【出会いはいつも偶然と必然】 第三章








 カカシはを伴い、アカデミー、病院から始まり、木の葉の里の主要各部を案内して回った。

 非番とはいえいつ如何なる招集がかかるか分からなかったが、火影が気を利かせて、里を案内せよ、と言うことだったので、カカシはゆっくりと細部まで案内していた。

 遠く離れた所へ行くのには、を抱き抱えて建物の屋根の上を駆けていった。

 文字通り、あちこちカカシはを連れ回した。

「結構見て回ったけど、空を駆けて移動してたんじゃ、道を覚えられないかな」

 でも歩いて回ったんじゃ回りきれないし・・・と言いつつカカシは歩くことにし、街中を進んでいった。

「大丈夫ですよ〜。上から見た方が、地形覚えられるし。平気です」

 そう言っては、きゅっとカカシの腕にしがみつく。

 は下に下りて説明を受けている時、こうやってずっとカカシにしがみついていた。

 最初は照れて拒んでいたが、カカシはもはや、を振り解くのは諦め、両手をポケットに突っ込んだまま、と連れ立って街中を歩いた。

「此処がオレ達上忍の詰め所、“人生色々”ね。任務が無い時も、非常召集に備えて、ここで待機しているんだ」

 建物の看板を指し、そのまま中に入ることは無く、道を進んでいった。

 もし誰かに会って、あれこれ探りを入れられるのが、嫌だったからである。

 後は甘味処、食事処、居酒屋などを案内した。

「さて・・・大分あちこち連れ回しちゃったけど、疲れてないかな、

「大丈夫です。殆どカカシせんせぇが抱えてくれてたし。一杯色んな所見れて、楽しいです」

 ニコッ、とは微笑む。

「でも・・・お腹空きました」

「おっと、もうこんな時間が。通りでオレも腹が減ってる訳だ。小休憩して、何処かで何か食べようか」

 ポケットの懐中時計を確認し、何処に行こうか・・・とカカシは思案した。

「よし! 美味しいラーメン屋があるんだ。そこへ行こう、

 ラーメン屋に向かい、2人は歩を進めた。

















 長期任務明けの為に一日休みを貰っていた第7班の紅一点・サクラは、これ幸いとサスケをデートに誘いに行ったが、つれなく断られ、手を変えて今度は、修行を見て欲しいから付き合って、と言い、強引にサスケを連れ出していた。

 途中、運悪くナルトに遭遇してしまい、何やかや理由をつけてナルトを巻こうとしたが、結局付いてこられ、3人で珍修業を行っていた。

「全くもう・・・折角サスケ君と2人で、愛vの修業が出来ると思ったのに、ナルトのヤツ、こういう時は妙に鼻が利くんだから。それに・・・」

 ブツブツ愚痴を零しながら、サクラはサスケとナルトを交互に見遣った。

 何故か、随分と離れていて、妙にギクシャクした空気でお互いを意識し合い、しかしかと言えば無視したりしながら、修業に没頭していた。

 サクラはその微妙な空気にウンザリし、木の根元に腰を下ろし、サスケを眺めていた。

 と、その時だった。

「はぁ〜〜〜〜っ、腹減ったってばよ〜〜〜」

 ナルトが腹を押さえ、よろよろとサクラの元までやってきて倒れ込んだ。

「あら、そう言えばもうこんな時間じゃない。通りでお腹空いてる筈だわ。随分長いことやってたわね」

「サクラちゃ〜ん、何処かに食べに行こうってばよ」

「そうねぇ・・・サスケくぅ〜ん、お昼食べに行こうよ〜!」

 まだ修業を続けていたサスケに、サクラは声を張り上げる。

「オレはいい。オマエらだけで行け」

「そんなぁ、しっかり食べなきゃもっと強くなれないわよ。行こうよ、サスケ君」

 私達育ち盛りよ、とサクラはニッコリ微笑んだ。

 渋々修業の手を止めたサスケは、2人の元までやってきた。

 が、相変わらずナルトとサスケはぎこちない。

 ハァ、とサクラは溜め息をつく。

「で? 何処に行く?」

「あっ、オレってば一楽のラーメン食べたいってばよ!」

 サスケのことなど無視することにし、ナルトは目を輝かせて挙手した。

「ナルト、アンタね〜。ラーメンばっか食べてたら、身体壊すわよ?」

「オレの身体ってば血が一楽のスープで出来てるんだってばよ」

「ま、いいか。あそこのラーメン、美味しいし。行こ、サスケ君も」

「ったく・・・」

 渋るサスケだったが、お腹は正直で、渋々ナルトとサクラに付いていくことにした。







「そ〜いえばカカシ先生ってばどうしてるんだってばよ?」

 一楽に向かいながら、両手を頭の後ろで組んでナルトは思い出したように呟いた。

「あぁ、上忍は、任務が無くても詰め所で待機してなきゃいけないのよ。そこに居るんじゃない?」

「またあのロクでもない本読んでんじゃないかってばよ。カカシ先生って、むっつりスケベかオープンスケベか、サッパリ分からないってばよ」

「確かにねぇ〜・・・相変わらず、得体が知れないわよね。とてつもなく強いのは、分かったけどさ」

 ナルトとサクラの会話のやり取りには気にも留めず、サスケは2人の後を黙々と付いていった。

















 3人(?)の話題に上がっていたカカシは、と共に一楽でラーメンを食べていた。

「美味し〜〜vv」

「だろ? 木の葉の里でも、名店中の名店なんだよ、ここは」

「嬉しい事言ってくれるねぇ、カカシさん。綺麗なお嬢さん連れて、どうしたんだい?」

 店主テウチは、オマケ、と言ってチャーシューを3枚載せた。

「あ、いや〜、火影様に頼まれて、里を案内しててね」

「旅行者か何かかい?」

「まぁ、そんなトコです」

「カカヒせんせぇ?」

 麺を啜りながら、は不思議そうにカカシを見遣った。

「ま、そういうことにしておこうよ」

 あながち間違いでもないし、とカカシは遠慮なく、最後に残った追加されたチャーシューを口に運んだ。

「この店は、イルカ先生とか、忍びも結構御用達なんだよ。オレの受け持ってる教え子・・・ナルトってのも、ここのラーメンが好きで、いつも食べに来ているらしいんだ」

 食べ終わって口布を元に戻し、ゴチソウサマでした、と手を合わせた。







「あ〜〜〜〜〜っ!!」

 大きな声が、店の外から響いてくる。

「カカシ先生?! 何でいるの?!」

 店の外に立っているのは、カカシの受け持つ第7班、ナルト・サスケ・サクラの3人だった。

「噂をすれば何とやら、か・・・」

 困ったような表情で、ヤレヤレ、とカカシは息を吐いた。

「どうした〜? オマエら〜。今日は休みと言っただろ。それとも仲良く遊んでたのか?」

 まさかな、とカカシは笑う。

「オレってば休みの日でもちゃんと修業してるんだってばよ! 何たって火影を超すんだからな!」

「何言ってるの、私とサスケ君のデートを邪魔しに来たんじゃない」

「オレはそんなもの受けた覚えはない。修業してただけだ」

「もうっ、サスケ君ったらつれないんだからぁ」

 一気に周りが賑やかになった。

 道を塞いで他人に迷惑だ、とカカシに咎められ、3人は暖簾を潜って椅子に腰掛けた。

「カカシ先生こそどうしたのよ。上忍って、任務が無くても、詰め所に待機してなきゃいけないんでしょ? 人生色々とかって言う」

 それぞれラーメンを注文し、水を口に含みながらサクラは問うた。

「ま、本来ならな。でも今日はオレ非番でね。招集がかかれば行かなきゃならないけど、それがない間は、休みって訳」

 へぇ、と聞きながら、もっと早く来ればよかったわね、そうすりゃカカシ先生の顔見れたのに、とサクラは小声でナルトに囁いた。

「ふん、くだらねぇ」

 聞き取ったサスケがボソッと吐き捨てる。

「ん? 何か言ったか〜?」 

「う、ううん! 何でもない! それよりあの、カカシ先生、その女の人・・・連れなの?」

 寄り添うように2人座っていた姿に、サクラを始め皆怪訝に思っていた。

 訳も分からずニコ、と微笑む美しいその“連れ”の人物を、一同顔を赤らめながら興味津々、見つめていた。

「ん〜まぁね。って言うんだ。、この3人が、オレが受け持ってる部下達だよ。手前から、うずまきナルト、春野サクラ、うちはサスケだ」

 食べ終わったは、水をコクンと含むと、まじまじと3人を見遣った。

「こんにちは。初めまして、って言います。カカシせんせぇにお世話になってます」

 ニコッ、と3人に対し再び柔らかい微笑みを向ける。

「え?」

「こら、余計なことは言わなくてい〜の。食べ終わったんなら、そろそろ行こう」

「え〜お話しした〜い」

「ま、今度ゆっくりな。じゃな、皆。明日な」

「えっ、ちょっとカカシ先生っ?!」

 困惑しているサクラらを尻目に、カカシは代金を台に置くと、名残惜しそうにナルト達を見つめているの肩を抱き、店を出て行った。

「遅刻すんなよ〜〜」

 手をひらひらと振りながら歩いていくカカシのポケットに突っ込まれた方の腕に、は己の腕を絡ませていた。

「「どっちが(だってば)よ!!」」

 ハモるナルトとサクラだったが、一見親密そうに街中を歩いていくカカシとの姿に、ばっ、と顔を突き合わせた。

「どういうこと?! アレ」

「カカシだっていい大人だ。女の1人くらいいたっておかしくないだろ」

 差し出されたラーメンを啜りながら、サスケは興味なさそうに吐き捨てる。

「え・・・そりゃあそうだけどぉ・・・」

「随分若い姉ちゃんだってばよ。ああいうのって何て言うんだっけな」

 カカシらに興味を惹かれつつも、目の前のラーメンの方に既に心奪われているナルトは、嬉々として麺を啜った。

「何か、いいトコ16〜7って感じよねぇ、さっきの女の人。カカシ先生とじゃ、年齢離れすぎてるわよ。カカシ先生ってロリコンだったのかしら」

「ぞれっ! ぞれだっでばぼ!」

 口の中を一杯にしたナルトは、汁を撒き散らしながらサクラを見遣った。

「ちょっとナルト! 汚いわね、飛んだわよ! もう!」

「ゴメンゴメン、サクラちゃん。でもさ、でもさ、カカシ先生ってばいっつも変な本読んでるし、何やってるか分かんないってばよ!」

「そうよね。怪しいわよね。あの女の人も、どういう人だか・・・」

 サクラは長い髪を左手で押さえながら、サスケの手前、しとやかに麺を啜った。

「カカシさんは、娘さんのことは火影様から頼まれて里を案内してる旅行者だって言ってたけどねぇ」

 洗い物をしながら、テウチが会話に加わる。

「旅行者ぁ? 確かに、ここら辺じゃ見掛けない顔立ちだったけど・・・」

「でも、随分優しく接していたし、言葉を濁してたから、儂は何処からか連れてきた恋人か嫁さん候補だとふんだがねぇ」

 照れてたんだろ、とテウチは笑った。

「やっぱり?! オッチャンもそう思う?!」

「でも、カカシ先生って結婚とかしそうなタイプ? 見た目も中身も怪しいし、一生独身っぽいけどなぁ。カカシ先生を好きになる物好きっているのかしら」

 言いたい放題のサクラだった。

「世界には何億って人間がいるんだ、その中に1人くらいそういう物好きがいたっておかしくないさ」

 サッサと食べ終わったサスケは、代金を置くと、後は1人で修業する、オマエらは勝手にやれ、と店を出て行った。

「あぁっ、サスケ君ってばぁ。もう、つれないんだから」

「ほっとけばいいんだってばよ、あんなスカしたキザヤローは」

「しょうがない、明日も会えるんだからいっか。カカシ先生にも色々訊く事出来たしね」

 “内なるサクラ”がはみ出たような企み笑顔で、サクラは残りの麺を啜った。



















 カカシとは、商店街に移動していた。

「ま、大体この辺りの通りの店が、オレの家に近い商店街で、オレもいつも利用してる。八百屋とか魚屋とか肉屋とか、総合食品を扱ってるトコとか、後は衣料品店とか生活用品店とかね」

「活気があるんですね〜」

「市場もそう遠くない所にあるけど、それに似た雰囲気ではあるね。まずは衣料品店と生活用品店に行こうか、

「え?」

「火影様からもの世話をしろって仰せつかったし、暫くこの里で暮らすとなると、もう少し色々必要だろ? 服とか身の回りのものとかさ。取り敢えず、服買おうか。昨日の店でいっかな・・・」

 カカシはを促し、店内に入っていった。

 店員は昨日対応した女性。

 同じ顔が連日、今度は女性連れで入ってきたので、納得した顔をしているのがカカシには分かった。

「どういう服がいい? 

「ん〜とぉ・・・好みとかって特にないんで、カカシせんせぇ、見立てて下さい」

「ん〜そう言われると困るなぁ。どういうのがいいかなぁ。オレも流行りとかは分からないしなぁ」

 適当に服を手に取り、カカシはと交互に見遣った。

「流行りとかはどうでもいいですよぉ。カカシせんせぇの好みとかで選んで下さい。今着てるのみたいな感じで」

 カカシせんせぇ、センスいいと思うし、とはおねだりポーズでカカシを見つめた。

「そ? でもそう言われてもなぁ。女のコ・・・女の人の服を選ぶことなんて今までなかったし、オレ自身私服もそんなに持ってないから服を選ぶって事を滅多にしてないからね。どうしよっかな」

「適当でいいですよ。着れれば何でも」

「そう言ってもらえると気は楽だな」

 そう言いながらも、カカシは何点もに合わせ、似合う服、似合う服、と念仏のように繰り返しながら、じっくり時間をかけて選んでいった。

 大量に抱え、一先ず会計を済ませた。

「下着は自分で選んで買ってね」

 赤面するカカシは、に財布を渡して下着コーナーに行かせた。

 どうしようか迷ってウロウロしていると、店員が話し掛けてきたので、は店員と話して選んでもらい、会計してきた。

「そうか、最初から店員に選んでもらえばよかったんだ、服も」

 その手があったか、とカカシはうっかりしていたことに気が付きながら、と揃って店を後にした。

 続けて身の回り品を買いに行く。

 昨夜と今朝はカカシの買い置き歯ブラシを使わせたので、もう1本買い、衣服などをしまう収納ケースを買い、後はサイズの合わない靴を履いていたので靴を買い、は生活必需品以外は特に欲しがらなかったので、少ない買い物で済んだ。







「すみません、沢山お金使わせちゃって・・・」

 残すところ後は食事の材料を買うだけとなった2人は、大きな荷物を抱えながら、商店街を歩いていった。

「ん? 気にしな〜いの。オレ、任務で金稼いでも、使い道ってあんまりないからね。こういう風に使う機会があると、却って嬉しいよ」

 じゃ、オレの利用してる店を案内するよ、とカカシは説明しながら八百屋、魚屋に寄り、総合食品店で足りない物を買い、家路に着いた。









「ふぅ。結構あちこち回ったし、買い物もしたね。こんな休日って初めてだよ」

 買物袋をドサリとテーブルの上に置き、カカシは茶を淹れる為に急須と茶葉の缶を取った。

「お陰で楽しかったです。色んなトコ見れて、沢山買っていただいて。有り難う御座います」

 ペコ、とは頭を下げた。

「あ!」

 ポットからお湯を注ぎながら、カカシは声を上げた。

「どうしたんですか?」

「しまった〜〜。またパジャマ忘れてたよ・・・馬鹿だなオレ・・・」

 何か忘れている気がしたんだ、とカカシは息を吐きながら、湯飲みに茶を注いだ。

「私、カカシせんせぇのパジャマでいいですよ」

「そういう訳にも行かないだろ〜。オレ的にも困るしね。買いに行ってこよう」

「何が困るんですか? あ、他人に自分の物使われるのって嫌ですか? だったらごめんなさい」

 替えが無いと洗った時に困りますよね、とは“困る”の意味を理解していなかった。

「や、そういうんじゃなくてね。アレはオレの目の毒・・・っと、じゃあひとっ走り、行ってくるよ。デザインとか何でもいいかな? は買ってきた服とかの値札を取っちゃってて」

「すみません、重ね重ねご迷惑お掛けして」

 だからそうやって気にしないの、とカカシは熱いお茶を一気に飲み干すと、外に出ていった。





 同じ店で、さっきの女性のサイズのパジャマを下さい、と今度は店員に任せて似合いそうなデザインの物を選んでもらい、会計をしていると、新婚さんですか? と店員に訊かれ、慌てるカカシの姿があった。

 通りで最初やたらとネグリジェだの色っぽい寝間着ばかり勧められた訳だ、とカカシは一つ咳払いをする。

 当然、カカシはスタンダードなタイプのパジャマを選んでもらった。

 すっかり誤解されてしまったが、弁解する気力もなかったので、もういいや、とカカシは店を出ると屋根伝いに家に向かった。







「あ、おかえりなさ〜い」

 衣服類の値札を取って、収納ケースにしまって寝室に置いたは、買ってきた食材をどうにかした方がいいのか悩みつつ、だがどうしたらいいのか分からなかったのでもてあまして、台所で椅子に座ってお茶を飲んでいた。

「ただ今。はい、パジャマ。今度はちゃんと店員に選んでもらったから」

 そう言って、包みをに渡す。

「あ、ありがとうございますぅ。二度手間になっちゃって、すみません」

 袋から出したは、あ、可愛い、と嬉しそうに身体に合わせていた。

「似合うよ。あ、そうそう、、コレ」

カカシは思い出したように、先程買ってきた物をに渡した。

「え・・・お財布?」

、金持って無いでしょ。で、オレも明日から任務で遅くなるし、この里に慣れる為にも、何にせよお金は必要だからさ。まずは買い物できるようになった方がいいと思ってね。これから毎日、その日の買い物リストを書いていくから、それを見ながら食事の材料を買ってきてもらいたいんだ。分からなければ、街の人に訊けばいいから。皆親切だから、大丈夫」

 食事はオレが帰ってきてから作るから大丈夫だよ、とカカシは微笑んだ。

「今日回ってきた所で大丈夫なんですよね? 分かりました。頑張ります。でも、私なんかにお金預けちゃっていいんですか?」

 結構入ってますよ、とは財布の中身を覗き込む。

「あぁ、当面の生活費だと思って。言っただろ? オレ、稼いでも金の使い道がそんなにないって。だから気にしなくてい〜よ。自分の物だと思って、欲しいものがあったら好きに使っていいからさ」

 カカシは買ってきた食材を分けながら、料理に取りかかった。

「え・・・そんな訳にはいかないですよぉ。カカシせんせぇが身体を張って稼いだお金なのに。欲しい物なんて特にないですから、ご飯の材料買うだけでいいです」

「そんなにかしこまらないでいいってば。はこの里の住人だと思って、気兼ねなく暮らしていいんだから」

「は〜い」

 パジャマと財布を収納ケースにしまいに寝室に行って戻ってきたは、再びカカシの調理の手際を、傍らで邪魔にならないように眺めていた。

 ふとカカシは思う。

 は、見たものをコピーできた。

 カカシが変化や分身の術をやってみせただけで、正確に再現してみせたのだ。

 他のことに対してはどうなんだろう? と考えた。

 昨夜からずっと自分の調理を眺めているが、果たしては料理はコピーできるのだろうか? と。

 カカシは、サスケを思い出していた。

 サスケは先だっての白との戦闘で、写輪眼に開花した。

 が、まだ未完成で、その類稀なる才能で忍術や幻術などは見極めて対応出来るかもしれないが、体術はまだ対応しきれないだろう、と分析する。

 見極めても、それに対応出来うるだけの体術を、サスケはまだ会得していない。

 近々サスケはその壁にブチ当たり、実感するだろう。

 それと同じように、も体術には対応出来ないだろう、と考え、それと同じ理屈で、料理も出来ないから、こうしてオロオロと眺めているだけなのかも知れないな、と思った。

 味付けなどは、経験と慣れで覚えていくものだから。





「カカシせんせぇってお料理上手ですよね」

 これも美味しい、とは食事しながら、カカシに向けて微笑んだ。

「そりゃま、独り暮らし歴が長いからね。一通りのことは出来るよ。でも、こうやって誰かに美味しいって言ってもらえるって、初めてだけど嬉しいもんだね」

 照れながら、カカシは味噌汁を啜った。

「カカシせんせぇ、時間のある時でいいから、家事教えて下さい。ただお世話になるんじゃ、申し訳ないし」

「ん〜? そうだな。何から教えよっか。家事全般って言っても、色々あるよ」

「え〜と、お掃除とか、お洗濯とか・・・」

 いいトシして何も知らなくって、恥ずかしいし、とはもじもじする。

「ハハ。記憶喪失で全部吹っ飛んでるだけなんだよ、きっと。だから恥ずかしがることなんてないよ」

 優しく、カカシは諭すように微笑んだ。









 食事の後に洗い物を済ませて、まずは掃除の仕方からカカシはに教えた。

 それほど難しいことではないので、はすぐに飲み込んだ。

  洗濯は風呂に入ってからにしよう、と風呂の沸かし方を教えた。

先に入っていいよ」

 風呂が沸くまで、色々と話し込んでいた2人だったが、湯加減を見たカカシは、に言い放った。

「え、カカシせんせぇ、お先にどうぞ。家主より先に入る訳にいかないです」

 天然であることを除いては覚えの早いは、カカシに教えられた、沢山のことを吸収した。

「そう? じゃ、お先失礼するよ」

 早風呂のカカシは、カラスの行水の如くサッサと済ませてすぐに出てきた。

「ど〜ぞ、。湯加減いい具合だよ」

 パジャマ持ってくの忘れちゃダメだよ、と念を押し、を浴室に促すと、カカシは水分補給をして、ふぅ、と息を吐いてソファに座り、さて、これからどうしていったらいいものか・・・と思案した。

 に施した、障壁に対する印は今日一日は持った。

 だが、後どれくらい持続するのか分からない。

『年頃の女性と同居か・・・大丈夫かな、オレ・・・』

 久しく、“そういうこと”にトンと縁がない。

 だが、関心が無い訳ではない。

 むしろ正常、健康な年頃の“男”だ。

 も、年頃の美しい女性。

 ましてや、大切な思い出と気持ちがダブる。

 何事もなく、つつがなく過ごしていけるのか、カカシは自分に対して不安になった。

 任務に対してなら、自分に不安になることはない。

 少なからず、自信を持っている。

 しかし、これまで、“任務”以外のことから遠く縁がない生活をしてきた。

 詰め所じゃないが、人生は色々だな、とカカシは思慮を巡らせながら、髪をまだ乾かしていないことに気が付いた。

 風呂場から水音はもう聞こえない。

もう上がったかな」

 浴室前まで行き、カカシはドアをノックした。

〜、開けていい?」

「いいですよ〜」

 ドア越しにくぐもったの声が聞こえ、カカシはスッとドアを開けたが、慌てて直ぐ様ドアをバタンと閉めた。

ッ; ちゃんと服着てから入っていいよって言ってちょ〜だいよっ;」

 あぁビックリしたっ、とカカシの心臓はばくばくと激しく鼓動した。

 は、全裸のまま、濡れた髪をバスタオルで拭いていたのである。

「カカシせんせぇ?」

 ドアを開け、は外に顔を覗かせる。

 チラ、とそっと目を遣ると、はまだ服を身に着けていない。

! 服着てから開けて!!」

 押し込めるようにを脱衣所に戻し、ドアを閉めるカカシ。

 柔らかく温かな感触が手に残り、カカシは益々動揺する。

「落ち着け、オレ! 任務を行う時を思い出せ、冷静に冷静に・・・」

 胸に手を当てて目をつむり、乱れた息を整えていく。

 が、後ろ姿ではあったが、一糸まとわぬの姿が直ぐ様脳裏に浮かび、益々赤面する。

 これじゃイカン、と印を結び、冷静さを取り戻した。

、ちゃんとパジャマ着た?」

「着ました〜」

 どうぞ〜、とはタオルで長い髪をまとめ上げた状態で、ドアを開ける。

 冷静を務めた筈のカカシの鼓動が、また少し早くなった。

「ド、ドライヤー取ってもらえる?」

 照れ隠しにやや目を逸らせつつ、壁に掛かったドライヤーを指した。

「あ、ハイど〜ぞ」

 カカシに手渡すと、は居間に向かった。

 の分も用意していたコップを手に取り、も水分補給した。

 半分以上乾きかけていた髪を乾かしたカカシは、も必要だよな、とドライヤーを持って居間に戻った。

も使うでしょ、はい」

「あ、ありがと〜ございます」

 こくこく、とは水分を含んでいる。

 カカシはの隣に座り、ドライヤーをテーブルの上に置いた。

 図らずもの白く滑らかなうなじが目に飛び込んできて、カカシはドキリとする。

 その艶やかさに、一層鼓動が高まる。

「カカシせんせぇ? どうしたの?」

 あさっての方に顔を背けているカカシを怪訝に思ったは、コップを置いて身を乗り出してカカシの顔を覗き込んだ。

「や、あの、早く髪乾かした方がい〜よ。濡れたまんまじゃ、風邪引くから。もう夏だと言っても、まだ夜は冷えるからね」

「ハ〜イ」

 カカシの言葉通り、その場ではタオルを取り、ばさりと落ちてきた長い髪を乾かした。

 乾かす仕草が妙に色っぽくて、カカシは所在なげに席を立った。

 集中しよう、とカカシは愛読書“イチャイチャパラダイス”を持ってきて、読みふける。

 乾かし終わってドライヤーを脱衣所に戻しに行って、買ってもらったブラシで梳かして居間に戻ってきたは、カカシの背後から覗き込んだ。

「何をそんなに熱心に読んでるんですか?」

「うわ!」

 の声に驚いたカカシは、パタンと本を閉じた。

 てけてけと前に回り込み、再びカカシの隣に座る。

「それ、何ですか?」

「これはは読んじゃいけないからね」

「何でぇ?」

「子供の成長にはよくない本なんだよ」

「カカシせんせぇ、私子供じゃなぁい〜!」

 プクゥ、とは頬を膨らませる。

「はは、ゴメンゴメン。でも、ダメなんだよ」

 本を棚に戻し、カカシは立ち上がった。

「さて、洗濯の仕方を教えるんだったね」

 行こうか、とカカシは洗濯機の元に行く。

、下着はどうした?」

「自分で手で洗いました」

「そう。じゃ、服とかタオルとかだね」

 カカシは洗い物を洗濯機に入れ、使い方を説明して洗濯が始まると、後は終わるまで待つだけ、とを伴って居間に戻った。

 カカシは、自分の後を付いてくるのことを思いながら、重要な確信に至った。

『このコは気配がしないんだ・・・』

 その場に存在しない、という訳ではない。

 忍びのように、気配を殺しているのだ。

 恐らくは、無意識に。

 だから昨日から何度も、カカシは驚かされている。

 の正体について、何か重要な手掛かりにならないか、とカカシは考え込んだ。









 洗濯が終わるのを待つ間、カカシはにせがまれ、昼間会ったナルト達のことを説明していた。

 興味深そうに、楽しそうに聞いている

「カカシせんせぇ、今度ゆっくりって言ったんだから、会ってお話しする機会、作って下さいね」

「ん〜そうだな〜〜・・・」

「ダメ?」

 せんせぇ嘘吐き〜、とは頬を膨らませる。

「や、別にいいんだけどね、根掘り葉掘り訊かれそうでな〜・・・」

「? 私別に、色々訊かれたって、殆ど分からないですよ?」

「いや、がじゃなくて、オレがね・・・」

「カカシせんせぇが何訊かれるの?」

「ん〜・・・ま! いいだろ。しょ〜がない。任務の時は無理だけど、演習の時とか、時間作るよ」

「わ〜い。ありがとうございます〜」

「なんでそんなに会いたいの?」

 無邪気に喜ぶに、カカシは問うた。

「え〜だって〜、知ってる人いないし、お友達になりたいな〜って」

「ま、いいか・・・」

 に聞こえない程度に呟き、カカシは洗濯が終わったので、と共に干していった。











「さて、もう遅いし、寝ようか」

 に尋ねられるがままに色々な話をしていたが、夜も大分更けてきたので、カカシは時計を見遣り、呟いた。

「さ、は寝室に戻って」

 毛布を取り出し、カカシはの背中を押して部屋から出そうとした。

「え? カカシせんせぇは?」

 背を押されながら、はカカシを振り向いた。

「オレはこっちのソファで寝るって言ったでしょ」

「え〜、一緒に寝てくれないの?」

「ダ〜メ! 子供じゃないんだろ? 1人で寝なさい?」

 を寝室のベッドに座らせると、肩を掴んで、諭すように言い聞かせた。

「ヤだ〜。一緒に寝てぇ〜」

 は口を尖らせ、カカシのパジャマを掴んだ。

「ダメ。それから、今夜は眠れないからってオレのトコに来ちゃダメだよ? 一日中騒ぎ回って疲れてる筈だから、眠れるから」

 じゃ、オヤスミ、とカカシは寝室を出て行った。

 暫く膨れていただったが、仕方無しにベッドに潜り込んだ。



















ピピピピピピピ・・・・。





 朝の陽光がカカシを照らす。

 5時。

 テーブルに置いた目覚まし時計を手探りで止めると、カカシは目を擦って上体を起こそうとした。

 が、何かの障害があるように身体が起き上がらない。

「何だ・・・金縛りか? こんな朝っぱらに・・・」

 寝ぼけ眼で己の身体を見ると、カカシは仰天した。

?!」

 部屋を見渡すと、そこはまぎれもなく、居間だった。

 が床に座り込んだ状態で、ソファのカカシに覆い被さるようにしがみついて眠っていたのだった。

「おいっ、! 起きろ!」

 の肩を揺さぶって、起こそうとする。

「ん・・・ふに・・・」

「一体いつ来たんだ? オレ、そんなに深く眠ってたのか? 気配に気付かないなんて・・・」

 といると、忍びとしての自分の能力が不安になってきた。

「あ・・・カカシせんせぇ、おはよ〜ございまふ・・・」

うにゅうにゅ、と眠そうに目を擦りながら、はカカシを見上げた。





「どうしてこんな所で寝ていたんだ? 

「ん〜、やっぱり昨日も何時になっても眠れなくってぇ、カカシせんせぇがいたら眠れるかな〜と思って」

 あふ・・・、と欠伸をしながら伸びをする。

「だからってこんな所で・・・いくらもう夏だっていっても、夜は冷えるんだから、何も掛けないで寝ちゃダメじゃないか。風邪を引いたらどうするんだ」

 すっかり冷えきっているの身体を、カカシは自分に掛けていた毛布で包んで抱き上げ、ソファに座らせた。

「だって、またパタンってのやっちゃいけないって思ったから。カカシせんせぇの寝顔見てたら眠くなっちゃって、いつの間にか寝ちゃってたの」

 ふにゃ、とは微笑む。

「全く、しょうがないな・・・女性は、下半身とか特に、冷やしちゃいけないんだよ。床に座って寝るなんて・・・」

「じゃあ今度からカカシせんせぇ、一緒にベッドで寝てくれる?」

「それはダ〜メ」

「でもぉ、カカシせんせぇだって、ソファじゃ寝づらいでしょ?」

 毛布に包まっているは、カカシの温もりがすると言って喜んでいた。

「オレは忍者だから、いつ何処でだって眠れるように訓練してるから平気なんだよ」

「え〜でも〜、忍者だって人間だよ?」

「人間であって人間じゃないんだよ、忍者ってのは」

「でも、家にいる時くらいリラックスしてちゃんとした所で寝た方がいいよぉ」

 キリがない、と息を吐いたカカシは、忍者はいつ何処でも己が忍びであることを忘れてはいけないんだよ、と言い残し、洗面所に向かった。





「カカシせんせぇ、こんな朝早くに何処に行くの?」

 忍服に着替えているカカシに、は問うた。

「ん〜? ま、には教えてもいっか・・・慰霊碑だよ」

 手甲を嵌めながら、問いに答える。

「慰霊碑?」

「・・・も行く?」

 口布で顔を覆い額当てで左目を隠し、支度完了したカカシはに訊き返した。

「うん」

「じゃ、顔を洗って、着替えておいで」

 立ち上がったは、包まっていた毛布を畳んでカカシに渡すと、とてとてと歩いて洗面所に向かった。

 新しい服に身を包んだを抱えて、屋根伝いに駆けていく。









 慰霊碑に着いてを下ろすと、カカシは神妙な顔で慰霊碑に向き合った。

「・・・これが慰霊碑?」

「あぁ、そうだよ。里で英雄と呼ばれる、殉職していった忍び達の名が刻まれている。オレの仲間や・・・親友の名もな」

 ス・・・と慰霊碑を撫でる。

「大切な仲間達・・・大勢失った。任務や、戦争などで。オレには、大切な存在と呼ぶべき人はもはやいない。全員、此処に刻まれているんだ」

 寂寥感の漂うカカシの後ろ姿を見て、最初に感じたこの人の孤独さはこれなんだ、とは思った。

 苦悩に思いを馳せるカカシを見ながら、は胸元で手を組み、瞳を閉じて祈りを捧げた。

 暖かく柔らかな、優しい空気が周囲を包む。

 どれほどの時が過ぎたか分からない。

 時間の感覚は失せていた。

 だが、優しい空気が、現世に思いを残す魂達を癒しているのがカカシには分かった。

か・・・』

 心地好さに酔いしれながら、カカシもまた、苦悩し苛む自分をが癒してくれていることに気付く。

 暫し、時を忘れて身を委ねた。





「あ・・・」

 ふと、が強張った声を漏らす。

「どうした? 

「何か・・・引っ張られる感じが・・・きゃあっ」

 の姿が急に、空気に溶けたように消えてしまった。

?!」

 驚愕したカカシは、キョロキョロと辺りを見渡す。

「まさか・・・自分の世界に戻ったのか? 一日だけの存在か・・・しょうがな・・・」

 カカシは、ハタともう一つのことに気が付いた。

「いや、違う。もしかして・・・」

 カカシは慰霊碑を離れ、自宅に向かった。













 家に戻って中に入ると、案の定、は困惑した表情で微笑みながら、ベッドに腰掛けていた。

「カカシせんせぇ・・・印が解けちゃったみたいですぅ」

 カカシは、ふと時計に目を遣った。

「この時間ってことは・・・印の効力は、丸一日、24時間ってことか・・・」

 この奇妙な少女との共同生活は、暫く続きそうだな、とカカシは息を吐いた。