【出会いはいつも運命の気まぐれ】 第十章 春が近づき、柔らかな陽光が窓から射し込む。 ゲンマはの部屋で、久し振りにゆっくりと眠った。 腕の中の温もりを抱いて、寝息を立てる。 枕元には、写真立てが増えていた。 中忍昇格の記念のツーショットだ。 ゲンマ人形が抱く形で置いてあり、カカシ人形は、が寝た後にいつもゲンマが外を向かせていた。 中忍になったは、ゲンマの後継者となって、不知火の執務を覚えていく。 重要な責務には張り切り、共に過ごす時間が増えることにゲンマは内心喜んでいた。 ピピピピピ・・・ 目覚まし時計が鳴ったのを、は手探りで止め、もぞもぞと動き、ゲンマにしがみつき直す。 「ふにゅ・・・カカヒせんせぇ・・・」 の寝言に、ゲンマはぴくぴくと動き、眉を寄せて目を開ける。 「オイコラ。オレの腕の中で他の男の名前を呼ぶなって、何度言ったら分かるんだ」 低い声で、うに、との頬を軽くつねる。 「うにゅ・・・? ゲンマさん、オハヨー・・・」 むにむに、と目を擦ると、ちゅ、とゲンマが唇を重ねる。 「、テイソウマモレ、ゲンマニヤルナ」 九官鳥もバサバサと、籠の中で騒ぎ立てる。 「ったくこの馬鹿鳥は・・・カカシが遠隔操作してるんじゃねぇだろうな」 机の上の籠の中の九官鳥を睨み付けると、ゲンマは頭を掻いて、ベッドから起きた。 が朝食の支度をしている間は、ゲンマはいつも基礎トレーニングをしていた。 「ゲンマさん、朝ゴハン出来たよーv」 中忍試験が終わって、ようやく日常が戻ってきた、そう思う。 一緒に食べる朝食の時間が嬉しくて、はニコニコ食べていた。 「カカ」 「一通り覚えるまで、自由な時間はほとんど無いと思え。覚えてもらうものは膨大だ。暫くみっちり行くぞ。カカシと一緒に過ごすのも我慢しろよ」 が口を開いたのに、ゲンマは先手を打って言い含める。 「はーい・・・一緒にゴハン食べたいなー」 モグモグ食べながら、はしゅんとする。 「オレがいるだろうが」 「でもー、カカシせんせぇも一緒がいいよー」 「近いうちに皆の都合合わせて、オマエの中忍昇格祝いをやってやる。それで我慢しろ」 パ〜ッとな、とゲンマは言い放つ。 それを聞いて、はぱぁっと明るくなる。 「ホント?! わーい!!」 すっかりご機嫌になって、はニコニコと食べていった。 それから毎日、はゲンマの執務室にて、頭にたたき込む日々が続いた。 お弁当を作っていったので、昼食で外に出ることもない。 文字通り、一日中2人っきりだった。 は、ゲンマに窘められても、中忍ベストを着て、脱ごうとしなかった。 教え込んでいると、コンコン、とドアがノックされる。 「開いてるぜ」 「よぅ、不知火。どうよ? ってまた着てんのか、ソレ」 ライドウが様子を伺ってきた。 ベスト姿に苦笑する。 「あっ、ライドウさん! コンニチワv」 「何の用だ。くだらねぇお喋りなら、付き合ってる暇はねぇ」 コイツはだ、とゲンマは釘を刺す。 「冗談だって。5代目がお呼びだ。経過報告してこい」 「分かった。行くぞ、」 「ハーイv」 ゲンマとは、火影執務室に馳せ参じた。 「忙しいトコすまないね。どんな具合だい?」 手を組んで顎に当てて肘を突き、綱手は伺う。 誇らしげなベスト姿のに、綱手は苦笑する。 「は。の物覚えの良さは、かなりのものです。当初の予定より、短期間で倍以上覚えていっています。間もなくで、私がいなくても任せられる程です」 褒められたのが分かって、はご機嫌でニコニコしていた。 「そうか。暫くはその執務についてもらうが、追々、通常任務に戻ってもらう。ゲンマと同様、執務をこなしながら、請け負った任務を遂行していくようにな。忙しいだろうが、頼むぞ」 「はっ」 「ハイ!」 執務室まで戻ってくると、隣の特別上忍執務室が賑やかだった。 「何だろ?」 「あぁ、オマエの・・・」 ガラ、と開けると、ライドウやアオバ、アンコらが、話し合っていた。 「お、ゲンマと、いいトコに。の中忍昇格祝いだけどさ、明日辺りどうかって、皆で言ってたんだけど」 「殆どの連中の都合が付くのが明日くらいでな。酒酒屋借り切って、パ〜ッとやろうぜって」 「わーい! 有り難う御座いまーすv 嬉しいなっ♪ カカシせんせぇも大丈夫ですよねっ?」 にぱっと笑い、ウキウキした。 「あー多分ね」 ベスト脱ぎなって、とアンコは嘆息する。 「えー、多分って何ですか?」 虫で言えば触覚がしゅんとしたように、は不安顔になる。 「ちょうど任務に出ていてね、戻ってくるのが明日の予定なのよ。だから、いつもの遅刻君だと思えば、ね」 お汁粉を啜りながら、アンコは説明する。 「そっか、良かったー」 脱がないですーとは口を尖らせた。 「、毎日大変でしょ。疲れてない?」 「あ、いえ。色んなコト覚えるのが楽しくて、毎日楽しいですv 充実してるな〜って。カカシせんせぇに会えないのが淋しいですけど〜」 しゅんとして、口を尖らせつつも、毎日の楽しさでカバーしていた。 「ゲンマお兄ちゃんに良からぬお勉強教えられてねぇ?」 「ライドウ!」 「良からぬって? ゲンマさん厳しくって、ピッと気持ちが引き締まりますよv」 「ったく、あのな、仕事に私情持ち込むか。公私はキッチリ分けてるっつの」 「ってコトは、プライベートでは良からぬコトしてる訳だ? カカシに言ってやろ〜っと♪」 「言葉の綾だ。何もしてねぇって」 「ふふん。明日、に根掘り葉掘り訊いちゃおっと」 ほくそ笑むアンコに、ゲンマは頭を押さえて息を吐く。 翌日、陽が傾いてくると、はそわそわしだした。 「コラ、上の空だな。パーティー気分に浸るにゃ、まだ早ぇ。集中しろ」 「あ、ハーイ!」 いけないいけない、とは頭を振る。 「・・・で、この場合は・・・」 公私はキッチリ分けていると言ったゲンマ、確かに、仕事中は忍びの顔をしていた。 今までのように、いちゃつくことはしない。 もそれに引きずられるように、真面目に取り組んでいた。 夜。 酒酒屋には、大勢の忍びが集まっていた。 と面識がある忍びは殆ど来ていた。 が。 「ねーアンコさん、サクラちゃんとかは?」 きょろきょろ見渡すと、サクラやシカマルらがいなかった。 「あー、一応飲みの席だからね。未成年者は来てないわよ」 「えーっ! シカマル君とかともお話ししたかったのにー。砂の3人も帰っちゃったし、つまんないなー・・・」 はしゅんとして、口を尖らせる。 「これだけいりゃ充分だろ。ガキ共とは、改めて昼間遊べよ」 煙草を燻らせていたアスマが、な、と頭を撫でて宥めた。 「はーい。紅せんせぇはまだ?」 「任務で少し遅れるそうだ」 「じゃ、私アスマせんせぇの隣〜!」 気持ちを切り替えて、はアスマの隣に座り、ニコニコと腕にしがみつく。 「いいのかよ、主賓の隣がオレで。カカシはまだか」 「まだ任務から帰ってきてないみたいよ。一緒に修行見たんだから、アスマも上司でしょ」 向かいに座るアケビが、淡々と言い放つ。 「懐かれたな、アスマ」 反対側の隣に座るゲンマが、ニヤニヤ笑っていた。 「おいおい、オマエはベスト着なくていいってのに、脱げよ」 運ばれてきた酒を各自に回していると、コテツが呆れたように言い含める。 「ヤです〜。も〜、皆して、脱げ脱げって、スケベ〜!」 ぷくぅ、とは膨れている。 「お、コイツの口から聞くとは思わなかったな、“スケベ”なんて。どこから仕入れた知恵だ、ソレ」 酒を受け取るゲンマが、感嘆したように言い放つ。 「どうせテレビとかだろ」 「ん? うん。テレビ観てる時、オボロさんが言ってたよ」 「あのパンプキン鳥はロクなコト教えねぇな、ったく・・・」 何のテレビ観てたんだか、とゲンマは息を吐く。 「皆〜、酒行き渡ったか〜?」 幹事のライドウが、立ち上がって皆を伺う。 「じゃあ、の中忍昇格祝い、並びに不知火の執務後継者誕生に、カンパ〜イ!」 「「「「「カンパ〜イ!!!」」」」」 途端に賑やかになり、はご機嫌だ。 次々と酌を受け、グビグビと酒をあおった。 「有り難う御座いま〜すv」 1人1人とシッカリ話をして、激励され、応え、場はどんどん盛り上がっていく。 「で? ウチでゲンマとはどう過ごしてんの?」 アンコは好奇心一杯に問いただす。 「オウチでですか? 昼間覚えたことの復習と、各国の情勢とか、方々にアンテナ張るように、お勉強教わってますv」 注がれた酒をグビグビ飲みながら、は答えた。 「イチャパラしてないの?」 「ゲンマさんはオウチでも厳しいですv 覚えること一杯で、ちょっと寝不足です」 「ホントに何もされてないの? うっそぉ」 「あのな。だから言っただろうが、何もしてねぇって。不知火の執務の重要さはオマエらだって分かってるだろうが。私情挟んでる暇はねぇんだよ」 ったく、と眉を寄せながら、ゲンマは言い捨てる。 「へー。そりゃま重々承知してるけど、お勉強と称して、いかがわしいお勉強してるのかと思ってたのに。ツマンナイの」 あ〜ぁ、とアンコは自分の席に戻った。 「つまってたまるか」 ったく、と吐き捨て、ゲンマは酒をあおった。 いい具合に盛り上がって程良く酔っ払ってきた頃。 「「〜、何か一言〜!」」 コテツとイズモが、声を揃えてに向かった。 「ホラ、皆に礼を述べるなりしろ、」 ゲンマに促され、はその場に立つ。 「あ、ハイ! えっと、皆さん、一杯集まってくれて、有り難う御座いますv すっごく嬉しいですv これからも木の葉の為に、皆さんと頑張っていきますv ヨロシクお願いします!」 ペコ、と頭を下げると、皆がワッと盛り上がった。 はご機嫌で、最高の笑顔をしていた。 「アスマせんせぇ、ハイ、呑んでv」 はアスマに酌をしながら、ぱくぱく料理を食べた。 「おいおい、ゲンマに注ぐのと同じペースで寄越すなよ? オレはゲンマ程強くねぇんだからよ」 「主賓の酌を断るなよ? アスマ先生」 不敵に笑うゲンマは、の隣で酒をあおる。 「すっかり気に入られちゃってるわね、アスマ」 背後から、にゅ、とアンコがほろ酔い加減で覗いてくる。 「えへへ。アスマせんせぇって、温かくって、お父さんみたいだなって」 グビグビ酒をあおる瑞祢は、ご機嫌で言い放つ。 「お父・・・って、おい、あのなぁ、オレはオマエのアニキのゲンマより年下だぞ」 オマエとだって4つしか違わねぇ、とアスマは顔をしかめた。 「あはは、アンタ老けてるから」 けらけらとアンコは笑う。 「えーだってー、私お父さんとか知らないけど、いたらこんな感じかな〜って思うんだけど」 ごろにゃん、とはアスマに抱きつく。 「だからオレはオマエのアニキより年下だって・・・オマエとも4つしか違わねぇっつの。こんなデケェ娘いてたまるか」 くっつくな、カカシに殺される、とアスマは息を吐く。 「じゃ、ちっちゃかったらイイ?」 「あ?」 「変化!」 は、ポン、と小さな女のコに変化した。 「はは、そうきたか。3つくれぇか?」 面白そうに、ゲンマは笑う。 「ぱぱ〜、だっこv」 きゅう、とミニはアスマにシッカリしがみついた。 「何プレイだ、コラ。、ヤメロって・・・」 「もしかして、酔ってるの?」 向かいのアケビが、よじよじ上ろうとするミニを見ながら、ぽつり呟く。 「どうだかな。楽しくて、酒をコントロールするのを忘れてるかも知れねぇな」 「かなり呑まされてるしねぇ・・・」 アスマの慌てぶりを楽しみながら、ゲンマとアケビは酒をあおった。 「ふにゅ・・・ぱぱだいしゅきー・・・」 むにゅむにゅと、ミニは眠くなったのか、アスマに身を預けたまま、眠りに落ちた。 「お、おい・・・;」 「ココずっと、睡眠時間削って勉強してたからな。まだ慣れていない、疲れも来てるだろうよ」 「ふふ。誰かサンとの将来に備えて予習したら? アスマ」 「あのな・・・」 暫くすると、紅とカカシがやってきた。 「おっそ〜い! もう皆出来上がってるわよ!」 「はは、ゴメンゴメン。報告書に手間取っててね・・・って、は?」 「あら、妬けるわね」 「あ?」 紅が目を落とした先、アスマの腕の中には、変化が解かれたが気持ちよさそうに寝息を立てていた。 「ち、違う、これはその何だ、が酔っ払って、子供に変化して、パパ〜とか言われてて・・・;」 カカシと紅、どちらに見られてもまずいこの状況で、アスマは慌て、酔いも覚めた。 「が酔っ払った? うっそ。オレ酔ったトコなんて見たこと無いよ」 ゲンマの背後から、珍しいモノでも見るように、カカシは覗き込んだ。 「オレも初めて見ましたよ。まぁ色々な要素が重なって、気が弛んだんでしょう。ま、今夜は特別恩赦ですかね」 「そんなぁ、久し振りに会えたのに、つぶれてるなんて、アリィ?!」 「起こしますか。おい、起きろ」 アスマの腕の中から、ゲンマはを抱き寄せる。 「うにゅ・・・?」 「、もう一度、変化出来るか?」 「変化って、何をさせる気? ゲンマ君」 「ん。変化!」 虚ろな目で、は、ポン、と子供に変化した。 「ほ〜ら、。新しいパパだぞ」 そう言って、ゲンマはミニをカカシの前に出す。 「ぱぱ? だっこして〜v」 呆気にとられているカカシに、ミニはしがみついた。 「何プレイのつもり? ゲンマ・・・」 酒を注がれた紅が、呆れたように息を吐く。 「別に。酔っ払ったに不埒なことをしないように、予防線ってだけだ」 「それってカカシだけじゃなくてオマエだって何も出来ねぇじゃねぇか」 ようやく落ち着いてきたアスマは、煙草を燻らせる。 「オレは何もする気はねぇよ。今のは、オレの執務を覚えるのに夢中で、一生懸命だ。それにつけ込むのは卑怯だからな」 色々妄想しているのは誰にも分かりはしないのでいいだろう、などと心の中で思いつつ。 「・・・でも、毎晩一緒に寝てるんじゃないの?」 じと、とカカシはゲンマを見据えた。 「それはそれで、別ですよ」 しれっとして、ゲンマは酒をあおる。 「ず〜る〜い〜! オレ全然とイチャイチャ出来てないのに〜!」 「だからオレだって何もしてませんよ。オレのモットーは、“公平”ですから」 「またそうやって言いくるめようとして・・・」 ブチブチ文句するカカシに、ミニは構わずよじよじと上っていった。 「かかちてんてー、ちゅうしてv」 「ぇ」 ミニはよじ登ると、カカシの口布を下げた。 「良かったじゃないですか。は毎日毎日、アナタに会えなくてブチブチ言ってたんですから」 「・・・ゲンマ君、何げに余裕ぶっこいてない?」 「そんなつもりはありませんが」 しれっとして酒をあおる。 「いいよね〜、毎日一日中2人っきりなんだモン。ずるいよ〜」 「それは仕事ですよ。それをとやかく言われても困ります。がオレの執務の後継者になったのは、オレの一存じゃないんですから」 里の意向です、とゲンマは言い放つ。 「そうだけど〜・・・」 「かかちてんてー、ちゅうーv」 そう言って、ミニはカカシの頬にちゅっと触れる。 「普通口デショ、ちゃん・・・」 「ホラ、カカシせんせぇに酌しろ」 ゲンマはミニを引き剥がして座らせ、カカシにお猪口を持たせ、にお銚子を持たせようとした。 「かかちてんて、おしゃけのんでv」 ミニはニコニコと、カカシに酌をする。 椀子蕎麦のように、次々と注いでいく。 「もっともっとーv」 「ちびちびやってんな、まだ駆けつけ3杯いってねぇぞ」 ライドウが生中ジョッキを持って割り込んでくる。 紅はけろりとしていたが、カカシは皆に呑まされ、正体も覚束無くなってきた。 すっかり夜も更け、お開きにしようかという頃。 「かかちてんてはがおくってくのー」 子供姿のまま、はカカシを引っ張った。 一眠りした後なので、起きていられた。 「えんましゃん、きょうはがいはくちてもいい?」 「あぁ、変化は解くなよ」 「はーい。かかちてんて、かえろうよー。おうちとめてー」 「ん・・・」 「しゃんとたってー。あるける?」 足下の覚束無いカカシを引っ張って、は店を出た。 「いーあーはいちんりーまー!」 ご機嫌で歌を歌いながらとてとてと歩いていくミニの後を、カカシはふらつきながらついていった。 「たのちかったー。こんどはちかまるくんたちとやろうね、かかちてんてー」 ミニはニコニコと、スキップでカカシの家に向かう。 「おうちついたよー。かぎはぁ? あ、もってたー」 ごそごそとキーホルダーを探し、んしょ、と背伸びしたはアパートの鍵を開け、とてとてと中に入った。 「わーい、かかちてんてーのべっどー!」 ぴょ〜ん、とミニはベッドにダイブする。 「かかちてんてのにおいだぁ。ふにゅ・・・ねむい・・・」 そのまま、ミニは寝息を立てた。 思考の覚束無いカカシも、そのままベッドに倒れ込む。 「・・・愛してるよ・・・ずっと傍に・・・」 隣の小さな温もりを抱いて、カカシは眠った。 小鳥の囀りで、朝を感じ、カカシはもぞもぞ動いた。 腕の中に心地好い温もりがあって、きゅ、と抱きしめる。 「ん・・・・・・」 夢うつつでうっすら目を開けると、柔らかなモノを抱きしめているのに気付く。 『ん? か・・・? まさかな、夢だ・・・って、え?!』 ぱっちり目を開けると、確かにカカシが抱きしめていたのは、だった。 「アレ? 何でがいるんだ? 此処オレのウチだよな? は外泊しないって・・・」 「ふにゅ・・・」 頭の上をハテナマークが飛び交う中、もぞもぞ動くを見ていると、ドクンと鼓動が脈打った。 「ゆ、夢じゃないんだよな・・・? 本物、だよな・・・?」 むに、と頬をつねってみたが、確かに痛い。 つん、との頬に触れてみる。 久し振りの、の感触、の匂い。 鼓動が逸っていくカカシは、かぁっと胸の奥が熱くなっていくのを感じた。 すーすーと気持ちよさそうに寝息を立てているに馬乗りになって、逸る鼓動を抑えながら、そ、と頬を撫でてみる。 すべすべで、柔らかい。 つ、と指で唇をなぞる。 艶やかで瑞々しい。 「キ、キス・・・しちゃってイイ、かな・・・」 ドキドキしながら背を屈め、ちゅ、と唇を重ねた。 久し振りのとのキスは、何よりも甘美だった。 もっと求めようとしたら、がもぞもぞ動いた。 「ふにゅ・・・?」 うっすらと目を開けたは、夢の世界から抜け切れていないようだった。 「っ、? オ、オハヨ・・・」 そ、と顔を伺ってみると、むにむにと目を擦り、辺りを見渡した。 「アレ? ココ・・・」 懐かしい匂い。 「ココ、カカシせんせぇのオウチ・・・? アレ? 何で?」 虚ろな目で、きょろきょろ見渡す。 「、目ぇ覚めた?」 「あ、カカシせんせぇだv オハヨーv ねぇねぇ、何で私ココにいるの?」 顔を覗き込んでくるカカシに、にぱっと笑い、問い返す。 「それはオレが訊きたいんだけど・・・、昨夜のこと覚えてないの?」 馬乗り体勢のまま、カカシは尋ねる。 「? 昨夜? えーと、皆にお祝いしてもらって、すっごく楽しかったv でも、いつお開きになったの? カカシせんせぇ、酒酒屋来たの? 私覚えてないよー。何でー?」 ぷぅ、と膨れながら、は思考を巡らせていた。 「、ホントに酔っ払って記憶無いの? 嘘デショ・・・?」 も酔うんだ、とカカシは驚きを隠せない。 どんなに呑んでも、いつもけろりとしていたからだ。 「え、私、酔っ払ったの? 覚えてないって、そんなに呑んだ? アレ? でも私、酔ったこと無いから、酔うってどんな?」 うにゅ? とは首を傾げる。 「や、かなり呑まされたとは聞いてるけど・・・楽しくてタガが外れちゃったんだよ、きっと。ふわふわして、気持ちよかったデショ?」 「うんv お父さんに会ったよv 顔は覚えてないけど」 「それアスマかオレじゃ・・・にお父さんはいないデショ」 カカシが呟くと、はもぞもぞとカカシの馬乗りから抜け出して、ベッドの上にちょこんと座った。 「外泊しちゃって、ゲンマさんに怒られるかなぁ。一人前になるまで外泊しないって決めてたのにー」 「や、特別恩赦って言ってたような気がするから、いいんじゃない? ってことで、ちょこっとイチャパラなコトしない? っていうか、何でベスト着てるの。には必要ないデショ」 愛すると久し振りに2人きりで、カカシはもう脳内がぐちゃぐちゃになっていた。 「何で皆私には必要ないって言うのぉ?! 中忍になったんだから、着ていいでしょ?!」 ぷく、とは口を尖らせる。 「今回の試験で中忍になった忍びは、全員着る必要がないよ。それぞれに合う忍び装束がある。もそう。の魅力を最大限まで引き出して、尚かつ機能的にするには、ベストは必要ない。分かった?」 蕩々と説明しながら、カカシはベストを脱がしていく。 「えーでもー・・・」 は納得出来なくて、ブチブチと膨れていた。 「何もベストを着ていることだけが中忍の証じゃないよ。が持つ能力こそが、中忍たる証だ。現に、不知火の執務の後継者になっている。ゲンマ君も、中忍になって初めて、引き継いだんだよ」 分かった? とカカシはを伺う。 「・・・うん」 「じゃ、早速イチャパラしよう。せっかくオレのウチに来てくれてるんだし、ちょっとくらいいいデショ?」 そわそわと、カカシはベストを脱がせ、を押し倒す。 「そう言えば今何・・・んっ」 カカシはの唇を塞ぎ、濃厚に求めた。 自分の家にベッドの上で2人きりでいて、何もするなと言うのは無理な話だ。 ゲンマが何もしていないというのは、絶対嘘だ、と思う。 いい年をした健康な男が、好きな女と一緒にいて、何もしないでいられるなんて、どこの聖人君子だ、と思う。 確かに仕事中は公私を分けているだろうが、一緒に寝ていて何もしていない筈がない。 に詳しく突っ込めば、深い行為まで行かなくても、“ちゅうくらいならいつもしてるよv”とか言いそうだ。 が、今はそれに突っ込むより、が欲しかった。 唇を貪り求め、身体をまさぐる。 「ん・・・っ、ふぁ・・・」 名残惜しそうに唇から離れると、首筋に顔を埋め、舌を這わせる。 「ん・・・今何時・・・っ?」 カカシの求愛を受けながら、は時計を探した。 「まだ早いって・・・もちょっと・・・」 噛み付くように愛撫しながら、カカシは熱くを求める。 「何時・・・っ?」 「もう・・・っ、まだ7時にもなってないって・・・」 「えーっ!!!」 は突如声を上げ、カカシから逃れる。 「ちょ、・・・ッ」 「お仕事の前にゲンマさんと朝修行するのにっ! 早く帰ってシャワー浴びて朝ゴハン食べなきゃっ」 解けて床に落ちていた額当てを拾って握りしめ、脱がされたベストを抱え、は慌てて出て行った。 「カカシせんせぇ、またね〜〜〜っ!!!」 「ちょ、、待ってってば〜〜〜!!!」 カカシが慌てて追い掛けて玄関を出ても、既に見えなくなっていた。 ポツンと取り残されたカカシは、暫く呆然と突っ立っていた。 「何だよもう、ってば仕事に夢中でオレのことなんか忘れてるんじゃない? オレと一緒に任務するのが目標って言ってたのに、どんどんゲンマ君に近くなって行くじゃないか・・・」 ブチブチ言いながら、室内に戻り、浴室に向かった。 『・・・ま、オレ達は忍びなんだから、任務と執務が優先なのは分かってるけどさ・・・』 脱ぎ捨ててシャワーに打たれながら、目を伏せる。 『・・・の中に、ホントにオレはいるの・・・?』 しょうがないと割り切れる程、に対する気持ちは理性的には片付けられなかった。 「・・・愛してるよ・・・オレの傍にいてくれ・・・お願いだから・・・」 呟く祈りも、シャワーの打ち据える音に掻き消された。 1人淋しく朝食を作り食べていると、寝室の窓をつつく音がした。 「ん? 任務か? 急な依頼か?」 ふと覗くと、窓の外にいたのは、橙色の鳥。 「ゲンマ君の忍鳥? 何だ?」 ガラ、と窓を開けると、オボロは羽ばたいて室内に入り込んだ。 「侘びしいな、1人で朝飯か?」 相変わらずの口の悪さで、椅子の背もたれに留まって言い放つ。 「何の用? に振られたオレをからかいに来たのか?」 拗ねたように、カカシは呟く。 「違うって。に呼び出されて来たんだっつの」 「え・・・何?」 「慌てて戻ったからオマエとロクに話せなかった、ってしゅんとしててな。急な任務が無いようなら、昼飯一緒に食おうってよ。弁当作ってる余裕無かったから、外で、って」 勿論ゲンマも一緒だぜ、とオボロは付け加える。 「え、いいの? オレ一緒して」 「アスマ達との焼き肉に行かなかっただろ、オマエ。毎日毎日、“カカシせんせぇと一緒にゴハン食べたいなー”って耳タコなんだよ」 「毎日・・・?」 心の片隅どころか、ずっと多くを自分が占めていたと分かって、途端にカカシは気持ちが軽くなった。 「オレ・・・忘れられてる訳じゃなかったんだ・・・」 「オマエさ、もしかして気付いてねぇの?」 「え? 何を」 「オマエが贈った指輪、いつも大切そうに左の薬指に嵌めてるぜ? たまに元気なくなるんだけどよ、指輪に念じてパワー貰ってるって感じでさ。オマエに会えなくても、指輪があるから、って」 ほわ、とカカシの心は温かくなった。 「言ってるだろ、ゲンマのモットーは公平だって。確かには一日中ゲンマと一緒だ。でも、オマエの指輪も、もれなくと一日中一緒なんだよ。ゲンマに余裕なんざ全然ねぇって」 虚勢張ってるだけだ、とオボロは諭す。 「じゃ、オレは帰るぜ。試験を区切りにフィフティフィフティで再スタート切ったんだろうが」 そう言い残すと、オボロは飛び立った。 午前中を慰霊碑の前で過ごしたカカシは、幾分軽くなった足取りで、アカデミーに向かった。 ゲンマの執務室前で、軽く深呼吸すると、ノックした。 開いてるぜ、とゲンマの声がしたので、そ、とカカシは開けて覗き込む。 「お邪魔しま〜す・・・」 室内では、ゲンマはこちらを見ることなく、に何やら教えていた。 2人とも真剣な瞳でやりとりしており、邪推していた自分が恥ずかしくなった。 「あの〜・・・」 ひょこ、とお伺いを立てると、がこちらを見た。 「あ、カカシせんせぇv もうお昼? ゲンマさん、食べに行こうよ」 ぱぁっと笑顔になり、ゲンマの袖を引っ張る。 「ん、あぁ、もうそんな時間か。じゃ、午前の部はここまで。続きはまた後でな」 時計を見て、ゲンマは書類を片付けた。 「ハーイv」 も一緒に片付けて、揃って執務室を出て、鍵を掛ける。 はご機嫌で、鼻歌交じりに歩いていた。 「嬉しいなっ♪ 3人で食べるの、すっごく久し振りだよねっv」 踊るようにくるくると、はとても嬉しそうだった。 「そうだね・・・って、ゲンマ君、何でベスト脱がせないの」 ベスト姿のに、また着てるし、とカカシは息を吐く。 「酒酒屋で言ったでしょう。不埒なことをさせないようにですよ」 「・・・それって、“しないように”も含まれてるの?」 「さて。任務に出る時は脱ぐと言ってますから、里内くらいいいでしょう」 しれっと言い放つゲンマに、“公平”を意味してるのか、と、ゲンマの器の広さに、感動したりもした。 行きつけの定食屋で、焼き魚定食とカボチャの煮物を頼む。 「今日のお魚なんですか?」 「サンマですよ」 「やったv あ、おみそ汁の具は茄子でお願いしますv」 「かしこまりました。少々お待ち下さい」 「えへへ、嬉しいなv 久し振りに3人だし、元気の出る献立だしv」 ウキウキわくわくしているが、愛らしかった。 が望むなら、3人このまま一緒でも構わない・・・などとは決して思っていないカカシとゲンマだった。 が嬉しそうなので、取り敢えず飲み込んでおくことにした。 食事が運ばれてきて、はぱくぱく食べながら、本戦までの一ヶ月の修行を、2人に話して聞かせた。 皆との修行が余程楽しかったらしく、目を輝かせていた。 「でね、アスマせんせぇの教え方が、凄く楽しくて! 色んなコト教えてくれたよv」 モグモグと頬張りながら、はご機嫌で話した。 「あぁ、アスマは相手の気持ちを掴むの上手いからね・・・高見じゃなくて、相手のいるところまで降りてくるから、頭ごなしじゃないし、受け入れやすいデショ」 箸でサンマを摘みながら、カカシは呟く。 「うん。修行しているっていうか、遊んでるみたいだったv でもどんどん強くなってって、アスマせんせぇって凄いな〜って思ったよv」 「ホントに驚いたよ。ってば、オレと修行してた時と、天と地の差くらい強くなってるんだモン。オレのことも追い抜いてるんじゃないの?」 「えーそぉ? じゃあ、今度修行デートしようよv それで確かめてv」 「コラ。まだ自由になる時間はねぇぞ」 カボチャを頬張りながら、ゲンマは窘める。 「ちぇー。一日くらいダメ? 修行デートしたいー!」 「執務の重要さがまだ分かってねぇようだな、あぁ?」 ぶーぶー膨れるに、ゲンマは低い声で言い放つ。 「分かってるけどー。もっと身体も動かしたいー」 「それは朝修行やってるだろうが」 「でも短いし。鈍っちゃうよ」 ね? とは上目遣いに請うた。 「気持ちは汲んでやりてぇが、まだ暫くは時間は取れねぇ。出来たとしても、それは任務に出ることになる」 「えーっ。中忍になったら、自由な時間が増えるんじゃなかったの?」 「それは、オレの教えることが終わってからだ。まだ70%くれぇだ、も少し辛抱しろ」 「はーい・・・」 しゅんとして、はみそ汁を啜る。 そのとは裏腹に、カカシはご機嫌だった。 の中の自分の存在が、思っていたより比重が大きかったからだ。 こうして見ていると、とゲンマは、本当にただの師弟関係にしか見えない。 イチャパラは無いのでは、とさえ思えてくる。 はマイペースで我が道を行くから、同じようにゲンマも振り回されている、そんな気がして、心が軽くなった。 「じゃ、カカシせんせぇ、時間が出来たら、修行デートしようねv」 食べ終わって、道を歩きながら、先を行くはくるり振り返り、ニッコリ笑う。 「じゃ、それまでオレは任務に飛び交っているよ。も大変だろうけど、あんまり無理しない程度に頑張って」 「うん。雷切教えてねv」 「だからには無理だって・・・」 「えー、やってみなきゃ分かんないよー?」 ぷく、と膨れながら、はスキップで歌を歌いながら、アカデミーに向かった。 「ウィーアーファイティングドリーマー♪」 それを後から付いていきながら、ゲンマは隣を歩くカカシを見るでもなく、口を開いた。 「・・・今のには、どう画策しようと、色恋は頭にありません。中忍になったことで、忍びとして立派に一人前になることへの思いが、一層強くなっています。イチャイチャするより、精進したいんですよ。だから、オレも何もしていません。確かに一緒に寝ていますが、それ以上は何もしていませんから」 安心して下さい、そう言い残し、ゲンマはを追い掛ける。 今まで追い掛けられていたのが、逆になった。 2人の男が追い掛ける女の背中は、随分と頼もしく見えた。 カカシは息を吐き、瞬心の術で消えた。 追い抜かれないようにしなきゃな、と人生色々に向かったのだった。 冬が終わり、春の足音が近づいている。 が木の葉にやってきて、間もなく一年が経とうとしていた。 ホントに何プレイですか・・・(汗) いやでも楽しい♪ 子供ネタが好きなようで。 アスマが出張ってるのは追悼記念(涙) ずっとやりたかった。 紅に「あら妬けるわね」と言わせたくて。 作中の歌詞が全くうろ覚え・・・。 次章より、新展開(予定) |