【出会いはいつも運命の気まぐれ】 第八章







 中忍試験本戦開始まで1ヶ月、第2の予選を終了したそれぞれは健闘を誓い合い、解散した。

 はウキウキとご機嫌で屋根の上を駆けていた。

 夕暮れの朱に染まった空が薄暗くなっていく中、ゲンマが同じように駆けているのを発見した。

「あ〜っ、ゲンマさ〜んっ!!」

 ワーイ、と駆け付け、ぴょ〜んと飛びつく。

「おぅ、ご苦労さん。聞いてるぜ。ご活躍だったそうじゃねぇか」

 5日振りのの甘く柔らかな感触に、ゲンマは気持ちが穏やかになっていった。

「えへへ、楽しかったv あ、ねぇねぇ、カカシせんせぇは? 里にいる?」

 の大きな黒玉が、きょろんと輝く。

 穏やかも束の間、ゲンマはげんなりする。

「・・・あのな、オレに抱きついておいて、答える前に他の男の居所訊くな」

 眉を寄せ、吐き捨てるように言い放つと、ベリッとを剥がした。

「カカシせんせぇ、人生色々にいるかなぁ。もうすぐ待機時間終わりだよね。覗いてくるっ」

 は聞いておらず、ゲンマから離れていこうとした。

「待てコラ。カカシはまだ任務に出てるぜ。行くだけ無駄だ」

 ゲンマは低い声で、を引っ張って抱き寄せる。

「あ、そぉ? な〜んだ。修行デートの約束したかったのに」

 ぴと、とはゲンマに抱きついた。

「まだ1ヶ月もある。そう急ぐな」

 内心ホッと胸を撫で下ろすゲンマは、ポンポン、との頭に触れた。

「そうだね。お買い物して帰ろうっと。ゲンマさん、リクエストある?」

 は、眼下の商店街に降りる。

「オマエの食いたいモンでいい」

 実はカカシが人生色々での帰りを今か今かと待っているのは、当然には嘘をついたのだった。

「ん〜、やっぱりカボチャの煮物だよね! あとサンマ〜♪」

 鼻歌交じりに、は隣を歩くゲンマの腕に絡み付く。

「サンマよりホッケが食いてぇな」

 ボソ、とゲンマは呟く。

「味噌汁の具は大根希望」

「茄子じゃダメ? ん〜いいけど・・・私が食べたい物でいいんじゃなかったの?」

 曰く“元気の出る献立”は、ゲンマは何となく嫌だった。

「オマエが先に、オレに何が食いたいか訊いたんだぜ」

「はーい」







 買い物袋を提げてアパートに戻ると、は台所に袋を置き、寝室に向かった。

「はたけ君、ただいまv」

、オカエリ。ゲンマカエレ」

「煩ぇな。毎日エサと水やった恩を仇で返す気か」

 ゲンマはくわえている千本を上下させながら、ピン、と鳥かごを弾いた。

「えへへ、ゲンマさん有り難うv カ〜君にもただいまv」

 は、きゅ、とカカシ人形を抱き締めた。

「オレは?」

 ゲンマは淡々と呟く。

「あ、ゲン兄? にもただいまv」

 カカシ人形と一緒に、ゲンマ人形も抱き締めた。

「一緒はヤメロっつの」

 ゲンマは息を吐きながら、額当てを外し、ベストを脱いだ。

 ふぅ、とベッドに大の字に寝っ転がる。

「ごはんすぐ作るから、このコ達見ててねv 仲良くしててね」

 は抱いていた人形達を、ゲンマの腹の上に寝かせた。

「やなこった」

 自分の人形を脇に抱え、カカシ人形をポイッと払う。

「あっ、ヒッド〜イ! カカシせんせぇも煩くなったけど、ゲンマさんも最近酷くない?」

 ぷく、とは膨れて抗議する。

「大の男がヒトの人形抱き締めてるなんて、ゾッとしねぇっつの」

 目を瞑ったまま、吐き捨てる。

「も〜。じゃ、はたけ君、見ててv」

 口を尖らせ、カカシ人形を机の上に置いて、は出ていった。

「カカシウルサイ。ゲンマヒドイ」

「煩ぇな。焼き鳥にするぞ」

「ギャー、ドウブツギャクタイ! タイホシロ!」

 5日ぶりにの顔を見て、流行る衝動を抑えるのが大変だった。

 夕飯よりも、が欲しい。

 への気持ちが益々募り、自分を制御する自信がなかった。

 深呼吸を繰り返しながら、少しずつ、コントロールしていく。

 中忍試験が終わるまでは、抑制しなければ、と言い聞かせながら、だがキスと抱き締めるくらいはいいだろう、等と揺らぐ辺り、まだ未熟だな、とゲンマは自嘲した。





「ん〜、中忍試験のこと、楽しかったこと話したいのに、ダメだよねぇ?」

 ぱくぱく食べながら、はゲンマを見やった。

「大体は伝え聞いてる。オマエが中忍候補筆頭だってな」

「へー、そうなんだ? 嬉しいなv 中忍になったら、ゲンマさんのお仕事覚えるんだよね? 本戦楽しみだな〜」

「オレをあっと驚かすぐれ〜、頑張れよ」

「うん!」







 一方、カカシ。

 人生色々で気をもみながらウロウロしていたら、任務を言いつかってしまい、の動向もわからぬまま、里を離れたのだった。

「律儀に詰め所じゃなくて、の家の前で待ってるんだったな・・・今頃、ゲンマ君とご飯かな・・・」

 後ろ髪引かれる思いで、任務に出た。









 翌日、はアケビら小隊の仲間と、サバイバル演習をしていた。

 がまだ下忍だということを忘れそうな程、レベル的には、アケビにも匹敵する。

 時と場合によっては、能力別にはかると、の方が上回る。

 元々が、医療術では5代目火影・綱手と同等だ。

 実戦をもっと積めば、上忍までの道のりは、最短距離だ。

 の夢という、カカシとの任務も、望めばすぐに出来るようになるだろう。

 アケビらは、本戦が楽しみだった。

 もっとも、木の葉の忍び達は、だけが目当てで、誰よりも注目されているのだった。









 夕暮れ時、朱に染まる中屋根の上をご機嫌で駆けていたは、宿屋の上で腰を下ろして木の葉の風景を眺めていた我愛羅を見つけた。

「我愛羅く〜ん!」

 嬉しそうに駆けつけ、隣にしゃがみ込んだ。

・・・何だ・・・?」

「お夕飯食べにおいでよv 私腕ふるうからv」

 我愛羅の腕を引っ張るを、我愛羅はじっと見据えた。

「・・・オマエは不思議だな・・・これほど穏やかな気持ちは、初めてだ・・・オマエの持つ空気は、心地好い」

 心なしか、我愛羅の様子が、柔らかく感じた。

「そぉ? 我愛羅君は、何が好き? テマリちゃんとカンクロウ君もどこかいるの?」

「下の部屋にいる・・・」

「皆でウチにおいでよv 木の葉のごちそういっぱい作るし」

 は下の部屋を覗く。

「あっ、テマリちゃんとカンクロウ君、ウチにご飯食べにこない?」

 ひょこ、と軒下にぶら下がって、やほー、と手を振る。

・・・オマエせっかちだな。昨日の今日じゃないか」

 大扇子の手入れをしていたテマリは、呆れたように息を吐く。

「時間は有効に使わなきゃ。何もしない一日はダメだよ。充実した時間を過ごさなきゃ、勿体ないよ」

「別に何もしてない訳じゃ・・・」

「カカシせんせぇが任務から戻ってきたら、目一杯修行するから、それまでに、もっと仲良くなりたいなって」

「仲良くって・・・おままごとじゃないぞ。まぁ、お呼ばれには応じても構わないが・・・」

「やったv カンクロウ君も来てねv」

「まぁ、いいけど・・・何か気が抜けるじゃん」

 宿屋を出ると、屋根の上にいた我愛羅も降りてきていて、がべったりくっついていた。

「えへへ。木の葉の郷土料理覚えてるトコだから、せっかくこんな遠くまで来てるんだし、木の葉料理、作るねv」

 ニコニコとはご機嫌で、商店街で買い物をしていく。

「我愛羅君は甘いもの嫌いなんだっけ?」

「あまり得意とは言えない・・・」

「そっかぁ。この間もお茶だけだったしね。玄庵堂のパンプキンパイ、美味しいんだけどな。レシピ聞いて、うまく作れるようになったんだけど」

「・・・食べてみてもいい・・・」

「あ、そぉ?! じゃ、頑張って美味しいの作る!」

「いつもは我愛羅の分もテマリが食ってたのに、どういう心境の変化じゃん」

「野暮は言うな、カンクロウ」

 テマリに制され、カンクロウは俄にそれを信じられなかった。





 のアパートまで来ると、3人を招き入れ、お茶を出した。

「出来るまで、その部屋でテレビ観てて」

 娯楽部屋を指し、は鼻歌交じりに調理に取りかかった。

 テマリは観るでもなしに、テレビをつけた。

 適当にチャンネルを変えている横で、カンクロウが絡繰りの手入れをしていた。

 我愛羅は瓢箪を下ろし、食卓について、の後ろ姿を眺めていた。

「・・・だ?」

「え?」

「何故、神である立場を捨てたんだ?」

「ん〜・・・話すと長くなっちゃうんだけど・・・」

 は調理しながら、これまでのことを、掻い摘んで話した。

 孤独であったこと。

 分かり合える同等の立場のものがいない、唯一無二の存在の重さ。

 偶然の出会い。

 芽生えた人としての感情。

 己の存在意義への疑問。

 神としてではなく、人として生きることを望んだ。

 は、我愛羅とは全く違うようで、似通ってもいて、神として崇められ慕われたを、化け物として恐れられ拒絶されてきた我愛羅は、何故か同調した。

 正反対のようで、実は表裏一体なのかも知れない。

「だから、我愛羅君の気持ちは、理解できるよ。上を目指して上っていく道と、降りていく道が、X字で交差するところに、私達はお互い向かってるんじゃないかなって」

 脳天気にぽよよんとしているイメージの強いだったが、考えることはしっかりしていて、ちゃんと芯が通っている。

 神であった立場を、忘れないようにしている。

 我愛羅の指標が、改めて固まったような気がした。





 いい匂いが鼻をついて、テマリとカンクロウはダイニングを覗いた。

 食事が並べられていくところだった。

「へぇ、豪勢じゃん」

「えへへ。けんちん汁ね、郷土の違いも味わってみてね、テマリちゃん」

 お椀に汁をよそい、食卓を整えていく。

「美味しそうだ。アンタ料理上手だな」

 真四角のテーブルにそれぞれついていった。

「いただきまーすv」

 はご機嫌で食べ始めた。

「お、美味いじゃん」

「いい出汁出てるな」

 それぞれ感想が漏れる中、我愛羅は黙々と食べていた。

「えへへ、まだあるからおかわりしてねv」

 好きなもの、嫌いなもので話題は弾んだ。

「我愛羅君って渋好みだね〜。焼き肉とか行こうよ」

「我愛羅に比べて、カンクロウはお子様味覚なんだよな。ハンバーグが好き、って、子供か、己は」

「別にいいじゃん。好きなモンは好きじゃん」

「子供だよ。ほうれん草が嫌いだしな」

「へー、カンクロウ君もほうれん草嫌いなんだ? ゲンマさんも嫌いなんだよね〜。あんなモン草だ! って」

「草なんか食えないじゃん」

「あはは。我愛羅君は、栗がダメなの? 甘いものが特別嫌いじゃないの?」

「甘いものは、嫌いとまでは言わないが、好きという程じゃない。好んで食べたいと思わないだけだ」

「ん〜じゃ、パンプキンパイは、甘いお菓子って分類じゃないし、食べてみてv」

 砂糖控えめだよ、とは焼き上がったパイを切り分けていく。

 食卓の上の食器を片づけていき、パンプキンパイのトレイを置く。

「お茶は自由に入れてね」

 は食器洗いをしながら、ポットを指す。

 目の前に鎮座するパイをじっと見つめ、我愛羅はフォークを入れた。

「へぇ」

「お、なかなか」

「・・・美味い」

「良かったv 私も食べる〜♪」

 手を拭いて、は再び食卓に着いた。

「ん! 上出来上出来v ゲンマさんの分一切れだけ残して、全部食べちゃおうよ」

 モグモグとは嬉しそうに食べた。

「・・・甘栗甘でも第2の試験の時も思ったけど、よく食うな、アンタ・・・。ダイエットとか考えないのか? まぁ、見たトコ必要ない身体だけど・・・」

 ナイスバディなに、お年頃なテマリは、少し羨んだ。

「医療忍者だモン、身体の新陳代謝もコントロールしてるよ」

「あぁ、成程・・・」

「ゲンマさんはこれからが忙しいんだよね、確か・・・。帰り遅いかなぁ」

 お茶をこくこく飲みながら、外を見遣った。

「食い逃げのようで気が引けるが、そろそろおいとまするよ。美味しかった、ご馳走様」

 お茶を飲み干したテマリは、椅子から立ち上がった。

「え〜っ、もう帰っちゃうの? もっとお話した〜い!」

 寂しそうに、は膨れた。

「散々ご馳走になっておいて何だけど、必要以上に馴れ合う気はない。試合の時に、甘さが出る。関わらないとは言わないが、程々にしてくれ」

「は〜い・・・」

 しゅんとするを見て、我愛羅はかける言葉を探した。

「・・・忍びは、膝を交えなくとも、相対し戦うことで、分かり合えるものだ。一緒に修行しよう」

「えっ、いいの?! ワーイ、必ずね! 明日迎えに行くから!」

 テマリとカンクロウは、我愛羅の言葉に、少々驚いた。

 と話している我愛羅が、時折、どこにでもいる少年のような顔をして、砂の化身が憑いていることを、忘れそうになった。

 これが本来の姿なのだ、と、まざまざと気付かされる。

 との出会いが、我愛羅を急速に成長させていくことは、このときテマリ達はまだ分からずにいた。













 それから、ある日は砂の3兄弟と修行、またある日はアケビ班での修行、またはアスマ班として修行、と、は充実した日々を過ごした。

 ゲンマは忙しいようで、夜中遅くに帰ってきて、先に寝ているのベッドで共に寝て、朝食は一緒に摂ったが、ゆっくりする時間はなかった。

 が、行ってきますのキスだけは、欠かさなかった。

 は毎日が楽しかったが、何か、ぽっかり穴が開いているような気がした。

 何だろう、と考える。

 ぽつんと一人になった時、何となく寂しくて、多重影分身の術で大勢になって、それぞれ思い思いに動きながら、考え込む。

「「「「「ん〜・・・・?」」」」」

 ウヨウヨウロウロ動き回って、ポン、と考えつく。

「「「今会いたい人に〜〜〜変化!!」」」

 影分身全員が、カカシに変化した。

「「「あ〜、やっぱりカカミン不足なんだ〜〜」」」

 カカシの姿のまましゃがみ込んで、膝を抱える。

「「「カカシせんせぇ、まだかなぁ・・・」」」

 見上げると、薄い空が高く、鳥が舞っていた。







 任務完了して戻ってきたカカシは、報告書を提出すると、口寄せの術で忍犬を呼び出し、を捜した。

「どこかで修行してるかな・・・」

 ふと空を見上げる。

 火影岩を見遣ると、なんだか上がざわついている気がした。

 何だろう、とカカシは駆け上がる。

「特に匂いもしないんだけど、いったい・・・え?!」

 カカシはぎょっとして後ずさった。

 自分がうようよと、膝を抱えていたのだ。

「「「「「あっ、カカシせんせぇだっ!」」」」」

「も、もしかして、・・・なの?」

 大勢の膝を抱えたカカシ達は、沈んでいた顔も吹き飛び、ぱぁっと明るくなって、立ち上がった。

「「「「「わ〜〜〜い、カカシせんせぇ〜〜〜っ!!」」」」」

 達はカカシ姿と声のまま、カカシに群がっていった。

「ちょ、待っ、変化解いてよ、気持ち悪いから・・・っ;」

「「「「「カカシせんせぇ、おかえり〜v」」」」」

「だからオレはナルシストじゃないから変化解いて〜〜〜っ!!!」

「「「本体はど〜れだv 当てたら解くよv」」」

 にぱ、とカカシ姿だと気味悪いようにしか見えない笑顔で、達は声を揃えた。

「え・・・本体? えっと・・・」

 カカシはぐるり見渡し、観察した。

「「「写輪眼は使っちゃダメだよ〜」」」

「え、ダメなの・・・」

「「「何でもかんでも写輪眼頼りはよくないよ〜。って、もしかして分からないの?」」」

 ぷぅ、と“カカシ達”は膨れた。

「え、いや、そうじゃなくて、その・・・って、何でオレに変化してる訳?」

 本体がさっぱり分からないカカシは、冷や汗たらたら、目を泳がせて観察した。

「せ〜の、で、今会いたい人に変化したの〜」

「そしたら、皆がカカシせんせぇになったの」

「でもそしたら本物が来たって、凄いよねっv」

 わらわらと嬉しそうに、カカシ声のまま嬉しそうに話す

 それを聞いて、気持ち悪さもあったがカカシは嬉しくなって、舞い上がるようだった。

「で、でも、何か小さいオレがいるけど・・・」

 仔カカシが混ざってる、と全員の目が一斉に集中した。

「あれっ? 全員一致だと思ったのに、違う私がいる〜」

「でも、一応はオレだよね。何かちょっと違う気もするけど、子供の頃のオレに会いたいって思ったの?」

 カカシは“仔カカシ”を見遣る。

「え〜? 私は〜、カ〜君に会いたいなって」

「カ〜君って、オレの人形じゃなくて、弟の? でもオレに見えるんだけど・・・」

「うん。大切な弟だモン。って、アレ? 言ってなかったっけ?」

「え、何を?」

「カ〜君はね、カカシせんせぇにそっくりなの。たぶん、私より似てるよ」

「はぁ・・・」

 実際会ってみないと何とも言えないので、達の説明を聞いても、間の抜けた声しか出なかった。

「カ〜君に会いたいっていうのと、カカシせんせぇにカ〜君を紹介したいなって言うのもあるんだけど」

「でもちっちゃいカカシせんせぇにも会ってみたいな」

「そう言われると、微妙に“オレ”の年齢が違うのが混ざってるような・・・」

 暗部姿のカカシも混ざっていたのだった。

「初めて会った時のカカシせんせぇにまた会ってみたいなって」

「あ、名前つけてもらうのね!」

「そうそう」

 達は、わいわいと話し出した。

「ちょっと、本題逸れてるけど!」

「「「あ、そうだった。まだ分かんない?」」」

「う・・・」

 は巧く変化していて、チャクラでも匂いでも、カカシには見分けが付かなかった。

「「「分かんないってことは、修行の成果が出てるのかな? 今ならゲンマさんにも見破られないかなぁ」」」

「え・・・ゲンマ君?」

「「「あのね、どんなに巧く影分身の術使っても、ゲンマさんはすぐに本体見抜いちゃうんだモン。そのあたりを重点的に修行してるんだ〜」」」

 ゲンマが見抜けるというのが面白くなくて、カカシは躍起になって、達を観察した。

『アレか・・・あっちか、それともこっち・・・? いや待てよ・・・』

 ブツブツと見定め、ますます脳内がこんがらがった。

・・・写輪眼使ってもいい?」

「「「え〜っ。しょうがないなぁ・・・」」」

 ぷくぅ、と膨れる“カカシ達”を、カカシは写輪眼で観察する。

『コレなら分かる筈・・・』

 舐めるように観察していくカカシは、それが次第に冷や汗に変わっていった。

『わ、分からない・・・どうしよ・・・;』

 顔面蒼白になっていると、不意に背後から声をかけられた。

「何やってるんですか。新しい遊びですか」

 振り返ると、呆れ顔のゲンマがいた。

「ゲンマ君!」

「「「あ〜っ、ゲンマさんだ〜〜っ」」」

「騒がしいから何事かと思ってきてみれば・・・。ったく、はここんトコずっと影分身がブームらしくて、いつもウヨウヨしてるんですよ。それであちこち引っかき回して・・・いい加減にしろよ、オマエら。やるなら周りに迷惑かけるな」

「「「え〜、そんなにかけてないよ〜」」」

「“そんなに”じゃなくて“全然”にしろっつの」

 ゲンマはくわえている千本を上下させながら、眉を寄せて、近くにいた“カカシ”の頭を軽く小突いた。

 コレ幸いとばかりに日頃の鬱憤も込めて“カカシ”を小突くゲンマ、それが何となく面白くないカカシ。

「あの・・・ゲンマ君?」

「何です」

「ちなみにその・・・ゲンマ君にはどれが本体か、って、分か・・・る?」

 その問いかけに、ゲンマはピンと来た。

「もしかして、分からないんですか?」

「う、いや、そうじゃなくて・・・;」

 ゲンマはするすると悪巧みが働いていった。

「カカシ上忍、賭けをしませんか?」

 ニヤ、と薄く微笑む。

「賭け? って、何を・・・」

「自分が本体だと思うを選んで、連れて帰りましょう。めでたく当たっていたら、この一晩、自由にしていい、ということで」

「な・・・っ」

「ちなみにオレはコイツを連れて帰ります。残りは好きにしてくれていいですよ。全員連れ帰って下さい」

 ゲンマは、先程小突いた“カカシ”を指す。

 ゲンマ側に1人、カカシの方に流れていく残り、ざわざわと小鳥のように囀っていた。

「ちょ、そんな簡単に決めていいの? 違ったらどうす・・・」

「じっくり見ないと分からないようじゃ、それだけの気持ちってことですよ。オレはまだ仕事中だから、家に帰って待ってろ。カカシ上忍、アナタは残りの達で、めくるめくイチャパラな、酒池肉林でも楽しんで下さいよ」

 そう言い残すと、ゲンマは瞬真の術で消えた。

「じゃ〜私はオウチに行くね〜。みんな〜バイバ〜イ」

 何となく寂しそうな顔で、カカシ姿のまま、ゲンマが選んだは帰って行った。

「「「ね〜カカシせんせぇ、シュチニクリンって何をするの?」」」

 ほけっとしていたカカシは、我に返って見渡した。

「えっと、じゃ、まずは変化を解いてくれる?」

「「「その前に〜、本物当ててよ〜」」」

「う・・・難問すぎるよ! レベル下げて、せめて変化だけでも解いて」

「「「も〜、しょうがないな〜」」」

 ポポン、と変化を解き、の姿に戻る。

 愛らしい顔がぐるりとカカシを見つめていて、カカシはクラリとのぼせそうになった。

 久し振りということも相まって、鼓動が逸っていく。

「あ、の、さ。酒池肉林楽しんでから答えてもいい?」

「「「何すればいいの?」」」

「イチャパラごっこ、っていうのかな」

「「「誰が何の役?」」」

「私看護婦さん!」

「えーとじゃあ私は〜・・・」

「ユウカンマダムってどんなのだっけ?」

 わいわいと達はしゃべり出す。

 丘の上でイチャパラごっこモドキが始まり、至れり尽くせりでカカシは浮かれていた。

「ね〜、修行デートしたいな。腕前見て〜」

「雷切教えて〜」

「はは、には無理だよ」

「第2の試験でね、皆を観察して、いっぱい術覚えたんだ〜。実践できるか試したいんだけど」

「えっと、幻術返しってどうやるんだっけ? こう? アレ?」

 の甘い声のステレオエコー、大きな瞳がカカシを射抜き、カカシはご機嫌でのぼせてきていた。

「や〜、こんなに幸せでいいのかな〜。極楽ってこのことだよ〜。あぁ、幻術返しっていうのは、こうだよ。こう印を結んで、解!」

 カカシのかけ声で、一斉に分身達が消えていった。

「しま・・・っ! もうちょっとイチャパラ・・・まぁいいか、1人いれ・・・」

 ほろ酔い気分に浸っていたカカシは、サーッと血の気が引いて我に返った。

 カカシの周りには、誰もいない。

 ポツンと、カカシ1人だった。

「アレ・・・は?」

 そして気づく。

 ゲンマが連れ帰ったのが、本物だったのだ、と。

 カカシはがっくりうなだれて、暫く立ち直れず、とっぷりと暗くなるまで、丘の上で風にあおられていたのだった。









 カカシはどうやって家に戻ったのかも分からず、傷心でベッドに丸まった。

「何で・・・ゲンマ君には見破れるんだ・・・? オレがゲンマ君に劣るなんて・・・」

 忍びとして駄目出しを食らったようで、自信喪失した。

 もしそれが敵だったら、と思うと、少し鈍ってきているのかも、と、修行をするか、と考えていた。

 ぼ〜っとどれくらいそうしていたか分からなくなり、月明かりの差す中、真っ暗な部屋で、精神集中していた。

 チャクラを練っていると、コツン、と窓から音がした。

 ふと見遣ると、橙色の鳥がいた。

「アレ、確かゲンマ君の忍鳥・・・」

 カカシが窓を開けると、オボロは中に入って、椅子に留まった。

「ゲンマ君から何か?」

「ゲンマじゃねぇよ。オレを呼んだのはだ」

「え、? な、何・・・?」

「ったく、オマエも情けねぇよな。好きな女の本体が見分けられねぇって、何が木の葉のエリートだ。平和ボケしてんのか」

「う・・・。、どうしてる?」

「ふん、えぐえぐ泣きじゃくりながら、飯作ってたぜ。大好きなカカシに見分けてもらえず、当のカカシは本体捜しをほったらかして分身に囲まれて極楽してて、相当ショック受けてたぜ」

 カカシはとどめを刺されたように、愕然とする。

「オ、オレ、に謝ってくる!」

「やめとけよ」

「え、何で・・・」

「今回のことで、心底がっかりしたは、カカシへの信頼度ががた落ちだ。だから、オマエとの修行デートとやらも、無かったことにしたいってな。顔も見たくないだろうよ」

「そ、そんなぁ・・・」

「いい機会だ。今のは中忍試験で手一杯だ。幸い、修行相手はいくらでもいる。オマエは鈍った頭と心構えを修行してたたき直せ」

 言われてみれば、その通りかも知れない、とカカシは反省した。

の前に立っても恥ずかしくないようになったら、改めて謝れ。“カカシせんせぇ大好き”って言ってもらえるようにな」

 言い捨てると、オボロは出て行った。

 カカシは猛省し、改めて、修行しよう、と誓った。





 夜空を羽ばたいていたオボロは、向こうから1羽鳥がやってくるのを見て、げっ、と辺りを見渡し、その鳥を絡め取るように、近くの屋根に留まった。

 深緑色の鳥は、同じくゲンマの忍鳥、ヤツキだった。

「どうしたの〜、オボロ。ボク、カカシのトコに行かなきゃなんだけど〜」

 間延びした話し方のヤツキは、怪訝にオボロを見遣った。

「カカシのトコなら、オレが先に行ってきたぜ。だからオマエも戻っていい」

「そうなの〜? から、修行デートの約束を伝えてくるように言われたんだけど」

「だからそれは行ってきたからよ。帰ろうぜ」

 ゲンマよろしく口先三寸で丸め込み、ヤツキを帰した。

 実はは、寂しそうにしてはいたが、自分のレベルが上がったんだ、と信じており、気持ちを切り替え、カカシにもっと成長したところを見せたい、と思っていたのだった。

 オボロの伝えた内容は、ゲンマとの共謀で、嘘を言ったのである。

 まんざら間違ってもいない筈、と、オボロは、はカカシよりゲンマと結ばれてほしい、と思うのは、普段は言い合ってばかりいても、やはり不知火の契約鳥なのだ、ということだった。





「アレ? ヤツキさんは?」

 風呂上がりの水分補給をしていたは、呼び寄せて出てきたヤツキではなく、呼ぼうと思っていたオボロが戻ってきたことに、きょとんとしていた。

「帰った。カカシは、本体を見分けられなかったことを酷く落ち込んでいて、随分鈍ってきているようだから、の目標である為に、修行してくるってよ。だから、は今まで通り、いつもの連中と修行してろ。お互い、見違えるようになって、本戦で会え」

 カカシを無碍にはせず、持ち上げておくことも忘れないのは、オボロの男気だった。

「そっか。カカシせんせぇのこともビックリさせたいし、寂しいけど、頑張るよ。オボロさん、有り難う」

「おぅ。頑張れ」

 オボロが帰って行くと、はゲンマがまだ帰らないので、また影分身で、修行をしていたのだった。













 それぞれの思惑がうごめく中、冬の中忍試験本戦が、まもなく迫ってきていた。

 下忍同士の試合が、予想以上にハイレベルな大会になることを、観客達は、まだ知らない。