【焼餅―葛藤編―】







 それからもちょくちょくとゲンマは昼食を共にし、腕を組んで仲良さそうに街中を歩いていた。

 執務の合間を縫っては街に買い物に行き、に買い与える。

 ゲンマの家の近所では、ゲンマが結婚するのでは、という噂が持ち上がっていた。

 の忍び装束を注文しに来たついでに、パジャマを一着しか持っていないというので、替えを買おう、ということになった。

「最近よくいらっしゃいますね。ご結婚されるんですか?」

 すっかり顔馴染みになった店員に、何処に行ってもそう言われる。

「ん〜まぁいずれな」

 ゲンマは、敢えて否定はしなかった。

 も気にしていなかった。

「でも、どっちかっていうとゲンマさんはお兄ちゃんって感じかな」

 店を出て、歩きながらは呟いた。

「あ?」

「何も知らないお馬鹿な私に色々教えてくれるんだもん」

「じゃあオマエはオレの妹か?」

「お兄ちゃんって呼んでいい?」

「気持ち悪ィからやめろ」





 ゲンマには、昔妹がいた。

 乱世の頃、戦争で亡くした。

 下忍になりたての、元気な男勝りの妹だった。

 でも、笑顔が愛らしかった。

 生きていれば、丁度と同じ歳くらいだった。

 妹と重ねて見てるのかも知れない。

 に兄と言われて、改めて気が付いた。

 妹が生きていたらしてやりたかったことを、代わりににしているのかも知れなかった。





『妹か・・・』

 に対する感情が何なのか、ゲンマは今一つはっきり掴めていなかった。

 愛や恋とは違うと思っていた。

 じゃあ何だ?

 ゲンマは、を妹のように愛しく思っていたのだ、と気付かされた。

 溜飲が下りたような気がした。

 危なっかしい妹を見守る兄の気分だったのか、とゲンマは苦笑する。





「ゲンマさん、その千本をピュッてやるコツ教えてよ」

「オマエにはまだ無理だ。その前にもっと手裏剣とクナイを力強く正確に投げられるようになれ」

「ちぇ〜。カッコイイのに〜」

 はここ最近、随分と忍びらしくなってきていた。

 執務の合間に体術を見てやっているのだが、はカカシとの修業の他にも何かやっているようだった。

 尋ねても、秘密、と言って教えてくれない。

 だが、体裁きを見ていて、おおよその見当はついていた。

『コピーして真似てるから、バレバレだよな・・・』

 敢えて指摘はせず、ゲンマはゲンマの指導方針を取った。

「やぁ、ゲンマさんが教えてたんですか。通りでさん、最近益々忍びらしくなってると思いましたよ」

 稽古を覗きに来たイルカが感嘆した。

「手裏剣の投げ方が、ゲンマさんに似てるんでもしやと思ってたんですが。カカシ先生といい、さんは良い指導者に恵まれてますね」

「オマエだってその1人だろ? イルカ。随分熱心に教えてるじゃねぇか。イルカの授業が一番楽しいって言ってるぜ」

「え、そうですか・・・いやぁ、嬉しいなぁ。教師冥利に尽きますよ」

「ゲンマさ〜ん、どぉ? ちゃんと真ん中に刺さったでしょ? あっ、イルカせんせぇだ!」

 にぱっと笑ってが駆け寄ってくる。

「ダメだ、まだ浅ぇよ。もっと腕力つけろ」

 それじゃ敵に致命傷与えられねぇ、とゲンマは吐き捨てる。

「女性の非力さじゃなかなか難しいですよねぇ」

「甘やかすな、イルカ。忍びに男も女もねぇよ」

「ハハ・・・手厳しいですね」

「もっと頑張るよ。力こぶ出来るくらいにならなきゃね」

 むん、とは拳を握り締めて腕を曲げる。

 相変わらず細い腕だ、とゲンマもイルカも思った。











「ゲンマさん、たまには一緒にご飯食べようよ」

 執務室で、は茶を飲みながらゲンマを誘う。

「あ? 昼に一緒に食ってるだろうが」

 高楊枝で、椅子を軋ませる。

「じゃなくてぇ、晩御飯! 1人じゃ寂しいでしょ?」

「別にガキじゃねぇし、寂しい訳あるか。慣れてるから気にするな」

「私が一緒に食べたいのぉ! カカシせんせぇと一緒に3人で食べようよ。大勢の方が楽しいよ」

「カカシ上忍が嫌がるんじゃねぇのか? と2人っきりがいい、って」

「いいの。今度ウチに来て? いつでもいいから。ゲンマさんが来てくれたら、かぼちゃのフルコースにするよ」

カカシせんせぇには一杯我慢させられてるから、それくらいいいでしょ、と請うようにゲンマを見つめる。

「かぼちゃで誘惑すんな。いいよ、別に」

「え〜。来て来てv」

 立ち上がってはゲンマの後ろに回り、椅子の背もたれ越しに首に絡みついた。

 豊満な胸が押し付けられても、ゲンマは顔色一つ変えない。

「ったく・・・しょうがねぇな。分かったよ。任務明けにカカシ上忍の家に行けばいいんだな?」

「うん。わ〜い! かぼちゃのフルコース〜♪」

 ったく、とゲンマは息を吐いた。











 任務が早めに終わったゲンマは、との約束通り、カカシの家に向かった。

 に出迎えられると、むせ返るほどのかぼちゃの甘い匂いに、嫌でも空腹と鼻がくすぐられる。

「すげぇな。マジでフルコースかよ」

 柄にもなく、ゲンマはウキウキして食卓と調理台を眺めた。

「かぼちゃは身体に良いもんね〜♪」

 カカシせんせぇも早く帰ってこないかな〜、とは鼻歌まじりに調理を進める。

「そういや、カカシ上忍はオレが来ること知ってるのか?」

「ううん。驚かせようかなと思って」

「じゃあ、驚かせついでに、いいこと教えてやる」

 ニヤ、と何かを企んだゲンマは、そっとに耳打ちした。

「へ〜っ。作ったことないや。喜んでくれるかなぁ」

 クックックッ、とゲンマは笑いを堪えている。

「なぁに? 何かあるの?」

「いや、ちょっとな・・・」

「あ、まだ早いけど先にお風呂沸かしておこうかな。もう暑いから、すぐには冷めないだろうし」

 調理の手を止めたは、パタパタと浴室に向かった。

 戻ってきて、棚を漁って探し物をしているにゲンマは尋ねた。

「カカシ上忍は一緒に風呂に入ってくれるようになったか?」

「ううん。何度言ってもダメ、ダメ、の一点張りなの。あ、温泉行った時に、男らしくな〜い、って言ったら行ってくれたから、今度そう言ってみようかな」

「ダメなものはダメって言いそうだな」

「かなぁ? ちぇ。相変わらず一緒に寝てくれないしさ。つまんないよ」

 一緒に寝た〜い、お風呂入って背中流しっこした〜い、とは膨れる。

「オレなら付き合うぜ?」

「カカシせんせぇとがいいのっ」

「そうか。じゃ、根気強く頑張れ」

 ニヤニヤとゲンマは高楊枝で言い放った。









 任務を終えたカカシは、今日の夕飯のメニューは何かなぁ、と心を躍らせながら、家路を急いでいた。

 家の前に降り立つと、芳しい香りが空腹を呼び覚ます。

 ドアノブに手を掛けると、何やら中から話し声が聞こえた。

「何だ? 誰かいるのか? ナルトでも呼んだか・・・?」

 珍しいな、と思いながらドアを開けた。

「ただいま〜」

「「あ、おかえりなさ〜い」」

 カカシの目に飛び込んで来たのは、エプロン姿のと、食卓につくゲンマ。

 とハモってニヤニヤしながらカカシを出迎える。

「ゲンマ君・・・何でキミがウチにいるの・・・」

 明らかにがっくりしたように、カカシは玄関先で項垂れた。

「お邪魔してますよ、カカシ上忍」

 相変わらずニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら、ゲンマはくわえ楊枝でカカシを見据えた。

「一緒にご飯食べようと思って、呼んだの。カカシせんせぇに話したら嫌がると思ったから、内緒にしてたんだ」

 待ってて、もうすぐ出来るから、とは調理に戻った。

「いや、別に嫌がりは・・・」

「だって、この前ゲンマさん呼ぼうって言ったら嫌そうな顔してたじゃない」

「すみませんねぇ、お2人の愛の巣にお邪魔して。がどうしてもって言うんでね」

 着替えてきたらどうです? と促すと、ゲンマもベストを脱ぎ、額当ても外して椅子の背もたれに掛け、くわえ楊枝のままを手伝った。

 その様子が余りにも自然で、お似合い、に見えたので、カカシは嫉妬に駆られる。

 ぶすくれながら、カカシは着替えに向かった。

 戻ってくると、すっかり食卓が調っていた。

「じゃ〜ん! かぼちゃのフルコース〜♪」

 身体に良さそうでしょ、とは笑顔満面。

「お・・・美味しそうだね・・・」

 ゲンマのかぼちゃ好きはカカシも知っていたので、ゲンマの為の料理じゃないか、とカカシは少々面白くなかった。

「ゲンマさんにね、一杯レシピ教わったんだよ。ビタミンAは目にいいんだよね。カカシせんせぇ、いっつも片目だから眼精疲労になってるかなって思って。少しでも良くなるように、これからもっと栄養バランスに気を付けるね」

 でも今日は特別、とご飯をよそっていく。

「食べよ〜♪ いただきま〜す」

 自分の為を思ってる、と分かって少し気をよくしたカカシは、席に着いて食卓を見て固まった。

「かぼちゃの天ぷらって美味しいんだって。一杯作ったんだよ。カカシせんせぇも沢山食べてねv」

「う・・・うん・・・」

 ニッコリ微笑んで、は食べ始めた。

 ゲンマも千本をテーブルに置いて、狼狽えるカカシの様子を眺めてニヤニヤと笑いながら料理に手を伸ばす。

「どぉ?」

「美味いよ。なかなかのモンだ」

 ゲンマとは会話が弾み、カカシは熱い新婚家庭に邪魔してる気分になって、自分の家だというのに落ち着かなかった。

 仕方無しにボソボソと食べるが、美味しかったので少し心が和らぐ。

 が。

 食事が進むに連れて、は気付いた。

「あれぇ? カカシせんせぇ、天ぷら全然食べてないね。美味しいのに。食べてよぉ」

 不自然に避けて他のメニューばかり食べているのが、の目に留まってしまった。

「え・・・あ・・・うん・・・」

 そう言いつつ、カカシは天ぷらの隣の煮物に手を伸ばす。

「あ、また避けた。何で?」

「美味しいですよ、カカシ上忍。食べたらどうです?」

 ニヤニヤと、ゲンマは天ぷらを口に放り込む。

「う・・・」

「折角ゲンマさんが教えてくれたのに」

 わざとだな、とカカシは恨めしそうな目でゲンマを睨んだ。

 ゲンマはしれっとして目を逸らす。

「カカシ上忍の天ぷら嫌いは有名だからな」

「え〜っ、そうなのぉ? 嫌いならそう言ってよぉ。ウジウジして男らしくな〜い! いいもん、ゲンマさんと2人で食べるから」

 折角一杯作ったのにな、とは頬を膨らませた。

「た、食べるよ!」

 恐る恐る天ぷらに手を伸ばしたカカシは、目を瞑って、えぃっ、と口に放り込んで、モグモグゴクン、と一気に飲み込んだ。

 お吸い物で一気に流し込む。

「そんなに無理して不味そうに食べなくていいよ〜。ゲンマさん、一緒に全部食べちゃお?」

 口を尖らせるは、プン、とゲンマの方を見遣って笑みを向け、カカシを無視してゲンマとの会話を楽しみながら食べていった。

『ゲンマめ・・・』

 所在なげに、カカシは1人ぽつんと食を進めた。

 すっかり綺麗に平らげた食器類を流しに持っていくと、水に浸けてはもう一品、テーブルに載せた。

「食後のデザートだよ〜。パンプキンパイ! 砂糖は控えめにして、かぼちゃ本来の甘みをベースに作ったから、甘い物が苦手でも食べられると思うから、食べてね」

 小皿とフォークを用意し、包丁を手には微笑む。

「あぁ、オレが切り分けるよ。カカシ上忍、これなら食べられるでしょう? の料理をちゃんと食べなかったんですから、洗い物はカカシ上忍がやって下さいね。は座ってろよ」

 から包丁を受け取り、ゲンマは手際よくパイを切り分けていった。

「え? うん。分かった」

「分かったよ・・・ゲンマ君、オレに意地悪して楽しんでない?」

 口を尖らせて、カカシは小皿のパイを受け取った。

「別に。何でオレが意地悪なんてするんです? カカシ上忍に。何か心当たりでもあるんですか? されるようなこと」

「え〜っ、もしかしてカカシせんせぇとゲンマさんって仲悪いの?」

 ゲンマから小皿を受け取ったは、わ〜い、と嬉しそうにフォークを入れ、あ、お茶入れるね、と気が付いて席を立った。

「別に悪くなんかねぇよ。強いて言えば、カカシ上忍がオレを避けてるだけで」

「いや、べつにそんなつもりないよ。ゲンマ君を嫌ってる訳じゃないって。ただ・・・」

「ただ? 何?」

 の大きな闇色の瞳が、きょろんとカカシを見据える。

「あ・・・いや・・・その・・・」

「オレとオマエが仲良くしてるのが気にくわないのさ、カカシ上忍は。そうでしょう?」

 ニヤニヤと笑いながら、ゲンマは茶を受け取った。

「別に、そう言うつもりは・・・あのさ、ゲンマ君」

「何です」

「いつも言ってるでしょ、その敬語やめてって。ゲンマ君は年上なんだから、タメ口でいいってのに」

「それは出来ませんね。ケジメですから」

 パイを口に放り込み、ムグムグと味わう。

「何でよ。アカデミーの卒業同期じゃない」

 カカシも茶を飲みながら、パイに口を付けた。

「ゲンマさんっていくつでアカデミー卒業したの?」

 あ、美味しくできてる、ともパクパクと食べていった。

「8つだったかな。カカシ上忍とは3つ違いだから、5つで卒業したカカシ上忍とは一緒だったんだよ」

「へ〜っ」

「だからタメ口で構わないじゃないよ」

「でも、1年後には中忍になったアナタと違って、オレは3年かかりましたからね。その後は大きく水を開けられる一方ですから。里一のエリートなんですから、自覚を持って下さいよ」

「ゲンマ君はその才能を見込まれて、特殊任務に就いてるんじゃない。特別上忍だ上忍だ、は関係ないでしょ。任務に就けば部隊長を務めるんだから、ゲンマ君は優秀な忍びなんだからオレなんかに気兼ねしないでよ」

「オレがどういう言葉遣いしようが勝手でしょ」

「普段はぶっきらぼうなくせに、頑固だなぁ」

「アナタが気楽すぎるんですよ。遅刻癖、何とかして下さい」

「話をすり替えないでよ。今の話題はタメ口きいて、でしょ」

「ったく、だから、さっき完結させたじゃないですか。オレの自由でしょ、って」

「それにさ、敬語使うんなら、普通オレのことは“はたけ上忍”って言うもんでしょ。ゲンマ君の言い方はど〜も引っ掛かるんだよね、その“カカシ上忍”っての」

「その辺だけ砕けてる、ってコトでいいじゃないですか」

「じゃあついでにタメ口!」

「それは出来ませんね」

 2人のやり取りを、は楽しそうにニコニコと眺めていた。

「やっぱり仲いいんだねv 兄弟喧嘩してるみたいv」

「あぁ?」

 兄弟喧嘩がどうして仲いいに繋がるんだ、とゲンマは息を吐いた。

「お互い、何でも分かり合ってるって感じv」

「気持ち悪ィこと言うな」

「ゲンマ君・・・お兄ちゃんって呼んでいい?」

「やめて下さい」

 あはははは、とは高らかに笑った。

「やっぱり大勢で食べるって楽しいね。普段見れないモノ見れたし、カカシせんせぇ可愛いv」

「男が可愛いって言われてもねぇ・・・」

「オレは?」

「ゲンマさんはカッコイイv」

「その差は何なの、・・・」

「ん〜、オットナ〜、って感じかな」

 私のお兄ちゃんだも〜ん、とは嬉しそうに微笑んだ。

 とゲンマの楽しそうなやり取りに嫉妬しながら、カカシは食器洗いを始めた。











 今日もまたはゲンマと昼食を食べに行く。

 食事の為に、くわえている千本をテーブルに置く様子を、は繁々と見つめていた。

「ゲンマさんって、何でいつも千本くわえてるの?」

 いつも気になってたんだよね、と食事を頬張りながらゲンマに尋ねた。

「ん〜? 昔からの癖でな。口寂しいのか、ってからかわれるけど」

「口寂しくて千本はくわえないと思うけど」

 殺傷能力低くても、刃物だよ? とは千本を見遣る。

「オレも生きてきた時代が悪かったからな。常に死と隣り合わせで過ごしてきた。何処にでも武器携帯は必要だったから、まぁ身を守る為かな」

「でも、何かいつも気を張ってる感じで、疲れない?」

「慣れちまったよ、とっくに」

 忍びの習性、悲しいサガだよ、とゲンマは付け加える。

 食べ終わったは、ひょいっとゲンマの千本を手に取り、くわえてみせた。

「おいっ、返せよ」

「ゲンアはんのまめ〜♪」

「あのなぁ・・・」

「くひのにゃかいひゃいよ、ゲンアはん」

「何喋ってるか分からねぇよ、返せ。ったく」

 の口が切れないように顎を掴んで口を僅かに開けさせ、ゲンマはゆっくりと千本を抜き取って自分の口にくわえた。

「あ〜。折角ゲンマさんの真似してたのに〜。口の中痛いよ。ゴロゴロする。間違って刺したり切ったりしない?」

「しねぇよ。慣れてるっつっただろ」

 帰るぞ、とゲンマは席を立った。





 腕を組んでウキウキと歩きながら、は甘味処に目を遣った。

「あ、ゲンマさ〜ん、お団子食べたい!」

「今昼飯食ったばかりだろうが。腹壊すぞ」

「甘い物は入るの〜♪」

「ったく・・・女は甘いモンは別腹って言うからな。オレはあんまり甘いモン好きじゃねぇし、茶だけなら付き合うぜ」

「え〜っ、かぼちゃ好きなのに、かぼちゃ甘いよ?」

「あんことか砂糖たっぷりってのが苦手なんだよ」

 渋々と入った団子屋で、はゲンマの分の団子も美味しそうに頬張った。

「美味し〜♪」

「ったく・・・太るぞ」

「あ、やっぱり? 最近ココがおっきくなって、困ってるの」

 はおもむろに自分の豊満な胸を掴んでみせた。

「邪魔なんだよね〜、食べすぎかなぁ? ご飯美味しいし・・・」

「それはちっと違うと思うが・・・ウエストとかきつくならねぇのか?」

「え? ううん」

 全女性が羨ましがりそうだな、とゲンマは深く息を吐いた。

「・・・で、いつまでくわえてる気だ、その串」

 は食べ終わった団子の串をくわえたまま、プラプラさせていた。

「えへ。ゲンマさんの真似〜♪ これなら痛くないモンv」

「ったく・・・妙な真似すんな」

「兄妹っぽく見えるかなぁ?」

「んなモンで見えるか」

 いい加減にもう帰るぞ、とゲンマはのくわえている串を抜き取って皿に置き、店を後にした。





 相変わらずはゲンマの腕に絡みついてくる。

 最近、の笑顔が殊更眩しかった。

 はゲンマを兄のように慕っている。

『兄か・・・』

 を妹代わりにあれこれするのは楽しかった。

 天涯孤独になって久しい。

 といると、家族が出来たようで心が温かくなる。

 最初出会った時は、ここまで親しくなるとは思っていなかった。

 今日は何をしよう、今後どうしていこう、考えるのが楽しかった。

 カカシとの仲を取り持つのも楽しんでいた。

 どんどん仲を深めていっているようなので、カカシもどんどんに惹かれていっているのが分かって、これからはどのようにに教えていこう、と考える。

がまだちゃんと自覚してないのが今後の課題だな・・・』

 ゲンマにとって、は妹だった。

 一緒にいると、兄妹気分を味わえた。

 だが、最近やたらとの笑顔が眩しい。

 美しさに目を奪われる。

『まさかな・・・』

 ふっとよぎった考えをゲンマは否定する。

 はカカシを好きだ。

 愛や恋という感情にまで発展しているかはともかく、特別な思いで好いている。

 カカシのへの思いは、言うべくも無い。

 ゲンマも、この2人には幸せになって欲しいと思っている。





 それなのに。





『・・・この先は・・・考えちゃいけねぇよな・・・』

 その思いが何なのか、誰も知る術はなかった。

今日もの笑顔は眩しかった。

 明日もきっとそうだろう。

「ゲンマさ〜ん、また一緒に晩御飯食べようねv」





 ・・・ヤベェな、オレ。







END.