【出会いはいつも偶然と必然】 第四章









 カカシとの奇妙な共同生活が始まって、3日が過ぎた。

 再び任務に戻ったカカシは、昼間1人になるを心配に思いつつ、子供じゃないんだから大丈夫、と言っていたの言葉を思い出し、任務に就いていた。







 ナルト達第7班は、今日は演習を行っていた。

 新人下忍であるナルト達は、簡単なDランク任務が殆どで、後は演習も任務の一環、と上忍師であるカカシに特訓を受けていた。

 陽も傾き始めた頃、遅い昼食に入った。

「ま〜ったく、カカシ先生の毎度の遅刻にも困っちゃうわよねぇ。今日も3時間も遅れてきてさぁ。そんなに寝起きが悪いんなら、目覚まし時計をもっと増やすとか、工夫をして欲しいわよね、仮にも上忍なんだから、恥ずかしくないのかしら。いつも悪びれないでさ・・・」

 ブツブツ文句を言いながら、サクラは梅干しオニギリを頬張った。

「そうだってばよ! いっつも待ちぼうけ食わされる身にもなって欲しいってばよ! お陰で昼飯こ〜んなに遅くなっちゃってさ! オレってば寝坊したから朝飯ちょっとしか食べられなかったってばよ。昼飯これっぽっちじゃ足りないってばよ。カカシ先生に奢ってもらうくらいしなきゃ割に合わないってばよ!」

 大きなオニギリを口一杯に頬張りながら、ナルトも吠える。

「もうっ、ナルト! いつも言ってるでしょ! 飲み込んでから喋りなさいよ! 汚いんだから・・・」

「・・・確かに、時を軽んじるようでは、上忍が務まるとは言い難いな・・・」

 2人から少し離れた所でおかかオニギリを貪っていたサスケは、水筒の茶を飲み込むと、プチトマトを摘んでボソッと吐き捨てた。

「そうよね。アレで里でも随一の優秀な忍びだなんて、ホントだかも怪しいもんだわ」

「変な本も読んでるしな! 木の葉の行く末も心配だってばよ! でもさ、でもさ、大丈夫、サクラちゃん! オレが火影になって里を変えてみせるから大丈夫だってばよ!」

「・・・それも不安だけどね・・・」





 言われたい放題のカカシは、サクラ達とは少し離れた木の上の太めの枝に腰を下ろし、ナルト曰く“ロクでもない本”を読みながら、昼食を摂っていた。

『そう言えばに昼飯用意してこなかったけど大丈夫かな・・・ま、財布持たせてるんだし、何処かで食うよな・・・』

 お勧めの食事処も幾つか案内してあるし、散歩がてら里を回って、何処かで済ませているだろう、とカカシはそのまま本を読みふけっていた。





「あ〜っ、カカシせんせぇ見〜っけ!」

 ふと、下の方から甘く優しい声が聞こえてくる。

?! どうしてここに・・・」

 下を見ての姿を認めて驚いたカカシは、本を閉じてしまうと、スタッと下に下りた。

「どうしたんだ、一体。何かあったのか?」

「えへへ。カカシせんせぇを探してたの」

「「あ〜〜〜〜〜っっ!!」」

 聞き慣れない声がして辺りを見回していたサクラとナルトは、一楽で見掛けたカカシの“連れ”の姿を認め、驚いたように声を張り上げた。

 木々に止まっていた鳥達が一斉に飛び立つ。

 サスケもカカシの方を見遣った。

「あっ、昨日のコ達だ。えっと、ナルト君にサクラちゃんにサスケ君、こんにちはvv」

 はニコッと微笑み、やっほ〜、と手を振る。

 ふぅ、とカカシは大きく溜め息をついた。

「こ、こんにちは・・・」

 幾分戸惑いながら、挨拶を返す。

「カカシ先生、誰だってばよ、その姉ちゃん?!」

「昨日言っただろ〜? って」

「そうじゃなくって! どういう人かってことよ! 旅行者ってホント? 一楽のおじさんは、カカシ先生の奥さんだって言ってたけど」

 訝しげに、ナルト達はカカシとを交互に見遣る。

「おっ、奥さんって・・・店主め、いい加減なことを言って・・・」

「来る途中にあった商店街を歩いてきたら、カカシが結婚したって噂で持ちきりだったぜ」

 サスケもトドメを刺すように会話に加わった。

「あっ、えへへ。そう見える?」

 嬉しそうには、カカシの腕に絡みつく。

「こらっ、よせって、人前で・・・」

 慌ててカカシは、を振り解こうとする。

「ふ〜ん・・・人前じゃダメだけど、誰も見てなかったらいいって意味なんだ・・・」

「違うっ! 言葉のあやだ!! 奥さんでもないしオレはまだ結婚はしていない! 独身だ!!」

 いつも冷静沈着なカカシが慌てふためいているのが面白くて、サクラは更に追求した。

「まだってことは、これからするってことでしょ? 婚約者ってこと?」

「だ〜か〜ら〜、違うんだって!」

 いくら言い訳しても言葉じりを捕まえて追及してくる知能犯・サクラに、カカシは深く息を吐いて、のことを掻い摘んで説明することにした。









「記憶喪失か〜〜〜・・・成程ね・・・」

「記憶喪失って何だってばよ?」

「ナルト、アンタ馬鹿? 話聞いてなかったの? 自分が何者なのか、何処から来たのか、何も思い出せないことを言うのよ」

「へ〜〜〜」

「でも、カカシ先生の部屋にいつの間にかいて、しかも家から出られないなんて、不思議ね。そんなことってあるんだ」

「ま、その辺はオレにも火影様にも、未だに謎なんだけどな。火影様にも調べてもらってる。それで暫く、オレの家で面倒を見ることになったんだよ」

 だから奥さんでも何でもなくて、生活用品買って回ってたのを新婚と勘違いされたんだよ、とカカシは言い訳した。

さんって名前、カカシ先生がつけたの? どういう意味?」

「あぁ、が付けてるその腕輪に、“”って小さく彫ってあってね。何のことか分からないけど、取り敢えず名前って事にしたんだ」

 そう言って、の腕輪を指し示す。

「へ〜、変わった腕輪ね。石で出来てるの? 不思議・・・角度によって色を変えるんだ。何だか光ってるみたい・・・」

 女のコらしく、サクラは装飾品に興味を示す。

「その首に付けてるのが、カカシがチャクラを練り込んでいるって言う石か」

 珍しくサスケもに興味を示したらしく、口を挟んできた。

『この女・・・膨大なチャクラを持ってやがる・・・何者なんだ、一体・・・』

「あっ、ホントだ。カカシ先生のチャクラが微弱に流れ続けてるわね」

「ウン。この印を施してもらわないと、カカシせんせぇの家から出られないの」

「効き目ってどれくらいなの? まさか永久にじゃないでしょ」

「あぁ、大体24時間ってトコかな。オレも随分強力なチャクラを練り込んだつもりなんだけど、元から石に込められてる障壁が、かなり強大でね。その辺に、の正体を明らかにする鍵があるとふんでるんだけど」

さんからは、結構強いチャクラ感じるもんね。実はスッゴイ偉い人だったりして」

「え〜まさか。・・・あ、サスケ君、怪我してるよ」

 はサスケの手の甲を指した。

「掠り傷だ。どうってことねぇ」

「ダメだよ、バイ菌入っちゃう」

 は手を隠すサスケの腕を掴んで引き戻し、甲に己の手をかざした。

 するとみるみる傷が治癒していく。

「なっ・・・」

「すっご〜い! さんって治癒能力あるんだぁ。医療忍者になれるよ!」

「えへへ。よく分かんないけど、私には癒す能力があるみたい」

 カカシせんせぇが言ってたの、とはカカシを見上げて微笑んだ。

 長い絹糸のような黒髪がさらりと流れる。

 綺麗な髪だなぁ、とサクラは思った。

「自覚がないから、どこまでのものかは分からないけどな。もしかしたら、結構高い能力を持ってるかも知れないよ」

 今度医療忍者のことを記した本を持ってくるから、それを勉強するといいよ、とカカシはの頭を優しく撫でた。

「あ〜っ、何かカカシ先生、触り方ヤラし〜っ!」

「変なこと言うな、サクラ」

姉ちゃんってば、カカシ先生にウチで変なことされてない?」

 ボソッとの耳元で、ナルトは呟いた。

「変なことって何だ〜? ナルト〜」

 聞こえてるぞ〜、とカカシは窘める。

「実はカカシ先生、ロリコンだったりしないでしょうね?」

 あからさまに、サクラは退いて疑いの目を向ける。

「キミタチ・・・何か大いに誤解があるようだが・・・」

 オレを何だと思ってるんだ? とカカシは息を吐く。

「だって、さんって16〜7くらいでしょ? 年頃の若い女のコが、独身のカカシ先生の家で一緒に暮らすなんて、どう考えたって問題じゃない」

「あのね、オレは鬼畜か野獣か? それにはね・・・」

「サクラちゃん、私、23だよ」

「えっ?! 嘘?! ごめんなさい!!」

「記憶喪失なのに、何で歳が分かるんだ」

「あっ・・・」

「火影様の所に行った時にね、火影様が22〜3だろうっておっしゃったの。だから私は、23なの」

「22じゃなくて、3なの?」

 カカシもに問うた。

「うん。上にしといた方が、カカシせんせぇと釣り合うかなって」

「別に釣り合わなくってもいくつでもいいでしょ・・・」

「あ、でもその方がいいんじゃない? 連れ歩いてたら、歳を上にしといた方が、訊かれた時にカカシ先生ロリコンだって思われないしね」

 もうどうでもいいや、とカカシは深く息を吐いた。

「さて、休憩は終わりだ。再開!」

 ナルト達に向かって、カカシは投げやり気味に声を張り上げる。

「え〜っ、もっとお話ししたい〜」

「ダメダメ。演習とは言え、オレ達今任務中だからね。いずれゆっくり時間作ってあげるから」

「じゃあ、ここで見ててもいい?」

「危険だからダメ。帰りなさい。大体何しにここに来たんだ? 

「あ、カカシせんせぇに用があって来たんだった」

 思い出したように、ポン、と手を叩く。

「それにしても、よく此処が分かったな」

「お昼に火影様の所に行ってきたの。そしたら今日は此処にいるって教えて下さったの」

「火影様か・・・そういや、昼飯はどうした?」

「火影様と食べてきたvv」

「あ、そ・・・喜んでたろ、火影様」

「うん。若い女のコとお喋りするのが好きなんだって。一杯お喋りしてきたよvv カカシせんせぇのこととか、色んなお話ししてもらったの。明日も行くって約束しちゃった」

「全く・・・ま、いいか。で、オレに用事って?」

「あ、あのね、カカシせんせぇ、私、欲しいものがあるんだけど、お金使ってもいい?」

 昼食前の続きに散っていったナルト達を見届けながら、おねだりポーズでカカシを見上げた。

「何だ、そんなことか。言っただろ、その金はに渡したんだから、好きに使っていいって。わざわざオレに断らなくていいんだよ」

「でもぉ、カカシせんせぇのお金だし・・・100両くらい・・・じゃなかった、200両くらいなんだけど・・・もうちょっとかかるかな・・・いい?」

「何だ、それくらい、ホントにいちいち断らなくても好きに使って構わないから。さ、危ないから帰って」

 任務中だから送っていけないから、気を付けて帰れよ、とカカシは言い残し、ナルト達の元に向かった。



















 実はコッソリ木陰から演習風景を暫く眺めていたは、カカシが目を光らせていたので、仕方無しにその場を後にし、街中を歩いていた。

「あ、アカデミーだ。授業とかってもう終わったのかなぁ・・・」

 適当に歩き回っているうちにアカデミー前まで辿り着いたは、そっと中を覗き見た。

「見学くらいいいよね・・・」

 一度カカシに案内されてあらかた見て回っていたのだが、授業がどんなものかと興味を持ったは、校舎の外をウロウロと、中を伺っていた。

 教室の隣の狭い準備室で1人事務整理をしていたイルカは、ふと視界に人影が映ったのに気が付き、窓の外に目を遣った。

「あれは・・・確か、さん」

 立ち上がって、窓の元まで歩み寄る。

 もイルカに気が付いて、ぱぁっと花が咲いたような笑顔で駆け寄ってきた。

 顔を赤らめながら、イルカは窓を開ける。

「どうしたんですか、さん。こんな所で」

「お散歩してたんです。そしたらアカデミーが見えたから、授業ってやってるのかなぁ、って」

「カカシ先生が任務だから、1人じゃ退屈でしょう。残念ながら、今日の授業はもう終わったんですよ」

 頬を掻きながらを見下ろすと、豊かな胸の谷間が視界に飛び込んで来て、イルカは焦って目を泳がせた。

 イルカの姿にキョトンとして、無垢な笑顔で見上げる

「な〜んだ、残念。イルカせんせぇはまだお仕事?」

「えぇ、このアカデミーでの仕事が終わったら、各任務の事務処理仕事です。アカデミーと、掛け持ちでやってるんですよ」

「この間みたいな、任務の報告とか?」

「そうですね、任務の依頼書を各チームに渡したり、任務が終わったら報告書を受け取ったり、いわゆる受付窓口業務です」

「ねぇ、イルカせんせぇ。アカデミーって、忍者になるコ達が通う、忍者の養成学校でしょ? どういうことやるの?」

 の問いに、イルカは事細かに、アカデミーの授業について話した。

 そしてハッとする。

 いくら大した話をしてないとはいえ、忍者がこんなに口が軽くていいのか、と。

 の前では、どうも警戒という名の鍵が外れてしまうようである。

「そっか〜、大体カカシせんせぇのお家で読んだ本の通りなんですね。ねぇ、イルカせんせぇ。忍者になるには、このアカデミーに通わないといけないの?」

「えぇ、忍者を目指す者は、里の者なら必ず此処に入学して学びます。キチンと学んだ後、卒業試験をクリアして、下忍認定試験を合格したら、晴れて下忍、忍者の仲間入りです」

 この額当てをしているのが忍者の証ですよ、とイルカは額当てを指した。

「そっか〜。じゃあ私はダメかぁ。“サトノモノ”じゃないし」

「え? さん、忍者になりたいんですか? って、え? 里の者じゃないって・・・異国人なんですか?」

 そう言えば、の顔立ちは、木の葉の里の者ではない。

「だからカカシ先生、いいのかどうか、火影様の所に・・・?」

 イルカの誤解は、まだ解けていなかった。

「イルカせんせぇ、今度、アカデミーの授業とか、見学してもいいですか?」

 甘く柔らかい声で、はイルカに請う。

「え、えぇ、いつでもいいですよ」

 そのおねだりポーズに、イルカはドキリと一層赤面する。

「“医療忍者”ってゆ〜のも、此処でなれるんですか?」

「え? 医療忍者ですか? それは、卒業した後に、素質のある者が特別コースで学ぶようになっていますが・・・」

「そっか、どっちにしろアカデミーを卒業しなくっちゃいけないのか。火影様、医療忍者を勧めてくれたけど、出来るのかなぁ、私・・・」

「え? 火影様が?」

「あ、ハイ。この里で暮らしていくんなら、医療忍者の道があるって」

「って・・・さん、そういう能力があるんですか?」

「えと、治癒能力ってゆ〜んですか? そういうのがあるみたいです」

「へぇ・・・確かに、さんのチャクラは不思議な強い力を感じますが・・・」

 ふと思うところがあるように、イルカは腰のポーチからクナイを取り出し、手の甲に刃先を当ててスッと引いた。

「わ〜〜痛そ〜〜」

 はイルカのいきなりの行為に驚き、漆黒色した目を大きく開けてまじまじと鮮血の滲み出す傷口を見つめた。

「痛くないんですか?」

「はは、訓練してますから、これくらいどうって事無いですよ。さん、これ治せますか?」

 スッ、とイルカは傷のある手の甲をに差し出す。

「え・・・」

 躊躇いがちには傷口に手をかざす。

 みるみる、何もなかったかのようにすっかり消えていく。

「へ〜っ。ホントだ、凄いですねぇ。火影様が医療忍者を勧めたんですか? 里随一のエリートのカカシ先生と、火影様も認める医療スペシャリストの夫婦かぁ、凄いですね。木の葉の里の未来も安泰って感じですね」

 手の甲を繁々と見遣ってさすりながら、イルカは笑った。

「えへ。夫婦に見えます?」

 ニコ、とは微笑んだ。

「えぇ、すっごくお似合いですよ。美男美女で。式はいつですか? その辺りまでもう決まってるんですか?」

「ん〜〜〜・・・カカシせんせぇと私は、そ〜ゆ〜んじゃないんですよ」

 ポリポリ、とは頬を掻いた。

「え?!」

「3日くらい前に、知り合ったばかりです」

「一体、どういう・・・」

 イルカは訳が分からず、困惑しているようだった。

 は、どう説明したらいいのか、むぅ、と腕を組んで考え込んだ。

「えっと、簡単に言っちゃうと、私、記憶喪失なんです」

「え? 記憶喪失?」

 そしては、先程カカシがナルト達に説明していたのを思い出しながら、その通りに掻い摘んでイルカに話した。

「な、成程・・・オレ、変な誤解してたんですね。申し訳ありません」

「昨日カカシせんせぇと商店街歩いてたら、殆どの人にそう思われちゃってたから、しょうがないですよ」

 火影様も、最初はそう思ってらっしゃったし、とはふんわりと笑う。

「でも、わたしは自分が何者なのか分からない不審人物ですし、さっきも言ったようにカカシせんせぇのお家から出られないから、カカシせんせぇにお世話になってるんです」

 ホラ、コレ、とはチョーカーを示す。

「不思議なこともあるもんですねぇ・・・オレ、てっきりカカシ先生がようやく家庭を持つことになったもんだと思ってたから、もうすぐ皆に話すところでしたよ。教えて頂けて良かったです」

 成程、カカシ先生のチャクラを感じる、とイルカはの首元を覗き込むが、同時に胸元まで目に飛び込んで来たので、慌てて目を逸らした。





「さて、と・・・オレは次の仕事に向かいますが、さん、アカデミーに興味がおありなら、余っている教科書差し上げますよ。それで大体は学べますから。見学も自由ですし、火影様がお許しになっているんだったら、いつでも来て下さい」

 棚を探り、数冊の本を袋に入れ、に渡す。

「あ、ありがとうございますぅ」

 私もお買い物に行かなきゃ、とはカカシに買ってもらった時計に目を遣った。

 手を振りながら駆けていくの姿を見届けながら、イルカも手を振り返し、準備室を出て行った。

















 は鼻唄混じりに、軽快に商店街を歩いていた。

 欲しかった物は買い終わり、嬉しそうに包みを抱え、後はカカシの書き残していったメモ通りに食材を買うだけだった。

 ん〜、とは暫し考え込む。

 最初に寄ったのは魚屋。

「えっと、秋刀魚下さい」

「おや、昨日カカシさんと居たお嬢さんじゃないか。カカシさんもこんな綺麗な若い嫁さんを貰ったか〜。ピチピチでいいねぇ」

「えっ。あの、ちゃんと言っておかないとカカシせんせぇにご迷惑かかるから。あの、私、奥さんじゃないです」

 ナルト達と話していた時のカカシの否定ぶりを思い出し、は訂正した。

「あれ、違うのかい。ワシャてっきり・・・」

「私は異国人です。行きずりで、行く当てがなくて、カカシせんせぇにお世話になってるんです」

 咄嗟にこういう台詞が出るあたりは、頭の回転はよいのだろう。

 が、男女の秘め事・色恋事に疎いのが、難点だった。

「そうかいそうかい。大変なんだねぇ。鰺のいいのが入ってるよ。朝飯用に、持っていきな」

 お涙頂戴に感じた店主の親父は、オマケ、と秋刀魚の他に鰺を2匹ずつ、袋に入れた。

「えっ、いいんですか?」

「お嬢さん可愛いから、サービスだよ。カカシさんにもいつも贔屓にしてもらってるし。これからも宜しくね」

 あっ、名前は何てぇんだい? と、頭を下げてその場を去ろうとするを呼び止めた。

です。カカシせんせぇのお家にいるので、これからもちょくちょく来ます。こちらこそ宜しくお願いします」

 再びペコ、と頭を下げると、は八百屋に向かった。

「あんな綺麗なお嬢さんと一緒に暮らしてるのか・・・? いいのかねぇ・・・」





 魚屋の主人の呟きを背に、は八百屋に入った。

「すいません、えっと、ほうれん草と、茄子と、大根下さい」

「おや、カカシさんの連れのお嬢さんじゃないか。熱くていいねぇ、手料理かぁ」

 同じく誤解されているようなので、魚屋での会話を、はそっくり老婦人に向かって再現した。

「何だ、てっきり新婚さんだと・・・」

「皆にそう言われてます」

ニコ、とは微笑む。

「そりゃあ、そうだろうよ。あんなに仲睦まじく歩いてたら、誰だってそう思うさね」

「えへへ」

「でも、一緒に暮らしてるのには変わりないんだろ? カカシさんもそのまま嫁さんにしたらいいんだ。独り暮らしが長いし、不憫でねぇ・・・お嬢さんのような花のように可愛い人と一緒になれば、カカシさんも癒されると思うけどねぇ」

 の買う物を袋に詰めながら、オマケ、と多少多めに入れてくれていた。

「そうだ、このジャガイモもオマケ。肉屋で、小間切れを買って帰るといいよ」

 は訳が分からず、取り敢えず礼を言い、今度は肉屋に向かった。

 肉屋にて、八百屋でオマケに貰ったジャガイモの話をしたら、一つの料理を教えてくれた。

 行く先々で訂正して回って買い物を済ませたは、るんるん気分で家路を歩いた。

















 演習任務も終わり家路を急いでいたカカシは、商店街の噂がすっかり消えていたので、不思議に思っていた。

 ま、いっか、と気が楽になり、がお腹を空かせて待っているだろう、と屋根伝いに駆けていき、家の前に立つ。

 ドアを開けると、ふわぁっと漂ってくる芳しい匂い。

「何だ・・・?」

 ただいま〜、と室内に入ると、包丁がまな板の上を規則正しいリズムを立てており、味噌の香りがカカシの鼻をくすぐる。

「あ、おかえりなさ〜い」

?! どうしたんだ、そのカッコ?!」

 エプロン姿のが、お玉を片手にカカシを迎え入れる。

「えへへ」

 ふわっと微笑みをカカシに向けた。

「晩飯・・・作ってたのか? ていうか、作れたのか? いつの間に・・・」

 は次々と、料理を食卓に並べていった。

 献立は、秋刀魚の塩焼きにほうれん草のおひたし、茄子の味噌汁だった。

 空腹をくすぐる芳ばしい匂いに綺麗な見た目、カカシはゴクリと喉を鳴らした。

「あのね、カカシせんせぇに迷惑かけちゃいけないから、家事やるって言ったでしょ。でもお料理できないから、本屋さんで、お料理の作り方の本を買ってきて、見ながら作ったの。大体は、カカシせんせぇの作り方を真似したんだけど」

 難しいね、上手くできたかな、とは不安げな顔を覗かせる。

「あっ、あぁ、美味そうだよ。それにしても、今朝まで何もできなかったのに、よく・・・」

「本に、詳しく書いてあったから。でも、これに書いてある通りに作ろうと思っても、説明書きだけじゃ足りないものってやっぱりあるんだね。前書きと後書きの通りだった。でも、カカシせんせぇの真似したんだvv」

「足りないものって?」

「愛情v」

 の抱えていた本は、“これから始める・新婚新妻の優しい手料理”というものだった。

 思わず、肩をずり落とすカカシ。

 呆気に取られてしまった。

「色々本を捲ってみて、これが一番いいな〜って思ったの」

「エ、エプロンも買ったの?」

「だって、必要でしょ? 本の人もしてるし。お店でエプロン下さいって言ったら、これを勧めてくれたの。可愛いでしょ?」

 の身に付けていたエプロンは、白地の、フリルとレースの一杯の、如何にも“新婚新妻”なものだった。

「それが買いたかった訳か・・・。オレの残していったメモと材料違うね。何で?」

 カカシは、新婚さんな空気に、くらりと眩暈を覚えた。

 悪い気分ではなかった。

「あ、ごめんなさい。カカシせんせぇを驚かせようと思って、んでこれまでのカカシせんせぇの献立から、好きだろうなってメニューにしてみたの。・・・違った?」

 は胸元で手を握り、上目使いにカカシを見つめた。

「いや、オレの大好物ばかりだ」

「ホント?! 良かったぁ〜」

 ぱぁっ、と明るい笑みを零す

 エプロンの白地も相まって、殊更眩しく見えた。

「あっ、もう一品作ってるんだ。もう煮えたかな・・・」

 コンロに向かい、鍋の中の物に菜箸を通す。

「何作ったの?」

深めの鉢によそって食卓に並べる。

「・・・肉じゃが?」

「商店街の人達がとっても親切で、男の人は大抵肉じゃがが好きだから、作ると喜ぶって言われて。あ、他にも一杯、オマケしてもらったんですよ」

 そう言って、残っている材料をカカシに見せた。

「若いコには気前いいんだよなぁ、皆・・・・特に綺麗な女のコ・・・」

 美味しそうだ、ベスト脱いで来るよ、とカカシは部屋に行き、ベストを脱ぎ、手甲と口布と額当てを取って戻ってきて、食卓に着いた。

「味は自信無いなぁ・・・いただきま〜す」

「ん、美味いよ、。初めてにはとても思えない。上出来だよ」

 味噌汁を吸い、サンマを摘み、肉じゃがを頬張ると、カカシは笑顔で言い放った。

「ホント?! 良かったvv」

 普通の味がするよ〜、と自身も食べてみてまんざらでもないようだった。

「カカシせんせぇ、これからは私がご飯作るねvv お料理一杯覚えたいし」

「そ? 助かるけど・・・」

 の味付けは、カカシの味付けと同じだった。

 恐らくはカカシの味しか知らない為だろうが、の舌は正確だ、とカカシは思った。

「それにしても、サスケ君って凄いね。色んな技使ってて。あの“カトンゴウカキュウノジュツ”っての、凄かったなぁ。どうやってたっけ・・・」

 食事の手を止めては印を結び出し、口に手をやったところでカカシに止められた。

「コラコラ。家の中で火を吹いちゃ、火事になるでしょ。全く、危険だって言ったのに、隠れて見てたね?」

「あっ、えへへ。しまった、バレちゃった」

 ペロ、と舌を出すに、火遁の術も真似るか、とカカシは驚かずにはいられなかった。









 食後、片付けも終わって居間で2人まったりしていて、が今日一日里内を歩き回って、“誤解”を全て解いてきたことをカカシは知った。

 だが、恐らく、はカカシと2人でいたら誤解されてもそのまま笑って余計誤解させていたであろうが、1人だったので、違うと言わざるを得なかっただけだろう、と思った。

 会話に付き合ったら、それは嘘を吐くことになるのだから。

 正直なコだ、と無垢なを、カカシは優しく見つめた。

『取り敢えず、イルカ先生の誤解だけでも解いてくれて助かった・・・あのまま信じ込まれてたら、今頃他の連中に何を言われたか分かったもんじゃない・・・』

 ふぅ、と息を吐き、カカシは風呂の湯加減を見に行った。

「じゃ、オレ風呂入ってくるよ」

「あ、ハ〜イ」





 カカシが上がってくると、は本に目を通していた。

「それ、今日イルカ先生から貰った教科書? アカデミーの」

 パラ、とカカシも目を通す。

「そういや医療関係の本持って来るって言ったんだっけ。ゴメン、今度持ってくるよ」

「余ってるからって、図々しく戴いてきちゃいました」

 の目を通すスピードは、尋常ではない早さだった。

、それで頭に入るの?」

「え? 何が?」

「内容。そんなにパラパラと早く捲って、頭に入ってるのかって」

「ちゃんと入ってますよ〜。そんなに早いですか?」

「うん。流し読みより早いよ。普通頭に入らないよ、それじゃ」

 カカシも忍びという性質上、速読は身に付けているが、のそれは遥かに超えていた。

『こんなスピードだから、オレの蔵書を一晩で読み切っちゃったんだ・・・』

 を風呂に促し、上がってくると、今度こそ、こっちに来ちゃダメだよ、と強く言い含め、寝室に追いやった。









 が。

 やはり翌朝もはカカシの傍らで眠っていた。

 ご丁寧に、今度は毛布と座布団持参で、毛布に包まり、座布団を床に敷いて。

 カカシは、どうしたものか、と思案する。

「カカシせんせぇの温もりを感じながらなら、眠れるんだもん」

 度々咎められつつも、めげずには口を尖らせて言い放った。

「しょうがないな・・・」

「え、じゃあ今夜から一緒に寝てくれる?」

 ぱぁっ、とは大きな闇色の瞳を輝かせる。

「それはダ〜メ。これを貸そう」

 そう言ってカカシがおもむろに取り出したのは、大きなクッションだった。

「どうするの? それ」

「寝る前にオレのチャクラをこのクッションに練り込むから、これを抱いて、ちゃんとベッドで寝るように。いいね?」

「え〜〜〜〜〜」

「え〜じゃないの! ちゃんとベッドで寝なきゃ疲れるって言ったのはでしょ。言った本人がちゃんと守らなきゃ、オレだって守れないよ」

「ってことは、守ったらカカシせんせぇもベッドで寝てくれるってことだよね? わ〜い♪」

 嬉しそうに、は洗面所に消えていった。

「えっ、違っ・・・;」

 慌てても後の祭り。

 カカシは、深く溜め息をついた。















 との奇妙な共同生活が始まって、1週間が過ぎようとしていた。

 はすっかり料理も手慣れ、朝晩の食事と昼の弁当を作った。

 最初は戸惑ってばかりいたカカシだったが、と過ごす日々もまんざらではなく、むしろ満たされていた。

 の醸し出す空気には、癒しの効果がある。

 カカシは今までにない程、穏やかな日々を送っていた。

 一方のは、カカシが一緒に寝てくれないことを不満がってはいるが、カカシのチャクラ入りクッションを抱き締めることで、1人でもベッドで眠れるようなので、カカシも安心して寝ることが出来た。

 毎晩夜這いされたのでは、いつ理性が飛ぶか分からない、とカカシは懸念していた。

 それでなくても、は美しくて魅力的だ。

 邪な想いに駆られたことが一度も無いといったら、嘘になる。

 こうして任務の間の昼食休憩中に本を読みふけって精神統一しようとしても、の滑らかな肢体が脳裏に浮かび、ぶんぶん、とカカシは頭を振った。

 煩悩を振り払っても、の甘く柔らかな声が、耳について離れない。

 あの声で喘ぎでもされたら・・・。

 イカン、今は任務中だ、とカカシは幻聴が聞こえないように耳を塞いだ。

「カッカシせんせぇ〜〜vv」

 また幻聴が聞こえる。

 オレの頭もイカレたかな、とカカシは水筒の茶を一気に飲み干した。

「カカシせんせぇってばぁ〜〜」

 しかしまだ聞こえる。

 木の上にいたカカシは、昼寝を決め込んだ。





「もう、寝てるのかな、カカシせんせぇ・・・」

 木の下から見上げていたは、プクゥ、と頬を膨らませ、仕方ないので、ナルト達を探した。

 少し離れた所に3人、ちょっとずつ離れて座って昼食を摂っているのを見つけた。

「やっほ〜」

「あ、さん!」

 手に付いたご飯粒と海苔を舐めながら、サクラは振り返った。

「今日は演習だって聞いたから、覗きに来ちゃった」

「暇だな〜、姉ちゃんも。オレ達ってば任務中だから、忙しいんだってばよ」

「えへへ。今は休憩中でしょ? ナルト君達とお友達になりたいから、来ちゃった。お話ししててもいい?」

「友達・・・? 別にいいってばよ、なっても・・・」

 ニッコリ微笑むを見て顔を赤らめるナルトは、照れくさそうに、ぶっきらぼうに言い放った。

さんって、昼間何してるの? まさかずっと火影様の相手してるの?」

「まさか。火影様は、お忙しいから、お時間作って相手してくださってるの。後は里内を探検したり、アカデミー見学したりして、夕方になったらお買い物してご飯作ってるの」

 は膝に手を当てて腰を屈め、流れ落ちてくる長い髪を掻き上げて耳に掛けた。

「アカデミーの見学って・・・さん、本当に医療忍者になるの?」

「う〜ん、分からないけど、私の能力が役に立つんなら、勉強しても損はないでしょ。もし記憶も戻らなくて自分の国にも帰れないようなら、このままここで暮らしていくんだし、ちゃんと生活の基盤を作りたいから」

 いつまでもカカシせんせぇのお世話になってるだけじゃ、申し訳ないし、とは微笑んだ。

「医療忍者って、治癒能力があればなれるものだったかしら?」

「それだけじゃない。普通に忍者としての能力もなければ、ただの医療班だ。医者か看護婦になった方がいい」

 サスケもトマトをまるごとかじりながら、加わってきた。

「そうよね。でも、さんってチャクラ結構強いし、アカデミーで学べば忍者になれるんじゃない?」

「私、ちょっとなら忍術使えるよ」

 3人の元に、ちょこんとはしゃがんだ。

「え? そうなの? どんな?」

「ん〜と、変化の術とか、分身の術とか」

「うっそだ〜っ。じゃあさ、じゃあさ、見せてくれってばよ!」

 オレだって苦労したんだぞ〜、とナルトはハナから信じない。

「じゃ、やってみるよ。見ててね。えぃっ」

 しゃがんだ姿のまま印を結んだは、カカシに変化してみせた。

「うっそ・・・ホントだ・・・そっくり・・・」

「じゃっ、じゃあさ、じゃあさ、分身の術は?!」

 ポンッ、とは5人に分身する。

「すっごい・・・何で出来るの?!」

「記憶喪失の異国人が、何で忍術を使えるんだ」

 一同、驚きの念を隠せない。

「あのね、本とか巻き物とか読んで勉強して、後カカシせんせぇがやってみせてくれて、それを真似したの」

「真似?!」

「どういうことだ。写輪眼じゃあるまいし、コピ・・・」

「あのさ、あのさ、気になることがあるんだってばよ」

 サスケの疑問の言葉を、ナルトは勢いよく遮った。

「何? ナルト君」

 は分身を解き、ナルトを見遣る。

「あのさ、左目・・・どうなってるってばよ?」

「あっ、私も気になる!!」

「左目・・・? これ?」

 皆に促されるままに、は額当てをずらした。

 そこにあるは、寸分違わず変化した、カカシの写輪眼。

「凄い・・・写輪眼も完璧に変化できてる・・・」

「? 皆は出来ないの?」

 の言葉に、3人も揃ってしゃがんだままカカシに変化した。

 が、ナルトもサクラも、左目は通常のままだった。

「やっぱダメ?」

「サスケ君は、自分でも写輪眼持ってるから、出来るわよね」

 サクラの言葉に、サスケはスッと額当てをずらした。

「ホラ、出来てる」

「え〜、違うよ〜。サスケ君の写輪眼はサスケ君のままで、カカシせんせぇのとは違うよ」

 の言葉に、あっ、そう言えば・・・とサクラ達はサスケとを見比べた。

「やっぱり、持ってないものは再現できないのかぁ。血継限界なんだもんね、特異体質のものなんだから、無理かぁ」

 はぁ、と頬に手をついてサクラは息を吐く。

「じゃあ、何でコイツは正確に再現できるんだ?! 忍術といい・・・何者なんだよ、一体」

 苛立ちを見せながら、サスケは吐き捨てた。

「えっとね、カカシせんせぇが言ってたんだけど、私って、見たものをコピーできる能力があるんだって。カカシせんせぇやサスケ君の写輪眼に似た能力があるみたい」

「へ〜〜。ますます、さんの正体が謎よねぇ」

「あのさ、あのさ、オレ、もういっこ気になることがあるんだってばよ」

「何よ」

「す・が・お!」

「あっ、そっか!」

姉ちゃん、写輪眼も再現できるんなら、素顔もコピーできてるよな? 見して?」

「素顔?」

「ホラ、カカシ先生って、こうやって口布で顔隠してるじゃない。だから私達も、ホントの所を言うと、写輪眼以外も正確に出来ない訳。さんはカカシ先生の素顔分かるのよね?」

「え・・・そりゃ、一緒に暮らしてるんだし、家では口布してないもん。毎日いつも見てるから、分かるよ」

「「やったぁ(ってばよ)!」」

「え? 何?」

「オレ達ってば、カカシ先生の素顔見たことないんだってばよ。だから気になって気になってさ。お願い、姉ちゃん、見して?」

「え・・・ずっと一緒に任務やってるのに、一度も無いの? 変なの・・・いいよ。じゃあ、本邦初こうか〜・・・」

 口布に手を伸ばすに、3人は心臓を高鳴らせてゴクリと生唾を飲み込んで見守った。

「オレに変化して、何やってるの、キミタチ」

 呆れ顔で、本物のカカシが背後に立っていた。

 3人は、心臓が飛び出そうな程に驚いて尻餅をつく。

「きゃあっ」

「うぎゃあっ」

「・・・っ」

 全員、カカシに変化した姿のままだったのである。

 傍から見ると、かなり異様な光景だった。

「1人多いのは、か? また遊びに来たりして・・・危険だから演習場には来ちゃいけないって言ったでしょ」

 ポン、との頭を軽く叩く。

「えへ。ごめんなさぁい。皆と早くお友達になりたかったの〜。カカシせんせぇ、ゆっくりお話しする時間作ってくれるって言って、全然作ってくれないんだもん。だから来ちゃった」

「・・・何度も言ったでしょ、。オレに変化してその言葉遣いは気味悪いから。オマエ達も! さっきから聞いてたら、全然オレになりきれてないじゃないか。変化も満足にできないようじゃ、アカデミーからやり直すか?」

 ん? とカカシは皆を見渡した。

 ちぇ、と揃って変化を解く。

「さぁ、おふざけはおしまい! 演習再開! も戻って」

「はぁ〜い。みんなぁ、今度ゆっくりお話ししようねぇ!」

 そう言い残して戻っていっただったが、この日もやはり、コッソリ隠れて演習を眺めていて、幾つかの術を覚えたのだった。