【出会いはいつも偶然と必然】 第八章 「、今日の予定はどうなってる?」 ある朝、食事を摂りながらカカシはに尋ねた。 「今日ですか? アカデミーがお休みだから、木の葉丸君達と遊ぶ約束してるの」 鱒の塩焼きの切り身を解しながら、は答えた。 「木の葉丸? って、火影様の孫の?」 「うん。前に火影様が紹介してくれて、遊び相手になってやってくれって言われて、たまに遊んでもらうの」 「はは、遊んでもらうって、遊び相手になってやれって言われたんだろ? いくつになったっけ、木の葉丸って・・・」 結構生意気なんだよな、と味噌汁を啜りながらカカシは呟く。 「8つだって。次の火影になるんだって頑張ってるみたい」 目元が火影様に似てて可愛いよ〜、とは微笑む。 「そうらしいな。エビス先生が言ってた。しかし8つのコと遊ぶって・・・何するんだ?」 「忍者ごっこ」 「あ、そ・・・」 「あ〜、何かカカシせんせぇ、馬鹿にしてなぁい?!」 プクゥ、とは膨れた。 「ははは。してないよ。でも、火影様の孫とは言え、木の葉丸はまだ小さいんだから、火遁・豪火球の術、とか使っちゃダメだよ。危ないからね」 オレが教えた高等忍術はどれも使っちゃダメ、と念押しする。 「使いませんよ〜だ。任務ごっこするんだよ。私ね、ちゃんと体力作りしてるから、木の上をピョンピョ〜ンって駆けられるようになったんだよ。まだ遅いけど」 「へぇ。そりゃ凄い。体力さえつけて鍛錬すれば、はすぐにでも忍者になれるよ。もっとも、忍びの心得をちゃんと理解して、一般常識も身に付けてからだけど」 「まだまだ無理かぁ」 はぁ、と溜め息をついて、は白米を頬張った。 「はは。自分でも分かってるって訳か。じゃあ、夜は空いてるよね?」 「え? そりゃ勿論。いつでも空いてるよ」 カカシせんせぇのご飯作って待ってるよ、とはキョトンとする。 「今日さ、夕飯は作らなくていいから、夜、一緒に飲みに行かない?」 「飲みに・・・? お酒?」 「うん。居酒屋とかで。料理も結構いけるんだよ。成人してるから、飲めるだろ?」 「ん〜・・・飲んだことないから分かんない」 カカシせんせぇが家で飲んでるの強そうだから飲めそうにないし、とは考え込む。 「女性にも飲みやすい、甘いのとかサッパリしたのもあるからさ。任務が終わる頃待ち合わせて・・・どう?」 「いいですけど・・・どうして急に外で飲むなんてゆ〜の?」 キョトンとしては問うた。 「いいだろ、大人のお付き合いだよ」 「デートだ?!」 ぱぁっ、とは嬉しそうに笑顔を浮かべる。 「そ。前に案内した、酒酒屋で。中華なんだけど、そんなに辛くないし、忍び御用達の店だし、女性にも人気なんだよ」 たまにはそういう夜の過ごし方もいいだろ? とカカシは食事を綺麗に平らげ、席を立って食器を流しに片付けた。 モエギ、ウドンを引き連れた、通称“木の葉丸軍団”と待ち合わせ、は演習場近くの林に来ていた。 林の中を駆け回ったり、木々の上を飛んだり、簡単な忍術を使って、“忍者ごっこ”をして楽しんだ。 精神年齢がまだお子様のは、違和感無く、いつも楽しそうに木の葉丸達と遊んでいた。 逆に木の葉丸の注意を受けるくらいだった。 が、最近は脚力もついたし、段々と忍びらしさというものを自覚してきていた。 「姉ちゃん、段々忍者っぽくなってきたなコレ」 の用意してきたピクニック弁当を食べながら、木の葉丸が言った。 「そうかな? カカシせんせぇには、まだまだだって言われてるよ」 「でも〜、里一のエリート上忍と比べたら、あたし達はまだアカデミーなんだし、これからだって思うけどな」 上忍から見たらあたし達なんて何も出来ない子供にしか見えなくて当然よ、とモエギも言う。 「そうそう。忍者としての将来が見えてきてるってこと」 少なくともボクらよりは、とウドンもおっとりと言い放つ。 「でもな〜、姉ちゃんは忍者としても心構えがまだできてないぞコレ」 「カカシせんせぇも言うよ〜。アカデミーでしっかり教わって来いって」 「ちゃんと入学したらいいんだコレ。アカデミーは年齢制限ないぞ」 「そ〜よ〜。火影様やイルカ先生も許可してくれてるんだから、正式に入学してちょっと学べば、すぐ卒業できるよ〜、ちゃん」 「前よりずっと脚力もついたから、足を引っ張らない程度に任務もこなせると思うよ、ボク」 「そうかな?」 「でも、その服装はダメだなコレ」 は、ボディラインを殊更強調した、丈の短いキャミソールに、マイクロミニスカートだった。 「でも動きやすいよ?」 「機能性に欠けるんだなコレ」 「そ〜よね、足にホルスター付けるにはさらし捲くかスパッツ履いた方がいいし、肌の露出が多すぎると怪我しやすいから、鎖帷子とか着込んだ方がいいわよ」 普段はともかく、こういう時はそういうのに相応しい格好してきてもらわないと、とモエギが説明する。 「そっか〜、カカシせんせぇは服装については何も言ってくれないからなぁ。色々術は教えてくれるんだけど」 今度言ってみよ、とは茶を含んだ。 「上忍って言っても抜けてるなコレ! じじィも毎日相手してるんだから、エロじじィで困るぞコレ・・・」 手に付いたご飯粒を舐めながら、木の葉丸は吐き捨てる。 「でも、火影様は沢山の為になることを教えて下さるよ。毎日が勉強になってるもん」 「でもその挑発的な格好はまずいぞコレ! 変なコトされないうちに忍び仕様の服装にした方がいいぞコレ!」 「え〜、気に入ってるんだけどなぁ・・・ダメ?」 「ん〜、似合うからいいと思うけど〜、パンツ丸見えは女としてどうかと思うわよ」 「減るもんじゃないし私は気にしないよ」 「マナーみたいなものよ〜。大人はすぐ、羞恥心はないのか、みっともない、って思うものよ」 普通に過ごしてる分にはいいけど、見えるような動作をする時は、それなりの格好をした方がいいわよ、とモエギは子供とは思えないアドバイスをした。 「でも、姉ちゃん見てると、お色気の術の参考になるからいいんだけどなコレ」 「お色気の術?」 「ナルト兄ちゃんが教えてくれたんだコレ! じじィも引っ掛かるんだぞコレ!」 「ナルト君が? へぇ〜、どんなの?」 見せて見せて、とは木の葉丸に請う。 言われるがまま、木の葉丸は術を披露する。 「どうだコレ?!」 木の葉丸はナイスバディの美女に変身できるようになっていた。 「わ〜〜〜〜、スゴ〜イ! 女の人になるんだぁ。それでどんな風に火影様を引っ掛けるの?」 「どうって・・・ハダカで迫るんだコレ。姉ちゃん分からないのかコレ?」 鼻血噴いたりあたふたしたりして、面白いぞ、と木の葉丸は言うが、は意味を理解していないようだった。 「姉ちゃんはホントに子供なんだなコレ。カカシにハダカで迫ってみたことないのかコレ?」 ポン、と木の葉丸は元に戻る。 「あるよぉ。混浴の温泉に行った時に。くっついちゃダメって怒られちゃった」 鼻血は噴かなかったけど、あたふたはしてたよ、真っ赤になって、とは微笑んだ。 「ナルト兄ちゃんがやってみせても、平然としてたって言ってたぞコレ。呆れて相手にされなかったって。大人は皆この術に弱いって言ってたけど、カカシには初めて効かなかったらしいぞコレ」 ナルト兄ちゃんもまだまだ本物のナイスバディの大人の女には敵わないんだなコレ、と考え込む。 「ね、この後どうしよっか。また忍者ごっこ続きやる?」 暖かな陽射しに、満腹でウトウトと眠くなりかけていた木の葉丸達に、は問うた。 「これから修業なんだコレ。メガネが金切り声で待ってるんだコレ」 鬱陶しいぞコレ、と木の葉丸は息を吐く。 「ボクは算数の計算やるんだ〜」 「そっかぁ、じゃあ私はどうしようかな・・・」 病院に行こうかな、と弁当箱を片付けながらは考え込んだ。 「イルカ先生の所に行けばいいんだコレ。忍びの心構え訊くんじゃないのかコレ?」 「そっか。どこにいるかな」 「昼間はアカデミーにいるわよ。授業は休みでも、教師はやることがあるから」 立ち上がって、モエギはう〜ん、と伸びをした。 「大変なんだなぁ。お邪魔してもいいのかな、私」 「イルカ先生、ちゃんが来るといつも喜んでるじゃない。嬉しそうに、顔真っ赤にしてさ。行けば喜んで何でも教えてくれるわよ」 里の中心部まで一緒に戻ってきた4人は、じゃあまた遊ぼうね、と約束して、それぞれ散っていった。 サバイバル演習をしていたナルト達第7班は、遅い昼食の為に、ナルトとサスケが食料確保に飛び回っていた。 木陰で横になってイチャパラを開いて顔に載せたままカカシは昼寝をしていた。 サクラはその近くに座り、暇を持て余していた。 「ねぇ、カカシ先生。その後どうなのよ」 「どうって何が?」 すっかり眠り込んでいるかと思ったが、くぐもった声が返ってきた。 「さんとのことよ。何か進展したの?」 「進展って、何をどう進展するの」 「どこまで行ったのよ」 「どこも行ってないよ。里外には出てないし」 「しらばっくれないでよ。分かってるくせに。大変よね〜、カカシ先生も。さんって純粋を通り越して天然過ぎるから、苦労が多いでしょ」 「分かるか〜? そうなんだよな。オレとしたことが、振り回されっぱなしだよ」 はぁ、とカカシが息を吐くと、その振動でイチャパラは閉じて傍らに落ちた。 カカシは目を瞑ったままだった。 カカシの言葉にサクラはニヤリとして、追求した。 「どういう風に振り回されてるの?」 「この間なんかな、お・・・って、何を言わせる気だ、サクラ」 危ない危ない、とカカシは身を起こした。 ちっ、とサクラは影で舌打ちする。 「カカシ先生、自分のこと何も喋ってくれないんだもん。この間さんと話した時も、訊きそびれちゃったし。部下とのコミュニケーションくらいちゃんと取らないと、私達先生のこと信用できなくて付いていかないわよ」 「そんなこと言って、自分は私達のプライベートまでしっかり把握してるくせに」 ずるいわよ、不公平、とサクラは文句する。 「オレはちゃんと忍びとしての何たるかや術とかは教えてるだろ。他に何が必要だって言うんだ。オマエ達のプライベートを把握してるのは管理者としての責任上で、他言しないから心配するな」 「そうじゃなくって! カカシ先生の人となりをもっと理解しなきゃ、深く付き合えないじゃない」 「別に任務以外で深く付き合う必要は無いだろう。オレの人となりは、波の国での任務で見せたつもりだけどな。アレじゃ不足か?」 お友達ごっこしてるんじゃないんだから、とカカシはサクラを見据える。 「いのんトコはもっとオープンでフレンドリーだって聞いてるわよ。私達もさぁ・・・」 「アスマはそういう性格なんだよ。大らかでのびのび自由に仲良く、ってね。オレはあれこれ探られるのは嫌いだ」 はっきり突っ撥ねられると、サクラは言い返せなかった。 なので、サクラはカマをかけてみることにしてみた。 「でもぉ・・・さん、寂しがってたわよ。カカシせんせぇが相手してくれなくってつまんな〜い、って」 の口真似をして、ぶりっこしてみせる。 「え? そうなの? オレ、にはちゃんと話してるん・・・」 言いかけて、カカシはハッとして口を覆った。 サクラはニヤリと微笑む。 「そっかぁ〜、私達には話せなくても、さんには何でも話してるんだぁ。それって、さんは特別な存在ってことよね?」 してやったり、と笑いながら、サクラはカカシの顔を覗き込む。 「や・・・あの・・・ね、特別って言うか、は部下でも忍びでもないし・・・」 途端に狼狽え、目を泳がせるカカシ。 「部下にも上忍仲間にも話せないようなことを、一般人のさんには話していいって事? いのんトコの先生が言うには、カカシ先生は誰にでも心を開くタイプじゃないから、何を訊いてものらりくらりとかわして話してくれないらしいけど、でもさんには話すんだぁ。奥さんみたい」 サクラの言葉に、カカシは咳き込む。 「奥さんって、あのね、サクラ・・・」 「ね? ね? 今2人はどういうご関係なの?!」 きゃっきゃっとサクラは不敵な表情で尋ねる。 「どういうご関係って・・・ただの同居人だよ、は。それ以上でもそれ以下でもゴザイマセン」 しれっとカカシは言い放つ。 「うっそぉ〜〜〜!!」 「何が嘘なのよ、サクラ」 「だってぇ、一つ屋根の下で一緒に暮らしてて、ご飯作ってカカシ先生の帰りを待ってるんでしょ? いい年をした若い男女が、それで何もないって変よ〜。夫婦か、恋人同士の同棲みたいじゃない。さんってあんなに綺麗で優しくて魅力的なのに、カカシ先生何も感じないの? それってさんに失礼だと思うな〜」 「何が失礼なの。淫らな思いを向ける方が失礼でしょ〜が」 あくまでもカカシははぐらかした。 「どこが?! あんなに純粋に慕われてて、尽くしてくれてるのに、愛してないの?」 「愛って・・・サクラね、と話し合ってるんなら、のことは分かってるだろ? のオレを好きって言うのと、オマエ達を好きって言ってるのは、同じであって、秤で比べられる物じゃないんだ。オレを慕ってくるのも、小さい子供が母親を求めるのと変わりないんだよ。愛とか恋とか言う問題じゃないよ」 「でもぉ、それって寂しくなぁい? さんからの特別の“好き”が欲しいと思わないの? カカシ先生、さんのこと好きじゃないの?」 「好きとか嫌いとか言う次元じゃないよ」 ふぅ、と一つ息を吐き、カカシは再び横になった。 「・・・つまり、安っぽく言葉で言い表せない程、さんが愛しいって訳ね」 チロ、とサクラはカカシを流し見る。 途端にカカシは勢いよくむせた。 カカシはサクラの言葉には答えず、サクラに背を向けた。 「何も言わないってことは、肯定を意味してるのよね、カカシ先生?」 暫しの沈黙が流れた。 カカシの背中は何も語ろうとしない。 そこへ、元気よくナルトが戻ってきた。 「サックラちゃ〜ん! カカシ先生! 大漁だってばよ!」 確保した食糧を抱え、サスケもやってくる。 「お〜ぅ、ご苦労さん。サスケ、火をおこしてくれ」 火遁で、とカカシは起き上がる。 「ちっ・・・それぐれーテメェでやれよな、カカシ。オレ達にだけ獲りに行かせて、呑気に昼寝しやがって」 「ま、そう言わない。火遁得意でしょ、サスケ」 有耶無耶にごまかしたわね、とサクラは思いつつ、何かしらの進展はしてるんだ、と確信した。 「今日は姉ちゃん来ないのかってば?」 ナルトは焼けた魚を頬張りながら、カカシを見上げた。 「今日は来ないだろ。も大分里に馴染んだし、知り合いも増えたから色々と約束もあるんだよ」 カカシは木の上に置いておいた、の弁当をそのまま枝の上で食べていた。 「へ〜っ。それで寂しげなんだ、カカシ先生」 下りてきてくれれば素顔見れるのに、葉っぱが邪魔ね、とサクラも見上げる。 「別に寂しがってなんかいないでしょ。何でそうサクラはそっちに持っていきたがるの」 早飯のカカシは早々に食べ終わり、下に下りてきた。 「案外ひょっこり来るんじゃないかってばよ。カカシせんせぇ〜会いに来たよぉ〜ってさ!」 ナルトもの声真似をして、ブリブリとカカシを見つめる。 「しかっしサクラにしろナルトにしろ、似てないね、の真似。はもっとこう、甘〜い声で瞳を潤ませてね・・・」 言って、しまった、と再びカカシは口を覆う。 「ふぅ〜ん。その甘ぁ〜い声にメロメロなのね、カカシ先生」 きゃ〜ラブラブ〜vv とサクラはからかう。 「ウルサイよ」 照れて顔を背けるカカシ。 「あ、でも、そう言えばさんって、何でカカシ先生のこと呼ぶとき、先生付けるの?」 いっつも気になってたのよね、とサクラはカカシを見遣った。 「部下でも教え子でもないじゃない。普通、カカシさんとかって言うんじゃないの?」 「ん〜、名前を教える前からそう呼ばれてるからなぁ」 「は?」 「や、と会ったばかりの時、オレの留守にイルカ先生が来て、“カカシ先生ご在宅ですか”みたいなことを言ったと思うんだ。それで刷り込まれたようなもんだろ」 深く気にしたことなかったよ、とカカシはイチャパラの頁を捲りながら答えた。 「カカシさんって呼ばせればいいじゃない。それとも何? あのせんせぇ〜って言う甘い響きが禁断っぽくっていいって訳?」 「禁断って何だよ。変な想像すんな。はイルカ先生のことも同じように、イルカせんせぇ〜って言ってるよ」 実は自分だけではないということが、少々物寂しくもあったのだが。 「あ、そう言えばそうね。そういう職柄だからなのかな」 「そ。深く考えてないよ、は」 「かと思えば、呼び捨てにする馬鹿もいるってばよ」 チロ、とサスケを見遣るナルト。 「何だよ」 「オマエは何っでイルカ先生のことはちゃんとイルカ先生って呼ぶのに、カカシ先生のことは呼び捨てなんだってばよ!」 「別に。師と尊敬できない者を師と呼べるか。それだけだ」 「ちゃんと呼べってばよ、カカシ先生って!」 「うるせぇ。余計なお世話だ」 「まま、オレは何と呼ばれても気にしてないから。そう噛みつくな、ナルト」 「でもなってないってばよ!」 「まぁそうよね〜せめて毎日の遅刻をどうにかして欲しいもんだわ」 サスケ君じゃなくても、いい加減ウンザリだもの、とサクラも言い放つ。 今日も3時間遅れて来ていた。 「賭けしよっか? カカシ先生が集合時刻にちゃんと来れたら、サスケ君も先生って呼ぶって」 「変な賭けすんな、サクラ」 オレは承知してない、とサスケは吐き捨てる。 「だからオレは何と呼ばれたっていいからさ・・・」 「賭けはついでよ! 遅刻癖を直して欲しいってこと!」 喧々囂々、言い合いは暫く続いた。 は弁当箱を家に置いてからアカデミーにやってきて、職員室をそっと覗いた。 何人かの教師が事務仕事をしていた。 扉の所にが顔を覗かせているのに、イルカは気付いて立ち上がった。 「さん! どうしたんですか? 今日は休みですよ。木の葉丸達と遊びに行ってたんじゃあ・・・」 どうぞ、入って下さい、とイルカは椅子を勧めた。 お邪魔しま〜す、と静かに入ってきて、椅子に腰掛ける。 相変わらず足音をさせないコだな、とイルカは思う。 「午前中遊んで、お弁当食べて解散したんです」 「あぁ、木の葉丸はエビス先生の修業があるからなぁ。病院には行かないんですか? 今日は」 いつも行ってるんでしょう、とイルカは湯飲みに茶を淹れて差し出した。 「えっと、イルカせんせぇに用事があって。お仕事の邪魔じゃないですか? お忙しいなら帰りますけど」 すみません、とは湯飲みを受け取り、そっと口を付けた。 「え? オレにですか? 別に忙しくはないですよ、あらかた終わってますから。何か困ったことでも・・・」 顔を真っ赤にして照れながら、イルカは書類をまとめて片付けた。 「いえ、あの、忍びの姿勢とか心構えとか、もっと詳しく教えていただこうと思って」 お時間大丈夫ですか? とは上目使いにイルカを見つめる。 その仕草にドキリとして、イルカは視線を泳がせた。 「し、忍びのですか?」 「アカデミーの授業で一方的にちょこちょこ聞いてるだけじゃ、キチンと理解できなくて。通り一般のことだけじゃなくて、もっと深く突っ込んだことも知りたいんです」 「ま、まぁ、オレで良ければ何でもお話ししますけど・・・何から話しましょうか・・・え〜・・・」 しどろもどろしつつも、“講義”を始めると、次第にイルカは“教師”の顔になって、深く掘り下げてに説明し、質問にも事細かく答えた。 「こんな感じでいいですか?」 「ハイ。大分掴めた気がします。有り難う御座います」 座ったまま、ペコ、とは頭を下げた。 「でも、何でオレに? 教師は他にも沢山いるのに」 色んな授業覗いているでしょう、とイルカはに尋ねる。 「イルカせんせぇの授業が一番楽しかったから。分かりやすく丁寧に教えてくれるし、と思って」 「でも、こういうことならカカシ先生でも・・・」 の言葉に照れながら、頬を掻いた。 「カカシせんせぇが、アカデミーで教えてもらってこいって言ったんです。ちゃんとした教師の方が、教え上手だからって」 「でも・・・確かにオレ達はそれが仕事だから話し慣れてはいますけど、こういうことは実戦経験豊富なカカシ先生の方が、より身に付くことを教えてくれると思いますけどねぇ。杓子定規な机上の空論みたいなのより、よっぽど為になるんじゃないですか」 経験の重みは、カカシ先生の方がありますよ、とイルカは言った。 「ん〜でも、カカシせんせぇがアカデミーに行けって」 「う〜ん・・・カカシ先生の場合経験が高度すぎて、生々しすぎて初歩って言うには無理だからってことかなぁ」 正式に忍者になってからの方がいいかも知れませんね、カカシ先生の講義は、とイルカは分析する。 でも根底にあることは同じだと思うけど、何でオレを指名したんだ? とイルカは疑問に思った。 「そうかも。一杯修羅場くぐってるんでしょ? カカシせんせぇって」 「えぇ。語り尽くせない程ですよ」 ニコ、と優しく微笑むイルカ。 「教えてくれる術も最近は難しいのが多くなってきてるしな〜」 は足をぶらぶらさせて、呟いた。 「さん、カカシ先生に術習ってるんですか?」 「ハイ。早朝のご飯前とか、夕飯後とかに、ちょこっと」 演習場とか林とかで、とは微笑む。 「そう言えば、さんはカカシ先生みたいに見たものをコピーできるんでしたっけ。高等忍術も教わってるんですか?」 カカシ先生の持つ術なら殆ど高等か、とイルカは気付く。 「最近は、体術を伴わないと威力を発揮できない術とかも多くて、私まだ体術の方が弱いから、術は出来るんですけど、実戦には使えない、って言われてます」 「でも、最近は大分足腰も強くなってるじゃないですか。でも女性はどうしても体術が弱いから、オレ達男並みに、と言うのはなかなか難しいですよね」 「イルカせんせぇはどういう術が得意なんですか?」 「オレですか? そうだなぁ・・・オレはどれも平均的だからなぁ・・・強いて言えば、水遁ですかね」 さんはどういうのですか? と逆に訊き返した。 「う〜ん・・・幻術とかかなぁ。私、カカシせんせぇのオリジナル技って言う、雷切を覚えたいんですけど、出来ないんですよ。チャクラが目に見えるようになるまでは出来るんですけど、突きが出来なくて」 何か足りないみたいです、とはしゅんとする。 「ハハ。アレこそ体術を鍛えないとできませんよ。でも、そこまで高度な技まで教わってるんですか? カカシ先生も無茶だなぁ。一体いくつぐらい教わってるんです?」 「ん〜でも、まだカカシせんせぇの持ち技の半分くらいですよ」 「え?! そんなに?!」 確かカカシ先生は千以上の術をコピーしてるから、軽く500は教えてるのか? とイルカは驚愕した。 「でも実戦で使えそうなのはまだその半分くらいですけど」 「それにしたって凄いですよ。通りで最近さんのチャクラが益々強大になっている訳だ」 「そうですか?」 「病院でも能力を使ってるから、いい修業になってるでしょう。いつでも正式に忍者になれますよ」 「でもカカシせんせぇは、もっと体力つけて鍛錬して、忍びの心構えと一般常識を理解しないと無理だって」 「まぁそうですね。焦らずじっくり行きましょうよ」 その後暫く、イルカとは雑談していた。 「あの、イルカせんせぇ。今日は色々と教えていただいて有り難う御座いました」 改めて、はペコリと頭を下げる。 「いやいや、これくらいどうってことないですよ。お役に立てて何よりです」 赤面しながら、イルカは手を振った。 「いつもお世話になってるし、何かお礼させて下さい」 胸元で手を組み、イルカを見上げる。 「いいですよ、そんな。大したことしてませんし」 零れそうな大きな瞳に吸い込まれそうで、イルカはドギマギして視線を泳がせる。 「でも・・・貴重なお時間割いていただいたんですし。何か仰って下さい。私に出来ることなら何でもしますから」 じっ、と上目使いにイルカを見据える。 「そ、そうですね、じゃあ、今度一緒に昼食でもどうですか?」 「え、そんなんでいいんですか? じゃあ、明日お弁当作ってきますねvv テラスで空を眺めながらお昼食べましょvv」 ニコ、とは微笑んだ。 「えっ、手作りですか?! いいんですか?」 「だって、何処かに食べに行ってただ奢るんじゃ、つまらないし。料理の腕も上がったから、大丈夫ですよvv」 「や〜、その方が嬉しいですが・・・カカシ先生に申し訳ないような・・・」 「? カカシせんせぇにも毎日おべんと作ってますよ。イルカせんせぇは何が好きですか?」 「何でも食べますけど・・・お袋の味、みたいなのがいいですね」 「オフクロノアジ? いつも作ってる料理でいいのかな?」 「あ、任せますよ。さんの得意な料理で」 「ハ〜イ。じゃ、これ以上長居しちゃお邪魔だから、帰りますね。また明日。さようなら〜」 とてとて、と歩いて扉の所で振り返り、他の教師達にも頭を下げ、は職員室を出て行った。 イルカは廊下に顔を出してを見送ると、は先の方でゲンマと話していた。 少し立ち話をすると、ゲンマは自分の執務室にを招き入れた。 「そう言えばさんはゲンマさんとも親しいよな・・・よく一緒にいるし。ウマが合うのかな?」 若い女性の手料理。 食事処の物や自分の手料理、一番の好物である一楽のラーメン以外、そう言った物に縁がない。 親も12年前に失った。 浮かれる心を抑えつつ、手早く書類を片付けると、イルカは次の仕事場に向かった。 「もうすぐ時間か・・・」 詰め所で待機しながら一服していたカカシは、時計を見て、ふと呟いた。 もう大分日が暮れている。 そわそわしながら、考えに耽った。 「、どれくらい呑めるかなぁ? 潰れたらどうしようかな・・・大丈夫か、オレ・・・」 や、意外と強いかも、などと思いながら、カカシは何気なく窓の外を見た。 すると、下の通りにが立っていたのを見つけた。 「?! 何で・・・」 顔を上げたはカカシが窓辺に居ることに気が付き、笑顔で手を振った。 口が、“やっほ〜”と言っている。 カカシはキョロキョロと詰め所内を見渡し、親しい上忍がいないのに安堵し、窓を開けて飛び降りた。 「、どうしたの。酒酒屋の前で待ち合わせって言ったよね」 「えへへ。通りかかったから、もうすぐ時間だし、待ってたの」 アスマや紅ら親しい上忍がいないか、辺りをキョロキョロと見渡し、誰も居ないことを確認すると、カカシはの肩を抱いて歩き出した。 「ちょっと早いけど、行こうか。もうすぐ時間だし」 いつまでも此処に留まっていたら誰かに見つかる、とカカシは足早に酒酒屋に向かった。 はカカシにぴと、と寄り添い、嬉しそうに小走りで歩調を合わせた。 「何でこんなに急ぐの? カカシせんせぇ。お店は逃げないよ?」 そんなに混むの? とは尋ねた。 「いや、そうじゃなくて、此処から遠ざかりたいだけ」 「変なの」 酒酒屋に着くと、カカシはあらかじめ予約していた個室にを伴って入った。 仕切られているので、顔馴染みに見つかる可能性は低い。 「、注文決まった?」 お品書きを見ながら、考え込んでいるに尋ねた。 「う〜ん・・・どれがいいのか分からないから、カカシせんせぇに任せます」 「飲み物何がいい?」 「お酒って分からないし〜」 「じゃあ、甘口の物にしてみようか。呑みやすいから」 店員を呼ぶと、カカシは適当に酒と料理を注文した。 「って1人で外食したことないっけ?」 運ばれて来るのを待つ間、カカシはベストの前を開けてくつろぐ姿勢を取ったが、まだ口布は取らなかった。 「無いです。お昼はいつも火影様かゲンマさんと食べてるから」 おしぼりで手を拭いているとテーブルの上に物のように乗っかるの豊かな胸と谷間に釘付けになり、カカシは鼓動が早まった。 「ゲンマ・・・君? よく一緒に食事したりするの?」 思わず目線を逸らし、割り箸を割った。 「うん、たまに。火影様もお忙しいから、時々誘ってくれるの。だからいつもお任せにしてるから、1人だと何がいいか分かんないよ」 カカシに習ってもおしぼりで手を拭き、割り箸を割った。 「そうなんだ・・・てっきりいつも火影様と一緒だと・・・」 カカシは面白くなさそうに、口布をずらして最初に出されていたお通しを口に放り込んだ。 先に酒が運ばれて来たので、乾杯した。 こくん、とは飲み込む。 「どう?」 「おいし〜v」 ちびちびと呑んでいると、次第に料理も運ばれて来た。 いただきま〜す、と口に運ぶ。 「わ〜、どれも美味しいですね〜」 「だろ? これいけるよ。食べてごらん」 食を進めるは、酒をあおるピッチも早くなっていった。 「次の飲み物頼む? どんなのがいい?」 「甘くて爽やかなのがいいです」 カカシは自分のと併せ、違う酒を注文する。 「木の葉丸達との忍者ごっこはどうだった? 」 楽しかった? とカカシは酒をあおりながら尋ねた。 「うん。面白かったよ。手を使わない木登りやってみせたら、教えてって言われたけど教え方分からなかったよ」 これ美味しい、と頬張りながら、は答える。 「ハハハ。木の葉丸達にはまだ無理だよ。はチャクラのコントロールが巧いから、一発で出来るようになったけどね」 次の酒が来て、これも美味しい、との呑むピッチは早かった。 「あんまりジュースみたいにガバガバ早く呑んだら、酔いの回るのも早いよ。気を付けないと。呑むの初めてだろ?」 飲み方に気をつけないと、と言いながらもカカシもピッチは早かった。 「甘くて呑みやすいって言ったって、度数はかなり高いから、すぐ酔っちゃうよ」 「カカシせんせぇはどういうの呑んでるの?」 「サッパリした辛口だよ。呑んでみる?」 ほい、とカカシはグラスをに差し出した。 受け取ったは、クンクン、と匂いを嗅いだ。 「うわ〜〜〜匂い強烈〜〜」 思わず顔を背ける。 「ハハハ」 そっと口を付けてみた。 こくん、と飲み込んでみる。 「・・・?」 舌で転がしながら、は首を傾げた。 「どう?」 「味がよく分かんない」 「ハハ。この味が分かるようになったら、かなりののんべぇだよ」 返されたグラスを受け取り、カカシは口に含んだ。 「やっぱりこっちの方がいいや」 まだ分かんなくていい、とは自分のグラスに口を付ける。 「今日は一日中木の葉丸達と遊んでたの?」 忍者ごっこして、とカカシは食事を口に運ぶ。 この頃には酒の量もかなりになっていた。 ほろ酔い加減でを見遣る。 「ううん。午前中だけ。木の葉丸君に、子供だなって注意されちゃった」 「8つの子供に子供って言われるようじゃなぁ」 ハハハ、と笑いながら酒をあおる。 「後ね、モエギちゃんに、服をどうにかしろって注意された」 ムグムグ、と食べながら酒で流し込む。 「服?」 「うん。普段はいいけど、忍者ごっこする時は、それ相応の格好しろって。この格好じゃ機能的じゃないって言われちゃった」 「・・・その格好で駆け回ってたのか?」 着替えたんじゃないの? とカカシは目を丸くする。 「そうだよ。だって忍びらしい服持ってないもん」 「あぁ、そうか、そうだよな・・・術教えてる時もいつもそういう格好のままだったっけ。ゴメン、うっかりしてた」 「さらし捲くかスパッツ履くか、鎖帷子着たらって言われたよ」 「そうだな・・・今度そういう服も買わないとな」 忍者目指してるんだから、格好にも気をつけないとな、とカカシは反省した。 「でもはチャクラが強くて傷を負わないから、危害が及びそうになってもバリアみたいにガードされてるから、そっちに気が回らなかったよ」 「くの一って、カカシせんせぇとかが着てる忍服は着ないの?」 「いや、そんなことはないよ。着るヤツもいる。紅とかアンコみたいに、好きな格好してるのが大半だけど、まぁ鎖帷子は着込んでるからな。それだけでも用意しないとな」 「紅? アンコ? 誰?」 「あぁ、上忍と特別上忍だよ。仲間のくの一」 「へ〜〜会ってみた〜い」 カカシせんせぇのお友達にもっと会ってみた〜い、とは漆黒の瞳を輝かせた。 「ダ〜メ。根掘り葉掘り訊かれちまうよ」 お友達じゃないよ、仕事仲間、とカカシは更に酒を浴びる。 「何でぇ? ヒヅキさんもあれからすぐ任務に出ちゃって会えないし、もっとカカシせんせぇのこと教えてくれる人に会いた〜い」 「ヒヅキ?」 「うん。病院で私を診てくれた医療上忍の人」 「あぁ・・・何度か一緒に任務したことあったな。ヒヅキに何を聞かされたの? オレのこと」 「えへ。内緒vv」 「気になるな、おい。変なこと吹き込んでないだろうな、ヒヅキ・・・」 長期任務を共にした回数は多いので、何を話されたやら、と焦燥が走った。 「カッコイイよね、ヒヅキさんって。私もあんな風になりたいなぁ」 「オレより年上だからな。ヒヅキに診てもらってもダメだったんだ」 結構な能力者なのに、とカカシは更に酒を浴びるように食らった。 「うん。ツナデ様って人なら分かるかもって言ってたよ。どんな人?」 「あぁ、伝説の三忍と言われる忍者の1人で、歴代随一のくの一だよ。まぁ、木の葉で最高位の医療スペシャリストって言えば、あの方だからな。でも、今は何処にいるやら・・・」 酒を浴び、食事を摂りながら、三忍についてカカシは説明した。 「火影様の弟子なんだぁ。じゃあ、カカシせんせぇは、火影様の弟子の弟子の弟子なんだ」 「ま、そうなるね」 「カカシせんせぇって、じゃあ未来の火影候補なの?」 目を輝かせて、は訊いた。 「はは、まさか。柄じゃないよ」 「でもぉ、ゲンマさんやイルカせんせぇは今最も火影に近いところに位置してるって言ってたよ、カカシせんせぇのこと」 まだ若いけど、将来的にはカカシせんせぇが木の葉を背負って立つ、って、とは酒を含む。 「ゲンマ君やイルカ先生が? 勝手なこと言うなぁ、人のことだと思って・・・」 グィ、とカカシはかなりの量の酒を食らっていた。 やや思考も覚束なくなって来ている。 「でもぉ、今日だって・・・」 も負けず劣らず、かなり呑んでいた。 しかしカカシ同様、顔色一つ変わっていなかった。 酔いが回っているかは、一見分からない。 「え? 今日会ったの?」 段々と目付きも座ってくる。 「うん。午後からね、アカデミーに行って、イルカせんせぇにちゃんと忍びの心構え聞いてきたよ。とっても親切に教えてくれたの」 質問にも丁寧に答えてくれたよ、とは微笑む。 「そうか。で、分かった?」 「うん。前よりは理解したつもりだけど。でも、実戦経験豊富なカカシせんせぇに訊いた方がより為になるって言ってたよ」 「ん〜〜そうも思ったんだけどね、オレの場合はどうにも生々しくなるからさ。厳しすぎるって言うか。はまだ忍者候補だし、基礎的なことはアカデミーで教わる方がいいと思ったんだよ」 「イルカせんせぇもそう言ってたよ」 「で? ゲンマ君とも会ったんでしょ? 何話したの?」 思っていた以上にゲンマと親しいと知り、カカシは何だか面白くなかった。 カカシはと外食した回数は、それ程無かった。 里の地理に随分詳しくなったのに、ゲンマが一枚かんでいるのか? 「ゲンマさんにも忍びの心得お話ししてもらったよ。イルカせんせぇのトコで聞いてきた〜って言ったら、もっと教えてくれたの。後は色々、ご飯のこととか、生活のこととか、世間話って言うの? そういうの」 「それだけ?」 「? うん。明日の献立何にしようかな〜って考えてたら、一杯献立の載ってるお料理の本くれたの。今度からもっとレパートリー増やすね♪」 にぱ、とは微笑んだ。 「何処で話したの? ゲンマ君と」 この分だと随分ゲンマはに色々と与えてるな、とカカシは思った。 「アカデミーの、ゲンマさんの執務室だよ。あそこ居心地よくって、つい長話しちゃうの」 ゲンマさんって話し上手だから、お話ししてるととっても楽しいよ、と微笑む。 「ゲンマ君が話し上手・・・? 冷めててぶっきらぼうなのになぁ」 「でもアカデミーでもお仕事してるんだから、得意じゃないの?」 「あぁ、そうか。“公平”がモットーの男だから、特別上忍で今の仕事してるんだっけ」 が余りにも嬉しそうな笑顔でゲンマのことを話すので、カカシは面白くなかった。 それは嫉妬というのだ、と言う結論には至ってはいなかったが。 「ゲンマさんって優しいよね。頭撫で撫で、とかしてくれると、ホンワカした気持ちになるよ」 「ゲンマ君ってそんなに女の扱い慣れてるっけ・・・」 ぶすくれた表情で、カカシは酒をあおった。 「何かね、ゲンマさんといると、自分がお姫様にでもなったような気がしてくるよ。アレってどういうことかなぁ」 「女性のエスコートが上手いのか。腐っても年の功なのかなぁ・・・」 益々カカシは面白くない。 「大人〜って感じでカッコイイよねvv」 「オレより?」 むすっとして、カカシは問うた。 「ん〜〜〜比べられないよぉ。カカシせんせぇだってカッコイイし」 お子様の私からしたら皆大人で、私ももっと勉強しなくちゃって思うもん、とは照れくさそうに笑った。 『イルカ先生は安全牌だからいいとして、ゲンマ君はちょっと要注意人物だな・・・』 酒を浴びながら、カカシはふと思った。 「しっかし、キミ酒強いね。全然酔ってないでしょ。ちゃんぽんで呑んでるのに、顔色一つ変わらないし」 けろりとして次々と酒を呑んでいるに、カカシは言い放った。 「カカシせんせぇも変わってないよ。私より強いの呑んでるんでしょ」 「そうでもないよ。の呑んでる物は、呑みやすいけど度数は高いんだ。アルコールの量は大して変わらないよ」 「そうなんだぁ。でも、私酔っ払ったカカシせんせぇ見てみた〜い」 身を乗り出すに、カカシは更にテーブルの上に載る豊かな胸が釘付けになって、己が昂ぶってくるのを感じた。 それでなくても今日のの格好は、いつにも増して露出が多い。 日々の生活で随分慣れたつもりだったが、ずっと目のやり場に困っていた。 『あんなの、ただの脂肪の塊じゃないか・・・何をそんなにドギマギしてるんだ、オレ・・・』 ついつい視線が離せず、躊躇いながら酒を食らう。 「見てどうすんの。楽しい? そんなの」 イカンイカン、と目を逸らして更に酒をあおった。 「介抱したいな〜。へべれけになったカカシせんせぇを、うまい具合に寝室に連れ込めば、一緒に寝てもらえるかなって」 きゃ、と嬉しそうには言い放つ。 「連れ込むって・・・変な言い方しないでよ、」 ゲホゲホ、とむせながら、カカシはおしぼりで口を拭った。 「? だって、今日カカシせんせぇと飲みに行くってゲンマさんに言ったら、トコトン呑ませて酔っ払わせれば、カカシせんせぇも素直になるってゆってたよ?」 キョトンとして、は上目使いにカカシを見つめた。 『どういうつもりなんだ? ゲンマ君は・・・何か魂胆でもあるのか・・・?』 ゲンマはに好意を抱いているのではないかと思っていた。 が、カカシを応援するようなこともする。 何を考えてるか分からない男だな、とカカシは益々酒を浴びた。 「ね〜カカシせんせぇ? 賭けしようよ」 「賭け? 何を?」 「呑み比べ♪ どっちかが先に潰れたら、相手の言うことを聞くのvv」 「別に構わないけど・・・はどうしたいの?」 したたかに酔ってはいたが、カカシ自身は正気のつもりだった。 「え、そりゃ勿論、カカシせんせぇと一緒に寝たいvv」 予想していた台詞だったが、カカシは鼓動が高鳴った。 「もう・・・いい加減分かってよ、」 「カカシせんせぇは?」 「そうだな〜、じゃあ逆で、オレが勝ったら、もう絶対オレと一緒に寝たいって言わないこと!」 「え〜〜〜〜〜」 「え〜じゃない! もう、全然分かってないんだから、は」 オレはもうこれ以上自分に歯止めをきせる自信がないよ、と心の中で思う。 「じゃあ、絶対勝たなきゃvv」 夜遅くまで、2人の呑み比べは続いた。 |