【出会いはいつも運命の気まぐれ】 第九章 木の葉の里は、半年ぶりに賑わいを見せていた。 冬の中忍選抜試験・本戦が開催されるからである。 他里の忍びや諸国大名・貴族達、続々と試合観戦に集まっていた。 がいつもより早く起きると、ゲンマは既に出掛けた後だった。 「はたけ君、オハヨーv」 「、オハヨ、シケンガンバレ」 “元気の出る献立”の食事を作り、しっかりと食べる。 指輪をカカシ人形のベストにしまい、ゲンマ人形と併せて、ぎゅっと抱きしめる。 鏡を覗き込み、額当てをきゅっと結ぶ。 「うん・・・頑張る!」 は意気揚々と、試合会場に向かった。 「あっ、我愛羅く〜ん! オハヨーv」 会場に向かいながら次々とライバル達と合流し、ワイワイと受付を済ませると、ざわつく試合会場内に足を踏み入れた。 中央に、既にゲンマが待ち構えていた。 「ゲンマさ〜ん!」 はにぱっとゲンマに手を振るが、ゲンマは顔色一つ変えず、鋭い瞳で出場者達を見定めた。 「オラ、いつまでも浮かれてんじゃねぇ。シッカリ客に顔見せしとけ。この“本戦”、オマエらが主役なんだからな」 諫めるゲンマに、いっけない、とは舌を出し、気持ちを切り替え、観客席を見渡した。 「カカシせんせぇ・・・やっぱりまだ来てないか・・・」 カカシの姿を捜すに、観客達の視線が集まる。 「豊穣祈願祭で巫女役をしとった娘か・・・美しい・・・忍びにしておくのは勿体ない」 「か・・・かなりの手練れと聞いている。あのはたけカカシの愛弟子らしいぞ」 「五代目火影以上の医療忍術を使うとか」 口々に噂されているのを、アスマは面白そうに聞いていた。 「流石、人気モンだなぁ、は」 「カカシの愛弟子って、誰が流したのよ」 「間違ってるとも、間違ってないとも言えますよね。カカシ先生、思いっきり否定しそうだけど」 呆れる紅に、サクラも息を吐く。 「そのカカシは、相変わらず遅刻なのね。の晴れ舞台、間に合うのかしら」 周囲を見渡しながら客席の段を下りてきたアケビは、サクラの隣に座った。 「そうそう、さん、カカシ先生に修行見てもらうって言ってたのに、また1人で修行に行っちゃったんでしょ? ホントにもう、しょうがないわね」 「風影もいないし、1人じゃ淋しいねぇ・・・」 「5代目、そろそろ・・・」 櫓の天覧上にて、綱手の背後に控えていたライドウは、時間を伝えた。 「では、始めるとしようじゃないか・・・」 綱手は椅子から立ち上がり、すぅっと息を吸い込む。 「えー、皆様! この度は木の葉隠れ中忍選抜試験にお集まり頂き、誠に有り難う御座います! これより予選を通過した12名の、“本戦”試合を始めたいと思います! どうぞ最後まで、ご覧下さい!」 一瞬静まった場内が、わーっと歓声に包まれる。 それに呑まれることもなく堂々と胸を張るらに、ゲンマは説明をする。 「いいか、テメーら。これが最後の試験だ。ルールは一切無し。どちらか一方が死ぬか、負けを認めるまでだ。ただし、オレが勝負がついたと判断したら、そこで試合は止める。分かったな」 「ハーイ!」 だけが返事をして、あちゃ、と再び舌を出す。 「じゃあ、1回戦、第1試合、日向ヒナタ、山中いの。その2人だけ残して、他は会場外の控え室まで下がれ!」 「ハーイ。ヒナタちゃん、いのちゃん、頑張ってねv」 ファイト、とはニッコリ拳を握り、皆と揃って控え室に向かった。 第2試合、ネジVSテンテンが圧倒的の差でネジが勝利し、第3試合のシノVSカンクロウが始まろうという頃、カカシはのんびりと観客席に現れた。 「あっ、カカシ先生! やっと来たわ」 「や〜サクラ。オマエは出なかったんだったな。どう? 他の皆は」 「カカシ、おっそ〜い! の試合、次よ」 「あ、そう? 間に合って良かった」 控え室では、頭脳戦で辛くも勝利したいのが疲労困憊しているのを、は心配そうに眺めていた。 敗者であるヒナタは救護室で治療が受けられるが、いのは兵糧丸を口に出来るのみだった。 「いの〜、大丈夫?」 お菓子をバリバリ食べながら、チョウジが覗き込む。 「ヘーキヘーキ。2回戦のアンタとの試合までには、復活してるから」 「いのちゃん、お水。医療忍術で治せたらいいんだけど・・・」 「あ〜、私もサクラモチに負けないように、医療忍術の修行しようかなぁ。さん、試験終わったら弟子にしてよ」 「え〜? 教え方って、よく分かんないんだけど・・・頑張る」 「いのと試合かぁ・・・何かヤだな・・・」 「手の内知り尽くしてるモンね。やりにくいわよ。でも、誰相手だろうと、負ける気無いからね」 「でも〜・・・」 チョウジは躊躇していた。 「アスマせんせぇに、試験終わったら焼き肉に連れてってって言おうよ。だから頑張ろ? 精一杯やって、褒めてもらおうよ。お願いしてくるっ」 は観客席に向かった。 たたたと駆けてくる音にカカシが振り向くと、が愛らしい顔で近づいてくるのを目にし、カカシはぱぁっと喜んで、手を広げて受け入れ態勢を取った。 「・・・っ!」 久し振りの再会に、熱い抱擁をしようとを抱き留めようとしたら、はするりとカカシの脇をすり抜け、その奥のアスマに向かっていったのだった。 「?!」 愕然として振り返ると、はアスマにすがりついていた。 「アスマせんせぇ! 試験終わったら、頑張ったご褒美に焼き肉連れてって! 皆で!」 「・・・焼き肉って、そりゃ構わねぇが、財布に痛手を被る以上、それ相応の代価をもらわねぇとな」 煙草を指に挟み、煙を吐きながら、アスマは言い放つ。 「代価? って何?」 はきょとんとして、大きな黒玉がアスマを見つめる。 「優勝する、とかな。ウチの2人と、オマエのうちの誰かが優勝したら、連れてってやるよ」 「え〜っ、頑張るだけじゃダメ?」 「甘いこと言ってんじゃねぇ。忍びの世界はシビアなんだ。おままごとじゃねぇぞ、試験は」 「ハ〜イ。じゃ、私、頑張って優勝するから、焼き肉食べ放題ね!」 「アスマ・・・は食べるわよ? アンタのトコの誰かサンと変わらないくらいね」 「げっ、マジかよ;」 「給料一ヶ月分くらい、覚悟するコトね」 面白そうに、アケビと紅は呟く。 「アケビ、テメェもの師だろうがっ。半分出せ!」 「あら、女に出させる気?」 「ッノヤロ・・・忍びに男も女もあるか」 「ワーイv 焼き肉食べ放題〜♪」 「さん、後ろで泣いてるのがいるんだけど」 「え?」 サクラに言われて振り返ると、カカシが項垂れてのの字を書いていた。 「アレ? カカシせんせぇ帰ってたの?! ワーイ、久し振り〜v」 「今気付いたの・・・」 ごろにゃんとに抱きつかれても、カカシは素直に喜べなかった。 「カカシせんせぇv」 ん、とは目を閉じて顎をあげた。 キスの催促だ、と分かったが、公衆の面前で出来る筈もなく、オロオロするばかりである。 「コ〜ラ、! アンタ試験中でしょ! 煩悩は断ち切りなさい! もうすぐ試合でしょ、戻りなさい」 アケビに諫められ、はあちゃ、と舌を出す。 「ゴメンナサ〜イ。カカシせんせぇ、優勝したら一緒に焼き肉行こうねv」 「オレァ、カカシの分は払わんぞ」 にこやかには手を振って駆けて戻っていく。 「ど〜も緊張感がないのよねぇ、は・・・」 「お祭りにお友達が一杯集まって嬉しい子供みたいよね」 シノとカンクロウの試合は拮抗し、長引いていた。 高度な駆け引きの応酬に、観客達は舌を巻く。 下忍同士の戦いではない、と。 どちらが勝とうが負けようが、中忍たる資格がある、そう思わせる。 最初は、次のの試合に気が行っていた連中も、次第に熾烈な展開に飲み込まれていく。 辛くもシノが勝利したが、両者引き分けに等しい試合内容だった。 そして観客達は怒号のように歓声を上げた。 本大会一番の注目株、の試合だからである。 「すげ〜声援・・・やりにくいったらねぇな」 辟易した風に、キバは吐き捨てる。 「第4試合、犬塚キバ、、下へ!」 ゲンマの招集の声に、キバとは下へ飛び降りる。 見知った忍び達からかけられる声援に、は嬉しそうに手を振って返していた。 「もう、ってば・・・緊張感無いなぁ。ホントに優勝できるの?」 浮ついて見えるに、カカシは呆れたように呟く。 「大丈夫よ。は気持ちの切り替えがシッカリしてるの。それくらい、アンタだって分かってることでしょ?」 「そりゃまぁ、そうだけど・・・」 俄に信じられないカカシを見て、アケビはふっと薄く笑った。 「観客と一緒に驚くといいわ。あのコの本当の凄さをね・・・!」 「コラ、いい加減にしろ。両者、向かい合って」 諫めるゲンマの言葉に、はピッと気持ちを切り替え、キバと対峙して、構えをとる。 「く・・・っ」 相対したキバは、の鋭いまでの真摯な瞳に、気圧される。 「フン」 ゲンマはさも分かっていたように、悠然と不敵に笑みを浮かべる。 今まで誰も見たことがないような、生と死をかけた戦場のど真ん中にいるような、恐ろしいまでの、の鋭い眼光に、キバだけでなく、観客達ですら、息を呑む。 殺られる、キバはそう思う程に、に飲み込まれていた。 カカシは、間抜けにぽかんと見惚れていた。 「アレが・・・だって・・・? いつの間に、あんな・・・!」 「さん・・・凄い・・・!」 ざわついていた場内は、一瞬にして静まり返った。 「1回戦、第4試合、始め!」 ゲンマのかけ声と同時に、は変化の印を結んだ。 「あっ、アイツ、私に・・・」 はテマリに変化して、大扇子で、突風を巻き起こす。 「ぐ・・・っ」 が巻き起こした突風に煽られ、飛ばされないように踏ん張り、舞い上がる戦塵にキバが目を細めると、テマリに変化したは、いつの間にか見えなくなっていた。 「しま・・・っ」 風が落ち着いてくると、キバの目の前には、ゲンマが2人いた。 「あっ、テメ、オレに変化してんじゃねぇ!」 「何言ってやがる、オレのフリしてんじゃねぇ! 戻れ!」 「失格にするぞコラ!」 「オマエこそ失格にしてやる!」 やいやいと言い合う“ゲンマ達”に、キバは、どちらが本物か、嗅覚で探った。 「審判に変化って、アリかよ?!」 「クゥン、クゥン」 「ルールねぇんだっけ・・・赤丸、どっちか分かるか?」 「キュウン・・・」 「チクショウ・・・どっちも同じ匂いだ・・・匂いまでそっくり変化できんのかよ、さんは・・・」 「ったく、やると思ったぜ、あの馬鹿は・・・」 恐る恐る探っていたキバの背後から、同じ声がしてきて、思わず振り返る。 そこには、呆れ顔の、ゲンマがいた。 「え・・・アンタ本物の審判?」 「さてな」 「って・・・まさかアレ、両方さんってコトか?!」 「クゥン!」 「チクショウ、やられ・・・」 前方に顔を戻すと、そこには既に誰もいなかった。 「どこだ?!」 の姿に戻った影分身の2人は、左右から、キバの後頭部に手刀を放ち、虚をつかれてよろけるキバを両側から蹴り上げ、獅子連弾をかました。 舞い上がる粉塵が収まると、そこには横たわるキバが、ピクリとも動かない。 完全に気を失っている、と、ゲンマは試合続行を不可能と判断した。 「犬塚キバを試合続行不能とみなし、勝者、!」 あっという間の出来事に、観客は息つく暇もなかった。 キバは担架で運ばれていき、はきゃぁきゃぁと周りに手を振った。 満足そうに頷くアケビ、アスマ、やれやれ、と息を吐く紅、呆気にとられるサクラとカカシ。 「・・・」 いのらも呆気にとられたように、見惚れていた。 それを、奥歯を噛み締めるように見つめていたリー。 「やるではないか、オマエの愛し君も。しかも、次の対戦を見据えての、得意な幻術ではなく、体術での勝利。オレの愛弟子リーに、真っ向から勝負を挑む気のようだな、カカシ」 キラーン、と歯を輝かせ、ガイが背後から言い放つ。 2回戦は、シードのリーとの対戦なのである。 「いやでも、リー君と真っ向から体術勝負が出来る程、は・・・」 「あら、そんなこと無いわよ、カカシ先生。さんは、第2の試験の終わった後に決まったトーナメント表を見て、この1ヶ月、主に体術の修行をしていたの。持ってる能力の殆どが上忍レベルのさんに足りないのは、体術くらいでしょ? 修行の成果は、あのキバをあっという間に伸しちゃったのを見て、推して知るべし、でしょ?」 「まぁ、それは確かに・・・」 さっきまで此処でにぱっと笑っていたとは思えない程の成長ぶりに、カカシは声も出ない。 自分と一緒に修行していた頃とは、雲泥の差だ。 「は優勝狙ってんだからよ、緒戦でコケッかよ」 煙草を燻らせるアスマは、悠然と言い放つ。 「ま、どっしり腰を下ろしてふんぞり返って観てろって。はオマエとの任務が少しでも早くできるように、頑張ってるんだからよ」 アスマの言葉に、を見つめると、視線に気付いたが、満面の笑みで手を振ってきた。 それに応えると、カカシは椅子に腰を下ろした。 いつまでも観客に手を振っているに、ゲンマは後ろから小突く。 「たっ」 「いつまで浮かれてる、サッサと控え室戻れ」 「あっ、ハーイ!」 慌てて戻っていくに、ゲンマはやれやれと息を吐くと、咳払いを一つする。 「これより、2回戦を開始します! 山中いの、秋道チョウジ、下へ!」 2回戦でシードの出場者も出揃い、1回戦以上に、ハイレベルな攻防を繰り返した。 同チーム同士のいのとチョウジは、お互いがお互いを知り尽くしているやりにくさもあったが、勝負に徹しきれないチョウジの優しさを、いのは突いた。 ネジと我愛羅の対戦は、得意とするスタイルの相性の悪さに、お互いが持ち味を全て引き出しきれず、拮抗した。 テマリとシノの対戦は、1回戦でほぼチャクラを使い果たしていたシノの回復が追いつかず、反撃を顧みるも、テマリが圧勝した。 そして、いよいよ、リーとの対戦が始まる。 「ロック・リー、、下へ!」 体術を極めるリーとの噛み合わせに、観客達は、がどんな手で向かうのか、興味津々だった。 向かい合う両者、やはりリーも、の醸し出す気魄に、気圧される。 人を殺したことはない筈のに、殺されそうなまでの鋭い瞳が、諜報部隊で鍛えられているの強さを垣間見る。 「あの純真無垢なが・・・殺戮鬼みたいな顔が出来るなんて・・・」 「は忍びなのよ。もう神様でも、天使でもないの。殺生はしてないけど、そう思わせることが出来るように、私は教えているのよ」 ポカンと見惚れているカカシに、アケビは言い含める。 「始め!」 ゲンマのかけ声と同時にダッシュしようとしたリーは、半歩踏み出したところで、動けなくなっていることに気付いた。 ようやく僅かに視線を下に落とすと、影が先に伸びている。 それを追って相対するを捉えると、影真似の印を結んでいた。 「な・・・っ、アレは影真似の術・・・? 馬鹿な、アレは奈良一族秘伝の術だぞ。何故彼女が・・・」 ざわつく場内をものともせず、の背後には、影分身が立っていた。 一方は影真似でリーの動きを封じ、もう一方は、リーに向かって駆けていく。 「く・・・っ、動けません・・・!」 「行くよー、ダイナミック、エントリー!」 ふわっとジャンプすると、はリーに向かって蹴りを入れた。 「ぐぁあ・・・っ!」 動きを封じられているリーは受け身をとることもできず、無防備に攻撃を受けた。 そのままは空中で体勢を変え、リーの後頭部に蹴りを入れる。 脳を激しく揺すられたリーは、立ったまま気を失った。 影真似は続行されたままである。 「捕獲完了!」 はしゅたっと傍に降り立ち、どろんと影分身を解いて消えた。 “本体”は、チラ、とゲンマを見遣った。 ふん、とゲンマは鼻で笑う。 「ロック・リー、試合続行不能とみなし、勝者、!」 わーっと歓声を上げる者、どよめく者、場内は賑やかになる。 観戦していたシカマルは、呆気にとられていた。 「ったく・・・オレの影真似出来るとは聞いちゃいたが、ありゃ反則に近いぜ・・・影真似と影分身の融合なんて、相当なチャクラがなきゃ、あんな芸当は出来ねぇ。のオリジナルだよ、殆ど」 の持ち技に、観客達は唸る。 「あのコピー忍者・はたけカカシと同じように、彼女もコピーが出来るのか? 一体どういう・・・」 どよめきが消えぬまま、30分の休憩時間に入った。 疲弊しきったいのが棄権を宣言した為、我愛羅は不戦勝で決勝に進み、テマリとの準決勝に控え、はもりもりとお弁当を食べていた。 「試合前に、よく食う気になれるな・・・見てるだけで胃もたれしてくる」 のご機嫌の食事風景に辟易するテマリは、お茶を含みながら、吐き捨てた。 「腹が減っては戦は出来ぬって言うでしょ? チャクラ使ったから、補給しなきゃv」 「全く、ナルト以上のチャクラ量だね、は。オレのこと追い抜いてるんじゃないの、もう」 カカシが顔を覗かせて、呆れたように言い放つ。 「あっ、カカシせんせぇ!」 重箱弁当をぺろり平らげたは、お茶をグビグビ飲んでいるところでカカシを目に留め、立ち上がってカカシに駆けていった。 「焼き肉、カカシせんせぇも約束だよv」 きゅ、とカカシにしがみつき、にぱっと笑う。 「アレだけ食べた後に焼き肉の話って、オレの方もゲップ出そうなんだけど」 しがみついてくれることが嬉しくて、カカシは試験中でなければ、と思う。 「あ、焼き肉もそうだけど、カカシせんせぇ、今度雷切教えてv」 「雷切って・・・には無理だよ」 「えー。体術の修行いっぱいしてるのにー。試験終わったら、今度こそ修行デートしようよ。カカシせんせぇが1人で修行に行っちゃって出来なくて淋しかったから、今度こそ! それで雷切、ね?」 「え・・・、オレが影分身から本体見つけられなくて軽蔑してたんじゃないの?」 「軽蔑? 何で?」 は怪訝そうに、きょとんと大きな黒玉でカカシを見つめた。 「え、だって、それで修行の約束はなかったことにって、言ってたじゃないか」 「え〜? 何でぇ? 確かに見つけてもらえなかったのは淋しかったけど、レベルが上がったんだって思ったのに。だから、修行デート楽しみにしてたのに、カカシせんせぇが、1人で修行して胸を張って私に会えるように、って、言ってなかった?」 「え???」 2人の間で、ハテナマークが飛び交った。 「でも、ゲンマ君の忍鳥が確かに・・・」 「私もヤツキさんに頼んで、そしたら帰ってきたのはオボロさんだったんだけど」 カカシはピクンと、何やら感づいた。 「オボロって・・・橙色の鳥のこと?」 「うん。ヤツキさんは深緑で、2羽でかぼちゃコンビなんだって」 「・・・そのオボロって鳥、今呼び出せる?」 「え? うん」 よく分からないまま、は親指に刃を当てて口寄せを行った。 「よぅ。再会の抱擁はしたかよ?」 現れたオボロは羽ばたくと、の肩に留まる。 「あのさ。もしかしなくても、ゲンマ君と共謀して、オレのこと嵌めなかった?」 「何のコトやら」 「卑怯だよ! 男らしくない!」 ピク、とオボロは反応する。 「・・・分かったよ。白状する。確かにオレは、あの日、ゲンマに呼び出されたよ。の修行相手に、カカシを宛がうな、とな」 「何、で・・・? 2人っきりにさせたくないから?」 「違うっつの。ゲンマはそんな狭量じゃねぇ。このところのの成長は、著しいものだった。常からが、カカシを驚かせるくらい強くなる、と言っていたから、敢えて会わせないようにして、本戦でその成長具合を見せて、驚かせよう、と思ったんだ。その為に、オレは嘘をついた。あの日、オマエに言ったことは、嘘だよ。さっきが言ったことが真実だ。ゲンマの名誉の為にも言うが、ゲンマは、オマエとを2人っきりにさせるなとは言ってねぇ。本戦でカカシを驚かせろ、と言っただけだ。だから、全てオレの独断での嘘だ。悪かったな」 「あ、あの時オボロさんを呼ぼうとしたけど出来なかったのは、ゲンマさんに呼び出されてたからなの?」 「あぁ。ま、結果オーライだろ? この一ヶ月、ゲンマだってロクにと会っちゃいねぇ。ゲンマのモットーは“公平”だ。まぁ色々あったけどよ、中忍試験を区切りに、フィフティフィフティのスタートラインから仕切り直しってこった」 カカシはようやく、溜飲が降りた気がした。 修行で気持ちを入れ替えはしたが、ずっと引っかかっていた。 それが解決し、何だか胸がすっとする。 「仕切り直しって、何を?」 は意味を理解しておらず、きょとんとしてオボロとカカシを交互に見遣った。 「中忍試験は、オレ達にとってもイイきっかけだったんだよってコト。の成長ぶりは、ホントに凄いよ。オレと一緒に任務っていうのも、かなえられるかも知れない」 「えっ、ホントに?! ワーイ! 頑張るー!」 きゃあ、とはカカシに抱きつく。 「っと、そろそろ時間じゃねぇ? 気持ち切り替えろ」 ゲンマが下の試合場に出てきたのを見て、オボロは言い放つ。 「あっ、ホントだ。カカシせんせぇ、見ててねv」 「あぁ、頑張れ」 「えー、これより準決勝を開始します! テマリ、、下へ!」 ゲンマの招集に、は弁当箱を片付け、ぴょん、と飛び降りる。 続けてテマリも降り、大歓声が試合場を包む。 「ふん、私はこれまでのヤツらみたいに、他人の術のコピーで勝てると思うなよ? これまで見てきた連中の術の返し方は、ほぼ頭の中に入っている。いくらアンタが多くの術を持っていようと、そう簡単にやられはしないからな」 向かい合うと、テマリは不敵に挑発する。 「えへへ。じゃ、テマリちゃんの知らない術にしよっと♪」 「何?!」 「オラ、無駄口たたいてんじゃねぇ。始め!」 先手必勝、とテマリは大扇子で突風を巻き起こす。 風に煽られる中、は前方で微動だにしていない。 「何をしでかす気だ・・・?」 テマリは立て続けに、指を歯で傷つけ、扇子に血をひく。 「口寄せ・・・斬り斬り舞い!」 大樹も薙ぎ倒す程の風の渦に飲み込まれそうな中、の両手に、風が集まっていく。 「な・・・効いていないのか?!」 不敵に微笑むの掌で、集約されたボールのように、風が渦を巻いた。 「何だ、アレは?!」 会場内を飲み込んでいく風は、まるでの掌が吸収するように集約されていき、少し和らいでくると、は駆けだした。 「二重螺旋丸!!!」 逆方向に回る風の渦同士が、テマリを襲う。 掻き消そうと試みるテマリだったが、余りの強大さに、煽る扇子もバキッと折れ、テマリは高くはじけ飛ぶ。 「うぁあああああっ!!!」 どさりと落ちてきたテマリは、完全に気を失っていた。 「テマリ、試合続行不可能とみなし、勝者、!」 どよめきが場内を覆う。 「螺旋丸って、4代目火影の遺した術じゃ・・・何故彼女がそれを?!」 「あの斬り斬り舞いを受けて無傷とは・・・」 担架でテマリが運ばれていくと、は控え室を見上げた。 「我愛羅く〜ん! 決勝だよ!」 「コラ待て。30分休憩だ」 我愛羅に向かってニコニコ手を振るに、ゲンマは千本を上下させながら、言い放つ。 「え〜? いいよ〜、私疲れてないし」 「色々準備があんだよ。一旦引っ込め」 「ちぇ。ハ〜イ」 ぴょ〜んと控え室に飛び上がり、我愛羅と何やら話しているのを見届けつつ、ゲンマは息を吐く。 「ったく・・・実力に差がありすぎだぜ。他のヤツより多く戦ってるってのに、殆ど疲れを見せてねぇときた。上忍レベルどころか、火影レベルじゃねぇか?」 そして冬の中忍試験本戦の決勝試合は、歴史に名を残す名勝負となった・・・。 数日後。 焼き肉屋に、、アケビ、アスマ、いの、チョウジが集まった。 「アレ〜? カカシせんせぇは?」 アスマの隣に座ったは、カカシが来ていないことに、しょんぼりする。 「いつものトコでしょ。カカシはあんまり肉とか好きじゃないからね。内輪だけの打ち上げにしましょ」 「えー。シカマル君とかサクラちゃんとか我愛羅君とかテマリちゃんとかカン」 「中忍昇格祝いは、辞令が下りたら改めて盛大にやってやるから、我慢しとけ」 ビールとジュースで乾杯し、壮絶な食事風景に様変わりする。 「あーっ、ボクが育ててた肉ー!」 「名前でも書いてあるの?」 「カルビ5人前追加ー!」 「オッマエら・・・ちったぁ遠慮しやがれ」 ワイワイと食べている中、窓の外にコツンと、嘴でつつく小鳥が目に留まる。 アスマとアケビは立ち上がる。 「オレのツケで食ってろ。程々にしとけよ?」 翌日、はゲンマとともに、忍者登録室に向かった。 中忍昇格の辞令が正式に下りたのである。 「えへへ♪ 嬉しいなっv」 保護者代わりの後見人としてついてきたゲンマは、柔らかい顔での頭を撫でる。 登録室にて細かい手続きを済ませ、写真を撮る。 「あのー、中忍になったからベスト貰えるんですよねっ」 係の忍びに、はひょこ、とお伺いを立てる。 「あ、はい。こちらを」 「ワーイv」 は早速袖を通していた。 「今度からコレ着て任務行こっと♪」 鏡を覗き込み、ご機嫌で鼻歌を歌う。 「オイコラ、オマエはそれを着る必要はねぇよ」 やっぱりな、とゲンマは呆れたように千本を上下させる。 「えーっ、何でぇ?!」 「諜報部隊は、外見も武器の一つだ。余程のことがない限り、くの一は着ることはねぇ」 「えぇーっ、コレ貰えるの楽しみにしてたのにー」 はがっかりしたように、ぷく、と膨れた。 「ま、カカシと一緒の任務が叶ったら、着ればいい」 ポンポン、とゲンマはの頭を撫でた。 「そっか! うん、頑張る!」 サッサとそれ脱げ、えーヤだー、を繰り返していると、アオバがやってくる。 「ゲンマ、と火影室へ。5代目がお呼びだ」 「分かった。ほら、行くぞ」 「ハーイv」 結局はベストを羽織ったまま、火影室にやってきた。 それを見た綱手は、春から小学校の幼稚園児のランドセルのようだ、と思った。 「、本戦試合は見事だった。今回の試験は、レベルが高かったと、各国から任務が殺到している。にはその任務もこなしてもらうが、この先は、任務に出るのは、半々くらいで、里内に残ってもらうことの方が多くなる」 「あ、ハイ。ゲンマさんのお仕事覚えるんですよねっ」 「そうだ。、オマエは、不知火一族の後継者として、ゲンマの責務を覚えていってもらう」 「機密文書の管理、ですよね?」 「あぁ。貴族の流れをくむ不知火一族もゲンマ1人になってしまい、後継者がいないことが危惧されていたが、まぁ、ゲンマがサッサと嫁でも貰ってガキ作って、跡継ぎが出来りゃ、困ることじゃないんだがな」 「綱手様!」 ゲンマは苦虫を噛み潰したような顔で、窘めた。 「まぁ冗談はさておき、はゲンマの妹分扱いだ。故に正式な後継者として契約し、暫くはゲンマに就いて学んでもらう。最初に言っておくが、それはイコール、ゆくゆくはがゲンマの立場に立つということだ。それを心に踏まえ、精進するように。ゲンマも、任せたよ」 「はっ」 「頑張ります!」 書類を受け取りサインをし、正式に契約を結んだ。 「じゃ、早速サワリから行くか」 火影の執務室を出ると、ゲンマは、腕に絡み付いているを見遣り、千本を上下させる。 「あっ、ねぇねぇ、ツーショットで写真撮ろうよ! そのうちって言って、まだだよ!」 「そうだったな。って、オマエ、ベスト着て撮る気か?」 当然、はベストを着たままだった。 「ダメ?」 「その忍び装束で撮ろうと言ったんだぞ? 脱げ」 「ちぇー。着てるのも撮ろうよ!」 「分かった分かった」 写真館に向かい、記念写真を撮った。 枕元を飾る写真が、また増えたのだった。 ゲンマは写真立てを買って、出来上がった写真を入れて眺め、ほんのりと胸が温かくなる。 これから、と一緒に過ごす時間が多くなる。 煩悩との戦いに苦労しそうだが、それでも嬉しさがこみ上げてくる。 が。 「あーっ!」 は急に声を上げ、ゲンマの妄想が途中で断ち切られた。 「何だ、イキナリ」 眉を寄せ、渋い顔でを見遣る。 「カカシせんせぇともこのカッコで撮ってない! カカシせんせぇいるかな?!」 めくるめくイチャパラ(notカカシ)も音を立てて崩れていく。 「カカシせんせぇ捜してくるっ」 「待てコラ」 飛び出していこうとするの首根っこを掴み、ゲンマは見据える。 「中忍になった自覚がねぇようだな? これから執務室でお勉強だ。カカシとイチャパラしてる暇はねぇ」 「えーっ、修行デートはぁ?!」 「デートならオレがいくらでもしてやる。夕日の差し込む執務室でな」 「ちぇー。はーい・・・」 しゅんとするに、よからぬお勉強でもしてやろうか、と悪巧みもするする働くゲンマは、カカシとの三角関係も一歩リードしてやる、と、この時ばかりは、兄代わりの立場を有難く思ったのだった。 目の前にぶら下がる人参に手が届かないじれったい思いをするとは、珍しく浮かれるゲンマは、気付いていなかった。 カカシとゲンマとの三角関係、紆余曲折あるが、が中忍になったのをきっかけに、一からのスタートに仕切り直しが功を奏するのは、果たしてどちらだろうか。 神のみぞ知る。 「オレが知ったことかっ」 byカイトin神の国 大変お待たせしまして・・・(汗) |