 立ち上がって、は2人分のお茶を煎れる。

「へー。じゃあ、もうすっかり一人前じゃないの。不知火の執務を任されるって、凄いことだよ。まだ半年くらいなのに、何だか見違えるなぁ」

 の差し出す湯飲みを受け取り、カカシは口布を下げた。

 ひと月ほど前に会った頃より、は随分としっかりして見えた。

「えへへ。そう? もっともっと頑張って、早くカカシせんせぇと一緒に任務に行けるようになりたいな」

 嬉しそうに笑うに、カカシは自分のことを考えてくれることに舞い上がりそうになる。

「っ、、もうすぐ上がりの時間だろ? オレと・・・」

「あ、早く書かなくっちゃ」

 はお茶を含むと、また書き物を再開した。

「忙しいの? オレ手伝えることある?」

「ううん。今日のお仕事はもう終わってるよ。お手紙書いてるの」

「手紙? 誰に?」

「カ〜君」

「え、カ〜君って、弟の?」

 お茶を含みながら、の手元に目をやるが、書いている文字は、さっぱり読めなかった。

 の故郷の言語なのか、と気付く。

「うん。私のお誕生日のパーティーする時にもお手紙書いて、招待状送ったんだけど、忙しいから行けない、ってお返事来たから。だから、来月ゲンマさんのお誕生日でしょ? 今度こそ来てもらえないかな〜って、招待状書いてるんだ」

「送ったって・・・返事って・・・どうやって?」

「・・・ん! 書けた! よっし、行ってこようっと♪」

 くるくると巻いて、筒に入れ、は立ち上がった。

「行くって、何処へ行くの、

「お手紙出しにv 鍵かけるから、カカシせんせぇも出て」

「あ、うん」

 こくこくとお茶を飲み干すを見て、カカシも飲み干す。

 は机周りを片付け、奥の書庫に鍵が掛かっていることを確認すると、執務室を出た。

 執務室に鍵を掛けると、隣の特別上忍執務室に顔を出し、お先に失礼しま〜す、と挨拶をして、るんるんとアカデミーを出て行く。

、一体何処に・・・」

 バッと跳び上がったは、北東に向かって駆けていった。

 それを訳が分からないまま、カカシは追い掛けていく。

 がどんどん里の外れに向かっていくのを追い掛けていて、ハッと思い出した。

 里の北東の外れ。

 古くから神隠しのあると伝えられる場所。

 鬱蒼とした森の中、駆けていきながら、カカシは邂逅する。

 十年余り前、紅い髪の少女、つまり神であったと会った場所、時空の歪みがあったとされた場所が、此処だった、と。

 その後幾度も戦争があったというのに、変わっていないような気がした。

「え〜と・・・」

 森の中に降り立ったは、歩きながら、辺りを見渡す。

 ふと、カカシは額当てを上げ、写輪眼を発動した。

 が見渡す辺りに、空間が歪んでいる場所を見つけた。

「この辺か。よ〜し・・・」

 は右腕の腕輪を顔の前にかざして、念じた。

 カカシの目にも、ハッキリと映った。

 空間が大きく歪み、口を開けたのを。

 そこには、持っていた巻物の筒をかざす。

 筒はずぶずぶと空間に飲み込まれていき、ぱぁっと光ると、ふっと消えた。

「よし、投函完了! いいお返事送ってね〜v」

 手を合わせて念じると、にぱ、とは笑った。

「投函って・・・此処はポストじゃないと思うけど・・・」

 カカシが呆れたようにそう言うと、は地面に膝を突き、白い紙を置いた。

 何を始めるのか、と眺めていると、何やら術式を書いていった。

「それ・・・口寄せ? にしては何か・・・」

 少し変わった術式を書き終えると、は歪みのあった近くの木の根元に紙を貼り付けた。

、返事ってどうやって来るの?」

「あのね、カ〜君がお返事書いたら、またココの歪み伝ってくるの。それがこっちに来ると、この術式が反応して、契約してる忍鳥が私のトコまで運んできてくれるの」

「な、成程・・・便利だね」

 中忍試験の時の、影分身と影真似の融合と言い、の発想は面白いな、と思う。

 それを実現させられるだけの能力があるということが、一番なのだが。

 いわゆる時空間忍術のようなモノか、と四代目をふと思い出した。

「よっし、今日はコレで終わり! カカシせんせぇ、一緒にゴハン食べようよv」

「あ、うん」

 よし、今夜こそめくるめくイチャパラへ、とカカシは鼓動が逸る。















 商店街で買い物をして、カカシはと共に、のアパートに向かった。

 久し振りのの手料理ということよりも、もはやその先のイチャパラで、カカシの脳内は妄想で浮かれていた。

 ゲンマは任務に出ていていない。

 絶好のチャンスだ、とカカシはウキウキと歩いていた。















 久し振りにやってきたの部屋は、また一段とメルヘン度が増していた。

 この部屋でゲンマはと一緒に寝ているのか、と思うと、嫉妬よりも、ムズムズしないかな、という方が先に感じた。

「カカシジャマ、カエレカエレ」

 九官鳥がバサバサと、カカシが入ってくるなり騒いだ。

「も〜、はたけ君、せっかくカカシせんせぇが来たのに、冷たいこと言わないでよ〜」

「オレが贈った九官鳥なのに、何でそういうことばっかり言うかな・・・ゲンマ君がいいように調教してるんじゃないの? 鳥使いなんだし」

 あからさまに嫌そうに、カカシは言い捨てる。

「ゲンマさんにも同じ感じだよ? カカシせんせぇが遠隔操作してるんじゃ、ってよく言ってるモン。でも私1人だと、可愛いこと言ってくれるんだよv」

 はカカシ人形とゲンマ人形を抱きしめ、ただいまv と言って抱きしめたままベッドに腰を下ろす。

 枕元には、沢山の写真立てが置かれていた。

 中忍になってからカカシと撮ったツーショットもある。

 が、置かれ方が何だかやたらと偏っているというか、ゲンマとの写真がバ〜ンと中心に居座っているのは、きっとゲンマがそう置いているのだろう。

「よし、ゴハン作るねv ちょっと待ってて」

 人形を仲良く並べて置くと、は額当てを取り、台所に向かった。

「っ、、オレ、夕飯より先にが・・・ッ」

 追い掛けると、支度を始めたを背後から抱きしめる。

「すぐ出来るから待っててよ〜。はたけ君に言葉教えててv」

 も〜、と抱擁から逃れ、はパタパタと進めていく。

 仕方なくカカシは寝室に戻り、自分の人形を抱き上げ、鳥籠の置かれた机の椅子に腰掛ける。

・・・愛してるよ・・・オレ、が欲しい・・・の全部が・・・」

 人形を抱き、九官鳥に向かって、ぽつりぽつりと呟いた。















 いい匂いが台所から漂ってくると、カカシは人形を鳥籠の傍らに置き、台所を覗く。

 フリルのついた白いエプロンをつけて台所に立つの後ろ姿に、カカシはむくむくと身体の奥が疼いていった。

 きゅ、と背後から抱きしめる。

「もうすぐ出来るから、もちょっと待ってて。カカシせんせぇ、火傷するよ?」

 顔を上げて伺ってくるに、カカシは首筋に顔を埋める。

・・・愛し・・・」

 求めだしたその時。

 玄関のドアががちゃりと開いた。

 びくっとして見遣ると、入ってきたのは、飄々としたゲンマだった。

「あ、ゲンマさんおかえりv イイトコに帰ってきたねv もうすぐゴハン出来るよ」

 カカシから離れ、とてとてとゲンマの元に向かい、はにぱっと笑った。

「おぅ、ただいま。って、カカシ上忍、いらしてたんですか」

 ゲンマはの頭を撫で、ちゅ、と唇に触れると顔を上げ、カカシを見遣る。

「ゲンマ君・・・任務で飛び交ってて忙しいんじゃなかったの?」

 めくるめくイチャパラの夢が崩れ去ったことに、カカシは気を落とす。

 自分もまだとキスをしていないことに気付き、先を越され、愕然とした。

「一段落ついたトコですよ。長期任務じゃなくて、数をこなしているだけですから、里にはマメに帰ってきてますから」

 そう言うと、ゲンマは額当てを取り、ベストを脱ぎ、椅子に掛けると、腰を下ろした。

「ゲンマさん、今日は時間あるの?」

「メシ食ったら報告書を書くからまだ手は空かねぇよ。腹減ったから取り敢えず帰ってきただけだ。オマエはサクラと修行だろ?」

「え? サクラ? 修行?」

 ゲンマが忙しい、と分かって浮上しかけたカカシだったが、肩すかしを食らった気分だった。

「うん。あのね、サクラちゃんが今回中忍試験受けるから、毎晩修行してるんだv カカシせんせぇも一緒しようよv」

「え、あ、いや、オレは・・・」

「今は下忍担当をしていないカカシ上忍は、オレと同じで、任務が忙しい。ですよね? カカシ上忍」

 カカシが言い淀んでいると、ゲンマがよく通る声で、言い放った。

「そっかぁ。ちぇー。でもゴハンは一緒に食べられるんだよね? 出来たから、食べよv」

 ゲンマに寸断されたことに、カカシは気付く。

 がっくりしながら、に促されるまま、ベストを脱ぎ、口布を下げて食卓に着いた。

「いっただっきまーすv」

 久し振りの3人一緒の食事に、はご機嫌で食べた。

 カカシはしょんぼりとしてぼそぼそ食べ始めたが、久し振りのの手料理は美味しくて、心の奥がほんのりと温かくなった。

「あ、ゲンマさん、カ〜君にお手紙出したから、ゲンマさんのお誕生日に来てくれるといいんだけど」

「ん? あぁ、そうだな」

 任務明けで空腹のゲンマは、ガツガツと食べながら、気のない風に相槌を返す。

「って、ゲンマ君の誕生日の為にはるばる来させるの? の誕生日なら分かるけど」

「え〜? だって、ゲンマさんは私のお兄ちゃんだし。カ〜君にも紹介したいな〜って。それで何日か滞在してもらって、里を案内したりしたいし。私はココで頑張ってるよ〜って」

 モグモグと食べながら、はニコ、と笑う。

「神様にそんな時間あるの? 国を出ちゃマズイんじゃなかった?」

「それはダイジョブだよ〜。前の私が制御装置つけてたみたいにすればいいから、悪い人達に見つからないようにしてやってくるんだよ」

 腕輪とか冠とか首輪とか、とは自分の腕輪と首輪を指す。

「大変だなぁ・・・そりゃまぁ、オレも会ってみたいとは思うけど・・・」

「えへへ。カカシせんせぇには、一番に会って欲しいなv カ〜君にはカカシせんせぇの写真見せたんだけど、顔が殆ど隠れてて分からない、って言ってたから、カ〜君にもまずカカシせんせぇに会わせたいし。お互い顔合わせたらビックリするかな。楽しみ〜♪」

「ビックリ? 何で?」

 茄子の味噌汁を啜りながら、カカシは尋ねた。

「アレ? 言ったよね? カカシせんせぇとカ〜君、そっくりだって」

「あ、あぁ、そう言えば・・・いくつだっけ?」

「ん〜と、今は11歳くらいかな」

「そんな子供とそっくりって言われても、何かなぁ・・・」

 何処が似てるんだろう、と考え込む。

「でも、カカシせんせぇのオウチにある子供の頃の写真とか、そっくりだよ? 毎日見てたから、国で初めて会った時、スッゴイビックリしたモン」

「へ〜・・・確かに、世の中には自分にそっくりな人間は3人はいるって言うけど、あろうことか神様にそっくりって、アリなの?」

 オレそんなご大層な人間じゃないと思うけど、とカカシには俄に信じがたかった。

 カカシとのやりとりを眺めていたゲンマは、思う所があるように思慮するが、食べ終わると、食器を流しに片付けた。

「ゴチソーサン。、サクラ待ってるんじゃねぇか?」

「あ、そうだった」

 ニコニコと嬉しそうに弟の話をしていたは、ハッと思い出し、慌てて食べた。

「じゃ、オレは一旦ウチに戻る。修行頑張れ」

 ゲンマはベストと額当てを引っ掛け、出て行った。

 一旦って、寝る時には戻ってくるということなのか、とカカシは面白くない。

 が煎れてくれたお茶を含みながら、洗い物をしている後ろ姿を眺め、考える。

、サクラとの修行終わったら、オレまた来て・・・」

 口を開いたその時、流しの上の窓に、小鳥が留まった。

 ゲンマとの契約忍鳥ではない。

「あ、カカシせんせぇ、任務じゃないの?」

 自分の元に来たと分かり、カカシはがっくり項垂れる。

 と、全然イチャパラが出来ていないままだ。

「早く行か・・・」

「〜〜っ、、キスしていい?」

「ん? うん」

 カカシは立ち上がり、の元まで行くときゅっと抱きしめ、唇を重ねる。

「ん・・・っ」

 深く口づけ、会えなかった日々を埋めるように、貪り求めた。

 きゅ、としがみついてくるに、その温もりに、カカシは離れたくない、と思った。

 が、小鳥がチチッ、と催促するように鳴く。

 未練を断ち切るように、ぎゅっと抱きしめると、名残惜しそうに離れた。

「カカシせんせぇ、気を付けてねv」

 にぱ、とは太陽のように笑う。

「・・・うん。じゃ。も、仕事頑張って」

「いってらっしゃ〜い!」

 忍び装束を調えて出て行くカカシを見送ると、は洗い物を終え、部屋で外した額当てを巻き直す。

「よっし、修行頑張るぞ☆」

 は毎日が満ち足りていて、輝いていた。























 中忍試験が始まると、携わる忍び達は一層慌ただしくなり、変わらず舞い込む通常執務と任務を請け負っているゲンマやも、同じように忙しい日々だった。

 ゲンマは任務に出て、が執務を行っており、大役を任されることには張り切っていたが、毎日そわそわと、窓の外を眺めていた。

「まだ来ないのかなぁ・・・」

 夕暮れ時、今日の分の執務を終えたは、窓の外を眺めていると廊下が騒がしく、何事か、と顔を覗かせると、第2の試験が終了し、本戦出場者が決定したということだった。

「皆も帰ってくるよねっ。お迎えに行こうっと」















 演習場から帰還したサクラ達を出迎えると、は連れ立って甘栗甘に向かった。

 いのやシカマルらは任務に出ており、本戦出場決定したサクラ達とお茶で乾杯する。

 あんみつやぜんざいを食べながら、ワイワイと語らった。

「イノブタには負けていられないモンね。さんに弟子入りしてるんでしょ? 医療忍術の方はどう?」

 白玉を口に放り込んで、サクラは尋ねる。

「だいぶ形になってきてるよ。いのちゃん筋がいいから、飲み込み早いし。サクラちゃんに負けていられない、ってやっぱり頑張ってるよ」

 白玉クリームあんみつを食べた後に栗ぜんざいを注文しながら、は答えた。

 ニコニコと嬉しそうに話していると、契約忍鳥のヤツキが飛んできて、の肩に留まった。

「時空郵便で〜す」

「あ!」

 ころり、と巻物の筒がテーブルに転がる。

 はドキドキと巻物を開く。

 ふむふむと読んでいくうちに、ぱぁっと笑顔になった。

さん? どうしたの?」

「ワ〜〜〜イ!!!」

 は立ち上がって万歳した。

「ねぇっ、皆、本戦まで修行で忙しいだろうけど、17日のゲンマさんのお誕生日、パーティーするから来れたら来てね!」

「ゲンマさんの? 一日くらいいいけど、ゲンマさんはさんと2人っきりの方がいいんじゃないの?」

 お茶を啜りながら、サクラは言い放つ。

「あのね、私の弟のカ〜君が、木の葉に来てくれるの! 私のお誕生日の時来れなかったけど、今度は来れるって! 皆に紹介したいから、ね?」

「カ〜君? 弟って・・・神様なんでしょ? 今は。会ってみたいかも」

「スッゴイ可愛いんだよ〜v わ〜、楽しみ〜〜〜v 今からドキドキしてるよ〜v 早く来ないかな〜〜〜」

 立ったままそわそわと、は動き回る。

「あっ、ゲンマさん帰ってきてるかな?! 知らせてこなくっちゃ! お勘定済ませておくから、帰るね〜!」

 はバタバタと皆の勘定を払うと、ぴゅ〜っと飛び出していった。















 任務斡旋所に向かうと、報告書を提出したゲンマが出てきた所だった。

 はぱぁっと笑顔で、手紙を手に駆け寄る。

「ゲンマさ〜ん! カ〜君来れるって!」

 ホラ、とはゲンマに手紙を見せた。

「ホラって・・・読めねぇっつの。いつ来れるって?」

「まだ正確には決まってないけど、お誕生日の前には来れるようにするって。あ〜、早く来ないかな〜〜〜」

 は落ち着かず、足踏みをしながらくるくる回った。

「コラ、あんま浮かれんじゃねぇ。仕事を疎かにするなよ?」

 呆れたように息を吐きながらも、クスリと笑うと、ゲンマはポンポンとの頭に触れた。

「あ、うん。カ〜君も時間作れるように頑張ってるから、私も頑張らなきゃ! でも楽しみだよ〜〜〜v」

 こんなに嬉しそうなは、初めて見るかも知れない。

 カカシに会えた時よりも嬉しそうだ。

 それを含みを持ってゲンマは見つめる。

 の弟・カイト。

 その存在の意味する所は。

 ゲンマの憶測は、自身ですら、きっと知らない。

 出来うれば当たって欲しくない、そう思いながら、と共に執務室に向かった。



























 忙しい毎日は、あっという間に過ぎていった。

 本戦までまだ日はあると言っても、それに伴う準備に、里中が追われていた。

 不知火の執務も関わりがあるので、はめまぐるしく働いていた。

 火影室の綱手に機密文書を届けに行き、進行状況を説明する。

「やっぱり執務に携わる人間が増えると効率がいいねぇ。前回よりスムーズに運んでいるよ」

「えへへ。ゲンマさんの代わりを務められるよう、精一杯頑張りますv」

「ゲンマと言えば、誕生日に国の弟を呼んでいるんだってね。時間がある時にでも、挨拶させてくれないか」

「あ、勿論ですv もうそろそろ来ると思いますけど」

「神も仏も信じちゃいないけど、実際会うとなったら、信じざるを得ないのかねぇ」

「でも〜、神様と言っても、人間ですよ? 人の姿を借りて降臨してるっていうことですから。ただちょっと色んな能力がある、人間ですよv」

 私もそうだし、とは言い放つ。

「ま、火影と言っても私だって普通の人間だしね。そういうものか。じゃ、会えるのを楽しみにしてるよ」

「ハイv じゃ、失礼しますv」

 はウキウキとスキップしながら、火影室を出てアカデミーに向かった。

 フンフン鼻歌交じりにスキップしていると、何かの波動に共鳴して、ピタ、と立ち止まる。

「・・・あ!」

 はぱぁっと顔を輝かせ、跳び上がって駆けていった。





















 逸る鼓動を抑えながら、一駆け、二駆け、里の外れに向かって、駆けていく。

 段々強まっていく共鳴。

 もうすぐ、会える。

 鬱蒼とした森の中に降り立つと、ドキドキしながら共鳴に近づいていく。

 歪んだ空間が光を放っていた。

 光は段々、人の姿になっていく。

 そして、現れた人物は。

「カ〜君っ!!! 久し振り〜〜〜っ!!!」

 逆立った銀色の髪に意志を持った紅い瞳。

 ゆっくりと一歩踏み出すと、に抱きしめられた。

「っておい、苦しいっ! 離せよ!」

 照れくさそうに頬を染めながら、声変わり前の少年は藻掻く。

「離せコラ!」

 えぃ、と押しのけ、少年・カイトはの熱い抱擁から逃れた。

「えへへ、久し振りv 会えて嬉しいv カ〜君、背ェ伸びたねv 顔つきも大人っぽくなった感じv」

 は嬉しそうにまじまじとカイトを眺めた。

「でも、まだより背ェ低い。嫌いな牛乳飲んでるのによ〜・・・」

 まだを見上げる身長差に、面白くなさそうにカイトは口を尖らせる。

「これからもっと伸びるよv 今は伸び盛りだよv」

 にぱっと太陽のように笑うに、カイトは眩しくて、照れくさそうに頬を染めた。

「もう夕方だから、ん〜、里の案内は明日からにするね! 晩ゴハン、腕振るうよ! カ〜君の好きなモノいっぱい作るねv」

「こっちは夕方か。オレ朝飯食って出てきたんだけど」

 鬱蒼と緑の茂る森の中で、時間の感覚がなかったカイトは、ふと隙間の空を見上げる。

「お買い物もまだだし、作ってる間に時間経っちゃうよ。行こv」

 はご機嫌で、カイトの腕を引っ張る。

「私について来てねv 商店街に行くから〜」

 そう言うと、はダッと駆け出した。

「ったく・・・変わんねぇなぁ・・・」

 呆れたように息を吐くと、カイトも駆け出す。

 少しの間共に過ごした時に教え、その後、国で元うちはの人間に教わって、カイトはいわゆる忍者走りは出来たので、の後をついて行けた。

 最初はずっとの背中を見つめていたが、森を抜けて視界が開けると、カイトは木の葉を一望した。

『へぇ・・・思ってたより広いな・・・』

 屋根の上を駆けていきながら、あちこち見渡す。

 に成り代わって神の座に就いてから、あらゆる国の文化を学んだつもりだが、忍びの世界は、隠れ里というだけあって、多分知らないことの方が多いんだろうな、と思いつつ、異文化を体験出来るのは、実は楽しみだったりしていた。

 物珍しさにキョロキョロしながら、里の中心部に向かっていく。

「カ〜君、降りるよ〜」

 に促されて降り立つと、そこは沢山の店が並んだ、商店街だった。

 かつてがしていたように、時々コッソリ宮殿を抜け出して街に出掛けた時を思い出し、活気がいいのは国や文化が違っても同じだな、と思った。

「ココはね、私がいつも買い物してる南商店街だよ。オウチの近くなの。カ〜君、何食べたい?」

「何って言われても・・・まだそんな腹減ってねぇし、の得意な料理でいいよ。国にいた頃作ってくれたようなヤツとか」

 がニッコリしながら手を繋ごうとするので、カイトは照れくさそうにきゅっと握り返した。

 温かくて、柔らかい。

「じゃ〜まず八百屋ね! それからお魚屋さん!」

 手を繋いで、はるんるんと嬉しそうに歩いた。

「おばさ〜ん、カボチャ頂戴v イイトコね! それから大根と〜、ジャガイモと〜・・・」

 八百屋に来ると、はいかにも常連です、といった風に会話していた。

 店主がふとカイトを見遣る。

「おやちゃん、その男のコは誰だい? 下忍教育を始めた・・・訳じゃなさそうだけど」

「あ、えへへ。私の故郷から来てくれた、弟ですv 私はココで頑張っているよ〜って、木の葉を見て欲しくて。もうすぐゲンマさんのお誕生日だから、パーティーに併せて、何日か滞在してもらうんで、ヨロシクお願いしますv」

「そうか、そういえばどことなく似ているねぇ。坊や、名前は?」

 “坊や”という言われ方が面白くなかったが、我慢して口を開く。

「・・・カイト。ヨロシクオネガイシマス」

「そうかい、此方こそ、宜しく。キミのお姉さんには、いつもお世話になっているよ。じゃ、人参はオマケするよ。ほうれん草はどうだい」

「ん〜と〜・・・」

「げー。草なんか食えるか」

「あはは。ゲンマさんも食べないからなぁ」

 楽しく会話して、店を後にし、その後もあちこちの店で同じことを繰り返し、どっさり買い込みながら、荷物を持つカイトは、は随分と人々に愛されているな、と思った。

 国でも愛され親しまれていたが、木の葉に来てまだ幾時も経たないのに、此処でも同じく愛されていることを感じ、カイトは胸がほんのり温かくなる。

「じゃ、オウチ帰ろっか。カ〜君は他に何か欲しいものある? 何処か寄ってく?」

「ん〜、別に・・・って、あ、そういや、着替えとか持ってきてねぇ。何日いるか分からねぇのに、着の身着のまま来ちまった」

「あ、それならちゃんと用意してるよv 下着とかパジャマとか歯ブラシとか、大体の物は買っといたから。お洋服も買ってあるし。ホントは、カ〜君とお買い物したかったんだけど、待ってる間そわそわしていても経ってもいられなくって、衝動買いしちゃった」

「あ〜そ。じゃ、別にねぇよ。もちっと過ごしてみねぇと、何が欲しいとか思いつかねぇし」

「帰る時にはお土産いっぱい買おうねv ずっといて欲しいけど、無理だもんね・・・」

 切なそうに微笑むに、カイトは頬を染めて目を逸らす。

「・・・時間作ってたまに来るよ。それで我慢してくれ」

「ホント?! ワ〜イ!!」

 はご機嫌で鼻歌交じりに、アパートに向かった。



















「このアパートだよ〜。一番上の一番奥。隣がゲンマさんなの」

 階段を上り、玄関前まで来て、鍵を開けた。

「えへへ。いらっしゃいませ〜v」

 入るなり、どこもかしこもファンシーな室内に、予想はしていたが、カイトは思わずひくっとした。

「そこが寝室で、隣が娯楽部屋。ゴハン作ってる間、テレビ観てる? 本とかは、奥の仕事部屋にあるから、寛ぐなり、好きにしてて。出来たら呼ぶから」

 はパタパタ動きながら、食材を出していく。

 額当てを外して寝室に置きに行ったので、何の気無しに、ひょこ、とカイトも覗くが、思わず肩をズリ落とす。

「何なんだ、このメルヘンランドな部屋は・・・;」

 ひくひくと引きつりながら、の思考回路がメルヘンなのは理解していたつもりだが、モノには限度がある、と思う。

「あ、写真見てv こっちがカカシせんせぇで、こっちがゲンマさん。早く紹介したいな」

 はベッドサイドで手招きして、カイトを呼び寄せる。

「だから顔殆ど見えてねぇじゃんかよ・・・似てるのって、髪の色だけじゃねぇの?」

 含み顔をしつつ、カイトはカカシとのツーショットの写真を覗き込む。

「そんなことないよー? 額当てと口布とってもらえば、分かるよー。カ〜君の喋り方は、ゲンマさんに似てるよねー」

「人相ワリー。このオッサンが保護者なのかよ。どっちも何か胡散臭ぇな」

「胡散臭くないよー! ゲンマさんはお兄ちゃん代わりの人なの! 上司でもあって、優しくて厳しいんだよ。色んなこといっぱい教わってるんだよ」

 オッサンじゃないよ、とはぷく、と膨れる。

「冗談だって。人は見た目じゃねぇって分かっ・・・」

 口を開くカイトは、何やら視線を感じた。

 九官鳥が、初めて見る顔に、じっと見つめてバサバサ羽ばたく。

「ダレダオマエ。ナヲナノレ!」

「何だこの九官鳥。口寄せの鳥って普通に人語喋るって言ってなかったか?」

「あ、このコはね、はたけ君って言って、カカシせんせぇがくれたの。普通の九官鳥だから、忍鳥とは違うんだよ。はたけ君、私の弟のカ〜君だよv 仲良くしてねv」

「カ〜クン? ニンギョウカ?」

「は? 人形?」

「あ、このカカシせんせぇのお人形がね、カ〜君っていう名前なの。こっちのゲンマさんのお人形は、ゲン兄っていうの。ぎゅってすると、元気をくれるんだよv」

 ホラ、とはベッドの上の人形を抱いて、カイトに見せる。

「いい年してお人形ごっこしてんなよな・・・」

 呆れつつも、似てる似てないはともかく、裁縫も上手に出来るんだな、などと思った。

「あ、はたけ君にちゃんと紹介しなきゃ。弟のカイト君ですv 可愛いでしょv」

「男が可愛い言われて嬉しいか」

 カイトは眉を寄せ、口を尖らせて吐き捨てる。

「オマエナマイキ、オトナニナレヨ」

「何だこのクソ鳥・・・! 焼き鳥になりてぇか?!」

「ギャー、オーボーオーボー、ドウブツギャクタイ!」

「も〜、喧嘩しちゃダメ〜。って、ゴハン作るんだった。仲良くしててね〜」

 思い出したように、は人形をベッドに置くと、パタパタと出て行った。

「ったく・・・喧嘩とか仲良くとか、鳥となんて薄ら寒ィ・・・」

 毒づきながら、あ、と我に返る。

「神様が種族差別しちゃダメか・・・まだまだ出来てねぇな、オレは」

 は天然なだけではなく、真性の神なのだ、と気付く。

「万物を愛せよ、か・・・」

 この里へ来たのも、自ら理想する神であろうとする為に、その理想であると過ごして、学び取ろうと思ったからだった。

 の誕生日会の時に来なかったのは、の本来の誕生日ではないので、忙しいのを理由にして、断った。

「そんな拘ることでもねぇけどさ・・・でも、何か淋しいよな・・・って、ガキじゃあるまいし、やめやめ!」

 ふるふると頭を振って、カイトは気持ちを切り替え、寝室を出た。

 台所で、が鼻歌交じりに調理しているのを見遣る。

「あ、カ〜君、出来るまでテレビでも観てて。この時間はニュースばっかりだけど」

 カイトに気付き、は振り返って微笑む。

「ん〜? ん〜・・・」

 テレビよりも、を見ていたい。

 生返事で、カイトは娯楽部屋には行かず、食卓の椅子に腰を下ろした。

「それより、オレに会わせたいって2人とか、今日来れんの?」

「あ、そっか。カカシせんせぇもゲンマさんも任務に出てるよね。帰ってこれるかなぁ。人生色々に寄って訊いてくるんだった」

 しまった、とは調理の手を止める。

「口寄せの鳥ってヤツで、いつ帰ってくるのか訊けねぇの?」

「ん〜、任務中だから、プライベートなことで邪魔は出来ないよ」

「そうじゃなくて、斡旋所とかってトコに、の代わりに行ってこさせるとか」

 それくれーのこと出来るんだろ? とカイトは言い放つ。

「あ、そっか。オボロさんに頼んじゃお」

 は指先を歯で噛んで、血を滲ませると、印を結んだ。

「口寄せの術!」

 ポン、と橙色の鳥が現れる。

「オイコラ、オレは任務の途中なんだよ。忙しいんだよ、何の用だ」

 バサバサと羽ばたくオボロは、不機嫌そうに吐き捨てる。

「ありゃ、ゴメンナサイ。ゲンマさんとか、いつ帰ってこれるのかな〜って」

「何だこの鳥、口悪ィ・・・」

 胡散臭そうに、カイトはオボロを見遣る。

「ん? コイツか? ゲンマの誕生日に呼んだオマエの弟って。確かにカカシのガキの頃にそっくりだな。って、くっちゃべってる暇はねぇ。ゲンマが戻ってこれんのは、早くても夜中だ。カカシは知らねぇよ。んじゃな」

 カイトを見遣って言い放つと、オボロはポンッと消えた。

「あ〜ん、ゲンマさんが任務中なんだから、オボロさんだって忙しいよね。悪いコトしちゃった。そっか、夜中か・・・ん〜、早く会わせたかったけど、仕方ないよね。今日は2人でいっぱいお喋りしようねv」

 は申し訳なさそうな顔をした後、ニコ、と笑い、調理に戻った。

「お仕事の仲間の人達や、お友達とか、紹介したい人がいっぱいいるんだよね〜。あ、綱手様も時間のある時にご挨拶したいって」

 調理をしながら、は歌うように話す。

「ツナデ? あ〜・・・ココで一番偉いっつ〜・・・火影って言うんだっけ」

「うん。木の葉の里長。医療忍術のスペシャリストなんだよ」

「ふ〜ん。オレだって治癒能力くらい、前より出来るようになってるっての」

 頬杖をついて、カイトは口を尖らせ吐き捨てる。

「でも医療忍術は奥が深いよ〜? 仕事部屋にある本読んでみてねv カ〜君はもっと出来るようになると思うんだ〜」

 ふんふん鼻歌交じりに、は調理を進めていった。

「ん〜、もちょっとかかるから、テレビ観てて〜。出来たら呼ぶから」

 暫く一緒にいられるのだから、寸暇を惜しむ必要はない、とカイトは立ち上がる。

 娯楽部屋とやらに入り、やはりファンシーな室内にムズムズしながら、ぐるり眺めた。

 テレビの上には、10代の少年少女幾人かと一緒の写真があった。

「友達ってヤツか・・・」

 真ん中で幸せそうに笑っている

 手に取り、カイトは複雑な思いで、見つめる。

 そっと置き、娯楽部屋を出て、隣の仕事部屋を覗く。

 予想外に、ファンシーさが全くない。

 いかにも執務室、といった感じだ。

 公私はキッチリ分けているんだな、と気付く。

 本棚に、沢山の書物があった。

 興味を惹かれるモノが多く、適当に取ってパラパラ捲った。

















 どれくらい時が経っただろう。

「カ〜く〜ん、ゴハン出来たよ〜。カ〜君〜?」

 パタパタとはドアを開ける。

「あ、いた。本読んでたの?」

「ん〜? うん・・・」

 カイトは黙々と本を読んでいた。

「ゴハン出来たから、食べよv 続きは後でね」

 が腕を引っ張るので、カイトは本を閉じて棚に戻す。

「あらかた読んだからいいよ」

「そぉ? じゃ、明日は里を案内するねv」

 いい匂いが鼻をつく。

 程良く腹も空いてきていた。

「仕事はいいのかよ。今忙しいんじゃなかったか?」

「あ、うん。お仕事始める前の朝早くとお昼休みと、後は頑張って終わらせて、夕方案内するv」

 どうぞ、とは椅子を勧める。

 カイトはマントを外し、背もたれにかけ、腰を下ろした。

「いっぱい食べてねv いっただっきまーすv」

「イタダキマース」

 はご機嫌で、ニコニコと食べていた。

 国にいた頃、何度か手料理を食べたが、宮廷付きの料理人はプロだというのに、の作る方が美味しいと感じるのは何故だろう、と思う。

「木の葉の郷土料理いっぱい覚えたから、色んな味覚楽しんでね、カ〜君」

「あ〜うん」

 カイトがもりもり食べてくれるのが嬉しくて、はご機嫌だ。

 国のことなどを聞きながら、思いを馳せる。

「そっか、クレハさんトコのコノハちゃん、もう歩けるんだ〜。赤ん坊の成長って早いね〜」

「オレのこと見て、“あ〜としゃ”って。“カイト様”って皆が言ってるからだろうけど、結構言葉も早いと思う」

 モグモグ食べながら、言い放つ。

「あ〜ん、会いに行きたいな〜。でも、忙しくて当分無理だよ〜。中忍試験終わったら時間とれるかなぁ?」

「無理すんなって。忍びとして一人前になるんだろ? ホントはオレだって、もっといっぱしになるまで会わないつもりだったんだからよ」

「えーん、お互い忙しいね〜」

「だから、こうやって来たからには、じっくり観て、はこうやって頑張ってるってのを、皆に知らせるから」

 食べる手を止め、じっとを見据える。

「あ、写真ってお互い全然持ってないよね?! 一緒に撮ろうねv それを皆に見せてv」

「・・・本来の姿で撮れねぇの? 国のヤツらにとっちゃ、は紅い髪に紅い瞳なんだし」

 今のは、強大な力を封じている為、黒髪に黒い瞳だ。

「木の葉の里のは、黒い髪と黒い瞳だよ。ココではコレが私なの」

 きっぱり言い放つに、カイトは一抹の寂しさを覚えた。

「そうかも知れねぇけどよ〜・・・」

「カ〜君、私はもう神様じゃないんだよ。カ〜君が神様でしょ? ただ人になれって背中を押してくれたのは、カ〜君じゃない」

 真摯なの瞳に、自分が子供じみた焼き餅を焼いていることに気付く。

「そ・・・」

「あ〜っ、カ〜君人参残しちゃダメだよ! ちゃんと食べなきゃ!」

 カイトの器の不自然に人参が残っているのを見て、は膨れる。

「や、箸が勝手に除けるんだよ」

「も〜〜〜」

 多分、はカイトの気持ちに気付いた。

 でも、それは応えられないこと。

 故に強引に話題をすり替えたのだろう。

 カイトは、ふぅ、と息を吐くと、人参にぶすっと箸を刺して、目を瞑って口に放り込んだ。

 ワイワイと賑やかに、2人は団欒を楽しんだ。



















 近況報告があらかた済み、ふと時計を見ると、だいぶ夜が更けていることに気付く。

「結構話してたね。明日も朝は早いし、お風呂入って寝よv」

「ん〜、オレまだ眠くな・・・って、言っとくけど、一緒には入らねぇぞ」

「えーーーっ!!!」

「えーじゃねぇ! テメェいくつだ!」

 やっぱり、とカイトは呆れ返る。

「背中流しっこしたかったのに〜」

「1人で入るからな。着替えどこ」

「ちぇー」

 ぶちぶちと、はしょんぼりと寝室にカイトの着替えを取りに行く。

 手渡された下着とパジャマは、至って普通の少年モノだったので、安堵する。

 湯船に浸かっていると、ガラ、と戸が開く。

「カ〜君、シャワーの使い方分か・・・」

「だから開けんじゃねぇ! それくれ〜分かるっての!」

「背中流すよ〜」

 細く空けた隙間から、は言い放つ。

「要らねぇっつの! ゆっくり入らせろ!」

 ったく、とカイトは湯を被って、はぁ、と息を吐く。

「根本は全然変わってねぇなぁ・・・」











 髪も濡れたまま出て行くと、は目に付く所にいなかった。

 わしゃわしゃとタオルで髪を拭きながらダイニングの椅子に腰を下ろす。

「あ、カ〜君上がった? 冷蔵庫の、好きなの飲んでいいよ〜」

 着替えを手に、が寝室から出てくる。

「ドライヤーココ置いとくねv すぐ上がるから〜」

 脱衣所にあったドライヤーをテーブルの上に置き、は風呂に入った。

 取り敢えずカイトは冷蔵庫の牛乳パックを取り出し、ラッパ飲みした。

「何か味薄いな」

 普段飲んでいるものとは違う味に新鮮さを感じながら、冷蔵庫に戻すと、ドライヤーを手に娯楽部屋に入る。

 適当にテレビをつけて、髪を乾かした。

 深夜バラエティを観るでもなしにぼ〜っとしていると、が上がってきた。

「お待たせ〜♪」

「ってフツーのパジャマ着ろ! フツーの!」

 夏故に、はシースルーのセクシーなネグリジェを身にまとっていた。

 カイトは目のやり場に困り、頬を染めて顔を逸らす。

「ゲンマさんが買ってくれたお気に入りなんだよー」

 娯楽部屋のソファに座って、は髪を乾かした。

「ソイツ・・・むっつりスケベとかじゃねぇだろうな。国で見た写真も露出多かったし」

「あ、アレはカカシせんせぇが買ってくれた中で一番のお気に入りだよv 今はもう滅多に着ないけど・・・」

「・・・スケベ親父ばっかりじゃねぇか」

 ボソ、とに聞こえない程度に呟く。

「よし、カ〜君、寝よv」

 はドライヤーを戻し、寝室に向かう。

 ドレッサーの前で、化粧水等で肌を調え、髪をとかす。

「って、オレどこで寝ればいいんだよ」

 このアパート内の部屋は全部見たが、ベッドがあるのはこの寝室のみ、1つだけ。

 カイトは嫌な予感がしながら、を見遣る。

「え? 一緒に寝るでしょ? 大きめのダブルベッドだから狭くないよ」

 きょとんとして、はさも当たり前のように言う。

「・・・オレ隣のソファで寝る」

 吐き捨ててくるり踵を返し、すたすたと出て行こうとしたら。

「えーーーっ!!! 何でぇ?! 一緒に寝ようよぉ!!!」

 きゃんきゃんと吠えられ、腕を引っ張られた。

「せっかく来てくれたのにー、別々はヤだー!」

 今にも泣き出しそうで、カイトは渋々折れた。

「分かったよ・・・一緒に寝りゃいいんだろ」

「わーい、良かった♪」

 にぱ、と笑うは、子供みたいだった。

「ったく・・・」

 ベッドに潜り込み、寝心地が良さそうなのを確かめていると、部屋の電気を消したが隣に潜り込んでくる。

「えへへ。嬉しいなv 明日は早起きだから、もう寝なきゃ。オヤスミv」

 ニッコリ笑うと、目を閉じ、はすぐさま寝息を立てた。

「早・・・おやすみ」

 時差もあってさほど眠くもなかったカイトだが、の隣は心地好くて、色々思考を巡らせていたが、いつしか寝入った。



























 深夜過ぎ、任務を終えて戻ってきたゲンマは、オボロからカイトが来たことを知らされ、取り敢えずのアパートに向かった。

 が、室内は暗い。

「流石に寝てるか・・・」

 額当てを外し、ベストの前をはだけ出せながら、鍵を開けて室内に入る。

 ダイニングに、ゲンマ用と思われる食事が用意されてあった。

“ゲンマさんへv 任務お疲れ様v カ〜君は明日紹介するねv 

 傍らに置かれていたメモを月明かりで読む。

 そ、と寝室のドアを開ける。

 忍び足でベッドに近づくと、膨らみが2つ。

 2人は仲睦まじく寝ていた。

 それを目を伏せて眺め、思慮しながら、寝室を出る。

「確かに・・・似てるな」

 ふと呟くと、食卓に着き、ゲンマの為に用意された食事を摂る。

 その献立で、得意料理を振る舞ったのが分かった。

 は、とても幸せそうな寝顔だった。

「ま、この世にたった1人の肉親だもんな・・・」

 ゲンマは、妹エルナと暮らしていた日々を思い出す。

 大切な、かけがえのない存在。

 自らを省みれば、の浮かれようも分かる。

 だが、ゲンマは素直にそれを喜べない、受け入れがたい。

「弟、か・・・」

 食事を平らげ、流しで食器を静かに洗い、メモをポケットに突っ込むと、玄関を出て、鍵を掛け、隣の自分の部屋に向かった。

「そういや、自分の部屋で寝るの、久し振りだな・・・」

 月の薄い光が、寂寥感を伴ってゲンマに降り注いでいた。

















大変ご無沙汰しておりまして・・・(滝汗)

新章突入です。
弟・カイト君を交えてのドタバタでしょうか。
第1部でも書きましたが、カイト君のビジュアルイメージは、
アンジェリークのゼフェル様です。