【キッカケ・2(後編)】







「中忍試験? もうそんな時期なんだ」

 休暇の間、とカカシは毎日のようにデートした。

 里を色んな角度から見て、改めて、守っていく気持ちを引き締めている。

 2人の仲は、心は近付いていったけれど、まだ触れるだけのキスのみ。

 がまだ17歳の為、カカシもまた、清く正しいお付き合いをする、と決めている。

 男の本能は、押し殺していた。

「確か、ゲンマ兄さんって本戦の審判やるんだよね。私の時もそうだったし。カカシ先輩のトコのコ達は出るの? まだルーキーだけど」

 見晴らしの良い小高い丘で、は隣のカカシを見上げる。

「一応、推薦はしたよ。それだけの力は持ってると思うからね。どんな風になるやら、今から楽しみだよ」

「へぇ。私も携わりたいなぁ。本戦の護衛役、ウチの班にならないかなぁ」

と出会えた場所だもんね。そう思うと、気持ちも改まるよ」

「そうだね」

 風になびく髪を、は手で押さえつける。

 その仕草がとても可愛くて、カカシは思わず、背後からを抱き締めていた。

「カ・・・カカシ先輩?」

 は鼓動を逸らせながら、カカシを伺う。

「ダメ・・・ってば、毎日すっごく可愛いカッコしてくるんだもん。オレ、理性が保たないよ・・・」

「や、やだなぁ、何を言っ・・・」

 きゅ、とカカシは優しくを包み込む。

「ゲ、ゲンマ兄さんの見立てって、ホントに凄いんだね。評判良いってホントなんだ。カカシ先輩に可愛いって言ってもらえるような服って思ってたから、感謝しなくちゃ」

 はドキドキしながら、喋り続けた。

「でも、もうすぐこんな時間もオシマイなんだよね。また任務に明け暮れる日々に戻るんだ・・・。カカシ先輩、お陰でとても楽しい休暇だったよ。有り難う」

 カカシの袖を掴み、身を委ねた。

「オレの・・・方こそ・・・」

 カカシはを自分の方に向け、口布を下げた。

 はドキドキしつつも、目を閉じた。

 ゆっくりと、カカシは顔をに近付けていく。

「好きだよ・・・

 そっと、唇を塞ぐ。

 啄むように、口づけを繰り返した。

 の唇がふっくらと柔らかく甘美で、カカシはどんどんのめり込んでいく。

 抱き締めたの身体を撫で回しながら、の口腔内に舌を侵入させていった。

 カカシは益々を求める。

「?!」

 ん〜ん〜、とは驚く。

 大人の男の激しい求愛に、は怖くなってきた。

「・・・やっ!」

 は力を込め、カカシの抱擁から逃れる。

「あ・・・ゴメン。オレ・・・つい・・・」

「ゴメンナサイ・・・私がまだ子供だから、カカシ先輩、色々我慢してるんだよね・・・。早く大人になりたいな・・・」

「オレの方こそ、大人の癖に我慢出来なくって、ゴメン。が成人するまで、そういうことはしないって決めてたのに・・・」

 ゲンマ君に顔向け出来ないよ、とカカシは反省する。

「でも、それだけ私のことを思ってくれてるって思ったら、嬉しい。私もカカシ先輩のことが好き。大好き」

 きゅ、とはカカシに抱きつく。

 カカシの胸程までしかない小柄なを、カカシは愛しそうに抱き締めた。

「キャミソールとか着てこられてたら、オレ、マジでヤバかったかも。でも、清楚な感じが、に似合ってるよ」

「あ〜・・・ゲンマ兄さんも分かってるから、こういう服なんだ。ほら、私暗部だから、二の腕のタトゥー見えちゃうし・・・」

「あ、そっか」

「カカシ先輩もあるの? 今でも」

 カカシの胸板が厚くて暖かで、ドキドキしたけど、安心した。

「ん? ううん。消してあるよ。去年までは暗部に戻ることもあったから残してたけど、今はもう無いから、消した」

「カカシ先輩と任務したかったな・・・」

「オレはが気になって落ち着かないかも」

「任務になれば冷静なんでしょ? 大丈夫だよ」

・・・」

 カカシはの髪に顔を埋めた。

「何?」

 頭上に響く甘い声が、心地好い。

「中忍試験が終わったら、渡したいモノがあるんだ。貰ってくれるかな」

「え・・・何?」

「楽しみにしてて」

 それまで内緒、と額に口づける。

「分かんないけど、楽しみにしてるv」

 吹き抜ける風が、夏を教えてくれた。



















 中忍選抜試験が始まり、カカシは任務がお預けで暇になったが、逆には忙しくなり、あちこちを奔走していた。

 木の葉の脅威・大蛇丸が試験に紛れ込んだと知ってから、里は厳戒態勢に入った。

 どうやら、サスケが目的らしいと試験官・アンコから聞く。

「うちはサスケ・・・カカシ先輩の部下だよね。写輪眼が目的なのかな・・・」

 何処かに大蛇丸が潜んでいる。

 警戒しながら、は仲間の暗部達と、里を見回った。

 今頃は、塔で第3の試験の予選が行われている筈だ。

 ハヤテが審判だという。

「何事もないといいけど・・・」

 は、嫌な予感がして、気持ちに靄が掛かっていた。









 ゲンマの妹・エルナと同じチームで、何かと面倒を見てくれていたハヤテ。

 エルナが戦死してからも、いつも気に掛けてくれていた。

 病人っぽいけど、優しいお兄さん。

 ゲンマもハヤテの爪の垢飲んで、もうちょっと頭柔らかくして欲しい、と思う。

 4人で囲んだ食卓は、楽しかった。

 つい先日のこと。

 またいつでも出来ると思っていた。

 第3の試験の予選終了後、火影の元に、試験に携わる者達が招集された。

 暗部のも、話を聞こうと、遅れて駆け付けた。

 そこで、知りたくなかった事実を知らされる。

「ハヤテが死んだ?!」

 カカシが驚愕して叫んだ。





『え・・・?』





 今、何て言ったの?

 火影様・・・。





 は、桔梗城に向かった。

 今朝方、傍らで発見されたという無惨な姿のハヤテ。

 残された夥しい血の痕、散らばるカラスの羽根。

 信じられなくて、遺体安置室に駆けていった。

 ドアを開けると、恐る恐る、近付いていく。

 イブキがいる。

 表情はない。

 なぞるように、遺体を撫でた。

 それは紛れもなく、ハヤテだった。

 もう動かない。

 は口を押さえ、よろめいて背後の壁にぶつかった。

 熱いものが込み上げてくる。

 ついこの間まで、笑って食卓を囲んでいたのに。

 ものを語らないハヤテの姿に、は背を向けて部屋を出て行った。

 我知らず、慰霊碑に向かった。

「お父さん・・・お母さん・・・大切な人がまた1人、居なくなっちゃったよ・・・」

 慰霊碑の前に立ち尽くし、の両親に語りかける。

 両親、兄弟、エルナ、そして仲間。

 どんどん、大切な人が奪われていく。

「カカシ先輩・・・忍びやってると、どうしてこんなに切なくなるのかな・・・」

 いつの間にか背後に立っていたカカシに、背を向けたまま呟く。

「大切な人がどんどんいなくなっちゃう・・・それでも、忍びだったら、感情は押し殺さないといけないのかな・・・」

 カカシは優しく、を背後から抱き締めた。

「忍びはそれを悩んで悩んで、暗中模索しながら、それでも里の為に任務に行かなければならないんだ・・・辿り着く先が死だとしてもね・・・」

「この先、どれくらいこんな思いをしなきゃならないのかな・・・」

 忍びを続けている限り、一生。

 の頬を、涙が伝う。

「オレも、より長く生きてる。時代も悪かった・・・失う苦しみは、イヤって言う程味わってきたよ・・・。オレもも、ラッキーな方じゃない。それは確かだ。でも、最悪でもない。には、誰よりも大切にしてくれてるゲンマ君がいる。オレにも、大好きながいる。失うことの辛さを分かっている分、今その時が、とても大切になる。愛する者の為、人間はいくらでも強くなれるんだ」

「私には・・・ゲンマ兄さんも、カカシ先輩もいる・・・幸せな方だよね・・・あは・・・は・・・」

 笑おうとして、込み上げてきたものを堪える。

 流した涙の分だけ、心に傷を負った分だけ、人はより一層強くなっていく。

 木の葉に、戦乱の時代が近付いてきていた。



















 カカシはそれから暫くして、姿を消した。

 にも告げずに。

 それからすぐに、サスケも病室から抜け出して、居なくなった。

 を含む暗部数名で、サスケの捜索に駆り出される。

 里の内外を駆け回っていると、ナルトの修行を見るという自来也に会った。


 サスケが予選後に入院した時に、自来也はカカシと会っているという。

 カカシの行方を知らないか訊いたが、捜すな、と拒絶された。

 修行の為に姿をくらましているらしい。

 カカシの結界忍術は超一流。

 恐らく、見つけられはしない。

 それでも、サスケがカカシと一緒なのか、無事なのかだけでも、突き止めなければならない。

 厳戒態勢の木の葉を、は中忍試験の本戦が始まるまで、奔走していた。

「カカシ先生・・・無事なことだけでも教えてよ・・・!」



















 は、会場内に潜り込む暗部の2小隊の中に選ばれた。

 観客に紛れて席に座り、祈るような面持ちでカカシの到着を待つ。

 下で繰り広げられる試合や、ゲンマの采配に5年前の自分を重ねている余裕もなかった。

 ルーキーで出場した自分、審判を断ろうとしたゲンマ、中忍に上がった自分。

 それら全て、考える余裕が無くて。

 いつ賽が振られるかと、神経を研ぎ澄ましていた。

 カカシがサスケとともに旋風の中から現れると、無事な姿に安堵はしたが、サスケの出番と言うことで、一層緊張はピークに向かった。

 案の定、誰かが会場全体に幻術をかけた。

 観客達が、意識を失っていく。

「解!」

 幻術返しをすると、その先はもう、入り乱れての戦争に突入した。

 次々と入り込んでくる、砂忍、音忍。

 かち合う金属の音、怒号、飛び散る流血。

 はカカシの元に向かい、敵を蹴散らした。

 面をしていても、カカシはそれがだと分かった。

 暗黙の了解で、タッグを組んで敵に向かっていく。

 まるで何十年も一緒にやってきたかのように、カカシとのコンビネーションはやりやすかった。

 次に相手がどう動くのか、何を要求してるのか、手に取るように分かる。

 戦場の中でこそ分かり合える愛の形もあるのかも知れない。

 はカカシの全てを受け止め、それに応えた。

『ハヤテさん・・・イブキさんと一緒に、敵は取るからね・・・!』





















 敵は強大だった。

 3代目火影は大蛇丸の術を封じる為に、命を落とした。

 火影を救えなかった自分の無力さに、多くの優秀な忍び達を失ってしまったことに、は嘆く。

 もっと自分に力があれば。

 3代目の葬儀の日、降りしきる雨の中、は葬儀会場には向かわず、慰霊碑に向かう。

 カカシが慰霊碑に向かって佇んでいた。

 目の前を、イブキが花束を抱え、歩いていた。

 イブキは慰霊碑に花を供え、手を合わせた。

 も里の外れにしか咲かないという珍しい花を摘んできて、慰霊碑に供え、イブキの隣で手を合わせる。

「ハヤテさんの敵・・・ゲンマ兄さんが戦っていた、砂の上忍だそうです。でも、まだ生きてますよ」

「分かってるわ・・・」

「敵を取りに行きましょうよ! 戦争の途中で逃げるようなヤツですよ?! 砂の里まで追い掛けていって・・・」

「復讐なんてやめとけ。そんなことをしても、今よりもっと自分を傷つけ、苦しむことになるだけだ。例え復讐に成功しても・・・残るのは虚しさだけだ」

 カカシが呟く。

「でも・・・!」

「・・・やめとけ。な?」

 カカシが柔らかく、静かに諭す。

「・・・はい」

「葬儀に行こう。死んでいった者達を、見送るんだ」



















 今回の戦争で、木の葉は大打撃を受けた。

 3代目を始めとする多くの優秀な忍び達を失い、木の葉の力は半分以下にまで落ちている。

 それでも任務の依頼は今まで通り舞い込んでくる為、は悲しんでいる暇もなく、任務に追われた。

 一つの任務が終わって帰ってきた時だった。

 カカシが賊にやられ、意識不明に陥っていると聞かされたのは。

 次の任務がすぐに渡されても、はそれに構わず、カカシの家に向かった。

 まだ入ったことのないカカシの部屋。

 部屋に入ったら我慢が効かないから、とカカシもも、2人っきりで家で過ごしたことはない。

 それがこんなことで、初めて入ることになるとは。

 眠り続けるカカシを見て、は頽れる。

「誰か・・・治せる人はいないの?!」

 涙が頬を伝う。

「それを今捜しに行ってる。伝説の三忍の1人がな」

 の背後に響く声。

「ゲンマ兄さん・・・!」

 を立たせ、そっと優しく胸の内に抱き込む。

「自来也様が・・・?」

「あぁ。医療スペシャリストの、同じく伝説の三忍の紅一点の、あのお方をな・・・」

「って・・・綱手様?」

「知っているだろう。オマエが中忍に上がって暫くした頃の事件を。・・・うちは一族の悲劇を」

「うちは・・・イタチ・・・?」

「そのイタチが仲間とともに、里に来たんだ。ナルトの九尾を狙ってるらしい。それで今、イタチの来訪を知ったサスケが、逆襲に遭って、カカシ上忍と同じ術にやられ、病院で昏睡状態だ。カカシ上忍とサスケを治して貰う為に、あの人はナルトを連れて旅に出たよ」

「何でこんなことになっちゃったの・・・? 火影様を失ったばかりなのに、こんな・・・」

 はゲンマの胸で、泣き崩れる。

「平和は長く続かねぇ・・・再び戦乱の時代が来たのかもな・・・」

 ゲンマは優しくを抱き締める。

「カカシ上忍についていてやれ、と言いたいが、今は任務が優先だ。辛いだろうが、任務のことを考えろ。仲間が外で待っている。・・・オレも任務だ。行こう」

 ポンポン、と優しくの頭を撫で、流れる涙を指で拭き取った。

「傍にいたい・・・」

「木の葉の忍びなら、感情を押し殺せ。酷なことを言っているのは分かっている。オマエが傍にいても、カカシ上忍は目覚めない。危険な芽をどんどん摘み取って、平和な世の中に戻すんだ」

「・・分かった。でも、ちょっとだけ待ってて」

 泣き腫らした目で、カカシの前に跪く。

 カカシの手を取り、握って、祈る。

「カカシ先輩・・・早く目を覚まして・・・」

 ちゅ、と手の甲に口づけをし、布団にしまうと、は立ち上がり、キッ、と前を見据えた。

「木の葉に平和を取り戻す・・・!」

























 あれから一ヶ月近くが経とうとしていた。

 相変わらず任務に忙殺されてはいたが、時間を見つけては、カカシの家に通った。

 ゲンマも、止めはしなかった。

 任務に行っては、カカシの家に向かう。

 その繰り返し。

 時々、サスケを見舞う。

 同じ痛みを分かつ者同士、サクラとも親しくなった。

 今日もまたカカシの家に向かう。

 スーパーで買ったショートケーキを持って。

「カカシ先輩・・・一日遅れちゃったけど、26歳のお誕生日おめでとう。ゲンマ兄さんと盛大に祝いたかったのに、ケーキも手作りしたかったのに、手料理一杯振る舞いたかったのに、買ってきたショートケーキ1個でゴメンネ。・・・ねぇ、早く目覚めて・・・お願い・・・! もう耐えられないよ・・・」

 蝋燭に火を付け、1本だけケーキに立て、カカシの手を取る。

「ハッピーバースデー、トゥーユー。ハッピーバースデー、ディア・・・カカ・・・シ・・・」

 涙が伝い、カカシの腕を濡らす。

「お邪魔するよ」

 その時、女性の声がして数人が入ってきた。

 幼い頃見た、朧気に覚えてる、あの時そのままの姿。

「綱手様・・・」

「アンタがかい。ゲンマから聞いてきたよ。もう大丈夫だ」

 綱手はニッコリ微笑み、カカシの額に手をかざした。

 暫くして、カカシは目を覚ます。

 ゆっくりと、起き上がる。

 熱いものが、一気に溢れてきた。

 我慢し続けた、緊張の糸が弛む。

「カカシ先輩・・・!」

 は泣きながら、カカシに抱きついた。

 気を利かせて、綱手達は出て行った。

「何か・・・凄く久し振りにに会った気がするよ・・・」

 カカシは感触を確かめながら、を抱き留めた。

「良かった・・・! 本当に良かった・・・!」

「心配かけたみたいだね・・・ゴメン」

 見つめ合う2人。

 カカシは口布を下げ、の唇を塞ぐ。

 愛しくてたまらない、

 啄むように求め、抱き締める。

 もそれに答えた。

 自然とカカシは体位を変え、をゆっくり押し倒す。

 確認するように、を見つめた。

 はコクン、と頷く。

 それを見て、カカシはの首筋に顔を埋めた。

 ゆっくりと、舌を這わせ、愛撫していく。

 暗部服から露わになった二の腕のタトゥーを優しく舐め取る。

 カカシの背中に手を回すと、カカシはの服の間に手を忍ばせようとした。

 その時。

 小鳥が2羽、こつんこつん、と窓を叩いていた。

「ゲンマ兄さん・・・?」

 もう、とは口を尖らせた。

「ハハ。違うよ。オレもも、任務みたいだ。ゆっくりしてる時間はないみたいだね」

 カカシは上体を起こし、ベッドに腰掛ける。

 の手を取り、起き上がらせた。

「ちょっとシャワー浴びてくるね」

 ちゅ、との頬に口づけると、カカシは立ち上がって浴室に消えた。

 早風呂ですぐ戻ってきて、忍服を整える。

「カカシ先輩、病み上がりなのに・・・」

「しょうがないよ。忍びは私情より任務第一だ。も仲間が待っているだろ? オレはちょっとサスケの様子を見てくるから、それから任務に行くよ。帰ってきたら、ゆっくり会おう」

 いつになるかは分からないけどね、とカカシは外を促し、きゅ、と優しくを抱き締めると、瞬真の術で消えた。

 も、余韻に浸りながら、気持ちを切り替え、任務に向かった。























 任務から帰ってきて聞かされたのは、サスケが里を抜け、中忍になったシカマルと、ナルトを始めとする下忍達が追い掛けていったという知らせだった。

「サスケ君・・・大蛇丸の誘惑に勝てなかったの・・・? そんなに力を望むの・・・? 自らがどうなっても・・・? 復讐の為に・・・」

 かつては自分もサスケと同じ思いを抱いていた。

 それを忘れさせてくれたのは、カカシだった。

「カカシ先輩は私のお陰で自分を見失わずに済んだって言うけど・・・私の方こそ、カカシ先輩のお陰で今があるんだよ・・・サスケ君は、何でそれが分からないの・・・?」

 どうやらカカシの方が先に戻り、サスケを止めるべく、後を追い掛けていったらしい。

 そして戻ってきたのは、負傷したナルトを抱えた、カカシ。

 サスケの姿はない。

「そんな・・・」





 追尾隊は、殆どの者が重傷だった。

 夜を徹して、医療班と綱手達が治療に当たる。

 それぞれが峠を越えた頃、はカカシを捜し、慰霊碑に向かった。

 カカシの姿を見つけたが、何だか近寄れなかった。

 何て声を掛けたら良いんだろう。

 捨て犬みたいに、孤独と後悔にうちひしがれる姿、落とした肩。

『カカシ先輩・・・今何を考えてるの・・・?』

 こんな時、カカシは誰に、語りかけているんだろう。

 は、朧気にしか覚えていない両親と、エルナに。

 でも、カカシは、自分のことは何も話してくれない。

 カカシの部屋に飾られた2つの写真。

 失った大切な人って、4代目?

 仲間?

 家族の話は聞いたこともない。

 ゲンマ兄さんに聞いたけど、教えてくれなかった。

 多分知ってるだろうに。

「オレも今や、上忍で部下を持つ身だ。だが、昔のまま・・・いつも後悔ばかりだ・・・。この目があっても、ちっとも先なんて見えやしない・・・」

 は、カカシがポツリ、ポツリと呟くのを、遠くから見守っていた。

 垣間見せている、カカシの素顔。

 カカシが全てをさらけ出せる人って、誰なんだろう。

 私じゃまだ役不足なのかな。

 アレコレと考えながら、はカカシの背中を見つめていた。

 カカシは一瞬の間をおいた。

 今思い浮かべてるのは、誰?

「オマエが生きてたら・・・今のオレに何て言うんだろうな・・・。なぁ・・・オビトよ」

 オビト。

 それが誰なのかも分からないまま、カカシにとってどんな人なのかも知らぬまま、は自然と身体が動いて、駆けだしていた。

 カカシに駆け寄り、背後から抱き締める。

・・・オレは達に偉そうなことを語れるような立場じゃないんだ。でも・・・」

「分かってる・・・カカシ先輩の気持ちは、私は分かってるから・・・!」

 泣けないカカシの代わりに、が泣いた。

 大粒の涙を零して。





























 あれから3ヶ月近くが経とうとしている。

 重傷を負った下忍達は、殆ど回復していた。

 修行を始めた者や、快癒祝いをしてる者、それぞれだった。

 変化と言えば、サスケの追尾に助っ人として駆け付けてくれていた砂の三兄弟が、彼らが回復するまで木の葉の里を守ってくれていたのを、ようやく砂の里に帰ることになったこと、そして、サクラが医療忍者を目指して、綱手の元で修行を始めたことだ。

 ナルトは、自来也とともに、修行の旅に出るという。

 3年は戻ってこないと聞く。

「3年経ったら成人かぁ・・・」

 は、相変わらず任務に忙殺されていたが、カカシも同じく任務に奔走していたが、それでも、時間を作っては、カカシとの愛を育んでいた。

 まだキスより先には進んでいない。

 里は大分平和に戻りつつあったが、いつ大蛇丸がまた来るやも知れない。

 イタチの所属するという暁も要注意だ。

 あちこちに危険を残しつつ、それでも、訪れてきた日常に、感謝する。

 カカシと一線を越えるのは、大人になるまで待つと約束してある。

 これからも、不安や心配が色々あるだろうけど、カカシへの気持ちはずっと変わらないだろう。

 薬指に存在するその証が、を強くした。

 中忍試験が終わったら渡すと言っていた、約束の指輪。

 太陽にかざすとキラキラと輝く。

 任務の時は首から提げているけど、里にいる間くらいさせて。





 これから、カカシとゲンマと3人で、クリスマスパーティー。

 ゲンマは嫌がっていたけど、前よりは柔和になってくれている。

 カカシに会うことも許してくれる。

 3人の珍騒動はまだ続きそうだけど、は手に入れた小さな幸せを胸に、慰霊碑を後にした。









 END.











 2000番、悠斗様のキリリクでした。
 大変お待たせしました。
 リクエストを頂いたのは夏頃だったんですが、
 シチュエーションとして、
 サスケが大蛇丸の元へ旅立った後、
  凹んでるであろうカカシを抱き締めてあげるシーンを
  入れて下さい、というモノでした。
 なかなかお話が膨らませにくくて、今まで掛かりました。
 というのも、原作にケリが付くまで待とう、と思ったんです。
 そうすれば色々書きやすいだろう、と。
 どうしてもシリアスになるなぁ、と思って。
 他に設定を頂いていなかったので、
 【キッカケ】のヒロインを使ってみたんですが、
 まず土台から作っていって・・・と思って書き始めたら、
 なかなかこのシーンに辿り着かないわ、
 それどころか、シリアスどころかギャグになって、
 ダメだぁ! って、前後編に区切って、後編をキリリクにしたというせこさ。
 2と3にしろよって感じですね。
 本当は、書いた時期が時期なので、このシーンに焦点を当てて、
 クリスマスネタにしようと思ったんですよ。
 出来ませんでしたが。
 こんな不届き者ですが、悠斗さんに捧げます。
 有り難う御座いました。