【焼餅―出会い編―】







「今日は何処で食うかな・・・」

 昼休み、ゲンマは昼食を摂る店を考えながら、くわえ楊枝で手をポケットに突っ込み、フラフラと歩いていた。

「いつもの店じゃ代わり映えしねぇし、たまには変わったトコに行くか・・・」

 商店街のど真ん中にある大衆食堂に入り、早飯で食べ終わると、ゲンマはそのまま商店街を歩いて戻ることにした。

 行く先々で、妙な噂を耳にする。

「カカシさんもようやく身を固める気になったんだねぇ」

「大層な美人じゃないか。カカシさんじゃなくてもコロッと行くだろうよ」

「小さい頃からのあのコを知ってるだけに、幸せそうで何よりだよ」

 カカシ結婚説が、あちこちで飛び交っている。

「カカシ上忍が結婚だぁ・・・? そんな話は聞いてねぇな・・・だが火のない所に煙は立たねぇよな。今まで浮いた噂一つねぇあの人が、イキナリ結婚か? 何か嘘くせぇな・・・」

 確かにこの辺はカカシ上忍の家の近くだが、と怪訝に思いながら、ゲンマは執務に戻った。









 ゲンマは、火影に頼まれた書類を抱えて執務室をノックした。

「誰じゃ」

「ゲンマです」

「うむ。入れ」

「失礼します」

 ドアのところで一礼し、火影の元に歩み寄る。

「こちらが、ご依頼の書類です」

「うむ。手間をかけさせたな。ご苦労じゃった」

 大量の書類を火影の机に置くと、ゲンマは強い視線を感じた。

 火影の隣に、若い女が座ってじっとこちらを見つめている。

 すらりと伸びた白く長い手足に、腰まで届く長い絹糸のような漆黒の髪、吸い込まれそうな大きな闇色の瞳。

『何者だ? この女・・・見たことも無い顔だが・・・』

 大層美しい女だったが、何よりもその汚れを知らなそうな清らかな瞳が印象的な女だった。

 ゲンマが怪訝な顔をして見据えると、女は、ニコッと微笑んだ。

「じゃ、火影様、お仕事のお邪魔しちゃ悪いから、帰りますね。お忙しいのに付き合っていただいて有り難う御座いました。また明日も来ていいですか?」

「おぅ。儂も楽しかった。いつでも来ると良い」

 火影は女の微笑みにつられて笑みを返し、一礼して去っていく女を見送った。

「火影様、何者です。今の女性は・・・」

 足音をさせない、いや気配を感じさせないその女を訝しみ、ゲンマもつられて後ろ姿を見送る。

「うむ? いや何・・・儂の話し相手じゃよ。美しい娘じゃろう?」

「はぁ・・・」

 また火影様の女好きが始まったのか、などと失礼なことを考えながら、ゲンマも一礼して執務室を後にした。

 ロビーまで行くと、女は掲示板脇の地図を見上げていた。

「歩いていける距離だな・・・」

 よし、と女は長い黒髪を翻し、歩いていった。

 ゲンマは訝しげに、女の見ていた地図に目を遣った。

「演習場所在地図・・・? 演習場に行くつもりか? あの女・・・」

 執務中だったゲンマは、どうでもいいか、とアカデミーに向かった。









 夕方、アカデミーでの執務をあらかた終えたゲンマは、小休憩しよう、と茶を淹れて一服しながら、窓辺に立った。

 教室のある方向に目を遣ると、昼間見掛けた女が外をウロウロしているのを見つけた。

 何かに気付いたように、とてとてと小走りで駆け寄っている。

「何だ・・・?」

 不思議に思ったゲンマは、女の駆けていく先に目を遣った。

 準備室の窓が開き、イルカが顔を出す。

 真っ赤な顔で照れながら対応するイルカと、にこやかに微笑んでいる女の様子を、茶を含みながら見ていた。

「イルカの知り合いか・・・? 彼女って感じじゃねぇし、アカデミーの生徒って言うには歳がいってる・・・」

 ゲンマは何となく、その女が気になったが、自分には関係ない、と机上を片付けて執務室を後にした。









「そうだ、暇潰しに本でも買っていくか・・・」

 簡単な、しかし重要な届け物任務を終えたゲンマは、ふと思い立ち、屋根の上を駆けていた足を止め、眼下の商店街に降り立った。

 昼間来た商店街。

 やはりカカシ結婚説で持ちきりだった。

「やっぱり嘘じゃねぇのか・・・? しかし里一のエリートの結婚となりゃ、本人の一存だけで簡単には済まねぇよな・・・大体忍び仲間が誰も話題にしてないってのがおかしい。火影様も何も仰ってなかったし・・・これだけ噂になってるってこたぁ、何かしらあったんだろうな。でも、昨日今日会った女と結婚する訳ねぇよな、カカシ上忍が。浮いた噂が全然無かったってのに、密かに付き合ってた女がいたとか・・・?」

 嫌でも耳に入ってくる噂話を総合すると、相手は大層な美人で、傍から見て焼けるほど、ラブラブらしいということ。

「カカシ上忍がラブラブだぁ・・・? 想像もつかねぇな・・・」

 カカシと言えば、遅刻が多いことで有名で、元来気楽と言うか呑気でいつも飄々としているが、だが触れればカミソリのようにいつも研ぎ澄まされている、そんなイメージだった。

 とても女とラブラブするようには思えない。

「でも普通に女と歩いてるだけでここまでは言われねぇよな・・・つい最近まで何もなかったのに、何があったんだ、一体・・・?」

 色々と思考を巡らせながら、別にオレの気にすることでもない、とゲンマは本屋に向かった。

「今日はどれにすっかな・・・」

 歴史小説の棚を品定めしていると、1人の女が隣の生活書の棚で取っ替え引っ替え取り出し、悩んでいるようだった。

『あれ? この女・・・』

 例の長い黒髪の女だった。

 よく会う日だ、とゲンマは女を見遣った。

「ん〜・・・」

 何やら迷っているらしかった。

 声を掛けるべきか否か、ゲンマは悩んだ。

 ゲンマの視線に気付いたのか、女はふと顔を上げてゲンマを見上げた。

 大きな闇色の瞳が、きょろんとゲンマを見つめる。

 吸い込まれそうになりながらゲンマも見つめ返すと、女はニコッと微笑んだ。

「昼間、火影様の所でお会いしましたよね」

 女は、その美しい風貌に違わず、甘く柔らかい声をしていた。

 別に火影様相手だからあぁいう声をしていた訳ではないのか、とゲンマはその柔らかさに心地好さを覚えた。

「あぁ・・・覚えてたのか。何か悩んでいるようだが・・・何を探している?」

「あの、お料理の本を探してるんです。でも一杯あって、どれがいいのか分からなくって・・・」

 一冊買うのに迷っちゃって、と女は照れ笑いをした。

「料理? どういう本がいいんだ?」

 ゲンマは手に取っていた小説を脇に挟み、料理の本を手に取る。

「えっと、私、お料理って全然したことなくって、一から分かるのがいいんですけど」

「独り暮らしでもするのか?」

 大体22〜3ってトコだよな、この女は、と何冊か順にパラパラと捲りながら、ゲンマは尋ねた。

「いえ。男の人が喜んでくれるようなご飯作りたいんですけど」

「彼氏か?」

 ニヤ、と高楊枝でゲンマは不敵に笑う。

「彼氏? あの、一緒に住んでる人なんですけど、お料理作って食べて欲しくって」

 同棲でも始めたばかりか、とゲンマは何冊か候補を選ぶ。

「初めてで分かりやすくて、男が喜ぶような料理を作りたいなら、この辺だな」

 ゲンマは数冊の本を女に見せる。

「う〜ん・・・」

 女は再び悩み出した。

「どれがいいんでしょう?」

「オレに言われてもな・・・この辺が妥当じゃねぇか?」

 ゲンマが差し出したのは、“これから始める・新婚新妻の優しい手料理”というものだった。

「新婚気分出すんなら、いいと思うぜ」

 どれも似た系統だったので、一番分かりやすそうな物をゲンマは選んだ。

「あ、有り難う御座います! それにします」

 にぱ、と笑って女は手に取り、鼻歌まじりに頁を捲った。

「おい・・・オレの決めたのでいいのか?」

「自分1人じゃ分かんないですし・・・男の人がこれがいいって言うんなら、いいと思って。あ、分かりやすいや・・・コレ買います! 有り難う御座いました」

 ペコ、と頭を下げて女はレジに向かった。

 ゲンマも買う本は決まっていたので、女の後ろに並んだ。

「おや、カカシさんのトコのお嬢さんじゃないか」

 店主の言葉を聞いて、ゲンマは仰天した。

『まさか・・・この女が・・・?』

そう言われれば合点がいく。

 火影の所にいた。

 噂通りの、目を見張る程の美人だ。

 一緒に住んでいる男に料理を作りたいという。

「カカシさんに手料理を作りたいのかい? お熱いことで、羨ましいねぇ。カカシさんも喜ぶだろうよ」

 ビンゴだ。

「えへ。初めてだから、頑張ります」

 会計を済ますと、女はゲンマに頭を下げ、嬉しそうに店を出て行った。

「今の女、カカシ上忍の結婚相手か?」

「ゲンマさん、いつも贔屓にどうも。そうだよ。昨日から仲良さそうに里中を案内して回っていてねぇ。里の人間じゃないようだし、任務で出会って一目惚れして連れてきたんじゃないかと思ってるんだがね」

 カカシ上忍が一目惚れ?

『有り得ねぇ・・・』

 胡散臭く思いつつ店を出ると、女は道の真ん中でまだウロウロしていた。

「どうした? 迷子にでもなってるのか? カカシ上忍の家なら向こう・・・」

 ポン、と買った本で女の頭に軽く触れ、ゲンマはカカシの家の方向を指した。

「あ・・・いえ、あの・・・エプロンって、何処に売ってますか?」

「あぁ? エプロンだ?」

「お料理するのに必要でしょ? 昨日カカシせんせぇに大体案内してもらったけど、何処に売ってたかなぁって・・・」

「何処でも売ってるぜ、そんなモン。服屋とか、生活雑貨屋とか、総合衣料品の店とか、色々・・・どういうのが欲しいんだ?」

「え・・・エプロンってそんなに色々種類あるんですか?」

 そんなことも知らないのか、とゲンマは少々呆気に取られる。

「すみません・・・私、何も知らなくって」

 照れくさそうに、女ははにかんだ。

 顔立ちからして、異国人というのは分かる。

 変わったチャクラも持っている。

 だが、だからといって何故カカシ上忍はこの女と結婚するというのか?

 いくら美人とは言え、一目惚れはどうも信じ難い。

 何か訳ありだな、とゲンマは思った。

『どこかの貴族の姫か何かか・・・?』

 だとすればこの稀に見ない美しさも、世間一般の物事を知らなそうな点も、合点がいく。

「えっと、男の人ってどういうエプロンが好きですか?」

 思案に耽っていると、女が尋ねてきた。

 闇色の大きな清らかな瞳が、請うようにゲンマを見つめている。

「オレに訊いてどうするんだ。オレは関係ねぇだろう」

 吸い込まれそうだな、と思いながらゲンマは吐き捨てると、女は瞳を潤ませて考え込んでいた。

「ったく・・・さっき買ったその本に出てくるモデルが来ているようなのを選んだらどうだ? 何処の店にでも売ってるぜ。分からなければ、店員に聞けばいい」

 ゲンマのアドバイスに、女はぱぁっと花が咲いたような笑みを見せた。

「有り難う御座います! そうですよね! カカシせんせぇも喜んでくれるかなぁ」

 何処の店に行こう、と途端に嬉しそうに、女はキョロキョロと見渡す。

「さぁな。カカシ上忍の好みまでは知らねぇよ」

「あの・・・カカシせんせぇのことご存じなんですよね? 同じ格好してるし・・・」

 女は大きな瞳でゲンマを見上げた。

「ん? あぁ。仕事仲間だが。そういうオマエはカカシ上忍の何だ?」

 これ幸い、とゲンマは尋ねてみた。

「何って・・・何でもないですけど・・・」

「結婚相手じゃないのか?」

「え? 結婚? 違いますぅ」

「違うって・・・一緒に住んでる男ってのはカカシ上忍だろう? カカシ上忍に手料理を作りたいんだろう?」

「そうですけど、私はただの居候です」

「居候?」

 益々訳が分からなくなった。

「あっ、もうこんな時間。早く夕食の材料も買わないと。色々教えていただいて有り難う御座いました」

 時計に目を遣った女は慌ててゲンマにペコリと頭を下げると、近くの衣料品店に駆け込んでいった。

「えっ、おい、待てよ・・・」

 置いてきぼりを食らったゲンマは、何だったんだ、と頭を掻くと、消化不良のような面持ちで、息を一つ吐いて帰っていった。











 翌日の昼休み終了間際、食事から戻ってきたゲンマの執務室に、イルカがやってきた。

「ゲンマさん、午後イチで特別講義をお願いしてましたよね」

「あぁ、今資料を揃えている」

「それなんですが、彼女を見学させてやってもらえませんか?」

 イルカが呼び寄せたのは、昨日の女。

 ペコ、と頭を下げると、女はニコッと微笑んだ。

「オマエ・・・」

 ゲンマは少々驚き、目を見開いた。

「あれ? ゲンマさん、ご存じでしたか?」

「少しな」

さんと言って、カカシ先生の所でご厄介になってらっしゃる方です。火影様からもお許しをいただいて、アカデミーの授業を見学させてるんですよ。さん、こちらは特別上忍の不知火ゲンマさんです。時々、アカデミーでもこうして特別に講義をしていただいてるんですよ」

「こんにちは。です。昨日は色々教えていただいて有り難う御座いました」

 紹介を受け、再びペコ、と頭を下げ、は微笑んだ。

「礼を言われる程のことはしてねぇよ。まぁいい。付いてこい」





 ゲンマの特別講義を最後方の席で見学したは、熱心に聞き入り、終わると、軽やかにゲンマの元に歩み寄ってきた。

「ゲンマさん、とても勉強になりました。有り難う御座いました」

「そうか。アカデミーの見学って、忍者にでもなるつもりか?」

「まだ分かりませんけど、視野には入ってます」

 ゲンマは、には訊いてみたいことが沢山あった。

って言ったな。オマエ、今日はこの後はどうする気だ?」

「えっと、まだ里のことがよく分からないんで、探検がてらお散歩しようかなって思ってます」

「時間があったら、少しオレの執務室にこねぇか?」

 茶ぐらい出すぜ、とゲンマは教材を揃えて教室を出ようとした。

「え・・・いいんですか?」

「訊きてぇこともあるしな」

 途端に嬉しそうな満面の笑みを見せるに、ゲンマは少々呆気に取られた。





 アカデミー奥の特別上忍執務室のゲンマの部屋にを通すと、ゲンマはに椅子を勧め、茶を淹れた。

「美味しいですね、このお茶」

 ふ〜ふ〜と冷ましながら、こくこくとは茶を含む。

「あっ、昨日からご飯作り始めたんですけど、結構上手くできたんですよ! カカシせんせぇも美味しいって言ってくれたんです。エプロンも可愛いの買って、似合うって言ってくれたし。嬉しくって」

 極上の笑みで、は嬉しそうに話した。

「そうか。それは良かったな。ところで、訊いていいか?」

 くわえ楊枝で椅子を軋ませながら、ゲンマはを見据えた。

「? 何ですか?」

「率直に訊く。オマエは、何者だ?」

 鋭い瞳が、射抜くようにを見据えた。

「えっと・・・そうですよね。私って不審人物ですよね」

「いや、そこまでは・・・」

「何から話せばいいかな・・・」

 暫し考え込んだは、掻い摘んで、ゲンマに説明した。





「記憶喪失の異国人か・・・」

 不思議なこともあるもんだな、と、ゲンマは想像していたよりスケールの大きい話だったので、頭の中を整理するのに時間がかかった。

「昨日も商店街の人に説明して回ったんですけど、長くなるから、行きずりの行く当てのない異国人、って言ったんですけど」

 何か誤解されてたから、とははにかむ。

「そういや、さっき行ったら噂は消えてたな。まぁ里の人間にまで詳しく話す必要は無いだろうから、それでいいだろう。イルカは知ってるんだな?」

「ハイ。昨日お話ししました。やっぱり、結婚相手だと思われてたみたいで」

「何をどうしたら、そう間違えられるんだ? 噂じゃ、傍から見て焼ける程ラブラブだって聞いたが・・・」

「ん〜・・・何ででしょうね?」

 分かりません、とは微笑む。

「腕組んで歩いてたとかか?」

 まさか、知り合ったばかりの男とそんなことはねぇか、とゲンマはシニカルに笑う。

「え、腕組むと結婚することになるんですか? そっか〜、だからなんだ・・・」

 カカシせんせぇも慌ててたもんな〜、とは人差し指を顎に当てて邂逅する。

「いや、だから結婚じゃなくてだな・・・」

 会話を交わしていて、ゲンマは一つの考えに突き当たった。

 この女は天然すぎる。

 世間の常識を分かっていない。

 記憶喪失以前の問題だ。

 とても20代の大人の女性とは思えない。

「しかしな、オマエはカカシ上忍とは出会ったばかりだろう? 何故そんなにも気を許せる?」

「えへ。カカシせんせぇの温もりって、すっごく気持ちいんですv 腕の中とか、とっても心地好くって。安心するんです」

 満面の笑みで、は言い放つ。

「腕の中って・・・まさか一緒に寝てるとかなのか?」

「最初の日は一緒に寝たんですけど、私が勝手にカカシせんせぇ連れてきちゃったから、ダメって言われちゃって。でも、私、カカシせんせぇの温もりを感じてないと眠れないんで、一緒に寝ようとするんですけど、ダメって言うんです。あ、私は寝室借りてるんですけど、カカシせんせぇは居間のソファで寝てるんですよ。一緒にベッドで寝ようって言ってるのに、何でダメなんだろう」

 しゅん、と口を尖らせては呟いた。

「そりゃ、普通はダメって言うだろう」

「何でですか? カカシせんせぇもそう言ってた。過ちを犯したりするといけないからって。何でダメなんですか?」

 ゲンマは、この天然なにどう説明したら分かってもらえるだろうかと、カカシの苦労をくみ取った。

「連れてきたってどういうことだ? 何かしたのか?」

「あ、あの、何か私、変わった力があるみたいで。カカシせんせぇのこと、気を失わせちゃったんです」

「カカシ上忍を? それ程の力があるのか?」

 確かには、変わったチャクラをその身に宿している。

 だが、仮にも里一とまで呼ばれているカカシをどうこうできる程の力なのか? と見定めるようにを見つめた。

「特殊能力を持ってるのか? 他に何が出来る?」

「えと、治癒って言うんですか? 怪我を治したりとか・・・」

 思うところがあるように、ゲンマはくわえていた千本を腕に突き刺した。

 じわりと血が滲み出てくる。

「これ治してみろ」

「え・・・ハイ」

 イルカせんせぇと同じことするなぁ、と思いながら、は傷口に手をかざした。

 見る見る傷口は塞がっていき、の醸し出す空気が柔らかで心地好く、治療と共にチャクラも回復させてくれたのが分かった。

 チャクラが漲り、沸き立つような感覚だ。

 治療の際に解放されたのチャクラの強さから、かなりの能力者だ、とゲンマはを見据える。

「火影様に、もし自国に帰る術が見つからなかったら、医療忍者としてこの里で生きて行けって勧められたんです。それでアカデミーを見学させてもらって、どうしようか考えてるんですよ」

 でもまだ分からないことだらけだから、里に慣れる方が先ですけど、とは微笑む。

「そうだな。まぁ、オレで良かったらいくらでも相談に乗ってやるよ。大抵此処にいるから、いつでも来い」

 不安定で危なっかしいを見て、ゲンマはもっと大勢の支えがには必要だ、と感じた。

「えっ、いいんですか?」

「火影様にも世話になっているんだろうが、火影様もお忙しいだろうし、そういう時には、オレで良ければいくらでも話し相手になってやるぜ」

「有り難う御座います! まだ知り合い少ないから、嬉しいです!」

 の笑顔を見て、年に似合わない程無邪気な女だ、とゲンマは思った。





 この時は、それ程深くと関わり合うとは、ゲンマは思っていなかった。