【出会いはいつも偶然と必然】 第二十六章 光の筋の先にいる、数人の存在。 清楚な祭礼服のようなものをまとい、雰囲気ある佇まいで、ゆっくりと近付いてくる。 初めてに会った時にが着ていた装束に似ている、とカカシは思った。 顔立ちも、に似ている。 カカシは嫌な予感がして、鼓動が早くなった。 「オマエ達は、何者だ。何の目的で此処にいる。名を名乗れ」 不安そうなを庇うように、カカシとゲンマが遮って立つ。 「我々は、此処より遙か東の果てにある、日出ずる処の国より参った。人々には、神の在す国と呼ばれている。我々は、その神にお仕えする従者である」 神の従者が、ゆっくりと言葉を紡いだ。 「その神の従者とやらが、木の葉に何の用だ」 名指しされたは、不安そうに、きゅ、とカカシの背後でしがみついた。 「どういうことだ」 「様、お捜し申し上げましたぞ。お戯れはそのくらいにして、どうか国へお戻り下され」 「つまり・・・何だ? オマエ達は、の素性を知っていると言うことか。の敵ではないんだな?」 を隠すように庇って立ち、ゲンマは尋ねる。 「敵だなどと、滅相もない。我々は、様のお付きの者である」 「何だと? まさか・・・」 「そちらにおわすは、我が日出ずる処の国のの聖地に降臨なされた、神の申し子である。人の姿を借りてはいるが、つまり、この世界の、神そのものである。そなた達が、気軽に触れあえるお方ではないのだ」 予想していたとはいえ、衝撃の事実に、カカシもゲンマも、綱手も、少なからず呆然とする。 が、神話に登場してくる、神だというのか? 振り返るカカシとゲンマはを見遣ると、は俯いてカカシにしがみついた。 「私は・・・木の葉の里で忍びとして生きていくの。ずっと此処にいるの。アナタ達なんか知らないです」 口をきつく結び、は言い切る。 「お戯れはもうおやめ下さい、様。貴女様は、個人的な我が儘が許されるお立場ではないのですよ」 もう1人の従者が、す、と前に出る。 「記憶を封じ、自身に障壁を張って存在を隠し、日沈む処の国から姿をくらませていたのは分かります。ですが、我が国には、貴女様が必要なのです。国の象徴たる様が不在では、国が滅亡しかねません。どうかお戻り下さいませ」 「イヤです! 私が必要だって言うなら、ずっと捜してたって言うんなら、どうしてもっと早く来れなかったんですか?! 私はもう、この里で生活の基盤が出来ているんです! 大切な人も大勢います! 此処を離れるなんて、考えられないです!」 はカカシにしがみついたまま、カカシの背後から叫んだ。 「様・・・貴女様のお力でお隠れになられましたら、我々では捜しようがないのですよ。それでも、限りを尽くして捜し続けておりました。日沈む処の国の連中に攫われたと気付いた時には、肝を冷やしました。今後二度と危険に見舞われない為にも、お戻りいただけないと、我々の面目が立ちません」 「ちょっと待ってくれ。話がうまく飲み込めない。分かるように説明してくれ」 カカシは背後にの温もりを感じながら、説明を請うた。 「日沈む処の国って言うのは、西の果ての島国の、ろくでもないことをしでかしている連中のことか?」 「左様。神話の時代より、神の申し子の能力を悪用しようとしている。常々脅威にさらされ続けながら、連中は我らの国には辿り着けない故、あの手この手を尽くして、攻め込もうとしているのだ。神の申し子が国を出れば、格好の餌食となりうる故、見つからないように、自身にバリアを張り巡らせられるのだ」 詳しい話はこうだった。 日出ずる処の国、通称神の在す国では、遙か神話の時代より、数百年に一度、天界より、人の姿を借りて、神の化身が降誕する。 神は森羅万象を司り、全ての理を司り、世界が正常に回るようにその力を駆使し、コントロールしている。 世界で戦争が起きれば、正常に戻す為に、大きなルーティンで、平和をもたらす人間を誕生させたり、力を宿らせたりしている。 起こる出来事全てに意味があり、それは全て、神の御心によるものである。 それを、天界の神に代わって、地上に降誕した神の申し子が神々の意を汲み、行う。 は、現代に存在する、その神の申し子なのだ。 日沈む処の国、つまり西の果ての島国は、それに相反する連中の組織によって成り立ち、神の申し子の能力を悪用せんとする為、虎視眈々と機会を伺い、その身を付け狙っている。 神の国へは、神に近い能力者と、特別な羅針盤がないと、外界とは行き来が出来ない。 外界とは隔離された、聖なる区域なのである。 「お分かりいただけたかな。そのお方が、世界にとっても、どれ程大切なお方なのか」 「大体は分かった。だが、再び訊こう。は、そのような身の上でありながら、何故記憶を封じ、身を隠してまで、国を出たのか」 しがみつくの手を握り、カカシは再度尋ねる。 「様、とお呼びしたまえ。一介の忍びごときが、軽々しく呼び捨てに出来るお方ではない」 「確かには神の申し子なのかも知れないだろう。それは分かった。が、神とはいえ、それでも、人であることに代わりはない。類い希な能力を持ってはいても、我らと同じ人間だ。人としてのの幸せを、オマエ達は考えないのか? 全てに頼り、すがり、責任を押し付けて。重責で逃げ出したくなっても、しょうがないだろう。違うか?」 ゲンマは淡々と、吐き捨てた。 「様は、我々とはお立場が違われるのだ。降誕した時から、常にそのように自覚頂くべく、お過ごし頂いている。様もそれは重々ご承知の筈。それなのにお戯れが過ぎ、度々姿をくらまされてしまう。神の国始まって以来、そのような申し子はついぞおられなかったというのに」 「様は国の民とも親しく混じり合い、崇められると言うより、身近な友として慕われて参られた。それがいけなかったのだ。人に憧れ、大切なお立場を忘れ、人として生きたがる。様はこの地球の、いや全ての宇宙の、神の代表だというのに」 「ふん、そんな重い立場、私だって逃げ出したくなるねぇ。このチンケな里の火影の立場すら、枷にも感じるというのに。が逃れたいと思うのも、もっともな話だよ」 後ろで聞いていた綱手が、つかつかと歩み出て、言い放った。 「綱手様・・・」 「は、この木の葉の里で、忍びになって、生涯を過ごすんだ。この世界の神だ何だと従う立場のアンタ達が、その様とやらに指図して良いと思っているのかい」 「指図ではない。お願い申し上げているのだ。様、どうかお戻り下さいませ。国の民が、様のお帰りをお待ちしております。神殿の麓の民に赤子が生まれました。様も、生まれたら名前を付けて差し上げると仰っていたではないですか」 「そ・・・そんなの知らない! 知らない! 私は木の葉の里のなの! 大切なこの人達の傍で忍びとして生きていくの! 神の国なんて知らない!」 はカカシにしっかりとしがみついて、声を振り絞った。 「いい加減分かりなよ。はね、大好きな男の傍で、普通の人間として過ごしたいと言ってるんだ。もう何百年か待てば、次の神の子とやらが降臨するんだろう? それまで待ちなよ」 「だって混乱してる筈だ。いくら自らで記憶を封じているか知らんが、普通の人間だと思っているのに、神だの責任だの世界だの言われても、はいそうですか、って納得出来るか。戻れ戻れと言う前に、何故記憶を封じて逃げたのか、その意味を考えろよ」 綱手、ゲンマが次々と従者を責め立てる。 「そうだ。以前の記憶を封じていて分からないに、何を分かれと言うんだ。今此処にいるは、神の申し子とやらではなく、一介の忍び候補生、普通の人間だ。そのような重いことを言われても、理解なんで出来よう筈がない」 カカシも続けた。 は怯えたような表情で、カカシの手をぎゅっと握った。 「それはない」 「何?」 「様。もう記憶はお戻りになられておられるのではないですか? ご自分が何者で、どういうお立場にあらせられるのか、もうお分かり頂いている筈です。そうですね?」 従者の言葉に、はビクリと身を硬直させた。 「何・・・だって?」 「ホ、ホントなの? 。記憶戻ってたの?」 は俯く。 「・・・うん。悪い人達に捕まってた所から脱出する時に力の限り放出させたら、少しだけど記憶が戻ったの。自分が誰で、どういう存在で、何故隠れていたのか、ちょっとだけ思い出した」 「本当か・・・?!」 ゲンマの問いに、こくりと頷く。 「此処に戻ってきて、この人達が、私を連れ戻しに此処に向かってたのも気付いてたの。少しずつ記憶が戻ってきていることも、カカシせんせぇにも言おうと思ったんだけど、・・・怖くて言えなかった。私が私じゃなくなる気がして・・・」 消え入りそうなか細い声で、はゆっくりと言葉を吐き出した。 「・・・だからあの時、何か言いたそうだったんだね。記憶が戻ってても・・・やっぱり忍びになりたい? 国には戻りたくない?」 「うん。私はもう此処で、新しい自我が出来上がったの。・・・昔から、ずっと普通の女のコとして生きたかった。好きな人と結ばれて、家庭を築いて、人間として暮らしたかったの。天上の神々に縛られた前の日々には、戻りたくないよ。忍びだって同じように縛られてるけど・・・私には、世界は重すぎる。私は、ささやかな方法で、自分なりに此処で平和を築いていきたい。やることが同じなら、カカシせんせぇやゲンマさんの傍で、皆と力を合わせてやっていきたいの」 「・・・」 「ねぇ、此処にいちゃダメ? 私はこの木の葉の里で、此処から世界の平和を守るよ。世界の滅亡とか、大きいことになりそうな時は、ちゃんと協力するから。私は大好きな人達の傍で過ごしたい。だから・・・お願い」 は従者に向かって、思いの丈を吐き出した。 「イヤ・・・イヤ! 木の葉から出て行くなんて、カカシせんせぇから離れるなんてイヤ! そんなの考えられない! カカシせんせぇの傍にいたいの・・・!」 は背後からカカシに抱きついて、叫んだ。 「カカシせんせぇが好きなの・・・此処にいたいの・・・!」 「・・・」 頬を伝う涙が、カカシの背中を濡らした。 「様、危険の芽を食い止める為には、貴女様は今までのように障壁を自身に張って存在を隠し続けなければなりません。そうしますと行動範囲は限られ、御自らのお力も制限されます。今のままですと、多少の力を持っただけの、普通の人間と何ら変わりがないのですぞ。行動範囲が限られる分、ご不便の方が多くなる筈です。どうかご理解頂いて、国にお戻り下さいますよう・・・」 「イヤ・・・イヤだよ・・・お願いだから・・・」 はボロボロと涙を流し、言葉をやっと吐き出す。 カカシは背中が、焼けるように熱く感じた。 の、悲痛なまでの叫び。 ひしひしと感じる。 「オマエ達は、このの心の慟哭を何も感じないというのか?! この悲痛な叫びが届かないのか?! 鬼か修羅か? オマエ達は・・・」 「それが様のお為になるとは思えぬ。自ら不幸になりたがることなど、理解不能だ」 「国には、様のお帰りを待つ人々が大勢います。生まれた赤子に名を付けるお約束、穫れた作物の味を見るお約束、他にも沢山あります。それを全て反故になさるのですか?」 「そ・・・それは・・・でも・・・」 は自らを取り巻く孤独感に、押しつぶされそうだった。 崇め奉られ、慕われてはいても、どうしようもなく感じる孤独感。 慕われ、混じり合っても、自分の素性は変わらない。 立場の違い。 自分を背負う者、家庭を背負う者、地域を背負う者、国を背負う者、色々いる。 が、自らに課せられたのは、全世界、宇宙。 唯一無二の存在。 何故自分なのか。 何故、普通の人間として生きられないのか。 神の子として育てられても、それだけがずっと疑問だった。 「どうして私なの・・・? 私は私しかいないの・・・?」 涙声で、は呟く。 「お戻り頂いて、記憶を全て戻されましたら、ご理解頂けます。国ではちゃんと、お分かり頂いていたではありませんか」 「そうだよ・・・分かってた。でも、もう今の私は、カカシせんせぇの居ない所でなんて生きていけない・・・! 世界の秩序なんて、守っていけないよ・・・!」 乾くことを知らない涙は、止めどなく流れ続けた。 「オレからも頼む・・・! どうかを、オレ達の元に譲ってくれ・・・! は此処で、オレ達の元で世界を守る。火の粉は全てオレが振り払う。を苦しませはしない。大切にすると誓う! だから・・・のことは諦めてくれ」 カカシは後ろ手にを抱き留め、言い放った。 「出来ません。我が国で世界の秩序を守る、それが様に課せられた運命です。この世に降臨なされた時から、定められているのです。神の子のいない神の国など、柱を失ってすぐにでも滅んでしまいます。そして世界にもその災厄は降りかかります。そうなってはもう遅いのです。どうかお考えをお改め頂きますよう・・・」 「でも・・・私はカカシせんせぇから離れたくない・・・好きなの・・・大好きなの・・・!」 「貴女様が愛すべきは、世界の国民、動植物、生きとし生けるもの、全てです。一個人を愛することは許されません。貴女様の愛は、全てに対し平等に注がれなければならないのです」 「そんなの・・・イヤだ・・・カカシせんせぇが好きなの・・・此処にいたいの・・・!」 「・・・」 は泣きながらしっかりとカカシに抱きついて離れない。 「弟君も、貴女様をご心配なさっておいでなのですよ。お帰りになって、ご無事の姿をお見せ下さいませ」 「え・・・?」 俯いていたは顔を上げ、驚いたように従者を見つめた。 「私に・・・弟がいるの・・・?」 「そうですよ。大層ご心配なさっておいでです。どうかお戻り下さいませ」 「私・・・ずっと独りだと思ってた・・・孤独で・・・寂しくて・・・。私に、弟が居たなんて・・・」 「御年10歳になられます、ご聡明なお方です。貴女様はご存じありませんでしたが、離れの神殿で、従者達がお育て頂いております」 「ちょっと待て、おかしくないか? は、何百年に一度降誕するって言う、神の子だろう? それなのに、弟なんて存在があるのは、おかしくないか?!」 「確かに・・・」 ゲンマとカカシが、疑問をぶつける。 「正確に申し上げると、弟君というか、同じ神の血筋を持つ者、である。我々としても、驚くべき出来事だった。10年前、突如として、降誕なされたのだから」 「このような事態、未だかつて無かったのだ。総力を持ってお調べした所、様と同じ血筋である、と判明した」 「と同じ力を持っているというのか? 世界の秩序とやらを守れるような」 「それなら、そいつに任せればいい。は、此方で預かろう」 弟という響きに複雑な思いを感じつつも、此処にいたいというの意を汲む綱手は、ハッキリと言い放った。 「弟君は、我々にない能力は持っておられるが、様と同等のお力はない。この世界に同じ力を持つ者は2人と存在しない。様が唯一無二の存在である証である」 「私に・・・弟が・・・」 目を見開くは、カカシにしがみついていた力を弛ませた。 「様も弟君にお会いになられたいでしょう。弟君も面会を望んでおいでです。様はお一人ではないのですよ。ですから、どうかお戻り下さいませ」 はカカシにしがみついていた腕を放し、カカシから離れ、呆然として考え込んだ。 暫しの時が経つ。 「・・・? どうし・・・」 振り返り、カカシはを伺うように覗き込む。 は俯いたままだ。 「? 此処に居るんでしょ? ね?」 カカシの言葉に、は顔を上げた。 涙はすっかり乾いている。 「?」 「私・・・帰るよ。国に」 「えぇっ?!」 「、いきなり何を言って・・・」 「本気かい、」 「うん。私、国に帰る。ずっと独りだと思ってたのに、孤独で寂しかったのに、弟が居るんだって言うんだもん。帰って会いたいよ」 はさばさばと、明るく言った。 嬉しそうに、ニッコリ微笑んでいる。 「でも・・・でも! 弟の顔見たら、木の葉に戻ってくるんでしょ? 、此処で忍びになって生涯を終えるって言ってたじゃないか」 カカシはの両肩を掴み、揺さぶる。 「・・・ううん。戻って来れないよ。国に帰ったら、全てを思い出すと思うから。自分の責任が、立場が、重要だってのは分かってるから。一旦戻ったら、もう戻れないよ」 寂しさを含んだ微笑みで、は呟く。 「そんな・・・」 「私・・・無責任はイヤだから。カカシせんせぇ・・・ゴメンネ?」 「・・・」 「ってことだから、帰ります。わざわざお迎え有り難う」 「ご承諾頂けたぞ・・・! 良かった・・・!」 はカカシの元から離れ、一歩前に出た。 「そうだ。リー君に謝らなきゃ。綱手様にも」 「え?」 「一緒に手術するって約束したのに、出来なくなってゴメンナサイ」 ペコ、とは頭を下げた。 「本当に帰る気かい、」 「はい。綱手様も、火影になる為に木の葉に戻られたんですから、私も同じように、国に帰ります。我が儘は言えないです」 「・・・」 「木の葉を守っていって下さいね。遠くから見守っていますから」 「あぁ・・・分かってるよ」 くる、とはゲンマに向き直る。 「ゲンマさん、私、ずっと独りだと思ってたから、ゲンマさんとの兄妹ごっこ、楽しかったよ。ホントに兄妹になれればいいのに、ってずっと思ってた。今でも私はゲンマさんの本当の妹のつもりでいるけど、私には本物の弟がいるって分かったから、お姉さんになるんだ。危なっかしい妹のこと、忘れないでね。私もゲンマさんのこと、絶対忘れない。大好きだよ」 ニコ、と天使の微笑みで言い放つ。 「・・・」 ゲンマは何も言えない。 何を言えようか。 そしてカカシの前に立つ。 「カカシせんせぇ・・・」 驚く程穏やかに、カカシを見つめる。 「・・・本気なの? オレの傍にいたいって、ずっと此処にいるって、言ったじゃないか。忍びになるって、約束しただろ? お願いだよ、オレの傍にいてくれ・・・を愛してるんだ・・・!」 「ゴメンナサイ、カカシせんせぇ。本音を言ったら、ずっと此処にいたいよ。カカシせんせぇから離れたくない。でも、少しずつ戻ってきてる記憶が、国の民の声が、どんどん流れ込んでくるんだ。戻らなきゃいけないって。だから・・・ゴメンナサイ」 ペコ、とは頭を下げる。 「・・・」 「カカシせんせぇは、私個人が、本当に好きになった、最初で最後の人だよ。ずっと大好き。忘れない。幸せになってね」 「無しの幸せなんて、考えられないよ・・・! が居てこそ、幸せを掴もうって思えるようになったんだから・・・」 は寂しそうに微笑み、カカシの手を取った。 「今まで有り難う・・・楽しかった。幸せだった。此処で味わった沢山の幸せを、皆にも分けてあげるの。カカシせんせぇにもお返しするの。ゲンマさんにも、里の皆にも」 は両手を空にかざし、光を放った。 温かく柔らかな光が、木の葉に降り注ぐ。 注がれた光という名のの心は、世界中を覆っていった。 事情を知らない里の民達は、不思議そうに空を見上げ、心地好い光に身を委ねていた。 「世界中の皆が、平和で楽しく、幸せに過ごせますように・・・」 胸元で手を組むと、は神々しい光に包まれる。 身につけていた衣服が分解されていき、気が付くとは、目映い光を放つ、祭礼服に身を包んでいた。 から発せられる光は、確かにを神だと感じさせた。 そこへ、階段を駆け上がってくる複数の足音。 「姉ちゃん、花採ってきたぞ! ・・・って、一体何だコレ?!」 「さん、見て下さい。綺麗な花ですよ・・・何か不思議な光を感じますが、一体・・・」 「ちゃん!」 「何〜?」 に見せる為に里の外れに花を採りに行っていた、木の葉丸とモエギ、ウドン、付き添いのイルカだった。 皆、事態が飲み込めず、呆然とする。 「木の葉丸君・・・」 がゆっくり言葉を発すると、皆ハッと我に返り、きょろきょろと周りを見渡した。 「一体何だコレ?! アイツらは何なんだコレ」 「木の葉丸君、モエギちゃん、ウドン君、そしてイルカ先生。私・・・国に帰ることになりました」 聖母の微笑みで、ゆっくりと言葉を紡ぐ。 「えぇっ?!」 「何ですって?!」 「何でぇ?!」 「どうして〜?」 「私・・・記憶が戻ったんです。あの人達は、私を迎えに来たの。国に帰っても、皆のこと忘れないから。一杯遊んでくれて有り難う。色んなこと教えてくれて有り難う」 「な、何言ってるんだコレ?! 姉ちゃんは、木の葉で忍びになるんだろ?! オレが火影になるの見届けるって約束したじゃないか!」 「一体どういうことなんです。迎えの人って一体・・・」 そこでの従者達は、イルカと木の葉丸達に、の素性を話した。 もそれに、自分の決意を付け加える。 衝撃の事実に、皆驚いて開いた口が塞がらない。 はゆっくりと、木の葉丸の元へ歩み寄り、腰を屈めた。 木の葉丸が握りしめている花に触れ、口を開く。 「この花は・・・私のいた国にのみ咲いていた花だね・・・里の外れのあの辺りには、時空の歪みがあるんだ。そこを伝って、花の種が此処に迷い込んで、根を張ったんだね」 「そうなのか・・・?」 泣きそうな顔で、木の葉丸はを見上げる。 「この花はね、薬草として重宝されているの。苦いけど、とてもよく効くんだ。綱手様、リー君にこの花で薬を作って、飲ませてあげて下さい。治療の手助けになります」 「・・・分かった」 「姉ちゃん、本当に行っちゃうのか?!」 「ちゃん、何で?!」 「誰にでも、やるべきことがあるの。木の葉丸君達にも、あるでしょ? 同じことだよ。それをする為に帰るの」 ゆっくり歩いて、カカシの元に戻る。 名残を惜しむように、カカシを見つめた。 カカシもを見つめる。 「・・・」 歩み寄ってくる従者達に、は向き直って歩いていった。 そして、くるんと振り返る。 「では、参りましょう。様、その腕輪に念じて下さい」 「・・・うん・・・」 右手首の腕輪を顔面まで上げて念じたは、途中で行為を止め、駆けだした。 「様?!」 「カカシせんせぇ・・・っ!!」 「・・・っ!!」 はカカシの胸に飛び込む。 カカシは戻ってきてくれたを抱き締めようとした。 「帰る前に、カカシせんせぇに渡したいものがあるの」 「え? 帰る?」 は、首に手をやる。 そして、ついぞ外すことの出来なかったチョーカーを、首から外して見せた。 「な・・・」 そして、カカシの首に嵌める。 中央の宝玉が瞬く。 「私のお守り・・・カカシせんせぇを守ってくれるように、お祈りしたから。私だと思って、大切にしてね」 ニッコリと微笑み、首から提げていたカカシマスコットをかざした。 カカシの手を取ると、マスコットはカカシのチャクラを吸収していった。 「私にはコレがあるから。カカシせんせぇだと思って、大切にする。カカシせんせぇも、私のマスコットも可愛がってあげてね。後、カカシせんせぇのお人形のカ〜君も。私だと思って、大切にしてあげてね」 「・・・本当に帰るのか・・・? 戻ってきてはくれないのか・・・?」 絶望感に捕らわれ、カカシは懇願する。 「私は、私のやるべきことをするよ。カカシせんせぇも、任務で死んじゃイヤだよ」 ニッコリ微笑んで、きゅ、と首に抱きつく。 「・・・」 抱き締めようとしたその時、は何事か、カカシの耳元に囁いた。 そして離れ、再びニッコリと微笑む。 「え・・・? 、今何て言っ・・・」 はそれには答えず、従者達の元に戻っていった。 「・・・待っ・・・!」 「バイバイ、カカシせんせぇ、ゲンマさん、皆。元気でね。今まで本当に有り難う」 は微笑みながら手を振り、腕輪に念じた。 不思議な光が達を包み込む。 「・・・!」 一瞬発光したかと思うと、光は弾け、その姿は空中に掻き消えた。 後には何も残らない。 いつもその身に感じていたのチャクラも消えた。 「・・・〜〜〜〜〜〜〜っ!!!」 カカシの絶叫が、里に木霊した。 |