【南瓜の煮物をアナタと一緒に】(4)







 ゲンマはシャワーを浴びながら、激しく狼狽えていた。

「参った・・・オレとしたことが、寝惚けてあんなことしちまうなんて・・・アイツに会わせる顔がねぇ・・・どんな顔して会えばいいんだよ・・・」

 頬を染めて、冷水に打たれる。

 すっかり目も覚めた。

 水を被りながら、掌を見つめる。

 まだその身に残る、の感触。

 柔らかくて、すべすべしていて、とても気持ち良かった。

「チェリーボーイじゃあるまいし、何照れてんだ、オレ・・・」

 水を浴びているのに、思い出すと、身体が火照ってくる。

 自己主張している下腹部に目を落とし、目を泳がせる。

「・・・に気付かれて・・・いねぇといいんだけど・・・は〜・・・どうしよ・・・」

 カッコ悪すぎる、とゲンマは落ち込む。

 暫く悶々としていたが、そうしていた所で状況が変わる訳でもないので、腹を括り、シャワーを湯に切り替え、頭と身体を洗うことにした。









 一方、寝室のベッドの上でまだ余韻に浸っている

 思い出すと、またドキドキしてくる。

 ゲンマが寝惚けての行為とはいえ、ちょっぴり進展出来たことが嬉しくもあり、恥ずかしくもあった。

「でも本番は・・・こんなもんじゃないよね・・・もっと恥ずかしいよね・・・心臓が壊れちゃいそうだよ」

 真っ赤になって、顔を手で覆う。

 熱でもあるんじゃないかと思う程、火照って暑かった。

 身体に残る、ゲンマの求愛の感触。

 大人の男の激しい求愛に、怖くもあったが、自分をこんなにも欲してくれているんだ、と、幸せな気分になった。

 まだ勇気が出ないけど、早く応えられるようになりたい。

 ずっと願っていたこと。

 愛する男、ゲンマと結ばれること。

 未知の世界ではあるけれど、天にも昇る気分とは、どんなだろう、と、“その日”を夢見た。





 大分陽射しが射し込んできた。

 時が過ぎて、気持ち的には大分落ち着いてきた。

 冷静になってきて、ゲンマがなかなか上がってこないことに気付いた。

「おかしいな。ゲンマさんって早風呂なのに。どうしたんだろ」

 色々と思考が巡った。

 そして思い出してまた真っ赤になる。

 ゲンマの求愛を受けていた時に、脚に当たっていた、その固い感触。

「あ・・・あれって・・・そう、だよね・・・っ」

 知識として分かってはいても、まだ現物は見たこと無いし、自分の身体に当たっていた感触がそうだと思うと、生々しい気分になり、照れた。

「確か・・・男の人って、我慢しすぎると良くないっていうよね・・・ゲンマさん・・・もしかして、お風呂場で・・・っ」

 言い掛けて、口にするのに照れて、真っ赤になって更に火照ってきた。

「ど、どうしよ・・・私もお風呂に行って、抱いて下さい・・・なんてっ、言えないよ〜〜〜ッ!!!」

 全て脱ぎ捨てて、浴室に行こうか。

 頭の片隅でそう考えても、まだ裸を自ら見せる勇気が出なくて、尻込みした。

「でっ、でも、今、チャンスなんだよね・・・〜〜〜っ、でもなぁ・・・っ」

 私って意気地無し、と枕元に置いてあった千本を手に取る。

 ホントに刃物だ、としげしげ見つめる。

 指を当てて横に引くと、切れそうだった。

 そっとくわえてみたら、口の中がゴロゴロして、違和感を感じた。

「ゲンマさんって、何でずっとコレくわえていられるんだろ? くわえたまま喋るし・・・顎の筋力が強いのかな?」

 口から引き抜いてポケットのハンカチで拭いて、元の場所に置いた。

 すぐ傍に、髪ゴムが置いてある。

 今更気が付いた。

 ポニーテールを解いて下ろしていることに。

「ゲンマさんが解いてくれたのかな・・・や〜ん、よく考えたら髪ボサボサ! 段付いてるよね・・・恥ずかし〜〜〜っ」

 髪を手櫛で撫でつけ、整えようとした。

 その時、ガラガラというゲンマが上がった音がした。

 ドキンと鼓動が跳ね上がる。

 どんな顔をして会えばいいだろう。

 気まずい気がして、どんどん鼓動が逸っていった。









 浴室を出て、ゲンマは深く息を吐いた。

 濡れた身体のまま、深呼吸して、印を結ぶ。

 冷静を取り戻して、バスタオルで身体を拭いた。

「今まで通り、普通に振る舞うんだ・・・何事もなかったように、いつもの調子で・・・」

 忍服を身に付け、髪を乾かすと、ゲンマは冷静を装って、寝室に向かった。

 ドアを開けると、がビクンと動揺したのが分かった。

 ゲンマは冷静を努める。

「悪ィ、遅くなった。っつっても、まだ6時前か。、時間あるし、シャワー浴びてこいよ。その間に飯作るからよ」

 冷静を装っての元までやってきて、置いてある千本をくわえ、手を差し伸べる。

「い、いいです。ウチに帰ってからで」

 意識しているつもりはないのに、つい目がゲンマの下腹部にいった。

「そっか、着替えねぇからな。オマエの服とか、今度から着替えも用意しとこう。顔洗ってこい」

 やり取りも、何処かぎこちなかったが、互いに何もなかったように振る舞うように努めていた。

「着替・・・っ」

 それってつまり。

 は嬉しさとドキドキが混ざって、雲の上を歩く気分だった。

「嫌でなければ、オマエん家にもオレの下着置いててくれるか?」

「いっ、嫌だなんてとんでもない!」

「じゃ、今度、互いの家に置いておくモン買いに行こう。じゃ、飯作るぜ」

「あ、ハイ」

 ゲンマが台所に向かうのを見送ると、は洗面所に向かった。

 まだドキドキしている。

 でも、気まずい空気も、何とかなりそうだ。

 鏡を見ながら、ゲンマのブラシで髪を梳かして纏め、結んだ。

 顔を洗い、タオルを手に、鏡を見つめる。

「お互いの家に置いておくって・・・」

 いわゆる、半同棲状態。

 色々思考が巡り、暫くは洗面所に突っ立っていた。

「おい。どうした? 二日酔いか? 飯食ったら薬飲んどけ。飯出来たぜ」

 余りにもが遅いので、ゲンマが覗きに来た。

「あっ、ハイ!」

 慌てて、ほぼ乾いてきていた顔を拭いた。

「昨夜、気持ち悪くなって吐いただろ? 頭痛とか胸焼けとかねぇか?」

「え・・・」

 そう言えば、とは気付いた。

「ったぁ〜〜〜っ!!!」

 起き抜けから余りにも衝撃的な出来事だったので、感じる暇もなかった。

 我に返ると、頭が痛み出し、むかむかしてくる。

 頭を抑え、しゃがみ込んだ。

「って、遅ぇよ! さっぱりしたモン作ったから、何か胃に入れて薬飲め。今日も仕事だろ? しんどいようだったら、午前中くらい休めよ」

 ゲンマもしゃがみ、の両肩を掴んで、覗き込んだ。

「そんな、二日酔いで休んだり出来ないです。大丈夫です」

 ゆっくりと立ち上がり、微笑んだ。

「そうか? 無理はするなよ」

「自業自得なんで、以後気を付けます。って、私、昨日吐いたんですか?」

 うわぁ、また迷惑掛けちゃった、とは狼狽える。

「ありゃアンコが悪い。加減を覚えようとしてるってのに、逆に吐くまで呑ませやがって。今日は仕事終わったらゆっくり休めよ」

 気にしてねぇから、飯食おう、と肩を抱いてダイニングへ促す。

 食卓は、胃に優しそうな、凭れないさっぱりしたものばかりだった。

 こういうささやかなゲンマの気遣いが、嬉しい。

「食えそうか? 無理だったら、スープだけでも胃に入れろよ」

「有り難う御座います。ゲンマさんって、何でも作れるんですね」

 スープに口を付け、感心した。

「ま、色んな状況に置かれても凌ぐ術は身に付けているからな。当たり前のことさ」

 スープが優しく身体に染み渡っていって、ゲンマの優しさに似ていた。

「次の休みはいつだ?」

「明後日です。あの・・・ゲンマさん、ホントに着替えとか・・・置いていいんですか?」

 頬を染めながら、は尋ねた。

「ん? あぁ。まぁ、な、オレとしては、そういう中途半端は、あんま好きじゃねぇんだけど、まだ早ぇしな」

「え? 早いって?」

 ゲンマは一瞬黙って、を見つめた。

 は鼓動が跳ね、ゲンマから視線が外せなかった。

「・・・オレが自分で自分が大人になれたと思ったら、言うよ。今はまだ、早い」

 ゲンマの瞳が、真っ直ぐを射抜く。

 は意味を理解して、舞い上がりそうになった。

 半同棲状態という中途半端が嫌いで、でもそれ以上はまだ早い、と言うことは。

 ゲンマは、ちゃんと先のことを考えてくれている。

 嬉しくて、幸せ一杯だった。





 洗い物を済ませると、ゲンマは忍服を整えた。

「送ってく。まだ時間あるから、シャワー浴びる時間くれぇあるだろ」

 薬を飲んでいるを見遣って、ゲンマは言い放った。

「え、でも、ゲンマさんにはまだ早いんじゃ・・・」

「そのまま、朝修行に行くから気にすんな」

 靴を履いて、外に出る。

 鍵を掛けるゲンマを見ると、その鍵に、自分の贈った合い鍵がくっついている。

 それだけのことが、たまらなく嬉しい。

 ゲンマはを抱き抱え、ふとと目が合った。

 思い出される、朝の出来事。

 互いに意識してしまって、照れて目を逸らす。

 ぎこちない空気に、ゲンマは咳払いを一つして、行くぞ、しっかり掴まってろ、と言い、跳び上がった。

 飛び跳ねる振動の度に、一緒に鼓動も跳ねた。

 は慣れたつもりでも、ゲンマの腕の中はいつもドキドキして、幸せに浸った。

 のアパートまで来て、降り立つ。

「じゃ、ホントにしんどかったら休めよ? オマエは働き過ぎだから、たまにはサボったっていいんだぜ」

「大丈夫ですよ。若いですから」

「そうか」

 ゲンマに背を向けて鍵を開けていると、ゲンマが肩を掴んできて、振り向かせられた。

「え?」

 ふぃっ、とゲンマはの唇をかすめ取る。

 は真っ赤になって、動揺した。

「じゃ、行ってきます」

 ゲンマも頬を染めているのが分かった。

 瞬真の術で消えたゲンマの影を追うように、暫く突っ立っていた。



















 まだ朝靄の煙る中、ゲンマは演習場近くの林にて、朝修行をしていた。

 煩悩を振り払うように、汗を掻く。

 忍びモードになると、自然と集中出来た。

 一通りの修行を済ませると、ふぅ、と一つ息を吐いた。

「さて、戻るか・・・」

 散らばったクナイや手裏剣、千本を拾い集め、ホルスターとポーチにしまう。

「しかし・・・と一緒にいると、何で熟睡しちまうんだろうな? アイツの醸し出す空気は確かに心地良いが、つい気を許して寝ちまって・・・」

 ふと、空を舞う鳥が目に入る。

 飛び続ける鳥にも、途中で枝に留まって羽を休めることも必要だ。

「鳥が忍びであるオレで、が枝か・・・」

 ゲンマにとって、はそういう存在だった。











 執務に入り、ゲンマは書類整理をしながら、物思いに耽っていた。

 ペンを走らせる手も止まり、焦点も定まらず、宙を見つめている。

 グラウンドを走るアカデミー生の声や教師の号令、風の音などが聞こえてくる度にハッと我に返って手を動かすのだが、すぐにまた戻っていた。

「な〜に惚けてんの。とイイコトした訳?」

 アンコが机に手を突いて、呆れたようにゲンマを見下ろしていた。

「んだよ、アンコ。黙って入ってくんな」

「ちゃ〜んとノックしたわよ? 何度も。入るわよ〜って言ったら、あぁ、って相槌返したでしょ。それも覚えてない訳?」

「ちょっと考えことしてただけだ」

 千本を上下させて、椅子を軋ませる。

との熱〜い夜でも思い出してたの? 昨夜ヤッた? ね、ね」

 ニヤニヤと、面白そうにアンコは身を乗り出す。

「何もしてねぇよ」

 冷静を努め、しれっと答えた。

「うっそぉ。涎垂らして間抜けな顔してさ〜。余韻に浸ってたんじゃないのぉ?」

「なっ」

 ゲンマは慌てて口を拭った。

「うっそよ。涎なんか垂らしてなかったわよ」

 ゲンマの慌て振りを見て、益々アンコは面白がった。

「なぁにぃ? 思い当たるようなこと考えてた訳? ね、ね、だから昨夜はあの後どうしたの? イイコト出来た?」

「ったく、あのな。アイツに加減覚えさせようとしてんのに、吐くまで呑ませるなよな。帰る道すがら、気持ち悪くなって、オレん家の方が近かったから、すぐ戻って吐かせて、寝かせたよ。オマエのせいでアイツは二日酔い酷いし、相談相手にさせるのも問題だぜ」

「や〜だ、ゴメンネ〜? でも、アンタん家に泊まらせたってことは、一緒に寝たんでしょ? 艶めかしいを前にして、イタズラしなかったの?」

「変な言い方すんな。酔っぱらって寝てる女を襲う趣味はねぇよ」

 ドキリとしつつも、アンコに悟られないように、淡々と吐き捨てる。

「えぇ〜〜〜っ。好きな女が気を許して目の前で寝てて、何もしない訳? だって、アンタと、って待ってるのに、カワイソ〜」

「あのな。は男を知らねぇんだ。初めてが記憶にないって訳にゃいかねぇだろうが」

「それもそうだけど〜。あ〜、だから、悶々溜め込んで、上の空なんだ? 酔っぱらったって色っぽいもんね〜。一つベッドで何も出来なくて、でもは艶めかしくて、煩悩と格闘してたって訳だ」

「煩ぇな。余計なお世話だ。大体オマエ、何の用で来たんだ」

 任務か? とゲンマは眉をひそめ、千本を上下させた。

「べっつに〜。昨日の恋の相談に乗った身としては、どうなったのかな〜ってね」

「余計なお世話だっつってるだろうが。用がそれだけなら、サッサと出てけ」

「ハ〜イ。に、恋のお悩み相談いつでも受けるって言っといて〜」

 掌をひらひらと、アンコは笑いながら出て行った。

「ったく・・・」

 アンコにからかわれる運命は、逃れられないようだった。

 椅子をくるりと回転させ、窓の外を見上げる。

・・・仕事行けたかな・・・ゆっくり休んだ方がいいし、今日は会いに行くのやめとくかな・・・」

 低空を小鳥が舞っていて、降下してきて窓の桟に止まり、コツンと嘴で窓をつついた。

 ゲンマは机に向かい直して書類を片付け、立ち上がった。















「ふぅ・・・やっぱりちょっとしんどいな・・・」

 昼下がりの午後、は接客に追われながらも、客が途切れた時に一息つくと、胃のむかむかが収まらなくて、奥に引っ込んで水を飲んだ。

「今日の夕飯、どうしようかな。ゲンマさんが作ってくれるのかな・・・」

 店の奥から空を見上げると、見慣れた橙色の小鳥がやってきて、レジの前に留まった。

「オボロさん!」

「具合はどうだ?」

「ん〜、ちょっとしんどいけど、大丈夫です」

「ゲンマからの伝言だ。今日は仕事が終わったら、家に帰ってゆっくり休め。何でもいいから、消化の良いさっぱりしたモノを胃に入れて、薬飲んで横になっていろ」

「え・・・ゲンマさん、来ないって事?」

「たまには1人でゆっくりしてもいいだろ?」

「ん〜、でも・・・」

 会えないのは寂しい。

「と言っても、ゲンマはさっき任務に出た。だから、今日は帰ってこない。良い機会だから、ゆっくり休むといい」

「何だ、任務か。じゃ、しょうがないよね。ありがと、オボロさん」

 言い終わると、オボロは飛び立った。





















 翌日も、ゲンマは帰ってこなかった。

 その翌日も、帰ってきたという知らせはない。

 は、独りぼっちの休日を迎え、何をしようか、とベッドに寄り掛かって考えた。

「ホントなら・・・ゲンマさんとお買い物に行く予定だったんだよね・・・」

 この際1人ででもいいから買いに行こうか、と思う。

「ん〜、家にいてもつまんないし、お買い物行こうっと」

 は身支度を調えると、外に出た。







 商店街を歩きながら、思案する。

「どうしよっかな・・・私のは、別にウチにあるのから選んで1,2着持ってくればいいよねぇ。でも下着は新しいの買った方がいいか・・・で、でも、ゲンマさん家のタンスの引き出しに、ゲンマさんのと一緒に置いておくってのはちょっと・・・。大きめの布バッグ買って、お泊まりセット、みたいにしとけばいいかな。よし、下着と歯ブラシ買おう」

 洗面所に、コップに2つ並ぶ、歯ブラシ。

 ゲンマのと、自分のモノ。

 それを想像したら、ドキドキしてきた。

「あ、そうだ。泊まるんだから、パジャマもいるよね」

 雑貨屋で歯ブラシを2本と布バッグを買って、衣料品店に向かった。

 店の前まで来て、立ち往生する。

「う・・・困った・・・ゲンマさんって、どんな下着付けてるんだろ? 他に何がいるのかな・・・」

 考え込んでいたら、ポン、と肩が叩かれた。

「やっ」

 顔を上げると、ニッコリ微笑んでいるカカシがいた。

「はたけさん!」

「1人ってことは、ゲンマ君、まだ任務から帰ってきてないんだ? 買い物中?」

 は恥ずかしさを堪えて、カカシに相談しよう、と思った。

「あの、変なこと訊きますけど・・・男の人って、どういう下着・・・使ってるんですか? 忍びの人とか・・・」

 真っ赤になりながら、ゴニョゴニョ尋ねる。

「下着? オレ? じゃないよね。ゲンマ君のヤツ買うって事かな」

「あ、は、はい・・・」

 照れているを見て、カカシはピンと来た。

「そっか、お互いの家に泊まりっこするのに、必要な物買ってるんでしょ? 進展してるんだね。良かったじゃない」

「え・・・まぁ・・・」

「この店でいっかな。オレが選んであげる」

 入ろう、とカカシは先を促した。

「オレもそうだけど、多分ゲンマ君も、ボクサーパンツだと思うよ。・・・この辺かな」

 2枚くらいでいい? とカカシは商品を取ってに見せる。

「あ、有り難う御座います」

「下着だけでいいの?」

「あ、後パジャマ・・・」

「了解。スタンダードなヤツでいいでしょ? オレと体格同じくらいだから、この辺でいいと思うけど。好きなデザイン選んで」

 ゲンマのサイズのパジャマ何点か見せて、選ばせた。

「これが似合いそう・・・これにします」

「他はいいの?」

「歯ブラシは買ったんで・・・他に何か必要なモノありますか?」

「そうだな、バンテージがいるかな。ホルスター付ける為にコレ、腿に巻くのと、脚絆用の、足首に巻くヤツね。それくらいでいいんじゃないかな」

 取り敢えずそれ買っておいでよ、店案内するから、とカカシはの背中を押した。

 は女性下着コーナーに行って、自分用の下着セットを手に取り、可愛いタイプのパジャマを選び、レジに向かった。

 会計を済ませて外に出ると、カカシは先を促す。

「服はいいの?」

「あ、家にあるヤツでいいと思って」

「それもそっか」

 カカシに言われたバンテージを買い、後何か必要なものあるかなぁ、と考え込んだ。







 カカシは茶店を指して、と入った。

「結局、歯ブラシと下着とパジャマしか買ってないの?」

 お茶を啜りながら、の買い物荷物を見遣る。

「ハイ。入り浸りになる訳じゃないですから・・・」

 素泊まりする程度で充分です、とは答えた。

「でも、どうなるか分からないじゃない」

「ゲンマさんは、ホントはこういう中途半端は嫌だって言ってましたから、そうはなりませんよ」

 お団子を頬張って、ムグムグさせながら呟く。

「半同棲みたいなのは嫌って事か。きっちりしてるゲンマ君らしいね。そういう話題が出るってことは、プロポーズとか臭わせてる訳?」

 カカシの問い掛けに、はお団子を食べる手を止め、頬を染めた。

「あの・・・自分で自分が大人になれたら言う、今はまだ早い、って言ってました。それって、そう・・・ですよね?」

 真っ赤になって、湯飲みを両手で覆う。

「ま、当然ゲンマ君は、ちゃんとは結婚するつもりで付き合ってるんだろうからね。ちゃんもそうでしょ?」

「え・・・そりゃ・・・そうなれたらいいなぁ、とは思ってますけど・・・実感湧かなくて・・・」

「まだ若いモンねぇ。ピンと来ないか。でも、ちゃん幸せそうで良かったよ。上手くいってるんだね」

「は・・・」

「あ〜〜〜っ、また浮気してる〜〜〜ッ!!」

 通りから、耳に馴染んだ女性の叫び声。

「ま〜たアンコ・・・ど〜してこうオマエはいつもこう間の悪いトコに必ずいるの」

 カカシはげんなりして、茶を飲み干してお代わりを注文した。

「間の悪いって何さ。口説いてた訳?」

「違うって」

 熱い湯飲みを引き寄せ、息を吐く。

 アンコは隣に座って、またも大量の団子を注文した。

「アンコさん、この間は色んなお話が出来て良かったです。二日酔いとかなりませんでした?」

「あ〜、アタシね、弱いけど、二日酔いはそうならないのよ。ゲンマに聞いたけど、アンタ気持ち悪くなって吐いたんだって? 呑ませ過ぎちゃってゴメンネ?」

「いえ、楽しくって、つい調子に乗っちゃった私が悪いんです。気にしないで下さい。アンコさんのせいじゃないです」

「そぉ? あ、ねぇねぇ、ゲンマにいくら訊いても白状しないんだけど、あの日はどうなった訳? ホントに吐いてすぐ寝て、何もなかったの?」

「ア〜ンコ、無粋だって。やめとけよ」

「えと・・・記憶無いんですけど、すぐ寝ちゃったのは確からしくて・・・朝目が覚めたら、ゲンマさんと一緒にベッドで寝てました」

 真っ赤になりながら、ゴニョゴニョ呟く。

「ゲンマ、何もしなかったの? まっさかねぇ、好きな女胸に抱いてて、何もしない訳無いよねぇ」

「アンコ、やめろって」

「え〜と、胸に抱いてたのは私で・・・」

「はぁ?」

「あの、目が覚めたら、ゲンマさんが私の胸のトコに顔を埋めて眠ってて、ぎゅって抱き締められてて・・・ゲンマさんの寝顔って、すっごく可愛いんです。何か、子供みたいで・・・」

「じゃ〜なにぃ、男の夢、ぱふぱふしながら寝てたの〜? うまいことやってるわねぇ。堅物気取っといて、其処に本性現れてるわね!」

「ま、そりゃ、好きな女のコを抱き締めて寝てたら、自然と気持ち良くなろうとするでしょ〜よ。ちゃん、胸おっきいし」

「やめろとか言って、アンタも見るトコ見てんじゃないの。で、それで? 目が覚めても何もナシ? 何かあった?」

 アンコは目を輝かせて、身を乗り出す。

 は思い出して真っ赤になり、俯いた。

「その・・・ゲンマさん、寝惚けてて・・・」

 途中までで照れて、ボンッと真っ赤になって更に俯いた。

「・・・・・・」

 アンコとカカシは目を合わせる。

「寝惚けて抱こうとしたんだ?」

 アンコの言葉に、はピクリと反応する。

 恥ずかしそうに、こくんと頷く。

「も、もう、心臓壊れちゃいそうなくらいドキドキして・・・ゲンマさん、目を覚ましたら凄い狼狽えて、ギクシャクしちゃって・・・」

「最後までやらなかったの?」

「む、無理です・・・っ。恥ずかしいし、怖いし・・・」

「なぁ〜んだ。愛し合う男女が抱き合って、その先に進展しないのはおかしいわよ。何で途中までなの? 最後までやればいいのに」

「ゲンマ君は、なし崩しなのが嫌なんだと思うよ。寝惚けた勢いで流されてやっちゃうより、ちゃんのことホントに大事にしてるから、初めてを大切にしてるんだと思うよ」

「ゲンマもそう言ってたけどさぁ。そりゃ確かに、分からなくもないけど、好きな男となら、いつどんな風だって、素敵なモノでしょうよ。違う? 

「はい・・・私、ずっと、ゲンマさんと、って思ってて・・・だから、どんなだって構わないんですけど、イザとなったら、やっぱり怖くて、恥ずかしくて・・・いいよって言えなくて・・・」

「甘いわね!」

 山盛りの団子を食べ終わったアンコは、お茶を飲み干すと、ドン、と湯飲みを置いた。

「そりゃそれだけ団子食えば甘いでしょうが」

 見てて胸焼けしてくる、とカカシは呆れている。

「違うわよ。のこと言ってんの。呑んだ時も言ったでしょ? 忍びはいつどうなるか分からないって。今その時を大切にしなきゃって。恥ずかしがってばかりじゃ、前へ進めないわよ? 、散々ゲンマにみっともないトコ見せちゃったって言ってたじゃない。それでもゲンマはアンタを愛してるんでしょ? 全てをさらけ出すくらい、後一歩じゃないさ。散々みっともないトコ見せたんなら、ゲンマの前で脚広げるくらい、訳ないでしょ」

「脚広・・・っ」

 は真っ赤になって、声を詰まらせた。

「女のコは、初めては怖いんだよ。オレ達男は攻め手だけど、女のコは、受けるだけじゃない。女のコの立場になったら、って考えると、やっぱり怖いと思うモン。アンコだって、そういう時期があっただろ?」

「別にどうって事無かったわよ」

「・・・流石大蛇丸に見込まれてただけあるよな・・・」

 カカシは聞こえない程度に、ぼそりと呟いた。

「だ〜いじょうぶよ、。ゲンマは手ほどき上手いから。怖くないように、痛くないように、優しくしてくれるって」

「え・・・っ」

「まぁ、私はゲンマとは経験無いけど、他のくの一に聞いたら、ゲンマは、そりゃあもう優しくって、普段からは想像も付かないほど優しくて、怖いことなんか全然無かったらしいわよ」

「えっ・・・」

 アンコの言葉に、は焦燥感が胸を走った。

「アンコ!」

「私達忍びにはね、色事の訓練ってのがあるのよ。男には、女の色香に騙されないように、女を覚えさせて、イザという時に動揺して任務を失敗しないようにするのと、相手の女を口説いて、ベッドの上で情報を訊き出したりとかで、くの一は、女を武器にして相手の男を陥れる方法を学んだり、同じくベッドの中で情報を訊き出す為にね。ある程度の年齢になったら、下忍中忍上忍関係なく、全員訓練を受けるのよ。まぁ、そういう任務が多いのは私達特別上忍が一番だけど、諜報部隊が特にね。ゲンマは諜報部隊の隊長だから、そういうことには長けてるのよ」

「アンコ! やめろって!」

 は、心の奥がザワザワしてきていた。

「だから、ゲンマは上手いわよ? そういう心理に詳しいし、初めて諜報任務に行くくの一に、上手く手ほどきしてあげたりしてね。怖がって怯えているくの一に諭したり、優しく抱いてあげたりね。だからも、怖がらなくていいのよ? 愛する大切な女を粗末に扱う訳無いでしょ? ゲンマのテクで・・・」

「アンコ! いい加減にしろ!」

 喋り続けるアンコを、カカシが遮った。

「何よ、アンタだってこの間一緒に言ってたでしょ? ゲンマはいつも千本くわえてるしそれを武器に拭いて飛ばすから、顎の筋力が相当強いんだって。だから、さぞかし舌技だって、凄そうだよねって、言ってたじゃないさ。だからさ、、最初は怖いって思っても、ゲンマの優しさに触れてるうちにトロ〜ンって夢の世界に行っちゃって、あっという間に最後まで行・・・」

「アンコ! やめろって言ってるだろ! いい加減にしろ!」

 は呆然として、虚ろに宙を見つめている。

 聞こえてるのかどうかも分からなかった。

「何よ、カカシ。私はを安心させようと・・・」

「逆に不安にさせてるだろ! 忍びの世界の裏事情まで話す必要ないだろ。考え無し!」

「私・・・帰ります・・・もう・・・夕飯の・・・時間だし・・・」

 焦点の定まらないは、フラフラと立ち上がり、引き摺るように店を出て行った。

「この馬鹿!」

「え、もしかして私、地雷踏んだ?」

「踏みまくりだ! 風に当たって頭冷やせ!」

 カカシはレジで会計を済ませると、を追い掛けて店を出た。

 だが、の姿は見えなくなっていた。























 任務を終えて報告書を提出したゲンマは、薄い夕暮れの中、商店街を歩いていた。

 の働く八百屋に来て、気付く。

 いつも聞こえる威勢の良い掛け声が聞こえない。

「あぁ、そうか・・・今日は休みだったな・・・」

 適当に食材を買って、アパートに向かった。

 鍵を開けて室内に入ると、中は薄暗かった。

 食材を置いて、電気をつける。

が居る訳ねぇか・・・任務で家空けてたんだもんな。今日帰るって知らせしてねぇし・・・」

 家で待っててくれって知らせを出せば良かったと思いつつ、寝室のドアを開けた。

 タンスの前に、見慣れない布バッグがある。

 不思議に思い、中を覗いた。

 女物の服何点かと、パジャマ、紙袋だった。

「あぁ、のヤツ、置いとくヤツ買ってきたのか・・・」

 バッグの底から歯ブラシが出てきたので、包装を破り、洗面所に行ってコップに差した。

「何か嬉しくなってくるな、こういうの」

 ゲンマはご機嫌で、ちょんちょん、と2本の歯ブラシをつついた。

「本当なら、今日はこういうモン買いに行こうって言ってたんだっけな・・・なら自分のしか買わねぇってことはねぇだろうし、オレのも買ってるかな・・・でもどういうのがいいかなんて分からねぇよな・・・」

 どうしただろうな、と、それなら様子を見に行けばいい、とゲンマはのアパートに向かうことにした。















「アレ? 暗い・・・出掛けてんのか?」

 の部屋は電気が点いていなかった。

 ゲンマは合い鍵で開けて中に入り、伺う。

、いねぇのか?」

 狭いワンルーム、部屋にはいない。

 浴室もトイレも開いている。

 ふと、ベッドの脇に、自分の家で見たのと同じ布バッグがあるのが目に入った。

「もしかして・・・オレのか?」

 中を覗くと、やはり、男物のパジャマと下着、バンテージ、歯ブラシが入っていた。

「よくサイズ分かったな・・・下着まで・・・ちゃんとバンテージまであるし。分かるモンなのか?」

 深く考えず、歯ブラシの包装を破って、洗面所のコップに差してきた。

「さて、何処に行ったんだ? 飯の用意はしてねぇし、買い物の途中か? 商店街にはいなかったよなぁ。それとも、カカシかアンコとでも何処かで食ってるのか?」

 この時のゲンマは、まだの今の胸中を知らない。

 数日ぶりに帰ってきて、愛しい恋人の顔を見たいと思うばかりだ。





 暫く待った。

 すっかり暗くなり、電気も付けずにいたことに気が付き、座っていたベッドから立ち上がり、外に出た。

 雨がぽつりぽつりと降ってきて、一気に土砂降りになった。

「チィ・・・」

 唇を噛み切り、手に血を付ける。

「口寄せの術!」

 オボロを呼び出し、を捜すように頼んだ。

 雨の中、オボロは飛んでいく。

 自分はどうしようか、とドアの前で考えていると、階段を上ってくる足音がして、ふと顔を向けたら、カカシだった。

「あ、ゲンマ君。帰ってたんだ」

 降られちゃったよ、とカカシは駆け寄ってくる。

「カカシ上忍。どうしたんですか?」

「あ〜いやね、ちゃんを捜してるんだけど・・・家にいないよね?」

「えぇ。真っ暗です。何かあったんですか? あ、オレのモン見立てたの、もしかしてアナタですか?」

「あ、うん。って、それどころじゃないんだよ。ちゃんがいないんだ。パックンにでも捜してもらうから、何かちゃんの匂いのするモノ、持ってきてくれる?」

 って言っても、この雨じゃダメか、と息を吐く。

がいないって、何があったんですか。オレも今、鳥に捜させてるんですけど」

「うん・・・言いにくいんだけど、実は・・・」

 カカシは、事の次第をゲンマに話した。

「な・・・」

「アンコってば、ちゃんを励ましてるつもりだったみたいなんだけど、ちょっと無神経って言うか・・・それで大分、不安になってると思うんだよ。早く見つけて、安心させること言ってあげたいんだけど・・・」

 その時、オボロが戻ってきて、手摺りに留まった。

「オボロ、は見つけたのか」

「火影岩の上の丘にいる。濡れそぼって大樹の下にいるが、声を掛けにくい雰囲気だったから、そのまま戻ってきた」

 ゲンマはすぐに駆け出そうとした。

「待って! まだゲンマ君は会わない方がいいよ。オレが言い聞かせてくるから、待っててよ」

「オレが行かなきゃダメなんですよ」

「でも・・・っ」

「遅かれ早かれ、分かることだったんです。アイツと付き合うことになって、こういう事くらい想定してました。他の誰でもない、オレがアイツに言わないとダメなんです」

「ゲンマ君・・・」

「お気遣い有り難う御座います。アンコに会ったら、別に怒っちゃいねぇって言っといて下さい」

 じゃ、とゲンマは土砂降りの中、の元へ駆けた。

















 どれくらいこうしていただろう。

 雨が降ってきたのも気が付かずに、呆然と木の葉全景を眺めていた。

 この雨が、心の奥に渦巻いている不安も焦燥も流してくれたらいいのに。

 涙は出なかった。

 ただただ、心が空洞だった。

!」

 目の前に降って湧いた人物も、目に映らない。

「おい・・・!」

 ゲンマはの両肩を掴み、揺さぶった。

「ゲン・・・マさ・・・ん・・・」

 虚ろな目で、はゲンマを見上げた。

「こんな雨の中、傘も差さずに突っ立っていやがって! こんなに濡れそぼって、いくらもうすぐ夏とはいえ、風邪を引くぞ!」

 は虚ろな目のまま、目を伏せる。

「帰ろう。な? 早く戻って、風呂入って温まって・・・」

「ううん・・もうちょっと・・・此処にいる・・・」

「風邪引くぞ! 戻ろう、な?」

「・・・平気だよ・・・私・・・分かってたもん・・・ゲンマさんは忍びだし・・・私とは違う世界があるんだって・・・分かってるつもりなんだけど・・・」

、そのことだけどな・・・」

「分かってるの・・・だから・・・此処で木の葉を見渡して・・・ゲンマさんのお仕事を・・・理解しようと・・・理解・・・しよ・・・うと・・・」

 途切れ途切れに呟くを、ゲンマは抱き締めた。

 そして唇を塞ぐ。

 息が止まりそうな程、長いディープキス。

 そしてゆっくり離すと、ゲンマは何も言わず、を抱き抱えてアパートに向かった。









 のアパートまで戻ってきて、抱えたまま中に入った。

 ゲンマはを下ろすとバスタオルを取り出して身体を包み込み、浴室に湯を張りに向かった。

 溜まるのを待つ間、ゲンマは何も言わずにを拭いていた。

 も何も言わなかった。

「そろそろいいか・・・?」

 ゲンマは浴室に湯加減を見に行って、を促した。

「ゆっくり温まってこい。その間に飯作っておくから」

「・・・って」

「ん?」

「・・・一緒に・・・入って・・・」

「え、いや、でも・・・」

「ゲンマさんも・・・ずぶ濡れだよ・・・風邪引いちゃう・・・」

「オレは大丈夫だよ。だから・・・」

 はゲンマに抱きついて、動こうとしなかった。





 びしょ濡れの服を脱ぎ捨て、洗濯機に放り込む。

 全て脱ぎ捨て、湯船に浸かる。

 湯の熱さが、神経を刺激した。

 ゲンマと、見つめ合い、はゲンマの首に絡み付く。

 ゲンマはを優しく抱き締める。

 そして再び見つめ合う。

 どちらからともなく、唇を重ね合わせた。

 濃厚に求め合い、啄んだ。

 真綿を抱くように、ゲンマは優しくを包み込んだ。

 長い口づけの後、ゆっくり離れ、見つめ合う。

 他に言葉はなかった。

 要らなかった。











 風呂から上がると、ゲンマは濡れている忍服を身に付け、の頬を優しく手で包み込み、唇に軽く触れ、暫し見つめ合うと、何も言わずに帰って行った。

 ゲンマはを抱かなかった。

 口づけを交わして抱き合っただけで、何もしなかった。

 でも、それだけでには充分、痛い程ゲンマの気持ちが伝わってきた。

 今ゲンマに抱かれても、はどうしても“そのこと”が思い出されて、意識してしまう。

 例えゲンマが何を言ってくれた所で、今はまだゲンマの誠意も素直に受け入れられないだろうと思う。

 それを分かってくれて何も言わなかった、何もしなかったゲンマの優しさが、嬉しくて、涙が頬を伝った。

「ゲンマさん・・・ゴメン・・・有り難う・・・」

 今度会う時には、いつもの自分に戻るから。

 一緒に笑いながら、かぼちゃの煮物を食べよう。

 外を見たら、通り雨は小雨に変わっていた。