【南瓜の煮物をアナタと一緒に】(1) 此処は木の葉の里の、南の商店街の一角。 、21歳。 12歳の時からずっと、此処で働いている。 12年前、九尾の事件で家族を失い、アカデミーに入るも、才能に恵まれず、忍びの道を諦めた。 看板娘のいるこの八百屋は、いつも商売繁盛だった。 その八百屋の、昔からの常連客。 木の葉の忍びで、特別上忍。 いつも長楊枝をくわえていて、悠然としてかぼちゃを買って帰る。 不知火ゲンマ、今年で29歳。 ずっとゲンマに憧れていたが勇気を出して告白して、2人は付き合いだした。 ゲンマも、ずっとを兄のつもりで見守ってきていて、それを恋愛感情と気付かずに来たようだった。 お互いがずっと気にしてきたこと。 付き合うに至るまで、紆余曲折、気持ちの擦れ違いがあったけれど、ようやく2人の恋物語は、始まったのだった。 「むにゃ・・・ゲンマさん・・・ダ〜イスキ・・・」 布団を抱き締めて眠っていたは、けたたましい目覚まし時計を手探りで止め、もぞもぞと動いた。 「ぅ〜ん・・・ゲンマさんの夢見てたのに・・・いっつも良いトコで起こされちゃう。もう、気を利かせてよね!」 などと調子の良いことを思いながら、ベッドを降りた。 顔を洗って、朝食の支度をする。 「あ、そうだ。今日のお休みは、お弁当作ろうっと。すっかり春で風も気持ちいいし、アカデミーの屋上で食べたら、美味しいよね」 の仕事が休みの日は、いつも、昼休みに抜けてくるゲンマと待ち合わせて、外食していた。 そして買い物をして、一旦別れ、仕事が終わった後、お互いの家のどちらかで夕食を共にする。 任務で居ない時は、とてつもなく寂しい。 その分、一緒に過ごす時間を、とても大切にした。 ゲンマはにとても優しくて、大切に扱った。 お姫様になった気分では嬉しかったが、ちょっぴり不満もある。 大切にしてくれるのが度を過ぎていて、なかなか、深い仲にまで進展出来ないのだった。 ゲンマから告白の返事を貰った時にキスをして、それっきり。 それ以来一度も、ゲンマはに手を出そうとしなかった。 大切に思ってくれてるのも分かるけど、としては、もう一歩、深く踏み込みたかった。 でも、それを言い出す勇気も、実行する勇気も出なかった。 でも、待ってるだけじゃ、きっとゲンマは何もしない。 が恋愛ごとに奥手で、男の人に慣れてないから、ゲンマは段階を踏んでくれている。 「あ〜ぁ・・・もっと恋人らしいこといっぱいしたいなぁ・・・」 別れる時にキスをするとか。 お泊まりするとか。 付き合う前に、酔っぱらってゲンマの家に泊まったことがあるだけ。 付き合うようになってからは、まだ泊まりっこなんてしてない。 お互いの家を行き来していても、まだ合い鍵すら、持ち合っていないのだ。 「で、でもなぁ・・・お泊まりするって、一緒に一つのお布団で寝るってこと・・・だよね? シラフでなんて恥ずかしくてダメかも・・・あ〜ぁ、私って意気地無し・・・」 朝食の支度が済んで味噌汁を啜りながら、は真っ赤になって、色々考え込んだ。 「お互い成人した大人なんだし、その先だって・・・進んでもいいよね? でも・・・ゲンマさんにどう言えば良いんだろ? 恥ずかしくってダメだぁ・・・」 白米を頬張りながら、お弁当を作る前に、ファッション雑誌の特集で恋愛テクニックを勉強しよう、と思い、朝食を手早く済ませた。 アカデミーで執務に就いたゲンマは、書類とにらめっこしながら、くわえている千本を上下させていると、ゲンマの個室である、特別上忍執務室のドアがノックされた。 「開いてるぜ」 「おっはよ〜、ゲ〜ンマv 相変わらず、朝っぱらから人相悪いわね」 ドアが開いてひょこ、と顔を覗かせたのは、同じ特別上忍の、アンコだった。 「地顔だ、ほっとけ」 アンコはつかつかと室内に入り、何やら書類を差し出した。 「コレ、火影様の許可証ね。コレに書いてある機密文書を火の国の大名の所へ届ける任務を受けたの。出してくれる?」 「分かった。ちょっと待ってろ」 ゲンマは立ち上がると、奥へと続く書庫の鍵を開け、入っていった。 「しっかし、すっごい量よね〜。ゲンマって、コレ全部、どれが何処にあるか把握してんの?」 興味深そうに、アンコは中を覗く。 「入ってくんな。ここに入っていいのは、オレと火影様だけだ」 「ゴメンゴメン。不知火家の特別職務ってのも大変よねぇ」 アンコは書庫から出ると、勝手に急須に茶葉を入れ、湯飲みに茶を注いで含んだ。 「ホレ。茶ァ啜ってねぇで、サッサと任務に行け」 眉を寄せ、ゲンマは再び机に向かう。 「つれないわねぇ。お茶くらい飲ませてよ」 団子が欲しいわね、とアンコは茶を啜った。 「そうそう、アンタさ、結局例の可愛いコと付き合い始めたんでしょ? 私よりもずっと下よね? よくそんな若いコ掴まえられたわね」 アンコは机に腰掛け、面白そうに笑った。 「掴まえた訳じゃねぇよ。昔からの顔馴染みだ」 「今度紹介してよ。堅物のアンタが惚れた女っての、興味あるし」 「興味本位で近付くヤツをアイツに会わせられるか。どうせロクでもないこと吹き込むつもりなんだろうが」 ゲンマは眉をつり上げ、アンコを睨み付けた。 「随分大事にしてるのね〜。その分じゃ、まだ深い仲じゃないんでしょ」 「ほっとけ。オラオラ、サッサと任務に行け。執務の邪魔だ」 「ふ〜んだ。悶々ゲンマ君を今度尾行してっちゃお! じゃ〜ね〜」 アンコは湯飲みを置くと机を降り、軽快に出て行った。 「ったく・・・」 ふぅ、とゲンマは息を吐く。 との仲を、どんな風にからかわれても構わない。 が、を傷つけたりするヤツが居たら、容赦はしない。 ゲンマは、が大事だった。 今日はは仕事が休み。 そう、待ち合わせて昼食を外で食べる日だ。 昼休みになり、ゲンマは書類を片付け、部屋に鍵を掛け、外に向かった。 他の忍びと擦れ違う度に、彼女を紹介しろ、とからかわれる。 「ったく・・・そんなにオレに女が出来たのが珍しいかよ・・・」 女っ気がない連中が殆どだ。 誰かしらに出来れば、その話題に群がっても、無理はなかった。 玄関を出ると、が先の方で、辺りを伺うようにウロウロしていた。 「あ、ゲンマさん!」 ゲンマが出てきたのに気が付くと、ぱぁっと花が咲いたように笑顔になる。 ゲンマは、の笑顔が好きだった。 見ていると癒やされる、心が温まる。 の笑顔を曇らせるヤツは、誰であろうと許さない。 「よぅ。どうした? 大荷物で」 「あのね、お弁当作ってきたの。たまには空の下でお弁当ってのも良いかなぁ、って思って。天気が良いでしょ?」 「あぁ、そうだな。何処で食う? グラウンドの端じゃ、砂埃が入るか・・・」 「アカデミーの屋上ってダメ? テラスとか。部外者は入っちゃダメかな」 「いや、構わねぇが・・・」 ゲンマは少々躊躇った。 「? 何かマズイ?」 きょとんとして、はゲンマを見上げた。 「いや。行こう」 ゲンマはの持っていた荷物を手に取り、肩を抱き、中を促した。 途端に真っ赤になる。 肩を抱いただけでコレだ。 変な下心なんて抱けねぇ、とゲンマは小さく息を吐いた。 「うわぁ、空が高〜い!」 テラスに出て、爽やかな風に身を委ねながら、はピクニックシートを敷いた。 「もう葉桜か。夏は近いな」 ゲンマは腰を下ろし、ベストの前をはだけさせた。 「ゲンマさんと初めて会った時は、桜満開だったよね」 「覚えてたのか。んな昔のこと」 水筒のお茶をカップに注いで含みながら、箸を受け取った。 「覚えてるよぉ。あれ? ゲンマさんも覚えてたの? 私は、カッコイイお兄さんだなぁ、って思ってたよ」 ニコ、と微笑んでは頂きます、と食べ始めた。 「はは、“オジサン”じゃなくて良かったぜ。オレは、やたら元気の良いちっこいのが居るなぁ、って思ってた」 ゲンマも食べ始める。 「オジサンって・・・何でぇ?」 どうせ今でもちっちゃいですよ〜、と口を尖らせる。 「12のガキから見りゃ、20じゃ、オッサンだろうが」 「え〜? オジサンってのは、八百屋のおじさんみたいな人とかを言うんだよ〜。ゲンマさんはカッコイイお兄さん!」 「ま、ついこの間まで、オマエのことは妹だと思って見てきたしな。兄だと思ってくれたんなら、いいよ」 「妹なんだ・・・」 はしゅんとして、食べる手が止まる。 「バ〜カ。8つも離れてるんだ。普通そうだろ。変な感情抱いてたら、ただのロリコンだっつの」 「・・・でも〜・・・」 「だから! 今はお互い20代で、何の障害もねぇだろ? 昔のことは気にすんなよ。やっと晴れて、思いが通じ合えたんだからよ」 『ゲンマさんって、何か前よりもずっとストレートになったみたい・・・私も頑張らなきゃ』 早食いのゲンマが食べ終わっているのを見て、は慌ててバスケットを漁った。 「これ、食後のデザート! かぼちゃのプリンなの。あんまり甘くないから、食べてみて」 プリンとスプーンをゲンマに差し出す。 「へぇ。煮物に、ポタージュにアレにコレに、何かかぼちゃづくしだな。いくらオレがかぼちゃ好きったってな、フルコースされたら食傷気味になるぜ」 ゲンマは苦笑いをして、プリンをすくう。 「え、今日の献立まずかった? ゴメンナサイ・・・」 「いや、悪くねぇって。冗談だよ。美味かったから、気ィ悪くしねぇでくれ。子供の頃に戻ったみたいで、照れくさかったんだよ」 を元気づけようと、ゲンマは子供の頃の食生活を話した。 誕生日は決まってパンプキンパイだったとか、ハロウィンは地獄のようにかぼちゃ責めに遭って嫌いになりかけた、とか。 楽しそうに聞いているを見て、ゲンマは安堵する。 「あははは。でもその地獄を乗り越えちゃったの?」 「あぁ。もう悟りの境地さ」 けらけら、とは笑う。 そんなを見て、ゲンマは、ふぃ、と唇をかすめ取った。 「なっ・・・ゲッ、ゲッ・・・」 は真っ赤になって、プリンのスプーンを取り落とす。 「オマエは笑っているのが一番良い。ずっとオレの傍で笑っててくれ」 ゲンマは悠然と微笑み、の頬を手で覆った。 「う・・・うん・・・」 そしてもう一度、ゲンマはに近付いていく。 はドキドキしながら、目を閉じた。 ゆっくりと、長い時間の口づけ。 は放心しかけた。 「まだ昼休み終わるまで時間あるな。横になっていいか?」 はらり、とゲンマは額当てを解く。 「え? うん」 ポケットの懐中時計を見たゲンマは、バスケットを片付けていたの膝を枕にして横になった。 「ちょ・・・っ;」 「昨日あんま寝てねぇんだ。少し眠る」 そう言って寝息を立て始めたゲンマを、は鼓動を逸らせながら見つめた。 こういうのって、気を許してくれてる感じが凄くして、嬉しい。 まじまじと眼下のゲンマを見つめる。 端整な顔立ち。 長いまつげ。 『色素薄いなぁ・・・あ〜ん、カッコイイ・・・』 薄い唇。 さっきまで自分の唇と触れ合っていた、と思うと、照れてくる。 思わず、先程の余韻に浸る。 このカッコイイ人が、恋人なんだ。 堂々と、彼氏です、って言えるんだ。 そう思うと、は嬉しくて、舞い上がりそうだった。 暫し時が経った。 ゲンマはピクリとも動かずに寝入っている。 でも、ゲンマはいつも眠りは浅いと言っていたから、何かあればすぐに目を覚ますだろう。 『忍びって大変だなぁ・・・』 ふと、ゲンマがの膝元に置いた時計が目に入る。 「後5分かぁ・・・もうちょっとこうしていたいのにな・・・」 が小さく呟いたその時。 「もうそんな時間か。熟睡してたぜ」 そう言ってゲンマはパチリと目を開け、むくりと起き上がった。 「ビックリした。熟睡してたって割には、私の声が聞こえたんだ?」 「忍びの習性でな」 落ちてくる前髪を掻き上げ、額当てを巻き直す。 千本をくわえ、ベストの前を締めると、立ち上がった。 「5分あるんなら、家まで送ろう」 そう言って、ゲンマはバスケットとシートを片付けて持って立ち上がったを抱き抱えようとした。 「え?! 何?! 飛び降りるの?! 何で?!」 は真っ赤になって、事態が飲み込めずに慌てた。 「その方が早いだろ?」 「い、いいってばっ。ちゃんと歩いて帰るよ」 はとてとてと、屋内に入ろうとした。 「う・・・」 ゲンマは何だか嫌そうだ。 「? どうしたの? ゲンマさん」 「・・・いや・・・ま、しょうがねぇ。行こう」 「?」 ゲンマはの持つバスケットを手に取り、小さなの肩を抱いた。 階段を下りていくと、昼休みから戻ってきた忍び達が、持ち場に戻ろうとしている所だった。 「あれ、ゲンマさん、外に食いに行かないなんて珍しいすね。あ、そのコが噂の彼女?! かっわい〜! 若ぇ〜! いいなぁ、紹介して下さいよ」 コテツとイズモが目を輝かせ、羨望の眼差しでゲンマとを交互に見た。 話し声を聞きつけて、それに群がってくる、他の忍び達。 「流石ゲンマさん、美人さんですねぇ」 教室に向かう途中のイルカも加わる。 「ったく・・・だからイヤだったんだ・・・」 ゲンマは眉を寄せ、千本を上下させる。 「名前教えて? オレ、イズモね。こっちはコテツ。アレはイルカ。それから・・・」 「えと、あの・・・です。宜しくお願いします」 真っ赤に照れながら、はペコリと頭を下げた。 たわわに揺れるふくよかな胸の谷間が艶めかしくて、ドキリとする。 「あ〜っ、もう、散れ散れ!」 に視線が集中しているのを見て、ゲンマは顔をしかめてを抱き寄せた。 「うっわ、あっつ〜い!」 「らっぶらぶ〜!」 「煩ぇ、仕事に戻れ!」 冷やかしの声を他所に、ゲンマはを腕の中に抱いたまま、ずんずんと歩いていった。 「ちゃ〜ん、友達いたら紹介してね〜!」 そんな声を背後に聞きながら、玄関まで来る。 「ったく、アイツら、がっつきやがって。悪かったな、」 「え? ううん。気にしてないよ。皆、気の良い感じの人達だね。ゲンマさんって人気者だね」 ゲンマからバスケットを受け取り、は微笑む。 「ま、オレはもう古参に入るからな・・・必然と知り合いも多いんだよ」 その時、チャイムが鳴り響いた。 「っと・・・時間か。今日は夕方上がれる。夕飯どうする?」 「あ、じゃあウチに来て下さい。違うお料理作って待ってます」 「そうか。悪ィな。じゃ、また後で」 「うん。じゃね」 が帰って行くのを見送っていると、ゲンマは視線を感じた。 「お別れのチューはしないのかコレ?」 「まだ付き合って間もないって感じよね〜」 「ぎこちない〜?」 覗き見ていた木の葉丸軍団だった。 「彼女と別れる時はチューするモンだコレ」 「オマエら・・・煩ぇよ。ガキがナメた口利くな。授業始まってんぞコラ! 教室戻れ!」 ったく、と息を吐いて、ゲンマは執務室に戻った。 一度家に戻って弁当箱を洗ったは、再び外に出て、商店街を歩いていた。 日用品の買い物をしながら、夕食の献立を考える。 「今夜は何にしようかな・・・」 そこへ、行く先にカカシが歩いているのを見つけた。 「あ・・・はたけさんだ」 カカシもに気付いた。 「あれ、ちゃん。今日はお休み? ゲンマ君とのお昼の帰り?」 相変わらず、イチャパラを手に読み耽っていた。 「他の連中が群がってこなかった? ゲンマ君に彼女が出来て、皆浮ついてるみたいだからさ」 「えへへ、まぁ。ちょっとビックリしたけど、ゲンマさん、私のことを大切にしてくれてるのが分かって、嬉しいです」 「じゃ、お付き合いは上手く行ってるんだね。良かった。キューピッド役としては、気になってたからね」 その言葉に、は含みのある笑顔を返す。 「? 何か問題あるの?」 「いえ・・・そういう訳じゃ」 「折角会ったのに立ち話も何だし、どっかお茶出来るトコに行こうよ。時間あるでしょ?」 「え、でもはたけさん、任務は・・・?」 「今日はもう終わったよ」 すっかり馴染みとなった茶処へ入り、席に着いた。 「へぇ、はたけさんって、今下忍の先生してるんですか?」 「うん。ホラ、つい最近、アカデミーの卒業だったでしょ? それで下忍認定試験があって、合格した連中が部下になったって訳」 「そっかぁ。それなら、任務も難しくないから、比較的時間が自由なんですね。じゃあ、もし私が何か任務を依頼することがあるようだったら、はたけさん達が来る場合もあるんですね」 お茶を含み、団子を手に取った。 「そだね。で? ちゃん、何か悩みでもあるの? 恋のお悩み任務受けるよ? 無料で」 「あはは。別に悩みって訳じゃないんですけど・・・ただ、お付き合いしてるんだから、もっと進展したいなぁ、とか・・・」 は真っ赤になって、ゴニョゴニョと呟き、団子を頬張る。 「恋する女のコなら、そう思うだろうね。ま、男も思うけどさ。キスは済んでるの?」 「えっ、はは、はい・・・」 はゲンマとのキスを思い出し、ボンッと真っ赤になる。 「ハハ。それくらいで真っ赤っかになってちゃ、ゲンマ君だってそう簡単に手出し出来ないよ。カナリ大事にしてるみたいだから」 「大事にしてくれてるのは凄く分かるんです。それは嬉しいんですけど、私が奥手だから段階踏んでるって言ってくれてるんですけど、ゲンマさん、大変じゃないのかなぁ、って・・・」 「あはは。男は色々大変なこと多いからね。お互い、気遣い合ってるんだね。ちゃんの方から、アピール出来ない? もういいよ、って」 「えっ。どど、どうやって・・・」 は真っ赤になって、しどろもどろになる。 「そっか。それが出来ないから、悩んでるんだよね。ゲンマ君も、おいそれと簡単には何かしてこないだろうしね。ちゃんをいじめるヤツを殺しかねない感じだから。普段デートとかって、どういうことしてるの?」 「えと、初めて食事に誘ってもらった時からそんなに変わってないんですけど、私がお休みの日に、お昼を一緒に食べて、時間まで、お買い物に付き合ってくれるんです。ゲンマさんには、いつも、服とかアクセサリーとか、一杯買ってもらっちゃって。告白してからは、前にお話ししたままです。今も変わってないです」 「って、お互いの家を行き来して夕食を一緒にしたり、たまに呑みに行ったりするけど、泊まったり何かしたり、は全然無し? 未だに?」 「はい。もっと恋人同士らしいこと、したいなぁ、って思うんですけど・・・」 「よっぽど大事にしてるんだねぇ。恋人っぽくっていうんなら、ゲンマ君の家で待ってて、夕食作っておいたり、とかはしないの?」 「合い鍵とか、貰ってる訳じゃないから・・・」 「え? まだ合い鍵も持ち合ってないの?」 「・・・はい・・・」 「確かに忍びの家は機密だらけだから、そう簡単に留守の家に入れたりは出来ないかも知れないけど・・・それは寂しいよねぇ」 気を許してくれてないのかな、って思っちゃうよね、とカカシは餡抜き団子を頬張った。 「でも、それも分かってるんで、それは良いんです。忍びと一般人だから、出来ることと出来ないことがあるだろうから」 「でも、ゲンマ君って、付き合う前からちゃんに服買ってあげたりしてるの?」 「え、あ、はい。スッゴイ沢山頂いちゃってます。高価な服も頂いたし」 「じゃ、いつも着てる服って、全部ゲンマ君が?」 「はい。ゲンマさんの見立てで、買って頂いた物です。ゲンマさん、センス良くて、全部気に入ってます。大切な宝物です」 ぴろ、と腕を広げてはカカシに着ている服を見せた。 「へ〜。それでも何もしてないんだ・・・」 「え?」 「だって言うでしょ? 男が女に服を買ってあげるのは、脱が・・・」 「あ〜っ、浮気現場発見〜!」 任務帰りのアンコが、道端から叫んでいた。 「アンコ?! 何言っ・・・」 はアンコを見て、前に昼頃にゲンマに絡んでいた、という特別上忍のくの一だ、と思い出した。 その時、は誤解して、泣いた覚えがある。 思い出すと、胸がちりちりした。 アンコはずかずかと入ってきて、団子を山盛り注文して、隣に座った。 「カカシィ、このコはゲンマのでしょ? ナァ〜ニナンパしてんの? ゲンマに彼女が出来て皆浮ついてると思ったら、アンタまでそうな訳?!」 出てきた団子を次々に頬張り、頬を膨らませてもごもごと喋り続ける。 「そういうんじゃないって。オレはこのコとゲンマ君のキューピッドなの。相談に乗ってるだけだから、ナンパじゃないって」 「キューピッドォ?! カカシがぁ?! らっしくな〜い!」 アンコの傍らに、食べ終わった串が山積みされていく。 「ウルサイよ。オレだってたまにはね・・・」 「イチャパラなアドバイスしてるんでしょ? このコウブっぽいから、激しすぎるんじゃないのぉ?」 「してないよ。普通にお話ししてます〜。それよりアンコ、ちゃんが思いっ切り退いてるって」 「あ、自己紹介まだだったわね。ゴメンゴメン。不審人物よね。私はみたらしアンコ。ゲンマと同じ特別上忍よ。ちなみに24歳。アンタは?」 唇をぺろりと舐め、アンコはニッコリ微笑んだ。 「あ、あの、です。ゲンマさんの家の近くの八百屋で働いてます。21歳です」 「わっか〜い! ゲンマとじゃ、犯罪じゃない。いいの〜? あんなオッサンで」 「ゲンマさんはカッコイイです! オッサンじゃありません!」 ぷく、とは膨れる。 「恋は盲目、ね。ま、いいでしょ。で? ゲンマとは何処まで行ってるの? 3丁目の角まで、とかギャグはいいからね」 「どこまでって・・・」 「だから〜、アンコ、今その相談に乗ってるの」 カカシの言葉に、は真っ赤になって俯く。 「あっそ。つまり、まだまだ清いお付き合い、な訳ね。お姫様は、その先に進みたい訳だ。でも奥手で、恥ずかしくてそれを言えない、と・・・」 ずばずば言い当てるアンコに、は呆気に取られる。 「呑みに行って、酔っぱらった勢いで迫っちゃえば〜?」 「え、でも、どうやったらいいか分かんないし、ゲンマさん強いから、私必ず潰れちゃって・・・」 「送ってもらって、それでも何もしないの? ゲンマって。大事にするにも程があるわね! そのナイスバディで抱きついて、甘えた声出せばイチコロでしょ! 確かにゲンマって里一の酒豪で酔っぱらったの見たこと無いけど、酒が入ってれば、多少は気が大きくなったり緩んだりするでしょ。狙い目はそこよ。ね?」 「オレもそれが良いと思うな。自分から何かするのが恥ずかしいなら、程よく酔っぱらって気が大きくなった時に、甘えてみせるだけで良いと思うよ。今度呑みに誘ってみれば?」 「・・・してるつもりなんですけど・・・ゲンマさんって、全然乗ってこなくて・・・」 言ってしまった後で、は照れる。 「そりゃ、相当悶々と溜め込んでるわね。もう一押しよ! 泊まってってぇv とかさ・・・」 「そうでしょうか・・・?」 「好きな女のコに甘えられたら、男は理性なんて飛ぶと思うよ」 我慢出来てるゲンマ君がおかしいだけ、とカカシも押す。 「っと・・・寄り道してる場合じゃなかったわ。報告書提出しなきゃ」 時計を見遣り、アンコは呟いた。 「あ、オレもそうだ」 「もうこんな時間? 私もお夕飯のお買い物しなきゃ・・・」 「じゃね、。首尾よく行ったら、報告しなさいよ?」 「アンコ〜、無粋なこと言うなって。じゃね、ちゃん。また今度」 「あ、有り難う御座いました」 茶屋の前で別れると、は色々と思案しながら、買い物に向かった。 すっかり暗くなった頃、ゲンマはの家にやってきた。 はアンコとカカシとの会話を思い出してしまい、妙に照れてしまう。 「どうした?」 「え、ううん! た、食べよ」 ゲンマに椅子を勧めると、はエプロンを外し、向かいに座った。 ゲンマも千本を置き、額当てを外し、ベストの前をはだけさせる。 「「いただきます」」 食卓に並んだ料理を見て、ゲンマは苦笑した。 「秋刀魚に茄子の味噌汁なんて、カカシ上忍呼んだみてぇだな」 「え? はたけさんって、秋刀魚と茄子のお味噌汁が好きなの?」 「あぁ。知らなかったか」 「そこまで親しい訳じゃないから。今日はたまたま偶然会って、ちょっとお茶したけど」 「あ〜、カカシ上忍、下忍のガキ共、ついに合格出したんだっけな。カカシ先生、って訳だ」 だから里にいることが多いんだな、とゲンマは味噌汁を啜る。 「私は卒業すら出来なかったからなぁ・・・ちぇ」 「でもま、飯は美味いし、仕事も不満ないしで、それはそれで結構じゃねぇか」 「そうだけど・・・忍びになれてたら、どんな風に人生変わってたんだろ、って思って」 「オレ達も違う出会い方してたんだろうな」 「お付き合い出来なかったかも知れないよね・・・」 「巡り合わせてくれた縁に感謝するってこった」 「そうだよね」 食べ終わって片付けている間、は、この後どう切り出そう、と悶々と悩みながら洗い物をしていた。 ゲンマは茶を啜りながら、時代小説を読んでいる。 「今年下忍になったヤツは、12だよな。と出会ったのも、オマエが12の時だもんな。オレは12の頃は中忍になってて、今の職務を引き継いでたな。あの頃はもういっぱしのつもりだったが、今12のガキ共見てると、まだまだ子供だったんだなぁ、って思うぜ」 感慨深げに、ゲンマは呟く。 「そっか。去年や今年下忍になったコを見ると、ゲンマさんと出会った頃の、ゲンマさんの立場なんだ、私。や〜、おばさんって思われてたらどうしよう・・・」 「コラ。オレの立場って、オマエ、オレがオッサンってことか」 「あはは。違うよ。ゴメ〜ン」 「ったく」 「今の下忍のコって、どういう感じなんだろ? 知ってるコいるかなぁ?」 「顔は知らなくても、名前くらいは知ってるってのがチラホラいるだろうな」 「例えば?」 「うちは一族の生き残りとか」 「5年前の事件の?」 「あぁ。うずまきナルトとかも分かるだろ」 「って・・・例の九尾を封印されたコでしょ?」 もうそんなに経ってるんだ、とは感嘆する。 「両方、カカシ上忍の受け持ちだ」 「へ〜。ナルト君って、別にナルト君が悪いことした訳じゃないのに、何で皆、ナルト君を軽蔑するんだろうね? おかしくない? むしろ、里を救ってくれた犠牲者なんだから、4代目と共に英雄って思うものじゃないの?」 「・・・オマエがそういう感性の持ち主で良かったよ」 自嘲気味に、ゲンマはを見つめた。 「え?」 「オレの目に狂いはなかったってこった」 「???」 きょとんとして、はお茶を啜った。 それから暫く、ゲンマはアカデミーでのナルトの珍騒動を話して聞かせた。 夜も大分更けてきた。 は笑いながらゲンマの話を聞きつつも、次第に鼓動が逸ってきていた。 『ど、どうしよう・・・どうやって切り出そう』 「さて、と・・・もう大分遅くなっちまったな。帰る。飯美味かったぜ。ご馳走さん」 立ち上がってテーブルに置いていた時代小説をポーチにしまい、ベストの前を正し、額当てを巻き直し、千本をくわえた。 玄関に向かうゲンマを、どうやって引き留めようか、は慌てた。 「あ、あの・・・ゲンマさん」 「ん?」 靴に足を通して、ゲンマは振り返る。 「と、と・・・泊ま・・・っ、ま・・・ま・・・」 「何だ?」 「ま・・・また明日ね」 「あぁ。また明日な。じゃな」 言えなかった。 “泊まってって”と言いたかったのに。 ゲンマは玄関のドアを開けて外に出た。 「待って!」 「ん?」 呼び止めたはいいが、何を言えば良いんだろう。 『オ、オヤスミのキス・・・なんて・・・言えない・・・っ』 真っ赤になって照れて俯いてしまったを見て、ゲンマは向き直り、の顎に手を掛けた。 くぃ、とを上向かせ、もう片方の手で千本を抜き取る。 『え・・・』 訳も分からなくなっている中、ゲンマは、ちゅ、との唇を塞いだ。 ポ〜ッとして溶けたようにゲンマを見つめる。 「なぁ」 「は、はいっ!」 “泊まってっていいか?”とか言ってくれるの? そう思って期待して待っていたら。 「明日の夜、呑みに行かねぇか? 先週の始めに行ったきりだろ」 「あ、はい。いいですけど・・・」 少々がっかりしたが、新たなチャンスが到来、と気持ちを切り替えた。 「じゃ、仕事が終わる頃、店まで迎えに行く。オヤスミ」 「あ、オヤスミナサイ!」 明日こそは頑張る、とは決意を新たにした。 キスの余韻に浸りながら・・・。 一方、帰る途中のゲンマ。 「チィ・・・また今日も渡せなかったぜ・・・」 自分のアパートまで来て、鍵を取り出す。 キーホルダーに、同じ鍵が2つ。 「明日の夕方、何かいいキーホルダー買って、それ付けて渡そう・・・」 ゲンマも決意を新たにして、中に入ったのだった。 |