【出会いはいつも偶然と必然】 第二十章










 が朝食を作っている間、ゲンマは日課のストレッチを行っていた。

 部屋で汗を流していると、が入ってくる。

「ゲンマさ〜ん、朝ご飯出来たよv」

「おぅ。今行く」

 流れる汗をタオルで拭い、落ちてくる前髪をうるさそうに掻き上げた。

 はとてとてと、窓辺に向かって外を眺め、首を傾げている。

「・・・?」

 う〜ん、と何やら考え込む。

「さっきから何なんだ? 。起きてからしょっちゅう、外ばっか見て。何かあるのか?」

「ん〜、あのね、ゲンマさん。カカシせんせぇ、ゆ〜べ来なかった?」

「カカシ上忍が? オレ達の寝てる間にか? 此処へ?」

 に倣って、ゲンマも外を見遣る。

「うん。夢でカカシせんせぇが出てきたの」

「別にカカシ上忍のチャクラは感じねぇがな・・・」

 窓を開けて、ゲンマは周囲を注意深く見渡す。

「もっとも、来てたとしても間抜けに足跡は残さねぇか。どんな夢見たんだ? 

「ん〜、に会いに来たよぉ〜ってやってくるんだけど、何かね、プンプンしてるの」

 は顎に手を当てて、思い出す。

「プンプン? 何だそりゃ」

「顔真っ赤にさせて、私に何か言ってるんだけど、よく分からないの。何か怒ってるみたいだった」

「あ〜・・・もしかしたら、マジでの様子見に来てたのかもな。バレないように幻術使って」

 何となく理解できたゲンマは、窓を閉めてと向き合う。

「? カカシせんせぇ、ホントに来たの? でも何で怒ってたの? 来てたんなら、起こしてくれればいいのに」

 ぷぅ、とは頬を膨らませる。

「会いたかったぁ〜」

「大方、オレ達が一緒に寝てたの見て、嫉妬したんだろ」

「? 一緒に寝てると怒るの? 何で?」

 ゲンマは、ヤレヤレ、と息を吐いた。

「オマエ、自分の気持ち、理解したんだろ? オレのことを好きだって言うのと、カカシ上忍を好きだって言うのは別の好きで、カカシ上忍への好きは特別な好きだって、自覚したんだろ?」

「? うん。それが何で?」

「だから、カカシ上忍も同じ気持ちだって事だよ。、オマエとな」

「・・・?」

「分からねぇか?」

 ゲンマはの両肩をそれぞれ掴み、ベッドに押し倒した。

 の上に馬乗りになり、顔を近付ける。

 金茶色の髪が陽光で光っての顔にかかる。

 は状況を理解できずにきょとんとしていたので、ゲンマは、ちゅ、と軽く唇に触れた。

「ゲンマさ・・・?」

 ゲンマは真摯な瞳で、を見つめた。

「オマエさ、オレにこういうコトされるのは、嫌だって言っただろ? カカシ上忍とじゃなきゃヤだって自覚しただろ? それは、カカシ上忍も同じなんだよ。がオレとか、他のヤツと親しくしているのが、気に入らないんだよ。カカシ上忍がとしたいことを、自分以外の、オレとかとしていたら、気を悪くするって事だ。分かったか?」

「ん〜・・・何となく・・・」

 はぁ、とゲンマは息を吐く。

「だから本当なら、オレと抱き合って眠るのだって、は嫌だって思わなきゃおかしいんだよ。カカシ上忍が嫉妬して怒るのは当たり前だ」

 が構わず絡み付いてくるので、それを役得、とゲンマは黙っているのだが。

「そうなの?」

「そうだ」

 ゲンマは上体を起こし、から離れた。

 は考え込みながら、起き上がる。

「だったら、何でカカシせんせぇはその時起こして注意とかして行かなかったの? そのまま帰ったって事は、いいよってことじゃないの?」

「オマエの夢の中で怒ってたって事は、いいなんて思ってる訳ねぇだろ? 多分な、術が切れたからだと思うぜ」

「術? 何の?」

「推測だが、カカシ上忍は恐らく、誰にも気付かれないように結界を張って、更にその結界を張っていることを感じさせない結界を張るという、二重の結界を張ってると思うんだ。うちはのガキが見つからないようにな。その上で木の葉に戻ってこようとするなら、結界は解けてしまうから、短時間だけ結界を持続させる術を使って、短い時間だけ、オマエの様子を見に来たんだと思う」

「短時間だけ? そ〜ゆ〜ことできるの?」

「カカシ上忍の持ってる術ならな。恐らく、オマエがこの間会いに行ったことが気になって、様子を見に来たんだろうさ。何も注意せずに帰ったのは、術が切れたからだろう」

 すぐに戻らないと、結界が解けて見つかるからな、とゲンマは立ち上がる。

「ふ〜ん・・・折角なら会いたかったな〜」

 も手を取られて立ち上がり、ダイニングに向かった。

「この間、ちゃんと会ってやることやってきたんだろうが。本戦はもうすぐだぜ。戻ってくるのも時間の問題だよ」

「そうだけど・・・」

「あぁそうだ」

「?」

、カカシ上忍は、この間の出来事はしっかりと覚えてそうか?」

「ん〜、さぁ。カカシせんせぇが寝てる時に会いに行って、寝てる間に戻って来ちゃったし。分かんないよ」

 とてとて、とはテーブルを回り込んでご飯をよそった。

 ゲンマはそれを聞いて、に分からないように、ニヤ、と笑った。

「もしかしたら、夢だと思ってるかも知れねぇよな。、カカシ上忍に訊かれて、覚えてないようだったら、黙っとけよ」

「また知らんぷりするの? 何で?」

 続けて味噌汁をよそいながら、は怪訝に思う。

「はっきりと覚えていねぇようなことなら、教えてやる必要はねぇよ。信じようとしねぇカカシ上忍が悪い。会いに来たかとか訊かれたら、行ってない、って言っとけ」

 ゲンマは椅子に腰掛け、箸を手に取る。

「よく分かんないけど、分かった〜」

 も座り、いただきます、と食べ始めた。

『そっか・・・抱き合って寝てたの、見られちまったか・・・血の雨が降るかねぇ・・・? ま、いいや、いつも通り、すっとぼけていよう』

 ゲンマ、、それぞれ色々考えながら、食事を進めていった。



















 中忍選抜試験第三の試験本戦前夜。

「ゲンマさん、忙しいみたいだね。いよいよ明日だもんね。私も観に行きたいよ〜」

「ん〜あぁ」

 試験に携わる者は、明日に控え、多忙を極めていた。

 昼食も満足に取れず、帰ってきたのも深夜近く。

 ここ数日、仕方なくは弁当を一応分け、残りはイルカと食べた。

 遅い夕食を食べて風呂から上がってきたゲンマは、息を吐いてベッドに寝転がった。

 ベッドの上でカカシ人形を抱き締めてイチャパラを読んでいたの腿の上に、頭を載せる膝枕の形となった。

「私はね、ゲンマさんが忙しかったから一緒にお昼食べられなかったでしょ? だからイルカせんせぇと食べて、その後ガマ仙人さんのトコに行ってたんだ。ナルト君は口寄せの術を成功させて、でっかいカエルさん呼び出したんだよ。でも疲れ切って3日前に病院に入院して、身体を休めてるんだって。私が治療しようかな〜って思ったんだけど、ガマ仙人さんにほっとけ〜って言われちゃったから、ガマ仙人さんと、まだ行ったこと無いお店巡りとかしてたの」

 はイチャパラを閉じ、枕元に置いて、カカシ人形を小脇に抱え、ゲンマの身体に手をかざした。

 ゲンマは濡れた髪のまま、のチャクラを浴びながら、心地好さそうに目を閉じている。

「ナルト君は、九尾の力を持ってるから、治療とかしなくっても、じっとしてるか寝てるかすれば、すぐにすっかり良くなるんだって。ガマ仙人さんは、ナルト君に九尾のチャクラをコントロールさせる方法を覚えさせてたんだって言ってた。私も記憶取り戻して本来の力ってのが使えるようになりたいなぁ」

 どんな力持ってるのか知らないけど、とはゲンマにチャクラを注ぎ続ける。

「そう言えば、本当に障壁のコレ、1ヶ月解けなかったね。まだ外に出ていられるし。ガマ仙人さんは凄いなぁ。このままずっと出ていられるかなぁ?」

 首のチョーカーに触れ、まだ微弱にカカシのチャクラを感じ、にぱ、と笑う。

「やっとカカシせんせぇに会えるんだ〜。ね〜ね〜ゲンマさん、ホントに会場に行っちゃダメなの?」

 行きたいよ〜、とは膨れる。

「ダメだ」

 それだけ言い、ゲンマは半分眠りの淵に落ちているかのようだった。

「行きたいっ!」

 ぷぅ、とは口を尖らせる。

「ダメだっつってるだろ。危険が迫っているのが分かっていて、オマエをそこに晒せるか。これまで通り、アカデミーで授業受けていろ。イザという時、イルカ達が先導して避難させてくれるからな」

 うっすらと目を開け、ゲンマは落ちてくるの長い黒髪を手で梳いた。

「私が役に立てる事って無いの?」

「そうだな、イルカ達と一緒に、木の葉の住民達を危険から守っていろ。敵襲はいつどこから来るか分からんからな」

「ん〜・・・」

 それも重要な役目だと分かってはいても、はどうしても会場に行きたかった。

 火影に迫り来る黒い影。

 日に日に、濃さが増しているのが分かる。

火影を死なせたくない。

 何よりも、とにかくカカシに早く会いたい。

 ゲンマにも、の気持ちは分かっていた。

 だが、大切な者を、進んで危険に晒そうなどとは、とてもじゃないが、思えない。

「会場のことは、オレ達に任せろ。オマエは、外を頼む」

「ん〜・・・うん・・・」

「オマエはまだ実戦の怖さを知らねぇ。命のやりとりの応酬だ。実戦を知らんオマエを気に掛けながら戦うなんて余裕は、カカシ上忍でも、そうねぇだろうからな。オレもな。分かってくれ」

 は答えなかった。

 必死に自分を納得させようとしているのが分かった。

「・・・もう遅い。寝ようぜ。明日という日がどう転ぶか、オマエの目には漠然と映っているんだろうが、カカシ上忍の言ったように、運命は変えられねぇ。何も考えずに、なるべく見ねぇようにしろ。オマエの精神が、崩壊してしまうからな」

 純粋無垢なに、血なまぐさい戦争を目の当たりにさせるのは気が引ける。

 傷つけたくない。

 ゲンマは上体を起こして、の瞳を見つめた。

 きゅ、と優しくを抱き締める。

 暫しの時が経った。

 も、ゲンマのパジャマを掴んでいた。

 このままでいられたら。

 ゲンマは僅かに離れ、再びの瞳を見つめる。

 清らかな大きな黒玉に、吸い込まれそうだった。

 ちゅ、と軽くの唇に触れる。

「・・・オマエがオレん家に泊まるのも、今日が最後だな。・・・これからは・・・カカシ上忍と・・・楽しくやっていけると・・・いいな」

 このままずっと、離したくはない。

・・・オレはオマエを・・・」

 言ってはいけないこの言葉。

 喉まで出かかりそうになる。

 明日をも知れない今。

 未来が見えない。

 未練は残したくない。

 でも。

 逡巡してると、は、ニコ、と天使のように微笑んだ。

「ゲンマさん、私、強くなるよ。皆を守れるように、誰も死なないように、皆が笑って暮らせるように、強くなる。だから・・・ガンバロ?」

・・・」

 きゅう、と強く抱き締めると、もきゅ、と抱きついてきた。

 毎日抱き合って眠ってきた2人は、手を繋いで、互いに向き合って眠りに就いた。

























 朝。

 ゲンマは本戦会場に向かい、はアカデミーに向かった。

 廊下でイルカに出会う。

「お。ちゃんと来ましたね。火影様からもアンコさんからもゲンマさんからも、さんがちゃんとアカデミーに来るか、来たら本戦会場には向かわないように拘束しとけ、って脅されてたんですよ」

 ハハ、と苦笑しながらイルカは頭を掻いた。

「拘束って、そんなに私って信用無いんですね」

 しゅん、とは口を尖らせる。

「いや、だってさん、カカシ先生に早くお会いしたいでしょう? お気持ちは分かりますから。オレもナルトのこととか、心配ですし」

 イルカの言葉に、はパッと目を輝かせた。

「ですよねっ?! イルカせんせぇもナルト君の勇姿観に行きたいですよね?! 一緒に会場に行きませんか?!」

 はイルカの手を取って、まくし立てた。

「え・・・いや・・・オレは授業がありますから・・・」

 眼前にの愛らしい顔が迫って、真っ赤になってしどろもどろに、イルカは狼狽えた。

「え〜」

「さ、もうすぐ授業始まりますよ。教室に行ってて下さい。オレも準備できたら行きますから」

 そう言って、イルカは職員室に入っていった。

「カカシせんせぇ・・・もう来てるかな・・・会いたいよ〜・・・」

 ぽてぽてと、は廊下を歩いていった。





 予鈴が鳴り、イルカは教室に向かった。

 ガラ、とドアを開けると、木の葉丸達が騒いでいた。

「コラ! 予鈴鳴ったぞ! ちゃんと席に着いて!」

 イルカは教壇に立ち、名簿で出欠を確認した。

「・・・あれ? さんがいないな。今日はオレの授業受ける筈なのに」

 いつも最後列の端に座っているの姿がなかった。

「木の葉丸! さんはどうした?」

 モエギやウドンとお喋りをしていた木の葉丸は、きょとんとした。

姉ちゃんか? 今日はまだ見てないぞコレ」

「おかしいなぁ? この教室に向かってくのを見たんだけど・・・」

「今日は中忍試験の本戦の日だぞコレ。じじィのいる本戦会場に試合観に行ってるんじゃないのかコレ?」

「そんな馬鹿な・・・! さんは、今日は一日アカデミーで授業を受けることになっているんだぞ・・・。本当に行っちゃったのか・・・? マズイだろ・・・」

 困惑の表情で、イルカは空を見上げた。

















 一方のは、当然の如く、本戦の会場に忍び込んでいた。

 見つかりにくい場所の観客席に腰を下ろし、小さくなってコソコソと下の様子を伺う。

「あ、ゲンマさんだv ナルト君もいるv 後のコは知らないなぁ。ナルト君の隣にいるのは・・・いのちゃん家で見た写真のコだよね? シカマル君って言ったっけ・・・。でもサスケ君がいないや・・・ってことは、まだカカシせんせぇも来てないのか・・・何だぁ」

 ちぇ、とはがっかりする。

 が、お祭りのような周りの騒ぎに、厳戒態勢と言うことも忘れてしまう程、知らず知らずウキウキしてきていた。

「アスマせんせぇと紅せんせぇが観客席にいる・・・紅せんせぇの部下のコにサングラス掛けてる子がいるって言ってたから、あの丸眼鏡のコがそうだよね・・・シノ君だっけ? 何か不思議なコだなぁ・・・わ〜、身体中虫さんだよ。変わってる〜。虫使いの一族だっけ・・・」

 はシノをじっと見て、目を見開く。

 そして再び、観客席を見渡す。

「あ、アンコさんのトコで会った人達だ。火影様の隣の席空いてるなぁ・・・風影様って人が来るんだっけ? 火影様の傍仕えしてる人って、よくゲンマさんと一緒に任務してるって言う人だよね・・・ライドウさんって言ったっけ?」

 他に知ってる人いないかな・・・とは物珍しそうに辺りを見渡した。

「お、サクラちゃんといのちゃん発見。仲良いなぁ・・・サスケ君が来てないから心配そうな顔してるな・・・そりゃそうだよね・・・ずっと会えてないんだもん。カカシせんせぇも、早くサスケ君連れてこないと始まっちゃうよ〜」

 ぶ〜ぶ〜、とは膨れた。

「来賓席の大名様達、豊穣祈願祭の時に臨席されてた方達だ。オトハさんって人、今どうしてるかな・・・」

 きょろきょろ気を抜いて眺めているは、程なくゲンマにも見つかってしまった。

『あの馬鹿・・・あれ程来るなっつったのに、来やがって・・・』

 チィ、とゲンマは舌打ちする。

 火影もの姿を認め、息を吐く。

 依然、暗部に捜させているサスケの行方も分からないままで、本当にカカシの元にいるのか、それとも大蛇丸の元に落ちてしまったのか、が不安そうにきょろきょろしているのを見る限りでは、分からなかった。

 物寂しそうな細い両肩が、孤独を教えてくれた。

 不安は尽きなかった。

 思慮していると風影が供を連れて現れたので、火影は思考を切り替え、開始を宣言した。

『アレ? あれが風影様って人・・・? 何か、身に覚えのあるようなチャクラだなぁ・・・会った事なんて無いよねぇ? 今日初めて砂の里から来た筈だよね? おかしいなぁ・・・』

 う〜む、とは風影を見遣って、顎に手を当て、考え込んだ。

 下の闘技場では、審判のゲンマと、第一試合のナルトとネジを残して、後は控え室に移動していた。

「ナルト君の相手って、日向一族のコかぁ。強そう・・・でも、ナルト君も修行頑張ったし、大丈夫だよね?」

 はカカシやゲンマに、木の葉で古い流れをくむ数々の一族については教えられていたので、大抵は把握していた。

『だけど・・・会場のあちこちに暗部の人いるみたいだけど、敵襲ってどうやってくるんだろ・・・』

 私も覚悟しておかないと、ときりっと気持ちを引き締め、しかし試合観戦に熱中した。

「白眼って凄いなぁ・・・日向流の柔拳って経絡系を攻撃できるんだ。点穴を突くって・・・私に出来るかなぁ?」

 はネジをじ〜っと見定めた後、自分の腕をまじまじと見つめ、つんつん、とつついた。

「あ、見える・・・コレを突くのかぁ・・・難しそうだなぁ」

 むぅ、と難しそうな顔をしている間に、戦いは進んでいく。

「影分身かぁ。ナルト君が一杯いて可愛いv でも苦戦してるなぁ・・・頑張れ〜ナルトく〜ん」

 小さな声で、はナルトに声援を送った。

『・・・アレ? どこかでチャクラが弾けたような・・・何だろ?』

 きょろ、とは周囲を見渡した。

 収まったので、気にはしつつも、試合展開に目を戻す。

「回天って言うのか、アレ。う〜ん、体術もっと強くならないと私には無理そう・・・」

 は、噛み締めるように、ネジの語る運命の苦しみを聞き届けた。

「逃れられない、運命、か・・・何だろ・・・何か胸が苦しい・・・」

 ぎゅ、と胸元で手を握りしめていると、ナルトから強大なチャクラが溢れ出してきた。

『コレ・・・九尾のチャクラ・・・凄い・・・』

 ナルトが勝利するのを見届け、勇気を貰ったは、ネジに励ましの言葉を掛けるゲンマを見て、ほんのりと心が温かくなった。

「やっぱり良いなぁ、試合観戦って・・・私も早く忍者になって、試合に出てみた〜い!」

 次はサスケの試合。

 会場内はざわついている。

 なかなか開始されない為だ。

「サスケ君、まだ来てないのかなぁ・・・カカシせんせぇ〜、早く来てよ〜」

 観客の殆どが、サスケの試合を目当てに来ている。

 風影の助言もあり、サスケの試合は後回しにされ、試合が繰り上がった。

「も〜っ、カカシせんせぇのいつもの遅刻ってヤツなの?! こんな時まで遅れないでよ〜。失格にならなかっただけ良いけど・・・」

 しかし次の試合のカンクロウは棄権をした。

「? 何で棄権するんだろ。あのお人形さん持ってるコ。それじゃ何しに来たか分からないじゃない。変なの〜。何かあるのかなぁ」

 は何やら目で会話し合っている砂忍達を遠目に見つめ、見透かすように見定めた。

「まさか・・・」

 嫌な予感が走る。

 断ち切るように、巨大な扇子で闘技場に砂忍のくの一が降り立った。

 続けてシカマルが落ちてくると、一斉にヤジが飛んだ。

「面白そうな試合なのになぁ・・・」

 シカマルの能力に興味津々のは、口を尖らせて周囲を見渡す。

 テマリは勢いよくシカマルに向かっていき、ゲンマの合図を前に試合は始まった。

 頭脳戦とも言える展開に、はどんどんのめり込んでいく。

「影真似の術かぁ〜、面白〜い。私にも出来るかな?」

 はシカマルの印を真似、えぃっ、とチャクラを込めた。

 うにょん、との影が動く。

「あ、動いたv よ〜し、ちょっとだけ・・・」

「ん? アレ? 何だ?」

 の前の席の観客が、の動くとおりに動いた。

『わ〜出来たv ゴメンナサ〜イ・・・』

 術を解いて前の席の背中に手を合わせると、また試合観戦に戻った。

 ハテナマークの浮かぶ観客は、辺りをきょろきょろと探った後、試合に目を戻した。

 ハイレベルな頭脳戦の応酬に、次第に観客達は全員魅せられ、のめり込んでいた。

 もわくわくと眺めていたが、シカマルのチャクラが残り少ないことに気が付いた。

 そのシカマルは詰めまで行ってギブアップし、全員の度肝を抜いている中、は何だかそわそわしてきた。

 心臓が強く鼓動している。

『段々・・・近付いてきてる・・・!』

 は顔を高揚させ、飛び出したい気持ちを必死で抑え込んだ。

 カカシの忍犬が、ライドウに話し掛けているのを見た。

 恐らく、先駆けで来たのだろう。

 シカマルに文句を言いに下に降りたナルトがウロウロしていると、突如木の葉の旋風が巻き起こった。

 その渦が掻き消えていくと、そこには、背中合わせでカカシとサスケが立っていた。

 ナルトの顔が、サクラの顔が、次第にぱぁっと明るくなっていった。

 シカマルも口の端を上げる。

 ゲンマもにやりと口角を上げてサスケを見下ろした。

 カカシは苦笑いを浮かべて、遅刻をしたせいで失格になってはいないかとゲンマにビクビクと問い質した。

 大丈夫だとゲンマが告げると、冷や汗を浮かべながら、へらへらと笑った。

 しかしその薄ら笑いも、我愛羅が視界に入ると、一変して真摯になる。

 ゲンマも声を上げて控え室の我愛羅を呼び寄せる。

 シカマルとナルトが上に戻っていくのに先駆け、カカシも行こうとしたその時。

「・・・あのさ、ゲンマ君」

「・・・何です」

「事が終わったら、話があるから。忘れないでよね」

 そう言い残し、カカシは上に行く。

「・・・分かりました」

 やっぱ忘れてないか、とゲンマは息を吐く。

 だが、今はそれどころではない。

 向き合うサスケと我愛羅の間にゲンマは立って、遅れてきたサスケの為に、試合のルールを説明した。

「カカシせんせぇだ・・・カカシせんせぇだ・・・カカシせんせぇだ・・・! う〜〜〜っ、飛んでいって飛びつきたい! でも、そしたら此処に来てるの見つかっちゃうから隠れてなきゃダメだよね・・・う〜〜〜・・・」

 はむずむずしながら、カカシの姿を追った。

 ゲンマにも火影にもまだ見つかっていないとは思っている。

 恋する乙女のように、は遠くからカカシを見つめた。

 カカシはサクラ達の元へと歩いていく。

 は、カカシの前に立っている2人が目に付いた。

「誰だろ・・・アレ。知り合いみたいだよね・・・でも、カカシせんせぇから聞いてる中にはそれらしい人いないしなぁ・・・誰?」

 うにゅ? とは首を傾げた。

「だけど、その前にいるそっくりな松葉杖のコ・・・大怪我だなぁ・・・ずっと入院してたっぽい感じだよね・・・ずっと病院には行ってなかったからなぁ・・・最近ずっと研究成果出てなかったからつい・・・行ってれば良かったよ。でも、私1人じゃ治せないかも・・・」

 神妙な顔で、はリーを見定めた。

「忍び・・・なのかな? でも、もう忍びは・・・」

 私の判断じゃ分からない、とずっと見つめていたら、試合が始まったので慌てて視線を下に戻した。

「わ〜、砂が動いてる・・・変わった術だなぁ・・・何かが取り憑いてるっぽいなぁ、あの瓢箪のコ・・・」

 何だろ? と見透かそうとしても、にはよく分からなかった。

 カカシは会場内の暗部の位置を確認していると、片隅に、目敏くを見つけた。

 見つからないように小さくなって観戦しているつもりのようだった。

『もう・・・ってば、あれだけ言っておいたのに、会場に来ちゃって・・・』

 目の端にを入れながら、カカシは試合に視線を戻した。

 カカシに気付かれたとは知らない

「サスケ君、体術上達したなぁ。すっごく早くなってるし。砂がガードしようとしても、サスケ君の方が早いみたい」

 サスケの上達ぶりにも目を見張ったが、は我愛羅に興味津々だった。

『何だろ・・・何か重なるモノを感じる・・・』

 サスケが攻撃をし、突きを食らわせると、砂は団子のように、丸く、固く防御した。

『お団子の中で印を結んでるみたい・・・何だろ・・・ぞわぞわするよ』

 その時、サスケは意を決したように、後退って跳び上がり、壁に静止した。

 そして結んでいく印は。

「あ・・・雷切・・・?」

 カカシせんせぇがサスケ君に教えてたのは雷切か、とはサスケに目を移した。

『サスケ君、実戦で使えるのかな・・・? 凄いなぁ、私にはまだ出来ないよ・・・』

 その時、は異変を感じた。

 会場全体に。

『何だろ・・・何か嫌な感じ・・・』

 サスケが千鳥を打ち込むと、砂の絶対防御を突破した。

 チャクラが弾け、痛みを感じたサスケは手を引き抜こうとする。

 得体の知れない物体が、サスケの腕と共に砂の殻の中から飛び出た。

「何アレ・・・?!」

 会場の異変も気にかかったが、試合からも目が離せない。

 その時、羽が舞い降りているような感覚に捕らわれた。

 周りの人間が、次々と意識を失っていく。

「え・・・何・・・?」

 大蛇丸の手の者、暗部に扮したカブトが放った幻術。

 暗部や上忍、サクラなどが幻術返しをしている中、には効いていないらしく、は辺りを見渡してオロオロした。

 何かが弾けた気がした。

 里の周りに巨大な大蛇が現れる。

 暗部達が飛び出す。

 風影が火影を捕らえ、櫓に跳び上がり、クナイを突きつける。

 風影の供の者が四手に別れ、屋根の上で四角く火影達を取り囲む。

 合図で四紫炎陣の結界が音忍4人によって施された。

 音忍と砂忍が集まってくる。

 危機感での精神は張り裂けそうだった。

 砂の三兄弟が会場を抜け出していくのに気が付き、はサスケに目をやると、ゲンマに庇われ、ゲンマは砂の上忍と対峙していた。

「ゲンマさん・・・! サスケ君・・・! カカシせんせぇ達は?!」

 きょろきょろ周囲を見渡すと、カカシ達は音忍達と対峙している。

 続々と砂忍達も攻め入ってくる。

 サスケは、我愛羅達を追っていったのか、後に続いて出て行った。

 の目にもはっきりと写った。

 風影が、別の人間だと。

「まさか・・・あれが大蛇丸って人・・・?」

 禍々しい、邪念。

 どす黒い気流で、気分が悪くなりそうだった。

 カカシが屋根上の結界内を目視して名を叫んだことで、火影を捕らえているのが大蛇丸だと、確証した。

 音忍達が、襲いかかってくる。

 砂忍達もそれに続く。

 木の葉の忍び達は、応戦した。

 にとっては、初めての実戦、初めての戦争。

 飛び交う怒号とぶつかり合う金属の音、飛び出す流血。

 頭を抱えて身を潜めていたは、ゲンマがバキと戦っているのを目にし、勇気を振り絞って、自分も戦おう、と立ち上がった。

 直ぐさま襲いかかってきた砂忍を、ひらりと交わし、掌をスッと身体に当て、相手の気を失わせる。

 最初が何とか上手くいき、次々襲い来る相手を、何とかかんとかかわしていった。

 敵を蹴散らせながら、ゲンマは上のが気にかかる。

『大丈夫か・・・は・・・幻術にはかかってねぇだろうから、起きている筈だ・・・』

 敵を切り倒し、チラと上を見遣る。

 がひらりひらりと、何とか敵の攻撃をかわしているのを確認した。

『大丈夫そうか・・・』

 にばかり気を配っていられない。

 目の前のバキは、強敵だった。

 カカシも敵を薙ぎ倒しながら、が気にかかって仕方がなかった。

「カカシせんせぇっ!!」

 攻撃をかわしながら、が駆け寄ってくる。

! 大丈夫か?!」

「うん・・っと」

言い掛けた時に襲いかかってきた相手に、掌仙術で気を失わさせる。

、無理はするな! 陰に隠れてろ!」

「でも・・・!」

 忍者服を着てきているが、ひらりひらりと会場を舞う。

 次々と相手が倒れていく。

 上忍達の誰にも、引けを取らなかった。

 どちらから言い出さずとも、カカシとのコンビネーション攻撃を始めた。

 初めての実戦とは思えない程、スムーズに噛み合って2人で敵を倒していく。

『戦いやすい・・・?! いつの間にはこんなに・・・これなら、安心して背中を任せられる・・・けど・・・』

 ある意味、心地の良い空間であった。

 それが、戦場でなければ。

、後はオレ達が何とかするから、もういい、隠れてろ!」

 を血にまみれさせたくない。

 いくらが、相手を殺さずにいても。

「私も役に立ちたいの!」

 は傷一つ負わない。

 多分、この中の誰よりも強い。

 カカシは決意した。

!」

「ハイ!」

「火影様を頼む! あの結界を破れるのは、だけだ! 火影様をお救いしてくれ!」

「カカシ、誰だ、その美しい女性は?!」

 敵を薙ぎ倒したガイがカカシに問う。

「後で説明する! 、頼む!」

「その美しい女性を大蛇丸と戦わせる気か、カカシ?!」

「多分の方が・・・強い!!」

 行ってくれ、というカカシの言葉に、は頷き、櫓を見上げた。

「行ってくる・・・!」

 飛び上がり、は屋根の上に降り立った。

?! 何故此処に・・・! 危険だ、下がれ!」

 結界を破れず手を拱いていた暗部が、を止めようとする。

「うん・・・これなら破れる・・・結界を破ります!!」

「何だと?!」

「出来るのか?!」

 は、掌にチャクラを目一杯込めて、結界に突き進もうとした。

「破れるものか」

 音忍達が、大蛇丸が、火影が、に目を奪われた。

 目映い光に、が包まれる。

 結界が歪む。

 その時。

「あ・・・引っ張られる・・・何・・・? きゃぁっ」

 チャクラが弾け、の姿は空中に溶け込んで消えた。

 結界はそのままだ。

が消えた?!」

 様子をずっと隠れて見ていたサクラも、驚愕する。

「カカシ先生! さんが消えていなくなっちゃった! まさか障壁が・・・」

「何だって?!」

 サクラの言葉に、カカシも櫓の方を見遣る。

 そこにの姿はない。

 チャクラも感じない。

「くそ・・・まさかよりによってこんな時に・・・!」

 敵を切り倒しながら、カカシは空を仰いだ。











 里の各地では、住民達の避難が始まった。

 分散している、避難所。

 忍び達が、一般の人々、女子供を先導する。

さん・・・大丈夫だろうか・・・気を付けて下さいよ・・・!』

 木の葉丸達アカデミー生達を先導しながら、イルカは会場方面の空を仰いだ。

















 は、カカシの家の中に戻ってきていた。

 ボロボロと、大粒の涙がこぼれ落ちる。

「どうして・・・?! 何でこんな時に解けちゃうの?! 神様の意地悪・・・私をここから出してよぉ!!」

 叫びを上げて、窓を開けようとする。

 が、窓すら開けられない。

「何で・・・?! 行くなって言うの?! お願いだから、会場に戻らせてよ!! お願いだから〜〜〜!!!」

 ガチャガチャと、必死で窓を開けようとする。

 しかし、鍵すら開かないかのようにびくともしない。

 玄関のドアも開けられない。

「何で・・・何でよぉ〜〜〜!!!」

 ボロボロと泣きじゃくりながら、はその場にへたり込む。





 どれくらい経っただろう。

 大分時が過ぎた。

 は、床にへたり込んだまま、泣き続けている。

 大粒の涙を零しながら。

 ひっきりなしにチャクラを放出させて、障壁を解除させようと試みていた。

 とてつもなく大きなチャクラが、何度も何度も、弾け続けた。

 流石のも、疲れの色を見せ始めていた。

 何度も、これが最後、というくらいにチャクラを込めた。

 それでも、びくともしない。

 見ている者がいたら止められていたであろう程にはチャクラを放出し続け、尽きかけてきたその時。


 は知った。

 火影の、最期を。

 は、泣き叫んだ。



















 夜も更けたその時。

 呆然として抜け殻のように床にへたり込んでいたの元に、事後処理を済ませてきたカカシが、戻ってきた。

 カカシも肩を落としている。

・・・」

 カカシはの傍らに膝をついてしゃがみ込み、の両肩を掴んだ。

 は泣き腫らして、もう水分が出ないんじゃないかと言うくらいに泣き明かした後だった。

「カカシせんせぇ・・・」

 ピクリと身体を小刻みに震えさせ、ゆっくりと顔を上げる。

「う・・・」

 わぁ〜〜〜〜っ!! と、はカカシに泣きついた。

「火影様が! 火影様がぁ〜っ!!」

・・・」

 視線を落とし、カカシもをきゅう、と抱き締めた。

 えぐえぐと泣き続けるを、強く抱き締める。

「こんな運命・・・嫌だよぉ〜〜〜!!」

・・・!」

 カカシには、何も言えなかった。















 は泣き疲れて眠った。

 時折、涙の筋が頬を伝う。

 熱いシャワーを浴びてきたカカシは、寝室に入っての寝顔を見つめた。

 なまじに人と違う力さえなければ。

 これ程までに、心を痛めなかった筈だ。

 は自分を責めている。

 弾け続けたのチャクラ。

 苦しい魂の叫び声に聞こえた。

「こんな目に・・・遭わせたかった訳じゃないのに・・・」

 カカシは床に座り込み、ベッドの傍らで、の手を取った。

 優しく握りしめ、自分の頬にあてがう。

 眠れそうになかったカカシは、そのまま更けていく夜を過ごした。





































 此処より遙か西方の島国。


 無数の機械が取り巻く中。

「見つけた・・・! この周波・・・間違いない、“彼女”だ!」

「忍び五大国・・・こんな所に潜んでいたとは・・・」

「捜索の網を広げて大正解だったな」

「これまで用心深くその身を隠し続けてきた“彼女”が自分から居場所を発するとは・・・何かあったのか?」

「そんなことはどうでもいい。ヤツらの方は“彼女”を見つけたのか」

「いや分からない。一刻も早く、ヤツらに見つかる前に、ヤツらより先に“彼女”を手に入れるぞ」

「どうやってだ。おいそれと捕まりはしないぞ。何せ“彼女”だからな」

「策がある。この日の為に研究を続けてきた装置が、試せる時が来たのだ」

「船を出せ! 目的地は、忍び五大国、火の国だ!」