【南瓜の煮物をアナタと一緒に】(7)〜簡略版〜







 久し振りに触れた、の身体。

 あんなに華奢だっただろうか。

 腕を掴んだ時、余りにも細くて、柔らかくて、折れるんじゃないかと思った。

 きっとには、オレがアイツに触れる時の感動は、分からない。

 女って、こんなにも柔らかで、すべすべで、艶やかで、男である自分と全く違う、同じ人間だとは思えない程、触れる時にドキドキする。

 何人もの女を見てきて、触れてきて、抱いてきて、それなのに、に触れる時は、初めての少年のような、そんな風に緊張してるなんて、きっとは分からない。

 初めて恋を知った少年のように、のことしか考えられなくなる。

 の潤む瞳、艶やかな唇、すべすべの肌。

 頭のてっぺんからつま先まで、全てが愛しい。

 任務から帰ったら、言おうと思っていた。

 約束の言葉。

 は綺麗だから、狙っている男が沢山いるのも、知っている。

 今回みたいな事態も、予想の範囲内だった。

 でも、あれ程自分が焼き餅焼きだとは思わなかった。

 全く何もないようだが、もし少しでも何かあったのなら、半殺しにしたかも知れない。

 そんな心の狭い自分を、は許してくれるだろうか。

 大切な

 誰よりも何よりも大切。

 今一番怖いことは、を失うこと。

 こんな年の離れた自分に、はいつまでも付いてきてくれるのだろうか。

 忍びである自分、先に逝ってしまうかも知れない、それも嫌だ。

 しわくちゃの爺さん婆さんになるまで、一緒にいたい。

 指輪を買って帰ろう。

 いつ渡そうか・・・。















 自分がこんなに単純だと思わなかった。

 あんなにゲンマさんに会うのが怖かったのに、一番会いたいと思ったのもゲンマさんだった。

 ゲンマさんのいない日々は淋しくて心に空洞が空いていたけれど、あんなに遠く感じたゲンマさんとの距離が、会った途端に、ひゅんって縮んだ。

 心が満たされていく自分がいた。

 ゲンマさんの節くれ立った大きな手が私の頬に触れて、温かくて、其処が心臓になったみたいにドキドキした。

 大好きな大きい手。

 広い胸に抱きしめられるだけでドキドキするのに、口づけを交わすと、もう溶けてしまいそうに、何も考えられなくなる。

 ゲンマさんしか見えなくなる。

 私の全てを、ゲンマさんで埋め尽くしたい。

 大好き。

 とても大切な、この気持ち。

 ゲンマさんは忍びだから、いつどうなるか分からない。

 考えたくない。

 だから、今この瞬間を、大事にしよう。

 この時、と思ったら、もう躊躇わない。

 受け身は卒業したんだから。



















 ゲンマが招集で出掛けていって、は夕食を作った。

 いつ帰ってくるかは分からないけど、必ず帰ってくると言っていた、ゲンマの為に。

 研究成果の、かぼちゃの煮物を、美味しく食べてもらいたい。

「ゲンマさんが焼き餅焼くなんて・・・トオヤ君には申し訳なかったけど、嬉しいな・・・」

 先程の求愛の余韻がよみがえる。

 自分だけを見て、自分だけを欲してくれる。

 そんな幸せに、は浸った。

 今夜か明日か、いよいよゲンマと結ばれる。

 そう思うと、ドキドキして、心臓が弾けそうだ。

「・・・初めてって、痛いって聞くけど・・・大丈夫かな・・・ちょっと怖い・・・」

 未知の世界に、少し尻込みする。

 恥ずかしさ、怖さ、の胸中を様々な思いが駆け巡った。

「〜〜〜っ、じっとしてるとドキドキして落ち着かないから、ご飯食べちゃお。ゲンマさんが何時に戻ってくるか分かんないし・・・」

 が、余りにも気分が高揚して、味も殆ど分からなかった。

「お、お風呂入れなきゃ」

 とてとてと、そわそわする心を落ち着かせようと、駆けた。

 ゲンマの家に置いてあるお泊まりセットを出す。

「ついに使う時が来たんだ・・・や〜、ドキドキするよ」

 真っ赤になって、湯の温度を見にいって、お泊まりセットを手に浴室に向かう。

 脱いだ下着を手洗いし、頭と身体を洗う。

「思った通り、ゲンマさん家のシャンプーとボディーソープって、良い感じv 何かゲンマさんの匂い嗅いでるみたいでドキドキするけど・・・」

 うふふ、とピンクに染まりながら、湯船に浸かった。

「いつもと違うって、こんなにドキドキするんだなぁ。浴室入ったの初めてだし・・・ゲンマさんに包まれてるみたい」

 その空間の心地好さに、はだいぶ緊張がほぐれた。

 が、いざ下着を干してパジャマを身につけると、再び緊張がよみがえる。

 いつもと違う自分、いつもと違う過ごし方、いつもと違う場所。

 ゲンマが帰ってきたら、心臓が飛び出るかも知れない。

 はベッドの上で枕を握りしめ、壁により掛かって落ち着かない時間を過ごした。

 でも、悪い気分じゃない。

 とても幸せ。

 こんな気持ちになれることに、感謝する。

「ゲンマさん・・・大好き・・・」

 抱きしめた枕に顔を埋め、その幸せなドキドキに浸っていた。







 だいぶ夜も更けた。

 時計を見ると、もう深夜を回っている。

 興奮気味で眠れそうにないは、ずっと起きたまま、ゲンマとの思い出の中にいた。

 これからもっと増えていくだろう、ゲンマとの日々、大切な思い出。

 ゲンマを待っているのも、楽しかった。

 こんなにも、幸せだから。

 ふと月を見上げた時、玄関から音がした。

 鼓動が跳ねたが、頭を振って、直ぐさまは飛び出していった。

 ゲンマが靴を脱いでいた。

「ゲンマさん、お帰りなさい」

「ただいま。って、起きてたのか? 寝てていいのに」

「ん〜、何か気が昂ぶっちゃって。久し振りにゲンマさんに会えたから、寝るのも勿体なくて」

「これからいくらでも会えるぜ。夜更かしは美容の大敵だぞ」

「あはは。オボロさんにも言われたよ」

「そういや、さっきオボロが言ってたんだが、が可愛いパジャマ買ったから楽しみにしてろって、それか?」

「あ、ううん。これじゃなくて。えと・・・ウチにあるの。まだ着てない。ゲンマさんが来たら、思い切って着ようと思って」

 そう言えばパジャマだった、と一気に照れる。

「思い切るパジャマって何だ? っつか、オマエのパジャマ姿自体見るのは初めてだけど、それも可愛いと思うぜ」

「え、そぉ? 嬉しいな。でも、ウチにあるのはちょっと違うの。オボロさんがあんまり勧めるから、つい・・・」

 は真っ赤になって、はにかむ。

「あ〜、オボロはオヤジくせぇトコあるからなぁ・・・何か予想ついた」

「オヤジくさいって、あはは。所帯じみてるから、おばさんくさいの方が似合いそうだけど。って、そうだ、ゲンマさん、お夕飯食べた? 一応、ゲンマさんの分あるけど・・・」

 ゲンマの目の前で食卓を指すに、ゲンマはドキンとした。

 自分のシャンプーと、ボディーソープの匂い。

 いつものと、匂いが違う。

 それだけなのに、ゲンマは心が躍った。

「や、食ってねぇ。オマエの手料理、久し振りだな」

「用意するから、ベストとか脱いでくれば?」

「あぁ」

 が味噌汁などを温めている間に、ゲンマは寝室で額当てを外し、ベストを脱ぎ、脚絆を解いた。

「私とオボロさんの研究成果、食べて!」

 かぼちゃの煮物をてんこ盛りにして、は食卓を整えた。

「はは、任務で食えなかった分、元取りそうだな」

 椅子に腰掛け、いただきます、とまず味噌汁に口を付けた。

 熱さが染み渡っていく。

「あ〜、帰ってきた〜、って実感するぜ」

 そして、ひょい、とかぼちゃを摘み、放り込む。

「お」

「どぉ?」

 ドキドキしながら、様子を伺う。

「かなり上達してるじゃねぇか。プロはだしだ。オレのより美味ぇ」

「そ、そう? 良かったv でも、私はゲンマさんの方が好きだよv」

「“オレ”を好きなのか? “オレの作ったヤツ”が好きなのか?」

 ニヤ、とゲンマはの言葉尻を掴み、不敵に笑う。

「えぇぇっ、りょ、両方・・・デス」

 真っ赤になっているを愛しく思いながら、久し振りのの料理を、ゲンマは思う存分堪能した。

「は〜、食った食った。美味かったぜ。やっぱりオマエの飯が一番だな」

 流しに食器を運ぶゲンマに、は嬉しさいっぱいで、食器洗いを替わった。

「ゲンマさん、お風呂温くなってたら、熱くしてね。私が入ったの、だいぶ前だから」

「ん〜、もう夏だし、冷めもしねぇだろ」

 じゃ、入ってくる、とゲンマは着替えを手に、浴室に向かう。

 の下着が隠すように干してあって、思わずドキンとする。

「ったく・・・チェリーボーイか、オレは・・・」

 照れくさそうに脱ぎ捨てて洗濯機に突っ込み、浴室のドアを開ける。

 再び鼓動が踊る。

 浴室に充満した、の入浴の痕跡。

 濡れたタイル、洗面器、シャワーノズル。

 立ち上る蒸気。

 がいるみたいで、ゲンマは鼓動を逸らせた。

「ったく・・・今からこんなんで、本番大丈夫か、オレ・・・」

 初めて女を抱くような気分だった。

 パジャマ姿のを見ただけで、本能が動いた。

 ゲンマは印を結んで冷静に戻り、入浴を済ませる。

 は洗い物を済ませ、寝室のソファで、先日持ってきたタウン誌を読んでいた。

 だが、文章など頭に入ってこない。

 寝室のドアが開いた時、の緊張はピークに達した。

 ゲンマも気付いた。

、明日、何処か行きたいトコあるか? 里を出て火の国でもいいぞ。オレ詳しいぜ」

「あ、明日って、私、今日お休みだったから、連続してお休みは・・・」

 パジャマ姿のゲンマが妙に色っぽくて、はドキドキする。

「あぁ、それなら、オボロが世話になった礼をしに行ったら、気を利かせてくれて、休むように言ってくれたぜ。だから気にすんな」

「で、でも・・・」

「オマエのその真面目なトコは好きだが、折角やっと戻ってきたんだ、一日くらい、オレで埋め尽くさせてくれよ」

 な、とゲンマはを抱え上げ、ベッドに下ろす。

「え、いつもゲンマさんで埋まってるけど・・・」

 真っ赤になって、ゲンマを見上げる。

 潤む瞳が色っぽくて、ゲンマは鼓動が跳ねた。

「取り敢えず休もう。明日は長いからな?」

 今すぐここでではない、と、は安堵したような、複雑な気持ちを抱えつつ、少しリラックスしてきた。

 ゲンマはベッドに潜り込んで、を抱きしめた。

「・・・キス、していいか?」

「う、うん」

 ゲンマは、愛しそうにに触れ、頬を撫で、包み込み、ちゅ、と塞いだ。

 抱きしめて、長い長い、触れているだけのキス。

 名残惜しそうに、ゆっくりと離れる。

「おやすみ」

 そう言うと、ゲンマは瞳を閉じた。

 直ぐさま、寝息を立てる。

 四六時中気の休まらない、長期任務から帰ってきたばかりのゲンマ。

 相当疲れているのだろう、と、はゲンマの寝顔を見つめる。

 気持ちが高揚して、とても眠れそうにない。

 時計の刻む規則正しいリズムを聞きながら、ゲンマの寝顔を暫く見つめていた。

 ゲンマの寝息、ゲンマの鼓動に、その近さに最初は鼓動が跳ねていたが、次第に心地好くなり、ドキドキしながらも、うっすらと明るくなり始めた頃、は眠りに就いた。

 抱き合って眠れることが、嬉しかった。

















 朝。

 2人ともぐっすり眠っていた。

 起きそうな気配はない。

 射し込む陽射しが次第に暑くなってきたのを感じた頃、はうっすらと目を開けた。

「ん・・・すっかり寝ちゃってた・・・よく寝た・・・今何時?」

 ゲンマの寝顔を見てほんわかしつつ、時計を見たは、声を張り上げた。

「嘘〜〜〜ッ!!!」

「どうした・・・? もう朝か?」

 ん・・・とゲンマも覚醒してくる。

 もうすぐお昼になろうとしていた。

「あ〜、通りでよく寝たなぁ。オマエがいると、つい熟睡しちまう」

 僅かに上体を起こすと、落ちてくる前髪を煩そうに掻き上げた。

「あ〜ん、昨夜なかなか眠れなかったから・・・折角のデートの日なのに〜」

「2人で居られれば、何だっていいじゃねぇか。久し振りにぐっすり眠れて、気分爽快だぜ? オレは」

 しょげているの頭を撫で、ちゅ、と唇に触れる。

 ぽ、と真っ赤になる

「さ、飯食って出掛けようぜ。何処に行く? オレの足なら、里外までだって大丈夫だぜ」

 ぎゅ、と抱きしめて、頬に口づけし、優しく撫でると、ゲンマは立ち上がった。

「う〜ん・・・レジャースポットは余り知らないし・・・」

「ウォーターパーク行くか? もうオープンしてるぜ。泳ぎ教えるって言っただろ?」

「あ、そっか。でも、水着は古いのしかないし・・・」

「行きがてら買えばいい。そのまま夜は近くのホテルのレストランで飯食おう」

 ゲンマは着替えると、洗面所に向かい、台所に行って朝食の支度に取り掛かった。

 はお泊まりセットの中から着替えを取りだし、着替えて洗面所に向かう。

「あの、ゲンマさん、里を出る前に、ウチに寄っていい? 出来ればお洒落な格好で行きたいし、色々用意するモノもあるから」

 早業のようなゲンマの作った朝食を食べ、洗い物をしながら、は言った。

「あぁ、そうだな。まだ時間はあるから、気ままに行こう」

 一旦のアパートに寄って、はおしゃれ着に着替え、支度をして、商店街に向かった。

 ほんのちょっとの時間なのに2人で歩けることが嬉しくて、いつもと違う格好と言うだけで、何もかも特別に思えた。

 そして水着を選ぶ。

「何色が似合うかな・・・」

 ゲンマはビキニコーナーで、物色していた。

「ビキニはもう決定なんだ・・・」

 真っ赤になって、も見た。

「白も良いけどな・・・オレん家のカーテンみてぇな・・・」

「オボロさんの色?」

「そうそう。かぼちゃカラーって言うとアイツに怒られるんだけどな」

「あ〜、オボロさんって、煮物作ってる時、同化して見えたモン」

「見えるよなぁ? で、一緒に食うなって言われんだろ?」

「そう」

 あはは、と笑っていると、これかな、とゲンマは、黄みがかった橙のビキニを見せた。

「は、恥ずかしいな、ビキニ・・・」

「オマエにはビキニの方が似合うと思う」

 下心じゃねぇぞ、と試着室に促す。

 恥ずかしそうに着てみせると、とても似合っていて、ゲンマは満足した。

 目視でスリーサイズを当てられる癖に、のスタイルの良さを改めてちゃんと見て感動し、鼓動を逸らせつつ。

 夜には、一糸まとわぬ姿で・・・、とドキドキする2人。

 会計を済ませると、を抱き抱え、ゲンマは駆けた。

「しっかり掴まってろよ」

「きゃあ〜〜〜っ!!!」







 ウォーターパークの前まで来て、を下ろす。

「も・・・っ、ジェットコースター乗ってたみたい・・・」

 ハァハァと息を切らし、ゲンマにしがみつく。

「怖かったか? 悪ィ」

「ううん。ゲンマさんの腕の中は安心できるから」

 ニコ、と微笑むが、たまらなく愛しかった。

 入園すると、まずは普通のプールに向かった。

 太陽の下で、明るい橙色の水着を着るが、水に反射して、輝いて見えた。

 たわわに揺れる豊かな膨らみ、躍動する肢体が、艶めかしい。

 お互い、いつもと違う格好、いつもと違う場所に、ドキドキしながら、ゲンマはに、泳ぎ方を教えた。

 水の上に胡座を掻いて座り、丁寧に教えた。

 大体泳げるようになったので、遊技場に向かった。

 ウォータースライダーも、流れるプールも、ピッタリ抱き合って密着して、冷たい水の中なのに、火照ってくるようだった。

 ゆらゆらと浮かびながら、ゲンマは抱き締めているにキスをした。

「〜〜〜っ、皆見てるのに・・・っ」

 は真っ赤になって、ゲンマを見上げた。

「見せつけてんだよ。コイツはオレの彼女だ、羨ましいだろう、って」

 ニッカと笑うゲンマが、いたずらっ子みたいだった。

「ゲンマさんって結構子供!」

「知ってるか? 子供な大人で、ことどなって言うんだぜ」

 ごまかした、と膨れつつ、顔がにやける。

 ゲンマはを抱えたまますいすいと泳いでいき、プールから上がった。

「もう大分陽も暮れてきたな。飯食いに行こう」

 着替えたは、乾かした髪を纏めて、結い上げた。

 いつもと違うヘアスタイルに、女は本当に髪型一つで変わるモンだ、とゲンマは思う。

 白いうなじが色っぽくてそそられる。

 舌を這わせたい衝動に駆られた。

「あのホテルの展望レストランは、夜景が綺麗だぜ。コース料理も美味いし」

「へぇ・・・高〜い。見晴らし良さそう」

 ホテルの前まで来て、随分と格式高そうな所だ、とは思った。

「ゲンマさん、その格好のままでいいの?」

「いや。変化する」

 ゲンマは印を結び、スーツ姿に変化した。

「カ、カッコイイ・・・」

 思わず漏らしてしまう程、ゲンマはスーツが似合っていた。

 千本もくわえていない。

 エスコートされてロビーを通り、レストランまで行く行程がとても洗練されていて、はお姫様になったような気分だった。

 思っていた以上に、高級そうな、豪華なレストランだった。

 窓辺の見晴らしの良い席に通され、火の国が一望できた。

「きれ〜・・・」

 ゲンマに任せて出てきたコース料理も美味しくて、少量のアルコールが、を心地好くさせた。

 何気ない会話の一つ一つも楽しい。

 食後のデザートを食べ、ワインを楽しむ。

 夜景がとても綺麗で、心が洗われるようだ。

 でも、次第に夜が深くなっていくのが、をドキドキさせていく。

・・・このまま、部屋取るか?」

「えっ」

 トクン、と鼓動が跳ねる。

 は逡巡した。

 ゲンマの真摯な瞳が射抜いてくる。

 今夜、結ばれる。

 素敵なお部屋で・・・?

「ううん。木の葉に帰る。自分のウチが・・・いい、デス」

 真っ赤になって、は俯いた。

 よりロマンチックにしよう、と思っていたゲンマは少々呆気に取られたが、そんなが、一層愛おしかった。















 木の葉に戻ってきて、のアパートに着いた。

 鼓動が高鳴って、会話も出来ない。

 鍵を開ける手も震えた。

 ドクン・・・ドクン・・・ドクン・・・。

 スピーカーのように大きな鼓動に、は張り裂けそうだった。

 そんなをそっと背後から抱きしめ、大丈夫だ、と囁いた。

 部屋に通すと、は浴室に湯を張りに行く。

 鼓動が激しくて、緊張でいっぱいで、ゲンマの元に戻れなくて、湯が溜まっていくのを見ていた。

? どうした? 具合でも・・・」

 戻ってこないを心配して、ゲンマが覗きに来る。

「う、ううん! 何でもない! ゲンマさん、お風呂先にどうぞ!」

「そうか? オマエの方が先に・・・」

「ゲンマさんは早いでしょ?」

「一緒に入るか?」

「えっ、そそそ、それは・・・っ;」

「冗談だよ。お泊まりセットってヤツ、貸してくれ」

 安心させようと柔らかく微笑み、ゲンマは風呂に入った。

 昨日と同じように、浴室にドキンとする。

 の匂いで充満した部屋。

 シャンプーも、ボディーソープも、馴染んだの匂い。

 浴室が、に包み込まれているようで、ゲンマは鼓動を逸らせた。

 初めての

 怖がらせないように、そっと優しく。

 怖がられたらどうしよう。

 泣かれたらどうしよう。

 痛がられたら・・・。

 自分も初めてになった感覚で、ゲンマは鼓動が逸った。

 これから行為に及ぶのだから着る必要はないのだが、が抵抗があるだろうから、ゲンマはパジャマを着て上がってきた。

 がビクンと震えたのが分かった。

「大丈夫だから」

 な、と優しくおでこに口づける。

 いつもと違うゲンマの匂い、甘く爽やかで、安らいでくる。

 真っ赤な顔でコクンと頷くと、は浴室に向かった。

 ゲンマの使った形跡に、ドキドキする。

 湯船に埋もれ、のぼせてくる。

 なかなか勇気が出なかった。

「・・・大丈夫!」

 決意して、湯船から上がる。

 オボロに煩く言われて買ったネグリジェ。

 抵抗があるが、ゲンマに見てもらいたい。

 喜んでくれるだろうか。

 離れた寝室のゲンマにまで聞こえるんじゃ、という程の鼓動の大きさで、は張り裂けそうだった。

 そっと、ゆっくり寝室に戻っていく。

「お・・・お待たせ・・・」

 ベッドに寄り掛かって床に座っていたゲンマは、一瞬目を見開いた。

「綺麗だよ。よく似合ってる」

 優しくて、柔らかい低い声。

 ゲンマの声はセクシーでドキドキするけど、同時に安心もする。

 柔らかく微笑むゲンマに、は安心して身を委ねられる、と思った。

 ゲンマの手には人形が2つ。

「コレってオレとオマエか? 器用だな」

「あ、えと、その、オボロさんと買い物に行った時、ゲンマさんと私に似たお人形売ってて、服だけ変えたの」

「はは、楊枝刺さってるし。じゃ、ここでらぶらぶしていてもらおう。本人達もらぶらぶするからな」

 そう言って枕元の上に抱き合わせて置いた。

 は真っ赤になって、俯く。

「おいで、

 離れた所に立っているに、ゲンマも立ち上がって、柔らかい表情、優しい声で手を差し伸べる。

 真っ赤な顔で、風呂上がりで全身ほのかにピンクで、柔らかいの肌。

 緊張しているのが、ありありと分かった。

 自分もかなり緊張していることに気付く。

 そっと抱き寄せて、口づけた。

 啄むように、何度も角度を変える。

「ん・・・はっ・・・」

 唇を割って、口腔内に侵入し、舌と舌を絡め合う。

 クチュクチュと音を立てて、余りにも熱くて、は溶けそうになって、何も考えられなくなっていった。

 名残惜しそうに、ゲンマは唇から離れる。

 見つめ合う瞳。

 真っ赤な顔で、熱く瞳を潤ませて、ゲンマを見上げる

 愛らしくて、たまらない。

 の鼓動が激しく脈打っているのが聞こえてくる。

 自分の鼓動も聞こえているんじゃ、と思う程、ゲンマも鼓動を逸らせていた。

 ゲンマはを抱き上げ、ベッドに下ろした。



















 を女と意識してから、どれ程望んでいたことだろう。

 今この瞬間を。

 が欲しくてたまらなかった。

 誰よりも大事で、誰よりも愛しい存在。

 自分が忍びであることで、不安にもさせた、泣かせもした。

 これからはもう絶対に泣かせたりしない。

 以上に大切なものはない。

 ずっと一緒にいられればいい・・・。








 ゲンマを好きだと気付いてから、ずっと願っていた。

 最愛の人と結ばれる、と言うことを。

 兄弟もなく、もう親もいない、天涯孤独の身。

 ゲンマを愛するようになって、何よりも大切なものができた。

 ゲンマが好き。

 この愛おしい気持ち。

 大切に大切に育てて、芽が伸びてきた。

 紆余曲折、色々あった。

 泣いたり不安になったりもしたけれど、やっぱりゲンマが好き。

 大切な芽が、今花開く・・・。












・・・愛してるよ。誰よりも、オマエが大切だ。ずっと・・・オレの傍にいてくれ」

「私もゲンマさんが大好き・・・愛してます」

 ずっと覆っていた腕をどかし、上気した顔で、とろけそうな目でゲンマを見つめた。

 深く口づける。

 厳粛な月光が、身体を重ね合わせる2人を祝福するように、光を注いでいた。



























 ゲンマは、寝息を立てるを、愛しそうに見つめていた。

 包み込むように抱きしめ、何度も囁いた。

 愛してる、と。

 何度言っても言い足りなかった。

 言葉では言い表せない。

 この愛しい、もどかしい気持ち。

 腕の中の小さなが、愛しくてたまらない。

 愛しいあまりに暴走しそうな自分を、必死に抑えた。

 目が覚めたら、言おう。

 約束の言葉を。

 小さなをすっぽり包み込んで、ゲンマは微睡みに委ねた。

 これ以上ない幸せに包まれて。