【出会いはいつも偶然と必然】 第二十二章









 葬儀が終わった夕方。

 雨も上がって、陽が射し込む。

 着替えて里の復旧作業の手伝いに加わったは、カカシの傍から離れなかった。

 故に、作業効率は著しく悪い。

 ちょっと働いてはピタ、の繰り返しなのである。

はアカデミーの方に行くんでしょ。カカシィ、アンタも一緒にアカデミー行っちゃってよ、向こうも手が足りないのは同じだし」

 紅がのひっつきぶりに呆れる。

「や、でもオレは此処って分担させられてるし・・・」

はアカデミーの復旧を手伝うように言われてるでしょ。がカカシから離れないんなら、アンタが行くしかないじゃない」

、ゲンマ君がアカデミーの方にいるでしょ? ゲンマ君トコ行っといでよ、オレは此処が役割だから。ね?」

「・・・カカシせんせぇと一緒がいいの」

 ぴと、とはカカシに貼り付いた。

 参ったな、とカカシは頭を掻く。

、おめぇガキじゃねぇだろ? 木の葉の忍びになろうってんなら、頼まれた仕事はシッカリやらねぇとな。カカシの傍にいてぇんなら、仕事終わるの待って、家に帰ってからイチャイチャでも何でもしろよ」

 アスマもくわえ煙草で窘める。

 皆に責め立てられ、はうりゅ、と瞳を潤ませた。

 えぐえぐと泣きじゃくりながら、とぼとぼと肩を落として歩いていく。

 時折立ち止まり、涙を拭き、また歩き出しては涙が溢れ、立ち止まる、ぐすぐすとその繰り返し。

 それを見て、皆はとてつもなく悪いことをした気分になった。

「カカシ、此処はいいから行ってやれよ。このままじゃに嫌われちまう。な」

「ん〜・・・。これくらいでしょげてるようじゃ、忍びにはなって欲しくないよ。酷なようだけど、にはこの試練を乗り越えて欲しいんだ。じゃなきゃ、忍びは無理だ。オレだって傍にいてやれるならずっといてやりたいし、いたいけど、の為だからね」

「へ〜っ。のこと、甘やかしてるだけかと思ってたら、ちゃんと考えてるのね。見直したわ」

「見直したってナニよ。今までオレをどう思ってた訳?」

「冗談よ。アンタが忍びの顔をしてる時は、尊敬してるって事」

「何ソレ。普段は違うみたいな言い方」

「当たり前だろうが。暇さえありゃイチャパラ読み耽ってるオマエを尊敬出来るか」

「む。イチャパラを馬鹿にするな〜」

「こ〜ら、そこ! 無駄口叩いてないで作業せんか!」

 カカシ達を見とがめたガイは、声を張り上げた。

「はいはい・・・」











 とぼとぼと泣きながらアカデミーに向かっていると、里の復旧作業を手伝っているサクラに会った。

さん、どうしたの? そんなに泣いて。葬儀の祈祷、カッコ良かったのに。何かあったの?」

 サクラは手を止めて、の顔を覗き込む。

「・・・カカシせんせぇと一緒にいたいのに、ダメって言われちゃった・・・」

 ぐすぐすと、溢れる涙を拭きもせず、は泣き続ける。

「カカシ先生って何処にいるの?」

「試験会場」

さんは何処のお手伝い?」

「アカデミー」

「それでバラバラだから、寂しいんだ。作業が終われば家に帰って一緒になれるでしょ? 少しくらい我慢しなきゃ」

「だって・・・」

 くすん、と鼻を啜った。

 サクラはポケットからハンカチを取り出して、の涙を拭いてやる。

「いきなりの実戦がこんなでショック受けてるのも分かるわよ。火影様もお亡くなりになったし。でもさ・・・」

「サクラちゃんは悲しくないの? こんなに沢山人が死んで、火影様もいなくなって」

「そりゃ勿論、悲しいわよ? でも、私は忍びだもの。いつまでも泣いて悲しんでばかりいられないわ。さん、忍びの心得の第25項、言える?」

 サクラの問いかけに、は考え込んだ。

「・・・忍びは・・・どのような状況においても感情を表に出すべからず・・・任務を第一とし・・・何事にも涙を・・・見せぬ心を持つ・・・べし・・・」

「でしょ? さん、立派な忍者になりたいって言ってたじゃない。そんな人が、こんな事じゃ、忍びにはなれないわよ。忍びだって人間だから、そりゃあ辛いわよ。悲しいわよ。でも、それを押し殺して、皆頑張ってるの。気持ちを切り替えて、頑張って。ね?」

 サクラはの手を取り、言い聞かせた。

 は暫し考え込んで、こくんと頷く。

「今はまだ里がこんなだから無理だろうけど、さん、私に料理教えてくれる約束でしょ? いのとかとも女同士の話もする約束だし。やることは一杯よ。振り返ることも時には必要だけど、今は前を見ないと」

 ね? とサクラは諭すように、柔らかく微笑んで見せた。

「うん・・・ありがと、サクラちゃん。何とか、頑張るね」

 じゃ、とはサクラと別れ、アカデミーに向かった。









 アカデミーに着くと、葬儀の間中泣いていた木の葉丸も、泣き腫らした目を見開いて、懸命に作業を手伝っていた。

 イルカがそれを見て、柔らかく微笑んでいる。

 その光景を見たは、自分もしっかりしないと、と思いつつ、だが心はまだ揺れていた。

「コラ。今頃来たか」

 コン、とのアタマを小突く。

 の背後に、ゲンマが立っていた。

「・・・ごめんなさい・・・」

 泣き腫らしているを見つめ、ゲンマは目尻の涙を指で拭き取ってやり、優しく頭を撫でた。

「大方、葬儀が終わって気が緩んで、それまで我慢していた気持ちが溢れて、心細くてカカシ上忍にくっついてたんだろ。追い返されて、わーわー泣いていやがったな」

 図星だったので、は俯く。

 それを見てゲンマは息を吐いた。

「ったく。オマエ、忍びになるんだろうが。こんな事は当たり前の事なんだぜ? いちいち動揺して立ち止まってたら、いつまで経っても前に進めねぇぞ」

「・・・頭では・・・分かってるつもりなんだけど・・・」

 じわ、とまた涙ぐむ。

 そんな純粋さを、ゲンマは素直に、愛しいと思う。

 自分の胸の内に取り込んで、包み込んでやれるなら。

 それが自分の役目ではないことが、やるせなく思う。

 しかし、飴と鞭が主義、と公言しているゲンマは、をただ甘やかすつもりはなかった。

「オマエ、試験の前の日、オレに言っただろ? 私、強くなるよ、って。皆を守れるように、誰も死なないように、皆が笑って暮らせるように、強くなる、って。立派な忍びになるんだろ? いつまでもめそめそしてんな」

「あ・・・うん・・・」

 そうだった、とは思い出す。

「分かったら、サッサと気持ちを入れ替えて、手伝え。人手はいくらあっても足りねぇんだからよ」

 ゲンマはの肩を抱き、作業場所に連れて行こうとした。

「・・・皆に言われてる・・・。ゲンマさん、どうやったら、気持ちを切り替えられるの? やり方が分からないよ」

 てくてく歩きながら、はゲンマを見上げた。

「そうだな・・・やりたい事ややるべき事が、沢山あるだろ? 目標とかな。それを懸命に、それだけを考えるんだ。あれしてこれして、こうしてって・・・ってな。そうしてりゃ、てんやわんやしてきて、過去を引きずってる場合じゃなくなるぜ。“今”で手一杯すぎてな」

「そっか・・・ありがと、ゲンマさん。そうだよね。頑張って立派な医療忍者になって、いつかカカシせんせぇと一緒に任務するんだもんね。カカシせんせぇを守れるくらい強くならないといけないんだ。立ち止まってられないよ」

「そうだ。泣いてる暇があったら、突っ走れ」

 ゲンマの作業を手伝いながら、の頭の中は、次第に未来予想図で埋められていった。















 すっかり暗くなった。

 作業は終わる筈もなく、は一生懸命動き回った。

 汗をかいているうちに、揺れていた心は流れていったようだった。

「しかしまぁ、キリがねぇな。どうすっかな・・・」

 ふぅ、とゲンマは息を深く吐いた。

「午前様になっちゃう?」

「ん〜まぁ、キリねぇしな。全部終わらせようと思ったら、朝になっても終わらねぇよ」

 先の見えてこない復旧作業に没頭していたは、確かに今現在のことで頭が一杯になったら、少し寂しさも紛れてきたのが分かった。

「私、頑張るよ〜。木の葉丸君だって頑張ってるんだもん、私がめそめそしてたら、笑われちゃうもんね」

 ニコ、とは柔らかく微笑んだ。

 には笑顔が一番似合う。

 ゲンマもそう思った。

「キリがねぇから、適当に手を止めるのも必要だな。ん〜・・・、オマエ昼飯も食ってねぇだろ? 飯食いに行くか?」

「ん〜? ダイジョブだよ。お腹空いてない」

「ダメだ。しっかり食って栄養付けねぇと、倒れちまうぞ。それでなくても、オマエずっとロクに食ってねぇんだからな」

 行こう、とゲンマはの腕を引っ張り、踵を返した。











 を突き放してはみたものの、やはり様子が心配なカカシは、食事を摂りに行く、と言って作業場を離れ、アカデミーに向かった。

 すっかり暗くなったアカデミー周辺を彷徨くが、の姿は見当たらない。

 どこからか戻ってきたライドウを目に留め、呼び止めた。

「ね〜ライドウ、知らない? 此処で作業手伝ってる筈なんだけど」

か? さっきまでゲンマ手伝って向こうでやってたけど、そこでゲンマと一緒に出てくのと擦れ違ったぜ。オレ今飯食ってきたんだけど、も昼も食ってないから、飯食いに行ってくるっつって」

 あっち行ったぜ、と方向を指す。

「そっか。サンキュ〜、ライドウ」

 ちゃんとやってたか、良かった、とカカシは取り敢えず安堵する。

「追い掛ける気か? ゲンマと、イイ雰囲気だったから、無粋な真似すんのは止せよ、カカシ」

 ニヤ、とライドウはシニカルに笑った。

「イイ雰囲気って・・・っ。ライドウ、はオレのだよ! ゲンマ君のじゃないってば!」

 顔を高揚させて、カカシは訂正する。

「アレ? ってゲンマの女だろ? ここらじゃ誰でも知ってるぜ、そんなこと。仲睦まじくて有名だぜ」

 結婚も間近だろうってな、と、きょとん、としてライドウは言い放つ。

「違うよ! オレのなの!」

 真っ赤になってカカシは抗議した。

「アハハハハ・・・・冗談だよ、分かってるって。冗談冗談。オマエをからかってみただけ」

 高らかにライドウは笑い、バシバシとカカシを叩いた。

「もう・・・」

 いいようにあしらわれちゃった、とカカシは頬を染め、じとっとライドウを睨み、2人が行ったという方向へ駆けていった。





「こっちって飯屋あったっけ・・・?」

 達の足跡を追いながら、カカシは考え込む。

 屋根の上を駆けていると、少し先の方の通りを歩いているとゲンマを見つけた。

「あ、いたいた。何処行くんだろ? ゲンマ君家の方向じゃないし、オレん家でもないし、何処の飯屋に行く気なんだ?」

 の贔屓の店とも方向違うし、と考え込んでいると、駆けている足がピタリと止まる。

 は、ゲンマの腕に絡み付いて、べったりとくっついて、仲良さそうに歩いていたからだ。

 あれを見たら、ライドウじゃなくても、仲睦まじいカップルとしか思わない。

 カカシは焦燥感を走らせながら、下に降りた。

 静かに、早足で追い掛けていく。

 は嬉しそうに、ゲンマに話し掛けている。

 ゲンマも、カカシが見たこともない程優しい顔で、の話を聞いていた。

「何だよ・・・ってば、オレじゃないとダメって言ってたくせに、あんなにべったり・・・」

 つかつかつか、と自然と歩は早くなり、2人に追いついた。

「ちょっとっ!」

 カカシは2人の背中に向かって声を上げる。

「あっ、カカシせんせぇっv」

 にぱ、とは花のような笑顔を向ける。

 泣き腫らした顔は何処へやら、だった。

「どうしたんです?」

「カカシせんせぇ、私達ね、今ご飯食べに行くトコなの。カカシせんせぇはもう食べた?」

「え、いや、まだ・・・だけど・・・」

「じゃ、一緒に行こっv」

 片方の腕はゲンマに絡み付かせたままで、空いたもう一方の手でカカシを引っ張り寄せ、腕に絡み付く。

 真ん中にを挟み、逆両手に花状態だった。

 カカシはとまどう。

「何処まで行く気だ? 。この先に飯屋なんてあったか?」

「ねぇ、何処まで行くの」

「えへへ。まだ先なんだ♪ この間ガマ仙人さんとお店巡りしてた時に見つけたんだけど、ちょっと離れてるけど、美味しいんだよv」

 両脇に見目麗しい男達を携えたは、ご機嫌で軽快に歩いていく。

 必然と2人は引っ張られた。

 カカシもゲンマもこの状況にとまどい気味だったが、が元気なので、よしとしよう、と思うことにした。





大分歩いた。

 いつも中心地にいる、住まいも中心地に近いカカシ達からしてみれば、此処はもう郊外と言って良かった。

 殆どが住宅だ。

 店も時折、雑貨屋や薬屋があるのみ。

 里については知り尽くしているつもりのカカシとゲンマは、果たしてこんな所に飯屋があるのか、と疑問だった。

「あっ、そこそこ! あそこだよ、灯りが漏れてるトコ!」

 は先の方を指さして、声を上げた。

「あそこか? 看板ねぇじゃねぇか。ホントに店か?」

「見たトコ、普通の家みたいだけど・・・」

「入れば分かるよv すっごく家庭的なんだ〜」

 は絡み付いていた2人から離れ、駆けていって、その“店”の前で手招きした。

 追いついた所で、は玄関を開ける。

「コンバンワ〜♪ 遅くにスイマセ〜ン、いいですか〜?」

 怪訝に思いつつ、腰を屈めてカカシとゲンマは玄関を潜って中に入った。

 入った先は、一見、広いが普通の居間のようだった。

 が、その部屋にはお品書きや調味料立てが置いてあり、一応商売なのだ、とは思う。

「おや、ちゃんじゃないか。今日は自来也さんは一緒じゃないのかい?」

 更に奥の部屋から、初老の婦人がやってきた。

「あ、コンバンワv 今日は、この間言ってた、私の大切な人達と来ましたv」

 大切な人、という響きは嬉しかったが、“達”と同類に括られていることは、ちょっと面白くないカカシとゲンマだった。

「そうかい。有り難うよ。さ、座っておくれ。今お茶を持ってくるからね」

 そう言って婦人は戻っていく。

「座ろ〜、カカシせんせぇ、ゲンマさん」

 靴を脱いで上がっていき、私ココ! とは4人席のテーブルの壁際の座布団に座り、それに倣って隣にカカシが座り、の向かいにゲンマが座った。

「ホントに店なんだ、此処・・・」

 お品書きを手に取り、カカシは呟く。

「何か、何の定食か分からねぇ名前の定食ばっかだな」

 ゲンマも開き、眉間にしわを寄せる。

「あっ! ね〜ね〜、私、オススメがあるの! 秋の味覚先取り定食! 凄いんだよ〜、皆コレにしようよ!」

 コレコレ、とカカシの開いたお品書きを差す。

「何だそりゃ」

「まだ夏真っ盛りだよ? 何の定食なの、コレ」

「あのね〜、私達の理想だよ! 秋刀魚の塩焼きと、かぼちゃの煮物のあんかけと、茄子のお味噌汁なの! それと後色々付いてて、栗ご飯なの」

 ニコニコとは微笑んでいる。

「「そう(か)・・・?」」

『ていうか、オレ秋刀魚と茄子はどうでもいいし』

『かぼちゃは嫌いじゃないけどさ・・・』

 皆の理想、というより、的の理想だろ、と2人は思った。

 勿論、それを口にはしなかったが。

「こんな真夏に、秋の味覚が美味いとは思えねぇがな」

 先取りすぎだ、旬じゃねぇ、とゲンマは言い放つ。

「ま、今は何の食材でも一年中手に入るから、季節じゃなくっても、それなりに美味しいと思うけど、やっぱりその季節の方が一番美味しいモンでしょ?」

「え〜、気に入らない? この間ガマ仙人さんと食べたら、美味しかったよ? そりゃ、確かに季節に合ってた方がより美味しいだろうけど、私的に元気になる為のメニューなの!」

 こんな時だから、喜んでくれると思ったのに、と、ぷく、とは膨れた。

「あ〜、成程・・・」

 考えが足りなかったことを、カカシとゲンマは恥じた。

 なりに、気持ちを切り替えて頑張ろうとしているんだ、と。

「しっかし安いな。その辺の定食よりずっと安いじゃねぇか。採算取れてんのか?」

 値段を見て、ゲンマは呟いた。

「このお店は、趣味のようなものですからね。家庭的な雰囲気を味わいたい方や、ご近所の方が、気軽に立ち寄って頂いて、くつろいで頂くんですよ。商売とは思ってませんの」

 お茶とおしぼりを載せたお盆を持ってきた婦人が、説明した。

「へ〜。確かに、自分家でまったりしてる気分だね」

「でしょ? ガマ仙人さんってね、こういうトコ見つけるのが得意なんだよ。一杯美味しいお店や便利なお店教えてもらっちゃった」

「自来也さんには、昔から贔屓にして頂いてるんですよ。12年前に家屋が倒壊した時も、建て直すのに助けて頂いて、店を再開出来ました。この辺もあの頃と大分街並みは変わりましたが、この家は、昔と同じに建てて頂いたんです」

 お茶とおしぼりを置きながら、婦人は説明した。

「確かに古い作りだよね。懐かしい感じがするもん」

「お2人は、忍びの方ですね。大変な時に、こんな遠くまでご足労頂いて、有り難う御座います」

「あぁ、いや、この辺は被害が無くて良かったですね」

「お陰様で。でも、里は随分大変なようで・・・胸が痛みます。少しでもお力になれるように私どもも頑張りますので、皆様も怪我にはお気を付け下さいね」

「えぇ、はい」

「ご注文はお決まりですか?」

「秋の味覚先取り定食、3人前下さい! 2つはご飯大盛りでお願いしま〜すv あと、1つだけ、かぼちゃ一杯入れて下さいv」

 が高らかに告げた。

「はい、かしこまりました。少々お待ち下さいね」

 婦人が奥に引っ込んでいくと、調理の音が聞こえ始めた。

 自宅の台所の音を聞いているようで、心が和む。

にも自我が芽生えたんだな。あんなにハッキリ勧められるとは思わなかったぜ」

 優柔不断娘が、よく成長したな、とゲンマは柔らかく言う。

「私だっていつまでも子供じゃないモン! 立派な忍者になるんだから!」

「けっ、ついさっきまで、べそべそ泣いてたくせに」

「う・・・もう泣かないモン!」

 ぷく、と膨れてはおしぼりで手を拭いた。

「じゃ、もう大丈夫かな? 

カカシも手甲を外して手を拭き、口布を下げてお茶を含む。

 美味しいお茶だった。

「考えちゃうとやっぱり悲しくなるけど、やること一杯で、それで手一杯になっちゃった」

 ゲンマさんのお陰だよ、とも美味しそうに茶を啜った。

「へ〜、やっぱりゲンマ君ってそういうの得意だよね〜。オレもお兄ちゃんって呼んでいい?」

「やめて下さいって言ったじゃないですか。気持ち悪ィ」

 茶を啜りながら、ゲンマは眉をひそめた。

「え〜、いいじゃな〜い。オレがエルナちゃんと一緒になってたら、ゲンマ君はオレの義兄さんになってたんだよ? 今はがゲンマ君の妹でしょ? だからさ〜・・・」

「一緒になるつもりなんですか? と」

 古い話を持ち出しますね、とゲンマは息を吐く。

「えっ。あ、いや、そうか、いやでも、あの・・・」

 茶を啜りながらきょとんとカカシを見つめているを見て、カカシは慌てた。

はその気はないようですけどね」

「え、そうなの?」

 カカシは心がざわりとし、幾分がっかりする。

「ま、その辺はに後で訊いて下さいよ。の目標をご存じなら、答えは分かるでしょうけど」

「あぁ、立派な医療忍者になってオレと一緒に任務したいって・・・」

「何の話? 私のこと?」

 きょろきょろと、は交互に2人を見遣る。

「ま、告白もまだのようですから、その先を話すのは、捕らぬ狸の皮算用みたいなもんですけどね」

「う・・・それは・・・でも、はオレじゃないとダメだって・・・」

「それとこれは別だって事ですよ、にとって。のことを理解してれば、分かることでしょう?」

「ね〜ね〜、私を置いて私の話しないでよ〜。私も仲間に入れて〜!」

 成り行きが今イチ分からないは、ぷく、と膨れた。

「何でもねぇよ、オレ達だけの話だ」

「え〜? ね〜カカシせんせぇ、私に訊きたい事って何?」

「あ、いや、それはね、家に帰ってから、また今度で・・・」

 いきなりすぎて、カカシには今訊く勇気が出ない。

 上目遣いでカカシの顔を覗き込むにドギマギし、目を泳がせた。

「モタモタしてるんなら、オレが攫っていきますよ」

 頬杖をついてあさっての方を見ながら、ゲンマがぼそっと呟いた。

「ゲンマ君・・・っ! やっぱり妹には思ってないんじゃないかっ」

「そうは言ってませんよ?」

 目も合わせず、しれっと呟く。

「私も仲間に入れてよ〜〜〜〜〜っ!!!」

 何の話してるの〜、とはすっかりへそを曲げていた。

 口を尖らせ、じとっと2人を見据える。

「だから、男同士の話だよ」

「そ〜ゆ〜のは、2人だけでいる時にしてよ〜。私つまんな〜い!」

「じゃ、カカシ上忍は訊きにくいようだから、それは置いといて、オマエは訊きてぇ事はあるか?」

「何の話してたの?」

「それ以外でだ」

「意地悪ぅ〜。え〜とね・・・あ、そだ。カカシせんせぇ、緑色の人ってお友達なの?」

「緑色の人? 何、ソレ」

 アメーバか? とカカシはきょとんとする。

「ガイの事じゃないですか?」

「ガイ? ってゆうの?」

「あ〜・・・」

「本戦会場で、サクラちゃん達のトコに行った時、一緒にいたでしょ? お話もしてたみたいだし、今日も同じトコで作業してたでしょ? カカシせんせぇのお友達なの?」

「カカシ上忍、ガイのこと話してなかったんですか? に」

「どうだっけ・・・色々話してるつもりなんだけどなぁ・・・話してなかったっけ?」

「今まで聞いてきたお話の中に、当てはまる人はいないよ」

「あれ? そう?」

「薄情な人ですね・・・ガイが聞いたら怒りますよ」

 仮にも、ライバルなんでしょ、とゲンマは息を吐く。

「黙っといてちょ〜だい。あのね、本戦会場に来てたんだから分かると思うけど、一緒にいた松葉杖ついてたリー君とか、ナルトの対戦相手のネジとかの先生だよ。2年目の下忍を受け持ってるんだ」

「ガイせんせぇか・・・」

「ガイがどうかした? 

「ん〜? 何てゆうかなぁ、カッコイイよねっ」

 にぱ、とは笑う。

「ガ、ガイがカッコイイ・・・?」

 思わずカカシは仰け反り、ゲンマも頬杖をずり落とした。

「お話してみた〜いv」

「や、やめといた方がいいって・・・」

の好みって分からねぇな。はどういう男が好きなんだ?」

「え? カカシせんせぇv」

 間髪入れずに答えたので、カカシは嬉しくなって、頬の肉が弛んだ。

「個人を訊いてねぇよ。タイプを訊いてんだ」

 ゲンマは眉間を寄せる。

「ん〜・・・そうだな〜・・・優しくって〜、でも私がいけなかったら叱って注意してくれて、ぎゅってされたら心がほんわかしてくる人かな」

「・・・それゲンマ君に聞こえるんだけど・・・」

 何だかカカシは面白くない。

「え? カカシせんせぇもちゃんとゆってくれるでしょ?」

 ぴと、とカカシの腕に絡み付く。

「女はフィーリングで男を好きになるって言うからな。男には責任感があるから、それだけじゃ決め手にはならねぇし。簡単にはいかねぇよな」

 独り言のように、ゲンマは呟いた。

「ゲンマさんは、明るくって笑顔が似合う元気なコが好きだって言ってたんだよねっ。カカシせんせぇは?」

「え・・・オレもそうかな・・・」

「それって、私って当てはまる?」

 瞳をきらきらと、はカカシを見つめる。

「え、うん」

 すっかり慣れたつもりでも、に見つめられると、カカシはドキドキした。

 純粋な大きな黒玉に、吸い込まれそうになる。

「良かったv」

 にゃん、とはカカシに抱きついた。

 あほくさ、とゲンマは息を吐いて茶を啜っている。

「じゃあ、いつまでもめそめそしてちゃ、ダメだよね。頑張ろ〜」

 うん、とは満面の笑みで拳を握った。

「ゲンマさんと約束したんだもんね。私、強くなるよ、って。皆を守れるように、誰も死なないように、皆が笑って暮らせるように、強くなる、って。カカシせんせぇも、私のいけないトコは、どんどん言ってね。直すから」

 カカシせんせぇとも約束、とニッコリ微笑む。

「頼もしいね。分かった」

 そうこうしているうちに、食事が運ばれてきた。

「お待たせしました。秋の味覚先取り定食です」

 順に、目の前に並んでいく。

「わ〜い♪ 美味しそ〜v」

「ごゆっくりどうぞ」

「いっただきま〜すv」

 につられて、カカシとゲンマも食べ始めた。

「お」

「結構美味いですね。商売になってる」

 てんこ盛りのかぼちゃを頬張り、ゲンマは呟く。

「いい秋刀魚使ってるね。商売とは思ってないって言っても、仕入れはシッカリしてるんだ」

 美味しそうに食べていく2人を見て、は満足そうに微笑んだ。

「えへへ。良かった、気に入ってもらえて。3人で食べられる事ってあんまり無いから、今日は嬉しいなv」

 元気になれるよ、ともパクパク食べる。

 カカシもゲンマも、本音はと2人っきりの方が良かったが、が喜ぶなら、仕方ないか、と思うことにした。





「ふ〜、食った食った。美味かった。ゴチソウサマでした」

「穴場でしたね、ホント」

「でしょ〜?」

 食後のお茶を飲みながら、満足そうに腹をさする。

「さて、と。あんまりのんびりしてられねぇ。作業に戻らねぇとな。おかみ〜、勘定頼む!」

「あっ、ゲンマさん、私が払うよ!」

 私が連れてきたんだもん、と立ち上がって靴に足を通す。

「そうか?」

 ごちそうさま、と出てきた婦人に代金を払うと、婦人は、また来てくれたお礼、とお茶の葉のパックをに渡した。

「わ〜い、ココのお茶美味しいです、有り難う御座いますv」

「また来て下さいね」

「は〜いv」

 とてて、とは軽快に店を出て行く。

 閑散とした夜道を、羽でも生えたかのように歩いていった。

、オマエは今日はもう終わっていいぞ。キリがねぇからな」

 高楊枝で、ゲンマはの背中に言い放つ。

「え、いいの?」

 くるん、とゲンマを振り返った、

「あぁ。カカシ上忍、向こうにも上手く言っておきますから、連れてカカシ上忍も上がって下さい」

「え〜、でも、皆働いてるのに・・・」

 悪いよ、とカカシは呟く。

「もう大分遅いですし、皆次第に上がりますよ。の疲れを癒してやらないと」

「そっか・・・そうするよ。悪いね、ゲンマ君」

「いえ。じゃ、オレは此処で」

 そう言ってゲンマは飛び上がり、夜空を駆けていった。

「お家帰って良いの?」

「うん。疲れだろ、。お風呂入って、ゆっくり休もう」

「今日は一緒に入ろうねv」

きゅ、とはカカシにしがみつく。

『オレの理性保つかな・・・』

 仲睦まじく、2人は夜道を歩いて帰った。











「くの一の忍び装束って、時々、どうやって着てるの、ソレ、って思うのあるんだよね。のも、普通の服に見えるのに、どうやって着てるの?」

 この間脱がし方分からなかった、とカカシは脱衣所で、の脱いでいる様子を眺めてそう言った。

「え〜? 普通だよ〜。ゲンマさんは、ぱぱぱって脱がせられたよ。こうやって脱ぐんだよ」

 と、説明しながら脱いでいく。

「ゲ、ゲンマ君に脱がせられた?! なっ、何をやってっ?!」

 カカシはぎょっとして、脱ぐ手が止まった。

「え? 別に何もしてないよ。修行はしてたけど」

「な、何の修行・・・?」

 あらぬ想像をし、恐る恐る伺い立てる。

「忍者の修行以外に何かあるの? ゲンマさんは、面白い構造だな、って、脱がしてみたいって言ってお風呂入る時に脱がされたの」

 は、きょとんとしてカカシを見上げた。

「おふっ。まさか、お風呂も一緒に入ってたの?!」

 立て続けの衝撃発言に、カカシは頭が回らない。

「うん。あれ? ダメだった?」

 全て脱いだは、浴室に入っていった。

「あああ当たり前でしょ! 一緒に寝るのよりダメだよ! ゲンマ君に何もされてないんだろうね?!」

 声を上擦らせながら、カカシも付いていく。

「色々教えてくれたよ?」

 洗顔フォームを手に取り、は顔を丁寧に洗った。

「な、何を・・・?」

 カカシはドキドキしながら、湯を被った。

「術とか、基礎的なこととか、応用まで」

 顔を洗い終えたは、頭を洗うべく、長い髪に湯をかけていった。

「修行じゃなくって、それ以外で!」

 頭を洗おうと思いつつ、ボディソープを手に取ってしまったカカシは、慌てて手を洗って流した。

「ん〜? ホントに色々だからなぁ・・・何て言えばいいんだろ?」

 わしわしと髪を洗いながら、は考え込む。

「ベ、ベッドで色々教わったとか、言わないよね・・・?」

 シャンプーを手に取り、カカシも髪を洗う。

「ん〜? 教えてもらったよv」

 お湯で泡を洗い流しながら、は答える。

「ぶっ。なななな、何を・・・っ」

「だからぁ、色々だってばv 身体洗いっこしようねv」

 タオルで髪をまとめ上げたが、スポンジを泡立たせていた。

 自分の身体を擦って洗い終わると、スポンジをゆすいで、新たに泡立たせて、カカシの身体を擦り始めた。

 全身を洗おうとするので、カカシは慌てる。

「じっ、自分で洗えるから! それより、ベッドで何を教わったのか、そこんトコ詳しく・・・」

 がスポンジを渡さないので、くんずほずれつ、あられもない格好で絡み合った。

、ゲンマ君にもこうやって身体洗ってあげたの?」

「ガキじゃないから自分で出来るって言って、やらせてくれなかったよ。洗いっこしたかったのに、させてくれなかったの、つまんない。だからカカシせんせぇ、やらせてv」

「それならいいけど・・・って、っ、ちょっ、待ってって・・・っ!」

 ごしごしと、絡み合ったままはカカシを洗っていく。

「ココはね〜、カカシせんせぇよりゲンマさんの方がおっきかったよ。でも、今のカカシせんせぇみたいにはならなかったの。精神統一すればナントカカントカって言って」

 真っ赤になって心躍らされているカカシの中心部を、は丁寧に洗っていく。

 当然、益々大きく固くなっていった。

「も・・・っ、ダメだって・・・っ!」

 泡だらけの絡み合った状態に我慢が効かず、カカシはシャワーを捻って湯をかけて洗い流した。

 綺麗に流し終わると、不満そうに膨れているを抱き抱え、湯船に浸かった。

「コミュニケーションは大事でしょ〜、カカシせんせぇ」

「オレの神経が保たないよ」

 ぷく、と膨れてはカカシに身を預ける。

 次第にうとうとしてきていた。

、オレまだ訊きたいこといっぱいあるんだよ。寝ないでってば」

「ぅにゅ・・・のぼせる〜・・・」

 蒸気での顔も身体も真っ赤だ。

 折角イチャイチャしたかったのに、余計なこと訊きすぎてそれどころじゃなくなっちゃった、とカカシは慌てて湯船から上がり、浴室を出た。

 半分夢の中のの身体と髪を拭いてやり、寝間着をそれぞれ身につけると、ドライヤーでの髪を乾かした。

 蒸気で火照る身体は、すぐにまた汗をかいて湿ってくる。

 時間をかけての髪を乾かし、櫛で梳いてやり、自分の髪も手早く乾かすと、を抱き抱えて寝室に向かった。

 うとうとしているをベッドに寝かせると、カカシは台所に行き、水分補給を持って戻ってくる。

、暑いでしょ。コレ飲んで」

「ぅにゅ・・・」

 こくこく、と飲み干すと、再び眠りの淵に落ちていく。

〜、まだ訊きたいことあるんだよ〜。中途半端すぎて、オレ気になって眠れないじゃないか〜。ってばぁ〜」

 しかし、は気持ちよさそうに、す〜す〜と寝息を立て始めた。

 揺すってもさすっても、もはや起きそうにない

 には、家を出る前と同じ方法でチョーカーの宝玉にチャクラを注入してあるので、はいつでも外に出られるのと同じで、眠れるのだ。

「・・・ゲンマ君に教わった事って、忍びの心得とか、世間一般のこととかだよね・・・? 愛のレッスン、なんてのはしてないよね・・・? 信じていいよね? ・・・ゲンマ君・・・」

 隣に潜り込んだカカシにきゅっとしがみつくに、独り言のように呟く。

 次第に覆われてくる、のチャクラ。

 やはり、心地良い。

 明日も忙しいな、とカカシも次第に眠っていた。











 翌日も続く復旧作業に、はおとなしく、カカシとは別の場所でも文句は言わず、出掛けていった。

 作業はいくらやってもキリがないので、頃合いを見て、上がるようになった。

 喪中なので、里もまだ正常に機能していない。

 アカデミーも休校状態。

 生徒達は、作業手伝いに来る者、自宅付近を手伝う為に来ない者、それぞれだった。

「頑張ってるね、木の葉丸君。疲れたでしょ。あんまり無理しないでね」

 せっせと手伝っている木の葉丸に、は優しく声を掛ける。

 水筒の冷たいお茶を注ぎ、木の葉丸に差し出す。

姉ちゃんの方こそ、疲れてないかコレ? オレは男だから、いつまでも泣いていられないんだコレ。じじィに笑われるからなコレ」

 からお茶を受け取り、ニコッと笑って美味しそうにお茶を飲んだ。

「無理はダメだよ。張り切りすぎて倒れちゃったら、火影様も安心して冥土に旅立てないよ」

「じじィも心配性だからなコレ。いつまでもオレを子供扱いするんだコレ。もう一人前で大丈夫だってことを、見せてやるんだコレ!」

「え、どうやって?」

 何するの? とはきょとんとしながら、カップを受け取った。

「じじィの好きな花が、里のはずれの山の中に咲いているんだコレ。そこにしか無いんだコレ。明日、取りに行ってくるんだコレ。じじィの墓前に供えて、どうだ! って見せつけるんだコレ」

「へ〜っ。でも、里のはずれって危険じゃない?」

「だから、勇気を試されるんだコレ。何なら、姉ちゃんも来るかコレ?」

「行っていいの?」

「モエギやウドンも行くんだコレ。しょっちゅうはずれまで行って探検してるから、大丈夫だぞコレ」

「ん〜でも、やっぱり大人が付いてた方が良いよね。うん、行くよ。明日だね。またお弁当作っていこうか」

姉ちゃんの弁当は美味いんだなコレ。でも遊びで行くんじゃないぞコレ。任務だコレ」

「あはは。じゃ、任務頑張ろうね」











 幾分早く帰ってこれるようになったとカカシは、夕食後、風呂も済ませ、ベッドの上でまったりと過ごしていた。

 カカシは壁により掛かってイチャバイを、は寝そべってイチャパラを読んでいる。

 カカシは、ずっと気になっていたことを、まだに訊いていないことを思いだした。

「ねぇ、

「ん? ナ〜ニ?」

「オレが家を空けてた時にさ、、オレに会いに来た?」

「え? どうゆうこと?」

 くるん、とカカシを振り返る。

「いや、あの、、我慢出来なくてオレに会いに来たのかな〜って・・・」

「何で疑問形なの? カカシせんせぇ」

「あ、いや、あの、ね、オレの夢だったのかな〜って気もして・・・なら覚えてるかなって」

 カカシが目を泳がせるのを見て、はゲンマが言ってたことを思い出した。

 覚えてないんだ、とはがっかりする。

「行ってないよ〜。だって、いくら探しても見つけられなかったんだもん。言ったでしょ、カカシせんせぇ、結界忍術教えてよ〜」

「来てない・・・の?」

「? うん。だから、鳥さんに捜してもらっても、自分で捜しても分からなかったんだもん」

「そう・・・。その口寄せのことだけどさ、何でオレの忍犬としてくれなかったの。オレに言ってくれれば・・・」

「だって、カカシせんせぇいなかったんだもん」

「忍犬の方が便利だよ」

 カカシは面白くなかった。

「え〜? 鳥さんも便利だよ?」

「そうかも知れないけどさ・・・」

 カカシは、やはり夢だったのだ、と言うことと口寄せの件で、すっかり気を落とした。

 ゲンマの思惑だとは知らずに。

 気まずい空気が流れたので、カカシは読書に戻った。

 はそれを怪訝に思ったが、さして気にも留めず、また寝そべって読書に夢中になった。

 カカシは別の話題を探す。

「あ、そうだ。、リー君のこと診たことある? 症状」

 ガイがリー君を見舞いに行くって行ってたの思い出した、とカカシはを見遣った。

「リー君? って、本戦の会場で見た、松葉杖のコ?」

 首を捻って、再びカカシを見上げる。

「うん。この間も話したけど、ガイの部下のコで、ロック・リーって言うんだ。忍術や幻術は使えないんだけど、体術だけで忍びをやってるコでね。体術に関しては、ホントに天才的なんだけど、中忍試験の第3の試験の予選で、砂の我愛羅と戦った時に、酷い怪我を負ってね。医療班が言うには、もう忍びとしてはやっていけないだろうって話なんだ。が診たら、変わるかなぁ、って思ってるんだけど・・・」

「あ、もしかして、ガマ仙人さんが言ってたのも、そうなのかなぁ」

 はイチャパラを閉じ、カカシの方に寝返りを打った。

「え?」

「あのね、綱手姫ってゆう人が里に来たら、一緒に診てもらいたい患者がいる、って仰ってたの。ずっと病院には行ってなかったから、事情に疎いんだけど、ソレかな?」

「あぁ・・・多分、そうだろう。優秀な木の葉の医療部隊で治せない患者って言ったら、今はリー君以外に考えられないし。、病院に行ってないの?」

「あ・・・うん。ずっと研究成果出てなかったから、つい足が遠のいちゃってて」

 行ってれば良かったね、と申し訳なさそうな顔をする。

「サスケ診てって言った時、リー君のことも頼めば良かったな。うっかりしてた」

「本戦の時に遠目で見た限りでは、私だけの力で治せるかどうかは分からなかったよ。綱手姫って、里一番の医療スペシャリストって人でしょ? ヒヅキさんも前に言ってたし。その人にも診て頂いて、その上で一緒に治療を施せるかなぁ、って思うんだけど、一度ちゃんと、私だけでも診てくるよ。気になってたし」

「そうだね。頼む」

「じゃ、明日行ってくるよ。病院にいるんでしょ?」

「あぁ。もし無茶な特訓してたら、止めてやって。誰が何言っても聞かないらしいんだ」

「分かった〜」

の予知能力では、リー君の未来はどう映ってるの?」

「あぁ、その能力はね、使うと悲しくなるから、封印しちゃった。もう使いたくないから」

 はそう言って、切なそうな顔をする。

「そっか・・・その方が良いかもね」

 あふ、と欠伸をするを見て、カカシは慌てた。

「ってことで、まずはその話はひとまずオシマイね。そ〜ゆ〜話した後に不謹慎だけど、オレ達はイチャイチャを・・・」

 カカシはイチャバイを閉じて枕元に起き、胸を高鳴らせてに覆い被さった。

「明日に備えて寝ないとねっ。オヤスミ、カカシせんせぇv」

 きゅ、とカカシにしがみついたは、眠りに就いた。

「えっ、ちょっ、?!」

 既には寝息を立てている。

「そんなぁ〜〜〜っ」

 がっくりと項垂れ、カカシは深く息を吐いた。

「呑気に読書なんてしてないで、すぐに実行に移すんだったよ・・・しょうがない、明日早起きして・・・」

 愛らしいの寝顔にムラムラしつつ、キスを落とすと、カカシはを抱き締めた。









 翌早朝。

 目覚まし時計より早く目が覚めたカカシは、まだ眠りの淵にいるを見つめ、ちゅ、と口づけを落とすと、愛撫しながら、身体をまさぐり始めた。

「ん・・・ぅん・・・?」

 もう我慢は出来ない。

 愛しいを、思う存分、愛したい。

「カカシせんせぇ・・・? おはよ〜・・・」

 むにゅむにゅ、とは眠い目を擦る。

 今日こそは、と一つに。

、イイコトしよ? ね?」

 ネグリジェを脱がし、下着を剥ぎ取る。

 カカシも脱いだ。

 愛撫を繰り返し、を強く欲し、求め続けた。

「ん・・・はぁ・・・ぅん・・・」

 ちゃんとに告白しよう。

 愛していることを伝えよう。

 そう思っていたら。

「あ、今日は忙しいんだった。やること一杯なんだよね。身体が一つじゃ足りないよ。すぐ朝ご飯作るね」

 そう言って、覚醒したは抱き締められていたカカシの腕の中から抜け出し、素っ裸でぴょんとベッドを飛び降り、衣装ケースを漁った。

・・・っ! オレ、キミに言いたいことが・・・」

「帰ってからじゃダメ? 今日はね、木の葉丸君達と里のはずれまで行ってくるんだ。その後病院に行くでしょ、サクラちゃんにも話があるし、それから・・・とにかく、やること一杯なの。カカシせんせぇは今日はどうするの? 試合会場の作業は、もうあらかた終わってるんでしょ?」

 ぱぱぱ、とは衣服を身につけていく。

「え、オレは、サスケにちょっと用があって、会う予定だけど。慰霊碑に一緒に行って、話したいことがあるんだ。後、千鳥のコツをもう一度ちゃんと話して・・・」

「カカシせんせぇの私に言いたい事って何? 今すぐじゃ時間足りない?」

 バタバタと、は慌ただしく寝室を出て行くので、カカシは後を追い掛けた。

「いや、あの、言ってしまえばものの数秒のことなんだけど、じっくり時間をかけて、ちゃんとしたムードの中で言いたいんだ。だから、が今忙しいようなら、帰ってきてからでいいよ」

 は手際よく、テキパキと動いて調理を始める。

「ムード? ご飯食べながらじゃダメなこと?」

「う〜ん・・・出来れば、イチャイチャした後に言いたいんだ。だから・・・」

「イチャイチャ?」

「うん。イチャパラに書いてあるようなこと、一杯しよ? もすっごく気持ち良く、すっごく嬉しくなれるからさ。ね?」

「ホント〜? じゃ、楽しみにしてる〜v カカシせんせぇも気持ち良くなろうねv」

「勿論、一緒に気持ち良くなろ?」

 にぱ、と花のように微笑むを、背後からカカシは抱き締めた。

「カカシせんせぇ〜、ご飯作れないよ〜」

「あ、ゴメンゴメン。じゃ、今夜、約束だよ」

「うんv 約束v」

 今夜、2人は一つに。







 その約束が交わされないことを、今の2人は、まだ知らなかった。