【出会いはいつも偶然と必然】 第二十三章 「じゃ、行ってきます。、約束忘れちゃダメだよ」 玄関で、カカシは靴に足を通しながら言った。 「あぁ。サスケとちょっと話があるからね。話の流れ次第で、どうなるか分からないから、取り敢えずいいよ。は・・・木の葉丸と何処に行くんだっけ?」 「里のはずれだよ〜。火影様のお好きだった花がね、そこにしか咲いてないんだって。危険だよって言ったら、だから勇気を試されるんだ、って言うから、私も付いていくことにしたの」 「気を付けてよ? またこの前みたいに、変な輩が彷徨いてるかも知れないんだから。心配だなぁ」 「ダイジョブだってば。やっつけ方は、この間の戦争で覚えたから」 は寂しそうに、ふっと微笑んだ。 「そっか・・・。じゃ、行くよ」 「あ、ねぇねぇ、カカシせんせぇ、待って」 木の葉丸達とのお弁当を作りかけだったは、とてとてとカカシの元へやってきた。 「ん? どした?」 「行ってきますのチューv」 ん、とは目を閉じて口を突き出す。 「し、新婚さんみたいだね・・・っ」 自来也にろくでもないことばかりを教え込まされただったが、この時ばかりは、カカシは礼を言いたくなった。 そっと口布を下げ、の肩に手を置き、ちゅ、と触れる。 「いってらっしゃいv」 天使の微笑みで、はカカシを送り出す。 「う、うん・・・じゃね」 浮かれながら、カカシは出掛けていったのだった。 今日は記念日になるぞ、と。 伝書鳥を呼び出し、サスケを呼び出した。 「団子屋の前でいっか・・・」 サスケに話しておきたいことがある。 千鳥のことだけでなく、亡き親友のこと、その経緯。 サスケが部下になると知った時から、サスケの目標を聞いてから、ずっと迷っていた。 今までずっと言い淀んでいたが、サスケの闇が思っていた以上に深いことに気が付き、2人での修行の時に、決意した。 話そう、と。 には、大分前に話したことがある。 炎色の少女にも話したな、と思い出す。 何処から切り出そう。 考えあぐねながら、待ち合わせの場所に向かった。 「お待たせ〜♪」 が小さなバスケットを持ってアカデミーの前まで来ると、既に木の葉丸達が待っていた。 「おはよう、ちゃん。最近いつも忍者服よね。良い傾向よ」 「額当てしたら似合うよね〜」 モエギとウドンがを見て言い放った。 「準備はいいかコレ? オマエ達の装備を確認するぞ」 隊長気取りの木の葉丸は、場を仕切ってふんぞり返る。 「標準装備はしてるよ〜。救急セットも持ってきたし」 各々、装備を確認し合う。 「「「お〜〜っ!!」」」 忍者になったら、任務ってこんな感じかな、と思いを重ねながら、は木の葉丸達に付いていった。 は、幼い木の葉丸達を軽く振り切るだけの脚力は、既に持っていた。 故に、全速力よりは幾分遅く、スピードを緩めて、最後尾を駆けた。 『えへへ・・・何か楽しい。今度はカカシせんせぇと・・・なんて。わ〜、ドキドキするよ』 を待ち受けているものに気付かずに、は浮かれた。 大分走った。 郊外から、草原へ、演習場から、荒野へ。 そして、次第に木々が乱立してくる。 森の中までやってくると、徒歩に変わった。 「何か〜、うっそうとしてて不気味な感じね〜」 「何も出てこないよね〜熊とか〜」 「皆心配性だなコレ! 熊でも山賊でも出てきたら、オレがやっつけてやるから安心するんだなコレ」 「ダメだよ〜。危険だって思ったら、私の陰に隠れるんだよ? 皆」 ビクビクしながら、周囲を見渡す。 歩を進めていくとどんどん森が深くなっていき、鳥の囀りにさえ、ビクリとする。 がさがさ、と繁みが動くと、誰よりも真っ先にの後ろに隠れたのは、木の葉丸だった。 「ダイジョブ、リスだよ〜」 小さなリスの姿を確認すると、真っ赤になって、木の葉丸はずんずんと歩いていく。 「今どの辺りにいるの?」 木の葉丸は地図を広げ、現在位置を確認する。 「今、この辺だコレ。もう少しはずれまで行かないと、花は咲いていないんだコレ」 「木の葉丸君は来たことあるの?」 「じじィに連れられて去年来たんだコレ。珍しい花を見せてやろう、って。まだ1人で来るのは危険だから、大きくなったら1人で行ってみろって言われてたんだコレ」 「でも、やっぱりまだ1人は早いわよね〜。あたし達だけでも危なかったし、ちゃんがいてくれて良かったね」 「火影様の墓前にお供えするんでしょ? その前に小休憩しない? 喉乾いちゃった」 「大分陽も高くなってきたしね〜。でもこの辺は涼しくて気持ちいいよ〜」 「真夏ってこと忘れそうよね」 はそれぞれにカップを配り、冷たいお茶を水筒から注いだ。 「は〜っ。冷たくてうめ〜っ」 「生き返る感じ〜。走り詰めで来たもんね〜」 子供の体力では、此処まで来るのだけでも、相当疲れてきている筈だった。 は疲れてはいなかったが、なりの、木の葉丸達への配慮だった。 だが、木の葉丸が気を悪くしないように、あくまで自分が休みたい、と言うことにしたのだ。 「さ、もう行くぞコレ。目指す場所まであと一息だコレ」 すっくと立ち上がり、皆を先へ促す。 はカップを片付け、再び駆けだした木の葉丸達の後を付いていった。 もう大分はずれまで来ている。 「ねぇ・・・もうこの辺って、国境に近いんじゃない? 出たらまずくないかな」 今朝カカシに入れてもらったチョーカーのチャクラが、急速に漏れだしているのに気付いたからだ。 「抜け忍じゃないから大丈夫だコレ。この辺なんだけどなぁ・・・」 「どんな花なの?」 「オレ、押し花にしてしおりに貼ってあるぞコレ。こういうのだコレ。見つけたら合図して欲しいコレ」 ポーチの中から、木の葉丸は大事そうに本に挟んであるしおりを皆に見せた。 「へぇ〜っ。綺麗な色だね」 「変わった花〜。コレを見つければいいのね」 「頼んだぞコレ。でもオレが一番に見つけるんだコレ」 それぞれ散らばって、周囲をくまなく探し歩いた。 「無いなぁ・・・っていうか、花そのものが咲いてないし。夏の花だって言うから、咲いてる筈だよね・・・」 場所が違うのかなぁ、とは彷徨く。 その時、何かの気配を感じた。 「ん? 何だろ・・・。何かあるのかな?」 気配のした方向へ、歩を進めていく。 森が開け、草の生い茂る大地に、高く南中している陽光が細く射し込んでいる。 小鳥たちがダンスを踊るように飛び交い、囀っている。 ふと、は奇妙なデジャヴに襲われた。 「何だろ・・・? 私、此処を知ってるような気がする・・・」 微かに繋がり始めたデジャヴという名の記憶を頼りに、は彷徨う。 団子屋の前にてサスケを待っていたカカシは、アスマと紅が揃ってやってきたのを見つけた。 「よぅ! お2人さん。仲のよろしいことで・・・デートですか?」 店の中の奇妙な客に不審感を抱きつつ、飄々と言い放つ。 「バ〜カ。私はアンコに団子を頼まれたのよ」 頬を染める紅も、まんざらではないのかも知れない。 「オマエこそ、こんなトコで何やってる。確か、甘いモノ苦手じゃなかったか」 「イヤね・・・供え物を買いに来たついでに、此処で待ち合わせてんのよ。サスケとね」 「オマエが人を待つのは珍しいな・・・。供え物はオビトへか?」 アスマの問いにカカシは答えず、代わりに柔らかく微笑んだ。 「オビト?」 「サスケにも、言ってもいいかと、思ってね・・・」 「・・・そうか」 「何の話?」 「や、何でもねぇよ。それより、は一緒じゃねぇのか?」 「あぁ、何か、木の葉丸達と、里の外れに、火影様のお好きだった花を採りに行くんだとかって言ってたよ」 「ほぅ。里の方も大分落ち着いてきたんだし、もっとと一緒に過ごしゃいいのによ」 「ま、オレもそう思うんだけどね、なかなかってオレの思うようにならなくってさ。相変わらず、振り回されっぱなしだよ」 「情けねぇなぁ。尻に敷かれんなよ」 「アスマには言われたくないなぁ」 「どういう意味だよ」 安穏と話しつつも、アスマ達も店内への気配りは忘れない。 危険シグナルを感じる。 その時、サスケが意外そうな顔をしてやってきた。 それと同時に、店内の不穏人物は消えていた。 「珍しいな、カカシ。アンタが先にいるなんて」 「ま、たまにはな・・・」 サスケを迎えつつ、カカシはアスマらに目で合図する。 後を追って探るように、と。 頷き、2人はその場から消える。 「? オレは甘いモンと納豆はダメだぜ・・・」 サスケは眉を寄せ、吐き捨てる。 「あ、そうなの・・・。ま、いいや。団子は供え物で買うだけだからね。ついでに茶を飲みつつ団子でも頬張って、とかって思ったけど、まぁいいや。ちょっと、行こうか」 寄り掛かって読んでいたイチャバイを閉じてポーチにしまい、店を離れて先へと促した。 「何処に行くんだ」 怪訝そうに、サスケは付いていく。 「慰霊碑。お参りして、ちょっとサスケに話があってね・・・」 「? 話?」 「真面目なお話。さ、行こう」 「説教なら断るぜ」 「違うよ。オレのこと」 いいからおいで、とカカシは手招きした。 「う〜ん・・・無いわねぇ・・・ホントに此処なの〜? 木の葉丸く〜ん」 「花なんて全然咲いてないよ〜」 「沢山咲いてる訳じゃないから、見つけるのは難しいんだコレ。去年、じじィと来た時も、すぐには見つけられなかったんだコレ。苦労して探してやっと見つけるから、より一層価値があるんだって、じじィが言ってたんだコレ」 大声で叫び合いながら、木の葉丸達は探し回る。 一方のは、花探しのことは頭から消え、自分にまとわりつくデジャヴがなんなのか、夢遊病者のように彷徨い歩いた。 『私・・・前にも此処に来たことがある・・・?』 その時、右手首の腕輪が、光を帯びているのに気が付いた。 不思議な光を放つ、謎を解く鍵であろう、鉱石で出来た腕輪。 何かと共鳴しているようだった。 導かれるように、は歩いた。 「アレ・・・何だろ、あそこにあるの・・・」 視線の先に落ちている物。 辿り着いて、視線を落とす。 「アレ・・・? コレって、この腕輪と同じ鉱石・・・?」 石ころ大の鉱石が、光を放っていた。 まるで、を呼ぶように、鉱石同士が呼び合うように。 その時だった。 何かの合図がかかったように、途端にの身体が光で包まれていった。 「え・・・何・・・?!」 慰霊碑に向かってサスケを伴って歩いていたカカシは、例の話をどうやって切り出そうかと考えながらも、先程の店で見掛けた不審な連中が気になり、身体が危険シグナルを感じ取っていた。 「・・・悪い、サスケ。ちょっと気になることがあってね。先に慰霊碑に行っててくれる?」 「何だ? 何かあったのか?」 「オマエは気にしなくてい〜よ。オレの分もお祈りしてて」 「何なんだよ・・・呼び出しておいて、置いてくんじゃねぇよ」 吐き捨て、サスケは1人で慰霊碑に向かった。 「姉ちゃん、見つけたぞ〜! 向こうに沢山咲いてたぞコレ!」 何本か手折った花を握りしめ、木の葉丸はモエギとウドンを連れてを探した。 「ねぇ、何か向こう、光ってない?」 「姉ちゃんのチャクラを感じるコレ。何かあったのか? 行ってみるぞ」 子供心にも不穏なことを感じ取った木の葉丸達は、急いで光の元へと駆けていった。 「ちゃん!」 「姉ちゃん! どうしたコレ?!」 「こ・・・木の葉丸君・・・皆・・・来ちゃダメ・・・っ」 目映い光に包まれ、眩しさに木の葉丸達は思わず目を瞑る。 眩しさに慣れてきてゆっくりと目を開くと、の姿が、光の中にうっすらと確認できた。 「どうなってるんだコレ?!」 光は棒状になり、を縛り付けるようにグルグルと身体に巻き付いていく。 「く・・・っ、つ・・・」 もがいて身を捩っても、身動きが取れない。 「カカシせんせぇ・・・助けて・・・っ!」 「ちゃん!」 「姉ちゃん!!」 「あぁ〜〜・・・」 何も出来ずに傍観してる木の葉丸達は、の身体が空中に浮上しだしたのを目にした。 「や・・・」 の身体は光のロープに縛られたまま、どんどん浮上していく。 「きゃあ〜〜〜っ!!!」 の身体は光の中に掻き消え、悲鳴だけが木霊して残った。 辺りを探し回っても、何処にもの姿は見当たらない。 チャクラも感じない。 どうしようもない違和感を、感じるのみだ。 木の葉丸達は途方に暮れた。 ころりと落ちていた、不思議な光を放つ鉱石。 木の葉丸はそれを拾い上げて握りしめると、大人に知らせなければ、と思った。 その頃、カカシは不審な2人組、うちはイタチと干柿鬼鮫らと一戦やり合い、イタチにやられてしまい、意識不明の重傷に陥っていた。 の叫びも、恐らく聞こえていない。 医療班の元で簡単に治療を受けると、アスマと紅、ガイの3人は、カカシを自宅に連れ帰り、ベッドに寝かせた。 神妙な面持ちで、カカシを見遣る。 医療班では、カカシにかけられたイタチの術は解くことが出来なかった。 「何やら甘い匂いがするな、この部屋は。カカシは甘いモノ苦手じゃなかったか」 ガイが、およそ男の部屋らしくない匂いに不審に思い、呟く。 「あぁ、の匂いでしょ。って甘い匂いするから」 「? 誰だそれは。この間一緒にいた美しい女性のことか?」 「アレ? ガイってのこと知らなかったのか? カカシの恋人だよ。一緒に暮らしてる」 「ここ、恋人だと?! 一緒に暮らしてる?! けけ、結婚もしてないというのに、何と破廉恥な・・・!」 顔を高揚させ、ガイは叫ぶ。 「いずれするんなら、いいじゃない。それにしても、帰ってこないかしら。カカシの身の危険を察知して帰ってきても良さそうなものだけど・・・」 「木の葉丸達と里の外れに行ってるんだっけか? 何処のはずれか分からなきゃ、捜しようがねぇなぁ」 北か南か、東か西か、とアスマは呟く。 「愛しい者の看病をさせようと言うのか? しかし、今木の葉にいる医療忍者では、この術は解けないだろう。綱手様がいらっしゃって下されば、解いて頂けるのに・・・今は何処へおられることか・・・」 リーも診て頂けるのに、とガイは歯をきつく食いしばる。 「多分なら解けるわよ、きっと」 「何? その女性は、医療忍者なのか?」 「じゃないけど、聞いてない? ちょっと前に木の葉に来た、記憶喪失の異国人のこと。治癒能力を持っているのよ、大層強い、ね」 「知らんぞ。そんな者がいるなら、何故教えてくれなかった」 リーを診てもらえたのに、と抗議する。 「てっきり知ってると思ってたよ。ホラ、3代目の葬儀の時、祈祷をしたコがいるだろ? 結構大きなチャクラを持ってるんだ。だから知ってるものだとばかり・・・」 「それなら知ってる。豊穣祈願祭でも巫女役をやってただろう? 火影様の客人と思ってたぞ」 「忍びでとカカシのことを知らないヤツがいるとは思わなかったぜ」 末端は知らんヤツもいるだろうが、里にいる上忍で知らんとは思わなかった、とアスマは続ける。 「ガイ、熱血しすぎで周りが見えてなかったんじゃないの」 「実際診てもらわんと分からんがな」 その時、ドアが開いてゲンマがやってきた。 「カカシ上忍の具合はどうだ」 「怪我は治してもらったけど、イタチの術がね・・・まだ眠り続けてるわ」 カカシをここまで消耗させるなんて、相当よ、と紅は息を吐く。 「そうか・・・はどうした? いねぇのか?」 に診てもらえばいいだろう、とゲンマは室内を見渡す。 「木の葉丸達と、里の外れに行ってるらしい。カカシの危険を察知してる筈だから、帰ってくると思うんだがな」 「ゲンマ、オマエもとやらを知っているのか?」 「何だガイ、オマエ知らなかったのか」 「らしいわよ。おかしいわよね」 「カカシ上忍も、にガイのことを話してなかったらしいからな。はオマエと話をしてみたいと言ってたぜ、ガイ」 「そ、そうか?」 「ゲンマはね、カカシのに横恋慕してるのよ。結構噂になってるんだけどねぇ。と、カカシ・ゲンマの三角関係って」 ホントに気付いてなかった訳? と紅は呆れる。 「うるせぇ、紅。妙なこと抜かしてんじゃねぇ。は妹だっつってるだろうが」 ゲンマは眉を寄せ、吐き捨てる。 「そ〜ぉ? を見つめるアンタ、何処から見たって恋する男よ。自分で気付いてない訳?」 「妹として愛しく思ってるだけだっつの」 「ハイハイ、そういうことにしておきましょ」 サスケは、慰霊碑の前でカカシを待っていたが、一向に戻ってこなかった為、何があったのか、取り敢えずカカシの家に行ってみよう、と思った。 もしかしたらがいて、事情が分かるかも知れない、と。 カカシの家は知っている。 中忍試験の本戦の時、遅れて会場に向かう前、カカシの家で、身支度を調えたからだ。 との生活臭を感じるのはイヤだな、と思いながら行ったのだが、は家を長く空けていたようで、無人の空気だったことに、少しばかり安心したものだった。 サスケは、微かにに思いを寄せていた。 が、カカシがにベタ惚れで、悪い虫が付くのを避けさせていて、もまたカカシが大好きで、自分の入り込む余地など無いことに、いささか寂寥感を感じていた。 に会ったら、どんな顔をすればいいだろう。 深い闇の中に陥りそうな自分を、助けてはくれないか。 も、深い傷を抱えている。 そんな気がして、親近感を抱く。 『なら、きっとオレの気持ちを分かってくれる・・・』 復讐。 その二文字しか、サスケの頭にはなかった。 イタチの来訪を、サスケはまだ知らない。 カカシのアパートの前まで来て、階段を上がっていく。 2階の突き当たり。 ドアノブに手を掛けると、鍵は掛かっていなかった。 「でもいるのか・・・? それともカカシも戻ってるとか・・・」 そっとドアを開け、中に入る。 奥がカカシの部屋。 何やら話し声が聞こえる。 ナルトがどうの、里がどうの、と聞き取れる。 「カカシ・・・いるか?」 部屋のドアを開け、中を見渡す。 何だか大勢いて、カカシはベッドの中だった。 「・・・どうしてカカシが寝ている? それに上忍ばかりが集まって何してる・・・一体、何があった?」 「ん、イヤ別に何も無・・・」 サスケにだけは知られてはならない、とガイは言葉を濁す。 その時、血相を変えたアオバが、飛び込んできた。 「あのイタチが帰ってきたって話はホントか?! しかもナルトを追ってるって・・・っ」 目を見開いて固まっているサスケが目に付く。 「・・・あ!」 段々険しい表情になっていき、目が血走ってくる。 あちゃあ、とガイは頭に手をやった。 「馬鹿・・・」 全ての事情を理解し、時を置かずして、サスケは部屋を飛び出していった。 「何でこ〜なるのっ?!」 ガイもサスケの後を追って飛び出した。 「あ〜あ、どうするんだよ、サスケに知られちまって・・・」 「最悪の結果になる前に、ガイが止めてくれれば良いんだけど」 「カカシ上忍みたいな目には、遭わせられんからな」 ふぅ、と揃って息を吐く。 「アオバ、ご意見番に伝えておいてくれ。事の次第を」 「あ、あぁ・・・分かった」 状況整理をして、飲み込むと、アオバは出て行く。 「さて・・・と。それにしてもはどうしたんだ。何で戻ってこねぇ?」 「の脚力なら、もう戻ってきてもいい筈だよな。でもまさか、木の葉丸達を置いていけないから、遅くなってるのか?」 「でも、カカシの一大事に、がそこまで気が回る? どう考えたって変よ」 「オレ、捜しに行くわ」 「どうやって捜す気よ、ゲンマ。里のはずれっていったって、360度四方にあるのよ」 ゲンマは歯で指先を切り、血を滴らせて印を結んだ。 「口寄せの術!」 何羽もの鳥が現れる。 「コイツらを使う。四方に散れば、見つけられる筈だからな」 その時、複数の駆けてくる足音が外から聞こえてきた。 バンッ、と勢いよくドアが開く。 「たっ、大変だコレ!!」 「ちゃんが! ちゃんが・・・っ!!」 「木の葉丸?! オマエら・・・はどうした? 一緒じゃねぇのか?」 「大変なんだコレ!!」 息を切らして、木の葉丸達は口々に叫んだ。 「何言ってるか分からねぇよ。落ち着け。一体何があった? はどうしたんだ?」 「とにかく、大変なんだコレ!」 「ちゃんが、消えちゃったの!!」 「が消えた? どういう意味だ?」 詳しく話せ、とゲンマは屈んで、木の葉丸達の目線に合わせた。 「オレ達、姉ちゃんと一緒に、里のはずれまで行ってたんだコレ。じじィの好きな花を採ってきて、墓前に供えようと思って。皆で捜し回ってたら、はぐれた姉ちゃんが、光に包まれていて、光に縛られたみたいになって、空に浮かんで・・・パチンッて光が弾けたと思ったら、姉ちゃんの姿が無くなっていたんだコレ!!」 「何だよそれ・・・」 「あたし達、捜し回ったんだけど、何処にもちゃんいなくって、チャクラも感じないの!」 「何か〜、瞬間移動〜? みたいな感じで〜」 「どういうこった? 時空の歪みでもあったのか?」 アスマの言葉に、ゲンマは思い当たる節があった。 「まさか・・・。おい、木の葉丸。オマエ達が出掛けた里のはずれって、何処だ?」 「北東の方だコレ。あっち。そうだ、姉ちゃんが消えた後に、この石が転がっていたんだコレ」 そう言って木の葉丸は握りしめていた鉱石を差し出す。 「これは・・・の腕輪・・・?」 と同じ鉱石か、と光にかざす。 不思議な光を放っていた。 「北東って言うと・・・あの場所か」 ゲンマは立ち上がり、外を見遣る。 「何よ、ゲンマ。何か心当たりあるの?」 「・・・推測なんだが・・・。アスマ、紅。オマエらカカシ上忍の、10年前の思い出のことは知っているだろう?」 「あぁ。炎の色をした、にそっくりな女ってヤツな。それがどうかしたのか?」 「それと直接関係あるのかは分からんが、10年前のあの頃、戦争をしていただろう。カカシ上忍もオレも暗部で、一緒に任務を行っていた。お互い重傷を負っていて、オレはカカシ上忍を担いで、里に帰ろうとしていたんだ。国境近くを、方角も分からないような状態で彷徨い歩いて、力尽きて倒れ込んだ。気が付いた時には医療班が捜しに来ていて、オレは病院に搬送された。その時、そこにカカシ上忍はいなかったんだ。が、3日後くらいに、怪我がすっかり癒えた状態で、同じ場所に倒れ込んでいたのを、医療班が発見している」 「・・・そのカカシが消えていた3日間が、カカシの言う、1ヶ月くらいの間、炎色の少女と暮らしていた、って話に繋がるんだろう?」 「あぁ」 「・・・待って。私達にとっては3日くらいだったのに、カカシにとっては1ヶ月くらいだったんでしょう? その間、行方が分からなかったって・・・」 「時空の歪みに、カカシ上忍は迷い込んだんじゃねぇかとオレは思っている」 「時空の歪み?」 「北東のあの辺りは、昔からよく神隠しの噂があるだろう。オーパーツや見たこともない動植物が迷い込んだりとかな。オレが今考えているのは、カカシ上忍がその時その神隠しのように時空の歪みに迷い込んで、その後戻ってきた、と言うことだ。同じように、も迷い込んだか、人為的に連れ去られたか・・・」 「あの時、すっごく変な感じの違和感を感じたの。気持ち悪いような。それに、ちゃんは縛られてて、引っ張られるように消えたから、絶対人さらいよ!」 モエギが叫ぶ。 「自来也様が仰ってた話と被るわね」 「あの人が何を?」 「西の果ての島国の話よ。葬儀の前に、巫女に扮したを見ながら、ポツリと仰ったの。余り良い噂聞かないでしょ? 知能の高い人間や特殊能力を持つ者を攫っていって、研究に投資して、何やら悪巧みをしているらしいってね」 もその為に自分を封じて隠れてるんじゃないかって、と紅は続けた。 「それが真実なら・・・はそいつらに攫われたってことか?」 「かも知れんな」 「でも、何で居場所が分かったのかしら。は自分にバリアを張っていて、分かる筈がないのに」 考え込むと、一つの考えが浮かんだ。 「もしかして・・・この間の中忍試験の時の、砂と音との戦争の時じゃない? 火影様と大蛇丸が対峙してる時、、印の効力が切れて、此処に戻ったでしょ。その時、何とかして出ようとしたんだと思う。物凄く強大なのチャクラが、何度も何度も弾け続けたじゃない。遠く離れた試験会場にいてもひしひしと感じたでしょ。それがキャッチされたんじゃないかしら」 「成程・・・」 「とにかく、まずオレはその場所に行ってくる。何かの手掛かりがあるかも知れん。確証は何処にもないからな。紅は、ご意見番達上役にこのことをお伝えしてくれ。アスマは木の葉丸達を家に戻して、研究院にこのことを伝え、協力を仰ぐんだ」 「了解」 「危険な真似はしないでよ? ゲンマ。ただでさえ、今の木の葉は非常事態なんだから」 「分かってる。じゃ、散!」 ゲンマは鳥達を連れて部屋を飛び出し、紅は姿を消し、アスマは木の葉丸達を連れて外に出た。 「姉ちゃんのこと、絶対見つけてくれよ・・・!」 「あぁ。オマエらは心配すんな。家まで送り届けてやるから、そうしたら、誰にもこのことは言うなよ。そして1人で危険な行動はしないこと。いいな」 「は〜い」 ゲンマは北東のはずれまで来て、何か手掛かりはないか、探し回った。 「そう簡単には見つからねぇか・・・」 つい先日まで、自分の腕の中にあった温もり。 自分のモノではないと分かっていても、愛しく思う。 がカカシしか見ていなかろうと、には木の葉にいて欲しかった。 自分の目の届く場所にいて欲しかった。 それがどんなに辛かろうと。 「恐れていた事態が起こってしまったようだのォ」 森の中を彷徨くゲンマの元へ、自来也がやってきた。 「どうなんでしょう。やはりは、西の国に攫われたのでしょうか」 「確証は持てんのォ。だが、可能性は大きい。儂の手下の者が、以前、火の国の南の洋上に停泊していた、見慣れん船を確認しとる。この辺の技術では作れんような、大きい船だったそうだのォ。恐らく、虎視眈々と機会を狙っていたんだろう。ヤツらの技術は、儂らの頭では、到底理解出来んものだからのォ。困ったことになったな」 「後を追うことは出来ませんか」 「まず無理だのォ。この辺りの技術では、一番速い船を使っても、その国までは半年はかかる。だが、ヤツらはもっと短時間で戻れる筈だ。その証拠に、の気配をキャッチされただろう頃から、ものの数日と経っていない。どんな技術を持ってるやも知れん。追い掛けとる間に、は洗脳されかねんのォ。八方塞がりだのォ」 「そうですか・・・。でも、は確か、里外には出られない筈です。出られても、ものの数時間しか出てはいられない。ヤツらがどんな技術を使っているかは分かりませんが、が自分の危機に、その能力に目覚めるかどうにかすれば、脱出も可能ではないかと・・・」 「賭けだのォ。洗脳が先か、目覚めが先か。儂らは黙って指をくわえているしか出来んのかのォ」 伝説の三忍の名も、得体の知れないハイテク技術の前には、ただの赤子だのォ、と自来也は息を吐いた。 「を信じましょう。カカシ上忍と共にいたいという気持ちが強くあれば、負けない筈です。きっと戻ってきますよ、カカシ上忍の元にね」 「オマエさんとしては、複雑だの」 「そんなことありませんよ。が笑って里にいてくれるなら、オレはそれで構いません」 自嘲気味に、ゲンマは鉱石を握りしめた。 この鉱石はカカシの部屋に置いておこう。 多分、戻ってくる目印の筈だ、と。 「・・・」 色々な者達の思考が交差し、木の葉は更なる緊迫状態に陥った。 カカシが目覚めるのはいつの日か。 は戻ってくるのか。 「ま、儂はこれから早急に旅に出る。綱手の捜索にな」 「いいんですか? 里を空けて。確か、火の国との緊急会議で、アナタが5代目の火影に決まったのでは・・・」 「儂の柄ではないのォ。断らせてもらったのォ。綱手の方が向いとるだろう? だから捜しに行くんだのォ。ついでにナルトを連れて、修行を兼ねてのォ。ま、綱手のヤツに出会えたら、カカシを治してやるように、言っておこう」 「そうですか・・・頼みます。お気を付けて」 じゃ、ナルトを待たせてるから行く、と自来也は消えた。 「・・・頼むから、無事でいてくれよ・・・!」 幾人かの、悲痛な願いが鉱石に込められた。 は一体、何処に消えたのか・・・。 |