【偶然の出会いと必然の・・・】 第一章









 カカシは往来を歩きながら、イチャバイに読み耽っていた。

 先程寄ってきた病院を思い出す。

『しっかし、九尾の力ってホント凄いね。みるみる治っていくんだから。ま、それでも3ヶ月は安静、だろうけどね』

 サスケとの戦いで重傷を負ったナルトを見舞ってきた。

 結果、サスケは姿をくらました。

 大蛇丸の元へ行ったのだろう。

 もっと早く、追いつけていれば。

 自責の念でカカシは目を伏せる。

 忙しなく任務に飛び交っていた日々も、大分落ち着いてきた。

 里も活気を戻しつつある。

 ナルトは怪我が完全に良くなれば、自来也と共に修行の旅に出るという。

 サクラは、医療忍者を目指しているらしく、5代目に弟子入りした。

 サスケは里を抜け、大蛇丸の元。

「第7班・・・バラバラ、か・・・」

 ふと呟く。

「オレも新技でも研究するか・・・」

 イチャバイを読みながら、人生色々に向かって歩いた。

「きゃっ」

 色々考えながらも夢中で読み耽っていたカカシは、うっかり行き交う人とぶつかってしまった。

「おっと、失礼」

「いえ、こちらこそ、不注意で」

 よろけた相手の女性を空いた腕で抱き留める。

 そしてついまじまじと見つめてしまった。

 綺麗な人だなぁ、とカカシは見惚れた。

 緩やかにうねった背中越しの栗色の髪、豊かな膨らみのバストに反して、華奢な細腰。

 髪と同じ栗色の大きな瞳が、カカシを見上げていた。

「・・・あれ? もしかして・・・サクモさん? はたけサクモさんですよね?」

 何やら安堵の声でカカシを見つめる小さな女性に、む、とカカシは眉を寄せた。

「良かったぁ〜。やっと知ってる人に会えたわ! 何でか分からないけど、誰も知ってる人がいなくて・・・」

 喋り続ける女性を、カカシは低い声で遮った。

「・・・それはオレの父親です。人違いですよ」

 そんなに似てるのか、とカカシは陰で舌打ちする。

「え?! 違うの?! 父親?! どういうこと?! サクモさんは30歳くらいでしょ? 弟、とかじゃないんですか?」

「違いますよ。オレは不肖の息子です」

 綺麗だと見惚れたのも束の間、カカシは面白くなさそうに吐き捨てた。

「何〜? 訳分かんない。此処って、木の葉の里でしょ?」

 困ったような顔で女性はカカシを見上げた。

「そうですよ。火の国の隠れ里、木の葉隠れの里です」

「そうですよね? でも、建物とか、全然私の見覚えのないモノばかりで・・・。病院も綺麗だし、アカデミーは大きくなってるし、火影岩も増えてるし・・・ホントに此処、木の葉の里なの?」

「オレには、そうですとしか言いようがないんですが・・・」

 カカシは嫌な予感がよぎったが、非現実的だ、と打ち消した。

「今日一日、此処をずっと歩き回ったんですけど、ホントに未知の世界みたいなんですよ。道は区画整理されたみたいに増えてるし、何処に行っても、この辺にあったと思う建物はないし、知らない建物になってるし、私の住んでいた家もなくて、雑貨屋さんになっていたし・・・もう疲れちゃった。知らない国に迷い込んだとしか思えないわ」

 カカシは、脳裏に浮かんだことが引っかかって、恐る恐る伺い立てた。

「あの、つかぬ事をお尋ねしますが」

「はい?」

「今の火影は何代目?」

「え・・・3代目でしょ? でも、3代目の隣の顔岩は何? 誰?」

「いやまぁ、火影様のお年はいくつか分かります?」

「え〜と・・・40を過ぎた頃だったかしら」

「あ、はぁ・・・アカデミーの最初の増築はいつ?」

「えっと・・・10年くらい前だったかしら。それから数年後にくの一クラスって言うのが出来たのを覚えているわ。私は一般人だけど。だけど、さっき見てきたアカデミーは全然違ったわ。何で?」

「そ、それは置いといて・・・ラーメン一楽って分かります?」

 テウチさんが二十歳の頃始めたんだけど・・・と思いながら尋ね続ける。

「え、知りません。有名な店なんですか?」

「九尾って知ってます?」

「キュウビ? 何ですか? 食べ物?」

「あの・・・ずっと木の葉にお住まいで?」

「えぇ。生まれも育ちも、ずっと木の葉です。でも、此処は知らない国みたい」

「お仕事は何を?」

「病院勤務の助産婦です。でも、見てきた病院は綺麗で大きくて、知らない人ばかりでした。ついこの間、アナタにそっくりなサクモさんの奥さんのイナホさんのご出産をお手伝いして・・・サクモさんにそっくりな可愛い男の子でした。確か名前は、カカシ君って付けたって最近聞きましたけど」

 カカシはクラリとして、信じがたい現実が直視できなかった。

「え、もしかして・・・」

 目を丸くして、カカシを見つめる。

「あの・・・オレがその、カカシです」

「え・・・えぇ〜〜〜っ?!」

 女性は大層驚いた顔をして、悲鳴を上げた。

 行き交う人々が、何事か、と振り返る。

「ど・・・どういうこと・・・?」

「あのですね、聞いた話から、アナタの仰ってる話は、どう考えてもオレの生まれる前後の出来事ばかりなんですよ」

「つまり・・・それって・・・」

「非現実的ですけど、タイムスリップしてきたとしか、思えません」

「た、タイムスリップ?! そんな、作り話みたいな・・・まさか・・・」

 女性はパニくって、頭を抱えた。

「え〜と。取り敢えず、何処かの茶屋に行きましょう。往来で立ち話も何ですから」

「は、はぁ・・・」

 カカシはイチャバイを閉じてポーチにしまい、女性を促して茶屋に向かった。









 茶屋に来て座り、団子と茶が運ばれてくると、カカシはテーブルの上で手を組んで、乗り出した。

「改めまして。オレははたけカカシ。26歳です。木の葉の上忍です。アナタは?」

「あ、はい。です。27歳です。木の葉病院で助産婦をしています」

 団子にも手を付けず、不安そうな表情でと名乗った女性は呟いた。

さんね。じゃ、まず、おかしいな〜って思う前、何をしてました?」

「え〜とですね、薬剤師の同僚と一緒に、薬草を採りに、里の外れまで行ってました。鬱蒼とした山の中で、薬草を摘んで回っていて、帰ろうかなって思った時に目眩がして、一瞬膝をついたんです。少し目を瞑ったまま休んで、目を開けたら傍にいた筈の同僚が居なくて、捜し回っても居なくって、先に帰ったのかなって思って戻ってきたら、知らない国に来たみたいに全然見覚えのない建物ばかりで、カカシ君に会うまで、ずっと彷徨いてました」

「里の外れって・・・もしかして、北東かな?」

「そうです。よく効く薬草が、一杯生えてるんです」

「そっか・・・北東の山間って、よく神隠しの噂があるんだ。信じられないことだけど・・・さんは、其処の時空の歪みから、26年後の木の葉にタイムスリップしてきたんじゃないかな」

「そんな小説の中の出来事みたいなこと・・・ホントにあるんですか? 信じられない」

「でも、そうとでも考えなければ、辻褄合いませんよ」

 カカシとは、揃って、はぁ、と息を吐いた。

「これから、どうしたらいいの? どうやったら帰れるのかしら」

「えっと・・・じゃあ、まずはさんの居た北東の外れに行ってみましょうか? 上手く行けば、時空の入口が開くかも知れないですから」

 帰れるかも知れないし、とカカシは席を立つ。

 おっと、何も手を付けずに出るのは失礼だ、と慌てて団子を頬張り、茶を飲み干した。

「口布の下もそっくりですね、サクモさんと。瓜二つだわ。サクモさんはお元気ですか?」

 カカシを見て慌てても団子を食べ、茶を啜った。

 カカシはの問い掛けには答えずに、会計を済ませてきた。

「・・・ま、それは置いといて。行ってみましょう。しっかり掴まってて下さいね」

 店を出て、カカシはを抱えると、屋根の上に跳び上がった。

「きゃあっ」

「ゆっくり行きますから、ダイジョーブ」

 ニコ、と微笑んで、カカシは駆けていく。

「きゃあ〜〜〜〜っ!!!!」









 鬱蒼と茂る木々。

 夕暮れの朱も射し込まず、薄暗い。

 南国と言っても、季節は秋の終わりなので、山間では肌寒かった。

 あっという間に北東の外れに来て、カカシはを下ろした。

「ゆっくり行くって、嘘つき! 死ぬかと思ったわ!」

 はぁはぁ、とは高揚し、息を切らしている。

「え、そう? ごめんね〜。じゃ、ちょっと辺りを見てみますか・・・」

 そう言っておもむろに、カカシは写輪眼を露わにする。

 真摯な瞳で、注意深く周囲を見て回った。

「カカシ君のその左目って何? 色が違うけど」

 時空の歪みを見つけられるの? とは伺う。

「ん〜まぁ、色々あってね」

 一般人は流石にうちは一族の写輪眼を知らないか、と思いつつ歩き回る。

 カカシは広範囲に渡り、大分彷徨き回った。

 が不安そうに、後をついてくる。

「何か見つかった?」

「ん〜・・・ところどころ、空間が歪んだりはしてるよ。でも、後を付いてきてるさんの身体が何も反応しないから、ダメなのかも」

「そっか・・・」

「この辺はくまなく歩いてみたけど、そう頻繁に開くものじゃないのかもね。持久戦で、暫くは此処で生活するしかないんじゃないかな」

 額当てで左目を覆い、を振り返った。

「そんなぁ・・・」

「取り敢えず、5代目に相談しよう。戻ろう、さん」

「え? 5代目って?」

「今は、火影は5代目なんですよ。さんは5代目のこと、多分知ってると思うけど・・・」

「そうなの?!」

 驚いてるを再び抱き抱える。

 華奢で細くて、しっかり抱き留めておかないと、落としそうだった。

 恥ずかしそうに、はきゅっとしがみつく。

 余程怖かったのだろう、目を瞑って身体を硬直させている。

 カカシはそれを見て、来た時よりも更にゆっくり、中心地に戻った。















 火影邸まで来てを下ろし、階段を上っていった。

「多分まだ執務室にいらっしゃるだろう」

 部屋の前まで来て、ドアをノックする。

「開いてるよ」

「失礼します」

 カカシは室内に入り、軽く頭を下げた。

 は恐る恐る、後ろにくっついて付いていった。

「カカシか。何だ?」

 綱手は目を通していた書類から目を上げ、カカシを見遣った。

 ふと、カカシの後ろにくっついているが目に入る。

「アレ・・・アンタ、もしかして・・・さん? 助産師の・・・って、んな訳無いか。さんの娘さんかい? そっくりだねぇ」

「って・・・あ! 綱手さん! 5代目って、綱手さんだったの?! そっか、三忍って言われてたもんね・・・でも、全然変わってない! 何で?!」

 綱手を見て驚いたは、声を張り上げた。

「5代目は、今は50歳だよ。20代に化けてるんだ」

 ヒソ、とカカシはに囁く。

「あ、成程・・・そうだよね」

「ん? 何か言ったか? カカシ」

「いえ、何も」

 しれっとして、背を伸ばす。

「5代目、彼女のことで、ご相談がありまして」

「・・・何だ? 所帯を持とうってのかい?」

「違いますって、もう」

 カカシの瞳が真摯だったので、綱手は姿勢を正した。

「彼女は、正真正銘、5代目のご存じの、さんです」

「・・・どういうことだい? さんは、私より3つくらい上だった筈だよ」

 そこでカカシは、俄には信じられないような、事の次第を綱手に話した。

 が、26年前の木の葉から来たことを。

「タイムスリップか・・・確かに、そうとでも思わなければ、納得がいかないね。まぁ、神隠しの噂は多いし、昔話にもなっている。そういうことがあってもおかしくないだろう」

さんが行った里の外れにも行ってきましたが、ダメでした。開く周期とかあるのかも知れません」

「あるいは、もう戻れないか、か・・・」

 綱手は手を組み、頬杖をついた。

「そ、そんな・・・」

「こればかりは、私にもさっぱりだ。暫くこの世界で暮らすしかないだろう」

 そのうち戻れる時が来るかも知れないさ、と綱手はを見遣る。

「でも、私、自分の家が何処にあるのか分からないんです。あった筈の場所になくて・・・家族は何処にいるのかも・・・」

「あぁ・・・九尾の時に里は壊滅的に追いやられたからねぇ。あれをきっかけに、里は大分様変わりしたからね。だから役場に当時の記録が残ってるかも怪しいが、取り敢えず役場に行ってみな。運が良ければ、分かるかも知れないよ」

 カカシ、案内しておやり、と綱手はカカシを見遣った。

「は」

「何かあったら、いつでも来ると良い。相談に乗ろう。カカシ、取り敢えず任せるよ」

「はい」

「有り難う御座います・・・!」









 退室し、2人は役場へ向かった。

 終業間近で慌てて駆け込み、戸籍課に尋ねる。

「26年前の、住民台帳ってある?」

「26年前ですか? 生憎、九尾の時に、台帳は殆ど燃えてしまって、残っていないんです。九尾の件が片付いた時に、改めて住民登録して頂きましたから」

「あぁ、そう言えばそうだっけ・・・じゃあさ、今、木の葉にさんって言う家あるか分かる?」

さん、ですか・・・珍しい苗字ですから、調べやすいですね。少しお待ち頂けますか」

 そう言って職員はパソコンに向かった。

「ふと今思ったんだけどね・・・」

「何?」

「もしかしたら、今木の葉の何処かに、53歳のさんがいるのかなぁ、って・・・」

「あ!」

「そしたら、どうなるのかな?」

「やだ・・・どうなるの? 私が53ってことは、両親は70代くらいってこと? 生きてるのかしら」

「う〜ん・・・九尾の事件で、多くの人間が死んだからねぇ。最悪、家族が生きていないどころか、さんもいないかも・・・」

「え〜、何かそれも嫌〜! って、九尾の事件って何?」

「後で話すよ」

 職員が立ち上がって戻ってきた。

「どうだった?」

「ありませんね」

「え? 無い?」

「はい。現在、木の葉には、さんというお宅はありません。九尾の時に、亡くなられたのかも知れません」

「そう・・・有り難う」

 そう言ってカカシはを伴い、役場を出た。

「参ったね。手掛かり無しだよ。現代のさんの消息も分からないんじゃ、お手上げだ」

「生きてるのかどうかも分からないんですね・・・なんか未来が不安になってきた・・・」

「そだよね。死ぬって言うビジョンが明確になるんだもんね。さて、どうしよっか・・・もう大分暗いし。夕飯食べに行こう」

 動き回って、お腹空いたでしょ? とカカシはを見遣った。

「そう言えばずっと何も食べてない・・・力抜けそう」

「近くに美味しいラーメン屋があるんだ」

 オレに掴まっていいよ、とカカシはポケットに手を突っ込んだ肘を曲げて隙間を作った。

は真っ赤に照れながら、おずおずとカカシにしがみつく。

 の豊かな膨らみが押し付けられて、カカシはドキリとする。

 悟られないようにコホンと一つ咳払いをして、一楽に向かった。









「おや、カカシさん、いらっしゃい。珍しいね。ナルトが入院中で全然来ないから、寂しいよ」

 テウチはカカシの姿を見ると、笑った。

「そうですね。今日、病院に見舞いに行ったら、一楽のラーメンが食べた〜い、って駄々こねてましたよ」

 ラーメン2つ下さい、と注文する。

「お連れの方が居るんだね・・・って、アレ? 何処かでお会いしたような気が・・・」

 テウチはまじまじとを見つめ、考え込んだ。

「知ってるの? さんのこと」

さん? って言うのかい? もしかして・・・さん家のさん? 助産婦やってた・・・って、確か儂より10くらい上だったような・・・」

「実は・・・」

 と、カカシはテウチに事情を説明した。

「タイムスリップ? 今の世の中は分からないねぇ。成程・・・そんなことがホントに起こるのか。じゃ、正真正銘、本物のさんか。覚えてないかな、近所に住んでた、テウチだよ」

「え・・・もしかして、あのテウチ君? そう言えば面影が・・・」

「何だ。案外、知り合いって見つかるモンだね。此処に来て良かったよ。ねぇ、さんの家族がどうなったか、知らないかな」

 何処かに引っ越したとか、九尾の事件でどうかなったとか、とカカシは尋ねる。

「さて・・・儂が10代半ばくらいの頃は近所に住んでたが、儂はラーメン屋を始める為に、修行に出たからねぇ。だが、九尾の頃には、確かもうさん家はなかったよ。いつからかは覚えてないが、行方は分からない。スマンね」

 すまなそうに、テウチは注文されたラーメンを置いた。

「そう簡単に手掛かりは見つからないか・・・長期戦で行くしかないね。さ、食べよ」

 頂きます、とカカシは手を合わせる。

「テウチ君、そのお嬢さんって、テウチ君の娘さん?」

 も頂きます、と食べながら、テウチに尋ねた。

「あぁ、儂の娘だよ。アヤメという。17だ」

 紹介を受け、どうも、とアヤメは頭を下げた。

「取り上げたの・・・私じゃない? 別の人?」

「あぁ・・・そう言えば、その頃にはさんはもう病院には居なかったなぁ。さんが助産婦になりたての頃、儂が大きくなって結婚して子供が出来たら、さんに取り上げてもらう、って冗談混じりに約束してたね。覚えてるかい?」

「覚えてるわよ。でも、その約束は果たされなかったんだね・・・ごめんなさい」

「謝ることじゃないよ。冗談で言ってたんだから」

「奥さんは・・・?」

「九尾の時にね。それ以来、アヤメと2人暮らしだよ。って言っても、さんは九尾を知らんのか」

「何度も九尾って言葉聞いてるけど、何なの? 一体。戦争?」

 麺を啜りながら、カカシを伺う。

 カカシは既に食べ終わっていた。

「いや。12年前にね、巨大な九尾の妖狐が、木の葉を襲ったんだ。しっぽが9本ある、狐の妖怪だよ。それで木の葉は壊滅的に追いやられてね、メチャクチャだったよ。大勢の人が死んだ。その時の火影だった4代目が、命を賭して九尾を封印してくれて、平穏を取り戻したんだ。今でも英雄って呼ばれてるよ。ただ、その時に4代目は亡くなって、3代目が再び火影に戻ったんだ。でも、つい先日、戦争で亡くなられてね。5代目が就任したのも、つい最近のことなんだ」

 カカシは過去を邂逅し、思いを馳せた。

「そんなことが・・・。4代目ってどんな人?」

さん知ってるかな。木の葉の黄色い閃光って」

「あ! 聞いたことある。よく知らないけど」

「オレの先生だったんだ」

「へぇ・・・それにしても、つい最近も戦争だったなんて、3代目が亡くなられる程なんて、見た感じ平和そうなのに、まだまだ危険が多いのね、世の中」

 ラーメンを食べ終わり、コップの水を含んだ。

「ようやく落ち着きつつあるところだよ。この26年の間だって、何度戦争があったことか・・・未来だって、楽観は出来ない状態だけどね」

「大変なのね。あ、ゴチソウサマでした。すっごく美味しかった」

 ニッコリ微笑んで、礼を言う。

「そうかい、良かったよ。またいつでも食べに来ておくれ」

 当分居るんだろう? とテウチも微笑み返す。

「はいv」

「さて、これからどうしようか」

「宿にでも泊まります。何処か紹介して貰えます?」

「え、でも・・・お金持ってないでしょ?」

「持ってるわよ。お給料貰ったばかりだったから。ホラ」

 そう言って、はポケットの財布の中身を見せた。

「あ〜・・・。あのね、そのお金、今は使えないんだ。九尾の後で、変わってね」

「あ、そうなの? でも、換金できるでしょ?」

「いや、古い紙幣と新しい紙幣が交換できたのは、5年前までなんだ。だから今は、持っていてもただの紙切れなんだよ。コレクターがいれば替えてくれるかも知れないけど、なかなかねぇ」

 それに、戻った時の為に残しておいた方が良いよ、と助言する。

「そ、そんなぁ! じゃ、私って無一文?! 此処で暮らしてくって、どうすればいいのよ〜!」

「う〜ん。取り敢えず、ウチにおいでよ。出会ったのも何かの縁だし、5代目に頼まれた手前、責任持って面倒見るよ。ね?」

 カカシは代金を置き、ホラ、これが今のお金ね、とに財布の中身を見せた。

「いいの? お邪魔じゃない?」

 ホントだ、全然違う、オモチャみたい、とまじまじと見る。

「全然。オレ、独身で独り暮らしだから、気軽だし。あ、でも、さんが独り暮らしの独身の男の家なんて嫌だったら、お金貸すから宿屋探して・・・」

「気にしないわ。私はカカシ君を取り上げたのよ。遠慮無くお邪魔します」

「そう言われると複雑だなぁ・・・何か照れるね。じゃ、行こうか。近くだよ」

「うん。テウチ君、アヤメちゃん、また今度ね」

「あぁ。早く戻れると良いね」

 ひらひら、と手を振って、カカシの後をついていく。

 無意識に、カカシの腕に絡ませた。

 カカシはドキリとして、目を泳がせる。

「と、取り敢えず、着替えとか、必要な物買って帰ろう。オレん家には、流石に女性の服なんて無いから」

 そう言ってカカシは衣料品店に促す。

「ゴメンネ、お金借りとくね。家事とかは全部私がやるから。それと、仕事見つけて、働いて・・・」

 それで返す、とは店内を見渡しながら、カカシに言った。

「ま、そう焦んないで。お金のことは気にしなくてい〜よ。オレ、あんまり使わないからさ。これでも高給取りだから、ヘーキヘーキ」

「でも・・・」

「さ、選んで選んで。着替えの服何点かと、パジャマと、それと下着も何点かね。オレには選べないから、さんが好きなように選んで」

 歯ブラシとか日用品も後で買おう、とカカシは華やかな色取り取りの服を眺めていた。

「綺麗な服ばっかり。文明は進んでるのねぇ」

 目移りしちゃう、とは迷っていた。

「流石に26年は長いでしょ。おぎゃ〜って言ってた赤ん坊が上忍で教職に就くくらいだもん」

「浦島太郎気分だわ」

 買い物を済ませ、別の店で日用品を買い、商店街で食料を買い、帰宅した。









「さ、上がって。自分のウチだと思ってい〜よ」

「お邪魔しま〜す」

 珍しそうに、きょろきょろと見渡す。

 カカシは食材をしまい、寝室に案内する。

「この部屋使って。買ってきたものは、さっき買ったこの収納ケースに入れると良いよ」

 そう言ってベッドの傍らにケースを置く。

「いいの? このお部屋借りて」

 物の少ない殺風景な部屋だなぁ、と思う。

 取り敢えずベッドの上に荷物を置くと、カカシは値札を取る為のはさみを手渡した。

「うん。隣にも部屋あるし。安心してい〜よ、夜這いなんてことしないから」

「アハハ。信用してるって。サクモさんの子なら、信頼できるから」

 値札を取り終わり、収納ケースにしまっていく。

「・・・一日歩き回って、疲れたでしょ。お風呂沸かすから、その間、今の木の葉のことや歴史を話そう。予備知識入れとかないと、困るでしょ。お茶入れるから、おいで」

 ダイニングに戻り、テーブルに着く。

 出されたお茶を啜りながら、カカシは掻い摘んで、今の木の葉のことと、大まかな歴史をに話して聞かせた。

「・・・何か、分厚い本一冊読んだ気分だわ。全部掌握しきれない」

 飽和しそう、と息を吐く。

「ま、すぐ全部は大変でしょ。今はこういう状態だってことだけ分かってればいいと思うし」

 湯加減見てくるね、とカカシは席を立つ。

さん、風呂熱くても平気?」

「ダイジョブよ。あっついくらいがいいわ」

 いつでもどうぞ、とカカシは額当てを外し、ベストを脱いで隣の居間に置きに行った。

 カカシを見つめるは、くすくすと笑う。

「? ナ〜ニ?」

「カカシ君って、ホントにサクモさんにそっくりね。顔立ちもそっくりだけど、喋り方までそっくり。声も似てるしね、ホントにサクモさん見てるみたい。親子って、こんなにも似るものなのねぇ。サクモさんはお元気なの? 一緒に暮らしてないの?」

 の問いに、カカシは顔を曇らせる。

「・・・そんなに似てる? オレ」

「うん。額当てと口布無いと、見間違うくらい」

 カカシが顔の大部分を隠すのを、面影を重ねられるのが嫌だからと言うことを、は知らない。

「サクモさんはどこに住んでるの? お会いしたいわ」

「・・・父は・・・死にました。オレが6歳の頃に」

 20年くらい前です、と目を伏せ、低い声で呟く。

「えぇっ?! ホントに?! 木の葉の英雄だったのに・・・戦争で?」

 驚くの問いに、カカシは答えずに目を伏せる。

 聞いてはいけないことなんだ、と判断し、は、ゴメン、と一言呟いた。

 暫し流れる沈黙が痛い。

「お、お風呂もらうね!」

 そう言って寝室に駆け込むに、ハッとカカシは我に返る。

「すぐ上がるから、お先失礼するね!」

 浴室に消えていくを見届けて、我知らず息を吐く。

「・・・まだ吹っ切れないのか、オレは・・・」

 湯飲みと急須を洗うと、居間に戻ってソファに沈み込んだ。









「カカシ君、上がったよ・・・って、この部屋ってソファだけじゃない! 私がベッド占領して良いの?!」

 おろしたてのパジャマに身を包んでやってきたは、そっとドアを開けると、声を上げた。

「だって、女性をソファで寝させる訳に行かないでしょ。男としては。オレは忍びだし、何処でだって寝られるから平気だよ。気にしないで」

 イチャバイを読みながら、手を振るカカシ。

「でも・・・! 私、居候なんだし、ソファで充分よ!」

さん、友人のトコに一泊してく訳じゃないでしょ? この里で暮らしていくんだから。ちゃんとベッドで寝てちょ〜だい。オレのメンツも考えてよ」

「分かった・・・ホントにご迷惑お掛けします。不束者ですが宜しくお願いします」

 ペコ、とは頭を上げた。

「あぁ、いや、こちらこそ・・・」

 振り返るとの胸の谷間が目に飛び込んできて、カカシは鼓動が跳ねた。

「あ、その、ま、こうやって出会ったのも何かの縁でしょ。遠慮しないで、気楽にね」

 じゃ、オレも風呂に入るから、オヤスミ、とカカシは立ち上がる。

「あ、うん。オヤスミ。遠慮無くベッド使わせて頂きます」

 ととと、と居間を出て、寝室に戻った。

 カカシは着替えを持って、浴室に向かう。

 そして2人とも、考え込む。





 さて、これからどうなっていくのかな・・・。





 偶然出会った2人、奇妙な縁で、カカシとの共同生活が始まった。