【出会いはいつも偶然と必然】 第七章








 ある日、が見慣れない服を着ているので、カカシは不思議に思った。

「どうしたの? その服。自分で買ってきたの?」

 朝食を摂りながら、カカシはに尋ねた。

「あっ、えへへ。ゲンマさんが選んでくれたの」

「ゲンマ?! ・・・君?」

「本屋でバッタリ会ってね、ファッション雑誌を選んでいたら、ゲンマさんが見立ててくれるって言って。いつもと違うお店に案内してくれて、買ってもらっちゃった」

 の着ている服は、カカシの選んでいるいつもの露出の多い派手目のものとは違い、露出を抑えた、清楚な感じの物だった。

 それがまた似合うので、カカシは面白くない。

「こういう服も似合うよって、何着か買ってくれたの。お金払うって言ったのに、買ってもらっちゃって、何か悪いコトしちゃった」

 どういうつもりなんだ、ゲンマ・・・とカカシはぶすくれつつ、味噌汁を啜った。

「服買いに行こうって約束してたよね。今日は非番だから、行こうよ、

「え〜? そんなに沢山要らないですよぉ。勿体ない」

「女のコなんだからもっと贅沢にファッションに気を遣ったらいいんだよ。くらいの年頃なら、お洒落と恋愛が生活の大半を占めてるものなんだからさ」

「でも、カカシせんせぇ、詰め所に行かなくていいの?」

「あぁ、招集があれば伝書鳥が教えに来るから大丈夫。店が開いたら行こう」

 食事を終え、片付けも済ますと、カカシは、ゲンマが買ってくれた、と言う他の服を見せてもらった。

 どれも清廉な感じで、大人受けもいい感じの、上品なデザインの物ばかりだった。

『ゲンマって・・・意外とお嬢様風が好みなのかな?』

 ふと思ったことを、カカシはに問うた。

「ねぇ、ゲンマ君と会ってる時、ゲンマ君ってのいつもの服装について何か言う?」

「え? 別に何も言わないですよ。サクラちゃんには、露出が多くて挑発的だって言われたけど」

 ベッドに腰掛けるは、布団を被せて赤ちゃんを眠らせているようにしていたカカシ人形を抱き締め、答えた。

「サクラが言ったようなことは言われない? 変な目でのこと見たりとか」

「う〜ん・・・服のことは何も言われたことないですよ。たまには違う感じの服はどう? って言われただけで。変な目でって?」

 お人形遊びさながらには人形を動かす。

「ホラ、道行く人とか、いやらしい目つきでじろじろ見られたりするだろ? そういう感じ」

 は魅力的だから、とカカシはの前にしゃがんで、人形の手を取ってぶらぶらさせた。

「ん〜・・・ゲンマさんは、いつも私の目を見てるよ」

 街の人とかは違うトコ見てたりするけど、とは人形でカカシにパンチを食らわせた。

「目?」

 それを受け止めてを見上げる。

「うん。何でも分かってるよ、って感じで。大人〜って感じかな」

「ま、ゲンマ君はオレより3つ年上だしね・・・」

 確かに、悟ったような目で見られるよな、とカカシも同意した。











 陽も大分高くなった頃、カカシとは買い物に出掛けた。

日用品を先に買い、そして一番の目的である、の服を買いに店へ足を向ける。

「カカシせんせぇもたまに服買おうよ」

「オレ? 普段はずっと忍服だし、それ以外はパジャマだし、必要ないよ」

「だったら私も必要ない〜〜」

 プクゥ、とは膨れた。

「分かった分かった。オレも一着くらい買うから。店は何処にする? たまには違う店行く?」

 出掛ける前に2人で見ていたファッション雑誌のお勧め店に行こう、ということになった。

 まずはカカシの服を見た。

 シンプルなシャツなどを選んだ。

 の服は、カカシとあれこれ選んでいたら、積極的な店員が話し掛けてきて、モデルさながらの美女を前に喜び、流行りの服の中で似合う物を勧めてくれた。

 大体はカカシがいつも選んでいる露出の多いもので、だがまた一味違ったタイプで、も気に入ったようだった。

 会計を済ませて2人は店を出ると、買物袋を沢山提げて、街中を歩いた。















 アスマ率いる、いの、シカマル、チョウジの第10班は、馴染みの甘味処、甘栗甘で休憩していた。

「ちょっとチョウジ、食べすぎよ! 食べすぎで動いたら、お腹痛くなるわよ」

 お茶を啜りながら、いのは吐き捨てた。

「ヘーキヘーキ。これくらいじゃ、ボクのお腹はどうってことないよ」

 そう言って、チョウジはバクバクと栗羊羹をいくつも頬張る。

「へっ、虫歯になるなよ〜〜治療は痛ぇぞ〜〜」

 年寄りの風体で茶を啜り息を吐くシカマルは、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「そっ、それはイヤ・・・」

 ヤレヤレ、とやり取りを眺めているアスマはタバコを燻らせながら、頭を掻いた。

 同じく息を吐くいのは、ぜんざいの栗を頬張りながら、ふと道行く人の群れの中に、奇妙な2人連れを見掛けた。

「あれ・・・あれって、確かサクラんトコの先生じゃない?」

 ムグムグゴクン、と飲み込んで身を乗り出す。

「ん? カカシか? 確か今日は非番だったな」

 いのの言葉にアスマが目を遣ると、カカシは買物袋を幾つも提げて、と腕を組んで親密そうに歩いていた。

「ねぇ、女連れよ。恋人かしら」

「か〜っ、上忍が詰め所にも行かずに昼間っからデートかよ。いいご身分だぜ」

 つられてシカマルもチラと見遣り、吐き捨てた。

「何だ何だぁ? カカシに女がいるなんて、聞いてねぇぞ、オレは」

 ついこの間、サッパリだって言ってたばかりじゃねぇか、とアスマもカカシの連れを見て驚く。

「随分綺麗な人ね。かなりの面食いだわ」

 チョウジも興味は示しつつ、だが食い気の方が優先されていた。

「大分若いわね。あの先生、ロリコンなのかしら。相手、派手な格好してるし・・・上忍て言っても男は皆スケベなのね」

 16〜7じゃない? といのはを爪先からてっぺんまで品定めするように眺めた。

 は、カカシに言われて、先程の店で買った服に着替えさせられていた。

 というより、試着して、そのまま着ているだけとも言うが。

「おいおい、いの、その中にオレも含まれるのか?」

「あら、先生、違うって言うの?」

「いや・・・否定はしねぇが、少なくともロリコンじゃねぇぞ、オレは」

話題に上る2人は、近くの茶屋に入っていった。

「16〜7? ありゃどう見たって、22〜3だぜ。オマエら皆目が曇ってんな」

 シカマルは面倒臭そうに、息を吐く。

「え〜そう?! まぁ、シカマルがそう言うんなら、そうかもね。そっかぁ、ならお似合いよね。童顔なだけか。でも、モロに男好みな感じよね。ベビーフェイスにエッチな身体ってヤツ? いいなぁ、私もナイスバディになりた〜い!!」

「いの・・・オマエまだ12だろ・・・発育途中なんだから焦るなよ」

 全く今時のガキはませやがって、今のが12の子供の吐く台詞か? とアスマは呆れた。

「まぁ・・・確かに美人だな。紅とはタイプが違うから比べるのもナンだが、ある意味、紅よりレベル上かもな」

「ヒナタんトコの先生? あの先生も美人よね。里一番の美人くの一って言われてるんでしょ。伝説のくの一って言う綱手様とどっちが上かしら。綱手様も美人なんでしょ、先生」

 会ったことあるんでしょ、といのはアスマに問うた。

「あぁ、大層な美人だよ。くの一ってのは、女の色気も武器に使わなきゃならんから、ある意味大変だわな」

 いのも女磨けよ、とアスマは不敵に笑う。

「磨いてるわよ。この色気でサスケ君をイチコロに・・・キャ〜ッvv」

「違うだろ。全く・・・。しっかしカカシのヤツ、今はサッパリだとか思い人がいるから女遊びはしないとか言ってた割に、ちゃっかり押さえるトコは押さえてやがんだな。あの感じじゃ、ついさっきナンパしましたって風じゃないし、一体どういう・・・」

 こっそり様子を伺いながら、アスマは考え込む。

「遊びなのか真面目なお付き合いなのか、興味あるわね♪」

 男と女の恋愛事情の大好きないのは、ニヤ、と笑った。

「アスマ、あの先生とは付き合い深いんだろ。それなのに知らねぇ訳?」

 オレ達ゃかんけーねーんだから、めんどくせーことに首突っ込むなよ、とシカマルは溜め息をつく。

「アイツは昔っからのらりくらりでな〜。肝心なことはいっつもはぐらかすんだよ」

「訊いてこようか? どういうご関係? って」

「やめとけよ、いの。無粋な真似すんな」

「そう? あ、サクラは知ってるかしら。今度会ったら聞いてみようっと」

 担当上忍なんだから、世間話くらいしてるわよね、と腰を浮かせたいのはシカマルの言葉にとりやめて座り直した。

「それはどうだかな。カカシは誰にでも心を開くようなヤツじゃないから、部下だろうと、多分プライベートは訊かれても話してないと思うぜ。オレら上忍仲間でも知らない部分が多いくらいだ」

 オレ達とは違うんだよ、とアスマは煙草の煙を吐いた。

 小休憩でただ一服茶を飲んだだけだったらしいカカシとは早々と店を出てきて、アスマ達のいる方向に歩いてきた。

「やばっ・・・」

 慌てていの達は、咄嗟に身を隠す。キョトンと座っていたチョウジを引っ張り込んで、隠れさせる。





「ねぇ、カカシせんせぇ、折角だから行こうよ〜」

「ん〜でもなぁ・・・」

「私行ってみた〜い。カカシせんせぇ、いっつも任務でいないから、昼間1人で行ったってつまんないもん。ねぇ?」

 きゅっ、とカカシにしがみつき、は甘い声を出す。

「1人で行ったっていいじゃない。どうせ行くんなら夜行こうよ」

「そしたらカカシせんせぇ、これから詰め所に行っちゃうんでしょ? もう。カカシせんせぇが自分で今日は非番で招集がかからなければ大丈夫だからって出掛けてきたのに、もうおしまいじゃつまんないよ」

「そうだけど・・・ま、いいか。でも、この大荷物じゃちょっとなぁ。一旦家に帰ろうか」

「うんvv やったぁvv」

 嬉しそうに、はカカシの腕に絡みつく。

「コラコラ、ちょっとは人目を気にしなさいよ。こんな往来で、皆変な目で見るだろ? いっつもいっつも・・・」

 だが、道行く人は、2人のイチャつき振りよりも、の美しさと肢体の方に目が釘付けだった。

 やれやれ、とカカシは息を吐くと、手を挙げて喜ぶの頭をポン、と優しく撫で、おもむろにを抱き抱え、飛び上がって屋根の上を駆けていった。





「アスマ先生・・・今日任務が終わって詰め所に行ったら、絶対聞き出して教えてよね・・・」

 茫然として見送りながら、いのは呟いた。

「あぁ・・・」

















 その2人は、何故か温泉街に来ていた。

 が情報誌を見て、前から行ってみたいと言っていたのだ。

 買物袋を家に置きに帰って着替えを取ってきた2人は、何処にしようか、とてれてれと歩いていた。

「混浴の所がいいなぁ♪」

「ダ〜メ」

「何でぇ? カカシせんせぇと一緒じゃなきゃ来た意味ないじゃな〜い」

 一緒に入りたい〜〜、とは膨れる。

「一緒に寝るのもダメって言ってるのに、風呂なんて余計ダメだって」

「え〜〜〜〜」

「え〜じゃないの。、そんなにオレのことからかって楽しい?」

「? 私、別にからかってなんかないよ? カカシせんせぇと一緒がいいって、からかってることになるの? 何で?」

 どういったら理解してもらえるのか、とカカシは頭を抱えた。

「オレの理性の問題! 襲われても知らないよ? 。オレ自信無いっていつも言ってんのに」

「襲われる・・・? 何に? でも、カカシせんせぇが守ってくれるんでしょ?v」

「オレに襲われてもいいのかってこと!」

「カカシせんせぇが私を襲うの? どうやって? カカシせんせぇ私のこと嫌いなの?」

 うりゅ、とは瞳を潤ませ、カカシを見上げた。

 その余りの可愛さに、カカシは理性の糸が途切れそうにくらりとなった。

「その襲うじゃなくって・・・」

 今にも泣き出しそうなを見て、カカシはオロオロと狼狽える。

「嫌いなの? 私迷惑?」

「嫌いじゃないよ。迷惑でもない。にはずっとオレの家にいて欲しいから、ね、ホラ、頼むから泣かないで・・・」

 そっと優しく抱き締めて、ポンポン、と頭を撫でる。

 すると、ぱぁっと花が咲いたように笑顔に戻った。

「えへ・・・良かった」

 目尻の涙を拭き取り、ふにゃ、と微笑む

 ふとカカシは思った。

 もし、がこう訊いてきていたら、オレはどう答えたんだろう?





私のこと好き? と・・・。





 こういうことが度々あれば、いつか、他意は無くは訊いてきそうな気がする。

 その時に、オレはどう答える・・・?

 カカシはふと思慮に耽った。

「あ〜っ! ココ混浴だよ、カカシせんせぇ! 此処にしようよ!」

 立て看板を見て、が声を上げた。

「ダメって言ったでしょ。他にも沢山の人が入ってるんだし、貸し切りじゃないんだから・・・」

「え? でも此処、一組様ずつの個室風露天風呂って書いてあるよ? 此処にしようよ」

 露天風呂入りた〜い、とはカカシを引っ張って中に入ろうとした。

「それはオレがまずいって・・・ちょっと・・・っ;」

「貸し切りならいいんでしょ? 個室風に区切ってあればカカシせんせぇいいんじゃないの? 写輪眼も見られないから他の人に害はないよ」

「オレのまずいはそれだけじゃなくってね・・・っておい・・・っ」

 カカシの言葉などお構いなしに、はカカシの腕を引っ張って入っていった。

「すいませ〜ん。空いてますか?」

受付で尋ねる

「はいはい。ございますよ。奥に進んで、女性の方は17番、男性の方は18番の扉から更衣室に入って、それぞれ9番の扉の先が浴場になっております。こちらが鍵です。ごゆっくりどうぞ」

「ありがとうございま〜す」

 入浴料を払い、鍵を受け取り、奥へと入っていった。

「ねぇ、やっぱりやめようよ」

「え〜何でぇ? 折角来たのにぃ。カカシせんせぇ、うじうじして男らしくな〜い!」

 そう言われるとピクンと沽券に関わるので、カカシは腹を据えて覚悟を決めた。

「わぁかったよ。もう、オレは知らないぞ、どうなっても・・・」

 構造は、更衣室は男女男女の順に交互にあって、各更衣室を男女それぞれ2人が入れるようになっており、更衣室の先には浴場への入り口が2つあり、それぞれどちらかに入っていけるようになっていた。

 カカシは素早く着衣を脱ぎ捨て、腰にタオルを巻き、バスタオルを広げて持って浴場に出て、女性側の出入り口の前でを待っていた。

 カチャ、と開くと同時にカカシは顔を逸らせてを捕らえる。

「きゃっ、何?」

 カカシはの胴にバスタオルを巻き付けた。

「全くもう、やっぱり素っ裸で来たか」

「? お風呂って裸で入るものでしょ」

 何でバスタオル捲くのぉ、とは問うた。

「普通露天風呂とかはそうやって入るものだよ。人が見たりすると困るでしょ」

「カカシせんせぇと私だけじゃない」

 わ〜、結構広いんだぁ、空もきれ〜、と嬉しそうにはカカシの腕の中から浴場と空を見渡した。

「裸見られたら恥ずかしいでしょ」

「? 何で? 別にカカシせんせぇに見られるくらいいいじゃない。減るもんじゃないし」

・・・キミには羞恥心て無いのかな?」

「シュウチシン?」

 カタカナで聞こえたぞ、と思ったカカシは、ま、もう諦めよ、と風呂に足を突っ込んだ。

「お〜湯加減丁度いいな」

「わ〜、面白い匂いがするね」

「硫黄の匂いだよ。ココの成分は何かな・・・」

 湯に漬かりたちまちほんのりとしたピンクになるの肌を見ていられないカカシは、所在なげに成分表示を探した。

「ふむふむ・・・身体に良さそうだね。たまにはこういう疲れの取り方もいいかもな」

 そう言ってカカシは、の漬かっている縁から正反対の所に漬かった。

「カカシせんせぇ〜、何でそんなに離れるの?」

「言っただろ、理性に自信無いって。は〜極楽極楽」

 プクゥ、と膨れていたが、暫らくするとは泳ぐようにカカシの元へ近付いた。

「コラッ、来ちゃダメだって・・・っ」

「え〜いっvv」

 飛び込みのように、は後退るカカシに抱きついた。

 水しぶきが大きく音を立てて跳ね上がる。

 生肌と布越しの豊かな膨らみがカカシに絡まる。

 その柔らかさと温もりが、カカシを昂ぶらせた。

「ちょ・・・っ、こらっ・・・離れろって、!」

「ヤだ〜。カカシせんせぇって胸板厚〜い、筋肉凄〜い、気持ちい〜〜vv」

 の熱い吐息がカカシの首筋にかかる。

 余りの気持ちよさに、カカシは思考がおかしくなりそうだった。

 カカシは所在なげにしている腕を泳がせながら、己の昂りをに見られたらまずい、との肩を掴んで強引に引き剥がした。

! オレに抱きついてきたらオレもう上がっちゃうからね!」

「え〜。じゃあ隣にいていい?」

ぴと、とはカカシに寄り添う。

 髪をまとめあげて見えるうなじが、とても色っぽくて、益々昂りは強くなった。

「くっつくのもダメ! お願いだから少し離れてちょ〜だい!」

「どぉしてダメなのぉ?」

 折角貸し切りのお風呂なのにぃ、とは膨れる。

 またうりゅうりゅされたら絶対もう自制心が効かない、と判断したカカシは、印を結んで冷静になり、の頭をポン、と撫でた。

「いいかい、。オレは忍びだから、いついかなる時も、奇襲に備えてなきゃいけないんだ。今は丸腰だから、に今みたいに絡まっていられたら、咄嗟に対応出来ないだろ? も忍者を目指すんなら、そういうことも常に頭に入れておかなきゃな」

 咄嗟に考えた理由だが、嘘ではないので、殊更優しく、に言い聞かせた。

 本当の理由が別にあるとしても、言ったところでは理解できないのだから、この方が効果的だ、と思ったのだ。

「そっかぁ。そうだよね。ごめんなさい。カカシせんせぇとお出掛け出来て嬉しくて、浮かれてた。忍者って大変だね。私には無理なのかなぁ」

 しゅん、とは膝を抱え込む。

「そんなことないよ。今度アカデミーで、忍びの姿勢、心構えをもっと詳しく聞いてきてごらん。本で読むだけより、話を聞いた方が理解できるから」

 ほんの少しの距離を開けて、カカシは忍びの心得について、に言い聞かせた。

 こういうことはちゃんとした教師の方が慣れてるからその方が理解しやすいと思うけど、と言いながら、忍びについて話している間は、カカシは忍びの顔になり、淫らな気持ちは消えていた。





「さて、そろそろ上がろうか」

 暫く話し合ったのち、陽の傾き加減を空に見て、カカシは立ち上がった。

「カカシせんせぇ、背中流そうか?v」

「へっ・・・い〜よい〜よ、折角冷静に戻れたのに、元に戻っちまうよ。1人で大丈夫」

「ちぇ」











 温泉から出た2人は、ロビーで水分補給をして、外に出た。

「さてと・・・気は済んだかな? お姫様」

「ん〜〜ちょっと不満」

「ハハハ。あれ以上はホントヤバイからね。我慢してちょ〜だい。オレもかなり我慢してたんだから」

「おあいこ?」

 意味は分かってなかったが、まぁいいか、とカカシは息を吐く。

「そ。腹減ったな・・・そういや、昼飯食ってないんだっけ。何処かに食べに行こうか」

「うんv」

 嬉しそうに、はカカシに絡みつく。

 何処に行こうかな・・・と思案しながら連れだって歩いてると、は上を見上げた。

「ね、映画観たい」

「は? 映画?」

「面白そうだよ、あれ」

 が指差した看板は、イチャイチャパラダイスだった。

「アレか・・・」

「カカシせんせぇがいつも読んでる本のヤツでしょ? 観てみた〜い」

「ダ〜メっていったでしょ。確かにいい映画だけど、にはダメ」

「何で?」

「R指定だから」

「って、それって18歳未満はダメって事でしょ? 私は大丈夫だよ」

「それには精神年齢も含まれるの。はサクラ以下どころか、5歳児並みだからね。だからダ〜メ」

「ちぇ〜。そう言われると返す言葉が無いけどぉ」







 食事を摂りながら、イチャパラと言えば、と思い出し、カカシはに尋ねた。

「そう言えば、サクラに借りたって言う小説は読んだの? 

「うん、読んだよ。でも、何か難しくって、よく理解できなかった。3回くらい読んだんだけど、まだ1冊目なんだ」

「ハハハ。あのお子様小説が理解できないようじゃ、イチャパラはもっと理解できないよ」

 アレは奥が深いんだから、とカカシは笑う。

「理解できていれば、温泉でのことだって分かった筈だからね」

「そういうものなの?」

「なの」

 食べ終わると、カカシは詰め所に向かい、は火影の元に向かった。











「ふぉふぉふぉ、そりゃカカシも難儀しておるのぅ」

 の話を聞き、火影は豪快に笑った。

 火影は、の天然振りは、連日話をしていて、カカシ並みに理解していた。

 カカシはさぞかし苦労の毎日だろう、と面白がって聞いていたのだが。

「火影様、私ってどこかおかしいんですか? カカシせんせぇが何であんなに困るのか分からないんです」

 嫌いでも迷惑でもないって言ったのに、じゃあ何でダメなんだろう、とは口を尖らせる。

「そうじゃのぅ・・・何と説明したら分かるかのぅ。カカシからも聞かされてはおるのじゃろう?」

「はい。でも、よく分かんないんです。言ってることの意味が」

「ふむ・・・では、男女の心の機微について儂が説明してやろう」















「やれやれ・・・にも困ったな・・・これから益々困るよなぁ・・・どうしよ・・・」

 1人ポツン、とカカシは詰め所で茶を飲みながら、溜め息をついた。

「火影様が上手いことを理解させてくれないかなぁ。木の葉の里の火影なんだから、人生経験も豊富だし、それくらい朝飯前・・・いやしかし、の天然振りじゃあ、火影様でも無理かなぁ・・・」

 家に帰ったらまたよく言って聞かせるか、とカカシは再び深く息を吐く。

には忍術より何より、もうちょっと常識を叩き込んだ方がいいよなぁ・・・」

って言うのか、奥さんの名前」

「いや、奥さんじゃないよ。まだ結婚していない。一緒に暮らしてるだけ」

「楽しそうにデートしてたな?」

「まぁね。しかし、温泉の混浴には参ったよ。は一般常識が欠落してい・・・って、え?!」

 ぼ〜っと思慮に耽ってブツブツ独り言を呟いていたカカシは、話し掛けてきた相手と無意識に会話していた。

「アスマッ?! いつの間に・・・っ;」

「珍しいな、カカシ。オマエが他人の気配に気付かないなんて」

 ニヤニヤと、敵だったらどうする、と煙草を燻らせながらアスマが立っていた。

「な・・・っ;」

 慌てふためいたカカシは、真っ赤に赤面して、バタバタしながら座っている長椅子を後退った。

「いつの間に女出来たんだよ? ついこの間はサッパリとか言ってたく・・・」

 アスマが言い終わらぬ内に、詰め所の扉が勢いよく開く。

 風圧で思わずアスマは身体が前のめりになる。

「ちょっとカカシ! 若い女と同棲してるってホントなの?!」

「紅・・・っ、オマエ何で知って・・・」

「ヒナタが演習でちょっと酷い怪我を負ったから、病院に行って診てもらうついでに薬貰いに付いていったのよ。そうしたら、職員や患者の間でその話題が持ちきりだったのよ。近頃よく来る治癒能力のある異国人の女性って言うのでね。知り合いの忍医に訊いたら、詳しく教えてくれたわ。はたけ上忍がその女性と一緒に暮らしてるって」

 あちゃー、とカカシは顔を手で覆った。

「同棲じゃないよ。同居」

 カカシは飄々と言い放つ。

「同じことじゃない。それも何? この間詰め所で話を聞いた時には、もう一緒に住んでたって言うじゃない。何で隠してたのよ」

 随分親密な仲だって聞いたわよ、嘘ついてた訳? と紅はつかつかとカカシに歩み寄った。

「腕組んで仲良さげに歩いてたなぁ、そういや。抱き抱えたりして」

 あの時感じた気配はアスマ達だったか、とカカシは息を吐いた。

「や、だってほら、こうして根掘り葉掘り訊かれるじゃない。ついね」

「結婚説が出たはそのコか?」

 この間アンコが言ってた、とアスマが尋ねる。

「そ。でも、そういう関係じゃないから。清い関係でございます」

 かしこまるように、カカシは姿勢を正して恭しく言った。

「でも、混浴風呂に一緒に入ったんだろ」

「何もしてないぞっ! オレは大変だったんだ!」

 が、途端に慌てふためく。

「一体、どういうコなんだよ。未来の奥さんと違うのか?」

 アスマらの問いに、そうじゃないよ、とカカシは掻い摘んでのことを話した。





「成程ねぇ・・・不思議なこともあるもんだな」

 カカシの淹れてくれた茶を飲みながら、アスマと紅は感嘆した。

「そういうことならしょうがないけど、本当に何の関係もないの?」

「ないよ」

 いつものように、飄々とカカシは答える。

「でもなぁ、カカシ。大層な美人だったじゃねぇか。あんなナイスバディの美人と一つ屋根の下で暮らしていて、本当に何もないのか? オマエ不能か?」

 下品な質問の仕方に、アスマは紅にギロリと睨まれた。

「あのね。オレは正常だよ。だから苦労してるんじゃないか」

 そしてカカシは、の天然ぶりについても話して聞かせた。

「記憶と同時にそういう感情まで失ってるのかしらね。でも、正常な感情と常識を持っていれば困らないんでしょうけど、それが無いコってなると、カカシも大変ね」

「そうなんだよ・・・」

 分かってくれるか、とカカシは息を吐く。

「まぁ、カカシには思い出の捜し人の女ってのがいるから、寸でのところで踏みとどまれているんだろ?」

 そこまでの思いとなると、ある意味尊敬すらするぜ、とアスマは煙を吐いた。

 その言葉に、カカシは真摯な顔で黙り込んだ。

「? どうした? まさか、その女より今の女の方に気持ちが傾いてきてるのか?」

「いや・・・そう言うことじゃなくて・・・」

 カカシは言うべきか迷ったが、ここまで言ったのだから、言ってしまえ、と腹を決めた。

「はぁ? そのって女と、思い出の女がそっくり?!」

「どういうことよ、一体」

「・・・夢かと思う程、そっくりなんだ。時々、面影がダブって見えてしょうがないんだよ。髪と瞳の色が違うだけで、それ以外の姿形は、そっくりそのまま、同じなんだ」

「でも、思い出の方は、10年前で、カカシと同じくらいの歳だったんでしょ? そのってコは、22〜3なんでしょ?」

「あぁ、今頃は、紅と同じ年頃の大人の女に成長している筈なんだ。でも、は当時のあの女の姿形のままなんだ、何度デジャビュしたか知れないよ」

「別人なんだろうけど、カカシには辛いところねぇ」

「それで余計に手を出すか出さないかで葛藤してるって訳か」

に手を出そうなんて思ってないよ! あのコは純真無垢なんだ。ちっちゃな子供みたいにオレを頼りきってくれてるんだ。だからオレみたいな男の淫らな気持ちで汚すことなんて出来ないよ」

「カカシ・・・ノロケに聞こえるぞ・・・」

「本当は煩悩で一杯なんでしょ? 頼られてるなら、思い切ってそっちから世間の常識を教えてあげれば、少しは理解するんじゃないの?」

「え・・・そうかな・・・」

「純真無垢だか何だか知らないけど、ホントの子供じゃないんだし、いい大人なんだから、大人の付き合いを教えるべきよ」

「やっちまうとか?」

「もう! アンタってどうしてそう下世話な言い方しか出来ないのよ、アスマ!」

 ギロ、と紅は再びアスマを睨んだ。

「でも、アスマの言うことにも一理あるわよ。好かれてるんなら、いいじゃない。そうすることによって、一般的な感情も芽生えるかも知れないし」

「でもなぁ、サクラが貸してくれたお子様恋愛小説読んでも、難しくて理解できなかったって言うくらいなんだぞ? 頭はよくて覚えはいいのに、だ」

 勉学や術の理解は早いんだよ、とカカシは再び息を吐く。

「だから、思い切って実力行使に出るんだよ。獅子は我が子を谷底に落とすって言うじゃねぇか。それと同じような感じでよ・・・」

「・・・何かズレてるわね、アンタの理論・・・」

「そうか? でもよ、今まで知らなかった経験をすることで案外変わるんじゃねぇか? 女は特によ」

「う〜ん・・・でもなぁ・・・」

「とにかく! そのコにはもっと色んな経験を積ませなさい。医療忍者になるとかそういう問題の前に、そのままじゃ問題ありすぎて忍者なんか務まらないわよ」

「でも、記憶が戻れば国に帰るんだし、そうぎゃあぎゃあ慌てなくても・・・」

「帰って欲しい訳?」

「え・・・」

「この間ゲンマが言ってた、心境の変化とか、私生活が充実してるとか癒されてるとか何とか、それってそののお陰なんでしょ? 手放したいの?」

「それは・・・」

 カカシは黙り込んでしまった。

 色々な思考がカカシの中を渦巻く。

「思い出の捜し人と秤にかけられないくらい、大切な存在になってるんでしょ? いつまでも過去に捕らわれないで今を生きるって言ったじゃない。その思い出はすっぱり断ち切って、のことを考えなさい。いいわね」

















 夕暮れになり、今度会わせてよ、と2人に言われ、詰め所を解散したカカシは、色んな事を考えながら、家路に着いていた。

『オレは・・・あの女よりもを・・・?』

 この際、どっちが上か、は関係なかった。

 そういう問題じゃない。

に人並みの感情と常識を・・・その為に・・・?』

 いやでもな、とカカシは揺らぐ思いを抱え、家の前に着いた。

の為にか? オレの為にか?』

 どちらが強いのか、カカシは分からなかった。





「ただいま」

「あ、おかえりなさ〜いvv 夕飯、たった今出来たところだよ〜♪」

 エプロン姿で、花のような笑顔を向けてくる

 眩しくて、思わずカカシはぎゅっとを抱き締めていた。

「カカシせんせぇ? どしたの?」

「あっ・・・ごめん」

 ハッと我に返り、を離す。

「カカシせんせぇ、ズルイよ〜。私には抱きついちゃダメって言うのに、自分ではなんてぇ」

 でも、私はダメじゃないからどんどんしていいよv とは微笑みながら、釜を開けて茶碗にご飯をよそった。

 カカシが部屋でベスト類を脱いで戻ってくると、は味噌汁をよそっていた。

「今日の具はカカシせんせぇの大好きな茄子だよ〜。沢山お代わりしてねvv」

 いただきま〜す、とはかなりご機嫌だった。

 今日のメニューは、カカシの好物ばかりだった。

「機嫌いいね。どうしたの?」

「えへへ。カカシせんせぇとデートできて、楽しかったvv またデートしようねvv」

 の言葉に、カカシは思わず啜っていた味噌汁を吹き出した。

「デ、デート?」

「好きな人とお出掛けしたりするのってデートって言うんでしょ? ウキウキしたり、ちょっと切ないことがあったり、デートって相手に一喜一憂させられるんでしょ。そういう感じだったし」

 サクラのお子様小説を少し理解したか、とカカシは思いながら秋刀魚を摘んだ。

 ふと、紅達の言葉を思い出す。

 今日は、今までとはちょっと違った経験をにさせた。

 正しくはさせられた、かも知れないが、だが、新たな経験をしたことは確かだ。

 それによって、は一歩前進している。

 確かに一理あった訳だ、とカカシは納得した。

 忍術だ医療忍者だと、今まで先走りすぎたかな、とカカシは反省する。

 もうちょっと世間一般並みの過ごし方を覚えさせた方がいいな、と思った。

 が、カカシにも原因はある。

 カカシ自身が、そういう世間一般並みの生活をしてこなかったからだ。

 血と殺戮にまみれた、忍びの世界しか知らない。

 ごく普通の生活とは、遠くかけ離れていた。

 が来たことによって、思い出して一緒に改めて経験しているくらいなのだ。

 それ故に、毎日何かしらの新しい発見をして、日々が新鮮だ。

『これからももっと色んな事にチャレンジしてみるか・・・』

 何からしていこうか、と思案しつつ、ふとカカシは思い出した。

「そう言えば、あれから火影様の所に行ったんだろ? どんな話したんだ?」

 ご飯を頬張りながら、ムグムグとカカシは問うた。

「温泉のお話ししたら、笑ってたよ。カカシも難儀じゃのぅ、って」

「・・・そんなこと話さなくていいから・・・他には?」

 全く、会わせる顔が無いじゃないか、通りで任務の依頼受ける時火影様に会う度にニヤニヤとからかわれる訳だ、こりゃ全部話してるか訊かれて答えてるな、筒抜けなんだ、とカカシは嘆息する。

「えっと、それで私が何でカカシせんせぇが困るのか分かんないって言ったら、ダンジョノココロノキビってのを話してくださったよ」

「は?」

 また何やらカタカナが聞こえたぞ、とカカシは思う。

「私って一般常識とか普通の感情って言うのが欠けてるみたいだから、火影様に教えて下さいって頼んだの」

「それで理解したの?」

「ん〜・・・やっぱりよく分かんなかった」

 流石に火影様のお話だから難しかったよ、とはほうれん草のおひたしを摘んで口に放り込んだ。

「や・・・別に火影様だから難しい訳では・・・」

「やっぱり私が馬鹿だから?」

 うりゅ、と箸を止めて口を尖らせる。

「そうじゃないよ。ん〜、何て言ったらいいかなぁ・・・」

「でもね、火影様の言い聞かせてくださった言葉を反芻して自分に当て嵌めて考えたら、心がホンワカしてきたよ」

「男女の心の機微が分かったの?」

「ん〜、どう説明したらいいか分かんないけど、何とな〜く分かったって言うのかな」

 さすがは火影様だ、とカカシは心から尊敬した。











 片付けを終えて居間でくつろいでいて、カカシ人形を膝に乗せて一生懸命サクラのお子様小説を読んでいるの頭を撫でて肩を抱きながら、カカシはこれからどういう経験をさせていったらいいかな、と考えた。

 イチャパラを読みながら、何か参考にならないか、と頁を捲る。

『一歩進め、か・・・』

 そうしたら暴走しはしないか、とカカシは己に自信がなかった。

 大分抑制している。

 一生懸命繋いでいる糸は、切れたらもう結べないのではないか。

 悶々と考えながら、大分夜が更けたことに気が付いた。

「さ、。もう寝る時間だよ」

 の膝の上の“自分”を手に取り、チャクラを練り込む。

「はい、オヤスミ」

「え? 一緒に寝てくれるんじゃないの?」

「は?」

 手渡そうとした人形を、取り落としそうになった。

「・・・ちゃん? 男女の心の機微が少しは分かったんじゃなかったのかな? オレが困るって意味分からないの?」

「え〜、自分のことは自分の気持ちに当て嵌めてちょっと分かったけど、カカシせんせぇのことはカカシせんせぇじゃないから、当て嵌めようとしても気持ちまで分からないよ〜」

 意外な落とし穴が待っていたか、とカカシは嘆息し、長丁場で行くか、と渋るを追い出した。