【出会いはいつも偶然と必然】 第六章 は毎日、時間を作っては病院に行くようになった。 あらゆる患者を診て、次第に重い怪我や病気までをも快癒させていくようになったその能力は、医療上忍・ヒヅキが言っていたように、かなりの高い能力が頭角を表し始めていた。 も能力の使い方を自覚し始め、益々その強大なチャクラは開花していった。 それを聞いてカカシは、記憶が戻せなかったのは残念だが、病院にやって正解だった、と思った。 何がきっかけで記憶が戻るか分からないのだから、あらゆる能力に目覚めていくのは悪いことではない。 キャベツの葉のように、一枚一枚、障壁を剥がして閉ざされた本来のを剥き出しにさせられればいいのだ。 度々演習をも覗きに来るは、かなりの数の忍術や幻術を覚えた。 は医療忍者を目指す気でいるようなので、そちらも覚える必要がある。 カカシは時間を作っては、にあらゆる忍術や幻術を教えた。 今までコピーして会得してきた術を、同じようにコピーできるに会得させる。 驚く程吸収がいいので、かなりの高等な術も教えた。 病院で能力を使い開花させてきているは、それ故に術の覚えも高い。 相乗効果で、のチャクラはどんどん強大になっていった。 『問題は体術か・・・こればっかりは地道に体力作りしないといけないからなぁ・・・』 ま、でも記憶が戻れば、自国に戻れる術も分かるかも知れない。 そうすれば医療忍者になる必要もない。 最初から分かってやっていることだ。 が、カカシはその事を考えたら、妙な寂寥感を覚えた。 『オレは・・・にずっと此処にいて欲しいと思っているのか・・・?』 にとって最良の道が何なのか、カカシには分からなくなっていた。 親戚の叔父さんが入院しているというので親に見舞いに行くよう頼まれたサクラは、花と果物籠をもって、病院に来ていた。 さほど重病ではなく、もう退院するというので、世間話をして、病室を後にした。 喉が渇いたので売店でジュースを買って飲んでいたら、ふと見知った顔を見つけた。 「さんじゃない」 もサクラに気が付き、笑顔で手を振って歩み寄ってきた。 「サクラちゃんだ〜vv どうしたの? 怪我? 病気?」 「ううん。お見舞いにきたの」 サクラは、先程まで会っていた叔父の話をにした。 「そっか、あの人、サクラちゃんの叔父さんだったんだ」 「さんは病院で何してるの? 怪我でも病気でもないみたいだけど・・・お見舞いするような知り合いいるの?」 もジュースを買って、サクラの隣に腰掛けた。 「ううん。何て言うのかな・・・お仕事?」 「仕事?」 「って言ってもお給料貰ってる訳じゃないから、お勉強かな、うん」 「勉強って・・・病院で?」 「うん。ホラ、私、治癒能力があるでしょ。でも、使い方が分からないままだから、ここで修業みたいなことして、マスターしようとしてるの」 「そっか〜、成程ね〜。うん! 確かにそれっていいかも。何かさん、最近益々チャクラが強くなったみたいだし」 「そう?」 「あ! もしかして叔父さんの慢性の病気治してくれたのって、さん?」 「あ、うん。昨日ね。快癒してると思うんだけど」 「叔父さん、すっかりいい調子だって、喜んでたわよ。有り難う、さん」 「えへへ。どういたしまして」 「まだ病院にいるの?」 「ううん。今日はもう帰るよ。たまには街を歩いて、ウィンドウショッピングもいいかな、なんてね」 買う物は無いけど、雰囲気だけね、とは微笑んだ。 「あ、じゃあ、ウチに来ない? 母さんにも会わせたいし」 「いいの? っていうか、任務は?」 「今日は終わったの。早めに解散したから、暇なんだ」 きっとナルト、一楽に行ってるわよ、とサクラは笑った。 「でもカカシせんせぇは帰れないんだよね・・・」 「あ・・・うん。詰め所に待機だから」 ちぇ、とは口を尖らせた。 サスケ君も1人で修業してるのよ、きっと何処かで、とサクラも寂しそうに微笑む。 「行こ、さん。女同士の話で盛り上がろうよ」 立ち上がって飲み終わったジュースのパックを捨てると、サクラはの腕を引っ張った。 サクラの家にやって来たは、玄関先で少しサクラの母親と立ち話をすると、2階のサクラの部屋に通された。 室内をキョロキョロと見渡していると、サクラが飲み物とお菓子を持ってやってきた。 「可愛い部屋だね。女のコの部屋って、こういう感じなんだ」 有り難う、とはグラスを受け取った。 「そっか、さんってカカシ先生の家にいるんだもんね。自分の部屋は無いんだ」 サクラはジュースを口に含み、お菓子を頬張った。 「うん。カカシせんせぇの寝室を借りてるの。私物は収納ケースに入れてるけど、そんなに量無いから、ホントに居候」 食べて、と勧められたのでもお菓子を手に取る。 「寝室って・・・カカシ先生はどこで寝起きしてるの?」 「隣の居間のソファ」 パク、とかじりつく。 「なぁ〜んだ、ビックリした。てっきり一緒に・・・」 「そう! ベッドで寝てっていつも言ってるんだけど、ダメって言うの」 「そりゃそうよ。若い年頃の男女が一つ屋根の下で暮らしてるってだけでも問題があるのに、カカシ先生、意外と良識派なんだ」 安心したわ、とサクラは音を立ててストローを吸う。 「でもさ、さんと居るとカカシ先生って、いっつもあたふたしてて、面白いのよね。普段は沈着冷静って感じでオットナ〜な振りしてるけど、さんに振り回されてる感じだもん。いつもはどっしり構えて微動だにしないのにさ」 クスクス、とサクラは笑う。 「カカシせんせぇ、ウチにいる時はいつもバタバタしてるよ? サクラちゃん達といる時は違うの?」 の言葉に、サクラは目を丸くして、恐る恐る伺い立てる。 「・・・まさかとは思うけど、さん、ナルトじゃないけど、家でカカシ先生に変なことされてないよね?」 「? 変なこと? 何もされてないよ。っていうか、何もしてくんないの。つまんない」 プクゥ、とは膨れる。 「何もしてくれないって・・・つまんないって・・・さん、して欲しいの?」 ゴクリ、とサクラは唾を飲み込んだ。 「私、1人だと眠れないのね。だからカカシせんせぇに一緒に眠って欲しいのにダメって言うし。腕組んで歩く時も、カカシせんせぇダメだって・・・何でダメなんだろ」 他にも色々・・・とは語った。 「そりゃ・・・だってカカシ先生とさんは恋人同士でも何でもないんだから、そういうことしたら問題じゃない。スキンシップはまぁともかく、一緒に寝るのは問題よ」 「? 何で?」 「何でって・・・」 「カカシせんせぇも同じようなこと言ってた。何でダメなの? 何がいけないの? 私っておかしいの?」 サクラは目が点になった。 「・・・さんって・・・もしかしてカマトト?」 「カマトトって何?」 呆気に取られたサクラは、何となくのことが分かりかけ、カカシの苦労をくみ取った。 『これじゃカカシ先生も大変だ・・・今どき、10歳の子供だってもっとませてるわよ・・・』 5歳児が母親の温もりを求めてるようなものなのだ、とサクラは思った。 「そんな挑発的な格好しといて、カマトトは卑怯だな〜」 「卑怯? 何で? 挑発的って?」 「さんって、いっつも、肌の露出の多い服着てるじゃない。ナイスバディだし、似合うからいいけど、独身の若い男のカカシ先生には目の毒よ」 今日も、キャミソールのミニスカワンピだった。 「でも、服選んでくれてるのカカシせんせぇだよ」 「えぇ?!」 「私、好みとかって特にないし、流行とかも分からないから、適当にカカシせんせぇに、似合うの選んでって言って」 「・・・カカシせんせぇの好みなの? いつも着てる服・・・」 「うんvv カカシせんせぇ、センスいいでしょ? だからどれも気に入ってるんだvv」 あのスケベめ・・・と内なるサクラが後ろに見え隠れした。 カカシのことを語る時、いつも、とても嬉しそうに話すを見て、サクラは尋ねた。 「さん、カカシ先生のこと好きなんだ」 「うんvv 大好きvv」 ニコ〜ッ、と極上の笑みでは微笑む。 「それって男として? それとも・・・」 「あ、サクラちゃんやナルト君やサスケ君も好きだよvv」 「へっ・・・」 「後ね〜、イルカせんせぇとか、ゲンマさんも好きvv」 ゲンマって誰? と思いつつ、サクラは呆れる以外になかった。 「あのさ、さん。カカシ先生を好きって言うのと、私達を好きって言うのは、同じ? それとも別?」 「? 好きって気持ちに、違いがあるの? 皆、同じだよ?」 キョトン、とは大きな漆黒の瞳を見開いている。 「違いはあるわよ。カカシ先生のことを考えている時と、他の人のことを考えている時に、違いはある?」 「ん〜? 別にないけど・・・」 サクラは質問を変えた。 「例えばさ、カカシ先生のことを考えている時は、きゅ〜んって胸が熱くなるとか、ドキドキするとか、他の人の時にはない感じはないの?」 「う〜ん・・・いつも一緒にいたいな〜とか、ぎゅってして欲しいな〜とか思うかな。一緒に居ると、とっても幸せな気持ちになるよvv」 言葉だけ聞いているとそれは恋だ、とサクラは思ったが、先程感じたとおり、の思考は5歳児と同じで、母親を求めるそれと同じなのだ、と言う考えに突き当たり、には恋愛感情というものは存在しないのかな、と思った。 無駄と分かっていて、サクラはそれを問うてみる。 「さんは、恋愛感情でカカシ先生を好きって事?」 「恋愛感情・・・? どういうもの? それ。カカシせんせぇを好きなのと、サクラちゃん達を好きなのに、違いなんてないよ。分けなきゃいけないことなの?」 「・・・さんは、記憶を失うと同時に、そういう特別な感情も全部忘れちゃってるんだわ。何もかも。残ったのは、純粋無垢な魂だけ。赤ちゃんみたいなものね。さんは、年相応の考え方が出来るようになるべきよ」 私より10歳上なんて思えないもの、とサクラは立ち上がって本棚を見遣った。 「これ、貸してあげるから読んでみて。少しは、年頃の色恋について理解できる筈よ」 そう言ってサクラが差し出した数冊の本は、ティーンエイジャー向けの恋愛小説だった。 「そうすれば、何でカカシ先生が困るのかも、分かるから」 「ふ〜ん・・・ありがと。やっぱり私ってどこかおかしいのかな・・・」 は本を受け取り、パラ、と中を覗いた。 「おかしいって訳じゃないわよ。記憶喪失なんだから、仕方ないわ。チャクラを引き出す訓練をしているのと同じ感覚で、日常生活を送る上で欠けている部分を埋める訓練ってトコかな、それを読むのは」 成程、と言いながらは、パラパラと頁を捲り出した。 「あ! さんって、尋常じゃない速読が出来るって聞いてるわ。それを読む時は、それやっちゃダメ。ゆっく〜り、じっくり何度も読んでね。理解できるまで。返すのはいつでもいいから」 「よく分かんないけど・・・そうするわ。サクラちゃんの方が、こういうことは先輩みたいだし」 12歳とは思えないや、とは微笑んだ。 「私もそんなに達者って訳じゃないけどね。恋愛感情での好きな人がいるって言う気持ちがあるのとないのとじゃ、気持ちが全然違ってくるのよ。幸せにもなれるし、一喜一憂したり大変だったりもするけど、毎日が一層充実するのよ」 「へ〜ぇ。でも、私、今でも充分幸せだよ。もっと幸せになりたいなんて、罰が当たりそう」 「そんなことないわよ。恋をすれば分かるわ。今まで何て勿体ないことをしてたんだろう、って思えるから」 「そういうものなんだぁ。難しいんだね、その恋っての・・・」 「難しくはないわよ。恋は理屈じゃないもの。頭で考えるんじゃないわ。気持ちが勝手に動くのよ」 「う〜ん・・・それは何となく分かるかなぁ」 それからも、暫くサクラの恋愛講義は続いた。 「・・・でね、間違いなくカカシ先生もさんのことはまんざらでもないって思ってる筈なのよ。波の国から帰ってきてから私達のカカシ先生に対する認識が変わったってのもあるけど、さんが来て、間違いなくカカシ先生も変わったもの」 「独り暮らしと2人暮らしは随分違うってカカシせんせぇは言ってたよ? 買い物の量とか、食事を作る量とか、洗濯物の量とかも全然違うし、って」 「そういうんじゃないわよ。考え方とか、感じ方とかさ・・・」 「あぁ、一人っきりになれないから、私邪魔かも。1人で考えたいこともあるだろうしね。プライベートって言うの?」 「そうじゃなくて・・・独りだったのが同居者がいることで癒されるって言うのかな・・・」 暖簾に腕押し、の堂々巡りは、いつまでたっても終わらなかった。 「私、カカシせんせぇの役に立ってるの? 迷惑なだけじゃないかなぁ?」 「そんなことないわよ。現にカカシ先生、随分穏やかな表情するようになったし・・・元々が飄々としてて掴み所無かったけどね。まぁ、相変わらず任務の時は厳しいけど」 「任務の時のカカシせんせぇってカッコイイよねvv いつも家では見せない顔とか見れるしvv いいなぁ、私もサクラちゃん達の班に入りたいな」 「私は、謎な私生活のカカシ先生の普段の顔ってのを見てみたいけどね」 「術とか色々私に教えてくれる時も、もっとあぁいう顔見たいのになぁ」 「さん、カカシ先生に術教わってるの?」 「うん。医療忍者目指してるから、医療の方だけじゃなくて、忍者としての基礎も覚えないといけないからって。忍術や幻術を教えてくれるよ」 「へ〜っ。確かカカシ先生って、写輪眼で千以上の術をコピーしてるって聞いたもんね・・・でも覚えるの大変じゃない? 木の葉のエリートって言われる上忍のカカシ先生の持つ術なんて言ったら、相当修羅場くぐってるだろうから、高等術ばかりじゃない?」 「ん? でも、一度やってみせてくれれば、仕組みは分かるから大丈夫だよ」 「あ、そっか! さんって写輪眼みたいに、見たものをコピーできるんだっけ。いいなぁ、便利で」 でもその高等術を会得できるだけのチャクラがあるからこそ可能なんだよね、とサクラは息を吐いた。 「でも、体術が全然ダメだから、忍者になれるのは当分無理そうなんだな」 同じく、も溜め息をついた。 「そっかぁ、体術は、体力をつけないとだもんね。こればっかりは日々の鍛錬だからなぁ・・・あ!」 「? 何? どしたの?」 「本で読んだことがあるんだけど・・・医療の心得があれば、人の身体の仕組みや何かを自由に操れるって。だって、それで治したり敵を倒したりしてるんだもんね。ってことは、自分の身体もそうじゃないのかな?」 「どういうこと?」 「つまり、自分の身体のチャクラやメカニズムを意図的に操作することによって、体力増強も出来るんじゃないかって事。皆、そういうことやってるんじゃないかと思うの。そうすれば、私達と同じスピードで駆けたり、身体を使った接近戦も出来るようになるんじゃないかな」 「あぁ、そういえば、医療忍者は、己のチャクラの大部分を治癒に回して戦って、怪我を負わないようにすることも出来るってカカシせんせぇ言ってたっけ・・・」 「でしょ? それと同じ理屈だと思うのよ。だから、体力的に劣っていても、人並み以上に増強も可能だと思うのよね。ただ・・・」 「ただ?」 「それが禁術でなければ、だけど。ドーピングみたいなものでしょ。もしそうじゃなくても、もしかしたらそういうことをすることによって物凄い反動があって負担が激しいかも知れないし・・・でも、いざ戦闘になったら、そんな悠長なことは言ってられないしね。いいことなのかどうか、カカシ先生に訊いてみたらどうかな」 「そうだね。もし本当に医療忍者としてやっていくことになって、任務や戦闘に赴くようであれば、必要だから、そうなったら、いつか訊いてみるよ」 今はまだズルしないで地道に体力作りするよ、忍者じゃないし、とは笑った。 「それもそうよね。基礎は身に付けといた方がいいもんね」 「でも、さっすがサクラちゃん、カカシせんせぇが言ってただけのことはあるなぁ」 「え? 何を?」 「サクラちゃんは、下忍レベルを遥かに超えた、頭脳の持ち主だって。チャクラのコントロールも上手いけど、頭脳は中忍レベル以上だって」 「そ、そうかな・・・お勉強は確かに得意だけど・・・」 チラ、とは本棚を見遣った。 「あ、この本、カカシせんせぇのお家にもあったよ。応用力学の本。難しい本持ってるんだぁ」 あ、これもこれも、とは手に取る。 「さんは当然分かるんだよね?」 「ん〜? まぁ一応ね」 当然か、とサクラは勉強机の椅子に座った。 「あっ、これ何? マスコット?」 は机の上の、数個の小さなマスコットを見つけた。 「あ、うん。この前作ったの」 「サクラちゃん達7班全員の人形だね。このカカシせんせぇ可愛い〜〜vv」 無邪気な笑顔では人形を抱き締めた。 「この4人で写ってる写真はカカシせんせぇの寝室にも飾ってあるよ〜」 そっ、とはカカシ人形を元に戻して写真立てを見て呟いた。 「部下を持ったらこうやって写真撮るのが夢だったんだって」 「夢? 今までは無かったの?」 「カカシせんせぇ、暗部辞めて今の職に就いてから、合格者を出したのってサクラちゃん達が初めてだって言ってたよ」 「あ! そう言えば下忍合否のサバイバル演習の時、そんなこと言ってたっけ・・・」 「カカシせんせぇが下忍の時の写真も、これと同じ構図で撮って飾ってあるんだよ」 ちっちゃくて可愛いの、とは微笑む。 「カカシ先生って、いくつで忍者になったの? 聞いてる?」 「5歳でアカデミー卒業して、6歳で中忍になったって言ってた」 「えぇっ?! エリートとは聞いてたけど・・・ホントに凄い人なんだ、カカシ先生って・・・」 20年以上も忍者やってるんだぁ、とサクラは感嘆した。 「写真も5歳の時のなの。可愛いよvv」 話を聞いていて、気になったことがあったので、サクラはに尋ねた。 「・・・その写真に写ってるカカシ先生って、口布してないの?」 「ん? してるよ」 「なぁ〜んだぁ。ってことは、忍者になった時からしてるんだ、アレ・・・」 がっかり〜、とサクラは仰け反った。 「いっつも思うんだけど、何でそんなに口布口布言うの?」 「だって、カカシ先生の素顔見たことないんだもん。気になるじゃない」 「まだ見てないんだ? 見たいなら、見せてって言えばいいのに」 見せてくれるよ、とは微笑む。 「ん〜どうかなぁ。ひねくれてるから、意地悪して見せてくれなそうな気がするな」 「そう? カカシせんせぇは優しいよvv」 はカカシ人形が随分気に入ったらしく、優しい笑みで撫でていた。 サクラは、もっとカカシの謎の部分を知りたいと思った。 なら知ってるだろう、と。 「あ、そっか・・・」 「え? 何、どしたの、さん」 「あ、ううん。あっ、もうこんな時間だ。夕飯のお買い物に行かなきゃ」 ベッドサイドの時計を見遣って、は声を上げた。 「あら、随分長いこと話してたのね。通りでお腹空いてきた訳だ」 「じゃ、そろそろお暇するね。長居しちゃってごめんなさい」 「ううん。楽しかったよ。夕飯の買い物って・・・そっか、さんがご飯作ってるんだっけ?」 部屋を出て、階段を降りながらサクラは問うた。 「うん。最初はお料理の本を見ながらだったんだけど、大分慣れてきたよ」 「そんけ〜い。私、全然手伝わないからなぁ。たま〜にくらいで。母さんに料理習おうかな。サスケ君に手料理食べてもらえたらな、なんて。キャ〜ッvv ・・・それにしても、ホントに新婚さんみたいね」 じゃ、また女同士のヒミツ話しようね、と玄関で約束し、が帰るのを見送った。 は商店街を歩きながら、ある店を探していた。 「サクラちゃんに聞いてくるんだったな・・・」 道行く人に尋ねて辿り着き、随分長いことその店に滞在し、出てきた時には、大層な大荷物だった。 「しまった・・・夕飯の材料買って持てるかな・・・無理だよね。一度帰ろう」 一旦家に戻ったは、その荷物をカカシに見つからないようにベッドの下に隠し、るんるん気分で再び買い物に出掛けた。 「何か随分楽しそうだね、。何かいいことでもあったの?」 食後、鼻唄混じりに片付けをしているを見て、カカシは問うた。 「えへへ。午後からね、サクラちゃんのお家に行ってたの」 「へぇ。今日は任務が早く終わったからな」 仲良くなれて嬉しいって訳だ、とカカシは微笑んだ。 「うん。女同士の秘密話、ってのをしてきたの」 「は?」 の口から出るとは予想してなかったその言葉に、カカシは肩をずり落とした。 「い〜っぱいお話ししたよ〜。楽しかった〜vv」 「女同士のって・・・どういう?」 「ナイショvv 女同士のヒミツだもん」 「さいですか・・・サクラは、まだ子供のくせにかなりませてるからなぁ」 「子供なんていったら失礼だよ〜。サクラちゃんは考え方もしっかりした、立派なレディだよ」 「で、その立派なレディとはレベルが同じって訳か」 はお子様だからな〜、とカカシは不敵に笑う。 「え〜? サクラちゃんの方がしっかりしてるよぉ。私、ぜぇ〜んぜんダメ。怒られちゃったもん」 カカシは何となく、どんな話をしたのかは想像がついた。 カカシ自身、毎日とのことをサクラに問い質されているからだ。 「本も貸してくれたの」 「本? どんな?」 「これを読めばカカシせんせぇが何で困るのか分かるから、ゆっくりじっくり、理解できるまで何度も読んで、って言われたの」 カカシせんせぇ、意味分かる? と洗い物を終えたはサクラから借りてきた数冊の本を差し出した。 「お子様向けの恋愛小説か・・・成程ね・・・」 18禁小説を読んでいるカカシにとって、それ以外は“お子様小説”と分類していた。 「で? それだけ? そのウキウキは」 風呂の湯加減を見に行って戻ってきたに、カカシは更に問うた。 「あっ、そうだ。カカシせんせぇ、あのね、またお金使っちゃった」 「え?」 「あのね、欲しい物があって・・・大分使っちゃったよ、ごめんなさい」 「だから、何度も言ってるけど、に渡したお金は、が好きに使っていいんだよ。毎日の買い物も、店の人が大分オマケしてくれるから、食費も随分浮いてるだろ? オレが独り暮らししてた時とそんなに変わってないみたいだから。服とか本とか、欲しい物に使っていいから、オレに断らなくていいよ」 カカシに財布を渡されてから、は家計簿をつけるようになり、それを見てカカシは言ったのだ。 「でもぉ・・・」 「何に使ったの? 服? 本?」 「ううん、違う。えへへ、内緒vv」 「内緒ならオレに報告しなきゃいいじゃないか。そうだ、また服買いに行こうか。同じのばっかり着回してたら、つまらないだろ。女のコは、お洒落したいだろ。今度の非番にでも買いに行こう」 「え〜、別にいいですよぉ」 お洒落とか、よく分からないし、とは照れくさそうに笑った。 「たまには、ファッション雑誌とかも見てみたら? は正式に忍者って訳じゃないし、もっと普通に、一般人並みの生活をしてもいいと思うんだよね。道行く女の人とか、お洒落に大分気を使ってるだろ? 真似してごらん」 「う〜ん・・・よく分かんない」 「誰かアドバイスしてくれる知り合いがいればいいけどなぁ・・・ま! 服屋の店員とかに相談するといいよ」 あぁいう手合いって、任せられると張り切るから、喜んでに似合う服を選んでくれるよ、とカカシは言った。 「え〜カカシせんせぇが選んでくれる方がいいよぉ〜」 「そ? でもオレも流行なんて分からないしなぁ。本屋に行って、ファッション雑誌買ってきて研究しようか。明日にでも買ってきといてよ、」 「どういうの買えばいいの?」 「本屋の店員に聞けば勧めてくれるよ」 あ〜でも近所の本屋は主人がオッサンだったな・・・とカカシは考え込む。 「あっ! ゲンマさんにまたアドバイスしてもらおうっと♪」 ポン、とは手を叩いた。 「ゲンマ・・・君? 何で?」 突如出てきた他の男の名前に、カカシは少々面白くなさそうにに問うた。 「本屋でね、よく会うの。お勧めの本とかも教えてくれるんだ」 「・・・まぁオッサンよりはゲンマ君の方が流行には詳しいか・・・意外と物知りだからな、ゲンマ君は・・・」 「でしょ?vv 他にも色々、困ってるとアドバイスしてくれるんだよvv」 嬉しそうに話すに、カカシは何だか面白くない。 「困ってることがあったらオレに相談すればいいでしょ、」 「え〜、カカシせんせぇが分からなくて答えられないこととかを訊いてるんだよ〜〜」 そう言われると返す言葉が無い。 カカシは所在なげに立ち上がり、風呂に入るよ、と着替えを取りに行き、浴室に消えた。 カカシは風呂から上がると、が用意しておいた湯冷ましの水分補給をし、ソファに腰掛けた。 続いて風呂に入ってきたは、上がると洗濯機をセットして寝室に行き、クッションを持ってカカシのいる居間にやってきた。 「カカシせんせぇ、チャクラ練り込んで?」 無邪気な顔で、クッションを差し出す。 「? まだ寝るには早いだろ。もう寝るのか?」 言われるがままに、カカシはいつものようにクッションに己のチャクラを練り込んだ。 「ううん。まだ寝ないけど、やることがあるの」 はい、と返されたクッションを、ありがと、と受け取ると、は居間を出て行こうとした。 「サクラから借りた小説読むのか? だったら別に此処でも・・・」 「ん〜違うの。此処じゃ出来ないの」 内緒v と振り返っては微笑んだ。 「カカシせんせぇ? 入ってきちゃダメだよvv」 扉から顔だけ覗かせ、はニコ、と再び微笑む。 「何だ? 鶴の恩返しみたいだな」 カカシは笑いながらを見送ると、イチャパラの続きを読みふけった。 『1人で過ごすのは久し振りだな・・・も秘密を持つようになったか・・・』 いつも感じている温もりが隣になく、何だか物寂しかった。 『いつの間にか、が居るのが当たり前になっていたな・・・』 は異国人。 記憶が戻れば、自国に帰る。 最初から分かっていることだ。 それなのに、どうしてこんなに寂寥感を覚えるのか。 この感情が何なのか、カカシは薄々気付いていた。 だが、敢えて封じ込めていた。 カカシは酒を食らう為、席を立った。 風呂上がりにと過ごさなくなって、3日が過ぎようとしていた。 食事の時はいつもと変わらず、楽しそうに会話を交わすが、風呂から上がると、ウキウキとは寝室に消えていく。 毎日、入ってきちゃダメだよ、と念を押されて。 何故なのかは分からなかったが、今まであんなに自分にべったりだったのに乳離れされた気分で、カカシは無性にの温もりが恋しかった。 がこうも豹変した理由が分からない。 その直前まで、今までと何ら変わりはなかったのだ。 オレを必要としなくなったのかな、とカカシは一抹の寂しさを覚えたが、だが、相変わらずクッションにチャクラを練り込んで、とやってくるので、別に必要とされてない訳ではない、とは思う。 と同時に、己にもが必要なのだ、と言う事実に気が付く。 「参ったな・・・」 の行動が気にはなったが、寝室を覗こうとはしなかった。 早朝のまだが眠っている間も、が風呂に入っている間も、入ろうとはしなかった。 特に、寝静まった頃には、絶対に近付かないようにしていた。 己の自制心に、自信がなかったからだ。 何をやらかしてしまうか。 まんじりとしない日々ではあったが、のチャクラが常に優しくカカシを包み込んでいたので、気持ち的には落ち着いていた。 4日目の夜、はクッションを持ってやってこず、寝室にこもった。 『とうとうオレのチャクラも必要としなくなったか・・・』 傍から見ればヤケ酒と思えるハイペースで、カカシは酒を食らっていた。 その時、部屋のドアが開いた。 「? どうした? クッションか?」 「ううん。それはいいの。えへへ、カカシせんせぇ、髪の毛1本頂戴?」 「髪の毛? やるのは構わないけど・・・何だ?」 「えへへ。2本でも3本でもいいよ。一杯欲しいな」 笑顔では、背後からカカシに抱きついた。 「おいおい。そんなにやったら禿げちまうよ」 久し振りのの暖かく柔らかな感触が、カカシの鼓動を高鳴らせた。 「禿げないくらいでvv」 訳も分からず、カカシは数本の髪の毛を抜いた。 「どうするんだ?」 「えっとね、チャクラ練り込んで欲しいの。うんと」 「・・・まさか、夜なべしてオレに内緒で、オレのわら人形作って丑の刻参りするんじゃないだろうな?」 カツーンカツーンと五寸釘打つんじゃないだろうな、とカカシは苦笑いをし、の要望通りにチャクラを練り込んで、に差し出した。 「えへへ、ありがと〜♪ 近いけど、ちが〜うvv」 は受け取ると、足取り軽やかに、とてとてと部屋を出て行った。 「何をやってるんだ? 一体・・・」 益々、カカシには謎だった。 暫くして、笑顔一杯でが戻ってくる。 後ろ手に、何かを隠している。 「えへへ、随分かかっちゃったけど、引き籠もりはもう終わったよvv」 「今まで何をやってたんだ?」 クィッ、とカカシは酒を含む。 「じゃ〜ん!! 見て見て〜〜vv」 カカシの目の前に差し出されたのは、赤ん坊大の、カカシにそっくりなぬいぐるみ人形だった。 額当ても口布も、ベストなどの忍服も忠実に再現されている。 「ぶっ。なっ・・・何だそれは?!」 カカシは思わず、含んでいた酒を吹き出した。 「だからぁ、見ての通り、カカシせんせぇの人形だよvv サクラちゃんがちっちゃい4人のマスコット作ってるの見て、思い付いたんだ〜」 結構自信作なんだけどな〜、とはカカシ人形抱き締めてカカシの隣に座った。 「何でまたそんな物を・・・」 「だってぇ、カカシせんせぇ、いつになっても一緒に寝てくれないんだもん。だから、クッションもいいんだけど、同じ抱き締めて眠るなら、カカシせんせぇの形してる方が雰囲気出ていいな〜って思ったの」 カカシは呆気に取られ、頭を抱え込む。 「今度からこれにチャクラ練り込んで?」 チャクラが入ったら本物みたいだし、とは極上の笑みで人形をカカシに差し向ける。 「・・・ま、いいけどね・・・」 オレのこの数日間の杞憂は何だったんだ、と息を吐き、カカシは“自分”を受け取ってまじまじと見つめた。 カカシはチャクラを練り込むと、抱っこする形で膝に乗せ、酒を含んだ。 「カカシせんせぇの子供みたいだよね」 再びカカシは酒を噴き出す。 パジャマの袖で口を拭い、人形をに返した。 は嬉しそうに、きゅっ、と抱き締める。 『新婚家庭の新米パパママみたいじゃないか、それじゃ・・・;』 「じゃなかった、カカシせんせぇの子供の頃みたいだよね」 「そ? ま、自分でも似てるとは思うけど・・・」 言い換えたのが、天然じゃなかったら確信犯に聞こえるよ、とカカシは息を吐く。 「枕元の写真見ながら作ったんだvv 格好は今のだけど・・・」 何だかに躍らされてる、とカカシは思った。 「写輪眼もちゃんとあるんだよ〜vv」 そう言っては、額当てをずらした。 「ホントだ、凝ってるね」 細部まで、本当に“ミニチュアカカシ”だった。 「お金使ったって言ってたの、これだったんだ」 「うん。最近あんまりカカシせんせぇとお話しできなかったけど、作ってる間、とっても楽しかったvv これからはもっと良く眠れるよねvv」 ぴと、とカカシに寄り添うと、すっくと立ち上がり、じゃ、オヤスミナサ〜イ、とは出て行った。 「やれやれ・・・」 呆気に取られつつも、カカシはを可愛く思った。 翌日から、風呂上がりのとのひとときは再開された。 が、もれなくコブ付きで。 はカカシ人形を抱っこしてカカシとお喋りし、子供を可愛がるように人形を撫でていた。 カカシは自分があやされているようで、何とも変な気分だった。 が、悪い気はしなかった。 愛しい目で、を見つめ、肩を抱く。 この気持ちは何だろう。 分かっていて、カカシは気付かない振りをした。 確信が持てなかったせいもある。 オレはもしかしたらまだ・・・。 “自分”を抱くがとても幸せそうにしているので、それで良かった。 いつの日か自分が家庭を持つ時が来たらこんな感じなのかな・・・とカカシは窓ガラスに映る“3人”の光景を見て思った。 この穏やかな日々がずっと続けばいい・・・。 |